どうやら俺は三カ月以上も向こうの世界にいたらしい。テレビのニュースを見て分かった。どういうわけか俺は元の世界に戻ってくる事が出来たらしい。だが、左手のルーンが輝いたままなのが気になる。とりあえず包帯で左手のルーンを隠した。両親には殴られた。何処に行っていたと言われた。いや、まさか異世界に行ってたなんて言えないし。今日は日曜日でみんな家にいた。先ほどから妹二人が纏わりついて動きにくい。しかし、何で姫さまの手に触れて寝たらこうなったんだろう?電波はご褒美とか訳の分からんことを言っていたが・・・?「しかし・・・しばらく見ないうちに随分逞しくなったじゃないか、達也」父が俺の姿を見て言う。まあ、喋る剣の鍛錬をずっとやっていたからな。三カ月そこらでの変化としては確かに見違えたろう。ふはは!男子は三日会わなければ変わるものなのだよ!「本当に、何処に行ってたの、達也?」母親特製のカレーを食べる俺だが、時刻はまだ正午である。カレーの味が身にしみる。あ、そういえば携帯電話は向こうに置きっぱなしじゃないか?どうしよう。・・・というか、俺がいきなりいなくなって、姫様は驚いていないのか?俺が昼飯を食べていると、玄関のチャイムが鳴った。母が来客の応対に向かう。「あら!杏里ちゃんじゃない!」「こんにちは、おば様。母の実家から野菜が大量に送られてきましたので、おすそ分けに来ました」・・・・・・おい待て。「杏里ちゃん、達也がいつの間にか帰ってきてるのよ!」「・・・・・・え?」待て待て!今カレー食ってる最中だから!が、無常にも俺の心のヒロイン様は、俺の母の言葉に従い、家に上がりこみ、リビングへと侵入してきた。そして、三カ月以上ぶりに、俺、因幡達也と、三国杏里は再会を果たした。・・・微妙な沈黙が流れる。父が妹二人を連れて、遠巻きに俺たちを見ている。ニヤニヤしながら見るな!三国はつかつかと俺に歩み寄る。そしていきなり助走をつけたかと思うと・・・「三ヶ月以上も学校休んで何してんのよアンタはーーー!!」綺麗なシャイニングウィザードを俺に叩き込んだ。ふむ、黒か。素晴らしい。彼女の膝を喰らった俺は椅子から転げ落ちるように吹き飛ぶ。や、やっぱり凄い怒っている・・・!!三国は俺の胸倉を掴んで、引き起こした。「デートに来ないから散々心配したのに、何?アンタ。ずっと待っていたのに連絡もよこさないとか何よアンタ?何暢気に美味しそうにカレーでも食べてるのよアンタは。何処行ってたのよアンタは・・・!!携帯に連絡しても電話は繋がらない、メールの返信も来ない、家には勿論いないし、学校にも連絡はない。挙句警察が捜しても音沙汰なし。・・・・し、死んでるのかと・・・思ったじゃないのよ・・・生きてるなら・・・連絡ぐらい・・・してよ・・・待ってる方の事も考えてよ・・・このアホーー!!」迷惑かけたのは謝るが、何も往復ビンタならぬ往復グーパンチはねえだろ!死ぬわ!こういう所はこいつに似た異世界の女王にはないところだ。やっぱ、別人だわ。三国も落ち着いたところで、何故か家族会議が始まった。「では杏里ちゃんを加えての第294回因幡家家族会議を始めたいと思います。司会は私、因幡家の大黒柱、因幡一博が勤めさせて頂きます。今回のテーマは、我が家の長男、達也がこの三カ月以上の期間、一体何処で何をしていたかです。なお、達也に質問に対する黙秘権はありません。拒否権なんて論外だからそのつもりで」「さて、達也。貴方の消息が途絶えたのは杏里ちゃんとのデートの日。この日に貴方の身に一体何が起こったのか、私たちに言って欲しいな?」「なんと説明したらいいのか・・・」気がついたら魔法が普通にある世界に召喚されてたとか普通に言ったら気が触れていると思われるだろう。ルイズの場合、その世界に存在しない携帯電話を見せることで、異世界の存在をあっさり信じたが、今回俺はその異世界のものを何も持ってはいないのだ。