第五十六話・キーワードは“ティファニア”世界は“こんなはずじゃなかった”に溢れている。だからこそ、逆転勝利は美酒になるのです。…私としては、安酒でいいんだけど。だめだ。なーんも思い付かない。冷静な私は只今品切れ中だ。第三者視点での“私”を自覚させられ、何だかいろいろアレだ、その、よく分からん。マチルダの視線は答えを急かしているし、時間は私に味方してくれない。疑惑とか敵意とかばっかり膨れ上がって、私の寿命は加速度的に短縮中。逆上して立ち向かおうにも実力の差は歴然、戦いにすらならずに数秒後にはブリブリミルの身元へ旅立っていること請け合いだろう。とか何とか考えている間も、時間ってヤツは無慈悲にも流れている。私の立場はすくすく悪い方向へゴートゥ~ヘル。「答えられないってわけ。なら、」「ティファニアは、」マチルダの言葉を無意識で遮る。ほんの僅かだが寿命が延びた感。咄嗟に出た“テファ”の名前は効果覿面だったようだ。「…テファが、何だって?」…何でしょう?うん、何て続けりゃいい?かわいいよねー、猛乳だよねー、とか言ったら間違いなく殺される。今さらあの子何者なんですか?とか訊ねても同じだろう。「テファが、何?…焦らすんじゃないよ。答えな、メイルスティア」無言でも死ぬなコレ。効果覿面すぎて逆に殺気マシマシだ。ええい!!どーせ思い付かないんなら…!!「ティファニアは、“虚無”の担い手。そして始祖の…いえ、多分ですけど、アルビオン王家の血を引いている」「!?」一瞬、マチルダの表情が固くなる。当然だけど。てか何言っちゃってんの私。よりにもよって…ん?あ…、お?おおっ!?これはもしや…!!暴走中だったアタマが“何か”を閃く。マチルダのそれが再び疑惑の目に戻らないうちに、続けた。「ティファニアは“そう”直接は喋っていません。きっと私に知られたことも気付いてないでしょう。…とは言っても、恐らくそうだろうっていう“推理”だったんですけど、ミス・フーケの様子を見る限り…正解みたいですね」イエス!イエス!イエス!!イエスぅぅ!!!…心拍数が上昇する。さっきまでのとは違う興奮だ。考えより先に出た台詞からのスタートだったけど、これはイケるかもしれない。脳味噌が高速回転、アドレナリンぽこじゃか噴出してインスピレ~ション沸きまくりだ。「…“推理”?」「私は“虚無”のルイズを傍で見てきました。だから分かるんです。系統魔法も、先住魔法も使わない…いえ、“使えない”ハーフエルフ。何気ない会話の中で聞いた、どの系統にも当て嵌まらない魔法。そしてその“虚無”が使えるのは始祖の子孫のみ。これだけヒントがあれば、誰だって“推理”できますよ」よし、これで『暢気に軟禁生活』と『何も訊ねようとしない』理由付け完了だ!!ティファニアに確認取ったって、“何気ない会話の中で訊き出した”んだから覚えてないのは当然だって言い張れる。のほほーんと過ごしているようで、実はメイルスティアさん、言葉巧みに知りたい情報を聞き出してたんですよ。質問がなかったのは既にあらかた予想が付いていたから。尋問されて仕方なく、前倒しなカタチで“推理”を公表したのだ。実に知的ですな。策士ですな。嘘だけど。でも、その他の…主にロン毛を煽った理由とかの言い訳はまだ無理だ。てか無理だ。だからって諦めない。チャンスは死ぬ気で掴む。使えるものは絞りカスになるまで使ってやる。コイツのウィ~クポイントは“ティファニア”、ならそれを徹底的に使う。彼女の話題で冷静なアタマをヒットさせてこっちのペースに引き込んでやる。「同時に、ティファニアにとって貴方がどんな存在なのかも…何となくですが、察したつもりです。