ギーシュです。家の意向で、今回のアルビオン遠征に志願する事になりました。というか、僕が参加しても意味があるのかと思いましたが、『参加する事に意義がある』などと訳の分からない理由で僕は、士官教育を受けました。「というか頭数は足りすぎているんだから僕が行かなくてもいいだろう」遠征軍で更に自分は専門家でもなんでもないため、補給部隊に配属されると思いましたが、どうやら僕の配属される部隊は・・・「あー、何で戦争しなくちゃいけねえんだー」「そんなことよりカバディやろうぜ」「じいさん、そこをちょっと詰めてくれ、俺が寝れん」「あ、あんだってぇ~?」やる気のない者、老人兵ばかりの部隊でした。親愛なるモンモランシー。そして我が友タツヤ。これはどういうことなのでしょうか?なお、ギーシュはその部隊で中隊長を務める事になるのだが、それが決定したとき彼が悲鳴をあげたのはいうまでもない。マリコルヌです。女性にモテる為には戦地で功績をあげるしかないとと思い、今回のアルビオン遠征に参加する事になりました。というかここでは貴族の常識は通用しないようです。平民に馬の糞だの蛆虫だの言われました。気合付けのために殴られもしました。僕の他に三人ほど士官候補生がいましたが、皆この扱いに戸惑うか、憤っているようです。そのうちの一人、スティックスが僕らを集めて、僕たちが乗る『レドウタブール』号に裏切り者がいると断言してました。その裏切り者と呼ばれるものは、アルビオンの侵攻軍の旗艦の艦長だった人でした。ヘンリー・ボーウッド。生粋のアルビオン人。アルビオンへの水先案内人としてこのレドウタブール号に乗り込んでいるらしいです。「タルブの戦いでその旗艦『レキシントン』号の艦長がアイツだ。敵を招き入れるなんて何考えてるんだろうか。信用はできないな」「敵だった奴と同じ艦に乗り込むだなんて・・・」「ま・・・我々よりは戦力になると判断されたのだろう。情けない話だが」向こうは曲がりなりにも旗艦の艦長をつとめた男。自分たちが現時点で遠く及ばない軍人だという事は分かる。闇討しようも返り討ちにあう可能性が大である。冷静に考えたら当たり前のことに、マリコルヌ達は溜息をつくのだった。達也です。こんなご時世で騎士爵位を受けるとか、よくよく考えたら戦争にGO!とかじゃないか?というか別に今の時期にやらなくてもいいよね?焦る必要はないさと自分に言い聞かせてくれルイズママ。「貴方の騎士爵位授与と今回の戦争は関係ないですよ」「関係ないなら戦争に参加しなくていいんですか?」「いや、推薦した私たちが戦争に参加するので、一応参加していただきます」「嫌じゃー!?」「まあ・・・私は姫の女官だからどちらにしたって何らかの形で参加するんだけどね、アンタ」「成る程、俺は後でパン焼けばいいんだな」「補給部隊とでも言いたいのアンタは」「補給部隊舐めんな!ないと死ぬぞ!」補給部隊と兵糧庫が落とされたら戦争まず負けるよな。まさか前線に立てとかいう訳じゃないだろう。・・・立つの?そんな事を考えていたらいつの間にか王宮に到着していた。王宮の執務室で、アンリエッタは客人の到着を待ちわびていた。この時期に何を暢気な事をしているのかとは思わなかった。軍の編成は順調そのものだったからだ。午後の予定をすべてキャンセルしてこの時に望んだ。枢機卿のマザリーニはわざわざ、竜籠を手配する必要があるのかと小言を言ったが、早く会いたかったのだ。数少ない友人のルイズに。そして・・・「銃士隊隊長アニエスさまご一行、ご到着!」衛士の呼び出しに顔をあげるアンリエッタ。「すぐに通してください」アンリエッタは立ち上がる。「ただいま戻りました」執務室に戻ってきたアニエスは深く一礼する。背後にはルイズとカリーヌ、そして達也がいた。「ミス・ヴァリエールの使い魔の少年をお連れしました」アンリエッタはここからは自分の交渉術の腕の見せ所だと思った。「まずはラ・ヴァリエール家の申し出を受けていただき、大変有難う御座います、陛下」「いえ、わたくしとしても、彼を騎士に任命する事は異存なき事ですから。身分を問わず、有能なものは登用する。それが今のわたくしのやり方です。そして、彼はその有能なものであると判断しただけですわ」ルイズと達也が顔を見合わせている。アンリエッタは達也にその自覚がないのかと思っていた。実際その通りだった。