やはり食い物の恨みは恐ろしい。連合軍が街をスムーズに占領できたのは、住人たちの協力もあったからだ。何故そのような作戦を取ったのか俺には分からないが、アルビオン軍はこの街の食料全てを取り上げたらしい。住人たちはアルビオン軍を恨み、連合軍に協力してきた。四日で占領できたのはこうした背景があるからである。うん、連合軍も凄いが、アルビオン軍は自国を守る気がないのだろうか?イマイチ納得できないが、今はサウスゴータが開放されたぞー!と言うことで街の中央広場は大盛り上がりである。住民は歓声を上げ、連合軍を大歓迎している。それはいいのだ。問題はこの占領の戦いでの叙勲式だ。「ド・ヴィヌイーユ独立歩兵大隊、第二中隊中隊長、ギーシュ・ド・グラモン!」「は、はい!」友人のギーシュが緊張した面持ちで勲章を首から下げてもらっている。ギーシュの部隊が街への一番槍を果たし、その際オーク鬼の一部隊を片付けるという戦果も上げ、数十余の建物を開放した功績が認められたのだ。割れんばかりの拍手が鳴り響く。照れるギーシュに、彼に良く似た彼の兄が抱きつく。彼は家に誇れるような戦果をあげているのだ。俺は友人のその晴れ姿を見て少し胸が熱くなった。一方、首都トリスタニア。十七歳の女王アンリエッタは、黒いドレスに身を包み、始祖ブリミルの像の前で祈りを捧げていた。そんな彼女の所に、枢機卿マザリーニが現れた。「陛下、お祈りされていたのですか」「戦ですので、喪に服しているのです」「陛下、我が連合軍は昨日、シティオブサウスゴータを完全占領いたしました」「そうですか、いよいよですね」「ええ、これでロンディニウムへの足がかりが確保されました。ですが・・・」「・・・何か悪い知らせのようですね」「はい、サウスゴータの兵糧庫は空でした。アルビオン軍が持ち去ったようなのです。住民たちに施しを与える必要があります」「分かりました、そのように手配いたしましょう。しかし・・・姑息にも程がありますね」「ええ、むごいことをいたします。それと、敵は休戦を持ちかけています」「何ですって?」「明後日より、降臨祭終了までの期間です。その間は戦も休むのが慣例ですから」「明後日からって・・・まだ二週間以上後でしょう!?一ヶ月近くも休戦すると?認めるわけにはいけませんよ」「・・・どの道兵糧は送らねばなりませんぞ。兵も休憩させねばなりません。無理をさせれば或いは攻略できるやもしれませんが、兵は人です」アンリエッタは舌打ちして歯噛みした。「では、枢機卿、これより休戦条件の草案を作成いたしましょう。この条件の推敲も戦のうちですわ」アンリエッタは黒のドレスを脱ぎ捨て、何時もの白のドレス姿になった。「喪に服すのは何時でも出来ます。今は戦う時。だらだらと祈っている訳にはいきませんもの」「現実逃避じゃなかったんですか?」「聞こえません。ええ、聞こえませんとも」アンリエッタは耳を塞いでおどけた。マザリーニは正直彼女を心配していたが、それは杞憂だったと思い直したのだった。降臨祭が近いからという理由でアルビオンとの戦争は一旦休戦である。異世界ハルケギニアではそれ程大事なイベントである降臨祭。何気に俺にとっては初めての降臨祭である。この休戦期間を街の住民や連合軍の兵士たちも楽しんでいるようだ。俺はサウスゴータの中央広場のベンチに腰掛けて道行く人々を見つめていた。ルイズは寒さに弱いのか用意された部屋で毛布に包まって鼻水出してガタガタ震えている。彼女の喋り相手は喋る剣に任せている。俺は無銘の剣を背に、生きた表情をした街の住民たちを眺めていた。しばらく寒空の中ぼーっとしていると、突然背後から声を掛けられた。「やあ、タツヤ」ギーシュだった。「よお、一番槍おめでとう」「聞いたよ、騎士の称号を頂いたそうだね。おめでとう」ギーシュは俺の隣に腰掛ける。「ルイズは如何したんだい?」「部屋で鼻水出してガタガタしてる」「ははは、相変わらずのようだな」「ギーシュ、知ってるか?」