彼女は特別だった。
俺の『支配』を受けた人間は、召使のようになる。人間的な感情が消えたりすることはないけど、俺の言葉を拒絶する事もない。
だけど彼女は違った。俺の『支配』を受けながら、子供のような無垢な眼で俺を見つめていた。
彼女は綺麗だった。顔や体とかそういう意味じゃなく、もっと色んな意味で、彼女を綺麗だと感じた。
実在する魔法使い。そいつらが造った人造人間、ホムンクルス。そういう存在である彼女は人間としての常識が殆どなかった。
そんな彼女に服を着ることを教えたり、食事をさせたり。
名前のなかった彼女に名前も付けた。「クルス」というのは、ちょっと安直過ぎたかも知れないけど、彼女も気に入ってくれたみたいだから気にしないでおく。
俺は、彼女を好きになったんだ。
ィアーリス視点
喫茶店から出た後、私は電気街通りの向こう側に渡って赤い建物に入った。
有名ゲーム会社のゲーセン。そこで小銭を崩してカードゲームをやる。前世でもやってたけど、結構嵌ってたんだよな。まあ、当時のデッキは当然持ってないから金に物を言わせて揃えたんだけど。
そうやって時間を潰す事数分、フロアの人がどんどん減っていくのを感じていた。別に人が消えていくとかホラーなことじゃない。出て行く人はいるけど、入ってくる人がいないのだ。
ま、こういうことが出来るやつと言うのはどこにもいるらしい。超能力者には付近の人間に無意識レベルの不快感みたいな物を与える、フィールドみたいな物が張れるのがいるって聞くし、似たような効果の機械がうちにもある。
そうこう考えてるうちに後ろに気配が二つ。ちょうどゲームの決着も着いたから後ろに手を回し、そのうち片方を捕まえて抱え込む。
「おうっ!生きてたか、この猫耳娘!」
以前戦った事のある緑髪の・・・名前なんだっけ?
「ちょ、うわ、痛い、痛いよお姉さん!」
ガシャンとやたら重そうな音と一緒に、彼女のモノだともうギターケースが落ちたけど、私は彼女の頭を撫で繰り回し続けた。この子はじたばたしてるけど、私は撫でるのをやめない。
前回は中世傭兵風のコスチュームだったけど、今は黒のノースリーブとジャケット、腿からを大胆にカットしたジーンズと言う格好になってる。流石に普段からあんなコスプレまがいの格好じゃないか。耳も今は人間のものだし。
「へえ、敵の結界の中なのに随分落ち着いてんだな。馬鹿と大物、どっちだ?」
声をかけてきたのはもう一人の方。猫耳娘を解放してそいつに眼を向ける。
立っていたのはライダースーツの女。見た目の歳は十八かそれ以上か。
流れるように綺麗な金髪で、メリハリのある体形が服の上からでも見て取れる。コイツも人間じゃないのかな?この子の仲間ってことは。
「どっちでもいいじゃん。危ないって感じてないのだけは、確かだよ、私」
ギターケースを拾う猫耳娘も視界に入れながら答える。対して金髪の女は、私の方に肘を置いて顔をすぐ横までに近づけてくる。
「確かにどっちでも同じか。DQだったっけ?あんたに用があってね」
でぃーきゅー?ああ、そう名乗った事もあったっけ。
「取り敢えず選ぶだけ選ばせてやる。一、黙って俺たちについて来る。二、俺たちにノされて連れてかれる。さ、選べ」
「うん、取り敢えず喧嘩売られてるってことは理解できた」
ゲーム筐体に置いたままだったカードを回収して、荷物の入った鞄に入れる。立ち上がると、場所だけ変えようと提案。向こうの都合でやってくれて構わないと告げると、向こうもOKしてくれた。
やりあうのは構わないんだけどアキバじゃな~。
二人に先導されてゲーセンを出る。すると出入り口の前に、やけに目立つ二人組。ヘビメタな感じのギターケース持ちのイケメンバンドマンっぽい男と、なんかよく分からないデザインの縫いぐるみ抱えた白ゴスロリの美少女だ。
「おいおい、何でドンパチもなしで出てきてんだ?」
声をかけてきたのはバンドマンの方。どうやらこっちの二人もダークロアか。
「ゲストのご注文さ。ここでやんのが嫌なんだと」
そのまま金髪とバンドマンが相談を始める。場所の打ち合わせとかそういうのだろう。まあ、それは私にとってそんなに重要な事じゃない。今は目の前のゴスロリ美少女だ。いや、見た目は寧ろ美幼女と言っても差し支え・・・ギリギリあるか?
「お嬢ちゃん、良かったらお菓子食べる?」
私は鞄からキャラメルを取り出す。そしたら少女はバンドマンの後ろに隠れる。
「お姉さん、すごい不審者っぽいよ、それ」
マジで!?
