ここで一句。
『ちょくちょくと 気の向くままに 書き連ね なぜかできたよ 横島忠夫』
ネタ作品なので心が求めるがままに執筆しました。
後悔はしていない。
奇妙な噂を耳に挟んだ。
五日ほど前から人里にとある人物が新しく住み始めたらしく、格好からして外来人だとの話だ。
別段、外来人自体は珍しいことではない。外の世界の人間が幻想郷に迷い込んでくるなんてよくあることだ。
その中には幻想郷が気に入って、そのまま住みつく人間もいる。
だから、そんな新しい住人のことなど最初だけ噂にはなるが、すぐに忘れ去られてしまう。
だが、その人物は別の意味で噂を打ち立てていた。いや、ある意味伝説と言っても良い。
僅か三日で人里中の女性に声をかけて、その全てにフラれたとか。
女性の水浴び場スポットを覗き込んで、殺気立った女性の軍勢に一日中追いかけられたとか。
あの人里の守護者である上白沢慧音がその騒ぎを感知しても「ああ、奴か」の一言で済ましてしまい、そのまま授業を進めたとか。
逃走中に、事情を聞いた白黒の魔法使いのマスタースパークで思いっきり吹き飛ばされ、直後に女性陣に血祭りにあげられたとか。
血まみれになってもすぐ回復するとか。
その事から「実は妖怪ではないか?」と密かに噂されているとか。
大事なことなのでもう一度言う。その人物が幻想郷に来てからまだ五日しか経っていない。
だというのに、この話題性。
そして決定打となったのが、ネタを探して博麗神社に立ち寄った時の霊夢の言葉。
「だったら、あいつにでも取材すれば? 並行世界から来たって話だし」
霊夢としては手っ取り早く追い払う為に与えた情報だろうが、狙いはまさに的中。
事実、話を聞いた彼女はすぐさま神社を飛び出したのだから。
「ふふふ、そんな面白い人物を取材しないなどとは、幻想郷のブン屋の名が廃りますね!」
目指す先はネタの宝庫ともいうべき人物――。
「横島忠夫は、この射命丸文が取材します!」
そして、射命丸文は空を駆けて人里へと向かった。
横島は人里の近くにある川原で体育座りをしていた。
「うう、あんなに俺が媚を売ってやったというのに、やっぱり幻想郷でも男は顔が全てなのかチクショー……!」
泣きながら草をむしる横島。
思いだすのはナンパの記憶、というよりフラれる記憶。
「昨日だって、ちょーっと足が滑って覗いちゃっただけだってのに……事故だってのに……!!」
実際は、「おーっと、足が滑ったぁぁー!!」とわざとらしく口走りながら茂みに滑り込んだ確信犯である。
「おまけに誰が妖怪じゃコンチクショー!!」
怒りの涙を流しながら勢いよく立ち上がる。
横島人外説は、僅か一晩で人里中に広まっていた。
もっとも、だからといって横島に恐怖を覚えるような者はいなかったが。
むしろ「ああ、やっぱり」「だよなー」といった納得の部類である。
まあ、元の性格がコレなだけに、怖がる人間はいないだろう。たぶん。
「幻想郷なんて、幻想郷なんてーーーっ!!」
川のせせらぎを掻き消すように、川に向かって叫ぶ横島。
その時、横島の真後ろに強風が吹き込んだ。
「のわ!! な、なんだぁ!?」
すぐさま後ろへ振り返ると、
「どーも、射命丸文と申します。横島忠夫さんですね、ちょっとお話をお伺いしてもいいでしょうか?」
いつの間にいたのか、そこには一人の美女がいた。
そして文と名乗ったその美女は、あろうことか自分から礼儀正しく横島に話しかけてきたのだ!
「……」
まず、横島は周りを確認した。辺りには自分たち以外、誰もいない。
次に自分の名前を確認する。うん、間違いなく自分は横島忠夫である。
「え゛? マジで俺?」
そうして、ようやく彼女が話しかけている相手が自分であることを認識した。
「はい」
にこやかに答える文。
「……ふふ、ふふふ」
横島はキュピーンと目を光らせて、
「幻想郷サイコーーー!!」
天に向かって拳を振り上げて、高々に吼えた。
ついさっきまで「幻想郷なんてぇーー!!」と嘆いていた奴とは思えない変わりぶりである。
「フ、僕に何か用かな、お嬢さん?」
そして次の瞬間には、何事も無かったかのように横島は髪を掻きあげて文に尋ねていた。
その縦横無尽な変化ぶりにちょっと唖然としながらも、文は己が目的を達する為に口を開く。
「実はですね、あなたに興味が湧きまして、是非ともしゅざ――」
「そうですか!! それじゃあまずキスから始めましょうっ!!」
「――って、人の話は最後まで聞きなさい!!」
だが最後まで言い終わる前に、横島は文に襲い掛かった。
話の途中でダイブしてきた横島を、文は風を操って吹き飛ばし、
「ぐはっ!?」
横島はそのまま近くの木に直撃した。もちろん、顔面から。
ずるずると地面に落ちる横島。木に引き摺ったような血の後が残り、かなり不気味な光景である。
だがしかし。
「痛いじゃないすか!!」
すぐにがばっと顔をあげて復活するあたり、横島ぶりは健在である。
「な、なるほど、あれが噂の回復力ですか……」
そんな横島に対して目を輝かせている文もまた新聞記者の鑑である。
「私、幻想郷一の新聞、『文々。新聞』という新聞を発行していまして」
幻想郷一というところを強調する文。それが本当であるかどうかはこの際置いておこう。
「そうですか、女性記者の方でしたか」
「はい、まさにその通り。あと、とりあえず手を放してくれませんか?」
何故か横島に手を握られている文。取材用の笑顔が若干引き攣っている。
「じゃあ腕を組みましょう!」
「どういう思考回路してんですかあなたは!!」
抱きつこうとしてきた横島を叩き落す。
「まったく、本当に噂通りですね……」
出会って僅か十分間で、文は横島の性格を理解した。本当にわかりやすい性格なので誰でもすぐわかるだろうが。
「それでですね、人里であなたの噂をお聞きしまして、是非ともあなたに取材を申し込みたいのです!」
話の流れを元に戻す。たったこれだけの要件を言うのにすごく苦労したのは何故だろうか。
きっと横島だからだろう。
そして、その横島は、
「……え? 取材?」
なぜか信じられないものを見るような目で文を見つめていた。
「はい」
「ピートや西条じゃなく、俺に?」
「誰ですかそれ?」
首を傾げる文を余所に横島は肩を小さく震わせて、そして目をくわっと見開いた瞬間――横島の背景が一変した。
「しゅぅぅ――」
暴風雨が降り注ぎ、
「ざぁぁ――」
大海原が荒れ狂い、
「いぃぃーーー!!」
火山が噴火した。
「美神さんはともかく、
顔が良いからって常にピートや西条の野郎にスポットが当てられ、
その影に埋もれてしまっていた不運な俺にも、ついに取材が!
