第五十一話・グリフォンの背に乗って。素敵じゃない空の旅をれっつ☆しんきんぐ・たいむ。あんど“駆け引き”おしゃべりんぐ。グリフォンに2人乗りで空の旅。ココアよりはやーい♪けれど、微塵も嬉しくなーい♪てかこのグリフォンってラ・ロシェールで乗った子?うん、ロクな思い出がないぜ☆そして後ろを飛ぶグリフォン・フーケ号。あーんど私の荷物。後頭部にフーケからの視線を感じる。痛いくらいに。理由は未だに不明だけど、確実に睨んでるな、あの人。「君は、」ロン毛の声。もちろん前を向いたままだから表情は分からない。これがココアの上とかなら結構自由に体勢変えられるんだけど、乗グリフォンは基本的に乗馬と同じだ。向き合うどころか横向きに座るのだって無理。まあ、コイツの顔とか別に見たくもないからいいんだけど。「はい?」「相変わらずのようだね」「あー、相変わらずとは?」「聞き及んでいるよ。アンリエッタ姫…今は女王陛下か。彼女に弓を射ったそうだな」あれって一応極秘じゃなかったっけ?何で知ってるんだ?ああ、地道なスパイ活動の成果か。戦争中だし、情報戦は何より大事。きっとお城の中にはスパイの1人や2人、ザラにいるのでしょーね。てか、それより気になるのはコイツが“それ”を知ってるならフーケも知ってるはずってコト。でも確かにあの時、トリステインから逃亡するって言う私を訝ってた。ど~いうコトだろう。情報伝達とかがアレなのか?「あ~、あはははは…。まあ、やっちゃったな~って感じですよ。でも、」「後悔はしていないんだろう?」「はい。ああしなくちゃ、いけなかったですから」あの時はね。後悔するとしたら、最初の一撃で仕留めなかった事。誰かが殺ってくれるとばかり思ってた事。原作メンバーの友情パワーとか忠誠心とかをナメてた事だ。信じる者が“すくわれる”のは足元だけだ。特に主人公補正とかも皆無で、逆に死亡フラグだけは乱立する私みたいな屑モブにとっては。まあ、それが再認識できたのは収穫かも。まだ死んでないし、前向きに行こう。後ろを向いた途端に奈落の底へGOだから。「…もしかして、『こいつアホだなー』とか思ってます?」ワルドが小さく笑う。思われてるな。確実に。もしここがグリフォンの上じゃなくて、ワルドが私より弱かったら叩いてやるのに。「だが、君の一撃は効いたようだ。アンリエッタ女王はあの一件で大きく成長した。ウェールズ皇太子の2度目の死で、女王が怒りに我を忘れると予想していたんだがね。私情で国を、兵を動かし、徒に戦争を加速させると思っていた。だが、今の彼女は冷静だ。トリステインが現在何をすべきかを考えている」いえいえ、現在進行形で怒ってますよ、主に私に対して。アンアンの神聖アルビオンに対する怒り具合が原作より低いのも多分、私が原因だ。戦闘前の会話で勘違いされた挙句、どうやらゾンビ殿下は恋人だったアンアンじゃなく、なぜか私に『よろしく』言って逝ったそうだし。恋しさ余って憎さ1000倍。しかも死人に口なし、お相手は貧相なドットの小娘じゃプリンセスのプライドが許せないでしょー。というわけで、アンアンの怒りは分割されたんだろう。私6割あと4割くらいに。「はい。効いたと思いますよ。………私も、イタかったですから」その結果がコレ。ごらんの有様だぜ!アイタタタ~&あばばばば。「…」ワルドは答えない。ま、どーせ呆れてんでしょ~。「君は。…大概に君も、不器用だな」「上手く立ち回れたらな~とは思うんですよ?でも、あはは…まあ、結局私は私だってコトみたいです」あははと軽く笑い、ちょい自虐。ワルドなんぞと話しても楽しくないけど、気まずい沈黙よりはマシだ。私としてはさっさと連れて行く理由とか諸々を教えて欲しいんだけど、焦りは禁物。生殺与奪権は現在進行形でロン毛にあるんだし。会話の中で徐々にそっちの話題に持ってくしかない。