幕間14・変化の兆しと、変化した色々時間は心を変え、変化を促す。決意を固めたり、覚悟を揺らがせたり。プラス、マイナス、私のココロはどっちに傾く?@いう間に1週間が過ぎ去った。光陰びゅんびゅん矢のごとし。なのに、相変わらず同じような日々が続いている。何がどうなっているのか。原作乖離した現状じゃ、私の知識は何の役にも立たないし。アンアンは本気で何を考えているのか?最期の夏期休暇をお情けで楽しませてくれるってトコロか。それとも、原作5巻でやってた裏切り者捕獲で忙しいだけなのか。正直、どーでもいいけど勘弁して欲しい。やるならさっさとやって欲しい。こんな毎日が続くと、錯覚してしまうから。…もしかして、大丈夫なんじゃないか?って、アホな希望を抱いちゃうから。ベッドから上体を起こす。今日も微妙に寝足りない。原因は100%くらいの確率で、“コレ”のせいだろう。隣ですーすー気持ちよさそ~に寝息を立てるルイズを見る。暑くないのかコイツは?暑くないか。暑くなりかけたら私が魔法で部屋を涼しくしてたし。実に寝不足の原因だ。このピンクヘッドは連日連夜、まいるーむにお泊りにきていた。てか、オマエさんと才人は街でギャンブル失敗した挙句、オカマが経営するアレな酒場で住み込み労働するんじゃーなかったっけ?と思い、さりげな~く聞いてみたら、お洒落なカッフェでバイトしてるとの事。1度キュルケ達に誘われて行ってみたら、何のトラブルもなく普通に働いていた。お酒を出していないので絡んでくる酔っ払いなんていない、というか大半は若い女性客だし、男の客も彼女同伴がデフォ。客が客だからルイズがトラブルを起こすことはない。で、キュルケもコレに関してルイズを脅す理由はなく(店自体のレベルが高いうえに、ルイズの接客も問題ない)、王軍の士官が貴重な非番を使ってお茶なんて飲みに来るはずもなく、完全に5巻イベントは消し飛んでいた。…まあ、正直もうどうだっていいんだけどね~。トレビアン・オカマやその娘ジェシカ関連のイベント破綻も、今となっては軌道修正する理由もないし。もーどーにでもしてくれって感じで。「だから夜更かしするな言ったでしょーに」人差し指でルイズのほっぺたをつつく。起きる気配はない。毎晩、その日のバイトがどーだったとか語ってくれるルイズ。公爵令嬢が庶民の店で働くなんて普通はありえないし、毎日が驚きの連続なんだろう。目を輝かせて私に語る姿は、まさに入園したての園児。ままー、きょうはどろあそびしたんだよ!的なアレ。正直、話は大してどうでもいいんだけど、その姿は何ていうか微笑ましい。同年代だけどな!てゆーかコイツ、アンアンの忠実な僕なんだけどな!…あ~、何だこの思考。私相当疲れてる?「ラリカ、ルイズは起きたか?」ルイズお嬢様の支度を終えるとほぼ同時に才人が入ってきた。ノックはもういいや。「おはよー才人君。この通り、バッチリ起きてるぜ~」「おはょ…ぅサイト……」椅子にポケ~っと座ったルイズを見て才人が苦笑する。着替えはバッチリ、髪だってちゃんと梳いてあるし顔も拭いた。脳味噌の方はまだ半分夢の中だけど。「全然ダメじゃねえか。まあ、街に行くまでには起きるか」「ごはん食べれば起きると思うよ。才人君は朝食済ませた?」「食ってねえ。ルイズの隠してたお菓子でも摘もうと思ってたんだけど、見付かんなかったんだ」「あー、それは例のクッキーですな。昨日ルイズが持って来て、全部ココで食べちゃったぜぃ。…もしアレなら才人君もここで朝食食べてく?パンと目玉焼き、あーんど適当なサラダくらいな質素メニューですが」「あ、いいの?じゃあ遠慮なく」「じゃ~作るから、ルイズと一緒にいい子で座っててぷり~ず」原作カップルが仲良く(?)座るのを見届け、秘薬を作る台に向かう。