フハハハハ、さらばだタイガー! 俺は先に行く!!
ありがとう幻想郷! 素晴らしすぎるぞ幻想郷!!」
やたらとハイテンションな横島。まあ、無理もないかもしれない。
ちなみに、横島には「裏切りものじゃのォーーー!!」と涙を流すタイガーの幻覚が見えたとか見えなかったとか。
「え、えーっと、とりあえず取材はオーケーってことでいいんですね?」
背後に凄まじい気炎があがっている横島に、おずおずと尋ねる幻想郷のブン屋さん。
「何でもどーぞ! どんと来いって感じです!!」
初めての取材に気分が最高潮の横島。もちろん快諾である。
文としても内心で「よっしゃー!!」ガッツポーズを決めていた。
「それじゃ、まずですね――」
早速メモとペンを取り出す文だったが、
「はい!! まず好きな女性のタイプは――」
「そんなこと聞いてません!!」
「ぐはッ!!」
メモを取る前にツッコミの肘打ちが横島の顎に入った。
「おほん。では気を取り直して」
それでもって、倒れたまま痙攣している横島を無視して質問を始める。
彼女もまた、正しい横島の扱い方を覚えたようだ。
「まずですね――」
そして、文はペン先を倒れている横島に向けて、
「ズバリ、あなたは妖怪ですね?」
「俺は人間だぁーーーー!!」
がばっと起き上がって横島は叫んだ。
「なんで第一の質問が人間否定なんすか!? しかも断定!?」
「ですが、人里では横島さんは妖怪だって専らの噂ですし、証言だってありますよ」
そういって、自信満々に文はメモを読み上げる。
Y.Yさんの証言。
「人間というより横島、言わば一人一種族みたいなものね」
R.Hさんの証言。
「致命傷でもすぐ回復してたし、あれで人間なわけがないじゃない。絶対に正体隠してんのよ。バレバレだけど」
M.Kさんの証言。
「私の全力のマスタースパーク食らっても死なないんだぜ、あいつ。おまけに美女見かければすぐ復活するし」
K.Kさんの証言。
「女性以外に関してはとりたて危険な奴でもないからな。人里にいても問題はない……と思う」
「――とまあ、こんな感じです」
「何故じゃーーー!!」
涙ながらに天に吼える横島。いつの間に証言を取ったのか非常に気になるところだが。
「それじゃ、次にですね――」
「待たんかい!」
さくっと次に進もうとした文にツッコミを入れるが、そこは射命丸クオリティ、無視する。
「あなたが並行世界から来たって話を聞いたんですけど、本当ですか?」
「ん? ああ、そうみたいだぞ」
「ではその話をぜひ!」
非常においしそうなネタの匂いに、文は身を乗り出すほどの興味を示す。
「といってもなぁ……」
最近、元の世界の話ばかり聞かれているような気がする横島だった。
そして、横島はわざとらしく咳払いをして、
「じゃあまず、俺の世界に西条っていう奴がいるんだが、こいつが本当に酷い奴でな。
女性に無理やり襲いかかっては散々弄んだ挙句に捨て去るという悪魔のような所業を繰り返す、まさに女の敵だ。
仮に見かけても特に女性は絶対に近寄らないように、むしろ石を投げつけてやるよう呼びかけてくれ」
はじめに情報戦という見地で宿敵を蹴落としにかかるあたり、横島である。
本人がいないことを良い事に、まさに言いたい放題。
「どことなく個人的な怨嗟を含んでいるような気もしないでもないですが……まあいいでしょう!」
そして、それを良しとしてしまうのが文である。
彼女からすれば『面白ければオーケー』なのであり、それ故に一部からは『学級新聞』と酷評されてしまうのだが。
哀れ西条、この二人の手によって知らぬ間にこの上ない悪評を立てられてしまう事となる。
「では次に、横島さんは何をしている方なんですか?」
「俺? 俺は美神さんトコでゴーストスイーパーの見習いやっててな――」
ふむふむ、と頷きながら軽快にペンを奔らせる文。
美女からの取材というものに気分を良くして、かなり喋りまくる横島。
波乱万丈な日々を過ごす横島は、文にとってはまさにネタの宝庫。
翌日、『文々。新聞』のトップを全て横島が飾った。
以降、『文々。新聞』には必ず横島の蘭が出来上がるようになったという。
なぜかチラ裏ではプレビューが使えない。
ちょくちょく修正かけます。