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No.16394の一覧
[0] F REAL STORY  【スーパーロボット大戦Fっぽい】 [まくがいば~](2010/02/18 22:25)
[1] F REAL STORY  プロローグ01 【これだけR-15位】[まくがいば~](2010/02/22 22:20)
[2] F REAL STORY  プロローグ02[まくがいば~](2010/02/23 23:05)
[3] F REAL STORY  幕間 -私がいない所で-[まくがいば~](2010/02/14 22:47)
[4] F REAL STORY  第一話 Aパート[まくがいば~](2010/02/22 22:16)
[5] F REAL STORY  第一話 Bパート&幕間[まくがいば~](2010/02/18 22:24)
[6] F REAL STORY  第二話 Aパート[まくがいば~](2010/02/22 22:08)
[7] F REAL STORY  第二話 Bパート&幕間[まくがいば~](2010/02/21 00:32)
[8] F REAL STORY  第三話 Aパート[まくがいば~](2010/02/23 22:31)
[9] F REAL STORY  第三話 Bパート[まくがいば~](2010/02/24 23:37)
[10] F REAL STORY  幕間  -私のいない所で-[まくがいば~](2010/02/27 22:04)
[11] F REAL STORY  第四話 Aパート[まくがいば~](2010/03/02 17:08)
[12] F REAL STORY  第四話 Bパート[まくがいば~](2010/03/06 21:49)
[13] F REAL STORY  第四話 Cパート[まくがいば~](2010/03/06 21:53)
[14] F REAL STORY  幕間[まくがいば~](2010/03/09 00:09)
[15] F REAL STORY  第五話 Aパート[まくがいば~](2010/03/11 21:19)
[16] F REAL STORY  第五話 Bパート[まくがいば~](2010/03/16 21:47)
[17] F REAL STORY  第五話 Cパート[まくがいば~](2010/03/17 22:32)
[18] F REAL STORY   幕間[まくがいば~](2010/03/28 20:29)
[19] F REAL STORY  第六話 Aパート[まくがいば~](2010/03/28 20:30)
[20] F REAL STORY  第六話 Bパート[まくがいば~](2010/04/02 22:08)
[21] F REAL STORY  第六話 Cパート[まくがいば~](2010/04/02 22:12)
[22] F REAL STORY  幕間[まくがいば~](2010/04/05 23:17)
[23] F REAL STORY  第七話 Aパート[まくがいば~](2010/04/08 22:36)
[24] F REAL STORY  第七話 Bパート[まくがいば~](2010/04/11 22:00)
[25] F REAL STORY  第七話 Cパート[まくがいば~](2010/04/13 18:47)
[26] F REAL STORY  幕間[まくがいば~](2010/04/15 21:25)
[27] F REAL STORY  第八話 Aパート[まくがいば~](2010/04/19 21:29)
[28] F REAL STORY  第八話 Bパート[まくがいば~](2010/04/21 23:11)
[29] F REAL STORY  幕間[まくがいば~](2010/04/24 22:58)
[30] F REAL STORY  第九話 Aパート[まくがいば~](2010/06/04 22:54)
[31] F REAL STORY  第九話 Bパート[まくがいば~](2010/06/04 22:57)
[32] F REAL STORY  幕間[まくがいば~](2010/06/24 15:51)
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[16394] F REAL STORY  プロローグ01 【これだけR-15位】
Name: まくがいば~◆6e47378d ID:361a872e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/22 22:20
 

カリフォルニア・べースを飛び立って、二時間あまり。
ヘクトール=マディソン少尉が操縦するガンペリー21号機は、あいにくの悪天候にもかかわらず、高度千メートルを毎時800キロで飛行している。
目的地は、北極にある連邦軍第8ベース。
そして私は、そこから宇宙に上がる。
このガンペリーに積まれた、ゲシュペンストと共に。
私はリン=マオ。連邦軍少尉。

