『詠唱は済んだわよ!』俺が白い空間でシューティングアクションゲーム(リアルと連動:難易度:ヌルゲー)をしていたら、下のメッセージウインドウが開き、ポリゴンルイズがそんな事を言い出した。続いてポリゴン版喋る剣が喋る。『小僧!今だ!奴らに近づけ!!』というメッセージが出たので、俺は陸地(ポリゴン)を走る敵部隊(何故かこいつらだけドット絵)に向けて、紫電改を急接近させるように操作した。『うわわわわ!?』急加速してさらに急降下したのでルイズの慌てるような声がメッセージウインドウに流れる。敵部隊にぐんぐん迫っていくモニターの紫電改。『今だ!杖を振れ!』『姫様!今行きます!』・・・何だか盛り上がっているが、肝心の俺には何が操縦席で行なわれているのかよく分からん。たぶんルイズが解除魔法を発動したのだろう。その証拠に俺の前の巨大モニターには、『任務成功』という文字が画面のど真ん中に表示されていたから。そして俺の視界はまた暗転する。程なく俺の視界には紫電改の操縦席にある計器や操縦桿が飛び込んできた。・・・なんだか今まで眠っていたような感覚である。「姫様!ちょっとタツヤ!早く降りて!」ルイズの怒鳴り声に俺の意識は完全に覚醒した。そういえば離陸はできたが、着陸はどうするんだろうな・・・「安心しろ、小僧。着陸も俺が指示してやるから。それよりさっきまでのお前さんは一体どうしちまったんだ?教えてない操作までやりやがるし・・・」喋る剣の指示で俺は紫電改を着陸させる。先ほどまでアンリエッタを連れ去っていた奴らは、ウェールズも馬も含めて、地に倒れ伏していた。その中で一人、アンリエッタただ一人が、倒れ伏すウェールズの側で、彼の様子を伺うようにしゃがみこんでいた。着陸するなりルイズは操縦席から飛び降り、息切れしつつもアンリエッタがいる方まで走っていった。俺もそれを追おうとしたら、ルーンが輝き、あの電波が流れてきた。『戦闘終了。『騎乗』のレベルがぐんと上がった!『騎乗』レベルが一定値に達したので、新たな技能、『重力耐性』を覚えました。乗り物に乗ったとき、Gに耐性ができます。でも音速レベルとかの乗り物とかはちゃんと耐Gスーツを着てください。割とまともな能力で申し訳ない。次から本気出す』まともな能力でいいから。その本気は方向性が間違ってるから!俺はルイズたちがいる場所に行こうと、操縦席を出ようと立ち上がろうとすると・・・立てなかった。「・・・どうしたね、小僧」「足が震えてるみたいだ・・・」初の空戦にびびってしまったのか?足がしびれたように力が入らない。「気疲れしてんだよ。少し休みな」「そうしたいけどよ・・・・・・よし、もう大丈夫だ」「そーっと下りろよ」喋る剣が気遣っているのか、俺に声を掛ける。無機物に心配されるとは・・・俺の世界では絶対無いな。そういやプロペラ止めちまったけど、ちゃんと帰れるかな・・・?俺はそう思いながら、紫電改の操縦席から降りて、ルイズたちのいる所に歩いていった。アンリエッタは突如馬ごと倒れてそのまま物言わぬウェールズの姿を呆然として見つめていた。ルイズの放った光は自分を連れて行こうとしていた一団を、馬ごと沈黙させた。先ほどウェールズに触ってみたが、先ほどまで動いていたとは思えないほどの冷たさであった。もしかしたらゴーレムか何かとも思ったが、正真正銘、人間の身体だった。周囲を見回してみると、倒れ伏す者達からは、血の一滴も流れている様子もなかった。「姫様!」その声にアンリエッタは振り向く。自分に息を切らせながら駆け寄ってくるのは自分の幼馴染にして友人のルイズだった。攫われた自分のことを知って追ってきたのだろうか?先ほどの魔法らしき光は一体なんだったんだろうか?アンリエッタは色々聞きたい事が沢山あった。「ルイズ・・・これは一体・・・今の光は・・・貴女がやったの?」ルイズは悲しそうな表情で頷き、口を開いた。「姫様・・・そうです。先ほどの光は、私の使用した『魔法』です」「ルイズ・・・貴女が・・・貴女がこの方々を・・・ウェールズ様を『殺したの』?」ルイズの表情に緊張が走る。先ほどまで動いていた死体たちを自分は元に戻しただけであるが、アンリエッタはクロムウェルが水の精霊の加護を受けた指輪を使って、死人を操っているであろうという事を知らない。