新学期になってしまった。三国杏里は自分の部屋のカレンダーをぼんやりと見ながらそう思った。去年の夏のアレは本当に魔法だったのだろうか。自分は既に高校3年。受験を控える年になってしまった。達也のいない夏休み、クリスマス、正月、修学旅行・・・。何だかぼんやりと、あっという間に過ぎてしまった。無事に進級した自分は、休学状態で留年した達也とは違う学年だ。いるはずの存在が今はいない。魔法って何よ。魔法の世界ってどこよ?ロンドン?『だから多分これも魔法か何かで会えたんだ』神様、お願いです。魔法でも何でもいいから、あの馬鹿を戻してください。『杏里、大好きだ。また会おう!』神様、お願いです。私にあの時の返事をさせてください。日頃、神に祈る事などしない杏里だが、此処最近ずっと、彼女は傍観者気取りの神様に祈り続けていた。「そうか、手がかりは何もなしか・・・ありがとう、いつもすまないな」達也の父、因幡一博は携帯電話をしまい、深い溜息をついた。ついに新学期になってしまった。瑞希と真琴はそれぞれ進級し、小4と小2になった。だが、達也は高校2年生のままだ。息子一人の時間だけ止まっている感覚だった。達也の行方は、自分達は勿論、警察や親戚一同、彼の友人などが探している。だが、手がかりその他一切なし。「本当に魔法のように消えたのか・・・?」一博は呆然として呟くだけだった。「勝手な事を言ってくれるわね・・・」達也の妹で新学期になり小学4年生になった、因幡瑞希は周囲の兄の状況の予想の意見にウンザリしていた。曰く、ただの家出。曰く、すでに死んでる。曰く、拉致された。曰く・・・・第三者の好き勝手な予想はテレビでも流れたが、視聴者の感心はすぐに別の話題へと移ってしまった。見つけるためにはこうすればいいとか、いなくなるサインがあったはずだとか無神経に言っていたコメンテーターは今は政治家の汚職について批評していた。言うだけならタダだ。・・・兄はよく言っていた。『こうすればいい、ああすればいい、そう言ってその通りにして失敗したら、自己責任と言いやがる。言葉に責任持てなんて言う奴に限って責任もってない奴が多いのさ』あの時は意味がよく分からなかったが、今は分かる。お前に一体何が分かると言うのだ・・・?お前が兄の何を知っているというのだ・・・?お前の意見が全て正しいように言ってるんじゃないよ・・・アンタが言ってる方法でも兄は見つからない。兄の本心なんて分からないよ。サインなんてわからないよ。皆、一生懸命探してるんだよ。でも、見つからないんだよ!瑞希はテレビに映るコメンテーターを憎々しげに睨むと、テレビを消した。見たくもない顔ならば、見なければいいのだ。勝負は決した。タバサは呆然とその場に立ち尽くしたままである。俺が空中で取った剣を鞘に収めると、タバサの杖が折れ、彼女がつけていた眼鏡が真っ二つになった。杖がなければメイジは強力な魔法は使えない。彼女の眼鏡が伊達ではなければ、眼鏡がなければ戦えない。『居合ですか。杖と眼鏡は普通に斬れますものね』「・・・何故・・・殺さないの?」「え?何で?」俺は一言もタバサを殺す(笑)のような事を言ってないんだが・・・?いつの間に俺はタバサを殺す流れになっていたのだろうか?戦闘能力のなくなったタバサはもはや敵じゃない。「何でお前を殺さなきゃいけないんだ?嫌だよそんなの。友達殺すとかしないから」「・・・・・・」話し合いが通じる雰囲気じゃなかったし、そう言う相手には肉体言語オンリー。野蛮だが単純。単純ゆえ強力。強力ゆえに響く。俗に言う拳で語るだ。使ったのは剣だが。《どうしたの?お前の任務は終わってないわ。杖がなくとも、戦う事はできるはずよ》タバサはその声に弾かれるように動き出そうとした。「動くな、タバサ」俺がそう言うと、タバサはびくりとして動きを止めた。「これ、邪魔だから着とけ」俺は自分が纏っていたマントをタバサに着せ、上空のガーゴイルを睨んだ。《・・・おやおや、北花壇騎士殿、飼い主を変えようというの?》「・・・あなた達に忠誠を誓った覚えはない」《裏切り発言ね。この事は報告させてもらうわよ。その前に、貴方には消えてもらうわ、ガンダールヴ》上空から巨大な影が降ってきた。巨大な動く石像だった。