「…」「…」でも今はどうやら沈黙タイムっぽい。空気を読んで黙ってよう。うん、その間にちょっと整理しようか。原作乖離しまくってて、もはや原作知識なんてあってないようなモノだろーけど、それでも大きな流れは変わらないはずだ。特に私が関ってない流れなら余計に。正直、どーでもいいやと思ってたけど、ロン毛と行動を共にする(いずれサヨナラしてみせるけど)なら必要不可欠っぽい。現在、夏期休暇の真っ最中。“原作”だと、5巻ってトコだ。アンアンの命令で間諜することになったルイズ&才人が、オカマの人の店で働きながらラブコメる。で、赤青コンビとギーシュ、モンモンさんがその店に行ったりなんだりで、まあとにかくラブコメる。ラブコメにアンアンも微妙に加わる風味。後に学院に来る平民の女騎士が新キャラ登場してほんのりルイズと行動。ただしルイズはあんま活躍しなかったような。結局は何だかんだでアンアンとその人が活躍して、裏切り者を倒して終わる。確かそんな流れだっただろう。そして当然の如く“原作”では微塵も語られてなかった“前回の私”だけど、普通に実家に帰ってた。まだ狩りもできない役立たずな“私”だったから、肩身の狭~い思いをしながらボロっちい自室に篭ってるっていう惨めな帰郷だった。…あんま思い出したくない&微塵も重要じゃないから帰郷の日々はうっちゃっておいてと。休暇が終わって学院に戻り2ヶ月くらい経った頃、確かケンの月くらいに“アルビオンへの侵攻作戦”が発布される。戦争本格スタートだ。学院の男子生徒は募兵官と共に城へ消え、学院が女子校みたいになり、年末、ウィンの月くらいに…うん、“あの夜”だな。ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア(1回目)、バッドエンド。焼死。焼き加減はミディアム?ウェルダン?レアは生々しすぎだから勘弁して欲しい。ふむふーむ。この知識を基準に考えれば、“最初の私”と同じ結末を迎える可能性はゼロだろう。でも死亡フラグなんてどこに転がってるか分かったもんじゃないし、現状だってピンチには変わりないから安心とかしちゃ~いけない。で、恐らく私のせいでいろいろアレになった“この世界”の状況。アンアンの命令で間諜にはなったけど、ルイズ&才人はオカマの人の怪しい夜のお店で働くことなく、これ以上ないくらいに健全なお店で働いた。聞けばギャンブルなんてやろうとも思わなかったようで、むしろお金は増えたらしい。忙しそうなあの様子とか、トラブルなさそーな職場から見て…2人が原作くらいラブコメったのかも怪しそうだ。とゆーか夜は学院に戻ってきてたし。ルイズはほぼ毎日我が部屋に泊まってたし。イチャイチャ一緒に寝ればいーのにね。…暑くて無理か。街で働いてるのが赤青コンビに見付かるのは一応原作と同じ。でも状況は全く違う。昼のお店と夜のお店、如何わしい酒場とお洒落なカッフェ。当然と言えば当然だ。キュルケも特にルイズを馬鹿にする事もなく(バイト終わるのを店で待ってて一緒に遊びに行ったりしてたし)、ルイズもにこにこしながら“今日のおしごと”を話したりしてた。そして重要な乖離だけど、アンアンはラブコメ要員に加わらなかった模様。やはり状況が原作と全然違うからだろうか。とにかく、才人は毎日普通にルイズと一緒に帰ってきてたし、休日も私とか学院の誰かと遊んでたんでアンアンと接触した気配は全くなかった。裏切り者はどうやら才人とかいなくても解決できるレベルだったようだ。こんなトコロか。裏切り者イベント後、次の“お話”は確かルイズの実家へ行く話だったはずだ。シエスタ連れて、何かいろいろ…まあ内容はいいや。とにかく、“次”はヴァリエール家へGOイベント。時間軸的には“侵攻作戦発布後”、つまりこの夏期休暇が終わって2ヶ月くらい後になる。