喋る剣を持っていたら説明は楽だったが、剣を背負ったままベッドに寝る奴はいない。あまりに唐突の故郷の訪問に俺だって戸惑っているのだ。「一つ曲がり角を曲がり間違えたらそのまま北海道の山奥に」「途中で気づくでしょうそれ!?なんで北海道に行けるのよ!?海越えてるじゃない!?というか山登りでやっと気づいたの!?」「そういえば公園行くのに山は越えんぞと思った」「北海道突入で気づくか、県外脱出辺りで気づけ!というか公園までの道普通に知ってるでしょうが!?」「初デートで緊張してたから家を出た瞬間から曲がるのを間違ったんだな、俺」「其処で気づけ!?」本当は家を出た瞬間場所が違ったのだが。それを言ってもこの人たちには理解できないだろう。一方、ルイズ達の世界。銃士隊隊長のアニエスは、とある宿の2階の部屋の扉の前に到着した。ここにはアルビオンの間諜が潜んでいる。それを入念な調査と尾行で突き詰めたアニエスはやって来たのである。ドアを剣も使った上で蹴破り、内部に侵入すると、商人風の男がアニエスの乱入にも動じずに風の魔法を唱えた。アニエスは壁に叩きつけられつつも銃を撃つ。銃弾は男に命中して、男はたたらを踏む。その間にアニエスは男の杖を剣で絡めとり、手からもぎ取る。鬼気迫る表情で剣を男に突きつけるアニエス。騒ぎが気になったのか、宿のものや客が、部屋を覗きこむ。アニエスは男の手首を縛り上げ、破ったシーツで作った猿轡を噛ませてから言った。「騒ぐな!手配中の盗人を捕縛しただけだ!」宿のものがとばっちりは嫌だとばかりに顔を引っ込める。捜査活動の邪魔をしたらいけないのだ。アニエスは男の服から手紙を見つけ、中を改める。そしてニヤリと微笑み、更に男のポケットや、机の中を確かめ、見つかった書類を一枚ずつ読む。その中の一枚に、建物の見取り図があった。それにはいくつか印が入っている。「なるほどな。貴様らはこの地図の場所で接触していたのか。貴様が所持していた手紙には、明日、例の場所でとしか書かれていない。ここから推察するに、例の場所とはこの見取り図の場所・・・つまり劇場にて接触するということだな?」男は答えない。じっと黙ってそっぽを向いている。アニエスは男の足の甲に剣を突きたてた。男は叫ぶ事も出来ずにただ悶絶する。冷たい笑みを浮かべたまま、アニエスは男に銃を突きつける。「選択肢をやろう。簡単だ。言わずに死ぬか、言って生きるかだ」ガチャリ・・・と撃鉄を起こす音が響く。男の額に汗が浮かぶのをアニエスは黙ってみているのであった。夜が明ける。アンリエッタは人の気配に目が覚めた。このような場所で異性と朝を迎えるのは初めての経験だった。・・・まあ、何もなかったわけなのだが。何かあってもそれはそれで困った事にはなるのだが、アンリエッタはそこまで深刻に考えていなかった。「お早う御座います、姫さま」剣を背中に背負った達也が、寝起きの自分に微笑みかけていた。「お早う御座います、タツヤさん」寝ぼけ眼を擦り、アンリエッタは挨拶した。今日が勝負の日だ。絶対尻尾を掴まなければ。アンリエッタはまず身支度をするため、ベッドから降りた。俺が三カ月何をしていたのかの追求は後日するらしい。妹や三国など女の子を泣かせた罰として、彼女たちの買い物に付き合うことになった俺。デートと言うには妹二人がいるので何か違う。女性の買い物はとにかく長い。それは年齢がどうとかの問題ではなかった。俺を女物の服の専門店に連れてくるなよ。一緒に服を選んでいる三国と妹たちは仲のいい姉妹みたいだ。本当に俺の妹二人は三国に懐いているなおい。相変わらず左手のルーンは光ったままだ。包帯で隠していたが、怪我と言うことで誤魔化している。包帯を巻いたところで光が消えたわけではないが。妹がいるため、デートという気が全くしない。三国曰くデートらしいが。「おにいちゃん!かわいい?かわいい?」「そうだね」「お兄ちゃん、どう?似合うかな?」「うん、似合ってるんじゃないか?」