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No.16755の一覧
[0] (チラ裏から)(完結)あるTS転生者の想い(現実→なのは)[ハムソン](2010/06/25 20:05)
[1] リンディの過去[ハムソン](2010/04/04 23:43)
[2] 母の夢[ハムソン](2010/05/08 20:35)
[3] 母の想い、子の未来[ハムソン](2010/06/25 20:04)
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[16755] 母の想い、子の未来
Name: ハムソン◆76f0d3fc ID:84559628 前を表示する
Date: 2010/06/25 20:04
これは、雪降る街で一人の少女が大切な別れを終えたすぐ後の話。



「――そう。ご苦労様、フェイトさん」

次元航行艦アースラにある艦長室。

わたしの知っているものや知らないものも含め、日本の伝統文化がバラバラに飾り付けされたこの部屋にわたしとリンディ提督は居る。

ここでわたしは闇の……ううん、夜天の書の管制人格だったリインフォースの最期についてリンディ提督に報告をしていた。

……クロノから聞いた話だと提督はリインフォース本人から放っておけばまた暴走することをあらかじめ伝えられていて、消滅することを許可していたらしい。

だから本当は報告をする必要はないのかもしれないけど、わたしがここに来たのには違う理由があるからだ。

「……あの、リンディ提督」

お茶を飲んでリラックスをしている提督を見ているとこんなことを聞いていいのか迷ってしまう。

でもそう考えたのは一瞬だけで、気づけば声を出した。

「提督はクライドっていう人のことを知っていますか?」

「――どこで、彼の事を知ったの?」

提督が湯飲みを持っていた手を止めた。

さっきまでの穏やかな空気はなくなり、いつもとは違う強張った雰囲気をした提督がわたしを見ている。

……でも、それでも聞かずにはいられなかった。

「闇の……ううん、夜天の書に取り込まれた時に夢を見ました」

思い出すのはあの時の夢。

「そこには母さんがいて、父さんがいて、アリシアがいて、みんながいました」

わたしに強く生きて欲しいと言ってくれたあの夢。

絶対に忘れないあの夢。

「とても暖かくて、とても幸せな夢でした」

今でもはっきりと思い出せるアリシアの笑顔、リニスの笑顔、ほとんど記憶に無かった父さんの笑顔。

そして何よりも、ずっと望んでいた母さんの笑顔を見る事が出来た。

「……あの夢は、わたしの中にあるアリシアの思い出も混ざっていました」

「……そういう事ですか」

その言葉で理解したのだろうか。

一度目を瞑ったあと、リンディさんは口を開いた。

「そうね……私と彼がプレシアさん達とどういう関係だったか、詳しいことはわかるかしら?」

「……いえ」

多分、わたしの中にあるアリシアの記憶が完璧ならばクライドという人のことを聞く必要がないからなのかな。

わたしが答えたあと、少し考えたそぶりをして提督は話しはじめた。

「随分昔の話です。私とクライドは執務官だったあの人の補佐をしていたわ。あれは……26年ぐらい前までだったかしら」

これにはいきなり驚いた。

母さんが管理局で……それもなるのが難しいと聞く執務官だったなんて初めて聞いた。

それに、そんなに昔からリンディさんは母さんのことを……。

「まだ私が幼かったころの話よ」

クライドという名前がでたときほんの一瞬、だけどたしかにリンディさんの表情が曇った。

「あの、そのクライドさんは今……?」

「……死んだわ」

「え……」

一言だけで伝えられたその言葉はわたしを混乱させるには十分だった。

ふとリインフォースと、母さんの最期を思い出してしまう。

「えと、あの……」

だからその人の話をするときに暗い表情をしていたんだ。

「あ、あの、ごめんなさい!嫌なことを聞いてしまって……」

「謝らなくて良いわ。私が勝手に話した事だから」

「で、でも」

その作ったような笑顔が、なぜだか提督が無理をしているように感じて納得がいかない。

「いいの。この話はここでお仕舞い」

そのまま、他に何か聞きたい事はある、と言われればそれ以上謝ることができなくなってしまった。

