基本的に俺は騎士隊の奴らをお手伝いとして呼ぶ気はない。ギーシュとレイナール以外は俺が土地持ちと聞くと金を集ろうとするトンでもない奴らだ。そんな奴らが娯楽も何もない俺の領地に来ても途方に暮れるだけだ。まだ第一段階も始まっていないのだから、彼らを呼ぶのは止めよう。連れて行くにしてもレイナールだけだ。ギーシュは隊長だし。レイナールは経営学と風評の重要性についてよく考えている逸材である。「お誘いは嬉しいが、今はこの近衛隊を強くしたいんだ」この近衛隊はまだ『子供の遊び』レベルでしかないと、レイナールは断言している。そりゃあまだ戦果なんて上げてないしな。「僕としてはタバサ、彼女が加入してくれれば心強いが・・・」レイナールはいつの間にか魔法学院に帰って来ていたタバサを勧誘したが撃沈したらしい。「まあ、既に騎士となっている副隊長は除外して、現在『騎士』に近い者は隊長と僕・・・なんだろうな、多分」レイナールのこういった歯に衣着せぬ物言いが実に好ましい。「まあ、騎士になれるように頑張ろう。そうすればこの騎士隊も箔がつく」「騎士隊の実務は僕が預かる。隊長はともかく、副隊長、君の領主としての意見も期待している」うわあ、凄い上から目線だけど、コイツうちの領の実務してくれないかな、マジで。ゴンドランさんも文句ないんじゃないか?「時に副隊長。君は召使を探しているようじゃないか」「一人は確保した」「どうせシエスタだろう」「そうだね、何で分かるのギーシュ君すごーい」「馬鹿にされてる気がするんだが」「・・・他に心当たりはあるのかい?」「タツヤの交友関係は偏っているからな」「問題ないな。一人だけ、貴族なのに連れて行っても全く問題ない人材がいる」「・・・え?」スレイプニィルの舞踏会。参加者は仮装するのが慣わしの舞踏会。虚無の曜日に行なわれるそのイベントに向けて、魔法学院の生徒はソワソワしていた。していないのはごく少数。具体的に言えば、ルイズと達也の主従コンビ、タバサとレイナ-ルの興味が薄いコンビなどがそれに当たる。まあ、興味がなかろうが参加するのが義務のようなものなので学院は騒然とした雰囲気となっていた。「普通の仮面舞踏会と何が違うんだ」「スレイプニィルの舞踏会は会場に入る前に『真実の鏡』の前に立つの。真実の鏡は自分の理想の姿が映って、舞踏会中はその理想の姿で踊る事になるのよ」「理想の姿がダブったらすごい事になるな」「そうね・・・そういえば、アンタに理想の姿ってあるの?」「・・・あるよ?」「ふーん・・・あるのねぇ」「お前は?テファとか言うなよ?」「・・・何故分かった」「ビンゴかよ!?」『やっぱり羨ましいんですねー』俺の肩にしがみつくスク水幼女はルーンが調子に乗って外に出てきた姿だ。コイツは俺にしか見えず、こいつの声も俺にしか聞こえない。長い黒髪は東洋風というより、完全に日本人形のようだった。現実には殆どいないはずの真紅の瞳が彼女(?)が非現実的存在だということを分からせる。コイツは自分の姿を自由に変えれるらしい。自分で言ってた。だが、本来は男と女の両方の魂をもった『漢女』であるとも言ってた。・・・吐きそうになった。「まあ、今回の舞踏会、姫様も参加するらしいから、気をつけなさいよ」「はあ?新入生歓迎会にトリステイン女王が参加すんの?」「まあ、仮装舞踏会だから、ばれないと思うわ。姫様に仮装する人も多いでしょうし」「お前に仮装する奴いるかな?」「いたら声掛ければ?そして言いなさい。『アンタは見る目がある』って」「わははは、お前の目は節穴だと言ってやる」「じゃあ、アンタに化けてる奴がいたら、正気なのか確認するわ」そう言って馬鹿笑いする俺達。こんな俺達に憧れる奴がいるのかどうかも疑問である。俺は自分に恥じる所はあまりないが、仮装ならば仕方ない。俺が誰に憧れているのか、自分でも知りたいからな。