貴族になれば、貴族になれば・・・。先程からカリーヌもアンリエッタも聞こえのいい事ばかり言っている。達也は異世界の人間だ。この世界に何時までも居座るわけにはいかない人間だ。随分と評価されている出来事も、偶々巻き込まれただけの事ばかりだ。その偶々が欲しくても手にすることが出来ない者も沢山いるが、果たして本当にそれでいいのだろうか?達也は自分の使い魔だが、いずれ元の世界に帰さなければいけない人だ。新たな恋をしろと随分と無責任な事を言ったが、達也はまだ諦めていないようだ。騎士の称号なんて、この男に関してはあって困らないだけのものでしかない。元の世界では何の役にも立たないのだ。勿論自分は彼が貴族になるのは賛成だが、問題は達也がどう思っているのかだ。貴族でもパン屋ぐらいは出来るだろうが、こんなご時世の中パン屋なんて開業できるか?母の前で虚無のことを話すわけにも行かない。そんな自分を守る為の騎士の称号なのも分かるが・・・先程から達也が黙っているのも気になる。「略式ですが、この場で『騎士叙勲』を行ないます。ひざまづいた後、目を閉じ、頭を伏せてください」達也は黙って、その指示に従っている。このハルケギニアの住人ではない達也が、始祖ブリミルやトリステインに忠誠を誓うのだろうか。アンリエッタは儀式を続けている。「汝の魂の在り処・・・その魂が欲する所に忠誠を誓いますか」「・・・誓います」うわー、凄い嫌そうな顔。「よろしい、始祖ブリミルの御名において、汝を騎士に叙する」嗚呼、使い魔が貴族になってしまう。母は邪悪な笑みを浮かべ、アニエスは眩しそうにその儀式を見つめている。叙勲式は終わり、達也は立ち上がった。そして自分の方を振り向き、「あー、終わったな、じゃ、帰るか」「まだ帰しませんよ?」「俺の魂は帰りたいと言ってます!?」アンリエッタに肩を掴まれた達也は動きを止めて、え~、と言っていた。アンリエッタの用とは、貴族が纏っているマントを俺に贈呈することだった。マント・・・飛べるわけでもないのにマント・・・だせえ。マント・・・変身できるわけでもないのにマント・・・空しい。とりあえず纏ってみてくださいとアンリエッタが言うので纏った。気分を盛り上げる為に、俺の世界の『日本三大ヒーロー』と俺が勝手に思っている彼のセリフを拝借してみた。「元気百倍!シュヴァリエマン!」「「「「は?」」」」その場の空気の寒さが百倍になってしまった。目の前に立つのは愛する女と瓜二つの女王陛下にして、我が親友の愛した女性。ウェールズがいない分、俺はこの人を死なせてはならない。俺の隣にいるのは俺をこの世界に拉致ってきた女にして、我が扶養者である。コイツは絶対守る。守らないと色んな方面で俺が死ぬ。だが、俺はまだ弱い。世界を守るとかそんな事は出来ない。強くなってもそんな事は出来そうにない。人一人の力で出来る事は僅かな事である。「姫」「はい?」「騎士になろうがなるまいが、俺にはこの世界で守りたいと思う女性が二人います。一人は主のルイズ。もう一人は姫、貴女です。平民のままだったら、二人と、将来の嫁さんを守ればそれでいいと思ってたんですが・・・騎士になった以上、俺はこの部屋にいる全員守れるぐらいの人物になりたいと思いました」「何の感想文よそれ」「私も守ってくれるんですねぇ」「母様は守る必要ないでしょう!?」「思いましただから、守るとは言っていないんですが」しかし、俺はここで重大なミスをしたのかもしれないことに気づいた。・・・まさかとは思うが・・・「今のはプロポーズとか口説きとかじゃないから」「使い魔が主を守るのは当たり前でしょう」「そうですね、私があと30年若ければ靡きましたねえ」ルイズとカリーヌは笑いながら言った。流石に今の言葉を勘違いする奴はいないか。・・・アンリエッタとアニエスが先程から黙ったままなのが気になる。・・・怒っているのだろうか?用が済んだのならさっさと出て行けということだろうか。「ルイズ、とりあえず魔法学院に戻ろう」「何を言っているのです?ラ・ヴァリエール家に戻るに決まっているじゃありませんか」「か、母様、私は魔法学院の図書館で調べものがありますので・・・」「どもってますが」「そんな事はありません」「・・・良いでしょう。実家にも顔は見せたことだし、それに会おうと思えば会えますから。ねぇ、婿殿?」