「・・・・・・？」
　目がさめた。まず開いた目に飛び込んできたのは真っ暗な空間。絶対ゲシュペンストのコックピットじゃないな、
ここ。天井が高いもん。
　ゆっくりと意識が覚醒してきた。なんか見覚えがある天井が闇の中から浮かび上がってくる。
　そういえば、この枕とかの感触も懐かしい。
　あ、ここもしかして。
　思い至って起き上がろうとするが、何かに抱きかかえられているらしく、身体が動かない。
　なにが私につかまっているんだと横をみると、クルクル巻き毛が目に入った。これでわかった、グレースか。首を
逆方向に向けると、こっちにはレッシィがいた。そのちょっと上にはリリスらしき小さな姿が見える。
　キングサイズのベットだから３人で寝ても、かなり余裕があるはずだ。
　今何時かわからないけど、ここに寝かされているってことは、小母様が連れてきてくれたってことだから、心配し
ないで朝まで寝させてもらおう。
　ここは、私とジェスが小さい頃から二人で寝ていた場所。小母様の家なのだから。
　私は再び目を閉じた。いい夢、見れそうだ。
　
　妙に胸をまさぐる感覚に目を覚まさせられた。
　何だと思って目をあけると、グレースのヤツが私の私の着ていたシャツをたくし上げ、剥き出しになった胸に顔を
うずめて幸せそうに眠っていた。
　相変わらず寝相が悪いヤツだ。
　グレースをどかして、身体を起こす。うん、懐かしい。部屋は前のまんまだ。
　二年前まで私はここでずっと寝ていたんだよな、ジェスと一緒に。
　レッシィとチャムはもう起きたらしく寝室にはいなかった。
　私もベットからでてリビングに向かう。
「あ、おはよう、リン。よく眠れた？」
　リビングには小母様がいて、朝食の準備をしていた。優しい問いかけに嬉しくなる。
「はい、とってもグッスリと」
「ロンド＝ベルの皆さんには、ちゃんと断ってあるから心配しなくていいわよ」
　小母様のやることにはやっぱりそつがない。
　リビングから見える庭、その花壇には季節の花がいっぱい咲いていて、リリスとレッシィがその花々を鑑賞して楽
しんでいるみたいだ。
「あの子も使徒との戦闘が終わった途端、バタンキューって感じで倒れちゃってね。お疲れみたいだったし、大活躍
だったでしょ？　ブライト大佐に断って、お家に招待したってわけ」
　それで、オマケとしてグレースとリリスがついてきたらしい。
　小母様の家はテスラ＝ライヒ研から北西３０キロのところにあるのだけど、その移動中、私ぜんぜん起きなかった
のか？
　トレイに載っていたパンとかサラダとかをテラスに面したテーブルに置くと、改めて小母様は私に向き直った。
「ご苦労様、頑張ったわね、リン」
　そして私を優しく抱きしめてくれる。う～、やっぱり小母様に抱きしめられるととっても幸せな気分になれる。
「いろいろ訊きたいこと、あるでしょうけど、まずは朝ごはんにしましょ」
　そうだ、幸せに浸っちゃってすっかり忘れていたけど、私は昨日、地球に帰ってきたばっかりだったんだっけか。
それで、ポセイダル軍と戦って、その後怪獣オタマジャクシと・・・　
　トドメとばかりに二重人格になってしまったかのようなゲシュペンストで妖しさ大爆発のキャノン砲を撃たされて。
　小母様はいったい何を教えてくれるんだろうか？

　半分寝た状態で寝室から出てきたグレースとレッシィとリリス、それと小母様とテーブルを囲んで、のどかに朝食
をとった。リィナが来てくれてからかなり改善されたけど、トロイホースの味気ない食事ばっかりだったせいか、小
母様の作ってくれた料理は、とっても美味しかった。凄く幸せ。
　そしてシャワーを浴びて、ちゃんと連邦の制服に着替えてしゃきっとしてから、改めてリビングへ。
　小母様はローズティーを淹れて、私たちに出してくれた。
「まずはね、リン。これから話すことはあなたからブライト大佐に教えて欲しいの」
　小母様はまず、こう切り出してきた。
「それと、ぜったい他言無用。できたらブライト大佐に話したら、あなたやレッシィの口からは絶対ほかの人に話し
ては駄目、いい？」