「……いえ、もういいです」

納得はいかないけれど、これ以上提督に嫌な思いをさせるのもイヤだから。

早く部屋から出ようと、そう答えた。

「じゃあ、私から聞いても良いかしら?」

だけど返ってきた言葉は予想とは違っていて、さっきまでの暗い雰囲気を消した提督がわたしを見つめている。

「は、はいっ」

それがなんだか気恥ずかしくて。つい声がうわずってしまった。

「夢を見ていた……ってフェイトさんは言っていたわよね。その事を詳しく聞かせてもらってもいいかしら?」

そう言ってわたしを見つめる瞳は真剣で、断ろうなんて気はまったく起こらなかった。

それに、そもそも断る理由もない。

だったら包み隠さず全て話してしまおう。

この人にだったら、それが許せる気がした。





「―――そう、そんな事が……」

それが静かに話を聞き終えた提督の最初の言葉だった。

「はい」

「……全て、あの人の思うままだったのかしらね」

提督が言っているのは母さんのことかな。

けど、思うままっていうのは何のことだろう?

「フェイトさん。聞いた所だとバルディッシュがプレシアさんの行動を記録しているみたいだけれど……よければそれも聞かせてくれないかしら」

一見申し訳なさそうに言うその姿だけど、どこか切迫した様子が感じられた。

わたしの勝手な考えだけど、今の提督は管理局の提督としてじゃなくて、一人のリンディ・ハラオウンとして知りたがっているように思う。

「わたしも、リンディさんとなら一緒に聞くことができると思います」

管理局への報告とか、そういったものを抜きにして。

夢の中で母さんは、短い言葉だけれどリンディさんのことも心配していた。

きっと母さんにとってリンディさんも大切な人だったんだろう。

アリシアにとってそうだったように。

わたしの呼び方の変化に気付いたのか、リンディさんも考える様子を見せた後、わたしを見る。

「頼みます」

リンディさんの返事を聞いて、胸元に待機状態のバルディッシュを持ってくる。

「バルディッシュ、夢の中で言っていた『伝えたいこと』を教えて欲しい」

『Yes sir. Displays it.(表示します)』

バルディッシュの返事とともに空中に現れるモニター。

「これは……映像データ?」

わたしとリンディさんの疑問に答える間もなく、バルディッシュは言葉を続けた。

『Reproduction.(再生します)』





『――――ねえフェイト。聞こえている?』

息を呑んだのは、誰だったろう。

バルディッシュが空中に映し出したモニターには椅子に座っている母さんが映っていた。

『最初に言っておくわね。ごめんなさい、フェイト。私はあなたに酷い事をしてしまったわ』

バリアジャケットも着ていないその姿はわたしが見たことがないくらい穏やかで。

目を奪われ、言われたことを飲み込むのに時間がかかってしまった。

『大嫌いなんて言ってごめんなさい。言い訳にしか聞こえないかもしれないけれど――』

ああ、本当に。

『――本当は、愛しているわ』

姉さんの言っていたことは本当だったんだ。

それが、嬉しくて。

もしかしたらってずっと思っていた。

あれはわたしを説得させるための嘘だったんじゃないかって。

わたしを抱いてくれた記憶だって、本当はアリシアの物だったんじゃないかって。

……だけど、違った。

母さんがわたしに、フェイトに「愛している」といってくれた。

もう居ない母さんだけど、愛しているって言ってくれたんだ。

『私はあなたに母らしいことなんて何一つ出来なかったけど、あなたは私を母と呼んでくれた。それがどれだけ嬉しかったか』

喜びで涙が止まらない。

……わたし、本当に泣き虫だな。

またアリシアに心配かけちゃうよ。

一緒に居るリンディさんのことすら気にせず、涙が頬を伝っていった。

『あなたは残り少ない私の人生を照らしてくれた』

そう言われて気付いた。

――母さんの顔色が、異常に悪いことに。

今まではこれが普通だと思っていたけれど、夢で見た母さんと比べたら明らかにおかしい。

母さんは、あの時もう……。

『私は何も応えてあげることは出来なかったけど、それを、感謝しています』

リンディさんの言っていた「思うままに」というのは、わたしのことだったのだろうか。

全てはわたしをリンディさんに預けるため。

もう命が短かった母さんはそのためにあの事件を?

