第二十七話・涙の理由 Side:Aあかるいみらいがみえない。なんで、じゃまばっかするの?何なんだコレは?罠か?罠なんだな?くそ、卑怯だぞブリミル!!正々堂々どうどうどうどうぁぁぁぁ!!貴方はワルド。私もワルド。夜空の月さえワルドなのか?ヒゲがいけないのか?そうか、ヒゲが悪いんだ。よーし、じゃあパパ張り切ってヒゲ剃っちゃうぞ~☆あーうーあーうーあ~!!あばばばばばばばばばば!!!…ふう。分かった事がある。掴みかけた幸福は今や、ヒゲ野郎の掌の上。やっぱり世界は美しくない。「子爵様…。あなたも、ご無事だったんですね」どうしようどうしようどうしようどうしよう、ゆっくりと降りてくるワルド。何で?何で?何で?何で?何でここに?何でお前が?え?え?「あれしきの事では僕はどうにもならないさ。それより、あの状況から君が助かるとはね」弓は持ってない。持っててもこの状況じゃ無駄なだけだ。ミョズニトニルンを騙る?無理だ。カラーコンタクトレンズ持ってない。持っててもこの状況で付けるのは無理すぎる。「あの状況?」魔法で戦うなんて選択肢にすら挙げられない。というか、戦おうってコト自体が無理。戦闘になったら秒殺。瞬殺。よりどりみどりの方法で殺される。「…ルイズ達から聞かされてないのか?」やめてとめてやめてとめてやめてとめ…って、何だ?バレて、私を拷問&始末しに来たとかじゃないのか?きょとんとする私に、ワルドは小さく笑った。「なるほど。そういう事か」もしかすると、まだ助かるのか?まだ何とかなるのか?「子爵様。どういう…事なんですか?」少しだけ考えるような素振りを見せた後、ワルドが答える。「ミス・メイルスティア。君はアルビオンでの出来事をどこまで覚えている?」「殿下の魔法、そして才人君が子爵様の腕を切って…あれ?」ワルドの左腕は健在だ。ああ、義手か。「義手だよ、僕は確かに腕を切り落とされた」「私が覚えているのはそこまでです。そして気付いたら3日経っていて…学院の医務室でした」「そうか。恐らく呪縛を解いた副作用だろうな。あれほどの強力な呪縛だ、それで済んで幸運だったというところだろう」…あれ?ひょっとして、ひょっとするかも!!僅かな希望が見えてきた!?焦る気持ちを抑えつつ、質問する。「呪縛?子爵様、呪縛って?」「“ユンユーンの呪縛”。君は操られ、ルイズ達と共に死ぬところだったのだよ」死ぬ気はゼロだったけどね。アホなミスで死に掛けはしたけど。「そんなっ、私がそんな事を…?」よし、やはりバレてない!危ない危ない、もう少しで自暴自棄になるところだった。少なくとも、嘘ついた私を殺しにきたわけじゃーなさそうだ。ひゅ~、寿命縮まったぜぃ。「強力な呪縛だ。記憶してないのも無理はないだろう。だがまあ、そう気に病まなくていい。ルイズ達も無事なのだろう?」「でもっ、」「僕が言うのもおかしいが、君は悪くない。君の抱いているものは、見当違いの罪悪感だ」お気遣いありがとー。でも何故にオマエが私を気遣う?そこまで“ミョズニトニルン”がやなヤツだったのか。確かに見下した感をバリバリに出してたが。我ながら素晴らしい演技力かも。「…ありがとうございます、子爵様」「いや、礼を言われる立場じゃない。そもそも僕は国を裏切り、君の友人を傷付けた。軽蔑してくれてもいいくらいだ」はっはっは、な~に言ってんだか。軽蔑してまーすとか言って、オマエが襲いかかって来たら一瞬で死ぬっちゅうに。…何とか敵意はないですよーって感じで乗り切らねば。「子爵様。ちょっと質問ですが、国を裏切ったのはついウッカリだったとか、ルイズや才人君を傷付けたのは何となくカッとなってとかですか?」「いや。そんな理由じゃないさ。僕の目的の為、必要だったからだ」「なら、私は軽蔑なんてしないですよ。貴族として国を裏切った事は許せないし、ルイズを裏切った事は友人として許せないですけど。でも、それが子爵様のやるべき事だったっていうのなら、軽蔑なんてしないです」さりげなーく貴族的言い訳&ルイズ友人説を織り交ぜてみる。「私は言ったはずですよ。誰の『大切』も、」「君は、否定しない」可笑しそうにワルドが笑う。「はい、その通りです。それが子爵様の『大切』の為に必要な事だったなら、私は否定しません。軽々しく軽蔑するなんてもっての他です」「許さないが、否定はしないか。本当に君は変わった少女だ。それで、どうする?許せない相手が目の前にいるわけだが?」どうもしないって言うか、できないですよー。