第十三話・賭けにでてみよう☆逆にどこか冷静になってきた。思い出すのは佐々木良夫の全国大会。やってやろーじゃないですか。栄光と失墜の狭間で。突然ですが、ほぼ詰みました☆姫様の隠密 ⇒ 後で始末+情報を引き出すために拷問コース謎の偽組織 ⇒ 同上真実を話す ⇒ 普通に殺される偽ラリカだ ⇒ 偽だろうと本物だろうと殺される事に変わりなし仲間ですよ ⇒ 無理ありすぎ。素性は確実に調査済みだろ常考強気で通す ⇒ 過大評価、目を付けられて狙われる身にだったら何をすればいいのか。持てる“モノ”をフルに使って、負けたら死亡の大博打に出るしかない。冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ、ラリカ。いつもの事なんだ。いつもの様に、パニクる自分に、本当の自分に、“嘘”をつけ。「…戯れは、終いだ」笑みを浮かべ、弓を下ろす。そしてジェネリック秘薬を投げ渡した。「使うがいい。まあ、貴様が“偏在”だったら必要ないかもしれんがな」「…何のつもりだ」「まだ気付かんのか?ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。あまり私を失望させるな。それとも…とぼけているのか?」だとしたら実に面白い男だな、とか言いながら、いかにもな声で笑いながら背を向ける。あくまで無防備にそれでいて自然に。敵意のなさと余裕をアピールだ。背後でワルドが一気に距離を詰めてくるのが分かる。「ウェールズ・テューダーを始末しろ」「何っ!?」…セーフ。ワルドが止まる。私の心臓は止まりそうになった。「ヴァリエールの小娘が、あわよくば奴をトリステインに亡命させようと画策している。奴はこの戦いで死ぬつもりだが、アンリエッタの手紙の内容によっては心変わりするかもしれんからな。亡命を許してはならん。戦場で名誉ある死を与えることも許さん。ウェールズは貴様がその手で殺すのだ」「…貴様、何者だ」台詞はさっきと同じだが、明らかにその質は違っている。そりゃそーだろう。学生だと思ってた奴が「王子を殺せ」だなんて普通言うとは思わない。しかも、亡命させるなとか名誉ある死はダメだとか…明らかに異質だし。背を向けたまま、ポケットからカラーコンタクトレンズを取り出す。そして、顔を押えて笑うフリをしながら装着した。「ククク、あははははは!!白々しいぞ、ワルド。見当くらいついているだろう?」そして振り返る。出来るだけ凄惨な笑みを浮かべて。初めて思う、目付き悪くて良かったって。「……!」一瞬、私の顔を見たワルドの表情に驚きの色が現れた。口を開きかけたが、しかし応えない。今、おそらく必死で思考を巡らせているのだろう。彼の前に立つ“ラリカ”の瞳は普段の灰色ではなく、無駄に目立つ紅色。近付いたからバッチリ分かるはずだ。これが邪悪なる闇の秘宝“カラーコンタクトレンズ”の大いなる力なのだ!嘘だけど。「“左手”には執心しても、“頭脳”には興味がないとでもいうのか?虚無が1人でない事は知っていると思ったが」「!!…ミョズニトニルン」そう、私は“神の頭脳・ミョズニトニルン”。クロムウェルの秘書にして、その正体はガリア王ジョゼフの虚無の使い魔シェフィールド。そーいえばワルドってシェフィールドがミョズニトニルンって知ってたっけ?いや、知ってれば“この豹変したラリカ”に対して「ミョズニトニルンか」っていう台詞は出てこないだろう。ってことはワルドはシェフィールドという存在は知っていたとしても、彼女がミョズニトニルンだとは知らないって事でFA(ファイナルアンサー)?ま、どっちにしろ問題ないんだけどね。もし知ってたとしても、今の私を“操って”いるのはクロムウェルの秘書という仮の姿でなく、隠された彼女の本性って事にすればいいだけの話だ。「本当に分かっていなかったのか?まあいい。だが、今言った任務は必ず完遂しろ。何ならクロムウェルの代弁だと思っても構わん。ウェールズのなるべく傷のない死体が必要なのだ」言わなくてもワルドはフラれた拍子にウェールズを殺すんだし。断る理由もない。一国の王子様を殺せって言うのはちょっと気が引けたけど、私の命がかかってるし、どーせ原作通り死ぬんだからい~よね。