ネタの神が舞い降りた。
時系列とか設定とか、気にしない方向で。
~がいでん1~
その日の幻想郷は陽気な温かさに包まれていた。
それは博麗神社も例外ではない。
「ふわぁ……」
神社の縁側に座っている霊夢は小さな欠伸を零す。
丁度良い日差しと陽気な温かさに充てられてか、うとうとと舟を漕いでおり、今にも眠りそうだ。
やがて、重そうだった瞼も閉じ切り、
「う……ん……」
小さな寝声と共に、霊夢の身体が横へ傾き――柔らかい何かに身体が寄りかかったところで、霊夢の意識は完全に途絶えた。
「ん……あれ?」
ボンヤリと目を覚ました霊夢に、真っ先に目に入ってきたものは、
「ふふ。ようやくお目覚めね、霊夢」
穏やかな笑みを浮かべてこちらを覗き込んでいる、八雲紫の顔だった。
その笑みにはいつもの胡散臭さが感じられず、微笑んでいるようにも見える。
その紫の顔の向こうには縁側の天井。
どうやら自分は横になっているらしい、と霊夢は定まらない思考の中で漠然と感じ取る。
そして、後頭部には固くて冷たい縁側の木張りの床とは違った、柔らかくて温かい感触。
そこでようやく、意識が急激に覚醒した。
「――ッ!?」
がばっと飛び起きる霊夢。
「な、なんでアンタがいるのよ!」
「あら、起きて早々ひどい物言いね」
扇子を口元に当てて笑みを零す紫。
その表情は何かを企んでいるような、いつもの胡散臭い笑みに変わっていた。
「おー、やっと起きたか霊夢」
別の声が聞こえて霊夢が振り向けば、魔理沙がスタスタと歩いてくるところだった。
なぜかニヤニヤと口元を緩めながら。
「なによ、その顔?」
「ん? 別に他意はないぜ。いや、それにしてもほんと、随分と寝入っていたな」
魔理沙はあからさまに他意のありそうな顔で平然とそう言い放つ。
そして、魔理沙はニヤリと笑って霊夢に言った。
「そんなに寝心地良かったのか――紫の膝枕は?」
「なッ!?」
反射的に紫へと振り返る。紫は「ふふ」と笑みを浮かべているだけで何も言わない。
同時に、霊夢は先ほど後頭部に感じた温かい感触を思い出した。
「な……な……」
何か言おうとするも言葉に詰まって何も言えず、顔色が目に見えて赤面していく霊夢。
そんな様子を面白そうに見つめる魔理沙と紫。
そこへ、魔理沙が更に爆弾を投下する。
「ついでに言うと、さっきまで天狗もいたぜ」
それを聞いた瞬間、霊夢の動きがピシッと固まった。
「ま、ま、まさか……」
「ああ、いっぱい写真撮りまくっていたぞ。霊夢が紫の膝枕で熟睡していたところ」
「霊夢が気付かなかったのも無理はないわ。あなたが起きないように取材も小声で行っていたのだから」
「大声出すと霊夢が起きるって言い出したのは紫だろう?」
「そういえばそうだったかしら」
にこやかに会話を交わす魔理沙と紫。
一方の霊夢は絶句していた。
写真を撮られて、取材もされたとか。
このままでは、明日には自分がこのスキマ妖怪に膝枕されて寝ていたという不覚が新聞に掲載されて幻想郷中に広まるに違いない。
それだけは何としても、たとえ弾幕ごっこに訴えてでも阻止しなくては!
「魔理沙! あの烏天狗はどこ行ったの!?」
「ん? ああ、あいつなら早速山に戻って原稿書くって言ってたぜ」
「くっ、今から飛んで行っても間に合わない……! 紫、スキマで私をあの烏天狗のところまで送りなさい!」
「あら、どうして私があなたを送っていかなくてはいけないのかしら?」
「もともとはあんたのせいでしょうが!」
「私が来た直後に寄りかかってきたのは霊夢の方なのだけど」
「ぐっ……」
紫は協力するつもりなどないらしい。ならば時間の無駄だろう。
「こうなったら――!」
霊夢は玉串を取り出し、祈祷を始めた――。
射命丸文はここ最近、とても機嫌が良い。
横島忠夫のコーナーを連載してからというもの、『文々。新聞』の発行部数は順調に伸び続けているからだ。
あの男は幻想郷での日常生活ですら波乱万丈に生きているため、本当にネタに困らない。
まあ、何度吹き飛ばそうと今でも取材の度に飛び掛かってくるあたり、懲りない男でもある。
そして今日は、それに増して更に上機嫌だった。
「博麗の巫女、スキマ妖怪に甘える! 明日の見出しはこれで決定ね!!」
横島以外のネタを探しに博麗神社に行ってみれば、あの博麗の巫女がスキマ妖怪の膝枕で気持ちよさそうに寝ていたのだ。
何とも非常に珍しい、というより普段の巫女の性格や行動を思えばありえない光景。
幸いスキマ妖怪と白黒の魔法使いに取材もできたことだし、これはトップニュースとして新聞に載せるべきだろう。
「そうと決まれば、早く帰って原稿を書き始めないと!」
文は妖怪の山へ向かって一直線に飛び始め――己のすぐ近くに強い神気を感じ取って動きを止めた。
「――!?」
(こんな近く――気付かなかった!?)
