厨房。モンモランシーの薬の一件が完全にトラウマになったルイズは、前よりも足繁く厨房に通うようになった。俺としては食堂ではそんなに食べれないので大歓迎なのだが・・・「うむ、相変わらずいい仕事をしていると断言できる美味しさだ」ギーシュがここにいるのはいいんだ。コイツは最近よくここを利用してるため、厨房の皆さんからは『坊ちゃん』と呼ばれている。メイドを口説いては撃沈している。モンモランシーの気持ちを知ってからは自重していたが。「・・・・・・・・・・・」さっきから黙々と食べている眼鏡の娘は何故此処にいるんだ。俺は彼女に聞いてみた。「美味いか?」「グレイト」何故かタバサが厨房で飯を食べていた。グレイトじゃねえよ。厨房の皆さんもなんだか困っているようだ。「なんでいるのお前?」「ついて来た」「何で?」「厨房に入っていくのが見えたから」「誰が?」「貴方たちが」タバサは簡潔に答える。タバサは俺を指差して言った。「ずるい」「何が?」「美味しいものは共有するべき」「食堂があるだろう」「おかわりができない」「どんだけ食うのお前は」よくよく考えたらこの娘とこんなに長く話すのは初めてじゃないか?しかし、この娘、やたら食べる。摂った栄養が体型に反映されていないのが悲しいところである。魔力に反映されてるんだろうと思いたい。そこにシエスタが紅茶を持ってやってきた。シエスタも椅子に座り、会話に参加したそうにこちらを見ています。仲間にしますか?ニア はい いいえ・・・何この選択肢?また妙な電波が・・・あれ?でも俺武器持ってないよな・・・?・・・皿持ってました。ルーンも輝いてました。『【お皿】:円盤投げの要領で投げれば・・・当たれば痛いよ?多分死ぬほどではないけど。本来これは食事のためのものです。これで相手を殴ったりしないでください。衛生的にも問題あります』・・・この分だと、スプーンやフォークの説明もありそうだ。最近電波の受信率が酷くないか?俺の身に何が起こっているのか?「タツヤさん、いいですか?」シエスタが俺に話しかけてくる。厨房の皆さんは温い目でこちらを見ている。ルイズは話してあげなさいよという目で見ている。ギーシュとタバサは黙々と食べている。シエスタは何だかモジモジしている。そして深呼吸している。酸素が足りんのか寝不足なのか?「わたしの村に遊びに来てくれませんか?」「お前村長だったのか。私の村って」「なわけないでしょ。シエスタの故郷に来ないかってお誘いでしょう?シエスタ、あなたの故郷って何処?あんまり遠くだと少し不便なんだけど」「えーと、私の住むタルブの村は、此処から馬で三日ぐらいです」「そりゃ遠いな」「そんな時間、シエスタ取れるの?」「大丈夫です。今度お姫様が結婚なさるでしょう?それで、特別にわたしたちにお休みが出ることになったんです。だからその間帰郷する事になったんですけど・・・ダメですか?私の故郷の郷土料理をご馳走したいんですけど・・・」「郷土・・・」「料理?」何故かタバサとギーシュが反応する。魅惑的な響きなのだが、郷土料理は当たり外れがあるからなぁ。「タツヤさんはミス・ヴァリエールに召喚されてから、豪華な食事か、肉とかをそのまま食べているような極端な食生活をしているでしょう?それはいけません!その点私の故郷の郷土料理の『ヨシェナヴェ』は栄養満点で隙はありません!」だからお前は俺の親か。「それにタツヤさんに見せたいものがあるんです。村の名所なんですけど・・・そこにあるものは見たこともないようなものなんです」「なにそれ?観光名所?一体なにがあるの?」「はい、噂ぐらいは聞いたことあるんじゃないでしょうか?