幕間11・現実逃避という名の休日①ひゃっはーなつやすみだ!のうみそがとろけるまで、あそびほうけるぞ!あはははははははははははは!!!何だかよく分からないうちに夏期休暇になった。檻の中じゃなく、普通に学院で。意味ワカラン。あらゆる点で自分より遥かに格下のダメ人間にダメダメ言われ、上から目線で“えらい”とか馬鹿にされる。加えてなでなーで。完全に堪忍袋の緒が切れるにも程がある状況にしてから、トドメに殺しても別にいいです的なお膳立てまでした。なのに、どーして殺さないんだ?女王様はドMなイケナイ“じょうおうさま”だったの?怒りを通り越して呆れた?それともこれは罠で、破滅(別に覚悟してるからいいけど)へのプロローグに過ぎない的な何か?嵐の前の静けさみたく。まあいいや。どうでもいいや。どーせ結果は変わんないだろーしね。そのうちまた城に呼び出されるか、兵士が捕まえにくるさ。その時まで、好き勝手に生きよう。もはや原作知識を守るために乖離を防ご~とかしなくていいし。あは。そして、開き直った(悪い意味で)私のサドンデス☆夏期休暇が始まった。って言っても正直やる事はない。実家に帰っても狩りしてごはん作って硬いベッドで寝るだけだし。ああ、家族の皆さんにアンアンに憎まれてるからとばっちりが行くってコトを伝えとかないと。でもまあ、彼らなら普通に夜逃げとかするでしょー。ゆえに、それは手紙でいいや。最期の時くらいまでは美味しいごはんと柔らかいベッドを享受したい。あー、でもごはんは無理か。マルトーとかも休んでるし。メイドも必要最小限しかいないし。ま、厨房を借りて自分で作ればいいか。材料くらいあるだろ。………うん、何だか気分は晩年だな。でも不思議と悪くはない。目的が完全に達成不能って分かったんで、使命感とかそーいうのが取れたからかも。よーし、じゃあ今日は部屋に篭って“3回目の私”の為に秘薬の勉強でも、「ラリカー、入るわよ~」とか思ってたら“アンロック”して赤青コンビが入って来た。おお、熱いくせに暑いの苦手な微熱さんと、この暑さで汗ひとつかかないクールな雪風さん。今さら“アンロック”どうとか思わないから安心してくれぃ。とゆーか、今までも口に出して言ったコトないけどけ~ど。「や、キュルケ。昼間っから部屋で飲むとかはレディ的に遠慮したいかもかーも」「違うわよ。街へでも行ってみようと思って。今日はルイズとダーリンもどこか出掛けちゃったみたいだしね。他のボーイフレンドも、殆ど里帰りしちゃうみたいだし」「一緒に出掛ける」私のマントをくいっと引っ張り、タバ子が見上げてくる。おおタバ子、珍しく乗り気じゃ~ないですか。この暑さの中で本を読む気がしなくなった…わけないか。気分転換的なアレだろう。秘薬の勉強は、まあいいか。コイツらとも(命的な意味で)もうじきお別れだし、少しは付き合ってもいいか。「ん、そういうコトならオケ~イ了解行きましょー。あとタバサ、はしばーみ」いつものアレをしてみた。これでいつものように不思議そうにしたら撫でてやろう。それにしても、あと何回できるだろうか。不敬炸裂・王族なでなーで。「また例の合言葉ね。タバサ」キュルケが意味ありげに微笑む。何だ?タバ子が私をじ~っと見上げる。そして小首を傾げ…なかった。「………はしばーみ?」合ってる?みたいな答え。って!タバ子!!やっと、やっと分かって(?)くれたんだね!!まあ、正直この問答に答えなんてなかったんだけど。気分は初めて子供に『ママ』と呼ばれたマザーだ。多分。おそらく。子供なんていないから何となくそんな感じ?「タバサ!」精神的にアレなっていたからか、思わず抱き締める。で、恒例のなでなーで。「あら、合ってたみたいね。それより喜びすぎよラリカ」キュルケが苦笑する。「あ、ごめんねタバサ。いやー、思わず嬉しくなっちゃいまして」うむ、いくらなんでもやり過ぎか。ま、どうでもいいけど。あんまりやって魔法喰らうのもアレなので、放してやる。「別にいい」「怒ってない?」ふるふると頭を振る。おーよしよしタバ子、えらいねー。「そかそか、でも暑かっただろうから、お詫びの“ミスト”をドゾ」杖を振り、霧というか細かい水の粒を発生させる。周りの温度が少し下がり、ほんのり暑さが和らいだ。まあ、タバ子ならこれにプラスして風を起こしたり氷を加えたりできるだろーけど。「…こういう時に水メイジって便利よね」「キュルケには水に加えて風まで得意なタバサがいるから問題なっしんぐかと。