うむ、私が許可する。「理由は…戦いが終わった後にクロムウェル自身が見せるだろう。虚無の茶番劇をな」「茶番劇、だと…?」よし、食いついた。「クロムウェルは、虚無ではない。私が与えし指輪を使い、虚無を演じているだけの傀儡にすぎんのだ。信じられんか?なら、“アンドバリの指輪”を調べてみるがいい」ワルドが動揺を隠し切れずにいる。もう一息。「貴様は傀儡の傀儡に身を置き続けるか?それとも私の主の元で“聖地”と真実を得るか?選ばせてやる。貴様が、自ら選ぶのだ」必殺奥義“聖地”。対ワルドにおいてこれ以上のキーワードはない。沈黙。こちらは余裕の笑み。内心ビビりまくり。死にそう。ワルドは追い詰められた犯罪者みたいな顔で苦悩している。そして。「教えてくれ。一体なぜ、お前は僕にそんな話をする?」“貴様”でなく、“お前”に変わっている。ワルドがそれに気付いているかどーかは知らないが。「貴様を正当に評価しているからだよ、ワルド。クロムウェルの玩具で終わらせるには惜しい。貴様の“聖地”への想い、貪欲な力への渇望。金や権力などに踊らされる似非貴族どもには真実に触れる資格もない。むろん、『閃光』と呼ばれる実力も十分買っている」「伝説の使い魔とはいえ、たかが学生メイジにこの有様だがな」やはりこのワルド、ミョズニトニルンが誰か分かってない。とゆーか、私をミョズニトニルンだと思ってるようだ。アホか。額にルーンないでしょーに。「“この小娘”が伝説?笑えん冗談だ。“神の頭脳・ミョズニトニルン”の能力は知っているだろう?」髪をかきあげ、ダイエットイヤリングを見せる。「“ユンユーンの呪縛”。あらゆる魔道具を操る我が能力と、この耳飾りがあればドットの小娘を自在に操る事など造作もない。考えてみろ、こんな小娘の力だけで貴様を圧倒できると本気で思うか?それにメイルスティアがどんな貴族かは知っているだろう?…第一、私が自らこんな場所に出向くわけがない」ユンユーン=電波ゆんゆん。もちろん今考えた名前だ。センスないとかゆうな。「では、ミス・メイルスティアは…」「この小娘はヴァリエールやガンダールヴとも親交が深いからな。実にいい操り人形になってくれた。ククク、愉快だと思わんか?婚約者は裏切り者、友人は私の傀儡。掌の上で踊るとはまさにこの事だ」ラリカはただ操られているかわいそーな女の子で、何も知らないんですよダンナ。悪いのはぜーんぶミョズニトニルン。ヤツが黒幕なんですよ~。「…なるほど、確かにそのイヤリングからは微かな魔力を感じる。そのマジックアイテムが“ユンユーンの呪縛”とやらか…。随分と悪趣味な道具だ」そう、このイヤリングは正真正銘マジックアイテムだ。“探知”してもらっても問題ない。ただ、その効果はダイエット(これも怪しいが)なんだけど。「目的の為ならどんな物でも利用する。それは貴様も同じだろう?…で、そろそろ答えを訊こうか。私も愚者に用はない。ここまで言ってなお、まだ信用できんなら後は貴様の勝手にするといい。心配ならこの小娘を殺すか?いいぞ、それはそれで面白い」勝手にしないで、お願いだから信用して!!「待て!…まだ聞きたい事がある。なぜこんな場所まで連れて来た?戦う理由がどこにあった?答えるのはそれを訊いた後だ」「…サウスゴータの娘の前でウェールズ暗殺の話をするのか?あの女はアルビオンに恨みがある。言えば、何をしでかすか分からん。奴は所詮、ただの捨て駒。それに用があるのは貴様だけだ。ここなら周り全てが見渡せる。誰も我々の話を聞くことはない。…戦った理由は言っただろう?“戯れ”だとな。もちろん、『閃光』の力を試してみたかった事もあるが」…また沈黙。ワルド、これだけやったんだから納得してくれ。この時点じゃ知りようがなかった情報も得たんだし、メリットいっぱいだって気付くんだ!「…分かった。お前の話、とりあえず信じよう。こちらとしても、手紙ついでにウェールズの命は奪うつもりだったのでな。注文はなるべく痛んでない死体にする事だけだろう?今回の利害は一致する。ただし、その他についてはこちらの判断でやらせてもらうぞ」イィィヤッホォォゥ!!生き延びた!生還したよ私!!