「なんだい?」「学院がワルドたちに襲われた。幸い皆は無事だけど・・・」「アルビオンか。セコイ謀略を敢行するな」「ああ、せこいな。あと、モンモンから伝言だ」「聞こう」「死んだら殺して呪ってやるから生きて帰って来いだとよ」「・・・それはそれは・・・死ぬわけにはいかないな。勲章と共に生きて帰らなきゃな」「お前が死んだらモンモンが確実に不幸になるもんな」「ああ、それを考えたら余計死ねない。名誉も大事だけど、命と愛する女性の方が僕にとっては更に重要だ」「そういやあのケティって子はどうした?」「モンモランシーと付き合うことになった時、きっぱり話は付けたよ」「そうかぁ・・・ちゃんとやってたんだな」はらり、はらりと白い雪が降って来た。「タツヤ、僕はやはりまだ、戦うのは怖いようだ」「そうかい、俺だってそうだ」「足が震える、声も震える。やはり戦争は特殊な環境だということが実感できる。好き好んでやるものじゃないよ」「戦争か・・・早く終わってほしいが、終わらせるには戦わなきゃいけないしな」「戦わなければ戦争は終わらないしね。結局戦うしかないんだな。もうそんな段階なんだよな」「使い魔になって、お前と決闘したころはこんな事になるとは思ってなかったよ」「僕だってそうさ。戦争なんて遠い世界のことだとどこかで思っていた」ギーシュがそうなら、俺はもっとそう思う。「早くモンモランシーの元に帰りたいよ」「ああ、マルトーさんのメシも食いたいしな」「食事の話ばっかりだね君は」「食欲は戦場だろうが何処でだろうが俺を悩ます敵なのだ」「人類共通の敵だよね、それ」「だから敵のアルビオンはそれを利用したんだろ」「食料を全て持ち出すなんて愚策も愚策だが・・・なにを考えてるんだ・・・」「そんな作戦を考えるような奴の考えなんて知りたくないね。まあ、足止めだろうな。連合軍は此処最近街の人々に食料を配給するのに忙しそうだから」俺たちは街の人々の様子を見ながら話し込んだ。しばらく話していたら、ここにいるのはおかしい声が聞こえた。「タツヤさん!」俺とギーシュは声のする方を見た。満面の笑顔を浮かべたシエスタと魅惑の妖精亭の店長のスカロンと娘のジェシカの姿があった。おい、何故お前らがここにいるんだ?とりあえず俺たちは広場に面したカフェで話をすることになった。「慰問隊?」「そうよぉ!王軍に追加で兵糧を送られることになったんだけど、その際に慰問隊も結成されたの。アルビオンは麦酒ばかりだから、ワインの味が恋しいだろうしね。麦酒も麦酒で不味いし、トリステイン人は舌が肥えているから拷問よ。だから何件ものトリスタニアの居酒屋が出張することになったの。魅惑の妖精亭は王家とは縁が深いからね。ああ、名誉なことよ!」スカロンは身を震わせ悶えた。俺とギーシュは吐きそうになった。何処が慰問だ。しかも奇妙なことにこのスカロンとシエスタは親戚らしい。ということはジェシカとも血の繋がりがあるのだ。シエスタはワルドの襲撃の時にはすでに学院にいたらしいが、宿舎にいたので俺とは会っていない。あの後、戦争が終わるまで学院は閉鎖になったらしい。そこでシエスタは叔父のスカロンの店を手伝おうとトリスタニアに行ったら、スカロンたちが荷物をまとめていた所だったらしい。それでお手伝いできることがあるならばと同行してきたらしい。メイドの鑑である。三人とも俺がアルビオンにいるとは思っていなかったらしい。「ルイズちゃんは元気?」「寒さにガクブルして引きこもってます」そういえば最近ルイズと話していないな、と俺は思った。ルイズは最近ジュリオに夢中みたいだし、俺も俺で分身が構築した縁で忙しいし。「まあ、意外な顔に会えてよかったよ」相変わらずスカロン店長は気持ちが悪いが、慰問としては上出来だと思う。ルイズにも会わせてやろうかな。一方ルイズはベッドの毛布に包まっていた。暖炉の火のお陰で幾分か部屋も暖まったが、寝るにはもう少し暖かいほうがいい。