「でもよー、リン。なんでこれ運ぶのに、俺にお呼びがかかったんだ?」
声だけ聞くと、この見事な操縦をしているとは思えなくなる。
へクトール=マディソン。士官学校同期で、私の数少ない男友達。
卒業後は北米第10師団第2飛行大隊に任官している。普段はガルダクラスを操縦しているのを、無理言って来てもらった。
「あいにく私は、お前以上のひこーき乗りを知らないんでな」
ちなみに「ひこーき乗り」という言い方はへクトールの受け売りだ。彼は自分のことを他人に紹介するときいつもこう言う。軍人はついでにやっているそうだ。
「ま、それは光栄のいたりですな」
彼独特の拍子抜けするような笑顔。
4ヶ月ぶりの再会だが、軍の風紀も彼を変えるにはいたらなかったらしい。
私は、そのことが少し嬉しいと感じている。
「それに、このPT計画に関わる人間をあまり増やしたくないと、オダ大佐は言っていたからな。今から行く北極の連中も、何を上げるかは知らないはずだ」
すると、へクトールが何か助平たらしい笑みで、こっちを見た。
「な、なんだ、その顔は」
思わず声がうわずる。
「え、あっしの顔に何かついてますかい?」
「ヘンな顔を近づけるな!前を見て操縦しろ!」
「ヘンとは失敬な。そーいやジェスの野郎、元気でやってっかなー」
「うー、どうしてそこでジェスが出てくる!」
「だって俺、ジェスに会うの久々なんだよねー。誰かさんはどうかしんないけどー」
へクトールは声まで助平たらしくなっている。
「私だって4ヶ月と3日ぶりだ!」
「で、リンちゃんは楽しみで夜も眠れなかったと」
「なな、なんで知ってる!!」
私は思わず座席から立ち上がった。へクトールは、うっ、しまった・・・
マッチョな悪魔が二ヘラと笑っている、そう見えた。
「へぇ、そうなんだ。ふーん、リンちゃんて可愛いとこあるねぇ」
私は、耳まで真っ赤だ。うぅ、この筋肉だるまが・・・事実だけに、反論ができない・・・
「まぁ、脱線しちまったけど、ジェスは知ってるのか? リンが行くってよ」
墜落覚悟で、奴を蹴飛ばそうとした矢先、急に話題を変えられた。うぅ、負けた気がする。私は乱暴に腰をおろした。
「手紙で知らせておいた。ジェスはこの積み荷については、個人的には知っている。私が言えるのはここまでだ」
で、私はそっぽを向く。これ以上、この筋肉だるまのペースに巻き込まれたら、何を口走るかわからない。
「ま、いっか。じゃ、揺れまっせ、お客さん」
ふと外を見る。いつの間にか、風に白いものが混じっていた。
さすがのへクトールも、軽口を叩いていられなくなったようだ。モニターに写る気象情報は、かなり過激になっている。普通なら、こんな悪天候で、
こんな低空フライトをやるなんて正気の沙汰ではないのだが、これも極秘プロジェクトの悲しさ、私と積み荷を宇宙に上げるまでのスケジュールは、
かなり狭い時間に限られている。
まぁ、こいつにまかせておけば、間違いあるまい。小刻みにゆれるシートが妙に心地よい、瞼がだんだん重くなる・・・
もう少しで会える、ジェスに・・・

夢を見た。
私、子供のころの私がいる。泣いている、悲しんでいる。
お母さんが死んだときの私だ。父の背中にむかって泣き叫んでいる。悲しみを少しでも伝えたくて、必死に叫んでいる。
しかし、父は振り向いてくれない。背を向けたまま、動かない。
悔しくて、悲しくて、小さい私は泣き崩れている。
「おじさんも、悲しいんだよ」
後ろから優しい腕に抱きしめられた。
場面が変わる。
ベッドに横たわっている。裸だ。私は、男の胸に顔を埋めている。
「俺は、そう思うよ。きっと、悲しくて悲しくて、そんな顔、リンに見せられなかったんじゃないかな」
納得いかない私。しかし、彼は優しい。そう、優しい。
「今は俺がそばにいる。それじゃ不満か」
私の髪を撫でてくれるその手。満たされていく、気持ちいい。
「もう少しで会えるね、ジェス」
その自分の言った言葉で、私は気づいた。これは夢なんだと・・・

