第八話・計画通り…のはずだよね?舞踏会。踊っているのか踊らされているのか。まあ、相手のいない私には関係ないけど。らんらんら~ん。オールド・オスマンに事の顛末を報告。ロングビルを雇った経緯とか聞いて、老害ってホントにダメだな~と思いつつも、シュヴァリエ爵位の申請を宮廷に出してくれるって言われて見直した。現金な奴?はっはっは、褒め言葉として受け取っておこう!それはさておき、シュヴァリエになれば国から年金が貰える。働かなくても自動的に入ってくるなんて、何と言う素敵システム。タバサが精霊勲章で才人は現金貰ってたけど、関係ないしど~でもいいや。才人オンリー居残りさせられてたのは、恐らくガンダールヴについての説明なのだろう。うん、これも私には関係ない。だからルンルン気分でさっさと部屋に戻って来た。…うん、それで、何でルイズも部屋に来るの?今夜はフリッグの舞踏会なんだから、さっさと自分の部屋に行けばいいのに。「ええと、話ってなにかな~?言っとくけど、ドレス貸してって言われても無理だよ。貧乏的な意味で」何故かもじもじしてるルイズにワインを出しつつ訊ねる。「そ、そんなんじゃないわ。ええとね…その、」なーにを恥ずかしがる?才人相手に告白でもするならその態度はグッドだが、私にその態度は意味分からん。ゆりりんぐに目覚めたとか言われたら逃げるよ?有り得ないだろうけど。「…私ね、今回の事で、改めて思ったの」「うん?」さっさと言え。で、自分の部屋に帰る作業に戻るんだ。「私、誰かに認めて欲しくて、でもこんな性格だから…その、友達とか言える人、なかなかできなくて、」あー、なるなる。友情確認か。おっけーおっけー、分かったよ。分かったから早く済まそーっと。私はそこまで言ったルイズを抱き締める。抵抗はなかった。お得意のツンデレーションは同性には適用されない模様。でもキュルケには適用されてるような。違いは何だろな?「なーにを言い出すかと思えば。私はとっくの昔からルイズの親友を自負してたんだけどな?それが私の独りよがりだったなんて言うのはナシですよ~?」「…うん」そうそう。親友だから将来的にヨロシクね、公爵令嬢さま☆「じゃ、舞踏会までそんな時間ないし。また会場で会いましょ~」ルイズを離し、私たちは微笑み合う。いやー、この笑顔を見ると罪悪感膨らむね~。なんて。ようやく1人になった。…と思ったのに何故にオマエがここに来る?ルイズを見送って(追い出して)数分後、今度は才人が現れた。もう着替えてるって事にして部屋に入れないどこうかとも思ったが、気を取り直して入れてあげた。でも要件はさっさと済まして欲しい。「それで、才人君はど~した?ゴーレム戦で怪我したなら、ラリカ特製のジェネリック秘薬をあげるけど。その他学院について聞きたいなら私よりルイズが適任だよー」「いや、そうじゃないんだ。ラリカには一度、ちゃんとお礼を言いたいなって」「ふむ。お礼を言われるようなコトをしてあげた記憶がなっしんぐだけどな…?」ココアの事なら別にいい。下心アリだしね。前回の人生では微塵も使わなかった使い魔だから、別に今回使えなくても問題ないし。どうぞ勝手に使って下さいな。「何言ってんだよ。俺、ラリカには世話になりっぱなしじゃんか。呼び出されて最初に“普通に”接してくれたのもラリカだし、ギーシュん時も助けてくれた。自分の使い魔なのにココアをいつでも貸してくれるし、今日だってラリカに言われなきゃ、ゴーレムを倒せなかった」「いやー、それは買い被りだよ。私は別に何もしてないって。才人君が頑張ったから、今の結果になってるだけ。むしろ、もっともっと自分を誇っていいと思うなー」笑ってみせる。マジで私は別に何もしてない。放っといても解決した物語に、ちゃっかり介入しただけなのだ。「…何となく予想してたけど、やっぱそう言うと思ったよ。ラリカならさ」才人も笑う。屈託のない笑顔だ。同じ笑顔でも私のとは全く違う。「そう言えば、ゴーレム戦で斬伐刀もちょこちょこ使ってたけど…デルフリンガーあるから無理に使うコトはないよ?剣士にアレは似合わないし」一度あげると言ったモノだから、返せとは言えないが…使わなくなったら返してくれると有難い。貧乏性言うな。「いや。斬伐刀は立派な愛刀だよ。似合わないとか言われてもずっと使うつもりだから。…それに、ラリカがくれた刀だし」…まあ、気を遣ってくれるならそれはそれでいいけどね。狩猟刀はまた必要になった時に買うかな。誰かに作ってもらってもいいし。「そっか。ありがとね才人君。…ところで今夜は何があるかご存知?」「確か…何とかの舞踏会とか言ってたっけ」「フリッグの舞踏会。学院の生徒が着飾って踊る、ダ~ンス・パーティ~。