自分はクロムウェルがアンドバリの指輪を盗んだ事を知っているし、それから起こりうる行動を予想して、そして今しがた死んだはずのウェールズが動いているのを見ているし、更に『解除』の魔法によって、倒れ伏すのも見た。したがって、ここに倒れているものは、馬も含め、元々死んでいた者達・・・ということが分かるのだが、アンリエッタにはそのような知識がないため、自分がこの一団をあの『虚無』魔法の光で全滅させたと思っているのだ。いや、まあ全滅は事実だけど、元々が死体だし・・・これも殺したということになってしまうのか?「いいえ、姫様。私は彼らを殺したのではなく、『元の姿に戻した』に過ぎません」「何を・・・言っているの・・・?」当然の疑問だとルイズは思った。自分だって、この魔法の効果を知ったのは本当についさっきだし、効果も半信半疑だった。また失敗するかもしれないとまで思っていたのだ。だが、魔法はあっさり成功した。まるで使えて当たり前のような感覚で。アンリエッタは尚もウェールズの躯を見つめる。ルイズの『元の姿に戻った』という発言。やはり、ウェールズは亡くなっていたのか・・・とアンリエッタはそう受け止めた。そう改めて受け止めると、アンリエッタの瞳から涙が溢れ出してきた。優しかったウェールズが、雄々しく散っていったウェールズが何者かの手によって汚された気がして。悔しさに、怒りに、悲しさに。様々な感情が彼女を襲う。その感情が涙になってあふれ出す。本当なら泣いている場合ではないのは分かっている。こうしている間にも、戦闘は続いている筈なのだ。それは分かっているはずなのに。ウェールズは自分の笑顔が好きだと判っているのに。ウェールズは自分の泣き顔なんて見たくない筈と分かってるのに。ウェールズのように勇敢に生きると決めたのに。アンリエッタはウェールズの躯に縋り付くと、そのまま大声で泣き出した。そこには一国の王女の姿ではなく、ある男を愛した一人の女性の姿しかなかった。ウェールズの躯を見てようやく彼女は、ウェールズの死を実感したのである。ルイズはそんなアンリエッタの姿に、かつてのアルビオンでの自分の姿を重ね当てたのか静かに涙を流した。そんなルイズの隣にようやく達也がやって来て言った。「遺体はとりあえず一箇所に集めよう。なるべく日陰に。王子様は・・・一番最後にしよう」「そうね」俺たちはなるべく木陰に死体を運ぶ事にした。途中からアンリエッタも作業を手伝ってくれた。そのお陰で死体を俺とルイズが手作業で運ぶより、姫一人の魔法で運ぶのが早いと気づき、俺たちは愕然とした。「伝説の魔法体系の名が聞いて呆れるわねぇ。虚無にレビテーションみたいな魔法はないのかしら?」明らかに俺たち二人よりアンリエッタ一人が働いている。死体は重いからな・・・魔法は便利だ。馬も含めて死体を一箇所に集めた。あとはウェールズだけだった。アンリエッタは涙目でウェールズを運ぼうとした。俺もルイズもその様子を彼女の後ろで見守っていた。最後にちゃんとお別れをしようと、アンリエッタがウェールズの頬に触れると・・・ウェールズの瞼が開かれた。「「「ぎゃあああああああああああ!???」」」俺たちは悲鳴をあげた。「そ、その悲鳴は・・・アンリエッタ・・・か?」「王子様!成仏してくれ!」「・・・その声はタツヤだね。きみもいるのかい」消え入りそうな声だったが、何処か嬉しそうな声でウェールズは言った。ちなみにルイズは腰を抜かして・・・おい、ちょっと待て。「もし、ルイズさんや」「ななななななな何かしら?タタタタタタツヤ?」「お前の下に簡易泉が出来ている」ルイズは自分の真下を見る。自分の股あたりから生温かい液体がでていた。それが何かを認識した瞬間、彼女は俺を見て、フッと微笑み、涙をつーっと流した。こいつは無視しよう。俺はウェールズの側へ移動した。どういう原理か知らないが、ウェールズは死にそうながらも命の灯火を輝かせていた。その顔は俺を友人と呼んだあの誇り高き王子そのものであった。彼はアンリエッタに抱きかかえられていた。彼が着ている白いシャツには赤い染みが広がっていく。あそこは悪ドが与えた傷の辺りじゃないのか?アンリエッタが呪文でその傷を消そうとしているが、その傷には魔法が通用しなかった。