飯塚 秋緒視点
一言で言えば変な奴、だった。第一印象は期待はずれ。少なくともその存在感は決して、聞かされたほどのものではない。
敵に囲まれても一向に緊張感がない。まるで何事もないようにこいつは自然体だ。周囲に対する警戒さえないほどに。
ジル、シヴァ、パールヴァティ、そして俺。DQを名乗ったドラゴンは俺たち四人を全く意に介していなかった。それどころかパールヴァティに変態的なアプローチをかけたりしている。
その結果、
「人の女に手を出すな!」
「なに!貴様ロリコンか!」
「誰がロリコンか!」
とか頭の悪いやり取りが始まった。シヴァと。頭がいてぇ。
なんとかその場を鎮め、ここから近くて広い場所に向かう事になった。
上野公園。この時間はまだそれなりに人がいる筈だが、パールヴァディの能力で人払いしてもらうことになっている。
道中DQがごねてコインロッカーに寄ったり、DQがふらふら店先の商品を見たりで予想外に時間を食ったが。
漸くたどり着いた頃には日が傾きだしていた。
「いや~、それにしても何だろねこれ、日曜なのに人がいないよ」
無人になった上野公園。四方を見回しながらDQは言った。ここからは動物園の入り口と博物館が見える範囲にある。確かに普通休日で、人っ子一人いなくなることはないだろうしな。
「さて、このまま始めるの?それともそっちの準備を待った方がいい?」
俺たちと多少距離を取るDQ。余裕混じりの笑顔がなんとも苛立つ。
「そうして貰えると助かるの確かなんだけどさ、すぐに終わらせるよ」
この中で準備が必要な者、すでに獣人の姿を現したジルは、ギターケースを地面に置く。そして留め具を外すと中から数本の、色々鞘などがついたベルトを腰に巻きつけていく。次いでギターケースを足で掬い上げるように蹴り上げる。その中から、バラバラと落ちてくるのは、無数の武器武器武器。
それらは剣や斧のような古いタイプの物ばかりだが、それを使うジルの技量があれば銃火器に勝る威力を発揮する。
ジルは落ちてくる武器を時には掴み、時には足で蹴り上げて、次々にホルスターや鞘に収めていく。
最後に落ちてくるギターケースを肩で受け止めて地面に放った。
「おお~、格好いい、格好いい」
ジルの雑技じみた業にパチパチと拍手を送るDQ。それに対してジルは照れた様子で会釈する。
こいつらやる気あんのか?
「和んでんなよ。嬢ちゃん、骨の一本くらいはもらう事になると思うが、構わねぇよな?」
同じく、自分のギターケースから銃火器を取り出したシヴァも準備が出来たようだ。
「一人相手にアレだけど、こっちも仕事だからよ。悪いが容赦はしねえぜ」
俺も拳を握り、体を解す。さらに見の内に流れる狼の血を開放させる。狼の耳と尻尾が現れるのが感触で分かる。
パールヴァティは一人ここから距離を置く。
「・・・あの娘は?」
「人払いに専念してもらうさ。人が来たら、お互い面倒だろ」
納得したように頷くDQ。
「でもさ、一つだけ。私が一人って、誰が言った?」
瞬間、背筋に奔る悪寒。
「伏せて!」
同時にジルの声。それに反応して俺は身を屈め、そして頭の上を通り過ぎるナニカ。
「今回も決まらないな」
「サブコマンダーのせいであると認識します」
交わされる会話、DQともう一人の誰か。その場を跳び退き、声の方向に眼を向けるが誰もいない。気配らしいものも感じないが、潤滑油らしい匂いが僅かに漂っている事に気がついた。
そしてDQの隣、空間から滲み出るように、一人の少女の形をしたモノが現れる。
蒼い短髪、子供のようなラインの浮き出るボディスーツ、そしてその上を覆う鎧のような機械群。さらには両腕に大きさの違う、ブレードユニットとでも呼ぶべきだろう物までついている。
ジルたちと戦った時にも現れたって言う人型ロボットだか何だかか。
それはそうと、俺と距離のある場所で伏せているジルに眼を向ける。
「・・・何やってんだ、お前?」
「・・・え、いや、もしかしたらこっちに切りかかって来るかもな~、なんて思ったりして・・・その・・・」
眼を泳がせながら、顔を赤くしながら立ち上がるジル。それを見た俺たちは白けた視線をジルに送り、DQは口を押さえて肩を震わせている。
「いや、うん、そういや前に似たような事あったよな」
ククっと笑いながら一歩踏み出す。
「そんじゃ私も行くぜ?」
次の瞬間にはジルの目の前まで跳んでいた。
「ううぇっ!」
DQの手に、現れる炎の塊。振り下ろされるそれを、ジルは転がるように避ける。炎が消えると、その中から現れたのはDQの背の丈に近いでかさの大剣。
「さあ!派手に行くよ!」
言うと同時に、DQの体が炎を吹き出す。その人の形をした炎の塊は立ち上がったばかりのジルが後ろに倒れ伏す要領で避ける。
「いっつ!」
背中に背負った武器の硬さで背中を痛めながらもすぐさま立ち上がる。そして向きあったその向こうでは炎が晴れ、黒い鎧姿の、角を生やした女が現れた。
・・・これがDQの正体か・・・?