イエ~イ」だからして、私もそろそろ着飾らないといけないのだよ。察して出て行って下さいな。私は杖で才人の胸を軽く小突く。「可愛いルイズがより可愛くなってるかもかーも。一見の価値アリ。ジェントルメン、ちゃんとエスコートしてさしあげてね?…というわけで、こんな所で油売ってちゃダメダ~メ」だからそろそろ帰ってね☆というか早く戻らないとルイズの機嫌が悪くなるでしょーに。そんな意味を込めて、にこっと微笑んどいた。…。よし。行ったか。今度こそ誰も訪ねて来ないように、“ロック”を掛ける。ドアには『着替え中。開けたらココアけしかけます☆』と紙を貼っておいた。…ふう。つ~かれた。※※※※※※※※予想通り、私にダンスを申し込んでくるような見る目のない男子はいなかった。いやーさすが貴族の坊ちゃま方ですな。お目が高いたか~い。あは。べ、別にヘコんでないけどね。ヘコんでたのはお腹だけなんだからね!と心の中で独りツンデレーション。深い意味はない。というわけで、れっつ食事。食べようとしたら、青いのが前に座った。…おやおや、タバサさんですか。今から一心不乱にハシバミ草を貪るのですね?分かります。どうぞどうぞ。良かったらこっちにあるサラダも食べて下さい。とか思ってたら話し掛けられた。「あなたは」「ん?」「ゴーレム戦で、弓を使っていた」…うん、使ってたよ。で、何?「どうして?」どうしてって言われても…。「貴族の私が“どうして平民の武器を”ってコト?」コクリと頷く。「あえて言えば“必要だから”。弓は確かに平民の武器だけど、平民しか使っちゃいけないなんて決まりはないしね。“使えるものは何でも使う”。コレすなわち我がメイルスティア家のモットーでありま~す。それに“フライ”をしながら遠距離攻撃できるって、色んな意味でかなり便利だよー」上空から獲物を射る。こんな事、ただの狩人にはできないだろう。メイルスティア家の食卓に並ぶ肉の90%は私が仕留めた獲物だったのだ。ハンター・ラリカは伊達じゃない。…てことは、私がいない今のメイルスティア家って…悲しい食卓?肉が食いたいよーとか喚きながら強制ベジタリアンと化した家族を想像して切ない気分になった。いつの間にかタバサは料理を食べ始めている。私の回答は無視ですか。「…これ」無視してくれてた方が良かった。タバサがハシバミ草のサラダを差し出してきた。いやそれニガイから。「ハシバミ草か~。じゃあ、これをこ~して、こんなんどうでしょ~か」ハシバミ草をパンに挟み、適当な肉と野菜を入れる。恐ろしく適当なサンドイッチだ。アホみたいに苦いハシバミ草も、こうすれば何とか食べられるだろう。多分。ナイフで半分に切り、無言でその作業を注視しているタバサに片方を渡す。「…?」「そのまま単体で食べるのもいいけど、こうやって色んな具と一緒に食べると、新し~い可能性が見付かるかもってコトだよ」ま、ハシバミ草なんて単体じゃ食べられないからこうしただけなんだけどね。一口齧ってみる。…うん、悪くない。てか美味しい。苦味もいいアクセントになっている。料理なんぞ丸焼きとかしかできない私だが、成功せいこ~。やってみるもんだ。タバサもぱくっと齧り、ちょっと目を見開いた。「…おいしい」「お気に召したようで何よりですよー。さ、どうせ踊る気ないし、どんどん食べよーか」人に変なモノを勧めてないで、勝手に食べててお~くれ。「…色んな具と一緒に。新しい、可能性」…何かまた復唱してるけど、気にしたら負けだ。あー、料理でりーしゃす。何もかも忘れて食べてやる。あい・きゃん・ふらーーい☆※※※※※※※※ダンスで主人の相手を務める使い魔に、デルフリンガーがおでれえたし始めた頃、お腹一杯になった私は会場を後にしていた。いくら料理が美味しくたって、タバサじゃないんだから胃袋は有限だ。どーせ残っててもダンスに誘われる確率ゼロなのでさっさと帰った方がいい。廊下には私の足音だけが響いている。学院のほぼ全員が舞踏会会場に行っているため、他の場所は無人だ。セキュリティとか全く考えてない。無用心にも程があるだろう。どーでもいいけど。「みっしょんこんぷりーと。こんぐらっちれ~しょん、ラリカ」心地よい酔いに任せて呟く。私の計画は“成った”。もう原作ストーリーに関わる必要はないだろう。ルイズ達とは付かず離れず、程よい関係を保っていけばいい。危険がない程度に状況を聞き、ストーリー進行に合わせて最善の行動をする。私がいなくても、彼女らは勝手に世界を守ったりしてくれるだろう。間接的に私の未来を守ってくれるだろう。そもそも私はイレギュラーだし。ここらで潔く退場しないとね?引き際はとても重要なのですよ。計画通り。うん。計画通り…のはず。