「お、お客さん、起きなすったね」
目を開けると、外の景色は一変していた。
白、白、白一色。
高度は500メートル位か?雲一つない夜の中を、白い大地が続いている。
「これが、北極圏か・・・?」
神秘的な情景に、私は二の句が継げない。見とれてしまう。
「あと、五分てとこだな」
鼻歌まじりに、計器を確認するへクトール。六時間にも及ぶ単独フライトに疲れ一つ見せない。さすがひこーき乗り。感嘆してしまう。
「しかし、よく寝れたな、あの揺れで」
「え?」
そんなに揺れていたのか? 全然、わからなかった・・・
「頭がぐらんぐらんするんで、見てるこっちが心配したぞ」
と、おちゃらけて『ぐらんぐらん』と頭を振ってその様子を再現してくれる。たしかにヘクトールの言う通りなら凄いかも・・・
「あー、こちらガンペリー21、北極ベース、応答ねがいます」
返答に窮する私を無視して、通信をひらくへクトール。
「こちら地球連邦軍第八基地。ガンペリー21、パスワードを送れ」
程なくして応答があった。雑音まじりに女性兵士の声が聞こえる。
「パスワード?」
私はそんなの聞いていない。しかしへクトールはあっさりと
「そしてリンちゃんは、かぼちゃの馬車でお城に到着」
と言った。へ、今なんて・・・
「・・・パ、パスワード、照合オーケーです。ようこそ北の果てに、御到着をお待ちしております」
・・・明らかに、女性は笑いをこらえていた。
「なんだあのパスワードは!!誰が考えた!!」
通信がきれると同時に、私は怒鳴りつけた。これじゃ笑い者のさらし者だ。しかし、筋肉だるまは涼しい顔でこう言ってのけた。
「俺」
プチッ!! 何かが切れる音が私の中でした。

「ほ、北極ベース、救急車を用意してくれ・・・」
顔に碁盤の目のような赤い筋をつけたへクトールがかすれた声で通信を送っている。
当然の報いだ。
北アメリカ大陸北部旧アラスカ州あたり、北極との境に連邦軍第8ベースはある。
別に北極にあるわけではない。
ここが、連邦の基地の北限だからそう呼ばれているのだ。
「思ったより、貧相だな・・・」
使いようのない広大な土地に、古ぼけた基地の設備が点在している為だろう。
あの太陽のようなジェスには、ふさわしいとは思えない。
士官学校を優秀な成績で卒業したものが、最初に任官するところではない・・・
「お、あの妙にきびきびしたネモ、ジェスじゃないか?」
へクトールの言葉に、無意識に視線を移す。
指定された大型ヘリポートに、馬鹿でかいスコップで雪かきしているネモがいる。こちらに気がついたらしく、作業を止めブンブンと元気に腕を振りだした。
一見、簡単に見える人間的動作を、これだけ流麗に出来るのは・・・
「ジェスだ!」
間違いない、私が間違えるはずがない。
やっと、会えた・・・
視界が霞んでいく。私が、泣いている・・・
普通の女の子みたいに、嬉しくて涙を流している・・・
妙な可笑しさが、こみ上げてきた。
「着陸すんぞって言っても、聞いてないよね」
へクトールの言葉も聞こえない。今の私は、ジェスが乗っているネモがだんだん大きくなっていくのが、ただ嬉しかった。
涙は止まらなかった・・・

ネモのコックピットから、白いノーマルスーツが勢いよく飛び降りてきた。
そのまま、私のもとへ駆けてくる。
動けない。足が震えている。また、涙がこみ上げてくる。
自分が、こんなに弱いとは思わなかった。
ヘルメットを外した。
久しぶりに間近に見る愛しい顔。激情が、私の全身を炎のように駆け巡る。
もう我慢できない・・・
我が手にジェスを抱きしめたい・・・
駆けだそうと、足を前に出したその時・・・
「おおーっ!!あいたかったぜー、ジェース!!」
怒声とともに、私より先にジェスに抱きついた奴が・・・
「おぉー、我が友よー!!」
「なんだー、きさまー!その引っ掻き傷だらけの顔を近づけるんじゃねぇ!」
再会が・・・ あぁ、感動の再会が・・・
プッツン・・・
私の意識がとんだ。

「リン、久しぶりだな」
で、仕切り直し。地面に頭から突き刺さっている筋肉馬鹿は、あえて無視する。
「うん」
優しく男らしい、私の大好きな声がする。
「元気だったか?」
私とたいして違わない背丈、でも私には誰よりも大きく感じる。
「なーに泣いてるんだよ、リン」
そして、大好きな笑顔。私の髪を撫で付ける手。
ジェス、レナンジェス・スターロード。
だめだ・・・軍人としての自制が消し飛んでしまった。どんな懲罰を受けてもかまわない。
「ジェス!」
私は愛しい人を抱きしめた。そして・・・
荒々しいキスを、彼の唇に。
周りの歓声も、好奇の視線も、半死人の筋肉サボテンも気にならない。
このまま時が止まって欲しいと、本気で願った。

