さて、今俺は、接客しているはずだ。なのに何故今俺は、タバサの風の魔法によって、拘束され、テーブルの上で正座させられているわけだ。これでは尋問ではないのか。「ではこれより尋問を行なう」ギーシュめ。ノリノリで司会進行をしやがって!「黙秘権を行使する」「却下する」「分かった、ギーシュ。ならば言おう。お前が夏期休暇前に密会していた下級生の娘との一時を」「過去を捏造するなー!?モ、モンモランシー、違うからな?タツヤの甘言に惑わされてはならん!」「ククク・・・焦るという事は、身に覚えがあるという事か?」「尋問内容の変更を提案します」「モンモランシー!?違うから!そんな事はしてないから!杖をしまって!?」これまでの素行がアレだったため、まだモンモンはギーシュを疑っているようだ。ギーシュ対策はこれでいいだろう。タバサは飯やっとけばいいんじゃないかと思ってる。問題はキュルケである。この女相手に小手先の言い訳が通用するとは思えん。「さて、答えてくれるかしら?どんな事情があってルイズが給仕をやっていて、貴方が皿洗いをしているのか」「実は・・・ギャンブルで身の破滅を体験したルイズは、お金のために大道芸をやっていたのだが、あまりにも可哀想な姿だった為、ここの店主が宿を提供してくれた。その代わりに俺たちは此処で働くことに・・・うう」ギャンブルで身の破滅直前になったのはルイズだけだし、その後の流れは大嘘である。だが、俺があそこで勝たなかったら、今言ったような事になったか、野たれ死んでいた可能性が高い。キュルケはルイズの様子を見て言った。「・・・妙に馴染んでない?」「仕事が出来る女なんですよ、凄いね。というかさっさと注文しやがりくださいお客様」「何だか釈然としないけど・・・じゃあ、これ」キュルケはメニューを指差した。「メニューそのものを食べるなんて、俺はお前の食生活を疑う」「メニューそのものを食べる馬鹿がどこにいるのよ?ここに書いてあるの、全部よ」「金持ち特有の悪い癖がでたよ、おいギーシュ、モンモンとじゃれてないで何とか言ってくれ。このご婦人は自分の体型の変化も犠牲にして贅沢しようとしている」「・・・・・!!・・・・・!!?」ギーシュはモンモンに首を絞められるほど愛されていたため、答えることが出来ないようだ。ふと、タバサが俺をじっと見ているのに気づいた。目で何かを訴えている。「・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・何だ?」「タバサも全部食べてみたいって」そうだ、コイツがいたよ!郷土料理ハンターがいたよ!こいつがあらかた食っちまうよ!「で、頼むのはいいが、お前ら金はあるのかよ」「何言ってるの、ルイズのツケに決まってるじゃないの」「君は酷い女だな」「全くだ。全部だな?今すぐ用意してやろう」「君も酷い男だな」ルイズも結構稼いでいるからな。黙っているのと引き換えなら安いものだ。・・・・・・俺の給金からも引いといてやろう。俺がメニュー全てをキュルケたちのテーブルに持ってきた頃には、何故かキュルケとタバサはいなかった。「あれ、あの二人は?」「外よ。ナヴァ-ル連隊所属士官たちと決闘。キュルケがその人たちの挑発に挑発で返しちゃったのよ」「あの二人はトリステインの出身じゃないからね・・・決闘禁止の例外とか言ってね・・・」「耳が痛いなあ、ギーシュ」「そうだねえ、僕も君と決闘したもんねぇ」「相手は何人?」「三人」モンモランシーが言う。ギーシュもモンモランシーも彼女たちの心配をしていないようだ。何でこんなに余裕なんだろうか?相手は曲がりなりにも軍人じゃないのか?