「幻聴が聞こえた気がするが気のせいだな」「気のせいね」「二人とも、現実逃避はおやめなさい」「アンタが現実見てください!?」この母親にも困ったものである。そんなに俺をヴァリエール家に組み込みたいか!?何の得になるというんだ?パン屋だぞ?達也達が執務室を退室した後も、アンリエッタとアニエスは固まったままだった。というか、マザリーニが呼びに来るまで彼女たちはずっと固まったままだった。「・・・・・・陛下、アニエス殿?一体何をなさっているので?もう、彼らはとっくに・・・」「・・・マ、マザリーニ枢機卿!?いつの間に!?」「いつの間にって・・・もう何回も呼びかけていたのですが、どうなされたのですか?」「「求婚されました・・・って、え?」」「・・・は?」その後執務室が混乱の場になったことは言うまでもない。カリーヌと別れ、学院に到着した俺たちは、帰省を終えて、残りの休みを暇そうに過ごす女子生徒たちを見ていた。先程から男子生徒の姿をあまり見ない。「戦争だからね、帰省のときに志願したんでしょう」ルイズが自分の予想を言う。・・・俺たちって普通に帰ってきて良かったんだろうか。そう思っていたら、キュルケが声を掛けてきた。「はぁい、お久しぶりね」「実家から帰って早々、アンタの顔を見るなんてげんなりするわ」「いきなりご挨拶ねぇ、ルイズ。私にそんな事を言っていいの?トリスタニアでは・・・」「お前は俺の分身相手に号泣してたな」「その話は止めて・・・かなり落ち込むから」「ああ、そうそう。キュルケ。コイツ、貴族になったから」「・・・へ?」「何の因果かシュヴァリエになったんだよな」「え?・・・マジ?」「タツヤ、マント」「元気百倍、シュヴァリエマーン」「・・・一体何やったの貴方」キュルケが俺に詰め寄るが、俺としては事件に色々巻き込まれた結果がこれだとしか説明できない。「家の母様が、コイツを気に入ってしまって、騎士にならせてくれって推薦したみたいなのよ。そしたらそれが通ってしまって」「それでいいのトリステインは?」「アンタに心配されると本気で凹むわ。で・・・貴族になったから、家の結婚できない姉たちと結婚させようとしてたみたいだけど・・・」「それからは逃げてきたのね」俺はまだ17になり立てである。心の準備は出来てません。・・・そういえば、パンを焼くときに、キュルケの魔法は役立つのだろうか?「ふーん・・・貴族になったのね・・・」じろじろと俺を見るキュルケ。何も変わったところはないと思うが。キュルケとしては達也はあの時は分身だったとはいえ、自分たちを守ってくれた男性である。平民だったので、そう言う対象にはなり得ないと自分で決着づけていたが、貴族ならば話は別だ。さらにラ・ヴァリエールのものはツェルプストーが奪うのも恒例となっている。此処までくれば目の前の男はとんでもない上玉ではないのか?と、キュルケは思った。この男は自分が会った男でも珍しいタイプだ。自分に靡いていないからだ。しかし、親しく話すことも出来る。友人といっても過言ではない。しかし、バランスが少しずれただけで、男女の友情はややこしくなるのだ。おかしいものだ。ギーシュ相手に引き分け、夜盗相手に死に掛けていた男が、短い間に貴族にまで上り詰めている。此処までの出世頭を今まで友人までとしか見ていなかったなんて迂闊としか言いようがない。「ねえ、タツヤ、聞いてもいいかしら?」「なんだよ?」「貴方の分身が言っていたのだけれど・・・『お前らは、俺が守るから』とかって。その言葉は、貴方の中にもあるの?」「そんな断定的なことは俺は言わないよ、俺は」キュルケは自分の中で何かが冷めていくのを感じた。「まあ、俺の目の届く範囲にお前がいたら多分守ろうと思うよ、キュルケ」「え」不意打ちで言われた。「俺は世界を守る英雄にはなれないけどさ、誰かを守れる人間にはなりたいんでな。この世界の友人、扶養者その他もろもろ・・・その中には無論お前も入っているんだぜ?まあ、まだ守るには心もとない騎士様だがな。むしろ守って欲しいが」達也は肩を竦めて笑う。ルイズも「そんな日来るのかしら」と笑っている。キュルケはただ一人、今まで味わった事のない炎が自分を優しく包んでいる事を実感していた。それは今までの身を焦がすほどの情熱的な炎ではなく、ただ、冷えた身体を温めるような炎だった。戦争の足音は確実に近づいていた。(続く)