『竜の羽衣』というんですけど・・・」その竜の羽衣が何なのかは知らんが、その単語にタバサが珍しく反応していた。「どうした?」「キュルケが持ってる宝の地図に『竜の羽衣』のものがある」村の名物になってる宝が記されてる地図って意味があるのか?「興味あるねぇ、おもに郷土料理が」「ゴメン、私は詔を考えないといけないからいけないわ・・・。タツヤ、お誘いには応じてあげなさい」「土産話ぐらいは帰って話してやるよ」「土産自体を持ってきなさいよ。できれば食べれる奴」「厚かましいぞ、義妹よ」「その話はもうやめて!?」「こんな感じだから、行こう」「よ、良かった!マルトーさん!私、やりましたよ!!ちゃんと誘えました!」「おう、坊主、よく了承してくれた。これで断っていたら俺はお前を亡き者にせねばならなかった」「物騒すぎるわ!?」「まあ、僕も付いていくんだけどね」ギーシュはまた課外授業に参加するようである。お前モンモンはどうした。俺がそう思ってると、俺の服を引っ張る手があった。タバサである。「・・・・・・・どうした?」「私も行く。地方の郷土料理を調べる事によって、その地方の風土や人間の特徴が分かる」「素直に郷土料理が食べたいから付いてくると言いなさい」「郷土料理が食べたいから付いていく」本当に素直に言った。ギーシュはたぶん学校の授業より課外授業のほうが自分の実力が上がっていくと本気で思っているフシがある。タバサは・・・この子は多分美味しいものが食べたいだけか。あとはキュルケと仲がいいから、彼女が行くなら自分もというスタンスなのだろう。まだキュルケが行くかどうかは知らんが。「シエスタ!一世一代の大勝負だ!俺たちも応援してやるぜ!」「そ、そんな、皆さん、気が早すぎますよ・・・タツヤさんだけじゃなくて他の皆さんも付いてくるんですから・・・」さっきから厨房の奴らが喧しい。タバサの提案で、こういうのは早い方がいいということで、何故か明日にシエスタの故郷に行く事になった。いや、明日はまだ仕事あるだろ!?と思ったら、マルトーさんはシエスタはよく働いてくれてるから、今暇をやるのは全く問題ないらしい。日頃の態度は大事なんだなぁ。ルイズはその様子をニコニコしながら見守っている。「タツヤ。まあ大丈夫だとは思うけど、シエスタは無力な平民に等しいんだからちゃんと紳士として守ってあげなさいよ」「というわけだ、ギーシュ君。シエスタは俺が守るから、お前はゴーレムで俺を守れ」「結局また僕が苦労するんだね!」危険がなければ苦労をすることはないのだ。気にしたら負けである。「ところで彼女の故郷にはやっぱりタバサの使い魔で行くのかね?」「いいか?タバサ」「いい」と頷くタバサ。風竜は早いから助かる。とりあえず、明日の朝に集合だという事を決めて、その日の食事を終えたのです・・・翌日。俺とギーシュとタバサとタバサにほとんど引っ張られてやって来たキュルケと私服のシエスタは、シルフィードに乗って、タルブの村に向かった。ではタルブの村に到着するまでの2日間の行程をダイジェストでどうぞ。【1日目・昼】「しかし、タバサがあそこまで積極的に私を誘うなんて珍しい事もあったものね」「美味しいものは皆で共有するべき」「は?どういうこと?」「タバサは郷土料理のことで頭がいっぱいのようだね」「ところで移動中の食料は如何すんだ?」「・・・またあんなサバイバルな状況は嫌なんだが」「この先を行った森にはオーク鬼が生息している。迂闊に下りるのは危険」シエスタはタバサの言葉に少し考えて、「オーク鬼の肉は結構美味しいんですよ」と答えた。タバサの眼鏡が光ったような気がすると、シルフィードはいきなり急降下し始めた。