その日の夕方、宝物庫から真実の鏡が二階のダンスホールの入り口まで引き出された。魔法の鏡の周りには黒いカーテンがひかれ、誰が今、姿を変えているのか分からないようにしてある。「じゃ、お先」ルイズが先にそのカーテンの中に入っていく。・・・マジでテファになるつもりじゃねえだろうな。ギーシュやキュルケ、モンモンにマリコルヌと、知った顔が次々とカーテンの中に入っていく。ルイズは流石にテファに化ける事は色々不味いと思ったが、鏡に映った以上、どうにも出来ない。周りをみると、もう一人、テファの姿をした者がいた。彼女はルイズの方をみると近づいてきた。「・・・アンタ、ルイズ?」「・・・まさか・・・キュルケ・・・?」彼女達の脳裏には、テファの姿が脳裏にこびり付いたままだった。オスマン氏が舞踏会の目的を簡単に話し、アンリエッタが今回の舞踏会に参加している事も告げた。会場はどよめいた。そういえば、アンリエッタは誰に化けているんだろうか・・・?この舞踏会の趣旨は、今化けている理想の姿に負けぬよう、新たな学年で学べという決意表明だ。・・・言ってる事は立派だが、オスマン氏が化けて出た姿が、裸の女性だった時は、流石に引いた。「煩悩に負けないという決意表明なんじゃ!?」オスマン氏が教師達によって連行されると、笑いが起きた。「ん?」その時ルイズは、自分の姿をした者が、会場に入ってくるのを見た。・・・なんだか感動で泣きそうになった。俺はカーテンの中に入り、真実の鏡の前に立った。果たして俺の理想の姿とは何なんだろう?シュヴルーズ先生は深層心理に働きかけると言っていたが・・・俺は鏡に掛けられた布を持ち上げた。そこに映された自分の姿が、鏡から溢れる虹色の光に覆い尽くされていく。溢れる光で視界が途切れ、不意に消えた。俺は鏡の中に映る人物を見た。鏡の中の人物は、懐かしそうな顔で微笑んでいた。ギーシュは自分の憧れの人物として、自分の2番目の兄の姿で参加していた。モンモランシーはアンリエッタに化けていた。アンリエッタはこの会場に沢山いるが。「あの子は一体誰に化けたのかしらね・・・」モンモランシーが言う彼女とは最近やけに仲がいい少女である。少女はモンモランシーと達也が炎から救出したらしい。なかなか苦しい家柄の出身であり、卒業したくないと漏らしていた。ギーシュたちも彼女の境遇を何とかしたいが、ギーシュの家もモンモランシーの家も財政難である。だからといって、ルイズやキュルケの実家がどうにかするとは思えないのだが・・・。そんな大変な境遇の少女が憧れる人物とは一体誰なのだろうか?・・・ルイズとキュルケが誰に化けたのかはすぐに分かったが。そういえば、達也は一体誰に化けるのだろうか?「その姿は隊長だね」そう言ってギーシュに声を掛けたのは達也の姿をしていたが、口調が違った。「レイナール、君かい?」「ご名答だ。どうやら僕は深層心理の中で、副隊長に憧れていたようだよ。悔しいがね」レイナールはやれやれと肩を竦めている。憧れてるなら領地の仕事の誘いに乗れよ。ギーシュが呆れつつそう言おうとして、目を見開いた。「隊長?如何した?」「・・・そうか、そうだよな、仮装舞踏会だからあの姿があっても不思議じゃないな」本人なわけがないだろう。ギーシュは「なんでもない」と言って、レイナール達と談笑するのだった。・・・途中、ルイズ達が来て、レイナールが正気かどうか確かめていたが。多くの生徒の憧れとなっているアンリエッタは何故かアニエスの姿で舞踏会に参加していた。一ヶ月近くも休暇とか、しかもあの方と同棲状態だったとか!まだ根に持っていたアンリエッタは誰にも気づかれる事なく、舞踏会を適当に楽しんでいた。自分の姿がここまで沢山いると流石に不気味だが、面白い。・・・あの方はこの舞踏会にどのような姿で参加しているのだろうか?きょろきょろと見回して、その姿を見つけた。