一家に1台高性能タバサがいるだけで、寝苦しい熱帯夜も快適に過ごせます、みたいな」「いいわねそれ。タバサ、今日からあたしの部屋に泊まらない?」「あ、でもタバサも寝ちゃったら魔法使えないからダメかも。とゆーか、部屋に2人の体温で余計に暑くなるかもかーも」「だめねやっぱり。タバサ、そういうわけだからごめんなさいね」「私は何も言ってない」弄られるタバ子。実に微笑ましい光景ですなぁ。思えば、最初に危惧していた“危険度AA級のタバサイベントに巻き込まれる”って結局なかった。そこまで親しくないってのもあるだろうけど、それでも思っていたほどのキケン人物じゃなかったってのは確かだ。うん、これも収穫だ。ま、次回の“ラリカ”では一切関わらないからどーでもいいけど。ちょっとだけタバ子を撫で、涼しそうにしてるキュルケに訊く。「街へって言ってもドコに行く?ブルドンネでショッピング&カフェコースか、チクトンネでちょっぴり怪しいお店探索とか」確か、原作ではルイズと才人が働く“『魅惑の妖精』亭”に…ああ、でもあれはもう少し後かな。まだ休暇始まったばっかだし。いや、ルイズ達がそこで働くの自体が既に怪しいかも。アンアン付きの女官に果たしてなってるかどうか。あーでもあの夜にアンアンがどーなったか訊いてた時に兵士に何か見せてたような…。よそう。考えるだけムダだ。「普通にブルドンネ街でいいわよ。冷たい飲み物でも飲んで、そうね、後はてきとうにぶらぶらしてみるのもいいかも。あたしも特に目的があってってわけじゃないのよ」「女三匹ぶらり旅か。それもそれでオツですなぁ。タバサはどこか行きたいトコロとかある?本屋さんとか、本屋さんとか。あとは…本屋さんとか」「行く」「それ、選択肢なかったじゃない。まあ、タバサが服のお店とか行きたがるはずないけど」「よーし、じゃあどこかお洒落っぽいカフェで時間を潰して本屋に行って、あとはテキトーにぶらつくというプランでケテーイね。それじゃ、」「おや、先客がいたようだね」振り向くと、暑さと煩悩でイカれてモンモンさんを襲うはずの青銅君が立っていた。愛しの香水さんはどーした?てか、ここ女子寮ね。一応。「ギーシュじゃない。あなた、実家には帰らないの?」女子寮ってことのツッコミがないのは流石キュルケ。タバ子は興味ないだろうから、この場でそれを言う人間はいない。さも当然みたいな空気だ。「どうしようか迷っていたんだがね。その、あれだよ。まあ、そういうことだよ」答えになってない。正直、答えが聞きたいわけでもないけど。「………ふぅん。ま、それ以上は聞かないであげるわ。それで何かご用?」「いや、暇ならどこか出掛けないかなと。今日は暑いだろ?それに…そう!暑いしね」なーに言ってんだコイツは。「彼女は」タバ子が口を開く。ギーシュ相手に反応するなんて、実にどうでもいい原作乖離だな。そして相変わらず言葉足らず。「“彼女”とはモンモランシーの事かい?そういえば、残ると言ってたね。何でもちょうど暑いからマリコルヌを痩せさせるとか何とか。言っておくけど、彼女はもう僕の手から離れていったんだよ。だから断じてこれは浮気じゃあない」浮気とかはどうでもいいけど、ミス・モンモランシ、“彼氏”をダイエットさせる気か。かわいそーなミスタ・グランドプレ。でも何だかんだで2人は上手くいってるみたい。もしアレだったらギーシュとヨリが戻せるようにとか思ってたけど、要らない心配だったかも。ふむ、ミス・モンモランシもよく分かりませんなー。「それで次はラリカに狙いを定めたってわけね。それ、あたしが言うのも何だけどねぇ…」「…節操がない」「なるなーる、わたくし、ミスタ・グラモンに狙われちゃってるワケですか。でも恋の百戦錬磨なギーシュ君にとって、おそろしく攻略カンタンな相手すぎて張り合いないかもかーも。……なんてね~」んなわけないでしょーに。ギーシュには某ケティとかまだ何とかなりそうな子がいるだろうし、いくら倍率ゼロだからって、私みたいなのを狙うはずはない。惚れ薬の効果がまだ残ってるとかなら分かるけど…それはないだろう。「冗談はさて置いて。どーせ暇してるとか思ってくれたんだよね?お心遣いかんしゃ~であります。ちょうど今から街へおでかけしよ~とか企んでたトコロゆえ、ギーシュ君も一緒にいかが?」「あら、軽くあしらわれちゃったわね。ギーシュの惨敗、と」「みじめ」コイツらも何をじゃれてるんだか。でもま、こうやって冗談言い合うのも…「ちょ、失礼だな君らは、言っておくけど今回は、」で、黙るギーシュ。キュルケ、タバ子もこっちを見て黙っていた。