第二話・本編開始はじめまして…いや、久し振り。私の使い魔。使い魔召喚の儀式、私は周囲の嫌悪感溢れる視線と共に、前回と同じ使い魔を召喚した。メガセンチビート。羽根のある巨大なムカデだ。全長5メイルほどもあるその姿は醜悪そのもので、正直、どっかの敵モンスターにしか見えない。うぞうぞ蠢く脚に、何か溶解液っぽい液体を垂らす口なんて、女子供でなくても怯んでしまう。でも本当は死肉を貪る大人しい(?)蟲なのだ。弱った動物や弱者を襲うことはあっても自分より強そうな敵とは戦わない、臆病(?)な蟲。今思えば、目つきが悪く暗い雰囲気を漂わせていた私には相応しい使い魔だったのかもしれない。見掛け倒し的な意味で。前回はマジ泣きしながら嫌々契約したが、今回はすんなりキス。この事態は予想の範疇内だったのであらかじめ虫耐性を身に付けておいたのだ。“佐々木良夫”という男人生を経験したのも良かったかもしれない。ちなみに名前は『ココア』にした。似合わない?ほっとけ。…何度か目の爆発。何かルイズが喚いている。どうやら“成功”したようだ。クラスメイトの爆笑と、コルベール先生の声。さて。これで役者は揃った。私は、私の死なない未来のために、幸福な未来のために…物語へ介入していく。※※※※※※※※「や、ルイズ」皆が飛び去った後、残されたルイズに声を掛ける。使い魔…平賀才人と何か話していたようだったが、中断してこっちを向いてくれた。うわー機嫌悪そう。「………ラリカ。あなたは行かなくていいの?」「みなさん『お前の使い魔キモいし怖いから一緒に移動したくない』って」そう言ってココアを指差す。実際はそんな事言われてないけどね。フィーリング的には感じたし、あながち間違ってはいないだろう。ルイズの口から「ひっ」という悲鳴が漏れた。失礼な。ごく正常な反応&気持ちは分かるけど。「そ、それってもしかしなくても…アレよね?」見たままですわよマドモアゼ~ル。てかアレゆーな。でも、きっと彼女は少なからず思ったはず。コイツより平民の使い魔の方が気持ち悪くないだけマシかもと。だから僻まないでねー?「見たまんまーのムカデさん。私の一生のパートナーはムカデだったみたいですなぁ」あはは、と笑ってみせる。「その、何ていうか…どんまい」…謝らないでよ。まあ、気持ちは分かるけど。「あはは、美しくも気高くもないけど、見た目強そうだから私的にはアタリなのだよ。ただビジュアル的に避けられる予感」(ココア、ルイズの後ろに怯えて隠れている男の子にじゃれつきなさい)心の中で命じると、ココアは才人に襲い掛かった。「ふわぁ!?」と情けない悲鳴をあげる才人。そのままココアにぐるぐる巻きにされる。ちなみにルイズは突然の惨劇に固まっていた。「ヒィィィィ!?あばばばばばばばばば!!!」可哀相な才人は何だか分からない悲鳴をあげている。ちょっぴり同情したくなったが、男の子なんだからガマンしてね☆「あらあら、この子がこんなに懐くなんて。あなた、お名前を教えていただけません?私はラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア。ラリカって呼んでね」…ダメだ。聞こえてない。刺激が強すぎたかな。ルイズはルイズでオロオロしてる。爆発でココアが攻撃されるかと思ったが、パニックでそんな事は思い付かないようだ。(ココア、放してあげて)凶悪そうな鳴き声をあげ、ココアが才人を解放する。あ、才人放心状態だ。やりすぎちゃった。てへ☆「おや、青少年には刺激が強すぎましたかな。…自己紹介は今度にするね。でも、どうやらココアは貴方を気に入ったようなので、また遊んであげてくださいな」返事はないけどまあいいや。