そしてこれも“推理”になりますが、貴方が“フーケ”になった理由は、」「…それ以上は言わなくていいよ」マチルダが私に向けて、手で制止するようジェスチャーをする。実に分かりやすい反応だ。OK、では追撃をば。「私から言うのは、ダメです」「…」「ミス・フーケ、いえ。…ミス・マチルダ。私から言うのは、ダメなんです」真っ直ぐにマチルダを見詰める。さっきまでのプレッシャーとか敵意が、急速にしぼんでいくのが分かった。ついさっきまではヤツから私への尋問モードだったのに、今はどっちかって言うと私が攻めてる構図。このまま乗り切って誤魔化し切ってやる!!「大切なものを大事に扱うのと、腫れ物を扱うようにするのとは違います。ティファニアはもう子供じゃない。自分の足で歩き、自分の考えで進んでいく…それができる、いえ、しなければいけないんです」まあ、実際おマチさんは“原作”で自主的にティファニアを自立させたんですがねー。“フーケ”までは伝えてなかったけど。つまるところ、私の言ったコトは少なからず“今”のおマチさんの頭にもあることで。全否定なんぞできるはずもないだろう。「…私が言えってのかい?“フーケ”の事を、伝えろと?」よし乗った!!これで『いや、まあそういうのは置いといてさっきの質問に答えな』とか言われたらちょっと危なかった。こみ上げる高揚感を抑えつつ、真面目な顔&口調で続ける。「全部です。“フーケ”だけじゃない、ワルド様の事も教えてないですよね?それもです。包み隠さず、何もかも。このままじゃきっと…どちらも後悔する」乗り切れ、乗り切れ、今を切り抜けろ…!!時間さえどーにかできれば、それっぽい理由とか考えられる。考えようによっては、第三者視点での“私”を自覚できたのは大きな収穫。それを踏まえて最初から整理するんだ。矛盾をなくし、今度こそ完璧な“嘘”を纏ってやる。だから、この危機は乗り越えなくては…!!「知ったような、」おマチさんはまだ私を睨んでいる。でも、さっきとは篭っている意志が違う。「知ったような口をきくんじゃないよ。あんたが思っているより、」「貴方が思っているより、彼女は大人です。本当は私なんかよりも貴方の方が分かっているはずです。もう、彼女は無知で無垢で無関心な子供ではいられないと」「…っ、」「逆にお聞きします。ティファニアは、貴方の“妹”は、“娘”は…“それ”で、貴方を嫌いになると思いますか?軽蔑すると、思いますか?」無言。よし、イケる!!“私”のことなんざ微塵も信用してないだろうけど、それがティファニアってコトになれば話は別。もう乖離激しくって使えないと思ってた原作知識だけど、まだまだ利用価値はあったようだ。そして天はこの絶体絶命のピンチから私を見放さなかった!やっぱり日頃の行いが…は、あんまりアレだから、そう、努力がようやく実を結び始めたな!!さあマチルダ・サウスゴータ、葛藤しろ!悩め!!こんなポッと出の小娘に、子供の頃から面倒を見てきたカワイイ可愛いテファを信じる心が負けてるなんて嫌だよねェ?でも、真実を言って嫌われちゃったらカナシ~よねェ?それとも、ここまで言われて、あんたなんかに言われる筋合いはないって“逃げ”る?おマチさーん、どうする?どうなる?どーしよう??ふはははは!!大切なものを大切に思うがゆえに、オマエは苦しむのだ!私なんぞに付け入る隙を与えてしまったのだよ!!そう、当初の目的、私がまだ答えてない“疑問”とかを忘れてしまうほどにな!!…我ながらクズだな。今更だけど。否定する気も正す気もないけど。屑としてしか生きられないのは自分が一番理解してるから、屑を貫いてやる。さてと。頃合か。私は真面目な顔を崩し、微笑んだ。「私は、私の“友達”が“そう”ならないと信じています」だから。「貴方も、信じてあげて下さい。私じゃなく…ティファニアを」そう言い残し。