ワルドはどうせレコン・キスタ終了と共にフェードアウト(多分)だろうから、後で私がミョズニトニルン、つまりシェフィールドを偽っていたなんてバレないはず。シェフィールドだってそのうち死ぬし。彼女が死ねば、全ては闇の彼方へ。明かされない嘘は、真実と変わらないのだ。シェフィールド本人にワルドが訊いたらアウトだが、シェフィールド=ミョズニトニルンとは知らないし、彼女が自分から明かす事もないだろう。「虚無が1人、ヴァリエールを手に入れるつもりか?ふん、好きにするがいい。だが貴様が賢くて助かったぞ。正直、この小娘の実力ではガンダールヴが妨害してきた時に対処できなかった。貴様なら奴を倒せるだろうからな」倒せないけど。むしろ左腕チョッキン。「それより、ウェールズを始末した後だ。お前の主とやらに引き合わせてくれるのか?レコン・キスタからそちらに身を移すのか?」ジョゼフに?あー無理無理。だって私にそんなコネないしね。ヒゲ子爵様には何も知らないまま無念の死を迎えていただきたいのですよ。「急くな。貴様は何食わぬ顔で、クロムウェルに協力していればいい。レコン・キスタは傀儡なれど、いずれはハルケギニア全土を掌握する。全てはそれからだ」「…なるほど。茶番は茶番なりに利用価値があるという事か。分かった」第一関門突破。でも、このままサヨウナラは無理だ。『じゃあもうこの小娘(私)は用無しだから始末しちゃえ☆』って話になりかねない。だから、次の一手を打ち込む。やりたくないけどやらなきゃ死ぬ。「私は貴様が注文通りにウェールズを殺すか見届けなければならん。こちらとしても一応は貴様が使えるかどうか見極めねばならんのでな。なに、単なる確認だ。気を悪くするなよ?で、貴様の本体は今、どこにいる?」「ふん、疑り深い…いや、当然か。…本物はルイズと船に乗り込んだところだ。だが、お前はどうやってそこまで行く?“フライ”の速度では追い付けんぞ」「貴様のグリフォンがいるだろう?ここに呼べ。私はそれに乗っていく。…独り、賊に襲われていたところを助けられたと言う事にでもしてな」微かに笑い、1本だけ残った矢をワルドの目の前で自分の左肩に突き刺した。一瞬、ワルドが微かに目を見開く。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃ!!!!でも、ガマンだ!表情を変えない!!涙も出さないィ!!あくまで今の私は“操られているラリカ”なのだ。痛みも、感じないはず!!「…これで襲われたという証拠になるだろう。ワルド、何を呆けている?」「いや。必要だとはいえ、ミス・メイルスティアも憐れだと思っただけだ」私が操られていると完全に信じてくれたようだ。泣きそうなくらいの痛みに耐えた甲斐もある。「重要でもない他人への情など何の価値もない。…それと、グリフォンに乗った後は小娘の意識を戻す。常に操るのも楽ではないのでな。しかし、小娘の目を通して貴様の行動は見えている。誰かを見逃そうなどと、妙な行動は裏切りと見做すぞ」「言っただけだ。そんな情に流されるほど愚かじゃない。それよりもミス・メイルスティアに意識を返して平気なのか?」痛みを堪えて笑みを浮かべる。「“ユンユーンの呪縛”は心を操る。記憶の改竄など他愛もない事だ」全身全霊、嘘なんだけどね。※※※※※※※※「痛いよぅ…じょーだん抜きで、痛いよぅ…」グリフォンの背で呟く。全速力での“フライ”で精神力はほぼカラッポ。“治癒”の魔法で応急処置はしたが、まだまだ全然回復には程遠い。ジェネリック秘薬は全部ワルドにやっちゃったし。それもまあ、作戦なんだけど。「このイベントが終わったら…絶対ヤツらと縁を切ろう。そーしよう」将来のコネとか、もうど~でもいい。できれば欲しいけど。ジェネリック秘薬を平民相手に売って細々と生きよう。商才ないけど。それか適当な貴族とでも結婚して平和な余生を送るんだ。相手いないけど。だから、その為にも。考えて考えて、考え抜いて。この死亡フラグをへし折ってやる。「ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア、ふぁいとぉぉぉー!!」ああそれと、某ミョズニトニルンの某シェフィールドさん。全部なすりつけちゃってメンゴ。反省はしていない。