長い階段を降りた先には大きな扉があった。カンテラの灯を頼りに此処まで降りてきたが・・・俺一人ならともかくアンリエッタまでついて来てしまっている。嫌がらせのような仕掛けがある地下室って何だよ。無茶な仕掛けが無ければいいが・・・。「何だかワクワクしますね」当の姫様はかなり暢気だし。俺は扉を開いてみた。ギィィ・・・という音が鳴り、その大きな扉は開いた。扉が開いた瞬間、突然真っ暗だった空間が明るくなった。ホールのような広い空間だった。所々に蝋燭の乗った燭台があり、何故か火が灯っていた。俺たちから見て正面には更に下に続く階段があった。其処の階段の踊り場には、トリステイン王家の紋章が見えた。「ここは・・・どういう場所なのでしょう・・・?」「地下室の筈ですけど、明らかに地上フロアより広大ですね。何なんでしょうね・・・」ホールには俺達の足音と話し声が響くのみ。「人の気配はありませんが・・・一体誰が何のために製作したのでしょう?」「分かりませんねぇ、昔の人の考える事は」この階をまず調べるべきなのだろう。俺はアンリエッタを連れて、まず地下2階(でいいだろう。おそらく)のホールのような場所を探索することにした。このホール自体に変わった仕掛けは見受けられない。ただ見たところ、扉が俺たちが入ってきたところ含めて四つある。階段の踊り場には鏡と王家の紋章。「相棒、確かに此処に生物の気配はねぇが・・・魔法の感じはあるぜ。例えばあれだ、あの燭台の蝋燭。蝋が溶けてねぇだろう?」「新品みたいだ・・・」「部屋中に固定化でもかけたような感覚がするぜ」鍵がかかった扉は二つ。鍵が開いているのは・・・俺たちが入ってきた扉と・・・あと一つ。俺はゆっくりとその扉を開いた。部屋の中央が空いた通路がある空間だった。中央から下を覗くと、大きなテーブルと暖炉らしきものが見えた。・・・此処で食事する意味があるのか?此処には扉が二つ。そのうちの一つはドアのノブがなかった。もう一つを開けてみた。鍵はかかっていない。扉を開けた先には階段があった。どうやら下に続いているようだ。階段を降りて、その先にあった扉を開くと、先程の大きなテーブルがある部屋・・・食堂に辿りついた。「かなりの規模の食堂ですね・・・王宮にある会食場でもこれ程の広さではありませんよ?」「ちょっと薄暗いですね・・・」「暖炉がある。火を点けて調べてみな」デルフリンガーの提案に頷いた俺たちは、姫の火の魔法によって暖炉に火を点けた。火が点いた瞬間、突然食堂においてあった大きな柱時計がボーン、ボーンと鳴り出した。「へうっ!?」そんな奇声を発して俺に縋り付いてくるアンリエッタ。無理もない。俺も正直ちびりそうになった。その柱時計の蓋から鳩人形が姿を現し、「くるっぽー♪」とか鳴いているのが非常にムカついたが、その鳩人形に何か引っかかっていた。少し錆びているようだが、鳩人形の首には鍵が引っかかっていた。何処の鍵かは分からないが、とりあえず回収した。食堂から出た俺たちは地下3階のホールに出た。ここから上に上がれば出入り口という訳か・・・。大きな食堂の向かい側の扉には鍵はかかっていなかったので開けてみた。・・・また食堂だった。今度は先程よりは小さな食堂である。置かれたテーブルは四人ぐらいが使う程度の広さだった。こんなに食堂作ってどないするねん!奥には厨房があった。流石に食材は何も置いていなかったが、食材を保管しておく台に、何故か紙が一枚置かれていた。『結局此処に大人数が来る事はないのにお姉ちゃんが見栄を張るから無駄に広い食堂を作ってしまった』アンリエッタが代読してくれた。・・・お姉ちゃん?見栄?俺はこの謎のメモを回収してみた。「厨房だというのに何の匂いもしないとは・・・」「此処には何もないようですね」「そうですね、上に戻りましょう」俺とアンリエッタは地下2階のホールに戻る為、食堂を出た。