「リン、いやマオ少尉とマディソン少尉をお連れしました」
17分30秒にもおよぶ長いキスののち、私とジェスと他約一名は、この基地の最高責任者、ジョーダン・タケダ大佐の司令室にいた。
「リン・マオ少尉です」
にやけた顔を見ないように、なるべく平静を装って敬礼する。
さすがに・・・ 恥ずかしい・・・
「へクトール・マディソン少尉であります」
コンクリートに頭から叩きつけてやったというのに、もう回復している馬鹿も厳粛に敬礼する。しかし、こいつがやるとどーもわざとらしい。
「ご苦労、スターロード少尉」
タケダ大佐は東洋系の小柄な中年男性だ。似合わない長髪、猿みたいな顔、噂に聞いた切れ者とはどうも思えない。さらに、あのニヤけた顔。あ、これは私のせいか・・・
いくら、愛しの人との再会とはいえ、重要任務についている軍人が、あんな事をしてしまったのだ・・・下手すれば懲罰の対象になるかも・・・
しかし、私はこんなに恥ずかしいのに、その相手のジェスは平然としている。
なんか不公平な気がするぞ・・・
「マオ少尉」
独特のトーンをもつタケダ大佐の声で我にかえった私。そうだ、何があっても毅然とした態度でいよう。これ以上ジェスに迷惑をかけるわけにはいかない、うん。
「まぁ、オダからの打ち上げ要請、明朝9時に予定している。それまでの、14時間弱しかないが、恋人との逢瀬、じゅーぶん楽しんでいってくれたまえ」
私の引き締めた顔が、また赤くなって緩んでしまう。なにを言い出すんだ、この司令は・・・
「なににやけてるんだ、マオ少尉殿」
くだらない茶々をいれたマディソン少尉の足の甲踏みつけ、私は面をただす。
「お気持ちは嬉しいのですが、少官はいま極秘任務に・・・」
「そう、硬くなるなよリン」
私の言葉を、ジェスが優しくさえぎる。
「ここじゃ、タケダ司令の薫陶の賜物で、軍規なんて緩みっぱなしなんだから」
緩みっぱなしって・・・それを聞いて何故かタケダ大佐は偉そうに肯いている。威張れることじゃないだろうに・・・
「まぁ、17分も熱い接吻を交わせる基地なんて、俺のとこくらいだよ、うん」
「その件について、ジェスには責はありません。すべて・・・」
「あいや暫く」
また私の言葉が遮られた。
どうもこの司令、軍人とは思えない。オダ大佐が「変わり者の巣窟」と北極ベースを表していたが、これほどとは・・・
「俺の基地において、ああいう愛の行為は懲罰の対象にはならない。明日の今頃はお宇宙の中にいるんだ。ここで恋人に甘えたところで、罰はあたらんよ」
そこでしたり顔で肯かれても・・・うー、どうすればいいのだ。
「甘えよう、リン。俺もお前とH出来るの、楽しみだったんだから」
不意に、耳元でジェスが囁く。
「馬鹿・・・」
小声で言い返すのがやっとだ。それは少しは期待してたけど・・・
「俺も期待していいのか」
いつのまにか私の横で聞き耳をたてていやがったへクトール。そのスケベ面に渾身のラリアートを叩き込み、馬鹿を壁に叩き付ける。
そして直立不動になおり敬礼。
「では、お世話になります」
たぶん、私はにやけていた・・・

「ここが、ジェスの、部屋か」
食堂での夕食、つもる話いろいろ、へクトールの監禁拘束、そして私は今、ジェスの部屋にいる。
私の知らないジェスの部屋だ。
さすが士官の部屋、広くて安心した。
彼の宝物、樹齢二十五年の年代物の盆栽『旭』が置かれている。
机の上には、よし、私の写真がある。それと去年の夏、8人でいった海の写真も。へクトール、パット、グレース、イルム、ジェス、私、ウィン、ミーナ、
みんなナイメーヘンの同期。グレース曰く[仲良し8人組]だそうだ。
ちなみに昨年度の卒業生の上位8人でもある。
「綺麗にしてるんだな」
ベッドに腰を下ろし、最後の確認。よし女っ気なし!
「ばーか」
隣りに座り、髪を優しく梳いてくれる。私の心配事などお見通しらしい。
「ジェスは私の浮気の心配、しなかったのか?」
私は彼と二人きりの時にしか発動しない、小猫モードになっていた。
ゴロゴロと、彼にじゃれついていた。他人には見せられない二人だけの秘密だ。
「私は、毎晩毎晩、変な女がジェスにまとわりついてないか、それだけが心配で・・・」
私はジェスをベッド押し倒し、顔をぺろぺろと舐めはじめた。困った顔してもなすがままのジェス。優しく私をあやしてくれる。
「それなのにジェスから来る手紙は、海豹とのツーショットや、白熊とのツーショットの写真ばっかなんだもの。少しは遠くに離れた恋人を、心配しなかったのか?」
そうなのだ、ジェスからくる手紙は、どうやって撮ったのか不思議なのだが、野生の白熊と肩をならべてのツーショットや、海豹の群れのなかでブイサインを決めている写真に『俺は元気だ』と一言書かれているだけなのだ。
らしいといえばらしいのだが、少し物足りなかった。
「俺が心配したのは、リンが一人で夜、泣いてないかくらいだよ」
ジェスが悪戯っ子のように笑う。
「こらっ! それはもう言わない約束だろうが」
私は少しむくれてジェスの唇に乱暴にキスをした。
あぁ、少しずつ、でも確実に、私はジェスで満たされていく。
とても幸せだよ・・・ ジェス・・・