でかい!説明不要!タバサが口笛を吹くと、シルフィードが唸りをあげて飛んできた。「乗って」タバサが俺を促す。俺はそれを見て丁重に断った。「タバサ、そーっと乗れよ」「・・・?わかった」タバサがそっとシルフィードに乗ると、シルフィードは上空に舞い上がった。俺は、巨大ガーゴイルと対峙した。タバサには話は後で聞こう。『優しい~、きんもー☆』ルーンの戯言は無視だ。タバサがいては自由に動けないからな。それにシルフィードのような存在は、今の俺にもいる。そして一度言ってみたかった掛け声で、俺は叫ぶ。「出ろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!テンマちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ!!!!」そう言って俺は大空に向かって指パッチンした。天国のポールも見惚れる指パッチンぶりである。夜空に浮かぶ二つの月が一瞬何かに隠れた。愛馬ならぬ愛天馬、黒いペガサス『テンマちゃん』が空から急降下して来て、俺の服を咥えてそのまま飛翔した。凄まじく乱暴だが、俺は必死にテンマちゃんの背中に移動した。『そんな演出はいらないから、普通に呼んでよだそうですよ』ルーンの翻訳に頷くテンマちゃん。我が愛天馬には何とルーンの姿が見えているらしい。これはテンマちゃんを口笛で呼び寄せた際に、ルーンの気まぐれでテンマちゃんを俺の専用の愛機とする為に何かやったようだが、その時の副作用でテンマちゃんは擬人化ルーンの姿と声がわかるようになったらしい。恐るべし。眼下には巨大な動く石像。ガーゴイルは動く石像であるというのは間違いで、単なる怪物を模った彫刻である、というのが俺の世界の常識である。西洋建築の屋根に設置され、雨樋から流れてくる水の排出口としての機能を持つのだが、こんなでかい必要はない。30メイル以上あるその巨体は、俺たちを追う様に羽ばたきはじめる。翼を広げると、大きさが倍加したようだった。・・・いや、倍なんてモンじゃない。その全幅、150メイル以上。そんなトンでもないでかさのガーゴイルが俺たちをひねり潰そうとしたその時だった。「おやおや、このような場所でもパーティーですか?それにしては豪快じゃないですか」「どう見てもゆったりとした宴ではありませんな」ガーゴイルを炎を纏った竜巻が襲った。飛翔したガーゴイルはその竜巻のせいで墜落する。「よくよく考えれば、ガーゴイルに炎をぶつけても焼け石になるだけですね」「だから言ったのですよ・・・まあ、墜落させただけ良いとしましょう」広場に墜落するガーゴイルを、ミスタ・ギトーとミスタ・コルベールは軽口を叩きながら見つめていた。炎の竜巻によって、翼をズタズタにされた石像は、ゆっくり立ち上がろうとしていた。それを見て、ギトーは杖を更に振る。風の刃が、ガーゴイルの石の身体を削っていく。「無駄に大きくはないという事ですか・・・」ギトーは大きく杖を振った。巨大な風の槌がガーゴイルの身体に大きな亀裂を入れた。よろめく巨大ガーゴイル。其処にコルベールの炎が襲いかかり、亀裂はどんどん大きくなる。だが、ガーゴイルは尚も動こうとしていた。そこにテンマちゃんと共に急降下して来た俺に、ガーゴイルは気付いていなかった。ガーゴイルの脳天から、股下にかけて、それこそ疾風のように移動し、その場を離れる。ガーゴイルは俺たちに手を伸ばして捕まえようとしている。その姿を背に、俺はデルフリンガーを鞘に戻した。その瞬間、ガーゴイルの身体が縦にずれた。コルベールが止めとばかりに炎の球をぶつけると、ガーゴイルは粉々になった。タバサは巨大なガーゴイルが破壊される様を上空でずっと見ていた。コルベールとギトーの実力にも驚いたが、あの黒いペガサスに乗った達也の動きもタバサにとっては強烈な印象を与えた。夜空に羽ばたく黒い天馬に騎乗する剣士。その姿はタバサが見たどの書物にも記されていない。そんな英雄は自分が知っている本の住人にはいない。そもそもペガサスは普通白だ。黒いペガサスは『異端』である。タバサは身を乗り出し、自分の知らない光景を目に焼きつけようとした。眼鏡を破壊されたのでよく見えない。