「ウェールズ様・・・そんな・・・いやだ・・・」「アンリエッタ・・・この傷はもう、ふさがらない。僕は一度死んだ身だ。本来こうやって君と話すことも奇跡みたいなものだ・・・きっと、水の精霊がちゃんと君に別れを言うようにと粋な計らいをしてくれただけなのかもしれない・・・」「・・・相変わらず詩的な表現が冴えますのね、貴方は」「ははは・・・そうかな?」力なく微笑むウェールズ。「タツヤ・・・あの竜を操っていたのは・・・君なのか?」「はい」「そうか・・・ならばタツヤ。お願いがあるんだ・・・いいかな?」「友人である王子様のお願いならば」「君は・・・ラグドリアンの湖畔に行ったことはあるかい?」「行ったことはあります」「ならば良かった・・・あそこは僕とアンリエッタの思い出の場所なんだ・・・君の竜で僕たちを其処まで運んでもらえないだろうか・・・?」あのスペースにどうやって四人が入れるというのか?だが、ルイズを前に乗せれば後のスペースが空くか?「少々窮屈かもしれませんが」「構わない」「・・・分かりました」「アンリエッタ。僕はそこで君に伝えたいことがあるんだ」「ウェールズ様・・・」俺とルイズとアンリエッタは、何とかしてウェールズを操縦席の後のスペースに乗せ、次に俺が乗り込んで、アンリエッタの協力でプロペラを回し、その後アンリエッタをウェールズと同じ狭いスペースに乗らせた。それを確認すると、俺はルイズの入るスペースを確認した。・・・俺が足を少し広げれば座れそうだが、正直邪魔だ。すぐ隣に若干のスペースを見つけた。ルイズは狭い!と文句を言っていたが、緊急事態であるし、そもそも四人も乗るように計算されていない操縦席だ。正直息苦しい。「じゃあ、離陸しますんで、しっかり掴まっててください」俺は後ろのアンリエッタに言う。彼女が頷くのを見て俺は紫電改を離陸させた。そして俺は今度こそ、ラグドリアンの湖に向かって紫電改を飛ばすのだった。「今度はちゃんと方向教えてあげるから。ううう・・・何だか股がスースーして気持ち悪い・・・」ルイズは現在はいてない。そんな義妹だが、ナビはちゃんとしてくれるようだ。ラグドリアン湖で水質調査を行なっているギーシュ一行。何だか妙な事になってしまった。本当に水質調査してるし。「はぁ・・・引率がいるから下手にサボれないわねぇ・・・」キュルケが溜息をつく。「何だかミスタ・ギトーは楽しんでるだけのような気がするんだが」「間違いなくそうね。最近外出できる口実を探しているらしい噂だったし・・・」「分かった事がある」タバサが口を開いた。「何が分かったのタバサ」「ここの水は、このまま飲んでも問題ないが、一度沸騰させて後冷やして飲めば更に美味しいはず」「・・・飲んだの?」頷くタバサ。そこにミスタ・ギトー達がやってくる。「どうですか?調査は進んでいますか?」彼らは彼らでラグドリアンの湖周辺の植物調査をやっているらしい。ギトーの質問に、タバサが頷き、「ラグドリアンの湖の水は酸素が多く含まれており、自浄能力が高いと思われる。また、その水も全く汚れておらず、人体に有害になる成分はないはず。というか飲んでも変な味もせず、人体に特に影響もなし。しかし、此処の水を商品として販売するならば、一度沸騰させるべき。更に生物的見地から見れば、綺麗な水質に生息する生物、植物が多数見受けられる。よって、ラグドリアンの湖の水質は極めて良好と思われる」と、答えた。ギトーは素晴らしいと言って微笑んだ。また、コルベールも同じような反応だった。試しに二人は湖の水をすくって飲んでみていた。「ふむ。確かにミス・タバサの言う通り、水質は極めて良好のようですな」「もっと此処にいる覚悟もしていたのですが、まあ、綺麗であるというある程度の確証はとれましたね。皆さん、お疲れ様です。ひとまずこれでラグドリアンの湖の水質調査は終了とします。もう遅いですが、これから学院に・・・おや?」ギトーは何かに気づいたように空を見上げる。ギーシュたちもそれに習って空を見上げる。「あ、あれは・・・いやはや、タツヤ君の『ひこうき』ではありませんか!」「ひこうき?竜とは違うようですな。・・・ふむ、興味がありますねぇ、ミスタ・コルベール。もしかして貴方が授業を自習にしてまで打ち込んでいた夢とはあれの事ですか?」