“着火”でアルコールランプに火を灯し、バーナースタンドを設置。そこへギーシュ作のフライパンを乗せ、厨房からパクってきた油をしく。ターナーを装備し、ちょっと前に森で採ってきた卵(何の卵かは知らないけど、鳥の卵ってのは確かだ)をてきとーに焼いた。塩コショウもてきとーでいいや。あと、パンは焼かなくていいや。そのままでOK、めんどいし。ちなみに今朝のサラダは腰痛の秘薬用に使う植物だ。見た目はレタスみたいだし、味も匂いも殆どないから問題ないだろう。とりあえず毒じゃないから無問題。多分。3つの皿にパンとサラダ、目玉焼きを乗せて朝食完成。飲み物は水。シエスタが見たら悲しい眼差しを向けられそうな酷いメニューだ。うん、貴族の朝食じゃないな。少し貧乏な平民レベル?でもまあ、食べるのは私と才人、そして半分寝てる状態のルイズだ。気にしない気にしな~い。てか、普通の貴族は自室で朝食を作るなんてしないか。何だかアパート暮らし中の“佐々木良夫”みたいだな。「はいお待た~せ。ロクなものがなくてもーしわけないでありまーす」「いや!全然俺はオッケーだぜ!…いや、むしろ最高かも」コレが最高とは冗談も度が過ぎまくりだぜ才人君よ。最高とは学院営業中に出される貴族食。私が作ったのは粗食というか、貧困食というか。「実に無理のあるお世辞ありがと~♪それで、食後の飲み物は何がいい?ちょっと苦い葉の紅茶でも淹れようかと思ってるけどけーど。眠気が吹っ飛ぶよー」「じゃあ、俺もそれで」「私…も」おおルイズ、一応意識は保ってたか。「オケーイ。お砂糖はどれだけ入れる?」「あんまり苦くてもあれだし、多めに頼む」「私は、ストレートで。眠気覚ましたいから」「お、ルイズさんちょ~シブい!まじりすぺくとっす!でゎ、何も入れないのは味気ないので、なけなしの愛情でも入れておきましょー。ちょ~っとは味が変わるかもかーも。なんてねー」へらへら笑いながら冗談を言う。「!!…やっぱ俺もストレートがいい」“彼女がシブくブラックコーヒーなのに俺は甘~いミルクセーキ”的な何かを感じたのか、才人が注文を変更する。そんなの誰も気にしないのに。まあ、オトコのプライドってやつですかね。どーでもいいけど。「才人君も変更ね。りょーかいっと。んじゃ、2人は先に食べてて下さいなー」※※※※※※※※紅茶苦っ。こりゃー目が覚めますな。「ところで」「ん?」食後、同じく紅茶を飲んでいた2人に笑みを向ける。「なぜに2人は夏期休暇なのに街で働いてるの?そーいや理由を聞いてないなーとか、今さらギモンに思いまして」どーせ教えちゃくれないだろうけど、話題もないし、「あ、言ってなかったっけ?もうとっくに話した気になってたわ。姫様の依頼で間諜やってるの」…普通に答えられた。これって秘密じゃなかったっけ。「おい、ルイズ」才人が口を出す。失言を止めに、「それだけじゃ分かんねえだろ。…治安の強化、まあテロ対策とかそんな感じだな。平民に混じって噂話とか集めてるんだ。情報ってのは重要だからな、これを軽く見てた俺の国は昔、戦争で負けちまったってくらいだし」逆に詳しく説明してくれた。何考えてるんだこのアホ主従は。アンアンの専属部下になったんじゃないのか?それを、“敵”と呼ばれて“憎まれて”る私にペラペラ喋るなんて。…いや。なるほど、そーいう事か。「そかそか。でも、それなら夜の酒場とかの方がキナキナくさ~い噂は飛び交ってるかもか~も。街で宿とかとって寝泊りした方が効果覿面的な気がしてみたり」2人が街に寝泊りせず、毎日わざわざ学院に戻ってきてる理由。ルイズが無駄に私の部屋に泊まりに来るワケ。「え?それはその…、まあ、いいじゃない。そう、節約よ、節約!それに酒場とかは多分、他の人が担当してるわよ」「俺らが酒場でバイトしてても不自然だって。