テスラ=ライヒ研第8実験場では。
「ふっふっふっ・・・」
とあるマシンのコックピットで、パットは偉そうに腕を組み瞑目なんぞしていた。
「あなたとの付き合いも長いけど、今日は手加減しないわよ、ジェス」
「そうよ、私とパットが組んだからには、あなたに万に一つも勝ち目はないわ」
パットの言葉にこれまた妙に自信満々のミーナが続く。
「やれるもんならやってみな!」
女性陣の挑発を、ジェスは鼻で笑って軽くあしらっている。
「お~い、程々になぁ!」
この意味のない勝負の唯一の見学人たるヘクトールが、研究所にあった巨大メガホンを
使って、3人からかなり離れた場所から、お互いに呼びかけている。
ちなみに状況を説明すると、場所は北アメリカ大陸西部、カリフォルニア砂漠地帯。地
平線のはてまで岩と不毛の大地しかないところだ。
ジェスが乗っているはMSジェガン・スーパーカスタム。リンがゲシュペンストの操縦
技術獲得のために使用していたものを、お役ご免となったところでテスラ=ライヒ研有志
一同がよってたかって改造を加えたために、もはや別物と言っていいくらいの性能と外観
のMSである。
そしてパット&ミーナの乗っているものは・・・
なんとゲッター1であった。しかしこれまた何といっていいか、妖しげなゲッター1で
ある。
色は黒で統一されている。亀の甲羅のような顔も心なしか凶悪だ。二の腕にあるレザー
カッターもなく、代わりにオリジナルより一回りは太くなっている。さらに隣にゲッター
1が立てばわかるが、オリジナルより5メートルは小さいのだ。
このゲッターロボ、じつは隼人にプロトゲッターを譲り受けたテスラ=ライヒ研マオ研
究室のこれまた有志一同が、【ありし未来のために誰にでも使えるゲッターロボを】と言
う訳の分からないコンセプトに基づき、研究員が知恵と趣味を爆発させて造ったものなの
だ。
開発コードネームは『ブラックゲッター』、後に二人のパイロットのために『かしまし
ゲッター』と呼ばれることになるゲッターロボであった。
ちなみにこのゲッター、分離変形機能は削除されており、ずっとゲッター1のままであ
るが、代わりになる機能はある程度つけられているらしい。
操作方法も以前マオ研究室が携わったあるロボットを参考に、頭部にモーショントレー
ス主体の主操縦席(パット担当)、腹部にサポート用の副操縦席(ミーナ担当)の二人乗
りになっている。
2機は今、約1キロの距離を置いて相対していた。
ブラックゲッターは、パットの姿勢を再現しているため、偉そうに腕を組んで高度50
メートルほどを、反重力マントなびかせ浮いている。
ジェスの乗るジェガンSCは、両手に日本刀のようなヒートサーベル、通称『マサムネ
ブレード』をまるで大昔の剣豪のように構えている。
「はぁ、無事にすめばいいけど」
ヘクトールは相対する2機からさらに2キロはなれた場所で、蓄音機のスピーカーのよ
うな巨大メガホン片手に、ここまでジェガンを運んできた旧式のドダイYSのコックピットの
上に座り込んでいる。
「じゃあ、いくぜぃ! レディ・ゴー!!」
メガホンに絶叫するや、合図がわりに発煙グレネードを発射。
ブラックゲッターVSジェガンSCの「腕試し」が始まった。
母親カレンに連れられて、テスラ=ライヒ研に来たジェスと思わず付いてきてしまった
ヘクトール、パット、ミーナ。
この4人は、どういったコネをカレンが使ったか不明だが、即日ジャブロー軍統合作戦
本部から『テスラ=ライヒ研への出向を命じる』という辞令を受け取った。
そして、カレンはまずジェスにジェガンSCを、パット&ミーナにブラックゲッターを
あてがい「とにかくなれなさい!」と命令するや、それ以降、姿を消してしまった。
へクトールは上空に妙な風切り音を耳にし、上を振り返る。
超小型の独特の形の真紅のVTOLがこちらにせまって来ていた。
「あれが、ホバーパイルダー・・・ わざわざ物好きなこって、マジンガーZのパイロッ
トも」
見物人が一人増えたようだ。
「もう、はじまってんのかい?」
Tシャツにジーンズといった出で立ちで、マジンガーZのコックピットにもなる小型VTOLから
降り立ったのは兜 甲児。言わずとしれたマジンガーZのパイロットである。
今はマジンガーZ持参で、光子力研究所をはなれこのテスラ=ライヒ研において、機械工学
の研究生として留学中なのだ。
ヘクトールたちがテスラ=ライヒに来て、もの珍しさでウロウロしているとこに、たまた