　ちなみにグレースは「話が難しくなるぞ」と言ったら、リリスを連れて庭に出てしまった。頭良いくせに、めんど
くさがりおって、あの娘は。
「そんな話、私にしていいの、小母様？」
「私も席外しますよ」
　レッシィは気を利かせて場をはずそうとするけど、小母様は首を振っていった。
「別にいいわよ。それにリンも一人できくんじゃ不安でしょ？　レッシィ、良かったらリンに付き合ってあげて」
「うん、レッシィ頼む」
　たしかに聞かされる話のスケールがあまりに大きいと、それを一人で抱えるのはちょっと不安だ。でも、レッシィ
が一緒に聞いてくれたら、気がずいぶん楽になるだろう。
　小母様、きっとこういうことを考えて、彼女も連れてきてくれたんだろうな。
　そして、小母様の話は始まった。
　それは、あの使徒についての話だった。
「正直な話、私もあれについては詳しく知らないのよ」
　カップをもってローズティを一口飲んでから、小母様は話はじめた。
「レッシィは知らないわよね。リン、十五年前に起きた『南極大災害』って覚えてる？」
「え、なんとなく、ですけど」
　十五年前、私はまだ四歳だったとき、南極に巨大隕石が落ちてきて、そのために南極の氷が１０％くらい溶けて、
オーストラリアや各地域沿岸部に多大な被害があった、そんな事件だ。
　ニュースで毎日その災害報告をしていたのを見ていたのを、なんとなくだけど憶えているかな。
「あれって、嘘なのよね」
　･･････小母様、いきなりすごいこと言ってないか？
「詳しくは私も聞かされてないんだけど、南極を調査していた調査隊がヘンなモノを見つけたらしいの」
「ヘンなモノ？」
　ずいぶん抽象的な言い方だ。
「うん。誰がつけたか知らないんだけど、それはいつの間にか『使徒』とかって呼ばれるようになってたわ。でね、
その使徒が暴走とかいえばいいのかな、南極で原因不明の大爆発、みたいのが起きたのよ。それが、南極大災害のホ
ントの原因」
　小母様の説明は続いた。そういえば小母様、なんでこんなことを知っているんだ？
「その爆発は本当だったら南極大陸全土の氷を溶かして、地球の地軸を歪めるんじゃないかってくらいのエネルギー
があったそうよ。これは、その場に駆けつけたカネダくんが鉄人で観測したから間違いないわ」
「でも、南極はまだ氷の大陸、ですよ」
　小母様が言うとおりのことが、ホントにあったらの話だけど。なんかスケール大きすぎてチンプンカンプンだ。
「カネダくんより先に南極にいた人がね、命がけで爆発エネルギーを押さえ込んでくれたの」
　その時、小母様の瞳がわずかに揺れた気がした。でも、話の内容が凄い。
「えっと、そんな凄いエネルギーをどうやって押さえ込んだんですか？」
「その人、すっごいエスパーだったの」
　私が疑問を口にすると、あっさりと答えが返って来た。エスパー、ですか？　私、この話、小母様以外の人から聞
かされていたら絶対信じないぞ。
「まぁ、その人の話は置いといて、続けるわね」
　置いといていいのかな？
「でね、なんとか最悪の事態を免れたんだけど、そのあと、妙な組織がその使徒に対抗するためとか称して、妙なモ
ノの開発を始めたらしいの」
　どうも抽象的な名詞が多いな、この話。
「それでその組織は、何ていったかな、エヴァンゲリオンだっけかな、とかいう対使徒用の決戦兵器を造ったらしい
のよ」
「ちょっと小母様、質問」
「何かな？」
　私は控えめに手を上げて質問する。
「その小母様は言ったえヴぁんげりおんを造った連中って、どうして使徒とかが攻めてくるって知っていたの？」
「その理由は知らない。でもね、連中には攻めてくるって確信があったらしいわよ。う～～ん、ビアンは説明聞かさ
れて納得したらしいから、根拠のない理由じゃないとは思うんだけどね」
　･･････なんかさらっとビックネームが小母様の口から出たような。
「ビアンがＤＣ戦争起こした時だって、その組織には不干渉を貫いたしね。それにその備えは無駄じゃなかったし」
　ビアン＝ゾルダークの名前が出た時点で、私の意識はちょっと跳んでしまったらしい。軽く頭を振って意識を戻す。
「で、前振り長くて悪いんだけど、ようやく本題ね」