また、夢の中に私はいた。
ちょうど、ジェスの家にあずけられたころの私になっている。
私は母の死が原因で、心の病になっていた。失語症と、夢遊病、それに人間不信。自分の外とのコミュニケーションがとれなくなっていた私が、信じられたのがジェス、彼だった。
四六時中、私は彼の側にいた。朝も昼も夜もずっと一緒だった。彼の姿が視界から消えるのは、お互いがトイレにいってる時くらいだった気がする。
夢の中の私が、ベットで目を覚ました。
広いベットだ。部屋も広い。寂しい広さだ。
あたりを見回す。ジェスがいない。となりにいるはずのジェスがいない。
彼を呼ぼうとする。しかし声が出ない。私は声を出そうと、大好きな男の子の名前を呼ぼうとした。しかし、私の思いは音にならない。
私は、泣き始めた。
私には、泣くことしかできなかった。

軽い違和感を感じつつ、私は目を覚ました。
私はジェスに覆い被さったまま、いつのまにか眠ってしまったらしい。
二人とも裸で・・・あ、まだ、繋がったままだ・・・
あぁ、昨夜の記憶が跳んでいる。
でも・・・
こんなに間近でジェスの寝顔を見れるなんて、なんか幸せだ。
昔は、いつでも側にいてくれたのにな。
両手で彼の寝顔を包むようにふれる。
「おきたのか、リン」
目を開けずに、半分寝てるような声だ。
「あぁ、打ち上げ六時間前には起きるのが決まりだろ」
地球からシャトルで宇宙に上がる場合、搭乗員は6時間前に起床というのが連邦軍の決まりになっている。宇宙コロニーが数百とあるこの時代でさえ、人が宇宙に行く道のりは、色々と楽ではないのだ。
ちなみに今はここの時間で、午前三時十分前だ。
「じゃ、シャワーでも浴びてこいよ、俺はまだ寝てるからぁ」
「いやだ」
私の反抗に、ジェスは薄目を開ける。焦点があわないくらい近くに、私の顔が見えるはずだ。
「・・・リン、抜いてくれないかな」
漸くジェスも、現状に気がついたようだ。
「い・や・だ」
私は悪戯っぽく答える。
「まだ、十分あるから、もう一回・・・」

熱いシャワーを浴びながら私はある事件のことをを思い出していた。
ジェスがこの基地に配属される原因となった、あの忌まわしい事件のことを。
五ヶ月程前、まだナイメーヘンに席を置いていた私は、ある男から異常な求愛を受けていた。
相手は、サルト=ハイマンという男。運悪く、私たちの教官だった。
ハイマンは、ことあるごとに私を下らない言葉で誘ってきたが、ジェスがいる私が相手をするはずがもない。
きっぱりと断り続けた私に対し、奴は不埒にも実力行使にでた。
後で聞いた話なので、詳細は知らないのだが、奴は候補生三人と薬物を使って私と、たまたま一緒にいた友人のミーナ=ライクリングを埒して、レイプしようとしたそうだ。
ちなみに使われた薬物のせいで、私にはこの時の記憶がまったくない。
その悪辣な企みは、結局失敗に終わった。
『仲良し八人組』の、のこり六人が上手く連携して、私とミーナを助けてくれたのだ。
しかし、そこで問題が起きた。
一つはハイマンの父親が連邦軍の中将だったこと。
もう一つは、ジェスがやりすぎたことだ。
私は、裸にされ、本当に危なかったそうだ。それを見たジェスが切れてしまい、ハイマンを文字どおりボロボロにしてしまったのだ。
頚骨粉砕骨折、左眼球破損による失明、肋骨全骨折、精巣使用不能などなど、
命が良く助かったというくらいの天罰を、ジェスはあたえてしまったのだ。
同じく現場に踏み込んだイルムハルト=カザハラは、「ジェスが怖くて手がだせなかった」そうだ。
怒った父親は、やりすぎだとジェスを非難。ジェスを退学させ軍刑務所にいれろと喚きだした。この子にしてこの親ありだ。
ジェスの行為にやりすぎの感はあったが正当な行動だと弁護してくれたのが、アーウィン=ドーステン。ハイマン教官の悪事の様々な証拠を出し、ハイマン教官こそ銃殺されて然るべきと訴えた。
彼が首席で、彼の父親が連邦政府の高官であったこともあり、ジェスにはお咎めなしが下ったのだが・・・
卒業間近になって、ジェスに北極ベース配属が急に言い渡された。それまでは私と一緒にテスラ=ライヒ研への出向、ということになっていたのにだ。
あのハイマンが圧力をかけてジェスの任地をかえさせたらしい。
軍人であるがゆえ、どんなに理不尽でものでも、命令は絶対だ。
そして、私とジェスは、離れ離れになってしまったのだ。

