幕間1・嵐の前の平和な日常(才人)私は願う、みんなが笑って暮らせる世の中を。それが無理なら、私だけでも笑って暮らせる世の中ぷりーず。自分はカワイイもんなのです。フーケ騒動が終わり、私は平和な時を過ごしていた。“私達”じゃなくて?いやー、私は私が平和ならいいのですよ。他はどーでも。関係な~いしねっ☆「ラリカ、入っていいかー?」授業後、新しい秘薬にでも挑戦しよ~かなと思っていると、聞き慣れた声がした。「才人君か。ど~ぞ。ドア開いてるよー」「いや、窓なんだけど」ココアに乗って窓からコンニチワってワケね。すっかりココアを私物化してるなーとか思いながら、窓を開ける。「よっと。お邪魔しま~す。何かやってたの?」飛び込んできた才人は、デルフリンガーと斬伐刀を私の机の上に置き、ベッドに腰掛ける。…う~ん、この部屋の主みたいな風格。いきなりリラックスするのもどうかと思うけど…ま、別に気にしない。最近の私は機嫌がいいのだ。「新しい秘薬でも作ろうかと思って。子供向けの甘い味がする飲み薬。突然の腹痛にドウゾ。1瓶3スゥで新・発・売☆」「ふぅん。よく考えるよな。で、どんな味なんだ?」「おっ、興味ある?実は薬効成分ナシの試供品があるんだよねー。良かったら飲んでみてくださいなっと」棚に置いてある瓶を取る。私的には好きな味だが、こういう物は第三者の意見が重要だ。「じゃあもらうよ。…オレンジっぽい匂いだな」特に疑いもせず、一気に飲み干す。これが毒とかだったらどーするんだ?まあ、私が心配するコトでもないか。「りんごジュース?いや、微妙にパインみたいな味も…。ん、でもマズくはないな」「そっかー、良かった~。私は好きな味だったから、マズい言われたらヘコんでたよ」才人が味オンチという話は聞かないし、このぶんなら本当にイケるのだろう。嬉しくて自然に笑みが零れる。安い材料で作るから効能はアレだけど、平民相手の薬なら上等な部類だろう。高価なのを少量作って売るよりも薄利多売だ。てか、レベルの高い秘薬は私じゃ作れない。「ああいう味が好きなんだな、ラリカは。ルイズもクックベリーがどうとか言ってたけど、やっぱどの世界でも女の子はフルーツ系好きなんだ」「甘いモノは別腹という格言があるように、フルーツに限らず甘味はそれだけで魔法なのだよ。ゆえに食べ過ぎてえらいことになったりするんだけどね」ルイズがクックベリーパイを1ホール全て食べたのを見たことがある。あの身体のどこに入るのか不思議だった。いや、その栄養がどこに向かっているのかが不思議だった。とりあえず、胸でないことは確かだが。「そういえばさ、才人君はよく私の部屋に来るけど、ルイズに何か言われたりしないの?某“微熱”なヒトに聞いた話によると、キュルケルームインザ才人した日なんて、けっこう手酷く怒られたって話だったケド?」もちろん、そんな話をキュルケに聞いた事はない。原作を知ってるってだけの話だ。それはともかく、私の所に来ることでルイズの機嫌を損ねるような事があったらマズいだろう。将来的な意味で。「いや?ルイズ公認だし。むしろ、授業の復習とかで集中したい時なんて、ラリカの部屋にでも遊びに行ってろとか言うくらいだぞ。今日はアイツが図書館で調べ物するとか言ってたから来たんだけどな」はっはっは、なるほどなるほど。私は嫉妬の相手にもならないってぇコトですか。そうですか。才人は原作だと煩悩に流されやす~い青少年だけど、この私に欲情する可能性なんてゼロだもんね。そりゃ~安心だネ☆「な~る、でも才人君。私も一応はレディだって事、頭の片隅に置いといてねー。