・・・同じ姿をした女性二人と、青年一人、そして自分の姿をした女性と談笑中である。アンリエッタはそのグループに声を掛けた。彼は自分の姿を見て無反応だったが、周りは違った。銃士隊隊長は流石に目立つが、彼女の人気はいまひとつだったはずだが・・・アンリエッタは笑顔で自己紹介をした。今度は全員が驚愕の表情をした。「何でアニエス殿の格好してるんですか!?」自分に詰め寄るこの・・・!?何この胸部の謎の物体X!?冗談じゃないわ!?「姫様、落ち着いてください、私です、ルイズです。・・・タツヤを探しているのですか?」「・・・ル、ルイズ!?・・・あの、彼はこちらの方では?」「アイツが誰に化けてるかは私も知らないんです」「ええ・・・!?」「タツヤ、何処なのかしら・・・?」キュルケも達也を探している最中である。とはいえ、この人数の中、仮装している中で探すのはほぼ不可能である。達也が誰に憧れているのかも不明なのだ。憧れの人物の姿になれる。少女にとっての友人はモンモランシーだったが、憧れとなると話が違う。少女にとって、その人物は正に憧れるに相応しい人物である。彼女の前向きで直向きな姿勢は少女の夢見る姿である。だからこそ彼女はこの舞踏会の夜だけは、彼女の姿で過ごそうと思っていた。少女の願いは『真実の鏡』が叶えてくれた。夢のような一時。憧れの人と同じ容姿だけでも、その人になりきれた気分だった。だが、この時間は所詮夢、現実は卒業すれば絶望の日々が待っている。友人の実家も苦しいと聞く。友人の家に迷惑はかけたくなかった。この学院で友人が出来ただけでも幸せだと考えよう。この学院で過ごせただけ幸せと考えよう。友達が出来ただけで救いになった事があるじゃないか。私があの時助けられて生き延びたのは、尊い友人と出会う為だったんだ。それだけでも価値ある人生じゃないか。物凄い逆転人生とはいえないが、不幸まみれの人生に反抗は出来た。あとは自分の運命を受け入れよう。あと1年ほどで卒業。私の幸せの時間もあと1年・・・幸せな時間があっただけよかったじゃない。不幸を呪って死を覚悟するよりマシだと思う。今は、今だけは、幸せでいたい。憧れの人の姿で、夢に浸らせて欲しい。少女の憧れの人物の名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールだった。そして、この場でルイズの姿をしているのは彼女一人だけだった。そう、一人だけだったのだ。「よう、その姿、アンタは見る目があるな」突然声を掛けられた。少女は顔をあげると息を呑んだ。凛々しい金髪の若者が自分の前に立っていた。元・アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーが、彼女の前に立っていた。いや、待て、ウェールズは死んだとの発表があった。ここにいるのは彼に化けた誰かだ。「だ、誰・・・?」ウェールズの姿をした誰かは、「ああ」と言って、改めて自己紹介した。「こんな姿をしているけど、俺はタツヤ・シュヴァリエ・イナバ・ド・オルニエールだ。俺の主に憧れてくれて有難うよ」少女は目を見開いた。彼の事は知っている。知らない筈がない。自分の命を救った者の一人だからだ。モンモランシーと違い、あれから会うことは余りなかったが。モンモランシーの話からするに、随分と気にはかけてくれているらしい。「さて、ルイズに憧れるアンタは誰だ?」「・・・私は・・・」少女は自分の名前を言う。周りの音が騒がしく、はっきり聞こえるか分からなかったが、彼には聞こえたようだ。「丁度良かった。俺は君を探していた」「え?」私を?一体何の用だろう・・・?「単刀直入に言おう。君の力を俺が治める土地、ド・オルニエールの為に役立ててほしい。誤解を招きそうな表現だが、俺には君が必要だ。一緒にド・オルニエールに来てくれ。