地下2階と地下3階を結ぶ階段の踊り場には大きな鏡がある。その鏡の上にはトリステイン王国の紋章が刻まれている。「何か無理やり刻み込んだような紋章だな」喋る剣がそう感想を漏らす。アンリエッタが何かに気付く。「紋章の下に何か書かれています」アンリエッタは目を細めて書かれている文字を読み出した。『己の姿を乗り越えていけ』「・・・どういう意味でしょう・・・?」アンリエッタは首を傾げる。己の姿を乗り越えろ・・・その文字の下には大きな鏡・・・己の姿・・・。俺は鏡に映った自分を見る。素晴らしくいい男だが、酔っている場合ではない。俺は鏡に近づき、押してみた。すると鏡は扉だったらしく、簡単に開いた。「ああ、己の姿を乗り越えろとは、そういう意味でしたか・・・」アンリエッタは納得したように俺について来た。鏡張りの扉の向こうの部屋にそれはあった。そう、目のない剥製である。剥製の隣には扉があったが、おそらくあの目に宝石入れないと開かないんだろうな・・・。どうやらソファのような椅子があるので、応接間のような場所らしい。テーブルには宝石箱が一つ置かれている。それを開くと、紙と宝石が二つ入っていた。紙にはこのように書かれていた。『この紙を見ているという事は、この屋敷の地下の秘密を探っている事だと思う。私は貴方達より先にこの屋敷の探索をしたものだが、まともに探せば骨が折れまくるので、後世の為に面倒な事をさせぬよう、この宝石をこの部屋に保管する事にした。あとは自分で考えたまえ』親切なのか投げやりなのかよく分からない文である。宝石は黄色と青に輝くものだった。・・・まあ、流れ的にこれを剥製にはめるんだよな・・・。ホントこんな仕掛け誰が作ったんだよ・・・。アンリエッタはワクワクしながら俺の行動を見守っている。俺は二つの宝石を、鹿のような生物の剥製の目にはめた。何かのロックが外れる音がした。俺は剥製の隣の扉を開いてみた。無数の絵画が置かれた廊下に出た。アンリエッタでさえも見たことがない絵らしい。写実的な絵、キュビズム・・・何で浮世絵もあるんだろうか?とにかく飾られている絵は統一性が無い。入り口右側は騎士像が置いてあり行き止まり。という事は左か。左の突き当たりには扉が見えた。俺とアンリエッタはその扉を目指し歩き出した。扉まであと少しと言う所でそれは起こった。ガチャンという音がした。俺たちが音のした方向を見ると、入り口右側にあった騎士像が槍を構えてこちらに突進して来ていた。「相棒!」俺はアンリエッタを自分の後ろに下がらせて、騎士像に突進し、剣を一気に抜いた。居合い斬りによって、その騎士像は真っ二つになった。その騎士像から、緑の宝石が出てきた。エメラルドっぽいが、よく見たらガラスっぽい。売っても値は張りそうにないな。「タツヤさん、有難う御座います」「いえいえ」俺は突き当たりの扉で大食堂で手に入れた鍵を使い、扉を開いた。達也達が部屋を後にした直後、真っ二つになっていた騎士像は元に戻り、再び出入り口の右側に戻っていった。また廊下が続くようである。俺たちがしらみつぶしに扉を調べるが、鍵が合わない。いっそ蹴破ってやろうかと思ったが、何か面倒な事になりそうなのでやめた。物置らしき場所はあったが、何にもなかったから放置した。そうして調べていたら・・・鍵が合う扉があった。扉を開けると、そこは桃色の部屋だった。桃色のベッドが二つあり、内装もすべて桃色。目が痛くなってきました。「ちょっと疲れましたね。ここで休憩いたしましょう」アンリエッタが溜息をつきながら言う。確かに先程から歩きっぱなしである。桃色なのが気になるが、少し仮眠をしてもいいだろう。アンリエッタは部屋の奥のベッドに腰掛けていた。では俺は手前のベッドに失礼しよう。アンリエッタは猛禽類のような目で達也を狙っていた。さあ、其処で寝転んだが貴様の最後!組み伏せてくれるわふはははは!などと言いそうな顔である。