へんな店だとルイズの身とか危ないし」原作ではバッチリやってたじゃーないですか。…ま、しかしコレで予想は確定だな。学院に戻り、頻繁に私の部屋に泊まる理由。それは“監視”だ。そっちがアンアンからの密命の本命なんだろう。だから間諜とかは別に喋っても問題ないと。その辺の兵士とかに見張らせるより、“友人”に見張らせた方がいろいろ都合がいいだろう。私が強いメイジだったり、フーケみたいなプロ犯罪者とかならともかく、ドットのヘタレメイジ。“虚無”と“ガンダールヴ”なら脱走を止めるとしても何とでもなるし。てっきり、忍者ばりの仕事人にでも監視されてるかと思ってたぜぃ。でもよくよく考えれば、私みたいなザコ学生にそんな無駄コストは必要ないか。おおぅアンアン、なかなか考えたな!「なるなーる。ギモン解決ですっきりしました。で、今日もお仕事と」「ああ。…って、そろそろ行かなきゃまずいかな。ココアも待たしてるし」「サイト、この部屋の窓に横付けしといて。荷物はもう昨日のうちに乗せてあるから」…ヒトの使い魔つかまえて勝手な事を言ってるけど、まあいいや。慣れた。才人が分かった、と答えて立ち上がり、例の棚に置いてあった斬伐刀を後腰に差す。ん?そーいやおでれえた君はどーした?「あれ、デルフリンガーは?」「デルフを背負ってウェイターするのは無理だって。基本的にココアに括り付けてるから、普段はコイツだけ身に付けてるんだ。っと、急ぐか。じゃあラリカ、窓開けといてくれな!」そう言って出て行く。おでれえ太君…私が斬伐刀なんて渡したばかりに…。正直スマン。コレは嘘偽りなく申し訳なく思う。「出発かぁ。ラリカ、朝食ありがとね」「どーいたしまして。お仕事頑張ってきてくだされ」ルイズの頭を軽く撫でる。なんて茶番。オマエ敵でしょうが。「うん。あ、またお店に遊びに来てね。サービスするから」「じゃー、またキュルケとか誘って行ってみようかな。ルイズの給仕さん姿も可愛かったし、才人君のウェイター姿もなかなか似合ってたし。もちろん、お茶も美味しかったよ」笑い合う。片や、女王直属の女官で“監視”する身。片や、女王が憎む“敵”で見張られる身。互いの立場を理解して、上辺では気付かない振りして笑うって。無邪気そーな顔して、ルイズも内心何を考えてるんだろーね?あは。※※※※※※※※ルイズたちが出発し、食器を片付けてたらキュルケが入って来た。ちなみにフレイムは暑苦しいって理由で最近同伴してるのを見てない。実に不憫だ。寒い季節になればきっと傍に置いて貰えるだろうけど。ぬくぬく暖房サラマンダー。「おはようラリカ。出発するわよ」「おはよーキュルケ。あと、唐突に出発する言われてもイミワカランぜぃ」「暑いから湖にね。タバサがシルフィードに乗って待ってるわ」このやりとりも慣れてきた。赤青コンビも暇を持て余してるせいか、毎日のように誘いに来る。で、断る理由もないからついて行くと。それに、この2人はルイズと違ってアンアンの配下にはなってないだろう。ゲルマニア人とガリア人、実質トリステインに敵視されてるも同然な現在、こっちの方が安心できるかも。「りょーかい。特に準備するものもないし、それじゃ~行きますかね」ルイズたちのカッフェに行くのはまた今度でいいか。―――“また今度”?うお?なーんも起きないから、“また今度”なんて自然に思ってしまってる。やばいなー。準備万端だったココロが、放置プレイのせいでぐらつき始めてる?やばいなー。ほんとにやばいなー。…この状況で、処刑とか言われたら………ほんとに、どうなるんだろ?<Side Other①>「隊長!アニエス隊長!」銃士隊の詰所のドアが勢いよく開けられ、若い銃士が声をあげる。「何だ、どうかしたのか?」近くにいた眼鏡の銃士がそんな彼女に声を掛けた。「はい、“例の件”で動きがありましたので。