「ぬおおおお!?いきなり如何した!?」「タ、タバサ!?この先はオーク鬼がいるのよ!?」「美味しいものは危険でも取りに行くべき」「「「ちょっと待てぇーーー!!?」」」「あの森には山菜も沢山あるんですよ。楽しみです~」なにこのメイドこわい。俺が守らなくても良いんじゃないか?【1日目・夕方】達也です。僕たちの前には二足歩行の豚がいます。問題は山菜を取りにいったシエスタを除いた俺たち四人が、この豚どもに包囲されてしまったということです。「今夜はご馳走」「何ガッツポーズしてんの!?俺たちがこいつ等のご馳走になりそうやがな!」「慌てないで。所詮相手は二足歩行の豚よ。焼いてしまえば問題ないわ」「これじゃあ僕のゴーレムもすぐバラバラになりそうだね・・・まあゴーレムだけが、僕の魔法じゃないけど」「小僧!構えろ!」俺は喋る剣を構えた。ルーンが光り、集中力も高まってきた。オーク鬼は首飾りをしており、それは人の頭骨でできたものだった。オークたちが咆哮をあげて俺たちに一斉に襲い掛かる。その瞬間キュルケたちの呪文の詠唱は完成した。・・・たしかに焼き豚にはなったよ。でも森まで焼かなくていいんだよ、キュルケ。オークを倒すより、消火作業のほうに労力を裂くとかどういうことなの。加減を考えろよ・・・しかし大火事直前の惨事だったのにも拘らず、消火が終わった後に沢山の茸や山菜を持って俺たちの前に現れたシエスタは一体何者なんだ・・・【1日目・夜】俺たちは一旦、途中にあった寺院で一休みする事になった。寺院の中庭で焚き火を取り囲んでいたら、「皆さん、食事の準備が出来ました」シエスタが先程程よく焼けたオーク鬼の肉と自分でとってきた山菜やハーブや茸を使って、シチューを作ってくれたのだ。このシチューこそシエスタの村の郷土料理である、『ヨシェナヴェ』、所謂『寄せ鍋』である。「シエスタ、この料理のほかにも、君の村には郷土料理があるのか?」「は、はい!えーと、このシチューより豪華なもので、『シュキヤキュ』というのがあります。年に一,二回食べれればいいんですけど・・・」「『シュキヤキュ』・・・興味深い」「タバサ、涎が垂れてるわよ・・・」「機会があれば食べてみたいもんだねぇ」タバサとギーシュはまだ見ぬ郷土料理に胸を躍らせているようだ。多分シエスタが言っている『シュキヤキュ』は多分すき焼きのようなものではなかろうか?いや、別に全然違う料理でもいいんだけどね。【2日目・朝】シルフィードの背中の上で、ギーシュがシエスタに尋ねた。「ところで『竜の羽衣』とはどのようなものなんだい?」「それを纏った者は、空を飛べるそうなんですが・・・正直何処にでもある名ばかりの『秘宝』だと思います。でも地元の皆さんはありがたっていますが。寺院に飾ってありますし、拝んでる人もいます。元々の持ち主は私の御祖父ちゃんだったんです。ある日突然その『竜の羽衣』に乗って曾御祖父ちゃんは現れたらしいんですが・・・正直誰も信じていません。誰かが『竜の羽衣』で飛んでみるように言ったんですが、曾御祖父ちゃんは、『もう飛べない』って言ったから皆、『竜の羽衣』は飛びなんかしないと思って。でも曾御祖父ちゃんは一生懸命働いて、溜めたお金で貴族様にお願いして、『竜の羽衣』に『固定化』の呪文までかけて貰って、大事に保管していたんです。何でもこれは私の魂みたいなものだとか言って。でも正直ちょっと邪魔だと実家の人たちは言ってて・・・」「まあ、見てみないことには分からんね」「タツヤさんがよければ、あげますよ」「厄介なものを俺に押し付けてどうする」「もし、インチキでも好事家に売りつければいいのよ。