何が言いたいかって言うと…その間は“何も起こらなかった”ってコトだ。少なくとも“物語”に重要なイベントは。いよいよもって現状がイミフだな。学院に訪れた準脇役、そして連れて行かれるどーでもいいモブ女って。人質にする気はないみたいだし、利用価値が本人である私にも見出せない。シェフィールド=ミョズミョズだって知り、例の騙りがバレたって線も考えられたけど…ワルドの態度を見る限りそうでもなさそうだ。一体全体、ロン毛は何がしたい?そして何だか刺々しい態度&コトある毎に睨んできたフーケは?分かるのは、恐らくルイズ達に…原作メンバーにとってはそんな重要なイベントじゃないって事くらい。まあ、私なんかがどーなろ~とセカイは微塵も揺るがないから当然っちゃー当然なんだが。…整理終了。これから数ヶ月は原作的に重要なイベントはなかったし、もし原作にはない作戦を考えてたとしても、駒が私じゃできることはたかが知れる。つまるトコロ、大局には影響ないワケだ。だったらやるべきは1つ、なるべくいいタイミングでコイツらからオサラバする事だな。やはりミョズ姐さんが(バレる的な意味で)心配だし。“前回の私を殺した”ヤツらと感動の再会?(今回は殺されはしないだろーけど)なんぞしたくもない。「君は、何も訊かないんだね」ナニを?って、ああ、連れてく理由とかか。いや、ホントは無駄話なしでちゃちゃっと訊きたいんだけど。そりゃー、ヘタこいて機嫌を悪くさせたら死ぬし。小物には小物なりの考えってモンがあるのです。「必要なら、言ってくれると思ってますから」もしくは会話中にさりげなく聞き出す。ストレートに訊くのは無理ってもんだ。「僕は君らの“敵”なのにか?」「私はワルド様の“敵”じゃないですよ」この状況で『そうですね、敵ですよねー。おのれワルド!』とか言えるワケない。それに色んな意味で“敵”じゃないのは事実だ。個人同士の実力差からしてもそうだし、国民的にも私はトリステインをオサラバした身だしね。愛国心ゼロ。「僕はトリステインを裏切り、君の親友を傷付けた」「私も結果的には似たようなものですよ?一緒です」「違うだろう?僕は自分自身の目的のため。君は…」「この問答ってタルブでもしませんでしたか?」「分かってるさ。だがやはり、」「ワルド様。一緒、です。…おんなじですよ」激しい横風に、思わずワルドに摑まった腕に力が篭る。ちょっとヒヤっとしたなー。まあ、多少のことじゃ落ちはしないだろうケド。てか黙るなワルド。回答ミスったか心配するじゃないか。「…分かった。もうこの質問はよそう。そして約束する。いずれ、全て話すことを」?ナニがどーしたんだ?もっと何か聞かれたりすると思ったのに。ま、いいか。とりあえず今はこれが限界なんだろう。さっさと情報収集したいけど、仕方ない。その“いずれ”に期待して、いろいろ策を考えとこうかな。何だかんだで、トリステインからの脱出自体は上手くいったし。徒歩か馬で逃亡を考えてたけど、グリフォンのお陰でかなり早く遠くまで来れた。見方によっては幸運。ネガティヴのスパイラルに陥ったら抜け出せないから、ポジティブ思考で考えよう。胸の中に生まれた微妙な不安を伴い、空を翔る。はてさて、これからど~なることやら。前途多難。モブに相応しくないくらいのトラブル続き。でも挫けないぜ私!一瞬あばばしても即立ち直って見せるぜ自分!!もうブレないと誓ったし、せいぜい足掻いてやるのです。うふふのふ。………。「ところでワルド様。さっきからずっと背後から刺すような視線を感じるんですが」「少し飛ばしすぎか?しかしこちらは2人、マチルダは1人乗りだ。君の荷物はあるが、そう重くはなかったはず。追い付くのが辛いことはないと思うが」………ええと。「…ですよねー」<Side ワルド>―――――― ああしなくちゃ、いけなかったですから。