第三十八話・ナゾを出すなら答えを用意しといて下さい出会うべくして出会う。主要人物は巡り合う。でわでわ。私というイレギュラーが居ることで、何かほんのり変わるのだろ~か。モンモンの毒々しいカエルが水の精霊を連れて来た。それにしても綺麗だ。CGみたい。…喩えが微妙だが、ホントに映画のCGみたいだ。あっちの世界の最新技術でスライムとか描写したらこんな感じだろう。「旧き盟約の一員、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシよ。わたしの血に覚えがあるなら、わたしたちに分かるやり方と言葉で返事をして」モンモンの言葉に水の精霊はうねうね動き、透明なヌードモンモンになる。「覚えている、単なる者よ。貴様に最後に会ってから、」「覚えているのね、じゃあ早速本題に入るわ。あなたの一部を分けて欲しいのよ」…確か原作だと機嫌を損ねちゃダメダメとか言ってたよーな。喋ってる途中で遮るってマズくないのか?「…断る。単なる者よ」やっぱり。「そこを何とかお願い!じゃないとわたしが大変なのよ!!」必死だなモンモン。「貴様がどう大変だろうとも、我は関せぬ」「そこを何とか、」「ふむ、どうやら水の精霊は少々融通が利かない性格のようだね。やれやれ、それに噂ではこの世の何者よりも美しいと聞いていたが…僕のラリカに遠く及ばないじゃないか。姿を似せるならせめてラリカに似せたまえよ。美が何たるかを全く理解して、」そこまで言ったギーシュ君がモンモンに張り倒される。一瞬、モンモンの脳天を射抜いてやろうかと思ったけど…耐えた。今のは確かにギーシュ君の失言だし、あんまり庇うと惚れ薬疑惑が膨れそうだし。今の最優先は、解除薬を作ってギーシュ君を元に戻すことなんだ。「何バカ言ってんのよ!!水の精霊が怒ったらどうするつもり!?気難しいので有名なんだから、ちょっとで機嫌を損ねたりしたら大変な事になるのよ!!」それをデカい声で言うのもより一層アウトじゃーないのか?とりあえずギーシュ君に“治癒”を掛け、ちょっと溜息をつく。そして水の精霊に向き直った。…解除薬はギーシュ君のためにも必要だし、ちゃちゃっと話を進めますか。「水の精霊さん。タダで体の一部を分けてって言うのはアレなので、何か対価になるっぽいコトを私たちが請け負うってのはどーでしょう?少しはお役にたてるかもかーも。魔法のクスリで心を惑わされちゃったヒトの“本当の心”を取り戻したいのです」「ラリカ…」「“惚れ薬”でギーシュの事が好きになってるはずなのに…」才人&ルイズが私を見つめる。モンモンはばつが悪そうだ。まあまあ、ここは任せなさいって。どーせやる事は分かってるし、相手はキュルケとタバ子。戦闘なんて回避しちゃえばいい。あと私は“惚れ薬”飲んでないっちゅーの。あくまで解除薬はギーシュ君用。私がギーシュ君を愛してるのはデフォなのです。そして相手がホントに好きなら“惚れ薬”なんかに心をど~かされて欲しくないのが普通の感覚でしょ~に。「頼むよ!水の精霊さん!何でもするから!!」「水の精霊、お願いよ!どうしてもあなたの身体の一部が必要なの!!」「とうわけで、ラリカの、そして僕の友人たちの頼みを聞いてくれないかい?もちろん、僕も可能な限り協力するから」「水の精霊、今回だけでいいから、ね?旧き盟約の一員のよしみで!」水の精霊は再びうねうねと蠢く。「よかろう。しかし条件がある」襲撃者をどーにかしろってね。※※※※※※※※というわけで、無事解決しました。戦闘は普通に回避。目立ちまくるココアのお陰で、キュルケ達は一発で気付いてくれた。で、コトの経緯を語ってすんなりミッションコンプリ~ト。モンモンがなぜかタバ子に睨まれ続けて泣きそうになってたけど、問題ないだろう。そして翌朝、再び私たちは水の精霊を呼び出した。