「だからマント一枚じゃ寒いに決まってんだろう。服着て寝ろよ」「服を着てたら眠れないのよね」「小僧に痴女扱いされたのにかよ?せめてこの休戦中に服を買えばよかっただろうに」「やだ。寒いもん」「だからってマント一枚じゃ寒いままだろうがよ」喋る剣の正論にルイズは頬を膨らませる。最近、達也と話していない彼女は、いつも喋る剣と部屋で話している。正直暇で仕方がないのだが、外は寒いので、外出は控えている。「ただいまー」その時、達也が帰ってきた。ルイズはちらりと達也を見て、目を丸くした。ギーシュとシエスタとスカロンとジェシカが彼の後ろからゾロゾロと現れたからだ。何でこいつらがこんな所に?ちょっと待って今の私はマント一枚だって!?「何よその格好、色気はないけど可愛いわね」ジェシカがルイズを見てからかう。「ルイズ、お前下着買ってないらしいじゃないか。ホラ」達也は紙袋をルイズの側に置く。「シエスタや店長たちが選んでくれたんだ。アルビオンの冬は冷えるからな。いつまでもマントの下は全裸とか嫌だろう」「マントの下が下着だと言うのも充分痴女だろうよ」「寝巻きも一応買っといたから、良ければ着てくれ」「寝巻き?」ルイズが取り出したのはピンクのパジャマだった。何かフリルが着いてる以外はシンプルなものだったのだが、その心遣いがルイズには嬉しかった。「後は腹を冷やさない為の腹巻きと・・・」「腹巻きはいいわ」「何を言ってるんですかミス・ヴァリエール、女の子にとってお腹を冷やすのはいけないことなんですよ!」「母親かアンタは!?」「ホラホラ、男勢は外に出て行きなさい、レディの着替えを覗いちゃ駄目よ」「店長は出ないんですか」「私は男と女、両方の心を持った者だから問題ないわ」「パパも出なさい」「あん、別に気にしないのに」俺たちはルイズが着替え終わるまで外で待機することにした。程なくジェシカが入室を許可してきた為、俺たちは部屋に入った。ピンクの寝巻きを着て、ピンクのナイトキャップをつけたルイズが、むすっとした表情で座っていた。「やっぱり寝にくいわ」「風邪引きたいなら脱いでもいいけど?」ルイズは溜息をついていた。「なかなか似合うじゃないか」ギーシュが笑って言う。「可愛いわよルイズちゃん。抱きしめたいぐらい!」スカロンの言葉にルイズは若干引いていた。やっぱり桃色はコイツの色だ。俺はそう思う。「・・・降臨祭が終わったらいよいよ決戦だな」「ええ、そうなるでしょうね」「降臨祭の最中に攻めて来るとは?」「上層部もそれは考えているでしょうね。何も無いことに越したことはないけど」「全ては降臨祭の日が来ないとね。・・・こんな事いうのは何だけどさ、絶対生きて帰って来なさいよ。貴方たち」スカロンが真剣な表情で俺たちに言う。俺とギーシュとルイズは頷いた。「任せなさいよ。アルビオンなんてドバーッとやっちゃうわよ!」「やるのはお前じゃなくて連合軍の兵士の皆さんだろうよ」「僕という可能性を考えたことはないのかい?」「お前も含めた皆さんだ」「おお!?普通に返された!?」ギーシュは大げさに驚いてみせる。皆の力で戦う。そして勝って、魔法学院に帰りたい。俺はそう思うしかなかった。名誉の為じゃない。だけど・・・降臨祭の日は雪が降っていた。降臨祭はお祭りなので周囲は飲めや歌えの大騒ぎだった。更に雪がこの降臨祭を演出している。肌寒いが、彼女や妻がいるらしい者達は、この光景を愛するものに見せてやりたいと思うだろう。ルイズやギーシュやルネたちは酒を飲んでいる。ルイズはシエスタと、ギーシュは自分の隊と、ルネも自分の隊の隊員たちと楽しそうに酒を飲んでいる。俺は一人、広場の片隅のベンチでそんな人々の様子を見守っていた。降臨祭はこの世界では元日のお祭りらしい。そんな日に雪が降るのは幻想的でロマンチックらしい。俺達の世界のクリスマスに雪が降るとロマンチックだという感情と同じだろうか。