*ふと思いついただけのダラダラ話。
「ねえベンツ、最近なんか面白い話題ない?」
俺がいつものように派遣先の休憩所でサンドイッチを食べていると、同じ派遣で同期のロメオがおにぎりを片手に話しかけてきた。
その眩しい銀シャリが目に毒だ。
最近米高いからなぁ。
「あーそうな、昨日管理局元教導隊のなんたらって魔導師と海で有名らしいほにゃららって執務官が入院したってのをニュースでやってたぞ」
「元教導隊? あー、なんかでっかい船を落としたって噂の人?」
「さあ? 管理局やめてもう大分経つからどんな奴かは知らんけど、結構有名な奴らしいな」
「あ、俺それ知ってる。 エースオブエースとか言われてる奴だろ? 確かナノハ・ヤマザキとかいう」
そんな話をしていると俺たちより先に休憩に入ってたカールさんが話しかけてきた。
彼も俺たちと同じ派遣社員であり、この職場にやってきたのは俺たちよりひと月前らしい。
でもヤマザキねえ。 やっぱり知らん。
「たしか教導隊ってSランク以上の魔導師しか居ないんでしょ? なんで入院したの?」
「わかんね。 直ぐチャンネル変えたし」
時代はニュースより格闘なんだよ。
シューティングアーツかっけぇ。
俺はやる気ないけど。
だって殴られたら痛いじゃん。
「確か肝硬変って話じゃなかったか?」
「そうなんですか? カールさん」
「ちげーだろ。 肝硬変はゲイズ中将だって」
「ああ、そういやそうだったか。 でもあのメタボがアインヘリアル作ろうと言いださなけりゃ俺らもこんなとこに来ることもなかったんだよな」
俺らの今の仕事は戦闘機人事件で壊されたアインヘリアルの修復作業の手伝いである。
専門じゃないので細かいところは正社員に任せ、俺らは適当に浮遊魔法や転送魔法で物を運び、時々回路に魔力を流し込んだり、異常が無いかチェックをする程度の楽な作業だ。
「あれ、カールさん。 この仕事に何か不満でもあるんですか?」
「逆だ逆。 こんな楽な仕事で月給30万とか、不満があるわけねえだろ」
「ですよねー。 ベンツは?」
「まあ俺も同じだな。 管理局の武装隊とか残業代でないで月20万ちょいだからな」
しかも出世は上司か自分が死んでからとかやってられるか。
「前も言ってたねそれ。 あそこってそんなきついんだ。 僕なんて最初っから管理局とか考えてなかったからねえ」
「そういやお前は魔法学院出身だったっけ。 なんか最近聖王がどうとかで盛り上がってんだって?」
「そうそう。 なんか聖王が復活したとかで大騒ぎになってた」
「あ、今ので思い出した。 ヤマザキの入院理由」
「なんですか?」
「娘の作った料理が原因の集団食中毒だ」
そんなこんなで休憩時間も終わり、俺とロメオとカールさんの3人は午後の仕事に向かった。
そしていつものように魔力の流れに異常が見られたところで作業がストップ。
結局この日はそこで就業時間がまだ2時間も残っているのにあがっていいことになった。
やっぱこの仕事楽でいいわ。
命の危険もほとんどないし。
何て事を思っているとロメオに肩を叩かれた。
「ベンツ、今日はもう上がりだよね? この後なんか予定ある?」
「特にねえな。 そっちは?」
「僕も無いよ」
「ならまだ早いけど飯食いに行ってそのあとゲーセンでも行くか」
「そうこなくっちゃ!」
そんなことを話しながら事務所を出ようとしたところ、俺たちは若い女に話しかけられた。
「あ、ちょっとそこの人、ここで働いとるベンツ・トリコロールって人知らんか?」
「そんな奴知らん。 正社員ならまだ現場にいるからそっちに当たったらいい」
「え? 何言ってんのベ――」
「そっかぁ。 あとロメオ・クーゲルって人も探しとるんやけど」
「そんな人僕も知らないや。 正社員ならまだ現場にいると思うからそっちに当たったらいいと思うよ」
「そっかぁ。 ありがとな」
「どういたしまして」
「困った時はお互い様だよ」
そう言って俺たちはその女とすれ違い、裏口から退社した。
それから通信機の電源を切り駅までダッシュで移動、そしてミッド中央行きの移動車両に滑り込んだ。
「危なかったね」
「そうだな。 下手に捕まると長引きそうな空気だった」
「でも一体何だったんだろう?」
「さあ? でも服についてた管理局の階級章を見るに二等陸佐だろ? 絶対面倒くさいことになるのは目に見えてる」
「だよねぇ」
その後雑談をしているうちにミッド中央へ到着。
「じゃあ今日は何食べる?」
「こないだはパスタだったから今日は米が食いたい」
「じゃあお寿司とかどう?」
「悪くないな」
ロメオは第97管理外世界オタクなのでそこの文化をやたらと勧めてくる。