自らの全てを懸け、『大切』を見失いかけた王女への諫言。揺るがない想いを乗せた矢はアンリエッタの身体だけでなく、心までも貫き…王女は女王になった。―――――― はい。効いたと思いますよ。………私も、“痛かった”ですから。しかしそれは彼女の心も抉り、傷跡を残した。誰よりも他人の心を理解できる彼女だからこそ感じただろう、痛み。あの事件で最も“痛みを負った”のは誰だったのか。「君は。…大概に君も、不器用だな」「上手く立ち回れたらな~とは思うんですよ?でも、あはは…まあ、結局私は私だってコトみたいです」だから…“去る”ことを選んだのか。“最上の忠臣”であるからこそのけじめ。どんな形でも主君に弓を引いた自らへの戒めとして。いや、理由はそれだけではないだろう。以前の旅でも感じていたが、今日一日彼らの動向を観察して確信した。ルイズとガンダールヴ、あの2人との間には単なる“友人”というだけでは済まされない感情が存在している。ともすれば依存にも見えるくらいに甘える“虚無”に、自らの主であるルイズへ以上の好意を向ける“神の盾”。ルイズは恐らく、トリステインよりも彼女を優先して“虚無”を揮うだろう。“神の盾”は恐らく、主である少女と彼女のどちらも天秤にかけられないだろう。彼女らがただの学生だったら問題なかったかもしれない。青春だと微笑ましくさえあったかもしれない。しかし、それは適わない。彼女に依るその2人は、今やハルケギニアの重要人物たる存在なのだ。今は絶妙なバランスで保っているとはいえ、いつ崩れるか分からないアンバランス。崩れれば、取り返しのつかない事態にも発展しかねない現実。彼女は、2人にとって“支え”か“弱み”か。忌まわしきユンユーンの記憶、全てを懸けた諫言の理由。…導き出される彼女の“真意”。「―――― 君は、何も訊かないんだね」簡単な事情説明はマチルダから聞いているだろう。しかし、それだけで納得してもらえるとは思っていなかった。それなのに。「必要なら、言ってくれると思ってますから」「僕は君らの“敵”なのにか?」「私はワルド様の“敵”じゃないですよ」かつてタルブの夜に交わした言葉が脳裏に掠める。「僕はトリステインを裏切り、君の親友を傷付けた」「私も結果的には似たようなものですよ?一緒です」違う。「違うだろう?僕は自分自身の目的のため。君は…」「この問答ってタルブでもしませんでしたか?」分かっている。そして“こう”答えられるのも分かっていた。彼女なら“そう”答えてくれると、心のどこかで確信していた。しかし再び問わずにはいられなかった。「分かってるさ。だがやはり、」「ワルド様」言葉は凛とした声に遮られる。「一緒、です。………おんなじですよ」…!摑まる彼女の腕に力が篭る。微かだが、確かな感触を僕は見逃さなかった。表情は窺い知れない。だがそれだけで十分に解る。…解ってしまう。「…っ」ルイズの髪を撫でる時の、優しい眼差し。ガンダールヴとの掛け合いで見せていた、楽しそうな笑顔。そんな中で秘めていただろう、決意と想い。辛くないはずがない。悲しくないはずがない。だが、それでも彼女は揺るがない。信じた道を、真っ直ぐに見据えている。「…分かった。もうこの質問はよそう。そして約束する。いずれ、全て話すことを」彼女が去ろうとしたその日に、自分は彼女を攫いに来た。それだけの偶然。おこがましく“運命”などと言う気はない。“奇跡”などと信じてもいない言葉を使う気もない。ただ、確信できた。自分の選択は間違いではなかったと。“優先順位”は正しかったと。そして誰へともなしに願う。この“偶然”が、互いにとっても“必然”だったと思える日が来るように。互いの『大切』が、ぶつかることなくいられるように。――――― 強く儚い少女の温もりを、この背に感じながら。