　え、今までの前振りだったの？
「二週間前になるんだけど、アジア極東地区の日本、第二新東京シティにおいて第三使徒とエヴァンゲリオンの戦闘が
あったの」
　二週間前？　で、でもそんなのニュースとかでもぜんぜん報道されていないぞ。って言っても今、戦時下だからニ
ュースなんてそう細かくやれないだろうけど。でも、何らかの報道があってもいいんじゃないか？
「まず連邦軍が上陸した使徒に対して攻撃を加えたらしいんだけどぜんぜんダメ」
　小母様はそこで胸の前でダメってバッテン印を腕で作る。
「そのあと連邦軍はそのエヴァンゲリオンの組織に迎撃を委ねるのがイヤだったみたいで、ライディーンとコンバト
ラーＶに協力を要請した」
　思わず目が丸くなる。すっごいタッグじゃないか、それって。
「で、どうなったんですか、それ？」
「相打ち、だったみたいね。コンバトラーＶのパイロットは葵くんは両腕切断の重傷、ライディーンのひびきくんは
一時的な失明状態らしいわよ」
　・・・思わず、唾を飲みこんでしまう。ゲッターＧやマジンガーＺにもひけをとらないはずのスーパーロボット
二体をもってしても、相打ち。
「で、でも、小母様、相打ちだったら、その後、何とかっていうのとは戦闘は行われなかったんじゃない？」
「いっかい、倒したぁって思ったあと、なんか再生したらしいのよ。で、頼みのスーパーロボットは動けなくなった、
もうどうしようもないってんで、連邦軍は『ネルフ』にその使徒に対する迎撃の全権を委任した」
　私は何か聞きたくても、それを言葉にして口に出せないでいた。
「で、すったもんだあって、エヴァンゲリオンは使徒迎撃に成功。これでそのネルフの連中は鼻高々でこう宣言して
たわ。『使徒はエヴァじゃなきゃ倒せない』ってね。でもね、その自慢もあっさり終わり」
　小母様、その『使徒はエヴァじゃなきゃ倒せない』って台詞の時手を組んで陰険そうに言ったんだけど、誰かの真
似？
「あなた達がその自慢をへし折ってくれたわよね、フフン♪」
　確かに･･････　でも、マジンガーＺは大破してしまったし、紙一重って感じだった。竜馬さん達が駆けつけてくれ
なかったら勝負はどう転んだか分からなかっただろう。
「でも、そのエヴァとかっていうのは単機で使徒を迎撃したんだったら、やっぱり凄いですよ」
「いいの、リン、あんなヤツの組織を持ち上げなくて。で、きっとね、リン、あなたがトロイホースに帰ったら、き
っとその組織から第二新東京シティのその組織に出頭命令みたいのが出てるわ。その時に、あなたがブライト大佐に
くっついていって、そこの司令にね、コレを・・・」
　と小母様は小さい封筒を取り出し私に渡す。
「私からだって言って渡して」
「小母様から、ですか？」
「貴女が呼ばれなかったら、そうね、ブライト大佐にでも頼んでみて」
「はい、わかりました」
　これが小母様の用件なのかな。横に座っていたレッシィはというと、私以上にチンプンカンプンだって顔がしてい
た。知らない固有名詞の連発だったろうから、無理ないかな。
「で、小母様、訊いていい？」
「なに？」
　私は少しためらいがちに疑問を口にした。
「小母様、どうしてそんなに色んなこと知っているの？　小母様っていったい？」
　すると小母様、ちょっと困ったように微笑んだ。
「ジェスの母親、あなたの育ての親、テスラ＝ライヒ研所長代理、なんだけどね、その他に昔とった杵柄があるの。
その時に世界の中枢部分に食い込んでいたから、今でもそのコネみたいので、いろいろ知ることができるってトコか
な。でね、使徒の件は気になっていたから下僕に調査を頼んでおいて、その報告を聞いているからある程度はね、知
っている、ＯＫ？」
「うん、ＯＫ」
　そうだね。小母様が色んなこと知っていても、私にとっては大好きな小母様には違いないんだから。でも、下僕って
誰？
「でも、こんな重要な話をどうして私にするの？　これはブライト艦長と小母様が直接話をしてくれたらいいと思う
んだけど」
「それはね・・・　私個人は連邦軍に協力しちゃいけないの。そういう決まりがあってね。テスラ研の所長代理とし
