第四十話・かつてない(私の)危機!!てか詰んだ?過去というヤツは厄介だ。忘れようとすれば牙を剥き、引き摺れば食い殺される。なんて、カッコつけてる場合じゃないっつーの!記憶は美化され、色褪せ、失われる。記録は美化も劣化も忘却もされない代わりに、いつまでもただ情報でしかない。人は、記憶する。愛しい思い出を美化する為に。悲しい記憶を薄れさせる為に。そして、過去の楔を解き放ち、前へと歩き出す為に。では?感情を抜きにして、打算と計画で動いたあの日々は。私の持っていたのは記憶?それとも、記録?まあ、どっちだっていいか。要するに、過去のお陰で現在ピンチってコトですので。あばば。眠ろうとしてたらキュルケに拉致られた。タバ子がどーとか、ルイズが何とか言ってたけど、正直眠かったので適当に頷き、何か外出するっぽいので杖と弓だけ装備した。どこに飲みに連れてかれるのかなー、さっさと眠りたいのになーとか、ねぼけまなこな脳味噌で到着したのがお城。ハイ、姫様…じぇなくて、女王陛下誘拐イベントですね。あばばばば。で、一気に目が覚め、よーし私はあっちの森を探して、とか言い終わらないうちにシルフィード発進。死体が転がる街道上に到着したのだった。「ひでえな…」悲痛そうな表情で才人が呟く。うん、確かに酷い。こんな場所に私みたいなザコを連れてくるなんて。敵はレコン・キスタ相手に善戦した百戦錬磨なアルビオン貴族。そして確か、ゾンビ殿下と女王陛下が愛の“ヘクサゴン・スペル”をぶっ放してくるよ~な。「生きてる人がいるわ!」キュルケの声。腕に深い怪我した騎士が苦しそうに呻いていた。「大丈夫?ラリカ、“治癒”を」「りょーかい」そういえば原作でも騎士が1人生きてたような。治療できないまますぐ気絶してフェードアウトしちゃったけど、“今回”は私がいる。“治癒”の魔法もタバ子以下だけど、この人の回復に成功すれば戦力が増える=私の危険が減るかも。ジェネリックじゃない、自作の売却用秘薬を使う。騎士の怪我は何とか消えていった。「助かった、ありがとう。あんたたちは…?」「私たちも女王陛下を誘拐した一味を追ってきたのよ。一体、何があったの?」「分からない…あいつら、致命傷を負わせたはず、“アース・ウォール”!!」ほぼ同時に四方八方から魔法の攻撃が放たれ、騎士の魔法によって造り出された土の壁がそれを防ぐ。タバ子も奇襲を予測していたようで、頭上に空気の壁を作り上げていた。うん、明らかに私の存在できる場じゃないな。微塵も反応できなかったし。「敵襲」「ま、予想通りね」タバ子が小さく呟き、キュルケが鼻を鳴らして髪をかき上げる。「ルイズ!」「何よサイト!下がってろとか言うんじゃないでしょうね!?」「いや、支援を頼む」「任せときなさい!」ルイズ&才人も息ぴったりだ。よし、じゃあ私はひとまず城に戻って報告なんかを、…うん。(味方によって)囲まれているな、コレ。脱出できない。一応みなさん、私がザコだって理解はしてくれてたようだ。でも、それならそもそも連れてくるなって言いたい。そして守ってくれてる陣形なのは有難いんだけど…敵から見たら私が重要人物に見えない?これじゃ逆に狙われるっちゅうに!慌てて私も前に出る。戦闘が始まったら下がろう逃げようそうしよう。「おや、君は…ミス・メイルスティアじゃないか。久し振りだね」聞きたくなかった、懐かしい声が聞こえた。※※※※※※※※「ウェールズ皇太子!」才人が目を見開く。彼の死を見てないキュルケ&タバ子の反応は薄いけど、ルイズは才人同様に驚いてるようだ。「お久し振りですね、殿下」私も顔が引き攣ってるかも。別にゾンビ殿下は原作知識で知ってたんだけど、いざ目の前にってなると、ど~もアレだ。看取った身としては実に妙な感じ。それに、討死するよう背中押した感もあるしなー。「姫様をかえ、」「まさか君に会えるとは、思ってもみなかったよ。元気そうで何よりだ」うん、私は実に会いたくなかったんですけどね。色んな意味で。あと才人、台詞を潰されたからって気を落とさずにワンモアセッ!