アホな事を聞くな。「うーん、いざ勝負といっても私じゃ一瞬で負けちゃいますからね。じゃあ、ちょっと近付いてもらえます?今回は平手一発で勘弁してあげますよー」「ははっ、何を言うと思えば。だが、それは怖いな。下手な魔法よりずっと怖い。…全く、君と話していると、どうも毒気を抜かれてしまうよ」「いやいや、子爵様もどーいうわけか旅してた時より明るいですよ?いい事でもあったんです?」よし、いい感じだ。このまま誤魔化して、『じゃあさよなら~』って感じで別れよう。あくまでフレンドリーに。ここで別れれば、ワルドはタルブ空中戦で撃墜されて終了だ。生きてはいたような気がするけど、その後の出番は…多分ない、はず。少なくとも“俺”の原作知識では。「明るい、か。そうかも知れない。向かうべき道が見えてきたからね。この先、誰に何を言われようと、何が立ち塞がろうと、立ち止まらない決意ができた。だからかもしれない」不敵に笑っている。まあ、すぐにゼロ戦に落とされて終了なワケですが。でも機嫌は良さそうだ。よし、何か話題は?どうしてここに来たの?とかはマズそうだ。もしも『レコン・キスタがここを攻める予定だから、その下見だよ』とか聞かされた日には、拉致or口封じコースは確実だし。どうする?てか、特に用はないんだったらもう失せて下さいヒゲ野郎。私はヒゲ相手の会話なんて想定してなかったから話題ないんだよ。ヒゲ!ヒゲ子爵!ヒゲ男!フケ顔!!ヒゲヒゲヒゲヒゲヒゲもっさ!!「ヒゲ、」「え?」え?し、しまったァァァァァァ!!思わず口に…ええと、そうだ!「いえ、おヒゲない方が素敵ですよーって」「唐突に何を…。放っておいてくれたまえ」「あ、あはは。失礼しました。単純に私のくだらな~い意見ですので、忘れちゃって下さい」あぶねーあぶねー。てへ☆って感じで誤魔化したが…怒ってないかな?こんなアホなミスで死にたくないぞ。「ワルド様」笑顔をやめ、マジメな顔でワルドの髭面を見据える。強引に話題を変えて安全策を取ろう。「貴方の『大切』が何であるか、何を為そうとしているかは分かりません。そして私がこんな事を言える立場じゃないのも分かっています。ですが、言わせて下さい」「………」よし、ヒゲ野郎もマジメ顔で話聞いてる!シリアス話&肯定でヒゲの機嫌を掴み取れ!「あなたは国を裏切り、殿下を殺し、私の友達を傷付けました。それをしてまで貫きたかった信念を、曲げたりしないで下さい。立ち止まらないで下さい。貴方の『大切』を貴方自身が否定したりしないで下さい。貴方が傷付けた人や、築いた屍を否定しないで下さい。それだけは、どうしても言いたかったんです」どーせワルドなんぞすぐ出番なくなるしね。てきとーに煽っとけ。それにこういう話をされたら去るのが常道。風のスクエアなら空気を読むスキルだってあるでしょー?曲がらずに私なんかに立ち止まらず、原作の彼方まで真っ直ぐ一直線に消えて行って下さい。「君は、…いや、君ならそう言うと、どこかで思っていたかもしれないな」言ってることは半分犯罪教唆なんですけど。私そんなに悪人に見えます?見えるか。実際悪人だし。「約束しよう。僕は自分の『大切』を否定しない。傷付けた相手や、殺した相手の事も受け止めよう。………それで。もしそれが果たせたら、君は僕を許してでもくれるのか?」私の平手がそんなに怖いか?ま、キザ貴族のジョークだろうけど。あ、そうか。皮肉ってヤツかも。「はい。その時はワルド様を許します。…まあ、こんな小娘の許しなんて価値なさそうですけど」笑ってみせる。ワルドも小さく笑った。よし、機嫌は直ったようだ。「そうか。…では、そろそろ立ち去るとするよ。これで君と会うこともないだろう。少なくとも、僕が目的を果たすまではな」イィィヤッホォォウ!!会話終了!ついでに会う事は無いだろう宣言まで!タルブ空中戦でどうなるにせよ、コイツが目的とやらを果たせる可能性はゼロ!つまり二度と会わない!!もう少しでBADENDだったけど、何とか持ち直したぜー!!「いや、1つだけ聞きたかった」チィッ!!何ださっさと聞け。一瞬で答えてやるから。ほら早く、ほらほらほらほらほらほら!ハリーハリーハリー!!GOODENDまであと数十秒!!「君にとっての一番の『大切』とは…、――――― ん?邪魔が入ったか」…え?ちょっ、待「聞くのはまたの機会にしよう。どうやらガンダールヴが、君を迎えに来たようだ」え?え?なにそれ?