第五十三話・こっちはこっちでナニかが進むあ~ばば、あばば。島の中の鳥は、いついつ出れる?夜明けの晩に、屑と虚無が出会った。私の未来はど~こへ?とりあえずもう1週間ほどダラダラ過ごしてみました。てへ☆…ってのは冗談で、どうしようもなかったってのがリアルな本音。等身大の自分。自分探しの旅に出たい。具体的に言うとガリアへ。うん、できることならとっくにそ~してるんですがね。あばばばば。とゆーか、この状況ってもう身動きとれない。ここは我がメイルスティア領みたいな“陸の孤島”じゃないホントの意味での“孤島”。どこの国の領土に属してるかも不明、屋敷のてっぺんから360度見渡してみても陸地っぽいのは見当たらない。まあ、本土と簡単に行き来ができちゃったらティファニアの危険が危ない(?)し、とーぜんっちゃ~当然なんだけど…こっち側からも島から出られません☆“フライ”による逃避行飛行も無理。どっちにどれだけ飛べばいいのか分からない空の旅なんて蛮勇を通り越して自殺行為だ。確実に途中でガス欠を起こして母なる海へと還るだろう。海のモクズにはなりとうない。ここは平穏が約束された“檻”だ。見張りもいなくて柵も見えない完全包囲。出る気とか皆無っぽいティファニアにとっては普通に天国なんだろーけど。「ラリカ?」「ほいさ」隣に座ったティファニアの声に我に帰る。「どうしたの?ぼうっとして」「物思いに耽っていると言ってくれたまへ。そっちの表現の方が淑女的にいい感じゆえに。…ま、ちょろっと考え事をね~」ティファニアとの間に築いたエセ友情は、今も無駄に育まれてる。まあ、この島にいる彼女と同年代の女の子なんて私だけだし、同居してるって時点で仲良くなるのは必然だ。でも、あんまり仲良くなりすぎるのも困る。“虚無の知人”っていうステータスはルイズの件で懲りてるしね。確かにティファニアはルイズに負けず劣らずいい子だ。大人しくて優しくて、ちょっと世間知らずっぽいのも実にテンプテーション。容姿と性格の魅力値MAX。もし彼女が一般人で、“原作”に出てこない人材なら迷わず心の底から友達になって下さいとお願いしただろう。…なれるかどうかは別だけど。でも…残念ながらこの子は“虚無”で“重要登場人物”。加えてロン毛やおマチさんと密接すぎる関係を持っている。この現状だと才人とのラブコメ要員にはなれそーにないけど、それでも“虚無”って時点で特別枠は確定だ。この世界が、時代が放ってはおかないだろう。ゆえに、傍にいるとどんなトンデモトラブルに巻き込まれるか分かったもんじゃ~ない。というか、ロン毛は私をなんらかの策に利用するために連れて来てるんだし、実際は現在進行形でトラブってるな。つまるトコロ、ここは…彼女は私の目指す“平穏”な日常とはまさに対極な場所、存在。長居すればするだけ不利になってくし、ど~にかしておサラバせねば。「考え事って、もしかして…“故郷”のこと?」「あ~、そーいえばティファニアはワルド様たちから私のコト聞いてたんだっけ」「うん。詳しくじゃないけど。…ラリカはトリステインの貴族、メイルスティア家の長女なのよね?そして、親元を離れて魔法学院に通ってるって聞いてるよ」「いくざくとりーそのとおり~。わたくし、じつは貴族のおぜうさまなんですわよ?おほほのほ。………ま、ピンキリ中のキリキリなんだけど。平民(の中でも貧乏な平民)に一番近い貴族?うん。それもアレだから庶民派貴族ということにしといてぷりーず」「ふふ、でもホントにラリカはいい意味で庶民派かも。最初、ワルド様から貴族の女の子って聞いたときはもっと“お嬢様”を想像してたから。ここの、こういう生活とか大丈夫かなって思ってた。でも」「『メイルスティア領での“貴族生活”より優雅な日常が…ここにあった!』」初日、ここでの生活を説明してくれたティファニアに言った台詞を再現してみる。ちなみに気を利かせたとかジョークとかじゃない、まるっと事実を述べたまでだ。とゆーか、メイルスティア領より過酷な土地ってあるのだろうか。…火山地帯とか絶対凍土とか?