空賊に捕らえられた俺たちは、武器を取り上げられたのち、船倉に閉じ込められた。俺たちが先程まで乗っていた、『マリー・ガラント』号の乗組員の皆さんは、自分たちの船だったものの曳航を手伝わされている。俺たちが無理を言わなければこんな事にはならなかったのだろうか。船倉の内部は、酒樽や穀物の入った袋、火薬樽や重たそうな砲弾が置いてある。樽の中身が分かったのはワルドの説明と、謎の電波のお陰である。・・・いや、しかし、電波の説明はやっぱりおかしい。『【酒樽】:酒の入った樽。片手ではもてません。というか非力な人が持つと腰がやられます。多分今の貴方なら普通に持てます。でもあまり投げたりしないように。酒がもったいないと思います』『【火薬樽】:火気厳禁!と言われたら火を近づけたいお年頃。投げた衝撃で爆発も起こることもあります。適当に転がして、火でもつければ大惨事になります。中身の火薬は色々役に立つけど、使いこなすには相応の技量が必要。子どもは火遊びしないように。小便漏らしても知りません』・・・・・・・・こんな感じだった。ワルドは「のどが渇く心配はないね」と冗談を言っていた。「どうなるんですかね、俺たち」「さあ?普通に考えれば、空から捨てられるんだろうね」「・・・ちなみに貴方は空を飛べますか?」「杖なしでは無理だねぇ・・・」人間は自力で飛べない筋肉の構造をしている。何か与太話で肩甲骨が人間の祖先に翼が生えていた証拠とか言う話を聞いたことがあるが、だからどうした、俺たちは今飛びたいんだと思ったものである。「飯だ」扉が開き、太った男が、スープの入った皿を持ってやってきた。「飯を食う前に質問に答えてほしい」皿を持ち上げたまま、男は尋ねた。「言ってみなさい」ルイズが言う。「お前らアルビオンに何の用なんだ?」「新婚旅行」ワルドが毅然と答えた。ルイズが軽く噴出す。「美女探し」俺も毅然と答えた。その場の全員が噴出した。「いや、今の情勢を知ってるだろ。危険地帯で新婚旅行とかどんだけ危険な関係なんだ、あんた等は」「恋愛は危険が多いほど燃えるものさ」「アルビオンは眺めも良いし、神秘的だし、こんな情勢でなければ定住しても良いぐらいよ」ワルドとルイズは新婚さんを演じているようだ。まあ、本当に結婚する仲だし、婚前旅行と考えれば、あながち間違ってない。男は今度は俺のほうを向いた。「てめえは女を捜してなにしようってんだ?」「決まってるじゃないか。パン屋の看板娘探し兼嫁探しだ」「パン屋!?嫁探しついでかよ!?」「何を言うか!店の看板娘=店主の俺の嫁だ!馬鹿にするな!」「馬鹿にするまでもなくてめえは大馬鹿だ!?」空賊の男は呆れつつも納得したのか、皿と水の入ったコップをよこした。俺はそれをルイズとワルドに配った。空賊はそれを見るまでもなく扉を閉めて去っていった。ルイズはじっとスープを見つめている。「食べんのか?」「虫が浮いてる」「いい出汁が入ってるな。ラッキーじゃん」「出汁じゃないでしょ!?偶然飛び込んだ何かでしょこれ!?」「彼はこのスープには何か足りないものがあると思って自らを犠牲にしてこのスープを完成させようとしたのだ」「なにいい話にしようとしてるのよ!?」「普通に虫どけて食べろよ」「俺のと交換してやるとか言うのが紳士じゃないの?」「それも考えたが、出された料理はクールに完食するのが紳士と考えた。たった今。」「あーー!!交換したくないからと言ってスープ一気飲みしてやがるわこの馬鹿紳士!!」「君たち元気だね・・・」ワルドが苦笑しながら俺たちに言う。スープを食べ終わり、やる事がない。脱出するにしてもここは空の上である。火薬も使えない。使ったところで俺たちも無事じゃすまない。しばらくぼーっとしていると、再びドアが開いた。今度は、痩せぎすの空賊だった。「お前らは、もしかしてアルビオンの貴族派かい?」