「じゃあ、そろそろ私も教室に戻るね。ルイズもあまり遅くならないように」同じく返事がないルイズに微笑みかけ、ココアの背に乗った。メキメキ音を立てて羽根が伸び、ブーンという音を響かせながら浮かび上がる。乗り心地も悪くない。立ったまま乗ってよし、座っても…座るには硬いからクッションか何か敷いた方がいいかも。まあ、そのへんは後で考えるか。前回は気持ち悪くて乗ろうという発想さえなかったが、こうしてみると便利そうだ。2、3人なら普通に乗せて飛べるんじゃないか?ともあれ、初顔合わせはできた。今後は才人に近付く理由を『ココアのお気に入りだから』という事にできる。ココアが他の使い魔と仲良くなる可能性が皆無だってのは前回の人生で判明済みだし、知性ゼロだから私の思うがままに完全コントロール可能だ。パートナーというより道具に近いが。問題は2人が…最低でも才人がココアに慣れてくれるかどうかだ。いつまでも怯えられていたら話にならない。まあ、地道に慣れていってもらおう。※※※※※※※※その日の夜、私は厨房へと赴いた。目的は3つ。秘薬の材料に使えるようなモノがあったら分けてもらうためと、ココアのオヤツ(廃棄予定の肉)、そして“お願い”だ。シエスタは別の場所で仕事をしているようで見当たらなかったが、彼女は“お願い”するまでもないだろう。「こんばんは、マルトーさん」「おお、ラリカ嬢ちゃんか。今日も秘薬の材料探しかい?」1年生からの仕込みで、私は学院に勤める平民からのウケは悪くない。まあ、前回の人生でも同情されることはあれど嫌われてはいなかった気がするが。貧乏的な意味で。「何かいいモノあーるかな~って。そうそう、そろそろお薬切れたかなと思って持ってきましたよー」そう言って傷薬とハンドクリームを差し出す。傷薬といっても、平民が普通に使えるような代物じゃない。いわゆる秘薬だ。ただ、秘薬として売るには些か品質が劣るB級品。分かる人が見れば紛い物と言われるだろう。私的には低コストかつそれなりの効能を持つジェネリック秘薬とでも呼んでもらいたい。ハンドクリームは、元々秘薬作りで手が荒れがちな私用に作った物だ。1度シエスタに分けてあげたら口コミで広がり、今やメイドに絶大な好評を得る商品に。平民がハンドクリームを使うなんて、(こちらの)常識では有り得なかっただろうから分かる気がする。これを使っている学院のメイドの手は、“働き者の綺麗な手”ではなく、普通に綺麗な手だ。まあ、要するにワイロみたいなモノだ。お陰で皆さん何かと融通してくれる。「おぉ!いつも悪いな!!こいつのお陰でけっこう助かってんだよ!」「いえいえ、美味しい食事に綺麗なベッド、そのささやかなお返しですって」“ミス・メイルスティアが仰ると説得力がありますね”。かつてシエスタに言われた時は独り部屋で泣いたっけ。悪気がないのが余計にキツかった。貧乏は敵だ。「くぅ~っ!やっぱラリカ嬢ちゃんはいい子だ!貴族連中に今の言葉、聞かせてえぜ!」私も一応貴族だけどね。わざとじゃないよねまるとーさん?「あはは、それで何か残り物はあります?前もらったキノコがあったら分けてもらいたいんですけど」「悪いな、今日はないんだよ。その代わり、ニガニンジンならたくさん余ってるぜ」「ああ、朝鮮人参に似たアレですね」「チョセンニンジン?」「いえいえこちらの話ですよー。じゃ、何本か分けて下さい」無料より安いモノはない。材料を取りにいくのも結構な労力だし、使い魔のココアは秘薬の材料探しには向かないだろう。よって今後も厨房のお世話になる可能性は高そうだ。「それと、廃棄予定のお肉をもらえます?使い魔のオヤツに欲しくて」「おお!