それで、隊長はいずこに?」「アニエスさまなら、エルデマウアー殿と中庭にいるぞ。何でもどこかの貴族からヒポグリフ3頭の寄贈があったそうでな」「では、ヒポグリフ隊が復活するのですか?」「いや、肝心の衛士が揃わなくてはな。しかし再編成されるとしたら、やはりエルデマウアー殿が隊長か」眼鏡を指で押し上げ、中庭の方角を見やる。「あの方が衛士隊の隊長、ですか」若い銃士も同じ方向を見詰め、呟いた。「そうなれば、何と言うか…我々銃士隊にとって、心強いですね」グリフォンと馬を足して2で割ったような姿のヒポグリフに跨ったアニエスは、ぎこちない手付きでその頭を撫でた。ヒポグリフが小さく嘶く。「一通りの訓練は終わっているみたいだな。衛士隊の幻獣としての訓練は、もちろんこれからだが」エルデマウアーは小さく笑う。「エルデマウアー殿」「ん?」「その、先程から同じ事を、と思われるかもしれませんが…、私などにはやはり、」「何だ?そのヒポグリフは気に入らなかったか?」「いえ、そうではなく!やはり幻獣は魔法衛士隊のものです、私には…」「ミラン」やれやれ、とかぶりを振り、彼女が乗っているヒポグリフに手を伸ばす。やはり手馴れているのか、ヒポグリフは目を細め、甘えるように嘴を擦り付けた。「あんたは近衛騎士隊の隊長だろう?格としては元帥にも匹敵する地位だ。そのあんたが“私など”なんて言ったら、ヒラの衛士である俺はどうなる?」「ですが…」「ヒポグリフは寄贈されたが、まだ3頭、しかもそれに乗るべき衛士は揃ってない。隊が再編されるのはまだ先の話だ。それまでこいつらをただ飼い殺しておくなんて、余りに意味がないだろう?それに陛下よりこの3頭の管理を一任すると仰せつかったからな。何をしようが全て権限内だ」「…」「それに、こいつは3種の幻獣の中で一番足が速いし、夜目も効く。陛下の近衛隊長を務めるなら、これほど誂え向きな騎獣はいないと思うが?」僅かな沈黙。やがて、諦めたようにアニエスが苦笑した。「後で後悔されても責任は負えませんよ」「後悔させない働きをあんたがしてくれれば問題ないさ。それとも、近衛隊長に選ばれた身でありながら、ヒポグリフを駆るには実力不足だとでも?」「まさか。陛下の期待には必ず応えてみせるつもりです」「上等だ」笑みを交わす。詰め所の方から銃士が駆けてくるのが見えた。「…何か動きがあったようだな。さて、そろそろ本格的に“狩り”を始める頃合か」<Side Other②>ハヴィランド宮殿の白ホール、そのホール中心に設えられた“円卓”で、“神聖アルビオン共和国”の会議が開かれていた。ほんの2年前まではここにいる誰よりも身分が低かった男が、今は議長兼初代皇帝として上座に腰掛けている。それを囲むのは、彼を祭り上げた革命者たちだ。「…」ワルドはそんな面々に冷ややかな視線を向ける。この中には“傀儡”はいない。しかし、似たようなものだ。偽りの“虚無”に踊らされ、いいように利用される傀儡。逆らえば暗殺なりされて、本当の意味で“傀儡”にされるだろう。この中の誰もが、本当の“本人”である必要がないのだ。…そう、皇帝であるクロムウェルでさえも。「それで、我々にある現在の戦力は、」若い将軍が何か説明している。クロムウェルはうんうんと頷いているが、本当に理解しているのかは怪しいものだ。少し前まで地方の司教に過ぎなかったこの男に、戦力云々の何が分かるのか。説明する彼らも、それは少なからず思っているだろう。「なるほどな。他に報告はないかね?余はすべての出来事を耳に入れねばならんのでね」「では、失敗に終わりました女王誘拐作戦について、新たな報告がありましたので…よろしいでしょうか」年配の将軍が挙手をする。「ふむ?前回の報告以外で何かあったのかね?」…女王誘拐作戦。