舞踏会も終わりに差し掛かった頃、俺は会場を後にし、外に出た。舞踏会が終わるまではウェールズの格好をしていなければならない。早く、終わってくれないかな・・・?畑を耕す戦力と治水の為の戦力を同時に持っている人材を手に入れたので俺は今気分はいい方である。彼女にはそういう仕事を回すつもりなので、十分働いてもらおう。村おこしの夢は膨らむ。・・・そう思っていたら、いきなり元の姿に戻った。「・・・舞踏会が終わったのか?」予定時刻より少し早くないか?まあ、ダラダラ長く続けるよりいいだろう。『やはり、凛々しい顔より、その締まりのない顔の方がいいですね』黙れ変態ルーン。俺が幼女姿のルーンに文句を言おうとすると・・・広場のベンチに腰掛ける少女がいた。少女は人の来ないベンチで本など読んでいる。久しぶりにその姿を見た。タバサである。「よっ」声を掛けるがタバサは答えない。何時もの彼女だが、無反応なのは辛いんですが。『やーいやーい、無視されてやんのー』ルーンの冷やかす声が俺の苛立ちを加速させる。その時、月を背に上空を旋回する影があった。人型の身体に羽が付いた奇妙な生き物だ。「ガーゴイル」短くタバサが言う。「相棒!構えろ!」デルフリンガーが怒鳴ったその時、タバサが杖を振る。俺の目の前の空気が膨れ上がり、爆ぜた。俺は吹っ飛び、身体を地面に打ちつけた。俺、何かやったっけ?『知らぬ間に、彼女の出番が殆どありませんでしたね、そういえば。目立とうと頑張ってるんじゃないですか?」出番って何だよ!?体勢を立て直す間もなく、氷の矢が俺めがけて飛んでくる。おいおい、マジかよー!?急いで回避行動に入った俺は、横っ飛びで矢を避けた。氷の矢によって、ベンチが粉々である。『ふーん・・・どうやら冗談抜きで殺る気満々のようですよ、彼女』ルーンは軽いノリで言うが冗談ではない。「何のつもりだ!」俺は叫ぶが、返答は氷の矢である。タバサは氷の矢を四方八方に散らし、包み込むようにして放ってきた。「相棒!」俺はデルフリンガーを抜き放ち、氷の矢を吸い込み、残りは掠ったり払ったりした。「笑って済むのも今のうちだぜ。何のつもりだ!」「命令だから」『何者からか命を狙われてますね、凄いじゃないですか』何がどう凄いのか知らんが、タバサは俺の暗殺命令を受けたらしい。・・・そうかい。ここで聖人君子ならば、どうにか説得して、タバサを心変わりさせるとか試みるんだろう。そりゃあ、命令なら彼女の意思じゃないとか言って、恨むべきは命令した奴と言うんだろう。そんな余裕なんて俺にはない。喧嘩で済むレベルじゃないし、あの戦争のような大混乱でもない。頭の中は既に冷え切っている。何時以来か?ワルドとの対峙の時ぐらいか、この気分は。「やり方が正に暗殺者だね、手慣れてるぜ。どうするね?相棒」デルフリンガーが俺に尋ねる。暗殺に手慣れてるか・・・そういう仕事はやっぱりあるんだな。タバサは友人である。だから本心ではそういうのはやめて欲しいという気持ちもある。だが、もう賽は投げられた。タバサは俺の命を狙っている。それは揺ぎ無き真実。タバサの向こうにいるこの暗殺司令を出した存在は何を思って俺の暗殺指令を出したのか。どうせ碌でもない理由だろう。・・・そんな碌でもない理由で死ぬわけにはいかない。タバサは風のような身のこなしでふわりふわりと、真正面から戦おうとしない。俺の隙が出来た際に、魔法を叩き込んでくる。その速さはワルド以上。だが、魔法の威力は大した事はない。「手数と速さで攻めるタイプのようだね」『早い話が苦しんで死ねってことですね』デルフリンガーとルーンが、タバサの戦闘スタイルを批評する。蝶のように舞い、蜂のように刺す戦法みたいだ。俺がタバサの攻撃をずっと回避していると、上空のガーゴイルから声が聞こえてきた。《防戦一方ね、ガンダールヴ》俺を嘲笑うような声であった。・・・ガンダールヴ?『何言ってるんでしょうね?』ルーンも不思議そうだ。《シュヴァリエ同士の対決・・・わたしの主人が小躍りして喜びそうな組み合わせだよ。