俺たちは素性を言うわけにはいかないので黙っている。「だんまりじゃわからんぜ?まあ、もしそうなら失礼したなぁ。俺らは貴族派の皆さんのおかげで商売できてんだ。王党派に味方しようとする酔狂な奴らを捕まえる密命を帯びてんのさ」密命を素性の分からん奴らにペラペラ喋っていいのか?「じゃあ、この船は反乱軍の船なの?」「いんや、俺たちはただ雇われてるだけじゃなくて、あくまで対等な関係で協力しあってるのさ。お前らには関係ないことだがな。で?貴族派なのかお前ら?そうだったら港まできちんと送ってやるよ」じゃあ貴族派と言えば無事に帰れるのか?・・・いや、そうとは言えない。何故ならこの男、港まできちんと送るとは言ったが、「生きて送る」とは一言も言っていない。なら、嘘をつく必要もないな。「馬鹿言っちゃいけないわよ?私たちは王党派への使者。貴方の口ぶりだとさも反乱軍が正統な政府になってるみたいだけど、まだ王党派は負けてはいないわ。つまりまだアルビオンは王国のままなのよ。私たちはトリステインを代表して王国に向かう貴族よ」「正直なのはいいが、ただで済まないぜ?あんた等」「どうだかな。例え俺たちが反乱軍といってもお前らは俺たちを生きて港に帰すと言う保証はないからな。どうせなら正直に生きてみたかっただけさ」「ははっ!威勢のいい奴らだぜ!後悔してもしらねぇぜ?」「私は生憎、後悔するような人生は送らないわ」「俺もさ」すまない。正直に生きたいとか言ってたが、この辺は大嘘です。後悔しまくりの二人が何を言ってるんでしょうね。「私は貴方達の様な連中に自分の誇りを曲げるような行為はしないわ」「いいぞ、ルイズ。それでこそ僕の花嫁だ」「・・・頭に報告してくる。その間に自分の迂闊さを呪っとくんだな」空賊が去っていく。「諦めるものですか・・・何とか隙を突いて逆に乗っ取ってやる・・・」「お前何この船乗っ取ろうとしてんの!?」「常識的に考えてそれは無理だぞルイズ・・・」「この世に絶対無理という言葉は少なくとも私の辞書にはないわ」「その辞書は落丁の恐れがあります。業者へお問い合わせください」「せっかくカッコ良く決めたと思ったのにアホの子扱いはないでしょう!?」ぎゃあぎゃあ俺たちが言っていたら、再び扉が開く。先程の空賊だった。「お前ら元気だな・・・まあいい。頭がお呼びだ」空賊に連れて行かれた先は立派な部屋だった。この部屋が空賊船の船長室らしい。扉を開けた先には豪華なディナーテーブルがあり、一番上座には派手な格好の空賊が腰掛けていた。杖をいじってるところを見ると、どうやらメイジらしかった。頭の周りには空賊たちが俺たちを値踏みするような目で見ていた。頭がしばらくして口を開いた。「お前たちが王党派とほざいていた奴らだな?こんな情勢に物好きな奴らだなぁ。今からでも遅くない、貴族派に付く気はないかね?メイジを欲しがってるんだ、礼金も弾むさ」「死んでもゴメンね。死ぬ気はないけど」そうは言うが、ルイズの体は少し震えている。無理もない。俺だって足が震えてるし。空賊の頭は厳しい表情になって、「もう一度聞こう。反乱軍に付く気はないか?」「ないわよ」「ないね」「ん?貴様はなんだ?」「この女の保護者です」「嘘付け!!どう見てもそっちの男が保護者だろう!!」「じゃあ兄です」「じゃあって何だ!?」「アンタが兄とかないわ」「そうだね、似てないもんね俺たち」「そういう問題ではないだろう・・・というか僕が保護者って・・・そんなに老け顔なのか・・・?」「こいつは私の使い魔よ」「ほう・・・?使い魔か・・・はっはっはっは!トリステインの貴族は本当に面白いな!どこぞの国の恥知らずどもに見習わせたいぐらいだ」やめとけ、そんなことしたらトンでも社会になる。頭は笑いながら立ち上がった。「失礼したな。まずはこちらから名乗ろう」頭はそう言うと、縮れた黒髪を剥いだ。