「その通りですミスタ・ギトー。ややっ?どうやら下りて来るようですぞ?」コルベールがそう言うと、ギーシュ達は紫電改が着陸したと思われる場所に走った。それを見たコルベールたちもその後を追ったのだった。紫電という名のとおりの速さで俺たちはラグドリアン湖に到着した。俺は喋る剣の指示で適当な広い場所に紫電改を着陸させた。「つ、着いたのか・・・着くまでに死ぬかと思った・・・」笑えない冗談をウェールズが言う。俺はウェールズを背負って、ラグドリアン湖のほとりに彼を運んだ。背負った際、俺の服に彼の血が付いたがそんな事は気にならなかった。ウェールズを運んだ後、俺はウェールズをアンリエッタに託した。アンリエッタはもはや死に体のウェールズをしっかりと支えつつ、浜辺を歩いた。二つの月が湖を照らして、その反射した光がウェールズとアンリエッタの姿を美しく照らしている。二人はじっと月夜の下の湖を見つめている。「懐かしいね・・・僕たちはここで初めて出会った・・・。僕が園遊会を抜け出して此処の辺りを散歩していたら・・・君はここで水浴びをしていた・・・」「はい、そうでしたね・・・ウェールズ様はあの時大変驚いて湖に落ちてしまわれたわね・・・」「そうだったね・・・年齢の近い女性のああいう姿は僕には刺激が強すぎたからね・・・」「まあ、そうでしたの・・・ふふふ」「君といると・・・僕は思ったんだ。このまま二人で、立場なんか捨てて、何処かの田舎の小さな家で、仲良く、幸せに末永く暮らせればと。花壇を二人で作って、種を植えて・・・満開の花の中、君と過ごせれば・・・と考えたものだ」俺はウェールズが喋るたびに、彼の体に力が抜けていってるように見えた。そのウェールズの身体を、アンリエッタがしっかり支えなおす。「ウェールズ様、どうして、あのときはそんな事を言ってくださらなかったの?わたくしにどうして、愛していると、おっしゃってくれなかったの?わたくしは、貴方に愛される事が、わたくしの一番の幸せだったのよ」「臆病だったのさ・・・僕は。何処かで君を不幸にするかもしれないと思って・・・それを言葉にしてしまう事が怖かったんだ・・・」ウェールズは力なく微笑むと続けた。「アンリエッタ。タツヤがもう伝えてくれただろうが、折角だから、僕の口から言うよ・・・僕はこの身果てても永遠に君を愛している。そして、君が僕を忘れない限り、僕の魂は君をいつまでも見守っている。僕を忘れろとまでは言わない。だけど、だからといって何時までも僕に縛られては駄目だよ。僕の幸せは、君の幸せな笑顔を見ることなのだから・・・だから・・・誓ってくれ、アンリエッタ。僕との日々を胸にしまった上で・・・新しい愛に生きると誓ってくれ。僕らの始まりと終わりの地であるこのラグドリアンの湖畔で」「そんな・・・新しい愛に生きるだなんて・・・!!私は貴方のいない世界なんて・・・死んだも同然です!」アンリエッタは肩を震わせて首を振った。ウェールズは悲しそうに笑っていった。「アンリエッタ・・・君は孤独ではない。君には友達もいる。良い友達がね・・・良い友達がいる君なんだ・・・きっと良い男性も出来るさ・・・それは心配ないよ。なんたって、この僕が心奪われた女性なのだから」ウェールズが儚く微笑む。「ウェールズ・・・さま・・・」アンリエッタは何か言いたくても、口にすると全て嗚咽に変わってしまいそうな状態になってしまった。ウェールズの目は今にも光が失われそうな状態である。「姫様・・・?」その声に俺は振り向くと、何故かギーシュ達が駆け寄ってきていた。「なんでいるんだお前ら?」「水質調査」「課外授業か」こくりと頷くタバサ。「・・・これはどういう状況なんですかねぇ?」ギーシュたちに遅れて現れたのは、ミスタ・ギトーとコルベールだった。なんでこの人たちまでいるんだ?「タツヤ君に、ミス・ヴァリエール、これは一体?何故アンリエッタ女王陛下がここに・・・?」「女王陛下の肩を借りているのはあれは亡くなった筈のウェールズ皇太子ではないですか?」「ここは二人の思い出の場所なんです」「・・・それは一体どういう・・・?」コルベールがルイズに聞こうとすると、ミスタ・ギトーがそれを手で制し、首を横に振る。コルベールはギトーの意図を察して、質問をやめた。