もう少しだったのに。何でこんな時に?何でこんな場所に?普通、あり得ないだろ?夜中だぞ?何で?何でだよ?あとほんの1分あれば、私の安全が完全に確保されたのに。全部終わったのに。ヒゲの奴、『またの機会』とか言ってたよ?どーしてくれるの?タルブ空中戦の後にノコノコやって来たりしたらどうしてくれるの?てか、多分来るよ。嫌な予感しかしないよ。え?なにこのタイミング。掴みかけた幸福が崩れかけ、何とか持ち直したと思った途端に消滅。未来は完全に分からなくなった。私は思わず膝をつく。「ラリカ!!」空気を読まないアホの声がする。「てめえ!!何でここに!?ラリカに何しやがった!?」いや、こっちの台詞だよ。そしてオマエが邪魔したんだよ。「…ではまた会おう、ラリカ。さらばだ、ガンダールヴ」また会おうって…オイ。やっぱ会いに来る気なの?しかも、さらっとファーストネームで呼ばなかった?どういうこと?あれ?千載一遇のチャンス、消滅?ここまで頑張ったのに?涙、出てきた。※※※※※※※※「あ、あはは…、いやー、参っちゃうよねー、な、何だかさ」あはは。やば、涙が止まらない。「ラリカ…。その、ごめん。黙ってた事は、謝る」黙ってた事?ああ、ヒゲ野郎が言ってたな。前回頓挫した計画が復活できそうだ。でも、今はどうでもいい。「で、でも!あれはラリカの所為じゃなくて、」「いいよ、もう。何でも。ひぐっ、私は、もういいから」涙が止まらない。何だこの感情?悔しさ、怒り、憎しみ。そんなの耐えられると思ってたのに。湧き上がる負の感情を抑えきれない。今まで無理してきた全てが、爆発、しそう。「良くなんてねえよ!!」「いいの!!」いいから黙ってろ!そうしないと、魔法を撃っちゃいそうなんだよ!!「ぐすっ、もう、…いいから、しばらく、放っといて…?」マジで、落ち着くまで構わないで。心がざわつく。黙ってて欲しい。ダメだ、ダメだ…「放っとけるわけねえだろ…。そんな、放っとけねえよ…」だまれ。うるさいだまれ。だまってろ。泣いている私を見るな。無様な私を見るな。何か言ってるが聞きたくもない。しゃべるな。これいじょうわたしをみるんじゃない。「でも、力を手に入れた。こんな俺でも、誰かを守れる力を」!?嫌な予感がする。コイツが、目の前で泣く女を見たら何と言うか。「…だめ、」搾り出すように呟く。「守れるのは主だけか?ルイズだけか?…そんなちっぽけなのが“神の盾”だなんて、そんなの!俺は認めねえ!!」まずい。二度あることは三度ある。もし“そんな場面”を誰かに見られたらどうするつもりだ?どう言い訳する?ルイズは?ワルドは?追い詰められるのは私だぞ!その場の同情心からくだらない台詞を吐くな!「…それ以上は、だめ」やめろ。「だから、俺は!」やめろ!!「ダメ!!」やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!!!「お前をっ」黙れッ!!!「っ!“サイレント”!!!」溢れる感情を杖に乗せ、邪魔者の言葉を消し飛ばす。「それ以上は、だめ。そこから先を言うなら、私はあなたを許さない」憎しみを込め、睨みつける。これ以上、その声を聞かせるな。私の邪魔をするな。「私は、“違う”。あなたが守るべきは、彼女。ルイズだけ!!」“フライ”で飛び上がる。今はこいつの傍に居たくない。涙を止めないと。冷静にならないと。まだ私は終わっていない。挽回できる。私を取り戻さないと。「ラリカ!!」無理矢理笑顔を作る。過去最低の笑顔だろう。でも、今はこれが精一杯だ。「忘れて。全部、今日の事は、全部…夢。夢だから、朝になれば、また元通りだから」「…ラリカ」後悔で一杯だ。これじゃ“前の私”と同じじゃないか。“私”らしくない。八つ当たりなんて、まるっきりアホじゃないか。「………おやすみなさい、才人君。…ごめんね」呆然とする才人を一瞥し、私は夜空へ飛んで行く。掴みかかっていた希望が大きかっただけに、ショックも、怒りも大きかった。今までの全部が、思いっ切り噴き出してしまった。こんなふうに泣くなんて、どれくらいぶりだろう。いっそ、涙が枯れるまで泣いてやろう。誰に憚ることもなく、独りで。あ゛~っ、ちくしょー。#############今回ほんのり長いです。ラリカのダメ人間加減がより一層ふっくら芳醇になってきました。いつ見捨てられるか、私自身にも分かりません。それでもお付き合いいただける方、これからも宜しくお願いします!