でも試合内容はつまらないねぇ。ねえ、ガンダールヴ?いいのかい?その子はわたしたちの忠実な番犬の北花壇騎士。その番犬はアンタを殺す為に牙を剥いている。躊躇していたら、アンタが死ぬよ。そうしたら、愛しの主人を助ける事なんてできない》「は?愛しの?」《・・・はい?違うの?》「俺の愛しの存在はただ一人だけだが」《だからそれが貴方の主人でしょう》「はい?」《え?》「相棒!魔法が来るぞ!」「うわっち!?」情けない悲鳴をあげて俺はタバサの氷の槍を避けた。背中に掠ったのか、背中が熱い。『戦いの最中に漫才をしてるからですよ』ルーンの言うとおりだ、悔しいが。剣を構えなおす。呼吸を整える。『敵』を見据える。「タバサ」友人の名前を俺は呼ぶ。友人は答えない。「俺は、死ぬわけには行かない」ゆっくりと言葉を吐き出す。「お前にも事情はあるんだろうけど・・・」「・・・・・・」彼女は黙って杖を構える。氷の槍が、彼女の身体の周りを大蛇のように回る。杖に導かれ、氷の槍は回転し、見る見るうちに太く、鋭く、青い輝きを増していく。「ジャベリンか。威力はお前を殺すぐらいなら十分だな」デルフリンガーが呟く。「そんな事俺の知ったことじゃないしな・・・」静かに俺は言う。剣を腰の位置に構える。「来るぜ!相棒!」俺は、剣を腰に構えたまま走り出す。デルフリンガーの刀身が輝きだす。風を切るように走る俺に対し、タバサは容赦なく、杖を振り下ろす。氷の槍が俺めがけて飛ぶ。俺に当たるその直前、槍は両断される。氷の槍は行き場を失い、広場の花壇などに命中する。タバサはもう一本を発射すべく、杖を振りかざしていた。「一本目は囮だと!?」俺はデルフリンガーを放り投げた。氷の槍を吸い込んでいくデルフリンガー。だが、それさえタバサは読んでいたのか、3発目を俺に向かって振り下ろした。氷の槍が俺の身体めがけて吸い込まれていく。そのまま、槍は身体を貫き、貫かれた身体が、ぐったりとした。「・・・ひでえ」ぐったりとした達也が、悲しそうに呟くと、その姿は霧のように消えた。タバサはそれを見てハッとした。分身を使うのは知っていた。だからこそタバサは4発目のジャベリンを上空に向けて発射した。予想通りそこに彼はいた。槍も彼を貫いた。だが、不幸だったのは彼女は知らなかった。達也が、既に1日2体分身を作れること、そして、『変わり身の術』と『当て見回りこみ』の存在を。上空の達也はまたもや、霧のように消えた。タバサは目を見開いた。「囮は俺も使うんだよね」後方から、声がした。タバサは杖を構えてその声に向かって魔法を放とうとした。だが、現実は非情すぎた。彼女が振り向いたその時には、達也が既に剣を振り終わった後だったからだ。(続く)【ぼやきのようなもの】『予想通り賛否両論ですね、彼女の登場は』「やりすぎだったんじゃないか?」『やり過ぎなのは今にはじまった事じゃないですか。彼女が出たから他のキャラの影が薄くなる恐れが・・・とか意見が出てますね』「実際人気キャラじゃないか。彼女」『109世界ではシエスタやキュルケでさえ存在意義に苦労してるんですよ?ヒロインですらない彼女にこの先ピックアップの回があると?』「・・・ないの?」『断言します。達也の村の力になっている描写は流石にしますが、この先彼女が中心となる話はないです』「あ・・・そうなんだ」『そういう訳なので修正もしなければ削除もしません。それすら反対と言うなら言うだけならタダですしね。だからと言って如何こうする気も起きませんし。見てくれるだけであり難いですから』「今後、彼女の名前が出ることはないのか?」『名前はないですね。存在はほのめかしますが。109自体が既に私が喋ったりルイズさんが妹キャラになったりした辺りからカオスですからねぇ』「だからと言って更にカオスにするような事をするなよ・・・」『ギャグ作品にカオスを求めないでどうするんですか?あとこのSSのジャンルの一つに『パン屋』とつけた人、よくやった』「パン屋SSって何だよ!?」『この作品でしょう』「普通に言うな」