「水の精霊よ、もうあなたを脅かす者はいないわ。だから約束どおり、あなたの一部をちょうだい」水の精霊が震え、身体から水滴みたいなを飛ばしてきた。ルイズがそれを瓶の中に受け止める。これで私&ルイズ達の目的は達成だ。ひゃっはー精霊の涙げっとだぜーしてるルイズ&才人は放っといて、今度はタバ子サイドの本題だ。キュルケが去って行こうとした精霊を呼び止める。「ちょっと待ってもらえるかしら」「なんだ?単なる者よ」「どうして水かさを増やすの?できたらやめて欲しいんだけど。今回はともかく、このままだと土地を水浸しにされた人間がまた貴方を襲いに来るわよ」「理由があるなら聞きたい。私たちにできることなら、するから」水の精霊が蠢く。なーにやってるんだか知らないが、実に意味不明な動きだ。悩んでるのか?どーでもいいけどルイズと才人はすでに帰還モード。モンモンに早く解除薬作れって急かしてる。あんまり急がせて失敗しても良くないのに。「貴様らの同胞に奪われた秘宝を取り戻すため、我は水で全てを覆い尽くそうとしている。いずれ水が、我が身体が秘宝のありかを知る時まで」「秘宝?」微妙にキュルケが反応する。お宝とかはやはり興味あるっぽい。でも、それがあの“アンドバリの指輪”だと知ったら、「秘宝ってもしかして、“アンドバリの指輪”?父上から聞いたことがあるわね。確か、死者に偽りの命を与えて操るとか」「何よそれ。趣味悪いわね」やっぱり興味を失った。何だかんだでキュルケって正論を言う。「そのとおり。月が三十ほど交差する前のこと、風の力を行使して、数個体の貴様らの同胞が我が秘宝を盗み去ったのだ」「ならそれが戻って来れば水かさを増やす必要はないわよね?何とかして見付けてくるから、水かさを戻してもらえないかしら?」タバ子に、それでいいわよね?と聞き、タバ子は頷く。彼女らも進んで水の精霊との戦闘なんてしたくないのだろう。水の精霊は少しだけ沈黙すると、透明ヌードモンモン姿で笑った。まあ、実際“笑って”はないんだろうけど。「いいだろう。指輪が戻るのであれば水かさを増やす必要はない」「決まりね。で、ただ闇雲にってのもあれだし、何か盗んだやつの手掛かりとかないの?」「個体の1人が“クロムウェル”と呼ばれていた」実に原作通り。確か、ガリアの変人王に影で操られてる小物っぽいヒトだったよーな。会う事もないから興味ないけど。「聞いた名前ね。確か、アルビオンの新皇帝…ん?」で、ちょっと思案顔になるキュルケ。何か引っ掛かったか?「貴様らを信じて待とう。では、」「待って」姿を消しかけた水の精霊を、今度はタバ子が呼び止めた。「水の精霊。あなたに1つ聞きたい」「なんだ?」「あなたは“誓約”の精霊と呼ばれている。その理由が知りたい」「単なる者よ。我と貴様らは存在の根底が違うゆえ、その答えは正しいか分からぬ。ただ察するに、我の存在自身が理由と思う。我は永遠に変らぬ、その変らぬ我の前ゆえに、貴様らは変らぬ何かを祈りたくなるのだろう」「なるほど!じゃあ“惚れ薬”の解除薬とやらを飲んだら再びここに来なきゃいけないね!ラリカに僕の変らぬ愛を誓わないと!」ギーシュ君がうんうん頷き、ルイズ&才人に睨まれる。モンモンも怒ってるかなーとか思ったけど、どうやらルイズらの矛先が別方向に向いたのでほっとしてるみたいだ。「ありがとうギーシュ君。でもしか~し、別に誓いは“ここ”でする必要はないと思うよ」…ギーシュ君の想いは、解除薬で消えちゃうしね。その誓いは別の、もっと素敵な誰かにあげて下さい。「どうして?」何か誓おうとしていたタバ子がこっちを見る。いや、別に誓うなとは言ってないからご自由に祈ったり拝んだり誓ったりしていいのに。「誓いとは、自分自身にするものと私は思うのですよ。誰かをどうかしますって誓いも、何かを成し遂げたいって誓いも、実行するのは自分自身。