うーん、おかしいな。俺は紫電改の操縦席で操縦桿を握りながら今の状況に疑問を抱いた。燃料はまだ全然減っていないし、計器に異常は無い。紫電改の状態は凄く良好だ。快適な空の旅といっても良い。現に俺の後ろにいるルイズはさっきから始祖の祈祷書を睨むように見ている。さっきから目が据わっているが一体何が書いているのだろうか。「そういえば、ルイズ、その始祖の祈祷書ってさ、何が書いてあるんだ?」「それが不思議なのよね~、前に見たときは白紙だったんだけど、何か今になって、文字が現れたのよ。これってきっと、詔に行き詰った人の為の救済措置だと思わない?」「ふ~ん・・・何かそういう魔法でもかけられてるのかね?」「時限式の魔法なんて親切よね、オールド・オスマンも。何で言ってくれなかったのかしら?」「お前の詩的才能を見てみたかったんじゃないのか?で、何が書いてあるんだ?」ルイズが始祖の祈祷書を読み流す。しばらく鼻歌でも歌いながら読んでいると、ある一節で目を丸くした。「これ、始祖ブリミルの呪文書だわ!」「何!?」喋る剣が反応した。「だって、書いてあるし。『我が扱いし『虚無』の呪文を記す』って」「その他には何か書いてねえか?」「えっとね・・・え?」「どうした?」「これを読める人って選ばれし者らしいわ」「どういう意味だよ?読んでみろ」「うん。『これを読みし者は、我の行いと理想を受け継ぐものなり。またそのための力を担いしものなり。志半ばで倒れし我とその同胞のため、異教に奪われし聖地を取り戻すべく努力せよ』・・・え~、聖地ってエルフがうじゃうじゃいる場所じゃない・・・それって死ねって事?そんな努力は嫌だな私。楽して平和にだらけて生きたい」「心底ダメな奴だな」「うっさい。続けるわよ。『虚無は強力なり。また、その詠唱は永きにわたり、多大な精神力を消耗する。詠唱者は注意せよ。虚無はその強力により命を削る』・・って、使うたびに死にそうになっちゃダメじゃない?もっと楽に、ドカーンって感じでバンバン撃てる魔法がいいな~」「抽象的過ぎる。お前は幼児か」「どうせ私は詩的表現力が乏しいですよ・・・続けるわ。『したがって我はこの書の読み手を選ぶ。例え資格なきものが指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。選ばれし読み手は『四の系統』の指輪を嵌めよ。去ればこの書は開かれん。ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ。以下に、我が扱いし虚無の呪文を記す。初歩の初歩の初歩。エクスプロージョン(爆発)』・・・と記されてるんだけど・・・」ルイズは呆れかえっている様子で言った。「始祖ブリミルってアホね。前文を誰でも読めるようにしないから虚無が廃れたんじゃない。注意書きぐらいちゃんと書きなさいよね」「注意書きが消えてたら単なる落書き帳だな、それ」「そうね。実際私もこれに、自分が考えた詔の案を書き込もうと思ったもの。一応借り物だからやめたけど」「ちなみに詔はもう決めたのか?」「・・・・・・・・・」「お前どうすんだよ・・・聞いてたらその祈祷書を詔に使うわけにはいかないだろう」「救済措置だと思ったのに・・・使えないわね」「おい、娘ッ子。そんなことより気にならねえのか?お前さんがそれを読めるって事は、お前さんは『選ばれし者』なんだぜ?」喋る剣の呟きにルイズがハッとしたような表情になった。「爆発ねぇ・・・そういやお前が呪文唱えてたらいつも爆発してたよな。案外お前の魔法って、虚無なんじゃない?」俺がそう言うと、ルイズの表情は歓喜のため、だらしなく緩んだ。そして、俺の後ろで「ぐふ、ぐふふ、うふふふふ」とか含み笑いを堪えきれずに、「くくくく・・・くははははは・・・・あーっはっはっはっはっはっはっはっは!HAHAHAHAHAHA!」「煩いんですけど」「これが笑わずにいられますか!失われし伝説の系統、『虚無』の魔法を、私は使える資格を持つのよ!つまり私は、伝説の女!一気にレートが上がったわ!全世界の人間は私を新たな始祖として崇めるべき!」「そうか、世界レベルの恥を晒すか。可哀想に」「恥とか言うな!?何かの間違いかのように言うな!?」「お前喜んでるけどよ、虚無って消費魔力が多いんだろ?それって一度魔法をぶっ放したら、ヘロヘロになるんだろ?まるで使い捨てじゃん。