思い上がりなのかもしれない。

だけど、母さんがそうしてくれたのならわたしは……。

空中に浮かぶディスプレイを見ていると、不意に画面がぶれた。

「バルディッシュ……?」

不思議に思いバルディッシュに声をかけてみたけど、返事はない。

『もし聞いているのなら、リンディ』

そう思っている間に映像は元に戻っていた。

……リンディさんが居るから、バルディッシュが操作したの?

『リンディ、私は良い母親にはなれなかった』

語り始めたのはリンディさんへの……後悔?

『私はあの人とアリシアを喪ったときに全てに絶望した。それでも縋るような思いで違法研究に手を出した。その結果としてフェイトが生まれた』

エイミィさんが言っていた、アリシアと父さんが殺された事件。

淡々とした口調で語られているけど、母さんの表情は暗い。

『アリシアと違うフェイトに戸惑ったけれど、どのみちその時にはもう私は体までボロボロだった』

管理局のデータベースを見せてもらって知ったけど、母さんはずっと執務官として働いていた。

もちろん経歴を見たって生命操作技術なんて習ってはいなかった。

1から研究を始めた母さんは、どれだけの苦労をしていたんだろう。

20年以上も、そんなことを続けていたから体を壊してしまったのだろうか。

……それとも、自分のことなんか気になんてしていられなかったの?

『思いついたのはフェイトを無視すること。そうすればフェイトは私が居なくなっても悲しまないと思ったから』

だからリニスにわたしを任せて、いつも悲しそうな顔で一人だったの?

……そんなの、悲しいよ。

『……それが正しかったのか、私には分からないのだけれどね』

わたしには母さんの行動が正しかったかどうかなんて分からないけど、人が悲しむからって、自分が一番悲しい思いをするなんてそんなの悲しすぎるよ……。

……母さんと一緒に居たかったと思うわたしは間違っているのかな。

『貴女は私と違って、夫を……クライドを喪っても絶望することはなかった』

クライドさん。

さっきリンディさんに尋ねた人の名前だ。

それがリンディさんの夫……つまり、クロノのお父さん?