その時、あまりぐいっと身を乗り出したせいか、急にマントの下が涼しくなった。達也の『居合』によって、タバサの服も切れ目が入っていた。それなのに急激に身を乗り出し、服が伸びた。その際、服は簡単に限界をむかえて・・・タバサの頬は急激に赤くなった。しかし、彼女の身体は、達也のマントによって守られていたため、ルイズのような痴女状態だとは誰も気付かなかった。昨夜の事件は表沙汰になる事はなかった。ただし、学院長とアンリエッタには報告しなければいけなかった。ついでに俺はルイズとギーシュにも報告した。タバサの事はあえて伏せておいた。彼女は心に深い傷を負ったかもしれない。先程から姿が見えないのだ。「ガーゴイルも魔法具の一つと言えるわ・・・そんな物を使ってアンタを襲うなんて・・・あのシェフィールドってやつの仕業かしら」「やたらアイツガンダールヴって俺を呼んでたけど・・・」「勘違いもいい所ね。何でそう思ったのかしら?」『貴方の主が虚無使いだからでしょうね~。あのハーフエルフの娘さんと一緒にいた子どもたちが歌っていた歌があるじゃないですか。あれって、始祖ブリミルの使い魔達の歌なんですよね。』始祖ブリミルって虚無使いだったな、そういえば。『だから始祖の祈祷書なんか書けたんですしね。まあ、それはいいとして、その歌の一節に、神の左手ガンダールヴってあったでしょう。貴方のルーンは左手に刻まれていて、主は虚無使い。知識があれば貴方をガンダールヴと思っても仕方ないですね。でもそれは釣りだったと』笑い転げるスク水幼女ルーン。『まあ、まだ勘違いしているようですから、勘違いさせたままの方が面白いでしょう』その勘違いで殺されそうなんですけど?『そう言うと思いました。突然ですけど、『釣り』と『騎乗』技能がレベルアップしてますよ。対応技能の一部に変化ありです。剣術技能的に言えば、レベルアップです。まず『釣り』技能の『分身の術』がレベルアップしました。分身の耐久力が上がりました。でも足腰は弱い。装甲がインプラスされ、どんな攻撃でも1発だけなら耐えれます。ただし2発目からやっぱり死ぬし、分身移動、変わり身でも死ぬ。壁としてはやっぱり不安。そして更に分身も【歩行技能】の忍び足が使える様になりました』また微妙なパワーアップだなおい。『そして『騎乗』技能は、『床上手』がレベルアップしました。とんでもなく床上手になります。相手にいい夢を見させるほどの床上手とか、果報者すぎる。でも、やっぱり童貞にはそんなに意味はない。残念だったな』一番どうでもいい技能のレベルが上がった!?『ちなみに擬人化した私とのにゃんにゃんは可能ですが・・・一応言っときますが、私は貴方の左手に刻まれているルーンである事をお忘れなく。分かるかね?つまり幾ら私とR-18な行為をしても、結局それは自慰行為でしかないのだよ!』安心しろ、それはない。『なお、床上手がレベルアップした事で、対象年齢が少し広がりました』何の対象年齢だ!?・・・あれがシェフィールドの仕業とすれば、タバサはそいつと何か関係があるのだろうか?とても聞きたいが、姿が見えない。何処いったんだ?・・・そういえばもうそろそろ俺が此処に来て1年じゃないか?あの舞踏会は魔法学院の新入生歓迎会だからなー。ルイズたちも3年生か・・・・あれ?3年生?俺が元の世界での『留年』という現実に絶望するのはすぐだった。杏里が上級生・・・だからと言ってどうという事はないが正直ショックなのは本音としてある。高校留年は就職に不利じゃねえ?まあ、パン屋起業する俺にとっては関係ないか。・・・早く、帰らないとな。(続く)【ぼやきのようなもの】えっちなのはいけない?そのえっちで俺たちは生まれたんだよ!だからと言ってそんな描写は書くつもりはない!「おい」『何ですか?』「ルイズ達が出番が欲しいと。お前の出番を減らせと言っている」『出番を座して待つだけでもらえると思ったら大間違いですよ?とはいえ、私もちょっとはしゃぎ過ぎました。次回から大人しくしてやりますかね』「そうしろ。幻覚がでしゃばると困る」『そうですね、私は貴方の肩の上で貴方をじーっと無言で見つめときましょう』「幻覚を消せ!?」『幼女がすきなんだろお前らー?』「黙れ漢女!?」