頼むよ、ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア」本当に誤解を招きそうな表現だった。自分の力が必要・・・自分が必要と言われたことは今までなかった。でも、本当に自分なんかでいいんだろうか・・・?自分は『ドット』メイジだし・・・「頼れる人が貴女しかいません」・・・かなりの緊急事態らしい。「・・・分かった・・・どれだけの力になるかわからないけど・・・」私は、座して不幸を受け入れたくないから・・・だから、もう少し抵抗したい。ラリカ嬢が俺の勧誘に乗ってくれた。土や水を得意とするメイジであるラリカは村づくりにマジで必要な人材なのだ。成績が悪かろうが、魔法は使えるようなので、彼女の存在は貴重である。彼女のお家事情もなかなか悪いものだったしな。まあ、人の事言えない状況だが。彼女との詳しい話は後日。俺はもう目的を果たした。舞踏会場を後にしようとした俺は、テファが二人いる事に噴いた。「ようお前ら」「!??」テファが二人、非常にいい男・・・あーっと驚いた、俺じゃん!が一人、アニエスが一人に姫さんが一人、ギーシュの兄貴が一人ね・・・どう考えてもルイズ、キュルケ、ギーシュは確定だ。姫さんは誰だ?「ギーシュ、姫さんに化けてるのは?」「モンモランシーさ」「・・・普通すぎる」「アンタは私が何に憧れてると思ったのよ」「で、そこの俺の姿の奴は?」「僕だ。君は副隊長だね?」「ああ、そうだよ?で、アニエスさんは・・・まさか・・・」「貴方の中で、彼は生きているのですね・・・」アンリエッタは静かに涙を流しながら、呟いた。その姿はかつての恋人に懺悔しているように見えた。俺の憧れの姿。我が親友、ウェールズよ。彼女の戦争はもうすぐ終わりそうだぞ。(続く)【ぼやきのようなもの】蛇に足が生えて走り出した結果がこれだよ!!「って、おい、フルネームじゃねえかぁぁぁぁぁ!?向こうの作者様の使用許可があるからって大胆すぎるだろう!?」『だからX-3話で言ってたじゃないですか。彼女もいる前提で書いてますって。このままぼかして書くよりどどーんと書いた方がスッキリしますよ色々と。彼女の真骨頂は死ぬことにありと思う読者もいるやもしれませんが、この作品にはすでに死にまくっている登場人物がいますし・・・彼女は設定的に美味しいんですよ、町興し的意味で。この作品に蛇足なんてないですよ?だって、蛇に足があって然りな作風ですもん』「開き直った!?」『レイナールは元々原作のキャラなので全く問題ありませんし、ペガサスの存在も、筆者が14巻から先を最近購入して登場を決めたので全く問題ありません。世界観的に無理がないように一応配慮はしています。ただし私以外はな!』「お前のようなルーンがあってたまるか!?」『あ、ちなみに私が擬人化したのは某大型掲示板でのある方のささやかな願いを叶えただけです。筆者も書き込みたいらしいですが、アク禁に巻き込まれて書き込めないって嘆いてました。最終回は決まっているのでそういうネタの提供は大歓迎だそうです。この作品は『釣り』が大半で出来ています。釣り技能の説明にあったでしょう?読者参加技能と。今作は読者様の力でも成り立っています。実に感謝致します』「グダグダにならないか?」『筆者はドMでドSの両刀使いですから何ら問題ありません』「主に分身に対してドSなだけだろ!?」いつの間にか掲載記事が80になっていてあっという間だったと思いました。PVも無事30万突破で感謝の極みで御座います。チラ裏時代に一度感想をリセットするという馬鹿なミスを犯し、それまでの読者様を離れさせる要因になり後悔する日々でしたが、『離れた人を戻すのは大変だから新しい人を呼べば良いじゃない』と開き直り書いていたら、いつの間にかPV30万。この作品に目を通してくださった方々に改めて感謝の意を送りたいと思います。