コルベールからひとまずガソリンの試作品が出来たから、部屋に来てくれと言われて紫電改の点検を中断して、彼の部屋に行った俺。部屋に入ると、さっそくコルベールは、自分がどうやってガソリンを作り出したかの説明をし始めた。「成分が石炭に似ていたものだからね、それを特別な触媒に浸して、近い成分を抽出し、いくらか『錬金』をかけてみた。そして出来たのがこれだ。さっそくこれであのひこうきのプロペラが回るか試してみよう。それで飛べるのかね?」「いえ、飛ぶにはまだ量が必要ですね。具体的には樽五、六本分。それぐらいはないと心もとないです」「成る程。それが第二段階というわけか。ではまず、私がつくったこれで、ひこうきが動作するかだけは見てみよう」俺とコルベールは紫電改のある広場に向かった。紫電改の燃料タンクに試作のガソリンを入れる。今回はプロペラを回すだけだから、余り無茶な事はしないようにしよう。喋る剣の指示に従って、各機器を操作する。プロペラを回したらエンジンがかかるんじゃないのかな?「先生!魔法でプロペラ回してみてください!それでエンジンがかかると思いますから」「分かった。やってみよう」コルベールの魔法でプロペラが回り始めるのを見て、俺はエンジン関係の機器やスイッチを支持の下、操作した。あらかた操作してスロットルレバーを前に倒すと・・・エンジンが始動した。機体が振動する。とはいえ、車輪ブレーキをかけてるし、このガソリンで飛ばすわけにも行かないので、機体はその場からは動かない。ただ、確かに動いてはいるのだ。計器を確認したら全て問題なく動作している。俺はそれを確認してエンジンを止めた。操縦席から降りた俺は、無言でコルベールとがっちりと握手する。第一段階、成功である。「一応、動いたね。とりあえずホッとしたよ」コルベールの目じりには光るものが見えた。「だが、このガソリンではこの『ひこうき』の性能を引き出せないのだろう?」そう。紫電改が搭載しているエンジン『誉』はハイオクガソリンでの運用を前提で作られている。この紫電改が完全に復活するためには、ハイオクガソリンを作らなければならない。問題なのは当時の日本にハイオクガソリンが無いも同然の状況であり、紫電改に残っていたガソリンのカスはおそらくハイオクでは無いガソリンなのだ。ハイオクか・・・一般的にはレギュラーガソリンより高いオクタン価を持つガソリンのことだよな。オクタン価をどうこの世界の住人のコルベールに説明するんだ?確か何か混ぜたらオクタン価は上がるんだっけ?この世界には魔法があるんだし、錬金をまた重ねれば、ハイオクは出来るんじゃないか?「更に性能のいいガソリンを所望か。ふむ、ハイオクガソリンとな?高い品質のガソリンっぽい響きであるが・・・」オクタン価が上がれば、確かエンジンの焼きつきがおきにくくなるんだっけ?まあそう考えると、コルベールの考えは間違っていないのかもしれない。オクタン価の説明は俺にも難しいので、とりあえず今より品質の凄いガソリンをコルベールに作ってもらうことにした。もしかしたらハイオクガソリンっぽい何かが出来るかもしれないからな。「それを樽五つ分用意したらまた呼ぶよ」コルベールはそう言うと、燃料タンク内のガソリンを回収し、更なる研究開発のため、小走りで自分の研究室に戻って行った。・・・彼の授業はまた自習なんだろうな。紫電改をいじってるのに夢中で最近ルイズに構っていない事に気づいた。ルイズの部屋に戻ると、彼女は『始祖の祈祷書』という書物をひろげていた。「あら、タツヤ。あの『ひこうき』のことはいいの?」「とりあえず、動いた。