「まあ、キュルケは『火』のトライアングルメイジで、タバサは『風』のトライアングルメイジ。加えてシュヴァリエの称号があるから、遅れはとらないと思うよ」ギーシュはそう言うが、本当に心配はないのだろうか?メイジの決闘に首を突っ込む気は俺にはないのだが、相手は軍人だろう。俺の軍人のイメージはマンティコア隊の隊長みたいな人がこの世界の軍人というイメージがある。まあ、彼は正式には軍人ではないのかもしれんが。軍人なんだから、自分より高いクラスのメイジと戦うための訓練もしているんじゃないか?そして、例え女子供でも、戦士として向かい合うのなら容赦はしないんじゃないのか?特にギーシュ。お前は決闘の最後はなりふり構わず俺と殴りあったじゃん。こいつら軍人を軽く見すぎじゃないのか?そう、彼女たちは甘く見たのだ。トリステイン軍人は伊達に小国を守っているわけではない。性格には難があるものもいるが、総じて優秀である。羽目を外している事も多いが。何が言いたいかと言うと。「まあ、先に杖を抜けとは言ったが、ワシらが魔法をつかわんとは言っていないぞ、お嬢さん方」「おいおい、いきなり有無を言わさず『エア・ハンマー』とは・・・」「・・・まあ、戦いが号令つきで行なわれるとは限らん。あの判断は間違っていない。だが・・・こちらも決闘をする以上、冗談でやるわけにはいかないのでね」一番年かさの貴族が『土』の壁で、タバサの『風』の槌の一撃を防いだ。タバサの魔法の威力に若い貴族が舌を巻き、無骨そうな貴族が鋭い目でタバサたちを見る。若い貴族がキュルケと酒を飲みたいと彼女を誘ったのだが、断られてしまい、酔いも手伝って回りも囃したて、決闘になるまでになってしまった。若い貴族の暴走がもとだが、彼の暴走を静めていた無骨な貴族と、年かさの貴族が決闘に参加したのは、トリステイン軍人を馬鹿にされたからである。とはいえ、お灸をすえる程度にしか考えていなかったが、向こうの女性たちはどうやらトライアングルクラスのメイジで、一人はシュヴァリエの称号を得ている。軍人として、そのような相手と戦うのも一興と思ったのである。・・・しかしながら、軍人として、少年兵や、女性の軍人をいやと言うほど見ている年かさの貴族は、この二人の少女の力量を、先ほどの攻撃から分析していた。成る程、あの年でシュヴァリエを名乗るだけあって、自分の土の壁を打ち壊すほどの実力か。少しショックだ。あのゲルマニアの娘も同じぐらいの実力と考えていいだろう。いやはや、最近の若いメイジはにも有望株がいるものだな。と、そこに剣を持った少年が店内から現れる。格好からして、貴族ではないようだが・・・少年は、貴族の少女たちの前に立った。「何だ貴様は?」「軍人さん、ご婦人二人に対して三人とは不公平でしょう。俺が彼女たちに加勢します。これで数は公平です」「下がれ、平民。怪我では済まんぞ」無骨な貴族が達也に言う。キュルケとタバサは突然現れた達也に戸惑っていた。「分かっていますよ?決闘でしょう。すでにもう経験済みなんでね、怖さは知ってますよ」「ならば、何故決闘に参加しようとおもったのかの?」「男として女性の盾になるのは望むところでね」そう言って達也は剣を構える。達也はキュルケたちのほうを見て言う。「そういう事だ。俺があいつらを引き寄せている間に、お前らは魔法をぶち込め」「ちょっと、タツヤ、幾らなんでも・・・」達也は口に人差し指を立てて微笑み言った。「大丈夫。お前らは、俺が守るから」そう言って、達也は貴族たちに向かって走った。貴族たちは一斉に達也に攻撃を仕掛けた。オーバーキルとも言えるその攻撃を達也はその身に受けた。