『達也、明日は雪が降るらしいわね』『そうらしいな』『ホワイトクリスマスになるのかあ、東北とかは普通のことなんだろうけど、関東では普通とは言えないからねぇ。降ったら素敵だろうなぁ』『東北レベルに雪が積もるのは御免だがな。それより今日も明日も家は鍋だ』『この時期いつも因幡家は鍋よね。御呼ばれしてもいいかな?』『呼ばんでも来るだろうよお前は』『仕方ないじゃないのよ。両親は共働きで遅くまで帰ってこないし、クリスマスを一人で過ごすのは寂しいのよ!』『毎年この時期と夏休みと春休みになったら飯を集りに来るよね、君』『アンタの家は賑やかだしね・・・じゃあ、約束したからね』結局その年のクリスマスは雪ではなく大雨が降り、杏里は天候に向かって罵声を叫んでいたのだが・・・元日には雪が降ったのだが、その時は凄い惜しいと言って悔しがっていた。俺の座るベンチにはあと一人座るスペースがある。杏里がここにいれば間違いなく隣に座らせたはずなんだがな。「タツヤさん」シエスタが、ルイズの元から俺の元にやってきた。ルイズはといえば、ジュリオと話している。シエスタは俺の隣に腰掛けた。「結局どうして戦争なんてするんでしょうか・・・父はお金の為だと言ってましたけど・・・そんな理由で殺し合いだなんて馬鹿げています。戦争は嫌いです。沢山人が死ぬから・・・」そもそもこの戦争は乱暴な言い方をすればアンリエッタの復讐である。最愛の人を弄んだ憎い敵を倒す。そして始めたからには責任を取って勝つ。彼女の配下のアニエスも復讐で動いていた。名誉の為、復讐の為、金の為・・・どれも馬鹿らしいが戦う理由にはなる。そんな理由が俺にあるのだろうか?誰かを守る為?目の前の親しい人しか守る気はないぞ?戦争は特殊な環境なのだから、基本自分の身を守るので精一杯だろう。ルイズは俺が戦場から遠ざかる為分身を使った事を怒って臆病者呼ばわりした。「俺だって、戦争は嫌いさね」「だったらどうして戦う必要があるんですか!?タツヤさんがこの戦争に参加する理由は?ミス・ヴァリエールが参加するからですか!?」ルイズの虚無の魔法は上層部からすれば、強力なカードの一つだ。だが、無理に連発できる代物ではないことは重々理解しているらしい。ド・ポワチエ将軍がその筆頭である。「もしそうなら、タツヤさんの意思は何処にあるというんですか・・・?」「シエスタ、結局使い魔なんてモンは一般的にはメイジの道具という認識なんだと思う」「知ってます。だけどタツヤさんは死ねと命令されて死ねる人じゃないじゃないですか」「まあね、死ぬわけにはいかないし」「そうですよ。言ってたじゃないですか。異世界に帰って会わなきゃならない人がいるって・・・帰れなかったらパン屋を開業したいって・・・」シエスタは悲しそうな顔で言う。この娘は本当に心優しい娘だと思う。「タツヤさん・・・渡したいものがあるんです」「何?」シエスタは俺に小壜を渡してきた。「魔法のお薬・・・眠り薬です。貯めたお金で買ったの」「シエスタ、君は不眠症だったのか?」「いえ、たまに考え事で眠れないことがあって・・・そうじゃなくてですね、ワインなんかに垂らして飲めばぐっすりですから、もしも、ミス・ヴァリエールが無茶なことを言って危険な真似をしようとしたり、タツヤさんに危険なことをさせようとしたら・・・これを飲ませて眠ってる間に一緒に逃げてください」「・・・分かった。使うことはないだろうけど、受け取っておくよ。ありがとうシエスタ」「私の弟も参戦しているので凄く心配で・・・タツヤさんも心配です」「気をつけはするよ」「・・・何か嫌な予感がするんですよ・・・タツヤさんに何かよくないことがおこりそうで・・・そうなったら私・・・私・・・」俺はシエスタの肩に手を置いて言った。「そんなことが起こる前に逃げるから大丈夫だって」シエスタは笑ってハイと言った。雪はひらひら舞っている。一方、ジュリオと話し終わったルイズは不機嫌だった。