……リンディさんも、そんな経験を……。

『それが羨ましく思うし、もう貴女は私の手の届かない所に居るんだなと思ったわ』

横目でリンディさんを見る。

泣きそうなのを堪えているのがのがわたしの目からもわかることができた。

何を想っているのかはわからないけれど、リンディさんにとっても母さんという存在が大きかったんだとなんとなく分かった。

『リンディ。教え子としてではなく、一人の母親、リンディ・ハラオウンとして貴女にフェイトの事を頼みます』

え、と思う。

じゃあ本当に母さんはわたしをリンディさんに預けるために……。

『……最後までごめんね、リンディ』

画面の中の母さんはそれだけ言って、映像は終了した。

「肝心なときは、いつもそればっかりなんだから……」

小さな声で呟いたリンディさんの言葉をわたしは聞き逃さなかった。

そこにどんな感情が込められていたのかは、わたしなんかじゃ分かりようがないけれど。

……また、さっきと同じように画面がぶれる。

やっぱりバルディッシュが操作してるんだ。

……誰がそうするように頼んだのかは予想できる。

……一人で泣くのは後でできるから。

今は母さんの言葉を一言も聞き逃さないようにしなきゃいけないんだ。

また映像が動き出す。

『……ねえ、フェイト。あの高町なのはという子とは仲良くやっているかしら?』

「うん……」

『あなたは遠慮がちだけど、優しい子で、可愛いんだから。もっと自信を持って積極的に生きなさい』

積極的に……。

それがどういう生き方なのかわたしには分からない。

けれどきっと良いことなのだろう。

じゃないと、母さんもこんな泣きそうな顔をしながら言わないはずだから。

『フェイト。ご飯はきちんと食べてる?』

「……うん」

『あなたは食が細いから。しっかり食べなきゃ身体に悪いわよ』

庭園でいつもわたしは一人で、アルフがわたしの使い魔になってからは二人、リニスをいれても三人だけで食事をとっていた。

母さんはいつもそこには居なかった。

……そのはずなのに、母さんはわたしが小食なことを知っていた。

――見ていてくれた……見ててくれていたんだ……!

わたしが気がつかないように、母さんがわたしから愛されないように……。

一人で苦しみながら、わたしを見ていてくれていたんだ……!

『フェイト。今、楽しい?』

「……うんっ」

母さんはいないけど、アルフがいて、なのはがいて、リンディさんがいて、クロノやエイミィさん、ユーノや学校のみんなもいる。

みんなみんな優しくて。

わたしはそれに甘えてばかりだけど、今ははっきりと楽しいって言えます。

……だから、安心していてください。

『あなたの人生には辛いこと、こんなはずじゃなかったことがきっと沢山ある』

それは多分わたしも想像できないようなことなんだろう。

……そんな時に、わたしはどうすればいいのだろう?

『だけど、あなたは私と違って真っ直ぐに生きなきゃ駄目よ。あなたは、私と違って悲しみなんて似合わないから……』

真っ直ぐ……。

母さんの言うような予想もできない、道標のない人生でそれは難しいことなんだろう。

けど、それを忘れなければ叶う気がするから。

何よりも、母さんが願ってくれている。

それがわたしの背中を支え、時には押してくれる気がするから。

『フェイト…………あなたともっと話がしたかった、あなたともっと一緒に居たかった』

わたしも……あの夢のように母さんと一緒に居たかった。

けれど、もう母さんは居ないんだ。

そのことは悲しいけれど、わたしが泣いてちゃ母さんもアリシアも悲しんじゃうから。

涙は、流しません。

『でもね、フェイト。私の愛しい娘。私はいつもあなたを見守っているわ』

きっと母さんだけじゃなくてアリシアも、リニスも。もしかしたら父さんだって。

母さんの言葉を聞くだけで心が家族の想いで満たされていく。

母さんが作った絆が、母さんの言葉を通してわたしに繋がるみたいに。

それは、わたしも母さんたちと同じ家族なんだと教えてくれて。

『ううん、私だけじゃない。アリシアも、リニスも――――、こっそりと見守っていると思うわ』



だから――



『だからね、笑っていて、フェイト。私たちはいつだってそれを願っているから……だから……だからね、フェイト』



だからこんなにも――



『あなたの未来が、幸福で満ち溢れていますように――――』



――――わたしの心に響くんだ。










「なんで……なんで貴女はいつも……ッ、そうやって一人で抱え込もうとするんですかッ!?」

わたしがじっと映像が終わったディスプレイを見つめていたとき、リンディさんがそう叫んだ。

「どうして……どうして……!」

うつむいたまま、手を強く握りしめている。

「リンディさん……」

失礼かもしれないけど、その姿を見てわたしは何かすっきりしたような気がした。

リンディさんが言ったことは、わたしも持っていた想いだ。

母さんは自分に厳しい……厳しすぎるんだ。

もしいま目の前に母さんがいたら、きっとわたしも同じことを言っていた。

それにリンディさんの頬に光る物がある。

……あれは誰かを想って流す涙だ。

「……ごめんなさい。見苦しいところ見せちゃったわね」

そのまま暫くして落ち着いたのかリンディさんが涙を拭ってそう言った。

「ううん。言いたかったことをリンディさんが言ってくれたおかげで、わたしもすっきりしました」

「……そう」

わたしの言葉を聞いたリンディさんは、なんだか不思議そうな顔になった。

「……フェイトさんは泣かないの?」

「わたしが泣いたら母さんが困っちゃうから」

本当は泣いてしまいたいけど、それじゃあ駄目。

だって、そんなんじゃ母さんが……。

「……そうね。けど嬉しいとき、悲しいときは誰かと一緒に泣いても良いのよ」

――貴女は、一人きりじゃないんだから。

「――――っ」

母さんの声が聞こえた気がした。

そうだった。

わたしは一人じゃない。

いろんな人に支えられながら生きているんだ。

……わたしは誰かに頼ってもいいのかな。

……わたしは泣いてもいいのかな?