あとは自由自在に飛ぶための『ガソリン』をコルベール先生が作るのを待つだけさ。で、お前はそういえば詔を考えてるんだったな。ちゃんと考えてるのか?」「ちょうど良いところに来たわ。試案が出来たのよ。聞いて頂戴」ルイズは咳払いをして、自分の考えた詔を詠みはじめた。「この麗しき日に、始祖の調べの降臨を願いつつ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。畏れ多くも祝福の詔をよみゅあげりゅ」「噛んでどうする」「早く終わらせようと焦った結果がこれよ」「ゆっくりよんでね!はい次!」「えーと・・・それなんだけど、此処から先は火に対する感謝や水に対する感謝とか、順に四大系統に対する感謝の辞を、詩的な言葉で韻を踏みつつ詠まなきゃならないんだけど・・・」「詩的なことが思いつかないと」ルイズは頷く。「適当に思いついたことを言ってみなさい」ルイズはうんうん唸った後、何か思いついたのか、自信満々に口を開いた。「火が無ければ肉は焼けません。肉を生で食べるのはやめましょう」「火を通さないと食中毒になるからな、次」「水を舐めるな。水を舐めたお前は水に溺れる事になる」「何だかカッコいいな。次」「風邪だからといって甘く見てはいけません」「そうだね、肺炎で亡くなる人もいるからね、次」「大地が私にもっと輝けと囁いています」「詩的だね」「どうよ?」どや顔で俺に感想を聞いてくるルイズ。どうよ?じゃねえよ。途中で特に俺の批難がなかったからもしかしたらこれでいいのかとでも期待しているのだろう。「とりあえず、お前に詩の才能が全く無いのは分かった。詩だけに死んだほうがいいよ」俺の言葉に打ちのめされたように頭を抱え崩れ落ちるルイズ。何故かこの出来で自信作だったようだ。まあ、後半二つは論外として、火に対しての着眼点は悪くは無い。火が無ければ温かい食事を食べる事は出来ないし、寒さを凌ぐ事はできないからな。水を舐めるなというのにも同意だ。が、表現が不味すぎる。これを王室の結婚式で言うのかお前。爆笑するのはたぶんあの姫だけだぞ?多分。「そうよ・・・私は疲れてるんだわ。ずっと他人の結婚式の事を考えているから疲れてるんだわ。寝れば・・・寝ればきっと新しいイメージが沸いて来る筈よ」「前向きだな。俺も今日はもう寝るからな」「うん。おやすみ」疲れたように言うルイズは着替えて、ランプの明かりを消して、ベッドに潜り込んだ。俺も今日は疲れたのですぐに眠れそうだ。俺が完全にリラックスした状態で気持ちよく寝ていると、突然俺の肩を揺らされる。折角、眠りに付いたのに誰だよ・・・。目を開けると、ネグリジェ姿のルイズがいた。「なんだよ?」「眠れません」「寝ろ」「寝れません」「目をつぶって黙ってろ」「やってみたけど寝れません」「寝れないからって俺を何故起こす?」「いや、気持ちよさそうに寝てたから、寝てる場所が影響してるのかと」「なわけあるか」「場所を交換してほしいの」「・・・俺がお前のベッドで寝ていいのか」「今日はやむをえないわ」「・・・あっそ」まあ、睡眠不足はお肌の大敵だしな。仕方がないので俺はルイズに毛布を譲った。使い魔がベッドに寝て、主のルイズが床で寝ている。正に下克上だが、俺としては何とも申し訳ない。まあ、今日だけだと思い、ルイズのべッドで眠りに付いた。・・・が、すぐにルイズが俺の肩を揺り動かす。「何?」「ダメでした」「場所は関係なかったか」「むしろ床は固くて眠りづらい。やっぱり変わって」「いいけど・・・」結局元の位置に戻った。全くさっさと寝ろよ。俺は目を瞑って、また眠ろうとした。