始祖だろーと水の精霊だろーと、所詮は他人。誓われた者サイドからしたら“自分には関係ない誰かが何だか勝手に誓ってるけど、正直どうでもいいや”って感じだろうしね。今の水の精霊の言葉からしてその通りっぽいし。まあ、結婚式やらも~ろもろの公言が必要なのは別として。とゆうかアレは誓いというより儀式かもかーも」まあ、あくまで私見。何かに誓いたくなる気持ちは分からなくもないし。それに自分への誓いは他人には分からないけど、誰かや何かへ誓うのはビジュアル的にも気分的にも効果はあるのだろう。「………誓いは、自分自身にするもの」タバ子は完全に誓うのをやめちゃったみたいだ。まあ、別にタバ子自身はとっくに“決めて”るんだろうから、やめたところでどーも影響ないだろうけど。「なるほどね」キュルケが私の肩に手を置いた。何が?「あなたが“惚れ薬”に耐えられる理由、分かる気がするわ」今の台詞のどこにそんな要素が?てか“惚れ薬”なんて最初から飲んでないっちゅーに。耐えるも耐えないもないだろう。そしてなぜかうんうん頷く誇らしげなタバ子。なぜオマエさんが誇る?意味ワカラン。「当然よ!ラリカはギーシュなんかとは違うのよ!」ルイズ、『ギーシュなんか』って言うな。確かに私とギーシュ君は全然違うが、それはもちろんギーシュ君の方が全てにおいて上という意味で、「ラリカがギーシュにべったりとかなってたら、今頃モンモンは星になってるよ」才人も。ホントはべったりしたいんだよ!叶わないけどね。というか、今の言葉でモンモンが涙目だ。安堵か恐怖か、どっちの意味での涙目だろうか?「まあまあ、気持ちは分かるが僕のラリカを褒めるのもそれくらいにしたまえ。それとさっきから僕がどうとか言ってるが、“惚れ薬”なんて全く効いてないから。ギーシュ・ド・グラモンの永遠の愛の前には、“惚れ薬”の力なんて無力、」「まあ、それはともかく解除薬は早く作ってもらわないとだけどね」「いくら耐えれてるって言っても、間違いとか起こったら取り返しつかねえしな」私に抱き付こうとしたギーシュ君を羽交い絞めにしつつ、ルイズと才人は再びモンモンに矛先を向けた。何でもいいけど、ギーシュ君に怪我だけはさせないで欲しい。「やはり、貴様らの考えは我には理解できぬようだ。貴様らは我と違い、個々に別々の考えを持ち、そして目まぐるしく世代を変えていく。常に変わらず水と共にあった我と、移ろい変化し続ける貴様らゆえ、当然のことかもしれぬがな」あ、水の精霊まだ居たんだ。もう別に用はないから帰っていいのに。「単なる者…と、満たぬ者よ。貴様らの寿命が尽きるまでは、」「ちょっと待って」…今、何か妙なフレーズが出たような。「何だ、満たぬ者よ」やっぱり!というか、それは私を指してる?全員が私と水の精霊に注目した。「その“満たぬ者”って何かなーと。水の精霊さん、私たちのことは“単なる者”って呼ぶんじゃなかったっけ?」「そうだ、満たぬ者よ。ただ、貴様は“単”に“満たぬ”ゆえ、そう呼んだまでだ」どういう意味だ?「ええと、できれば詳しく教えて欲しいな~とか思ったりして」「貴様自身で分からぬものを、貴様ではない我が知るはずもない。…貴様らの寿命が尽きるまで、秘宝が戻ってくるのを待っているぞ」もう引き止める間もなく、水の精霊はごぼごぼと姿を消した。なぞなぞ出して、答えを言わずに去るとか、何というダメ出題者。何だか微妙な空気の中、私はみんなに振り返り、笑っておいた。「まだまだ一人前には程遠いって意味なのかな?いやー、そう言われたらそうなんだけどねー」満たぬ者?ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアは、“単”になるには“足りてない”?何だそれ?ほんの少しだけ、アタマの奥の方が…ずきっと痛んだ気がした。