顔はサンバイザーっぽいデザインの額当てで見えないが、口元は楽しそうに歪んでいる。
「援護します」
その側にロボットが立つ。武器を持っているだけで自然体なDQにたいして、こいつは腰を落としていつでも加速をつけられる姿勢になっている。
「好きにしろ。でもあの猫耳には手を出すな。私とやりあいたいらしいから。あ、後あっちのゴスロリもな」
「了解です、サブコマンダー」
言葉と同時に飛び出すロボット。装甲の後ろの方から火を吹きとんでもないスピードを叩き出している。後ろはバーニアかよ。
一瞬遅れたが俺も身を低くして駆け出す。
「ターゲット、ワーウルフ、排除」
淡々とした言葉と同時に振りかぶられる右手のでかいブレード。
「おおおおらあああ!」
それが振るわれるより先に、その右手に蹴りを入れる。充分な間合いに入っていた訳じゃないから威力は乗らないが、ロボットは動きを止め、体勢を崩す。
「くらえよ!」
この隙に思いっきり体を捻る。地面を踏みしめ、全身を使って右の拳を振り下ろす。だが相手も予想外の速さで体勢を立て直し、左手を伸ばしてくる。
そしてぶつかる拳と腕。だが衝撃を利用してロボットが体を回転させ、ソバット気味の一撃を脇腹に受けた。
「いっちぃ・・・」
「・・・左腕補助ブレードユニット損傷、リカバリー不能、パージ」
蹴られた腹は痛むが、向こうもただでは済まなかったようだ。ま、満月の夜じゃないとは言え、俺の本気の一撃だ。そうそう無事でいられても困る。
「脅威、想定外、優先排除目標に設定」
どうやらあいつのお目に適ったようだ。表情や目線に変化はないが、ロボットの体の内から聞こえてくる起動音が僅かに大きくなっている。
おもしれぇ、俺も注意深く相手の挙動に注目する。
そして敵の体が沈み、前に出した足首に力が掛かり・・・銃声と共に後方に飛び退いた。
「シヴァ?」
「秋緒、お前はジルを助けてやれ。こいつは俺が相手する」
俺の後ろからの銃撃、それはシヴァのものだった。
「あっちのドラゴン、持って来た銃じゃダメージが通らない。援護にもならないからお前が行け。こいつは俺がなんとかする」
俺の返事を待たずにロボットへの攻撃を始めるシヴァ。
目の前の獲物を掻っ攫われる形になったが仕方ない。代わりの獲物に眼を向ける。
忙しなく跳び回るジルを、剣や鎧でいなすDQ。全力を出し切り、寧ろ嬉しそうな表情のジル。DQもどことなく楽しそうだ。
随分仲良くなったな、こいつら。まあ、それはいい。別に相手を殺す必要はない。目的はあくまで捕獲・・・
聞いていた通りの実力なら相等骨が折れそうだが、やってやれないこともないだろう。DQに跳びかかろうと体を沈め、そこで動きを止めることになる。
頭蓋の裏側を触られるような不快感。気が付けば、俺以外の奴らも動きを止めている。
「ESP能力による感応波、及び特異点の精神干渉を感知。現在接近中」
口にしたのはロボット。
「E.G.Oと・・・ね。どっちを優先すべきかな?」
緊張感の欠片もないDQの呟き。
始まったばかりの戦いに、割り込んでこようとしているらしい誰か達。それがやがてWiz-domとの戦いの、重要な布石になることを予期する事などできる筈がなかった。
後書き
インフルエンザが猛威を振るっている今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか?どうも、郭尭です。
ちなみにうちの妹がインフルにやられました。
最近執筆速度がどうにも上がりません。ここ最近自分好みのゲームの発売ラッシュや、エンタメ用作品が今年分のに間に合わないことがほぼ確定してテンション下がったりとか。
まあ、どっちも自分の都合な訳ですが、後者はプロット上のミスもあって自分の未熟さを再認識させられました。
さて、本編は漸くホムンクルスの名前が登場。以前感想でご指摘いただいた通りのキャラでした。
元々MB編が後の部分への伏線張りのためだけみたいな感じのものなのですが、今回は特にそういった趣が強い話になった感じがします。このグダグダ感や、内容の薄さとか。
以降の文章はもっと良く出来る様に努力していく為に頑張るつもりです。厳しい意見も含めて、筆者のスキルアップにご協力頂ければありがたく思います。
それでは今回はこの辺で、また次回お会いしましょう。