使っちまったらそれ以降はしばらく役に立たないんだから」「!!!!????」俺の使い捨て発言に、ルイズは平静を取り戻したようである。伝説といえば聞こえはいいが、万能なわけではないのだ。多用すると死ぬかもしれないし。「危ない危ない、あまりの歓喜に我を忘れてしまったわ・・・思わず虚無魔法を試そうとした位」「こんな所で爆発魔法をしてみろ。俺たちはこのハルケギニアの空に散る。他の呪文は無いのか?ここで使ってみても特に問題は無いやつ」「うーん・・・」ルイズは祈祷書のページをめくっていく。「白紙が続いてるだけ・・・あ、何か書いてる!えーと、ディスペル・マジック?」「ほう、そりゃあ解除の魔法だね。娘ッ子が小僧を兄貴呼ばわりしていた状態は、薬飲んで治ったろ?」「やめて・・・思い出させないで・・・」「気にすんな義妹よ。そうか、その解除薬と理屈は一緒ってわけか」「つまり、これからは解除薬をわざわざ探さなくても、いいってことね!」「使えば使ったですげえ疲れるけどな」「ダメじゃない。使えないわね」残念そうに言うルイズ。失われた系統という弊害がここで出るとか。虚無というだけあって、使い道も虚無なのだろうか?まあ、ルイズの可能性の話はここまでにして、今はそれよりも大事なことがある。実は飛んでいる時間的には、とっくにラグドリアン湖に到着してもいいのだが、何時までたっても湖は見えない。いやー、結構こっちの世界にいたから俺、勘違いしてたけどさ。俺、まだ土地勘がないみたいだ。何が言いたいかというと、おそらく俺たちは迷っているということだ。一つ曲がり角を間違えて迷い道クネクネというわけだ。国境抜けてたらどうしよう?そう俺が思っていたら、ルイズが話しかけてきた。「ところでタツヤ、ラ・ロシェール方面に向かってるみたいだけど、何しにいくの?」「よかったー!!国境は越えてなかったー!!」「って、迷ってたのアンタ!?そもそも何処に行くつもりだったのアンタ!?」「ラグドリアン湖あたりで旋回して学院に戻る予定だった」「で、何故か全然違う場所を飛んでいると」「俺はどうやら迷ってしまったんだ。人生に」「自分で言ってて恥ずかしくない?」「凄い恥ずかしい。道に迷った自分も恥ずかしい」「ところで小僧。恥ずかしがっているところ悪いがな」「何だ?・・・!ルイズ!しっかり掴まってろ!」「え?ええ!?」俺は操縦桿をしっかり握って、右に倒し、スロットルを操作した。紫電改はその機体をひねらせ、急激に右に旋回する。先ほどまでいたところに、何かが通り過ぎる。「竜巻!?」ルイズが驚く。天候は見ての通り、満天の星空が出ても良いほどのいい天気だ。こんな時に竜巻?ルイズは外の様子を見た。そこには疾駆する馬の一体が確認できた。俺は外の様子を、運転に支障がない程度に覗いてみた。成る程、馬の一団がこの紫電改を見て攻撃してきたのか。無視してくれてもいいのに・・・と、突如ルイズが叫ぶ。「ひ・・・姫様!?どうして姫様があの一団の中にいるの!?」「何!?姫さんだって!?」俺が外を見てみると、馬の一団の中にひときわ目立つドレスを来た女性がいる。どうやら意識を失ったかのようにぐったりとはしているが。だが、俺はそのドレスの女性を抱えて、杖をこちらに向けている男の顔が・・・見えてしまった。低空飛行とはいえ、見えてしまったのだ。うっすらと。何でウェールズ皇太子がいるんだ!?幽霊か!?ルイズが俺に向き直り、言う。「タツヤ、姫様を助けなきゃ!あの一団、服装からするに、トリステインの奴らじゃない!いえ、例えそうでも、姫様をあんな風に移送するなんてありえないわ」「一国の王女だしな。普通は馬車だろうよ」喋る剣が言う。おいおい、王子様よ。黄泉路から愛する人を求めてきたのかい?冗談きついぜ!卒業ごっこは三日後にやりやがれ!そうじゃなくて、なんで死んだはずのウェールズ皇太子がいるんだよ。アルビオンで死んだじゃん。・・・アルビオンで死んだ?そういえば、王子様の死体って、礼拝堂に放置したままだったよな?で、礼拝堂があったニューカッスルのお城は反乱軍によって占拠されて・・・どうなったんだ?反乱軍のリーダーは、水の精霊が守っていた指輪を盗んだクロムウェルとかいう奴で・・・盗んだ指輪の効果は死人に仮初の命を与えることで・・・あれ?あれれ?蘇った死人は指輪を使った者の命令を聞いて・・・で、クロムウェル率いるアルビオンは、今度はトリステインを狙ってるって噂があって・・・そんでもってトリステインの王女は今はあの姫さんで・・・・・・あっるぇ~?