が、ルイズが話しかけてきた。「・・・やっぱり眠れないわ。どうしようタツヤ。緊急事態よ」「古来から寝るためには適当な動物を数えてたら勝手に寝てるもんだ」「・・・成る程。・・・やってみるわ。・・・ドラゴンが一匹、ドラゴンが二匹・・・」ルイズがドラゴンを数えてる間に、俺は眠りに付いた。・・・しばらくしてまたもや俺の肩は揺り動かされた。「・・・なんだよ?」「タツヤ、ドラゴンが450を数えた時点で学院が破壊されてしまったわ」「知らんわ!?どんなストーリーを構成したんだお前は!?」「こうなれば最終手段よ。タツヤ。子守唄を歌いなさい」「は?」「私が小さい頃、私の姉・・・次女の優しい姉の方が、眠れない私に子守唄を唄ってくれてたのよ」「お前の姉の子守唄なんぞ知らんが」「アンタも妹いるんだから子守唄ぐらい歌ったことあるでしょ」「そりゃああるが」「じゃあ、それでいいから唄いなさい」理不尽すぎるだろう。しかしルイズの目は死んでいる。冗談で言ってるわけではないのだ。「分かったからベッドに行け。俺が此処で唄ってやるから」「子守唄って寝てる子どもの側で唄うものじゃない?」「お前な・・・一緒に寝るとか嫌だからな」「子守唄唄って私が寝たらアンタは床で寝るのよ。全然問題ないわ」「ベッドの側で唄ってやる」俺はルイズにベッドで寝るように急かした。そして俺はルイズのベッドの側に移動した。ベッドに肘を付いた俺は、ルイズに目を瞑るように言った。「変な事したら殺すわよ」「その変なことを思いつくお前は何だ?変態貴族め。さっさと寝ろよ。唄うぞ」俺は軽く咳払いすると、ルイズに捧げる子守唄を唄い始めた。「ねぇ~むれ~ぬぇ~むるぇ~いい~加減にね~むれ~。ね~むれ~ぬぇ~むるぇ~いっそ永遠に眠っとけェ~♪良い子も悪い子も俺の唄でねむれ~♪さあねむれ~♪ぷーぷーぷりーんぷーぷーぷるーぷーぷーぷーりーんー♪ザキってねむれ~♪次に起きるのは教会だ~♪おお~るいず~ねてしまうとはなさけない~♪さあ眠れよ、24時間働けますかとか言うけどどう考えても社畜発言です本当に有難うございました~♪死にたくないなら寝ちまえ~♪泣いて叫んでそして寝ろ~♪ちょっと、せっかくの初夜なのに途中で寝るってどういうことなの~♪おい、せっかく俺が頑張ってるのに寝るとは何事だこの女~♪ゴメンねアナタ、まさかはいってるとは思わなかったのよ~♪ね~ろねろねろ、ローマの子~♪ね~ろねろねろ、もう僕疲れたよパト●ッシュ・・・諦めんなよ!何で其処で諦めるんだよ!出来る出来る!まだやれる!そう、元気があれば何でも出来る!元気があれば寝る事だって出来る!寝るぞー!1!2!3!ダーッ!!寝落ち(笑)は許さんぞ~♪という訳でマジで寝ましょうぜ旦那!待ってくれハチ!まだ復活の呪文をメモしてない!よし、あとは全部「ぺ」か。出来た、寝るぞー!子どもも大人も皆寝ろ~後の事は俺に任せてお前らは寝ろ~♪」熱唱である。こんな深夜に俺は一体何をしているんだろうか。しかし何故かこのような子守唄で俺の妹は寝てくれるのだ。そして、ルイズもすやすや寝息をたてていた。・・・何故か俺の手を握ってだが。・・・何か凄い力で握ってるから無理にはずしたら起きそうなんだが。俺は座って寝なければならないの?というか熱唱したから完全に目が冴えて寝れません。これもルイズの罠だと言うのか・・・!恐ろしい娘・・・!!コルベールから改良版ガソリンの完成の報告が届いたのはそれから4日後。アンリエッタの結婚式まであと5日に迫った時だった。(続く)【後書きのような反省】今のところ本編で最もカオス回ですねこれ・・・