てだったらある程度融通きかせられるんだけど、使徒の件とか私個人しか知らない情報は連邦軍には供与しちゃいけ
ないから」
　そうスラスラいうけど、その時点で間違いがあるかも。
「小母様、私も一応連邦の士官なんですけど・・・」
　ひらひらと肩の少尉の階級章を示す。すると小母様は手を伸ばして私の髪をやさしく梳いてくれた。
「リンは特別。私のことを知っている連中なら、ぜったいリンには手は出さないから。だからリンには何でも言って
いいの」
　こういう台詞の端々に、小母様は私を愛してくれているんだなぁって実感させられる。でも、ちょっとはぐらかさ
れてしまっている気もするかも。
「思ったより話、長くなっちゃった。この後ブラックホールキャノンとかの話もしようと思ったんだけど、時間ない
かな？」
　小母様が壁にかけた時計をチラッとみると同時だった。家の前に８人のりの軍用六輪バギーが停まった。運転して
いるのは竜馬さんみたいだ。助手席には・・・　ブライト艦長が乗っている、なんで？
「お迎え来ちゃったみたいね。ブラックホールキャノンとか【システム：フラン】についてはカネダ君にレポートで
も書かせて送るわ」
　小母様は話を終わらせて、椅子から立ち上がり玄関に向かう。是非にでも聞きたかった話だな、そっちも。
　私は、ちょっと放心状態。隣にいるレッシィと思わず顔を見合わせる。
「頭こんがらがりそう」
「同感」
　そう言って軽く笑いあう。
　やっぱり、一人で聞くよりきがずいぶん楽だ。
　小母様について、玄関にむかうと、直立不動の姿勢で敬礼しているブライト艦長がいた。
「わざわざすいません、ブライト＝ノア大佐。こんなところにご足労おかけして。本来でしたら私の方がご挨拶に伺
わなければいけないのに」
　そう言ってオホホと上品そうに笑っている小母様。あ、猫かぶってるぞ・・・
「あ、いえ、ご協力をいただいて、その・・・　たいへん感謝しております」
　･･････ブ、ブライト艦長の頬が赤らんで、緊張しまくっている。す、すごいぞこの光景。後ろに控える竜馬さんも
なんだか心なしか顔が赤いかも。
「いいんですよ、リンがお世話になっているんですからそのくらい。これからも・・・」
　と、小母様深々と頭をさげる。そこで胸の谷間がよく強調される角度にさげるのは小母様の得意技だ。
　案の定、ブライト艦長が固まっている。
「リンのことをよろしくお願いします」
「あ、はい、善処します！」
　・・・男ってなんか哀れだ、こうみると。ブライト艦長、あなた妻子もちでしょうが。
「わざわざお手数かけてすいません、艦長、竜馬さん」
「あ、リンにレッシィか。ご苦労だったな。それと、よく無事でいてくれた」
　私たちが顔をだすと、一転伸びていた鼻の下が縮まり、私たちを心配してくれていた上官の顔になる。そっか、も
しかしたら大気圏に単独で突入してしまった私たちのこと、ずっと心配してくれていたのかな？
「ご迷惑かけました、艦長」
「いや、無事ならそれでいい。せっかくの親子団欒に水をさすようで悪いが時間がない。さっそくトロイホースへ戻
ってくれ」
「了解しました」
　そして私は小母様に向き直り軽く抱きつく。
「じゃあ、小母様、またね」
「うん、リンも元気で。レッシィも、リンをよろしくね」
　そして小母様はレッシィを軽く抱擁して頬のあたりにキスをする。
「はい、お世話になりました」
　レッシィも顔に朱がさしている。小母様って近づくと何ともいえない素敵な香りするんだよね。いつの間にか横に
来て羨ましそうな顔をしているグレースも軽くダッコして頬にキスして、チャムに頬ずりして、お別れの挨拶はすん
だ。
「じゃ、いってらっしゃい」
「はい、いってきます」
　そうして私は後部席に乗り込んだ。発進するバギー。去り行く私たちを小母様は見えなくなるまでずっと見送ってくれた。

　－幕間へ－

　【後書き】
　エヴァの新劇場版の要素を入れられないか、画策中。
　さぁ、どうなる（笑

　で、自分のブログ、「川口代官所・跡地｣で何年かぶりに
センチ英伝を更新しておりますのでよろしかったらどうぞ。
　まぁ、リハビリテイストの出来ですが。