「ど、どうかな?達也・・・これ私に合ってるかな・・・?」「10点満点中9.59点」「満点じゃないの!?」女たちが思い思いに服を試着するたびに俺に見せてくる。試着は無料だからな。試着は。三国と妹は心底楽しそうである。おい、だからって下着売り場には行かんからな!やめろ、離せ!俺の顔は多分今、凄いげっそりしているだろう。今は家に帰るところだが、見知らぬじいさんに親子扱いされた。アホか!?どう見ても親子には見えんだろう!?当然のように俺は荷物もちをしている。各々気に入った服を買ったようである。前を歩く妹二人も、上機嫌で歌など歌いながら帰りの夜道を歩いている。「ねえ、達也」「何だ?」「本当のところは・・・何処に行ってたの?」俺の隣を歩く三国が俺に尋ねる。・・・やっぱり先ほどの北海道の山奥は無理があったか。「魔法の世界だよ」「は?」だよな。いきなり何処に行ってたか聞いたのに『魔法の世界』はないよな。三国は呆れつつ言った。「呆れた、それって言えないような所に行ってましたーって言っている様なものじゃない。お願い、達也、正直に言ってよ。何処に行ってたの?怒らないから」自宅の明かりが見える。妹たちも家に向かって走っていった。俺はそれを見送ると、三国のほうを向いて言った。「本当さ、三国。魔法の、世界だよ」左手から光が漏れ出した。それと同時に謎電波が流れた。『あの~・・・いい雰囲気の中申し訳ないんだけど、大変残念だけどさ、そろそろ向こうの貴方が死にそうだよ。早い話が、ご褒美タイムは終了です』はあ!?どういう事だよ!?帰れたんじゃなかったのか!?『永久にとは言ってませんし。それに想い人に会えたから良いじゃないですか。会いたかったんでしょう?だから会わせた。それだけ。帰すとは言っていませんよ?其処まで万能じゃないですし、ルーンがまだあるという事はまだ、貴方は主と繋がっているんです。主と違う世界にいちゃ駄目でしょう。だからごまかす為に、貴方の分身を置いてきたのに、分身が余計な正義感を振りかざして死ぬ目にあってるんです。性格が良すぎるのも問題ですね。では20秒後に元の世界に送るのが完了しますんで、別れの挨拶はしときなさいな。もうこんなご褒美はないと思ってください。一回限りの夢と思って諦めてくださいな』そんな殺生な・・・!?電波が聞こえなくなる。「・・・!達也!?貴方・・・!」三国が俺を見て驚愕した表情になった。身体が・・・透けはじめているだと!?俺に駆け寄る三国。俺の意識も何だかふわふわしてきた。俺は三国に言うべきことは初めから決まっている。別れの挨拶なんて言うか!サヨナラとか言うか!あの紙分身め、何危険な事に首を突っ込んでんだ。お陰でまたコイツを泣かしてしまうじゃないか。「だから多分これも魔法か何かで会えたんだ。でも折角だから、お前に言いたい事がある。二度目はないぞ?」出来るだけ早口で言った。三国が頷いたのを見て俺は言う。意識はどんどん遠のいていく。「杏里、大好きだ。また会おう!」そう言った瞬間、俺の意識は完全に遠のいた。そして意識が戻った瞬間、俺は何故か浮遊感に包まれていた。いや、浮遊してなどしていない。落ちている。「何!?」「え?」下から人の声がしたと思ってそちらを見たら、男が一人、俺の下で一緒に落下していた。・・・落下?何故だ!?男を確認してすぐに、俺たちは着地した。ただし俺は男の上に落下して無事だった。俺の下敷きになった男はうめき声をあげている。・・・・・・これって、やばいんじゃないの?見た感じこの男、メイジっぽいし。杖持ってるし。俺はこの男が目を覚ましたら俺がやばいと思い、こっそり逃げようとした。「何処から現れたかは知らんが・・・よくも私を尻に敷いてくれたな・・・平民・・・!!」「故意ではありませんのでお構いなくー!!」背後から声が聞こえたので、俺は全力で何処でもいいから逃げ出した。・・・・・・ところで此処は何処だろう?(続く)