シャワー室から出てくると、ジェスは既に制服に着替えていた。軽いストレッチなぞやっている。
「早く着替えろ、リン。飯食いにいくぞ」
「あぁ、でもどうした、ストレッチなんてして?どっか痛いのか」
「やりすぎで、腰が痛いんだよ」
ジト目で私を見るジェス。うー、やりすぎで非難されるなんて、初めての経験だ。
「おーす、ジェス、リン。飯食いに行こーぜー」
のーてんきな声と共に入ってきたのは、例の筋肉ダルマ、へクトールだ。邪魔されないように縄でグルグルグルグル巻きにして、部屋に閉じ込めておいたのだが、抜け出してきたらしい。
あん? 何故か私を見て固まっている。
「……リン、服きろ」
ジェスの言葉・・・あ、あぁ、まだ何も着ていなかったんだ、私・・・
「見るなぁーーーーーーー!!」
私は真っ赤になって、右の正拳突きでへクトールを部屋から叩き出した。
「俺が悪いのかーっ!!」
奴の悲鳴が尾を引いて遠ざかっていく。
ふん、私の美しい裸を見てその程度ですんでるんだ、有り難く思え!

「しかし、お前もタフだよなー」
がつがつと食事をとるへクトールをみて、ジェスは呆れ半分感心半分といった声を出す。
「こいつは頭足類から異常進化した怪物だからな。鎖で縛って北極海に沈めるべきだったよ」
と私。でないとこいつの回復力は説明つかんぞ、本当。
基地内にある食堂。朝早いので、私とジェスとへクトールしかいない。
私としては、好都合だ。周りに気兼ねしないでジェスといられる。
「ウィンの奴、もう昇進したのかよ」
それに色々な基地を、どさ回りのようにガルダやミデアで巡っているへクトールから、仲間についての情報が聞けた。
ティターンズとかいう新しく設立された組織に任官したウィンは、もう中尉に昇進したらしい。何の酔狂か、へクトールとつきあっているパット、パトリシア=ハックマンとミーナは、ジャブローにいて変わりなし女学生のノリのままとのことだ。グレースはルナ2にいて、これまた相変わらず誰彼と、惚れまくっているらしい。
「しかし、イルムが行方知れずとは」
一番、驚いたのがそれだ。情報部に配属されたスケコマシは、もう二ヶ月も連絡がとれなくなってるそうだ。
「任務で西アフリカにむかう途中で、ヘリごと消えちまったんだって。何やってんのかねぇ」
「女の尻をおっかけてるのは確かだろ」
「いえてる」
私も含めてだが、誰もイルムが死んだとは思ってない。へクトールとイルムを殺すには、至近距離からのハイメガ粒子砲三連射くらいしないと駄目だ。
「で、リンちゃんはロンド=ベルに転属と。考えてみれば一番の出世頭でないか」
「そーだな、あのロンド=ベルだもんな」
へクトールとジェスがわざとらしく羨望の眼差しで私を見る。
ロンド=ベルに配属。
ゲシュペンストの実戦テストを兼ねているとはいえ、あの『救国の英雄』と言われる独立部隊への配属は、羨望の対象になるものだろう。喜ぶべきかもしれない。
しかし、私の心にはある想いの方がずっと大きい。
また、ジェスと離れ離れになってしまうのだ。
もう、二人とも子供ではない、ずっと一緒といたいというのは、私の我侭だ。
でも・・・
結局、私はあの頃から全然成長していないのかも。泣きながらジェスを探したあの頃と・・・

UHHHHHH-!!