いくらでも持ってってくれよ!それでラリカ嬢ちゃんの使い魔は何になったんだ?肉って事はイヌとかネコとか、きっと嬢ちゃんにぴったりな可愛らしい、」「でっかいムカデです」「…そうか。まあ、元気出せよ?」慰められた。ヤメテ!そんな目で見ないで!!慣れてるけど。それからしばらくとりとめのない話(主に貴族の悪口)をして、私も貴族ですよーって言って、嬢ちゃんは別だ言われて、どっちの意味での“別”なのかなーって悲しくなった所でお開きになった。「そうそう、言い忘れるところでした」帰り際、“お願い”を切り出した。もちろん、言い忘れていたわけではない。「明日の朝、ミス・ヴァリエールの注文で“質素な食事”を作れって言われたら、“見た目だけ質素な食事”を作って下さい。硬そうに見えるパンとか、具の乏しく見えるスープとか。難しい注文かもしれませんが、マルトーさんならできますよね?」「まあ、ラリカ嬢ちゃんの頼みなら作るが…何だってそんな事を?」「何事もできるだけ悪くない方向に、と思ってるだけですよー。乙女の秘密とでも思ってください。それと、この事は誰にも言わない方向で。特にミス・ヴァリエールには絶対知られないように」「?…ま、そう言われちゃ仕方ねえな。分かったよ、任せてくれ」さて。正直、ほっといても原作通りにコトは進むのだろうけど、原作を知っているだけに才人への同情はそれなりにある。“私”の記憶がない“俺”の頃の自分がワケも分からずファンタジーの世界に連れて来られ、いきなり使い魔にされたらと想像すると、思わず力添えしてあげたくなるというものだ。今頃彼も世の理不尽さにさぞかしヘコんでいる事だろう。初日の朝飯くらい救ってあげてもバチは当たらないはず。原作を知っているのに手助けとかする気のない(むしろ私の幸福のために利用する気な)私の、ささやかなる贖罪だ。※※※※※※※※ここで私のプランを語ろうと思う。正直、魔法的にも頭脳的にも容姿的にもアレな私は、原作ストーリーに参加して主要メンバー紛いになるつもりはない。ある程度の介入はするが、あくまで私の幸せのためだ。クズ呼ばわり結構、好きなだけ罵ってもらっても構わない。でも人間には分相応っていうものがある。脇役が出しゃばるとロクな事がないのだ。参加する気はないと言ったが、正直なところストーリーを知っているのは大きなアドバンテージだ。ルイズはじめ彼らは学生の身分でありながら多くの功績を打ち立て、報酬やら権力やらを得ていく。…それを予め知っていたら。私のような人間がどういう考えに至るのか。“お零れにあずかる!”一択だ。確かフーケ騒動でシュヴァリエ爵位をもらえたはず。精霊勲章だったか?シュヴァリエは従軍しないとダメとか制約があった気が…まあ、どちらにしても褒賞は出る。実に魅力的だ。それ以降はアルビオンとか物騒な話になってくるのでパス。いくらストーリーを知っていたとしても、死亡の危険がありそうな時点で関わるべきではないだろう。とりあえず、フーケ戦に参加した後は、主人公メンバーとそれなりに友好な関係を続けつつ、展開されているストーリー進行に気を付けて生活する事だ。しょっちゅう怪我している才人相手に秘薬を売り付けるのもいいだろう。店でも買えるが、友達取引はそこそこ優先されるはずだ。あとは学院に危機がありそうな時期に休学したりして、それとなーく危険を逃れればいい。デッドエンドを回避し、美味しいところをいただき、小銭を稼いで未来を拓く。将来、かなりの地位に就くだろうルイズや才人はいいコネにもなるだろう。もしかするとそれが一番大きなメリットかもしれない。腹黒いなー、私。もし誰かに心とか読まれたら、確実にクズ認定だね☆