ヒトが住めそうにないからそーいうのは除外か。「…なんて言うんだもの」楽しそうにティファニアは笑う。あの時も一瞬目を丸くした後、同じように蕩けるような笑顔で笑ったのだ。いやー、我がニセモノなヘラヘラ笑顔とは月とスッポンですな。「悲しいかな事実なのです。とまあ、そーいうワケもあり、“故郷”を想ってどーこーすることは無いかな。というかティファニアはど~なのかな?」そういや我がダメ家族の皆さんはどうしているのだろうか?一応『何かやっちゃったっぽいので逃げた方が吉かもかーも』みたいな内容の手紙を送っといたし、とっくに夜逃げしてるかも。恨まれてるかなー。でも、そこそこ秘薬売ったお金とか仕送ってたし…でも無理に捻出した授業料とかには及ばないか。そうまでしてこのダメ娘を送り出した目的だった、お金持ちの坊ちゃんとかとの良縁…いわゆる玉の輿?も果たせなかったし。そもそも我が器量&メイルスティアのネームブランドじゃ最初からどーしようもなかった気もするけど。うむ、個人的な判断で両成敗ってトコか。“本来”なら、秘薬売ったりもせずに隅っこの方でひっそり学院生活した挙句に焼死ENDだったし、それよりはマシだな!若干。「わたしは…、うん。たまに思い出したりは…するよ。でも、今が幸せだから」そりゃ幸せだろう。ウエストウッドでびくびく暮らすより、この“楽園”の方がいいに決まってる。私だって、環境的には魅力的だと思うし。あくまで環境的には。ちなみにティファニアの過去に関しては(“原作”情報で知ってるけど)詳しく聞いてない。ロン毛、おマチ姐さん両人とも『ハーフエルフの女の子』だとしか言わなかったし、ティファニア自身も身の上は語らなかった。実にいい判断だと思う。さすがにアルビオン王弟の隠し子と告白されたらヤバいし。そんな秘密を知っちゃうと、主におマチさんから口封じされかねない。そういえば、ロン毛はこの子が“虚無”だって知ってるのだろうか?“原作”では確か、おマチさんのみの関りでロン毛とは接点なかったような気がする。でも、目の前の彼女からは普通に『ワルド様』なんて単語が出てるし、むしろ何だか親しげな感じもする。原因不明の乖離だ。一体全体どーなってるのやら。疑問は尽きないけど、聞くのは無理。知るのはリスクが高すぎる。でも、もしロン毛が彼女を“虚無”と知ってるとすると、ティファニアの安全というより“虚無”の1人をストックしておくためにこの島を用意したのかも。でもそんなのティファニア☆LOVEなおマチさんが許すはずないし…。ふむ?この話題は終えた方がいいな。陰謀臭がする。うっかり知っちゃいけないコトとか語られたら困るしね。私はあくまで“今は”ここにいるだけであって、永劫じゃ~ないのだ。口封じで始末されるのはもちろんヤダし、口封じ回避のためにずっとここで暮らすハメになるとかもできれば遠慮したい。とりあえず今日の夕食にでも話題を変えようと、顔を彼女に向ける。…はい、どう見ても『わたし幸せいっぱいですぅ!』ってぇ顔じゃ~ないですね。むしろ哀愁。いつポロリと“本音”を語り出すか分からない顔してる。この話題は地雷だった…!無駄に親しくなった弊害がココに。“こいつだったら話していいよね?”的な雰囲気バリバリなんですが。…そうはさせるか。させてたまるか。ティファニアが小さく溜息をつく。そして、何かを決したように息を吸い込み―――、「ラリカ。わたし、ね」「おりゃ」「ふあッ!?」私の指が決意を砕く!話題を変えてと訴える!!喰らえ!雰囲気ブレイカー!!指で彼女の脇腹を突く。色っぽいんだか何だかよく分からない声を漏らし、ティファニアは身をよじった。その瞬間、今まで纏っていたアレな雰囲気が霧散する。「なっ、何するの!?」「ん?幸せ言ったくせに暗~い顔して溜息なんてついた友人に喝を入れようと」「それは…」「ティファニア」理由なんぞ言わせないぜー。聞かないぜー。いつでも逃げられるように立ち上がる。テキトー言ってこの場は逃げようそうしよう。笑みを作り、驚き顔から再び暗~い顔になりかけたティファニアの頭をわしわし撫でた。