達也の屋敷の地下室は妙な造りになっている。それこそ自分が見たことのないような技術も見られる。それにあまり動じる事もなく、自分を守りながら進んでいくこの男をアンリエッタは改めて欲しいと思っていた。彼女が居ようがアンリエッタにはどうでも良かった。正に悪魔である。というか、彼女が故郷にいるから、自分に似ているからどうだと言うのだ。それしきの障害、女王の自分にとっては屁でもない!というか、その杏里とか言う女を連れて来い!確かに正妻の座は彼の心を優先して貴様に預けてやる、杏里とやら。だが残念だったなあ!別に私は愛人でも一向に構わんのだよフハハハハ!!それが認められんと言うのなら拳で語ってやればいい。所詮、人間は愛なしでは生きてはいけぬ!世継ぎが見たいなら作ってやるよ!ただしその辺の貴族じゃないけど。アンリエッタが一人で盛り上がっている最中に、その異変は起こった。俺がベッドに寝転がると、天井がどんどん遠ざかっていった。あれ?どういうことだ?俺が起き上がると、俺が寝転んだベッドが下へと移動しているようだった。・・・エ、エレベーター!?ええー!?何この技術!どんな仕掛けだよ!このまま寝ていたら、起きたら知らない天井だったのかな、と思って上を見た。俺の視界にはアンリエッタが降って来るのが見えました。黒でした。女王陛下の下着を見てサムズアップしている場合ではない。やがてベッドの振動が止まったのはいいが、周りは見事に真っ暗である。何とか目が慣れてきたはいいのだが、それでも視界は良いとは言えない。「相棒、ベッドの側に蝋燭があるぜ」見ると確かに蝋燭が置いてある燭台があった。俺はアンリエッタに蝋燭に火をつけるように頼むことにした。「姫様、蝋燭に火をお願いします」「ええ」蝋燭に火が灯る。礼を言おうと俺がアンリエッタの声がした方を見ると其処には歓喜の表情をしたアンリエッタがいた。どうしたっていうんです?「フフフ・・・これではっきり貴方が見えます・・・」「そりゃあ、火が点きましたからね」「タツヤさん、ここなら人が来る事もないですね」「まあ、そうでしょうね」「つまり邪魔者はいないという事です」「何のでしょうか?」「フフフ・・・」何だかアンリエッタの様子が非常にヤバイ。肉食獣に狙われた草食動物みたいな感じだが残念ながら俺は動物で言えば河馬だ。温厚そうで実は凶暴である。多分それであっている。だからね、姫。俺に気安く触れると脱臼しますから。「・・・そういえば・・・変だな・・・この部屋」「露骨な話題の逸らし方ですね」「いえ、姫、見てくださいよこの部屋・・・蝋燭まみれです」ベッド近くの灯りからうっすら見える部屋には夥しい数の蝋燭があった。・・・そういえば部屋中の蝋燭に火を点けたら梯子が現れる仕掛けがある部屋があるようだなここは・・・。「姫様、不気味ですので部屋の蝋燭全てに火を点けてください」「ちっ・・・惜しかった・・・分かりました」「惜しいって何ですか」アンリエッタは部屋中の蝋燭に火をつけて回った。半ばヤケクソに見えるのは恐らく気のせいだろう。ようやく全ての蝋燭に火を点けた。その時、天井の一部分が開いて梯子が下りてきた。・・・本当に無駄に凝った仕掛けである。俺たちは梯子を上る際、どっちが先に上るかで少し揉めたが俺が先に上る事になった。いや・・・当たり前だろう・・・。梯子を上った先には大きなのっぽの古時計がある部屋だった。時計の横に張り紙があった。『正午』・・・・・・おそらく答えを探すのが相当面倒だったんだな。俺は時計の針を正午に合わせてみた。すると、時計の蓋が開いて中から小箱が現れた。小箱の中には鍵があった。・・・今持ってる鍵も含めて一箇所に纏めておこう。時計の右にある扉の鍵のようであるので、俺は鍵を使って扉を開いた。細い通路が続いていた。俺たちはそこを歩いていった。突き当たりの階段を降りて、真っ直ぐ行くと、出た。鍵穴がない扉だ。