「わたしは……」

「一人で何もかも溜め込むなんて、あの人だけの特権なんだから……。貴女は……泣いても良いのよ」

ずっと一人で、死ぬまで一人きりだった母さん……。

わたしはそんな母さんの涙を見たことはない。

強情なまでに一人でやり通す。

……それが、母さんの言った悲しみなのだろうから。

「……母さん」

わたしは、泣いてもいいんだ。

それに気づいてしまえば後は泣くだけだった。



『Image data is attached.(画像データが添付してあります)』

わたしが泣きやんだのを見計らって、バルディッシュが言葉を発した。

映し出されたのは二枚の写真。

「あっ……」

一枚目の写真は、眠っている小さなわたしを抱いている母さんとリニスが写っている写真。

わたしは母さんと写真を撮った記憶はない。

……わたしが気づかないように、こんな風にわたしが寝ている間に撮ったのかな。

夢の中で言われたあの言葉を思い出させる姿にまた涙が溢れそうになってしまう。

二枚目はどこかの緑におおわれた丘のような所で、母さんと父さんを中心にアリシアと猫のリニス、それと緑色の髪をした女の子と黒色の髪のクロノに似た男の子が写っている写真。

みんなが笑顔で写真に写っている。

これ……リンディさんたちとの……。

「これは……」

「リンディさんの写真……?」

わたしの言葉にリンディさんは応えない。

ただ懐かしむように、悲しむように写真を見つめていた。

『Another message is kept for two. (お二人に向けてのメッセージがもう一つあります)』

写真を映したままバルディッシュが続ける。

『Genuine Alicia is sleeping in the grave. Please go to meet. (本当のアリシアは墓で眠っています。どうか会いに行ってあげて下さい)』

え……?

だったらあの時、母さんがアリシアと呼んでいた培養槽に入っていたあの少女は……?