そのオタクっぷりは、最近ミッドで話題の『月刊ミッドマガジン 管理外世界特集号』で、その世界の文化について詳しい人間としてインタビューを受けてたほどである。
まあ、勧められる食べものが美味いから俺もあの世界のことは嫌いではない。 むしろどちらかと言うと好きなほうである。
今度の連休にはロメオと一緒にピラミッドと言われる昔の偉い人の墓を見に行く予定だ。
「じゃあ最近できたいいお店があるんだ。 そこに行こう」
「食中毒だけは勘弁な」
「大丈夫。 ちゃんとその国で修行してきた侍忍者だって言ってたから」
「まじか。 なら安心だな」
「だね」
その後連れていかれたすし屋でキム店長のお勧めで食べた真砂ハバネロ寿司は、めちゃめちゃ辛かったもののなかなか美味であった。
今度1人でまた来ようと思う。
それから俺たちはゲームセンターへ向かった。
そこのキャッチャーでエヴァとかいうロボットフィギュアをロメオが狙っていると小さな女の子に声を掛けられた。
「なあ、少しいいか?」
「ああ、別にいいぜ」
「この写真の男達に見覚えはねえか?」
「おいパメロ、お前知ってる? こいつら」
「おいおいベント、僕が女の子にしか興味ないって知ってて聞いてるでしょ」
「ははっ、だよな」
「なんだしらねーのか。 時間取らせて悪かったな」
「なに、気にすんな。 ほらお嬢ちゃん、このデカイ兎のぬいぐるみやるから元気だしな」
「あ、ありがと」
「また困ったことがあったら遠慮なく聞いてよ。 僕らでよければいくらでも協力するから。 ほら、このデカイ兎のぬいぐるみをあげるよ」
「まじか! じゃあ、お前らも困ったことがあったらあたしに言えよ? そんときは助けてやるからな!」
その言葉を最後にその女の子は元気よく俺たちの元から離れて行った。
「でもびっくりしたぁ」
「俺も。 てっきりばれたかと思ったぜ」
「だよねぇ」
俺とロメオはこの辺り一帯のゲームセンターではキャッチャー荒らしとして有名であり、最近はとうとう『この男達入店お断り』という顔写真付きの張り紙が入口に貼られるようになってしまった。
そこで今日はロメオの得意な変身魔法を使って誤魔化していたのだ。
今日も糞デカイぬいぐるみを不必要に取ってしまったので、あの女の子が話しかけてきてくれたのは丁度良かったと言える。
ちなみにカールさんもここら一帯の店で入店拒否の張り紙が貼られている。
ただし張られている場所は全て風俗店である。
あの人はいったい何をしたんだろうか。
聞きたいけど聞けない。 聞きたいけど聞かない。
世の中を平穏に暮らすにはそういったコツみたいなものがたくさんあると俺は思う。
それから何件かのゲーセンを梯子した俺たちは、小腹がすいたのでドーナッツ屋へと移動した。
そこでスクラッチを削りながら今度の連休に行く世界に関連したミイラの話をしていると、隣の席からうめき声が聞こえてきた。
「うわぁああああ! もうあかーん! 絶対シフトまわらへん! なんであの二人が何処にもおらへんのや! 何が『あの二人は優秀なので直ぐに現場に対応できます』や! 見つからへんかったら意味ないやろ! あほか!」
「主はやて、落ち着いてください。 この辺りであの二人を見かけたという情報を元に今ヴィータが探してくれています。 もう少しの辛抱です」
「そんなことゆうたかて、明日以降の引き継ぎとか考えたらどう考えても間に合わへんやろ!」
「それもそうですが……」
「そもそも牡蠣はこの時期ノロウイルスが多いから生で食うたらあかんって、なんで誰も指摘せんかったんや! 信じられへん! でもほんまどないしよ。 ゲンヤさんとこも駄目やったし、他の陸士部隊も全滅。 派遣会社も駄目やとなると後はあたしが身体張って乗り切るしかないんかなぁ……。 うわぁああああああ! もういややぁあああああ!」
そういって喚いてた女性は机に突っ伏した。
おお、良く見たらこいつ昼に見た管理局の女じゃん。
シフトってことは交代部隊の話か?
相変わらず管理局は人が足りてないんだなぁ。
お疲れ様です。
「あ、3点だ」
「僕2点」
「前来た時のも合わせると10点行くな。 じゃあ景品交換して帰るか」
「そうだね。 あまり長居しても店に迷惑を掛けるだけだし。 あ、そうそう、こないだ面白いゲームを取り寄せたんだけど、寄ってく?」
「ああ、例の管理外世界からか。 なんてゲームだ?」
「スマブラXX」
「おお、新作出たのか。 寄ってく寄ってく。 ついでに泊まっていい? 俺明日休みなんだけど」
「いいよ。 僕も休みだし丁度良かった」
そうして俺たちはかわいらしいぬいぐるみを手土産にロメオの家に行き、翌日の夕方までぶっ続けで対戦ゲームをした。
うーん、やっぱスネークつえーわ。
俺のピカドロフじゃ手も足も出ねえや。