隠密裏で行われた、“虚無”で蘇ったウェールズを使った作戦だ。前回の会議ではあと少しのところで魔法衛士隊に阻まれ、全滅した…ということになっていたはずだ。ワルドは鋭く目を細め、年配の将軍の言葉を待つ。「トリステインにいる“協力者”からの追報告で…、どうやら誘拐部隊を破ったのは魔法衛士隊ではなく、その、非常に申し上げにくいのですが」「いいから言いたまえ。魔法衛士隊でないとしたら、まさか一般の兵士にやられたわけではないだろう?」「いえ、…“女王の女官”と名乗る“学生たち”、との事です」「学生?」クロムウェルにしては珍しく、いつものある意味能天気とすら思える口調でない、本心から驚いたような声を漏らした。「トリステインと言えば、貴族の子女たちの通う魔法学院があるが…そこの学生に、歴戦の軍人と我が友ウェールズ君が負けたというのかね?」「詳細はトリステインでも最重要扱いらしく、“協力者”も詳しくは分からないとの事ですが、何でも“最上の忠臣”がどうとか。引き続き調べるように指示は送っておりますが…」「………ふむ」口髭を物憂げにいじり、クロムウェルは報告を終えた将軍に座るよう促す。「なるほど、アルビオンの“元”精鋭を退けた学生に、“最上の忠臣”か。なるほどな」そしてこほん、と咳をする。「それは逆に都合が良いかもしれんな。余は今、誘拐作戦に次ぐ新たな計画を練っている。まだここで言うわけにはいかぬが…ふむ。それを踏まえ“協力者”に期待するとしよう。…では、同志諸君。今日の会議はこれで終わりとしようか」彼の言葉に将軍たちは起立すると、一斉に礼をした。「ワルド」廊下を歩きながら、フーケは隣のワルドを見やる。「…どこの国にも鼠はいる、か。僕が言うのも何だがな」ワルドは前を向いたまま、ふん、と鼻を鳴らした。「フーケ。クロムウェルの言っていた“新たな計画”とは、“例の件”で間違いないか?」「“白炎”はもうこっちに向かってるそうだし、次の会議には発表ってなるんじゃないかね。“まだ傷が癒えきってない”あんたにも任務が来るかどうかは分からないけど」ワルドの腕や首にはまだ包帯が巻かれている。クロムウェルには7割程度だと伝えてあるが…それを“使える”と判断するかどうかは分からない。「例の“最上の忠臣”って“あの娘”の事だろうね。女王サマも私怨で憎んでると思いきや、なかなかいい目を持ってたじゃないか。まあ、そのお陰でこうして目を付けられちまったってわけだけど」「………」「で、どうする?あんたの言った通り、クロムウェルは新たな策を実行するつもりだけど?予定通り2人を“やる”か、それともお気に入りの“あの娘”を、」「フーケ、」「マチルダ」フーケ、マチルダが立ち止まる。ワルドは一瞬怪訝な顔をしたが、立ち止まって振り返った。「何?」「私はもう盗賊じゃないんだし、あんたは私の本名知ってるだろ?マチルダでいいよ」「その名は嫌じゃなかったのか?」「…まあ、本当は呼び方なんて別にどうでもいいんだけど」そっぽを向く。ワルドは小さく笑った。「確かにな。なら、好きに呼ばせてもらうとしよう」そして踵を返し、再び歩き出す。「行くぞ、マチルダ。こんな所でぐずぐずしている暇はない」マチルダは溜息混じりに肩を竦め、しかし口元を綻ばせた。「はいはい、人遣いの荒いパートナーですこと」オマケ<Side おでれえ太君>「なあムカデ!最近調子どうだ?」「…」「今日も天気いいよな!昨日も良かったけどよ!!」「…」…何か喋れよ。人語は無理でも、きゅいきゅいとか、がおーとか、何か反応しろよ…。「なあムカデ。おまえさ、実は韻蟲(?)とかで、人間に変身とかしねえの?」「…」「なあ、誰にも言わないから変身しろよ!そして何か喋ろうぜ!!」「…」「…せめて反応しろよ」「…」やべえ。俺、泣きそう。