突然の警報。暗い思考の中に沈みかかっていた私を、現実に引き戻してくれた。
「敵襲!」
ジェスが言葉短く席を立つ。
「この基地で今狙われるモノったら、あれっきゃねぇ!」
「ゲシュペンストか!」
私の言葉に、ジェスは厳しい表情で頷く。
この時から、はじまったのだ。
私達の戦いが・・・

私たちはまず、司令室に向った。
基地内が俄かに活気づく。
「司令、入ります」
ジェスを先頭にノックもせずに司令室に駆け込んでいくと、タケダ司令は机に仕込まれたモニターに、矢継ぎ早に指示を与えていた
「とにかく、一分でも早く打ち上げられるようにしろ、それが最優先だ!」
そこで、漸く私達に向き直り、一息ついた。
「いやぁ、まいったことに、敵襲だ。あと五分もたたずにここは戦場だぞ」
急に緊張感がうせるような笑顔で、司令は言った。ボリボリと頭なぞ掻いている。
「敵は、潜水艦ユーコンタイプ二機、本基地の北十キロのところに浮上した。まずはミサイルの雨、次にモビルスーツによる攻撃というのがまぁ、セオリーだろう」
壁に埋め込まれたスクリーンに、基地周辺の俯瞰図がでる。敵は氷に覆われた海面をぶち破って出てきたらしい。
「で、マオ少尉。予定が繰り上がって申し訳ないが、これより打ち上げにはいる。シャトルに向ってくれ」
急に話をふられ、私は焦ってしまった。この状況での打ち上げは、無謀でしかない。
「司令!この時点での打ち上げは、無茶無謀無理です!延期してください!」
すると、ジェスが私の気持ちを声高に代弁してくれる。
「私も、貴官と同意見だ。しかし・・・」
苦虫を思いっきり噛み潰したような顔で、タケダ司令は一枚の紙切れを私達に見せる。
それは、統合作戦本部からの命令書だった。
「何があっても、Gの打ち上げの中止、延期は認めないーだぁ!」
へクトールが、問題部分を読み上げる。これは、何だ?悪意の塊、タイミングのいい嫌がらせにしか見えない。
「ロンド=ベルに輸送終了まで、Gの使用も厳禁とする、か・・・」
私が続きを読んだ。やり切れない悔しさが、全身を駆け巡る。
「この見事な先制攻撃は、ジャミトフ中将閣下が手を回したものらしい。ティターンズのやっかみ、といったとこだ」
ビリビリとヒステリックに命令書を破るタケダ司令。その言葉が私にある言葉を思い出させた。
『ジャミトフ殿の新しモノ好きにも困ったものだ。ゲシュペンストをよこせと五月蝿くてかなわんよ』
と、オダ大佐は言っていた。つまりこの敵襲は・・・
「これは、味方が敵に情報を売った、ということですか?」
ジェスが静かに問う。ジェスが本当に怒っているのが私には痛いほどわかった。
「七十点、てとこだ。ジャミトフの狙いは、敵に襲われている我が基地に、救援と押し入って、Gを保護と称してかっぱらっていくことだ。まーず、間違いない」
何てことを・・・私のティターンズに対する感情は、今攻めてくる敵よりも遥かに憎悪の対象になっていた。
「まぁ、悔しいが証拠がない。しかし、あの狐爺の陰謀をだまって見過ごすのも癪だ。マオ少尉、わかってくれたかね?」
真摯な眼差しで司令は私を見る。私はそれを瞳を見返し、敬礼する。
「了解しました」
私の心は決まった。こうなったら、意地でも宇宙に上がってやる!