ギーシュとかと同じ扱いされたら泣いちゃうよ~」野郎友達と同じ扱いは悲しいから。ヒロインとかそういうガラじゃないのは分かってるけど、一応それなりにレディなのだ。「そんなの当然分かってるって。まあ、俺、元の世界では女の子の友達とかいなかったから、扱いとか慣れてなくてアレかもしれないけどさ」「んー、どうだかなぁー。態度で示してもらわないと分かんな~いよね?」「信用ねーなぁ俺。でも俺、ラリカに何かあった時は絶対駆け付けるから。その時にはちゃんと見直してくれよ?」「ありがと~才人君。私感激して涙が止まらない!うるる。…ま、期待しないで待ってるよ~」「うわっひでえ!全然信用してねえし!」てきと~に軽口交わして笑い合う。打算とかなしに、この瞬間は普通に楽しんだ。「あ、そうそう、最近夜に自主トレしてるっぽいね。ココア連れて山とか行ってるでしょ?」「まあな。ゴーレム戦で思ったんだけど、剣の腕はともかく基礎体力は付けとかなきゃって。素人が考えた訓練だからあんまり効果ないかもしれないけどさ」「いやいや、努力は報われるよー?すくすく逞しくなって、ルイズのハートをどっきゅんしちゃってくれたまえ。女は一部を除き、へっぽこよりもたくまし~いオトコに惹かれるモノなのです。私もささやかながら協力するから」疲労に効く秘薬モドキくらいなら、喜んで進呈する。ルイズと才人にはトリステインを守ってもらわなきゃいけないのだ。「え?い、いや、別に俺はルイズのことなんて、」あたふたする才人。分かりやすいなー。「はいはい、分かった分かった照れるな才人君。でも、このラリカさんの前では、遠慮なんてゴミ箱にポイしちゃっていいんだよー。フリッグの舞踏会でのルイズ、すごーく魅力的だったしね?惚れるのも無理はない…いや、惚れ直したのかなか~な?」「だ、だから、」「あはは、“サイレント”~♪何言ってるのか聞こえませんな~」真っ赤な顔してぱくぱくする才人。もちろん何も聞こえない。少しすると、諦めたように肩を落として口を噤んだ。困ったような、でも笑顔だ。“サイレント”を解除し、ふてたような彼の肩を杖で軽く叩く。「あらら、怒っちゃったかな?」「怒ってないよ。でも…実はラリカ、けっこう意地悪い?」「そのフリッグの舞踏会でだ~れも誘ってくれなかったので、乙女的プライドがあばばばな感じになっちゃいまして。着飾った意味もなっしんぐで。そのダメージから未だに立ち直れていないのですよコレが。だから純情ぼーいの才人君をからかわずにはいられなくなっちゃってるんだぜー」実際は別に気にもしていない。食べるだけ食べて、お腹いっぱいになった時点で帰ったし。才人をからかうのは単純に楽しいからだ。そう言ったらさすがに怒りそうなので、てきと~に理由付けしてみた。「誘うも何も、いくら探しても見当たらなかったんだよな。会場、隅々まで探したはずなんだけど」あれ?誘ってくれようとしてたんだ。まあ、ルイズ以外では私が唯一ダンスに付き合ってくれそうな女の子だし、分からんでもないか。キュルケは競争率高いしタバサは黙々と食べてるし、さすがにシエスタと踊るわけにゃーイカンしね。「それは失礼、あ~んどアリガト。じゃあ、お詫びにここで、しゃるうぃ~だんす?」にこっと笑い、手を差し出してみる。「え!?」「な~んてね?また次の機会にお願いしますわジェントルメン」「あ、ああ、次の機会にな!」いちいち反応おもしろいなー。ま、次の機会なんて多分な~いけど。※※※※※※※※「…んじゃ、そろそろ戻るかな。また遊びに来ていい?」それからしばらく談笑し、外が暗くなり始めた頃に才人は立ち上がった。