ま甲児たちと出会い、瞬時に意気投合してしまった。人見知りという言葉とは無縁の連中だし、
ノリも似ていたからだろう。
「なんか、MSフリークとロボットフリークの趣味の戦いって感じだな」
長期観戦を予想しているのか、ヘクトールのとなりにござを引いて、持参のバケットを
開いて水筒と握り飯をだす甲児。
「美味そうだね、甲児くん」
「ん、一個ならいいぞ」
そんな二人が見ているなかで、口火をきったのはブラックゲッターだった。
「げった~~とまほ~く!!」
『量産型の宿命』という訳の分からない理由から、ブラックゲッターには右肩にしかト
マホークは装備されていない。
パットの声が高らかに響くと、ブラックゲッターがトマホークを振り上げ、低空を滑空
してくる。
「ジェス、おとなしく死になさ~い!」
リンが聞いたら襲いかかってきそうな台詞を吐くや、ブラックゲッターがトマホークを振り下ろ
した。加減っていうものがまったく感じられない。
「甘い、熱血小娘!」
その突進をジェスのジェガンSCは、マサムネブレードを刀身と見事な足捌きで受けな
いでかわした。おもわず甲児が口笛を吹いて賞賛する。
「うまいなぁ、ジェスのやつ。さすがリンが惚れるだけあるぜ」
「まぁ、MS実技じゃ昨年度ナイメーヘントップだもんね、お茶もらえる?」
「ほら」
と、男二人は実にのどかだ。
「え~い、ミーナ、いくわよ!」
「えぇ!」
「「げったー・びーーーーーーーーむ!!」」
ちょこまかと動くジェガンSCの動きをとらえられないでいたブラックゲッターが業を
煮やして必殺武器を放ってきた。地面がなぎはらわれ、土煙が吹きあがる。
「だめだな~パットもミーナも、ゲッターに振り回されてんじゃないか」
ビームによる衝撃波をふせてやりすごし、何事もなかったように再び茶をすするヘクト
ールと甲児。
「あれ、ジェスがいないぞ、吹っ飛んだか」
へクトールの言葉通り土煙が収まったとき、ジェガンSCの姿が消えていた。
「こういう時の定石は、っと。ほら、上だよ」
甲児が指で上を指すと、そこにはマサムネブレードを大上段に構えたジェガンSCの姿
があった。
「もらったぁーい! 出直してこいや、二人とも!」
ジェスの見事な峰打ちが、ブラックゲッターの頭部にヒットした。
ごいん、と鈍い音が響きわたる。
ちなみに頭部にはパットのコックピットがあったりもする。
「決まったな、いっぽーん! それまで!」
一応、審判の役目をになっていたヘクトールが巨大メガホンでジェスの勝利を宣言する。
「ジェス~、少しは手加減しなさいよ~!」
コックピットで頭をおさえて蹲っているパットが、不平をもらす。自分は微塵も手加減
してなかったのに勝手な言いぐさだ。
「さて、これで体も温まったわね」
ふいにミーナがそんなことを言った。
「?」
わけがわからず、目が点になっているジェス。
「いまのは練習! これからが本番よ、ジェス!」
「そうよ、勝負はこれからよ!」
パットもちゃっかりのっている。この二人負けず嫌いの諦めが悪いという二重苦らしい。
「いくわよ、ジェス」
「今度こそ年貢の納め時よ!」
勝手にリターンマッチを決定して、再びジェガンSCに突進するブラックゲッター。
「おい、まだやるのかよ」
呆れ顔の甲児に、ヘクトールは肩をすくめて答えた。
「たぶん、勝つまでやるんだろ」
この四人は場所がかわっても相変わらずのようだ。
そしてテスラ=ライヒ研のとある一室で、ある人物と通信をおこなっているカレンの姿
があった。
「ありがとうね、四人のことで無茶頼んじゃって」
カレンの悩殺スマイルを受けているのは、中世の貴族のような服を着こなし、若いなが
らも、静かな風格が備わっている美丈夫だった。
『あなたの頼みを、この私が断れるはずないじゃないですか、カレンさん』
その美丈夫は、高級そうな陶磁のティーカップで紅茶を飲みながら、人を引きつける微笑を浮かべて、
カレンに言った。その仕草一つ一つが優雅に洗練されている。
「じゃあ、もう一つ頼み事していい?」
『えぇ、私で出来ることなら何なりと。我が女神よ』
そして、カレンが彼に尋ねたのはある人物の消息だった。
「D・O・M・E、彼はどこにいるの?」
-第四話 Aパートへ-
【後書き】
ブラックゲッター登場。これのもとのイメージは、【ゲッターロボ大決戦】に
でてきた方だったりします。OVAの真ゲッターに出てきたのに似ているのは
たしか偶然だったはず。しかし、自分の書くテスラ=ライヒ研は、どんどん
魔窟になっていってる気がする。