「姫様をか、」「女王陛下を解放しろ!!」今度は騎士に台詞を取られた。強くイキロ才人君よ。そーいえば女王陛下は?とか思ったら、ゾンビ殿下の後ろから、ガウン姿の陛下が現れた。「姫様!」ルイズが叫ぶ。よ~し、後は幼馴染同士にお任せして、私はモブに徹しましょうか。ゾンビ殿下に名指しで呼ばれた時はじつ~にキケンな気がしたが、これで、「ルイズ…。少し待って下さい。ウェールズさま、ミス・メイルスティアと親しかったのですか?」ちょ、「もう少し時間があれば、そうなりたかったのだがね。あの時はそんな時間が…いや、あんな時でないと出逢うこともなかったか。だが、彼女との出逢えたお陰で僕は決断することができた。とても不思議な子だよ、僕の死を“王家の誇りを示す討死”でなく、“大切な誰かのために殉ずる道”と言ってくれたんだ」おま、「え………?それって………、」「ああ。彼女の言葉がなかったら私は迷いのまま亡命し、トリステインに取り返しのつかない迷惑を掛けていたかもしれない。彼女はそんな僕の背中を押してくれ、」「“ウィンディ・アイシクル”」ゾンビ殿下を氷の矢が貫く。ナイスだタバ子!!アレ以上言わせてたら何だかとてつもなくヤバ~い事態に、「…そうですか、ミス・メイルスティアが…」すでに手遅れでした☆あばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!!!!!!!※※※※※※※※ゾンビ殿下は血も流さず、しかも傷口が不自然な速度で塞がっていってるっていうのに…女王陛下は表情を変えない、ってか、私を睨んだままだ。「話の腰を折らないでくれたまえ。まあ、君たちの攻撃では、私を傷つけることはできないが」「姫様見たでしょう!それはウェールズ皇太子じゃないわ!別の何かなのよ!」「私は水のメイジ、そんな事はひとめ見た時から百も承知よ、ルイズ。でも、それでも構わないの」とか答えながら私を睨んでる。「アンリエッタ女王陛下!!」「姫様、あんた何言ってるんだ!?」「あなたたちも杖を、剣をおさめてちょうだい。私たちを行かせてちょうだい」って言いながらも私を睨んでる。「何を仰るの!?姫様は騙されているのよ!」「ルイズ、貴方は人を好きになったことがないのね。本気で好きになったら、何もかも捨ててでも、ついて行きたいと思うものよ。嘘かもしれなくても、信じざるをえないものよ」人と会話するときは、相手を見て話しましょう。私から視線を外して!睨まないで!!「あら、一国の主ともあろうお方が…何とも情熱的ですわね。でも、立場を弁えないのはいかがかしら」「同感」キュルケ&タバ子が何か口を挟んだ。「貴方たちもルイズと同じね。誰かを愛した事がないんだわ。世の全てに嘘をついてでも、自分の気持ちにだけは嘘はつけないものなのよ。何をおいても自分の気持ちを優先するものなのよ。愛することを知らないから、そんな事が言えるのね。…ミス・メイルスティア。貴方もね」な、ん、で、そこで私の名前が出る!?今なーんも言ってないでしょう!?恨まれてるの?怨まれてるの!?明らかに私に対しての敵意がハンパなくMAXだよ!!「…姫様、今、何と?」「あんた…、それ本気で言ってるのか?」「あらあら、まさか女王様のお口からそんな台詞が飛び出すなんて」「…誰に言っているの」そしてなぜか若干怒りを滲ませるこっちサイドの4名。ルイズと才人は分かる。一国の主が寝惚けたコト言ってんじゃねーって事だろう。キュルケのも、自他共に認める“微熱”のラブハンターな彼女に対して何言ってるの?って事だろう。でも、タバ子。オマエには恋愛感情とか(まだ)なさそうだし、トリステインなんて別にどーも思ってないだろうから反応する必要あるのか?「私は誓ったのよ、水の精霊の前で、誓約の言葉を口にしたの。『ウェールズさまに変わらぬ愛を誓います』と。誓いが違えられることはないわ。…ミス・メイルスティアの“お陰”でウェールズさまに二度と逢えなくなるところだったけどね」怨み再び!?