ぐちゃぐちゃの髪型、これではもうカッコつかないだろう。シリアスな話はこれで封じた!…それにしても髪の毛さらさ~ら。ルイズとタメを張れるんじゃないか?しかも貴族生活してないのにこの髪質とは…やはりエルフの血か。おのれエルフ。チート種族ずるいぜ☆「ラ、ラリカ?」「溜息つくと、シアワセが零れ落ちちゃうよー。“今が幸せ”なら、“今の幸せ”をぶれいくしちゃうよ~な行為は慎みたまへ。どぅゆ~あんだすたん?」そう言いながら大仰にやれやれ、と溜息をついてみせる。「でも今ラリカだって溜息ついたよ?幸せ、こぼれちゃうんじゃ」「私のは“零れた”んじゃなく、“溢れた”のです。あまりにも多すぎて。盛り盛りも~りの表面張力、湯水の如く溢れるシアワセ?」「…もう」ティファニアも再び溜息。でも、さっきとは質が違う。口元にも笑みがあった。「あ、また」「えと、今のは…溢れたの」「おおっと。こいつぁ~1本取られたパクられちゃったぜー。しかもその笑顔で言われたら説得力MAX。…んじゃ、気を取り直したところで話題変更。今日の夕食の件だけど、貝のパスタが食べたい風味」よし、パーフェクト。自然な流れで話題を変えて、無難な会話に回避した。さすが私!でも根本的な解決にはなってないかも。爆発するはずだった爆弾が不発弾になっただけだ。この不発弾はいつ、どんなタイミングで爆発するか分からない。「貝のパスタ?確か前に採ってきて干した貝が残ってたような…」少し考える様子のティファニア。ま、とりあえずの危機は去ったようだ。にしても、こやつはナニを言おうとしてたのか。現状に不満?ウエストウッドよりも平和なハズのこの島生活が?多少はスリルがあった方が好きとか?それとも、“友人”に隠し事をしてるのがいまさら心苦しくなったとか…?前者だったら知ったこっちゃ~ない&私に言われても知らんし、後者だったら逆にいい迷惑だ。多少は気になるけど今後も話させないよう気をつけねば。「そんな保存用のじゃなくても、時間はあるから採りに行けるよ。ヒマだし、もしアレだったら私が“フライ”でひとっ飛びしてこよ~か?」屋敷から海岸までは徒歩30分程度。林を抜けて丘を下った先だ。一直線に飛んで行けば数分で着くだろう。岩場で貝を採るくらい別に2人で行く必要もないし、この機会に独りで考え事をするのもいいかもしれない。最近はほぼ常に一緒に居たし。こんなほのぼの日常ゆえに薄れかけてるけど、現在も絶賛ピンチ中なのだ。うん、そうだ。いい機会かもかーも。もう充分に鋭気は養ったし、そろそろマジメに考えねば。今後の身の振り方についてとか、アホのワルドが私にナニをさせる気なのかとか、“その時”の対策も練れるだけこねこね練っといた方がいいだろう。「う~ん、じゃあお願いしようかな。4人分はどっちにしたってなかったと思うし」「オケーイ、おまかせあ~れ」よーし、じゃあ海岸まで……。4人?私、ティファニア、以上。ん?アレ?「ティファニア。計算問題です」「え、また?」「いちたすいちは?」「あれ?…もしかしてバカにされてる?」「はりーはりー!早く答えを!」「…2」「だよね~。私とティファニア合わせると2人だよね~?4人分って」「わたし、ラリカ、マチルダ姉さん、ワルド様の4人」「…後半のお二方はいないでしょーに」「まだね、でも夕方には着くと思うよ」「……初耳なよーな気が」「言わなかったっけ?ええとね、定期的に2人はこの島に来てくれるの。調味料とかほら、お店もないし手に入らないでしょ?そういうのを持ってきてくれたり、後はいろいろ世間話とか、」何かティファニアが喋ってるけど、聞こえない。確かにこの状況だったらいつ“その時”が来たっておかしくはなかったけど!やばい。まだ、な~んも対策考えてない。あっるぇ~?やだ…なにこれ…。このタイミングで?いや、まだ大丈夫だ、“その時”が今回とは限らない。多分大丈夫だ。恐らく、きっと!…でも、私の“大丈夫”って…今までの経験上…………。あ、あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!!!