「……あの子は自我の生まれなかった子だったの?」

だったら、母さんと一緒に落ちていってしまったあの子はアリシアじゃなくて、わたしと同じプロジェクトFで生まれた子。

わたしと違ったのは、意識があったかどうかだけの子だ。

「あれは演技……本当に、あの人は……」

「……会いに行きましょう」

アリシアと父さんにきちんと会いに行かなきゃ。

――リンディさんも、連れて。

「……そうね」

リンディさんがそう答えるのを聞いて、わたしは自分の頬が緩むのを感じた。

「……そういえば」

わたしを見ていたリンディさんが、ふと思い出したように口を開いた。

「話は変わるけど例の件、答えは出た?」

なんだろう、と思ったけど、少し考えたら気がついた。

以前わたしの裁判が行われている合間に言われた、リンディさんの養子にならないかという話だろうか。

……今まで答えがでなかったけど、今なら言える。

「……はい」

想いを形にして、はっきりと口にしよう。

「母さんは、わたしにリンディさんと幸せに暮らして欲しいと言いました」

そのためにあんな事件を起こして、こんな形でわたしとリンディさんを引き合わせたんだと思う。

だけれど……。

「でも」

一息ついてから言葉を続け――



「養子の話は断らせてください」



――そう言い切った。

「訳を聞かせてもらってもいいかしら?」

そんなの決まっている。これからも何度だって言える。

「わたしの母さんは、プレシア・テスタロッサしか居ませんから」

多分、わたしは今笑えているのだろう。

「そう……やっぱり勝てないわね」

それは誰に向けての言葉だったのか。

ただ、リンディさんは納得をしたように微笑みを浮かべていた。

「そうね。フェイトさんがそう決めたのなら無理強いはしないわ」

「あ……でもリンディさんやクロノのことは嫌いじゃなくて、むしろ好きというか……」

これだけは言っておきたい。

母さんを慕って、慕われている人を嫌えるわけがない。

リンディさんは多分わたしにもっとも近い人だ。

さっきはああ言ったけど、そんなリンディさんとわたしは家族になりたいと思っている。

だけどその距離感は家族は家族でも、姉妹のようなものだと感じてしまうんだ。

……これはアリシアの記憶の影響なのかな。

アリシアにとって、リンディさんは『お姉ちゃん』だったのだから。

「あらあら、告白かしら?」

そう返されて、自分が言った言葉の意味に気づいた。

昔リニスに教えられたことを思い出す。

今わたしが言ったのは……その、誰かに告白するときに使う言葉だったんじゃ……。

「ふぇ?! ち、違います!!」

「ふふ、わかっているわよ」

わたしをなだめるように、そんな風に言われて落ち着いた。

……わたし、リンディさんにからかわれただけ?

「あうぅ……」

少し恨みがましい目で見ると、リンディさんはどこ吹く風といったように余裕の笑みを浮かべていた。

……そんなとき、急な念話が聞こえてきた。

『フェイトちゃんっ!』

『な、なのは?! いきなりどうしたの!?』

タイミングと、聞こえる音の大きさにびっくりしてしまった。

返せた言葉もなのはには多分驚いているように聞こえたと思う。

『ふぇ? そんなに驚いてどうしたの?』

『な、なんでもないよ。ただいきなりでちょっと驚いちゃっただけ』

マルチタスクを使ってリンディさんに目を向ける。

リンディさんもそれに気づいたのか小さくうなずいた。

どうやらリンディさんにもこの念話は聞こえているみたいだ。

『にゃはは、ごめんごめん。あ、聞いてフェイトちゃん!』

なんだろう。

なのはの声がどこか嬉しそうだ。

『どうしたの、なのは?』

『さっき病室のはやてちゃんから会いたいって連絡がきたの!フェイトちゃんも早くいこ!』

はやて……そっか、もう大丈夫なんだ。

あ、でもまだリンディさんと話が……。

「行ってあげなさい。大丈夫よ、時間ならいつでもつくれるんだから」

「……はい!」

ありがとうございます。

そんな想いを乗せてリンディさんにおじぎをする。

『うん。今行くよ、なのは!』

ふと、もう一度母さんの写真を見る。

母さん。

わたしはまだ歩き始めたばかりです。

嬉しいことも、悲しいことも。

生きて生きて、最後まで歩ききった時に母さんに伝えたいと思います。

だからそれまでは見守っていてください。

そして、そのときが来たら言わせてください。

――ありがとう、ただいま。

「それとフェイトさん」

部屋から出ようと後ろを向いたわたしに、声がかかった。

振り向いて見たリンディさんの顔は、本当に晴れやかで。

「――よかったわね」



「――はいっ!」





「ふふ、いつかお義母さんとでも呼ばれてみようかしら」

駆け出したわたしの背中で、そんな声が聞こえたような気がした。



















――――――――フェイト、お幸せに――――――――




















                    ――――あるTS転生者の想い























あとがき

お待たせしました。今回で完結です。

一ヶ月ちょいほどちまちまと書いて、漸く完成にこじつける事が出来ました。

……完結したら、チラ裏から出なければならないのでしょうか。

以下、本編には関係しなかった隠し設定のような物を一応書いておきます。



・ ジェイル・スカリエッティ

プレシアがアリシアを喪った後に接触。

当時まだ少年と言っていい年頃だったが、既にその道では名を挙げていた。

プレシアが上司から提供された物証を元に居場所を突き止める。

プレシアに対する評価は人生で初めて個人的な興味を持った人間。

将来のスカリエッティへ向けての娘(スカ視点ではアリシア)の事を語るプレシアの発言に矛盾を感じる(精神的に不安定なプレシアの中でアリシアとフェイトが混合していたため)が、面白いの一言で受け止める。