驚愕に顔を染めながら、文は反射的に振り返る。
そこにいたのは、
「博麗の、巫女……?」
ついさっきまで神社で寝ていたはずの、口元にマフラーを巻きつけた博麗霊夢だった。
「そ、それがしは博麗の巫女ではない!」
「はい?」
いきなり自分を否定する霊夢に、文の目が点になる。
そういえば、この神気は霊夢から発せられている。ということはどこぞの神が降りているのかもしれない。
「では、どちら様で?」
「そ、それがしは……えーっと……」
霊夢、に宿っている『何か』は焦ったように目を彷徨わせる。
その時、文の隣に空間の裂け目ができて、紫が姿を現す。
「あ、スキマ――」
「――そう、それがしは!」
文が何か言おうとした時、それは己が小体を口にした。
「それがしは博麗さんのそっくりさんが大勢住むハクレイ星からやって来た宇宙人、
ハクレイガールだぁー!!」
「……」
「……」
……。
沈黙が、辺りを包み込んだ。
「……スキマの。博麗の巫女はどうしたの?」
あまりの衝撃に取材用の口調を取り繕うことも忘れて、文は紫に尋ねる。
「足の速い神を降ろしてあなたに追い付こうとしたのだけど……」
紫は片手で頭を押さえながら言った。
「何を間違えたのか、横島の世界の神を降ろしちゃったみたいで……」
「……ああ、なるほど」
横島の世界の神と聞いて、なぜか納得できてしまう文。
アレから溢れ出る神気は本物だ。紛れも無く神なのだろう。
……なんか、いろいろとアレだけど。
いつの間に追い付いてきたのか、遠くの方では白黒の魔法使いが腹を抱えて爆笑している。
たぶん、ハクレイガールの宣言があっちまで聞こえていたのだろう。
「少女の寝顔を無断で写真に収め、あまつさえ新聞にしてばら撒くとは、悪ふざけでも度が過ぎていよう!
正義の韋駄天、八兵衛……じゃなかった、謎の正義のヒロイン、ハクレイガールとして、その写真は破棄させてもらう!!」
アレ、もといハクレイガールはやたらと威勢よく言い放つ。
((ああ、アレ韋駄天なんだ……))
何とも言えない表情を浮かべたまま、呆然とそんなことを考える大妖怪二名。
韋駄天と言えば仏教ではそれなりの地位にいる有名な神であるハズなのだが……それでアレなのか。
「行くぞ、ハクレイフラーッシュ!!」
シュンッ
「――あっ!!」
「――へえ」
ハクレイガールの掛け声と同時に、気が付けばハクレイガールはその手に文のカメラを持っていた。
「いつの間に……」
「どうやら吸血鬼の従者と同じ能力、時を止めたようね」
驚く文の横で、冷静にアレが何をしたのかを分析する紫。
対照的にハクレイガールは熱かった。
「九兵衛との戦い以来、それがしは修業を重ね、遂には超加速を会得したのだ! 正義は常に進化するものなのだ!!」
そして、ハクレイガールはカメラを宙に投げ、
「韋駄天ウルトラスペシウム霊波光線!! あ、間違えた。ハクレイウルトラスペシウム霊波光線!!」
両手を添えた額からビームが放たれ、文のカメラを貫き破壊した。
ちなみに韋駄天ウルトラスペシウム霊波光線の段階でカメラを貫いていたので、言い直した意味はあまりなかった。
「ああ、私のカメラ……」
「取材は双方の合意の上で行うことを忘れてはならない! 充分に反省するように!!
では、さらばだ! とうッ!!」
そう言い残し、ハクレイガールはもの凄い勢いで空へと消えていった。
「……」
「……」
後に残ったのは、固まっている二人。
ちなみに魔理沙の姿は空にはない。どうやら笑い過ぎて墜落したらしい。
「それで、どうするの? 流石にアレを記事するのは不憫すぎると思うのだけど……」
再起動を果たした紫が尋ねる。
誰が不憫すぎるかは、言わなくても文にもわかっていた。
「そうね、私は天狗であって鬼じゃないし……カメラの件も含めて、二つ貸しにしといてあげましょう」
「そう……。それじゃ、私は神社に戻るわ。フォローしてあげないと失踪してしまいそうだから」
紫はスキマを開いて、その中へ消えた。
「……さて、私はにとりの所へ行ってカメラを新調しますか」
妙に疲れた表情を浮かべながら、文は河童のところへ向かった。
幸か不幸か、霊夢が紫に膝枕されていたことは忘れ去られていた。
……煩悩魔人と違い、優秀な巫女は優れているが故に全てを覚えていた為、それ以上の何かを代償に失っていたが。
「れ、霊夢、元気だして」
「……」
「あの烏天狗も記事にしないって言ってたから」
「……」
「き、今日の夕飯は私が作ってあげるわ。外の世界から新鮮な海の幸を御馳走してあげる」
「……」
畳の上で死んだように俯せになっている霊夢は、ピクリとも反応しない。
「横島の世界って……」
紫は深々と溜め息を吐いて、とりあえずスキマから海の幸を取り出すと、台所へと向かった。
おまけ
「よーこーしーまぁぁあああーーー!!」
「俺が何したって言うんじゃーーー!!」
「あんたの世界がぁぁあああーーー!!」
「あれか、賽銭箱から小銭をちょろまかしようとしたことがバレたんかぁー!」
「なんでっすてぇぇええーーーー!!」
「ヒィーーッ! やってない、やってないっす! 小銭なかったんで未遂なんだーー!!」
「キサマァァァァアアアーーーー!!」
「ああ! なんか壮絶に墓穴を掘っている感じが――ギャアアァァァア!!」
ピチューン
あとがきっぽいやつ
紫の膝枕で寝入ってしまい、周囲にからかわれて赤面する霊夢。
そんなほのぼのとした幻想をぶち壊すのがGS世界。
がいでん系のネタもいくつかあるので、こっちもちまちま書いていこう。