ただ、二人の恋人の最期を看取ることになると、後から来た皆が思っていた。ウェールズの最期を見ているキュルケ、ギーシュ、タバサは神妙な様子で二人を見守っていた。人生で同じ人物の最期を二回看取ることなんて・・・滅多に無いのに、彼らは黙って、二人を見守ることにした。湖面を照らす月の光が強くなる。それに合わせて、ウェールズたちを照らす光も強くなり、幻想的にも見えた。まるで、月の光が恋人たちの別れを演出しているようだった。「アンリエッタ・・・あの二人を・・・ラ・ヴァリエール嬢と、タツヤを呼んでくれないか」ウェールズのか細い声での頼みに頷いたアンリエッタは、俺たちを呼んだ。ウェールズはまずルイズを見て、ただ一言だけ、力強く言った。「改めて言う。僕の愛した女性アンリエッタを頼む」「いいえ、殿下。愛したではありません。愛するですわ」ウェールズはルイズの言葉の訂正に困ったように笑う。「そうだな。ならば愛するアンリエッタを頼む。ルイズ・フランソワーズ。アンリエッタ最大の友人よ」「我が命に賭けても」ルイズもアンリエッタも溢れ出る涙が止まらない。ウェールズは震える手を宙に彷徨わせるように伸ばす。「タツヤ・・・何処だい?」俺はウェールズの手をがっしり掴んだ。それを受けてウェールズも握り返すが力がない。「ああ、タツヤ。今度はぼんやりとだが見えているよ。まさか生きてきて自分が二度死ぬとは思わなかったよ・・・そしてその死に場所に同じ友がいることも想像できなかった」「はい、俺も同じ友人の死に目に二度立ち会うことなんてこれが初めてです」「お互い・・・貴重な体験をするな・・・ははは」「童貞脱出よりも珍しい経験ですよ、ははは」「ああ・・・そんな可能性の低いほうを体験してしまうなんて・・・運が良いのか分からんね、僕たちは・・・」「愛する人に看取られるのは運がいいんじゃないんですか?」「ふっ・・・それも・・・そうだ」ラグドリアン湖に風が吹き始める。「タツヤ、一度目の死の時の言葉は訂正させてもらう・・・君は我が人生最後の友ではない」ウェールズはフッと微笑むとはっきりとした声で言った。「君は我が人生において最高の友人だ。今度は最愛のアンリエッタまで・・・見送りにいてくれる・・・こんなに嬉しい最期はない・・・」俺を人生最大の友とまで言う男に、俺は相応の礼を尽くさなければならない。「王子様、いや、ウェールズ。俺は君の友達なんかじゃない」アンリエッタとルイズはその瞬間俺を責めるような目で見る。ウェールズの表情は変わらず微笑んで俺を見ている。「ウェールズ。君は俺の親友だ。友達なんて言葉じゃ片付けられない」「親友か・・・いい響きだ。僕はその言葉と存在を待ち焦がれていたのかもしれない・・・」ウェールズの光無きその瞳から涙が零れ落ち始める。その涙は月明かりに反射して宝石のように輝いて見えた。そしてまたウェールズはアンリエッタに顔を向けた。アンリエッタの顔はもう涙でぐちゃぐちゃだった。それでもウェールズが倒れないように必死で支えている。「アンリエッタ・・・もう、僕は逝くよ」「ウェールズ様・・・」「今、トリステインは大変な事態になっている・・・君も分かっていることだろう・・・?僕が逝ったら、涙を拭いて直ぐにタツヤのあの竜に乗って、王宮に戻るんだ」アンリエッタは強く頷く。ウェールズの身体はもう全然力が入っていない。無理もない。既に死んでいる身体なのだ。ここまでずっと意識を保っているウェールズの精神力が凄すぎるのだ。それももう限界だったが。ウェールズは湖畔を見つめ呟く。「我が最愛の女性アンリエッタ・・・我が人生最初で最後の親友タツヤ・・・・・・そして我が故郷アルビオンよ・・・僕は先に始祖の下へいく・・・始祖ブリミルよ・・・願わくば・・・彼女達と彼の地に幸運を・・・平和を・・・与えて・・・くれ・・・」「ウェールズ様!」「ウェールズ!」「殿下!」「みんな、僕の所には出来るだけ遅く来てくれよ・・・・では・・・さらば・・・だ・・・」我が親友ウェールズ・テューダーはこうして、二度目の死を最愛の少女との思い出の地で、その最愛の少女の胸の中で迎えたのだった。ラグドリアンの湖に吹く風が少し強くなった気がした。(続く)【後書きのような反省】ルイズさんはこれで良いんです。多分。