ウーノにプレシアの個体情報が使われている設定も面白いかもしれない。

PT事件後、同一人物を生み出すためのプロジェクトFは不可能としたレポートを管理局側に提出する。

そこにどんな思惑があるのかは当人にしか分からない。


・ 最高評議会の面々

時空管理局設立にも大いに関わっただろう脳味噌3人組。

知識不足のせいかほとんど情報がなかったのでプロットの段階でかなりの改変を加えた。

彼らが現役で活躍していたのは戦争が絶えない時代で、その中で秩序を生み出そうと志した人達。

次元世界を平定するぐらいだから正義感は人一倍強かったはず。

秩序のために必要となる組織というものを存続させなければならない現状と、自分たちの求める理想との相違に苦悩する。

組織として肥大し過ぎたた状況に、戦力不足を補うために幼い少年少女を管理局で採用できるようにしたのも彼ら。

なお、根強く残るその案件に対する反対意見を幼いころから活躍していたプレシアを管理局の広告塔として祭り上げる事で封殺することに成功した。

その結果プレシアがマスコミに触れる機会が増え、同時に犯罪者の目に留まる事も増えることで明確な恨みの対象になりやすい環境になったといえる。

殺人事件後プレシアの辞表を受理させたのも彼ら。

根が良い人達なので責任を感じたらしい。

再び同じような事が起きないよう、その後管理局内の個人情報に強い報道規制を行った。

この世界ではなのはの『エースオブエース』という呼称も一般には広がらないだろう。

人の姿を捨ててでも生き残ろうとするのは組織のために作り出した数々の犠牲に対する責任感からくる義務感。

世界の秩序を願えば願うほど泥沼に嵌っていく。

ある意味、プレシアの人生を左右した人物達である。


・ 闇の書事件

リリなの過去話で定番のネタ。

恐らく十~数十年周期で発生していると思われるので話に非常に組み込みやすい。

何より原作キャラを動かせるのは美味しい。

プレシアがシグナムあたりと面識があればフェイトとのことでこの先も話のネタにできただろう。


・ 伝説の三提督

やはり情報不足。

三人居る内の一人ぐらいはプレシアの上司にしようと考えた。

プレシア+10歳ぐらいを目処にキャラ作りをするつもりだった。

全員18歳以上で管理局には入局した。


・ レジアス・ゲイズ

管理局のアイドル(プレシア)にドキドキした元少年1。

娘のオーリスに丁寧に保管されている秘蔵の写真集(プレシア特集)を発見され白い目で見られたことも。

そんだけ。


・ ゼスト・グランガイツ

レジアスから勧められた管理局のアイドルの写真集(プレシア19歳)を見てドキドキした元少年その2。

やっぱそんだけ。


・ エリオ・モンディアル

プレシアがプロジェクトF技術の情報を拡散していないため原作のようには生まれず。

生まれるとしても記憶のない形だけの少年に。

JS事件の難易度がアップします。



なお英語の翻訳にはエキサイト翻訳等を使用しています。

多少おかしな所があっても見逃していただければと。(誰か英語できる人助けて!)

さて、今回で一応の完結の形となりましたが、実は蛇足的な『逆行物』を書いてたり…。

まぁ蛇足は蛇足です。ある程度見れるものにならないととてもじゃありませんがお見せできません。

余韻というものもありますしね。

一応言いますと、このプレシアが足掻いた世界はここから変わっていきますので。

それがどんな形になっていくのか。

続くのならばそれを裏設定もふまえた上でどうにかしてみようかな、と。

それではここらへんで。

では!


※追記

感想板でご指摘のありました英文と、「ひょっこり」という表現を訂正いたしました。

ウシトコ様、風待様、因果丸様を始めご指摘して下さった方々に感謝です。

※さらに追記

もう一つ誤字がありましたので修正を。

三輪車様、ありがとうございます。


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