てか、また来る気ですか君は。まーいいんだけどね?トラブルさえお土産に持ってこなけりゃ。「いつでもど~ぞ。それと、お帰りはちゃんとドアからど~ぞ」デルフリンガーと斬伐刀を手渡し、笑顔で言う。今度からは窓から入ってくんなっていう笑顔の圧力…のつもりだ。効いたかど~だか分かんないけど。「サンキューな。おやすみ、ラリカ」「夕食まだだし、寝るのもまだだけどね~、おやすみ才人君」んじゃ、ご飯まで秘薬作りに勤しみますか~ね。と、そーだ。「あ、そーいえばさっきのだけど」「さっきの?」ドアに手を掛けていた才人が振り返る。「冗談抜きで、信用してるよ。期待してるし信頼もしてる。それに、見直すも何も、才人君の凄さはバッチリ分かってるから」何せ原作読んでますから。どんどん強く、偉くなってくれたまえ。私が今後、危険な場面に突っ込む事はないだろうけど、そうなったらしっかり守ってプリーズ。それくらいの友情特約はあるよね?「…ああ」一瞬驚いた顔をして、それからニカっと笑う才人。なんだど~した?ま、私なんかからでも褒めらりゃ~嬉しいか。つられて私もニッコニコ。「でもま、ルイズ最優先でね。あの子、強そ~に見えても内心脆いから。その代わり、それを支えてくれるヒトがいれば、きっと凄いメイジになれる。何せ“凄い”才人君を呼び出した程なんだし、私が保証するよ。…だから、お願いね」ルイズと才人、どちらが欠けても物語は破綻する。いわば、我が幸福ロードも破綻する。だから釘を刺しておく。「分かってるよ。…ったく、でもどうしていつも…」いつも何だ?お小言はうぜーってか。はいはい、もうこれ以上は不自然だろ~し言いませんよー。「ふふ、引き止めてゴ~メンね。それじゃ今度こそ、ばいばい」ひらひら手を振って苦笑する才人を見送る。いやー、実に平和だね。こんな平和がずっと続けばいいのにねー。続かないの分かってるけど。それでも願わずにはいられないわけですよ。私の幸福が最優先なのには変わりないけど、それが揺るがない限り、彼らもシアワセにはなってもらいたいわけで。だから、ちょっと声に出して言ってみる。「どうか。私の大切な人達が、幸福でありますように」…なんてねー。気分は聖女~。ホントはクズ人間だけど。あは。オマケ<Side 才人>「冗談抜きで、信用してるよ。期待してるし信頼もしてる。それに、見直すも何も、才人君の凄さはバッチリ分かってるから」帰り際にいきなり言われた。あー、その、面と向かってそういう台詞は…あれだ。うん、反則。何でこういう時だけ普段の冗談っぽい感じじゃなく、穏やかに、それでいて真剣な眼差しで言うんだ?その…ちょっと、嬉しくなっちまうじゃんか。「…ああ」照れを誤魔化すように笑って応える。ラリカも微笑んだ。「でもま、ルイズ最優先でね。あの子、強そ~に見えても内心脆いから。その代わり、それを支えてくれるヒトがいれば、きっと凄いメイジになれる。何せ“凄い”才人君を呼び出した程なんだし、私が保証するよ。…だから、お願いね」続けて彼女は言う。「分かってるよ。…ったく、でもどうしていつも…」…そうやって、自分以外を優先しようとするんだよ。笑顔に見送られ、廊下に出た。でも、何か心に突っ掛かるモノがある。やっぱ言っとかないと。俺やルイズの事ばっかじゃなく、自分の事も考えろって。出てきたばかりのドアに手を掛ける。『 ―――――― どうか。 私の大切な人達が、幸福でありますように 』小さく漏れて聞こえたラリカの呟き。ここで部屋に入ってくなんて流石に無理だ。ったく。何だかなぁ、ホントに。…………ホントに。