いや、あれは私がいなくても、原作通り殿下死亡な運命だったから!!あわわわわわわ…、「姫様!!」ルイズが叫ぶ。一方、キュルケはやれやれ、とばかりにタバ子の肩に手を置き、タバ子は明らかに冷めた目で女王陛下を見据えていた。何だこのカオス。とりあえず私は逃げたい。「まあいいわ。こうして再びお逢いできたのですもの。だから行かせて。これは命令よ、ルイズ・フランソワーズ。貴方に対する最後の命令よ。道をあけてちょうだい」「嫌です」即答。あれ?ここでルイズは説得を一時諦めて、才人が力ずくで阻止にかかるんじゃなかったか?それで戦闘開始だったような…?とゆーかですね、女王陛下。ルイズに命令するならルイズを見たらどうです?私なんてつまらない小物を睨んでないで!「そんな馬鹿馬鹿しい命令、聞けるはずないじゃない。何が“愛を知らないせい”よ、何が“精霊に誓った”よ。そんなの、自分の立場から目を背けるための言い訳に過ぎないわ!!…姫様。いい加減、目を覚まして下さい。そしてお城へ戻りましょう。」何て正論。でも今の女王陛下にそんなの通じないってか、いつまで睨んでるんですかアンリエッタ様!?「嫌よ。命令を聞きなさいルイズ!」「あいにくだが、俺のご主人様は性格はアレだけど、道理は知ってる。貴族とやらの正しい在り方ってのも見付けようとしてる。今のあんたの盲目になった命令なんて届かねえよ。心を操られても相手のことを考えられる子だっているのに、女王サマって立場のあんたが何だよ?いまの姫様は本物のウェールズ殿下の事も侮辱してるんだ。…そうだよな、ラリカ」…ん?え?はい!?何でそこで私に話を振る!?「ラリカ、ごめんね。姫様は何も分かってないから…だからあんな事を。すぐに私が目を覚まさせてみせるわ!」ルイズ!?「ええと、私は別に、」「“熱病”に罹った女王様を諌めて差し上げないとね。ラリカ、言いたいことは分かるから、ここは任せてちょうだい」キュルケ!?「何で私、」「あなたの名誉は守る」タバ子ォォォ!?「…そういうことですか、ミス・メイルスティア。貴方は本当に…」ア、アンリエッタ女王陛下?これはですねー、その、この人らがどーいうわけか何だか勝手に、「ウェールズ様を死地へと向かわせ、今もまた私たちの仲を裂こうとする…ルイズやこの者たちを連れてきたのもどうせ貴方なのでしょう?いえ、答えなくていいわ。もういいの」いやいやいやいやいやいや、決して微塵もお2人の仲を裂こうなんて思ってないですって!死地に向かわせたのは否定できないけど、それはその、運命的に見ればええと、とにかく、それに私はむしろ連れてこられた側の人間で、やばい。王家オーラ?怒りのオーラ?何だか分からないけど弁明しようにも声が出ない。緊急脳内会議。女王陛下が杖を握り締める。そーいや水のトライアングルだったっけ。可憐に(今は般若だが)見えて強いんだな~。さて、どうなんだこの状況。原作通りにルイズ達に頑張ってもらう?でも、それだと私への恨みって消えるのか?何だか凄まじく無理っぽくない?円満解決への道ってあるのか?一国の主に憎まれた、へっぽこ貧乏学生。コレをどーしろと?あ、議長ラリカが逃亡した。書記ラリカは現実逃避してる。議員ラリカ達はヤケクソになって歌(鎮魂歌)を歌い始めた。脳内会議はもうだめだー。あは。「ミス・メイルスティア。許さない。貴方は…、」やめてとめてやめてとめてやめてとめてやめてとめて、「私の、」ヒィィィィィィィィィィィィ!!?やっ、やめ、「“敵”よ!!」あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばぁ!!!ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!実家のダメ家族の皆さま。この人生でも先立つ不孝をお許しください。てか、そっちにも多分とばっちりが行きます。めんご。あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!!!!