その時、タバサとキュルケの詠唱が完成する。タバサとキュルケの魔法が、達也を狙って隙だらけの三人の貴族に襲い掛かる。貴族たちはその合体攻撃を受けて、吹き飛ばされる。ただ一人、無骨なメイジが身を翻して着地すると、攻撃を喰らって意識を失った二人を抱えあげて撤退した。決闘はキュルケたちの勝利である。だが、貴族たちの攻撃を受けた達也は倒れ伏して、ピクリとも動かない。「タ、タツヤ!?」キュルケとタバサが倒れ伏す達也に駆け寄る。キュルケは慌てて彼を抱き起こし、呼吸と脈を確認する。そして、青ざめる。「脈が・・・ない」タバサが呟く。心なしか悲しそうだとキュルケは思った。土の槍にて腹を貫かれ、火の魔法によって身体を焼かれ、風によって身体を切り刻まれていた達也はすでに事切れていた。確かにこの平民は自分たちを守ってくれた。だから決闘に勝てた。それは間違いない。だが死んでしまってはどうにもならないではないか。今まで自分を愛した男は数知れずだが、自分を命がけで守った男はいない。初めにタバサのエア・ハンマーをあっさり防がれた時点で、少し不味いとは思った。見た目は軽薄な感じだったが、自分たちはどうも、相手を軽く見ていた。その結果がこれである。達也の手から、デルフリンガーが落ちる。剣が落ちた音が、空しく響く。何で助けに来たんだ。馬鹿じゃないの。あんな奴ら、二人でも何とかなったわよ。勝手に助けに来て勝手に死んでどうするのよ。馬鹿じゃないの?キュルケの目から涙がこぼれる。タバサも顔を伏せている。こうして決闘はキュルケたちの勝利で終わった。それと同時に、彼女たちを守った男はその短い生涯を終えたのである。一人の少女の慟哭だけが悲しく響くのであった。『ルイズさんが109回目にして平民を召喚しました』ご愛読有難う御座いました!「終わったかい?」魅惑の妖精亭から聞こえてきたのはギーシュの声だった。「ギーシュ、タツヤが・・・」キュルケが涙目でギーシュを見る。「何泣いているんだお前は」「「「「「生きとるーーーー!???」」」」」ギーシュの隣に立つのはまさしく達也だった。キュルケとタバサは目を丸くしている。ギャラリーたちも驚いている。キュルケが抱いていた達也の姿はすでにない。訳が分からず、目を白黒させるキュルケたち。賢明な方々ならば分かるだろうが、先ほど死んだのは俺の分身である。『釣り』技能の一つ、分身の術・・・意外に使える。分身はやっぱりすぐ死んだが。俺は分身のように、『お前たちは、俺が守る(キリッ』などとは言わない。『自分の身は自分で守れ、出来れば俺も守れ』と言うのが俺の今の現状だ。無駄に分身の完成度が高かったのが良かった。なお、喋る剣は本物である。今の俺に、目に付く人を守るほどの力はまだ無い。あの分身の勇姿は俺の目標であるのだ。分身よ、今はキュルケたちを守ってくれて感謝しよう。いつか、あのぐらいの勇気が発揮できたらいいなぁ。「あ、アンタ、魔法が使えるの!?」「魔法は使えん。今のはマジック、燃費の悪い宴会芸みたいなものだよ」こいつらを分身に守らせた理由はただ一つ。こいつらは俺の『客』だからな。『客』に怪我させる訳にはいかないだろう。俺は疲れたが。「それじゃあ、乾杯しよう。勝利の記念にだ」ギーシュが言う。キュルケたちはぽかんとしている。「メニューに乗っているのを全て頼んだのは貴女方ですよ、お客様?」へたり込んでいるキュルケたちに手を貸し、店内にエスコートした俺とギーシュは、店の客たちに歓迎された。厨房から出てきたルイズは俺を見て言った。「皿洗い、お願い」「ういーす」俺はいそいそと厨房に向かった。皿が割れていた。またルイズの給金が減るんだなと思った。(続く)