もしかして俺たちかなりやばい場面に遭遇しちゃった?俺は剣の指示でなんとか相手の魔法を凌いでいる。こっちも攻撃したいが、紫電改の機銃では、姫さんが危険である。「おい、マダオ!あの姫さんたちを連行してる奴らって、もしかして死人じゃねえのか!?王子様がいる!」「そうみてえだね。まるで生気が感じられねえ。小僧の思ったとおり、あいつらは多分まさしく死兵だよ。」「・・・!それって、あの一団はアルビオンの手の者!?皇太子殿下のご遺体を利用して姫を・・・!?」「姫さんは、直接王子様の死に様を見たわけじゃないからな・・・!」「でも、姫がこんな事になっているのに、追っ手が全然いないじゃないのよ!?どういうことなの!?」「・・・何か緊急事態のドサクサで攫われたんじゃねえのか?」「・・・緊急事態って?」「そうだね、例えば戦争が起こってバタバタしてるときとかじゃねえか?」喋る剣の仮説に息を飲む俺たち。「え・・・じゃあもしかして、ここで俺たちがあいつ等攻撃したら、戦争になる?」「なるも何も、姫を攫った時点でアウトだぜ小僧」「今!私たちは戦争が起きる場面に遭遇してるわ!」ルイズは何故かパニックに陥っている。どうしよう?姫さんは助けないといけないんだろうけど、紫電改の機銃を使えば、ほぼ確実に姫さんも蜂の巣だ。嫌やー!王女助けるはずが王女暗殺犯になって、追われるのは嫌やー!「落ち着け、小僧ども」喋る剣が俺たちをなだめるように言う。「あの死体たちは、どうやら俺と同じような魔法で動いてる。四大系統とは根本から違う『先住』の魔法だ。全く持って厄介な代物だぜ。普通のメイジじゃどうしようもねーな。だが・・・おい、娘っ子。お前が役立つときが来たようだぜ」「いつもは役立たずかのように言うな、マダオの癖に」「へいへい、拗ねない拗ねない。さっき解除魔法のページがあったろう。開いてそこに記載されてる呪文をあいつらに向けて唱えてみろ。てめえはその本を読む資格のある人間なんだ。時間がかかってもいい。その間、小僧が否が応でもこの『ひこうき』の操縦技術を磨くから。実戦で」コイツが呪文唱えてる間、俺は時たま襲い掛かってくる竜巻やらを避け続けなきゃいかんのか!?俺は板●サーカス的な操縦は流石に出来ないぞ!?幸いルーンの力か、相手の放つ魔法がどこに来るかは大体分かる気がするのだが。「娘っ子、詠唱が終わったら合図しろよ。その時俺の合図で、小僧、お前は出来るだけあの死体軍団に接近しろ。そしてタイミングを見計らって、娘っ子は杖を振れ。以上だ!魔法に当たるなよ!」「チクショー!試運転のはずが何だか知らんが妙な事になったー!!」「小僧、俺からすりゃぁ、こんなモンが空を飛んでる事のほうが妙ちくりんなことだぜ」俺の弱音に答えるように言う喋る剣。ルイズは呪文を詠む作業を開始した。頼むからここで失敗してくれるなよ・・・死ぬから。まあ、その前に俺の操縦技術の問題だ。反撃できずに避けまくるのは、自分の身体ではない紫電改では結構辛いものがある。これはまだ俺が未熟だってことだな。俺の世界の戦時中の特攻隊パイロットの若者は未熟な腕のまま戦場に刈り出されて死んでいったと聞く。彼らには哀悼の念を抱くが、彼らと同じような運命はゴメンだ。俺は操縦に集中するため、操縦桿を一層握り締めた。左手のルーンの輝きが増す。瞬間、俺の視界が暗転した。そして、例の妙な電波が流れてきた。『気力が一定値に達しました。『紫電改』の武器種:『戦闘機』専用の特殊能力が発動されます。『シューティングアクション』展開します』視界が開けた。だが、俺がいるのは紫電改の操縦席ではなかった。白い、ひたすら白い空間だった。何故か俺の目の前にはでかいモニターと俺の世界にある据え置きゲーム機のようなコントローラーがあった。でかいモニターには、紫電改らしき戦闘機が映っていた。なぜか3Dポリゴンの姿で。おい、待て。何だこれは。『操作説明をいたします。貴方にはこれから一定時間敵の攻撃を避け続けてもらいます。敵は地上を走るアルビオンの敵軍です。ですが、敵は卑劣にもトリステインの姫を人質としています。姫が乗っている先頭の馬を攻撃すると貴方の負け、敵の攻撃を受けて、画面の左上のヒットポイントが0になっても負けです。先頭の馬以外に攻撃を当てても構いません。