あのジュリオという男が自分に近づいてきた理由は自分が身につけた水のルビーに興味があったからだ。火のルビーを探しているから知らないか?一緒に寝ても構わないよとか傲慢にもほどがある。おまけにジュリオという名も偽名である。自信過剰な気がするが、それでも実力は確か。だが、今日は鼻につく態度が多すぎた。危うく心を奪われる所だった。ワルドのときの失敗から学んでなかったのでは話にならないわね、とルイズは思った。ひらりひらりと降る雪を見ながら、ルイズは自棄酒を煽ることにした。そして十日続く降臨祭最終日。巨大な爆発音と共に、平和はあっという間に消え去った。休戦終了を明日に控えた連合軍首脳部は事態の把握に努めた。せっかく今日、ド・ポワチエ将軍が元帥に昇進した祝うべき日なのにも拘らず、祝いの花火にしては物騒すぎる。元帥の証である、元帥杖は突如窓から飛び込んできた銃弾で粉々である。当のド・ポワチエも胸に銃弾を受け、瀕死であったが、まだ生きていた。隣にいたハルデンベルグ侯爵は絶命している。部屋に士官が飛び込んできた。「反乱です!反乱が起こりました!ロッシャ連隊、ラ・シェーヌ連隊など、街の西区に駐屯していた連隊及び一部ゲルマニア軍が反乱を起こしました!」「反乱だと・・・!?一体何故・・・!」血を吐きながら、ド・ポワチエは立ち尽くしているウィンプフェンに気付き、近づいて言った。「悔しいが私は恐らくこれまでのようだよ、ウィンプフェン、この反乱によって軍は混乱をきたすであろう。ここは一旦ロサイスに全速で引き返せ。おそらくこれがアルビオンの罠だ。我々はまんまと油断しきってたわけだ。軍人として不甲斐ないよ」「元帥閣下・・・!!」「ふふ・・・私を元帥と呼ぶのは君が初めてだな。さあ、急ぎたまえ。もたもたすればその分死人が増える。全軍に私から最後の命令だ!ロサイスに全速力で退却せよ!以降の総指揮はウィンプフェンが行なう!体勢を整えた後のことは任せるよ」ド・ポワチエは壊れた元帥杖をウィンプフェンに向け、退室を促した。士官とウィンプフェンが退室した後・・・大きな爆発音がド・ポワチエのいた部屋からした。「街の住民も避難させる。早急にロサイスに向かうぞ!」「はっ!」全く予想してなかった反乱だが、上層部の機転により、即座に退却は始まった。しかし突然の反乱で10万だった軍は7万にまで減っていた。ロサイスまでの街道を連合軍は進んでいた。その中にはサウスゴータの住民たちも交じっていた。住民を守る中隊も存在していたが、多くは我先に逃げようと必死だった。何だかんだで皆生きたいのだ。「生きる為の戦争って気がするね全く」俺の隣で魅惑の妖精亭の人々を護衛しながら退却するギーシュが呟く。「こっちの方が分かり易い」「だね」まずはこの人たちを無事にロサイスまで送り届けないことには話にならない。ロサイスに真っ先に到着したウィンプフェンは即刻この事態を本国へ伝達した。こんな信じられない状況を飲み込んだのは半日が経過したころだった。おそい、遅すぎる!負傷兵や慰問隊、サウスゴータの住民を早く本国に送らなければならないのに・・・!それでなくても早く陣を構えなければいけないのに・・・!!アルビオン主力はすでに明日の昼にはロサイスに突っ込んでくる進軍速度らしい。時間が足りない!「ここは空から砲撃を与え、足止めを致しましょう」「いや、散会して進軍する軍勢には効果はないだろう。こちらの体勢が整うにはまだ時間がかかる・・・!」数からすれば7万対7万で互角だが、相手の7万の中には元味方がいる。それを割り切らず戦えば敗北してしまう。何とか足止めできる方法は・・・!「・・・彼女に頼む事になるのか」本当はド・ポワチエにも「切り札は容易に使うな」と言われている。だが、今、正にこの時働いてもらわねばならないと困る。それは愚策であることは分かっているが、ウィンプフェンは歯噛みしながら、伝令に伝えた。(続く)