…?「ん?どーした3人とも。私の顔が暑さで蕩けてるとか?」キュルケが笑みを浮かべる。「違う…いえ、そうかもね」「おおぅ、それは実にホラー。お化粧とかしてないハズなのですが」「凄くいい笑顔だったってことよ。さっきのあなた」「はい?そーだった?」私、笑ってたのか?うん、全然自覚なかったけど。ニセ笑顔が自動的に発動するようになってたのだろうか?長かったからなー、この“嘘”も。学院に入学してずっとだったし。もうやめてもよさげだけど、う~ん、どうしようかなー。ちょっと考えてると、3人は何だか目配せしてこっちに向き直った。「ま、気にしなくていいわよ。それより、いつまでもこんな所にいたって仕方ないし、そろそろ出掛けましょ。ギーシュも、まあ、来ていいから」…まあいいか。どうでもいいし。私が浮かべた笑顔なんて、どーせ条件反射みたいなものだろう。別にこの瞬間がどうだなんて。多分。もう、終わるんだし。オマケ<あの日、あの後、あの場所にて>「姫様」「ルイズ」アンリエッタが振り返ると、優しく微笑むルイズが立っていた。「いかがでしたか?“彼女”は」「そう、ですね」“彼女”が出て行った扉を見る。そして、アンリエッタも小さく笑った。「…叱られてしまいました」ふっと息をつく。「あなたの言った通りだったわ、ルイズ。“あの後”、あなたに聞かせてもらったのは本当だった。“彼女”は、“そういう人”なのですね」無言で頷くルイズ。「でも、分かっていたけど、ちょっとだけまだ嫉妬があった。浅ましいけれど、憎いっていう気持ちもね。だから、少し意地悪してみたの。…女王の自覚を持ったと言ったのに、と思うでしょう?でも、あなたに“ああ”まで言われる方ですもの。試したくはなるわ」「そのご様子だと、試した価値はあったようですね、姫様」「“ダメだ”なんてはっきりと、面と向かって言われたのは初めてでした。ダメ出しというのでしょうか、あそこまで言われたら…でも、全部その通りで、何も言えませんでした」でも、と続ける。表情は、楽しそうな、そしてどこか幸せそうなものだった。「ですが、最後には“えらい”と褒めてくれました。一体、どれくらいぶりだったでしょう?“えらい”などと言われて…頭を撫でられるのなんて。何でしょう、その、いいものですね。即位し、そんな事をされるなんて、もう一生ないと思っていたのですが」「そういう子なんです、“あの子”は。私の“親友”は、そうやって“ゼロ”と蔑まれていた私も救ってくれたんです」「だから、“虚無”も話すことができたのですね。あの頃の情けない、自覚の足らなかった私でなく。…分かる気がします。自らの全てを省みず、私を諌めてくれた“彼女”を見ていれば」女王相手に弓を引き、遠慮なく真っ直ぐに叱りつけ、まるで姉や母のように褒める。ともすれば不敬や侮辱にもとらわれかねない行為。最後に『自分を好きにしていい』と言ったのは、その全てに対しての覚悟だろう。“彼女”は何もかも覚悟の上で、自分に“彼女”が伝えたかった全てをぶつけたのだ。そんな事をしなくても、ただ黙っていれば褒章を与えられるだけだったというのに。何の為に?と言われたら、それは決まっている。ルイズの言ったように、“彼女”は“そういう”人間なのだ。―――――“ただ、『他』が為に”。貴族のあるべき姿は、宮廷ではなく、旧友が過ごす学び舎に居た。「…それで、いかがなさるおつもりでしょうか。姫様に“怪我を負わせた”ことや、謁見での“無礼”は」「罰や刑などと言えば、あなたやあの時の皆さんが黙っていないでしょう?」「はい、姫様」「即答ね、ルイズ。尤も、私だってそんな事をするつもりはないわ」2人は笑みを交わす。「むしろ“あの気持ち”が強くなった…。今回は言いそびれてしまったけれど」「“彼女”なら大丈夫です。きっと“なって”くれますよ」「そうかしら…。私、“次”こそは上手く切り出せるでしょうか」「大丈夫ですわ。“彼女”は、…そうですね、姫様。“前回”は話し切れなかった“彼女”の話、ここでお話させていただいてよろしいでしょうか?」ルイズの言葉に、アンリエッタは是非、と頷く。「では。コホン。…ところで姫様は“惚れ薬”をご存知でしょうか。実はそれを、――――― 」オマケのオマケ<あの日、あの後、あの場所からそこそこ離れた場所で>…。……。………。あれ?もう城門から出ちゃいますけど、いいんですか~兵士さん?拘束は?捕まえなくていいんですかー?ああ、外に出たところで暗殺者がバーンと。バーンと。あれ?あれ??