しかし敵は一定時間で復活するので弾の無駄です。素直に避け続けてください。手元のコントローラーをご覧ください。十字キーで上下左右に移動します。Lボタンで左に回転しながら移動できます。Rボタンで右に回転しながら移動できます。LR同時押しで宙返りができます。Aボタンで機銃を発射できます。Bボタンでブースト、つまり加速が出来ます。Bボタンを押しながら上下で急上昇、急降下ができます。Xボタンは本来爆弾なのですが、今回、装備していないので使えません。Yボタンで減速できます。Yボタンと十字キー右左で指定方向に急旋回できます。これで操作説明を終わります。では、幸運をお祈りします』謎電波の説明が終わると、紫電改の3Dポリゴンが映る画面に『任務開始』とかいう文字が出てた。・・・シューティングアクションって、このシューティングアクションかよ!?無駄に背景もポリゴンとかどういう事やねん!?現実とゲームの区別は付いてるが、現実と連動してるシューティングアクションゲームとか嫌過ぎるわ!だが、やらないと死ぬんだろどうせ!やってやるよ畜生!俺はコントローラーを握り締め、画面を見据えた。画面の下に、メッセージウインドウが出てくる。『どうした小僧? 急に黙りこくって?』『なになに? タツヤ、どうかしたの?』・・・喋る剣とルイズもポリゴン化されていた。剣はともかくルイズは妙にカクばってて気持ち悪い。無表情だからさらにキモい。『娘っ子!お前は呪文を詠んどけ!小僧はどうやら集中しまくってるようだ!』いえ、何かふざけた状況内に放り込まれています。俺はコントローラーを操り、敵の攻撃を避けながら思った。ゲームはよくやってたからな。特に格闘とシューティングはゲーセンの鉄板だし。俗にいう弾幕ゲーより全然、相手の攻撃がヌルイし。竜巻に注意してればいいし・・・。お、下から魔法が飛んできた。俺はRボタンを押し、右に回転しながらその攻撃を避けた。そうすると、下にメッセージウインドウが開いた。『ふぎゃ!?い、いきなり何て運転してんのアンター!?』・・・どうやら右に回転したせいで、ルイズは酷い事になったらしい。・・・あまり使うのも問題なのかもしれない。周囲の騒がしさで、アンリエッタは意識を取り戻した。「ここは・・・」「おや、起こしてしまったようだね、すまないね、アンリエッタ」意識を失う前に聞いた声にアンリエッタはハッとした。そして即座に現状の状態の把握に努めた。自分は今何処にいる?城ではない。屋内でもない。城下の街ですらない。自分は今、走る馬の上で、生きていたという自分の愛する男性に抱えられている。自分に対して優しく微笑む彼だが、平和な日ならばともかく、今は非常時だったはずだ。それともあの戦争は夢だとでも言うのか?そんなわけは無いだろう。というか何故ウェールズを含めた回りの者たちは先ほどから空に向かって魔法を放っているのだろう。そう思ってアンリエッタは空を見上げた。「何・・・アレは・・・?」今まで自分が見たことも無い小型の竜らしき飛翔体が、竜らしからぬ疾さでウェールズたちの魔法を回避し続けていた。「それが分からないのだよ、アンリエッタ。とりあえず追ってくるので攻撃してみたら怒ったのかしつこく追ってきてね・・・」ウェールズが困ったように言っている。自分たちを追ってくるという事は、トリステインの救出部隊だろうか。いや、それでも一騎だけとは思えないし、そもそも竜騎士隊はすでにタルブの村に行ってるはずだ。ならば野生の竜?でもあんな竜は見たことがない。あの竜はこちらを攻撃するまでもなく、ただ攻撃を避けているだけだ。何が目的なんだろうか?と、いうか自分の知っているウェールズは攻撃の遺志の無いドラゴンやグリフォンを積極的に攻撃するような人じゃなかった。・・・ならば、死んだのは影武者ではなく本物ではないのか?何らかの方法であの合言葉を聞いた影武者が、ウェールズが死亡の後に成り代わりでもしたのか・・?だが、これは全て推測でしかない。あ~!わからないことばかり!なんで自分が王女になったときに限ってこういう厄介な事が次々と起こるんだ!アンリエッタが姫やめていいかな~と思ったその時、竜が突然急降下してきた。その時、アンリエッタの目にはその竜の背中に乗り杖を振る、自分の友人の姿が飛び込んでいた。彼女が杖を振ると、まばゆい光が辺りを包んだ。(続く)【後書きのような反省】土地勘なんてそう簡単に得られない(キリッ