当然のようにそのままでは開かない。本来、ドアノブがある場所に、丸い窪みのような穴が空いている。この穴にあうものを入れればいいんだな。うん、この緑のなんちゃって宝石がいいかな。俺が緑の宝石(笑)をはめ込むと、扉はあっさりと開いた。「ちょっとした謎解きみたいですね」「本来はもう少し難解みたいですけどね」扉の先は騎士像が立ち並ぶ廊下だった。さっきみたいに動く気配はない。奥には大きな扉がある。他に扉はない。俺は意を決してその扉を一気に開けた。そこは祭壇がある部屋だった。祭壇上には宝箱があった。紋章も何もないが、宝箱にはメッセージが刻まれていた。『左手をかざせ。資格あるものならば箱は開く』アンリエッタが始めに宝箱に手をかざすが、何も起きない。「駄目です・・・何があると言うのでしょう・・・?」続いて俺が左手をかざしてみた。すると宝箱に触れてもいないのにルーンが赤く発光した。俺の左手は赤い光に包まれ、そのまま宝箱も包んだ。光が消えると中にはボタンと一枚の紙があった。紙を取り出してアンリエッタが読み出す。『押せ』そう言われたので俺はボタンを押してみた。地響きのような轟音と共に、宝箱の奥の壁が開く。その中にあったものは・・・「・・・日本刀?」時代劇でよく見る刀がそこには隠されていた。刀の下にはやはり紙が置いてあった。『真の資格者ならば、これを鞘から抜ける。これを使う者が私たちが望む者である事を切に願う。未来の同志へ』仰々しいが、要するに抜けなきゃ意味ないんだろう。俺は右手で鞘を押さえながら、左手で刀を抜こうとした。ルーンが青く光り輝いたと思ったら、その刀はあっさり抜けた。拍子抜けである。俺はあっさり抜けた刀を見ていた。その時、久しぶりのあの電波がやって来た。『【村雨】:架空の妖刀と言われているがこの通り現物がある刀。今の貴方なら片手で扱えるが、刀とは両手で使った方が威力が上がるらしい。その真偽は不明。なお、この刀は分類で言えばインテリジェンスソードである』何かクソ真面目チックな解説ではあるが、インテリジェンスソード?「ふわあぁぁぁぁぁ・・・ん~?何なのですか、もう・・・気持ちよく寝てたのに・・・誰?」「・・・刀の分際で欠伸するな!?」「何ですか、アンタ。私は低血圧なのですよ。そこは許してくださいな」「剣に血圧もクソもあるかい!?」「おお?何?お仲間さん?随分重そうな剣ですねぇ・・・何て名前?」実にマイペースな喋る刀である。俺とアンリエッタは顔を見合わせて溜息をつく。その時だった。祭壇がある部屋が発光し始めた。部屋中が青い光に包まれたかと思うと、何処からともなく声が聞こえてきた。『このメッセージを聞いているという事は、私たちの望んだ者が宝を手にしたという事だ。・・・やあ、アンタだろうね。何せアンタの為にそれを未来に残したんだからね。そっちの時代は平和なの?戦争しているの?平和ならその宝、平和の為に活用するなりしてほしい。戦争ならば、アンタの判断で使え。私たちはこの宝を通じてアンタと繋がっている。その刻印とその宝が私たちとアンタを引き合わせる。それはアンタの未来であり、私たちの過去だ。いずれまた会いたい。じゃあね』まったく身に覚えがない。人違いじゃなかろうか?「・・・ふーん、どうやら、あの阿呆達が言ってた奴って貴方みたいですね。あいつ等と同じ力を感じるし」「あいつ等って誰だよ」「それは秘密って奴ですよお兄さん」非常にムカつく刀である。あまりにムカつくので鞘に納めた。「むおー!レディを押し込めるなんて酷すぎですよお兄さーん!」何かガタガタ震えてるが無視である。しかし、屋敷の地下にこんなダンジョンがあったとはな。アトラクションに改造して観光スポットにしようかな?・・・やめとこう。行方不明者が出そうだ。そういえば此処からどうやって出ようか?俺は部屋の中を見回してみた。「タツヤさん・・・あそこです」アンリエッタが指差す方向。