珍しいものである事は間違いなさそうだし」キュルケが微妙に黒い事を言う。ギーシュは若干引いていた。シエスタは「そうしてもらっても構いません」と言い、タバサはただ一言。「『シュキヤキュ』・・・楽しみ」だから食べれるかどうか分からんものを、さも食べれるようなノリで考えるな!以上、ダイジェスト終わり。色々あったが、俺たちは無事にシエスタの故郷、タルブの村に到着した。まず村にある小料理店で『シュキヤキュ』を食べた。もろにすき焼きだった。タバサは物凄い勢いで食べていたので聞いてみた。「・・・美味いか?」「デフュシャシュ(デリシャス)」口いっぱいに飯を頬張って答えた。シエスタはそんな俺たちの様子をニコニコして見つめていた。食事を終えた後、俺たちは『竜の羽衣』を見学しに、村の近くに建てられた寺院に向かった。寺院は草原の片隅に建てられていた。丸木が組み合わされた門の形って・・・これ鳥居だよね。まるっきり日本の神社っぽいんですけど。そして、そこに『竜の羽衣』が安置されていた。俺はその『竜の羽衣』を見て、絶句した。そして言いようのない感動に襲われた。「こんなものが飛べるわけないじゃない。カヌーに翼をくっつけて見ただけの玩具よ、これ」「ふむ、翼は羽ばたけるようには見えないな。大きさは小型のドラゴンぐらいはありそうだが・・・」タバサは黙って『竜の羽衣』を眺めている。キュルケは完全に興味を失ったようだが、ギーシュはまだ何か腑に落ちないものがあるようで、じっくり見ていた。「シエスタ。君の曾御祖父さんが遺したものは他にないのか?」俺がシエスタに聞くと、シエスタは答えた。「えーっと・・・あとはお墓と遺品が少しですね。見ますか?」「ああ、頼む」俺たちはシエスタの曽祖父が眠る共同墓地の一画に来た。「このお墓だけ他とは趣が違うね」ギーシュの言うとおり、白い石で出来た幅が広い墓石の中、黒い石で出来たその墓石は、明らかに目立っていた。墓石には、墓碑銘が刻まれていた。「なんて書いてるのかしら?読める?タバサ」タバサは首を振る。「曾御祖父ちゃんが、死ぬ前に自分で作った墓石です。異国の文字で書いているらしく、誰も銘が読めなくて・・・なんて書いてるんでしょうか?」「『海軍少尉佐々木武雄、異界ニ眠ル』」「え?」「タツヤ?読めるの?」「ああ、何たってこの文字は・・・俺の故郷の文字だからな。シエスタ、その髪と目は曾御祖父さんに似てるって言われなかったか?」「は、はい!よくお解かりになりましたね!・・・そうですか、曾御祖父ちゃんと、タツヤさんは同じ所のご出身なんですか・・・」「・・・おい待て、タツヤ。それならもしかして、君はあの『竜の羽衣』の事を知ってるんじゃないのか?」皆の視線が俺に集まる。「あれは・・・本当は『竜の羽衣』なんて名前じゃない。俺の国の、昔の兵器だ」知名度は『ゼロ』の名を冠するあの兵器の方が高い。しかし、こっちの知名度も高い。この世界は異世界だから、そんなことは分からないだろうけど。「兵器・・・物騒な話になってきたね」「タツヤさん、何て名前なんですか?」「紫電二一甲型、通称紫電改。それが『竜の羽衣』の俺たちの国での名前だ」なんで四百機位しか生産されてない紫電改がここにあるんだろうな?ゼロ戦のほうが良かったかな、知名度的に。だがロマンある戦闘機である事は間違いない。まあ、一応時期的には零戦の後継機とも言えないことはない。やべえ、滅茶苦茶欲しいんですけど!!俺は人知れず、テンションが上がるのだった。(続く)【後書きのような反省】シエスタの曾御祖父さんは第343海軍航空隊出身とでも言うのか!?いや、そこまでは考えてはいませんが。