かつらだったのかよ。周りの空賊達は一斉に直立している。頭は眼帯を外し、作り物のヒゲを剥がす。そうして現れたのは、凛々しい金髪の若者だった。特殊メイクと言う奴か。凄いね。「私はアルビオン王国皇太子並びにアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官のウェールズ・テューダーだ」「「なん・・・だと・・・」」俺とルイズが同時に呆然として呟いた。ウェールズは威風堂々とした佇まいで笑みを浮かべる。「アルビオン王国へようこそ。大使殿。先程までは誠に失礼をした。君たちを試すような真似をしてすまない」「一国の王子が何で空賊ごっこをしてるんですか?」俺の疑問にウェールズは答えた。「いやあ、敵の反乱軍は金持ちでね。向こうには続々と救援物資が送られてるんだ。少々奪ってこちらのものにしても良いだろう?」「何その理屈こわい」敵の補給路を絶つのは戦の基本だが、そのために王軍の旗を掲げてたら、あっという間に反乱軍に包囲される。ならば空賊に成りすますという作戦らしい。「ウェールズ皇太子。アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かって参りました」ワルドが優雅に頭を下げていった。ああ、そうだった。この人、あの姫さんの思い人だったな。密書とか言ってたぶん内容はラブレター紛いの何かなんだろうが・・・「密書・・・姫殿下とな?きみは?」「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵でございます。そしてこちらが姫殿下より大使の大任をおおせつかったラ・ヴァリエール嬢とその使い魔でございます。殿下」「いやはや、君のように立派な貴族が、私の親衛隊にあと十人ばかりいればよかったが、ないものねだりはいけないな。して、その密書は?」「こちらですわ」ルイズが密書(笑)をウェールズに差し出す。「・・・失礼ですが、本当に皇太子殿下でしょうか?」「君の疑問も最もだ。だが僕は正真正銘ウェールズ皇太子殿下さ。この指輪が証拠さ」ウェールズは自分の薬指に光る指輪を外すと、ルイズの指に光る水のルビーに近づけた。二つの宝石が共鳴し、虹色の光を振りまいている。どういう原理なんだろうか?「この指輪はアルビオン王家に伝わる、『風のルビー』だ。君がはめているのは『水のルビー』。アンリエッタが嵌めていたものだ。違うかい?」「はい」「水と風は虹を作る。それは王家の間にかかる架け橋さ」「大変失礼をいたしました」「いいよ。あらぬ疑いは晴らしておくべきだからね」ウェールズはそういって、ルイズから手紙を受け取り、丁寧に封をあけて、手紙を読み始めた。初めは幸せそうだったが、だんだん真剣な表情になり、最終的には険しい顔になっていく。手紙を読み終えたウェールズが顔を上げた。「・・・アンリエッタは結婚するのか・・・?」やばい、目が死んだ魚のようになってる。ワルドが無言で頷く。その反応にウェールズは大きな溜息をついた。「分かった。姫の願いどおり、手紙はお返ししよう。ただし、手紙は今手元にはない。ニューカッスルの城にあるんだ。多少面倒になるが、ニューカッスルまでご足労願いたい」ウェールズは力ない笑みを浮かべて言った。「王子様、まさか後悔してるんですか?」俺が無礼を承知で聞く。ウェールズは俺のほうを見て頷く。「前に彼女に会った時にもうちょっと押しておくべきだったよ・・・ウフフ・・・機会を見誤った結果がこれだよ・・・」「王子・・・!!」俺はこの時、初めて他人の為に泣いた。(続くんです)【後書きのような反省】「王子、今は悪魔が微笑む時代なんだ!」とオリ主(笑)に言わせるべきだろうか?ふと気づけばPVが50000突破してて凄く嬉しいです。