私用に特別にあつらえられたパイロットスーツを着込み、モビルスーツゲージに駆け込むと、ジェスの乗った寒冷地用のネモが待っていた。これに乗ってシャトルのところにいくことになっている。確かに下手な車よりMSのほうが、速いし確実だ。
「リン、乗れ!」
歩きながら、ネモが屈んで手を差し伸べてくる。タイミング良く飛び乗るや、すぐにその手が腹のコックピットに来る。ジェスのMSの操縦能力は、本当に凄い。人間のように機械がスムーズに動くのだから。
「お邪魔!」
私がコックピットに飛び込むや、ハッチが閉まり、ネモはゲージから駆け出していく。
バーニアを噴かして飛び上がや・・・
「きた! ミサイル!」
ジェスの邪魔にならないように、リニアシートの背もたれにしがみついている私は、雨のように降ってくるミサイルに思わず声を上げる。
「わかってる! 」
気合い一発、ジェスが右手のマシンガンを連射させる。寒冷地では、ビーム兵器より実弾兵器の方が信頼が高いので、ジェスは100ミリマシンガンを装備していた。
跳び上がりながら、ミサイルを次々と撃破していくジェス。ネモの能力を十二分に発揮していた。これならガンダムクラスと張り合えるかも。
「つかまってろー、リン!!」
着地、そしてその勢いを殺さずにジャンプ。バーニア全開、急速上昇。そして再びミサイル迎撃。
「すごい、ジェス・・・」
私は感嘆することしか出来ない。ミサイルは基地に命中する前に、殆どが迎撃されているのだ。しかも、その内の四割は、多分、ジェスの乗るネモによるものだろう。私をシャトルに運んでいるというのにだ。
ナイメーヘンでも、MS操縦においてはウィンすらかなわないと認めたジェスだけど、実戦においても、ここまで凄いとは・・・
「よーし、見えてきたぁ!」
あまりに見事な操縦を目の当たりにして、私は何故、自分がジェスとここにいるのか、忘れてしまっていた。
ジェスの言葉通り、シャトルが見る間に大きくなってきた。
PT計画の為にだけ造られた、使い捨ての特別シャトル。昨日ガンペリーで運んできたコンテナに、無理矢理ブースターと翼をつけて、ロケットに乗っけただけにしかみえないけど・・・
あれで宇宙に行くのかと思うと、少し不安になるな・・・
「よーし、あと十分もかからないで打ち上げできる。へクトールも上手くやってくれてるようだし、勝ったな」
へクトールは、基地にあったファンファンに乗って、上陸してくるMSに、嫌がらせをしている手はずだ。
奴のお陰か、敵の怠慢かは知らないが、近くにMSの反応はない。
「ようし、到着」
シャトルの脇に、ネモをつけたジェス。コックピットのハッチが開く。
「・・・これでまた暫くお別れだな、リン」
ゆっくりと私に振り向く。その瞳がすごく優しい・・・
「出来れば、俺もついていきたいんだが、ここまでだ」
ジェスの言葉、私の瞳からまた涙が・・・そうだ、この先、ジェスはいないんだ、私の隣りに・・・
「ジェス・・・」
それしか言葉が出ない、ジェスに別れの言葉なんていいたくないよ。
「今度、会うときは、キスは短めに頼む。それとなるべくなら人前は止めてくれ」そして、泣いてる私を引き寄せ、彼から唇を重ねてきた。
あぁ・・・ジェスの方からからキスされたの、久しぶりだ・・・
繋がっている。
そう確信できた。不安になることなんてない。私達の心は繋がっている。
ずっと、ずっと・・・
昔も、今も。そして未来も。
「うん、私、頑張る。宇宙でも、ジェスの分まで・・・」
優しい大好きな顔を見つめながら、私は言った。もう、泣かない。私は一人じゃない。心の底からつながっていれば、距離なんか関係ない。
「いい子だ、リン。行ってこい」
その言葉に押し出されるように、私はコックピットの外に見える、シャトルの乗降ハッチに飛び移
る。ジェスを見つめながら、シャトルに乗り込もうとした時、
「すまねぇ、二人とも!! 二機そっちに行った!! 青いズゴックとハイゴック!」
へクトールのの切羽詰まった声が、私達を戦場に引き戻す。
すると、ネモのコックピットから、警告音。ジェスの顔が引き締まる。
「リン、俺が護ってやるから、心配すんな。行け!」
決意、それがジェスから溢れている。
「私の命、預けたぞ」
私の答えに満足したのか、ジェスはハッチを閉めた。ネモが駆け出していく。
相手は二機。しかも水陸両用の重MSだ。ネモでは不利だけど・・・
私は信じる、ジェスなら護ってくれると。



-プロローグ 02へ-


 後書き
 長くなりすぎるのもなんなので、一旦切ります。
 昔、サイトに掲載していた時のプロローグは150KB超だったそーな、長ければいいって
考えがあったんです、昔の自分には。
 ちなみにガンペリーが出た理由は、『MS08小隊』に出ていたGMを運んだガンペリーの
カッコ良さに自分が参っていたからだったはず。
 タケダ司令のイメージは昔の武田鉄矢さんから取ってます。


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