そこには張り紙がしてあった。『地下2階直通階段はこちら』・・・何て親切な施設なんだここは!?脱出者には凄く優しいのに、宝探しには凄く厳しいよここ。俺たちは張り紙の誘導通りに進み、地下室から脱出・・・ちょっと待った。「姫はお帰り下さい」「嫌です!今日は泊まります!」阿呆か!?城が大騒ぎになるわ!「女王命令です。泊めなさい」「権力の濫用だ!!」「安心してください、タツヤさん。私はとりあえず綺麗な身体ですから」「何を安心しろと言うのだ」『ぐおおおお!!僕があの時いいいい!!』などという空耳が聞こえた気がするが空耳は所詮空耳である。ワインをいくつか持ち出し、天蓋つきのベッドがある場所に移動した。「姫様、俺は妹を迎えに行かなきゃいけませんので、一旦失礼します」「わたくしより妹をとるのね」「無論」「即答!?悔しい!」俺にとっての優先順位は、杏里≧妹二人>両親>ルイズ=テファ>アンリエッタや水精霊騎士団、友人達≧領地の方々>>ルイズの家族>>>>>>>ワルドなので妹が優先に決まっているだろう。何言ってんだこの人。そういう訳なので俺は真琴を迎えに行き、寝かしつけた後、一応戻ってきた。戻ってきて、アンリエッタが寝ていたら、その隙に王宮の寝室に戻すのだ。・・・そっと様子を伺う。寝息が聞こえる。・・・寝ているようだ。うむ、それでは任務開始と行きますか。俺は寝ているアンリエッタを抱えて、鏡の中に入り、王宮へと侵入した。そして、アンリエッタの寝室に入り、彼女のベッドに、アンリエッタをそっと下ろす。よし、これで・・・と思ったら、下ろしたその時、アンリエッタの目が全開になっていた。しまった!腕を掴まれている!狸寝入りか!?「フフフ・・・この時を待っていたのです・・・」「姫様、夜更かしはお肌の敵です」「心配ありません、夜はこれからですわ」「俺は夜更かししない男なんでね!」「行かせるかーー!!」アンリエッタは可憐な容姿とは裏腹に実はかなりの武闘派である。幼い頃、ルイズはその彼女の犠牲となっていた。まあ、反撃もしていたようだが。彼女は幼い頃、欲しいものは全てルイズの手からさえも手に入れてきた。今彼女は猛烈に目の前の男が様々な意味で欲しかった。手段を選んでいる場合じゃなかった。アンリエッタは身を低くかがめ、一気に達也に襲い掛かってきた。だが、達也はあっさりと避けて、アンリエッタは壁に激突した。その豪快な音のせいか、二人の耳に、アニエスの怒号が聞こえてきた。「陛下!どうなされました!」「アニエス、今わたくしは人生最大の好機を掴もうとしているのです。貴女には悪いですが、わたくしも女なのですよ!」「!?陛下!開けなさい!!」アニエスの声に物凄い焦りを感じる。「アニエスさん!姫さんを止めて下さい!」俺が叫ぶ。その瞬間、アニエスは扉を蹴破ってきた。アニエスが見た光景は鼻血を出しながら薄ら笑いを浮かべるアンリエッタとそんな彼女から一定の距離を保つ達也の姿だった。「アニエスさん、諸般の事情があって俺は此処にいますが、俺はこれから帰んなきゃいけないんで、後はよろしくお願いします。たまには俺の領地にも遊びに来てくださいねー」そう言って達也は走り出し、壁を蹴りつけた。そうすると壁はくるりと回転し、達也は回転する壁の向こうへと消えた。残されたのはアニエスとアンリエッタである。アンリエッタは憤怒の表情でアニエスを睨んだ。「貴女はわたくしに恨みでもあるのですか?」だが当のアニエスは、そんなアンリエッタの睨みなど何処吹く風だった。『俺の領地にも遊びに来てくださいねー』はい、是非。一方、その頃ルイズはと言うと、何故か水精霊騎士団と酒盛り中だった。「タツヤめ!!私がいない隙にマコトをつれていくなんてえええ!!うわああああああん!!」「・・・あれどうするよレイナール・・・」「僕に聞くな」ルイズは自棄酒を煽った挙句、泣き出していた。何やってるんだお前。(続く)