私は黙りこくったマチルダに軽く頭を下げ、部屋を出て行ていった。※※※※※※※※正直、小躍りしたい気分だ。何と言う達成感、何と言う開放感。実際は問題を先送りにしただけで微塵も解決してないし、言動にツッコミ所満載だったけど、時間は稼げた。今はそれで充分、明日の朝には完璧に理論(言い訳)武装した新生☆ラリカが誕生していることだろう。あ、でも明日はロン毛が私に“仕事”とやらを…。いや、待てよ。それもティファニアを利用すればもしかして何とかなるんじゃないか?“お話”の席に彼女を同席させ、おマチさんを煽って“告白”させる。さっきはああ言っといたが、恐らくティファニアが“怪盗フーケ”やワルドの国家&許婚裏切りを知ったら2人に対する信頼度は大幅ダウンするだろう。彼女の性格上、露骨に態度を変えたりはしないだろうけど効果はあるはずだ。そして逆に私には、ここしばらくの共同生活で無駄に育まれたエセ友情があるのだ。そんな状況で、ロン毛が私を囮とかに利用するなんて話せばどうなるか。テファ 『そんな…あんまりですワルド様!!マチルダ姉さんも何か言って…ハッ!?まさかマチルダ姉さんもそんな非道い事を…!?』そうなれば、これ以上ティファニアに嫌われたくないおマチさんは簡単にYESと言えなくなるだろう。ロン毛も、“虚無”に嫌われてまで使い捨てるしかできない駒=私を使うなんてしないはず。てか、もしまだティファニアが“虚無”だって知っていなかったら、その事実が分かった興奮で私なんざどーでも良くなる可能性だってある。おぉ、凄いコレ。全部解決しそう。神はいた!ティファニア最高、愛してる!ゆりりんぐな意味でなく!!つまり友情万歳!!ばんばんざーい!!…よし、素晴らしい塞翁が馬状態。方向性は決まった。後はじっくり計画を煮詰めるのみ、難易度もさっきまでとは比べるべくもなっしんぐ。この期待と高揚感はとどまるところを知らないぜ!ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア、改めていくぜふぁいとーぅ!!!※※※※※※※※<Side Other>「あ…、ワルド様」2階テラス、背に掛けられた声にワルドは振り返った。「ティファニアか。風呂上りに夜風でもと思ってね。…どうした?もしかして、探させてしまったか」「いえ、その…通りかかったらお姿が見えたので、あの…お邪魔してしまいましたか?」いや、とワルドはかぶりを振った。「ちょうど戻ろうかと思っていたところだ。それに2人の話も終わっているだろうし、マチルダには風呂が空いたと伝えなくてはね」そう言って微笑む。自然と目が合い、ティファニアはどこか慌てた様子で視線を逸らした。「…ん?」「あ、い、いえ、何でも…そ、そうですね。マチルダ姉さんに教えてあげないと」「ああ」僅かな沈黙。じゃあ戻ろうか、とワルドが促し、やがて2人は歩き出す。渡り廊下に吹く風が心地よい。遠くに潮騒が聞こえる。「あの、ワルド様」「ん?」「夕餉は、その、いかがでしたか…?」「ああ、貝のパスタは久し振りだったな。何年か前にどこかの港町で食べたきりだったか。…美味しかった。もちろん、お世辞じゃあない」「!!そ、そう…ですか。ありがとうございます…」「はは、それは逆じゃないか?礼を言うべきは僕の方だと思うが。…そうだな、改めて言おう。ありがとう、本当に美味しかった」「その、……いえ…」「…」「…」「…あのっ、」「ん?」「あ…、いえ、何でも……すみません…」「…そうか。それと、別に謝らなくていい」「……はい。その、すみま…、あっ」「…」「…あぅ……」くくっと声を漏らし、微かに笑うワルド。そして恥ずかしそうに俯くティファニアの口元もまた、同じように綻んでいた。