俺は自身の身に危機を感じていた。
だからどうしても不安の為、何度も今日の日付を確認してしまう。
しかし、何度見ても日付は変わらない。
そう、時代の先──未来に行くことはおろか過去に行くことなど絶対に不可能なことだからだ。
そんなことは知っている。
むしろ、そんなことが出来るのであればプレシアさんは死ぬことはなかったし、そもそも自分だってここまでの危機は感じない。
「たつにぃどうしたの? そんなにそわそわして」
「これから身に降りかかるかもしれない天災を考えて震えてたんだよ?」
「身に降りかかる天才?」
「なんか闇に舞い降りた天才みたいな、フレーズだね?」
「たつにぃの言ってることよく分からないかも……」
アリシアが不思議そうな顔をして俺の部屋を出た。
そもそもなぜこの部屋にいるのかが疑問だが、今はそんなことに構ってる暇じゃなかった。
そうして、もう一度カレンダーを見てしまう。
「何度見ても祝日のない、梅雨時の6月だ」
祝日がないということは、学校の休みで3連休がない事を表している。
そのことが少し面倒だなとは思うものの、これから降りかかることに比べれば大したことじゃない。
否、むしろ学校を理由にして逃れられないか?
無理だ……待ち伏せされるに決まってる。
どうせ変なオーラをまとって家の前でニコニコしながらやつは待ってるに違いない。
その光景を頭に思い浮かべると……。
「や、やばい……寒気と震えが止まんない」
これは何としても、あの日までに何とかしなくてはならない。
でも、めぼしいアイディアがない。お金がない。考えがない。面白みがない。
あ、最後のが一番重要だね。
ありきたりなものを用意したら、俺がつまらない。
せっかく相手は関西人なんだから、突っ込みやすいものを選んでやりたい。
そして、はやてには思う存分自分の血と才能を生かして欲しい。
これは俺が考える最大限の優しさだ。
決して面白がってるんじゃないんだからね!
「竜也~、もうご飯の時間よ~」
母さんの暢気な声が聞こえる。
それと同時にフェイトとアリシアの声も。
今日は平日だから、当然のごとく学校もある。
学校があると言うことはアリサやすずか、なのはも居て、奥の手段としてあいつらも居る。
だとすれば……うん、可能性は無限大!
今日の学校に全ての望みを賭けることにした。
俺の身は、彼女らに託されたのであった。
「え? 女の子へのプレゼント? って誰にあげるつもりなのよ?」
「ちょっとした知り合い」
「竜也に、他の女子に知り合いいたの?」
「いや、架空の人物……?」
「何で疑問系……はっ! まさか架空って二次──ごめん、私そういう人と一緒に付き合えないわ。今までの関係はなかったこ──」
「何を想像した!? 絶対間違ってると思うよ?」
「あのね! 竜也君お手製のケーキでも良いと思うよっ」
「竜也君のケーキ美味しいもんね」
結局まともに考えてくれたのはなのはだけだった。
いや、真面目って言う意味ではフェイトも必死に考えてくれていたが、案にはなっていないだけなのだが。
その後は、なぜか俺のケーキ談義になってしまい、あれよあれよのうちに話題が逸れていき、最終的には今度うちでケーキパーティをやることになってしまった。
望みをかけた俺がバカだった。
アリサなんて何を勘違いしたのか、俺と距離を置いてるし、なぜか5兄弟は盛り上がり始めていた。
「閣下のお手製……だと?」とか「今宵は宴ですね! 閣下!」とか面倒この上ない状態だ。
だから、とりあえず釘を刺す意味でも、
「ごめん、俺のケーキ3人用なんだ」
と言っておいた。
そしたら、しゅんとなり普段からは予想もつかないくらい静かになってしまった。
ちょっと言い過ぎたかな。
しょうがないから、あいつらの分も作ってやるか。
じゃあ、どんなケーキがいいかなぁ。
王道のショートケーキは前に作ったからチョコかな。でも、チョコって飽きやすいしだったら思い切ってチーズケーキを……でも、あれって意外と難しいしなぁ……。
そんな事を思いながらいつも通りの帰宅。
面子はいつもので、家に一旦帰り、今日も恭也さんの下で剣の鍛錬を受けた。
鍛錬は徐々に激しさは増すけど、自分自身が身体も成長し始めてるせいかけっこういい線まで動けるようになってきた。
それでも、まだまだやるべきことは多いので鍛錬は欠かせない。
今日は、なのはだけじゃなくフェイトとアリシアも見ていたことからなのか、いつもより集中して一層激しく鍛錬を行ったので終わった頃には日が沈んでいた。
アリシアは竹刀とかに興味心身で、ちょこちょこ弄くっていたがフェイトはこっちの動きを真剣に見ていた。
見取り稽古のつもりだったのだろうか。
鍛錬も終わり外も暗いので、慌てて帰ろうとしたら桃子さんが今日はなのはの家でご飯を食べるように進められた。母さんも家に帰らずにこちらに残っていたので、なのはの家でご飯を食べさせてもらうことにした。
平穏無事にご飯も食べ終わりいよいよ帰ろうかと言うときに、今度は今日は泊まって行ったらとの事。
正直、かなり疲れてへとへとの状態なのでありがたい申し込みだった。
だけれども、
「いいえ、大丈夫で──」
「そういえば、たつにぃ、天才の件はどうなった?」
「だから天才じゃなくててんさ──はっ!」
お、思い出した!
ケーキと稽古のせいですっかり忘れていたけど、そうだよ。
俺の命の危機があるんだったよ!
何で自分の命が危ないのに忘れてるんだよ、バカかよ俺は……って自分をけなしてる場合じゃない。
早急に対応を考えなければ。
疲れ果てて、すでに眠気が遅い始めている頭に活を入れ考え直す。
この場でできることは何か?
現状を確認する。
相談できそうな人はいるか……母さんは論外だし。桃子さん……は面倒ごとになるような気がする。
気がするけどたぶんあってる。
とすれば、美由──ないな。
「あ、今失礼なこと考え──」
ああ、雑音が混じる。集中集中。
今は、彼氏はおろかめぼしい男友達すらも居ないらしい、美由希さんに構ってる暇はないんだ。
俺が生きるか死ぬかの瀬戸際だって言うのに!
「ひど!」
となれば、消去法で士郎さんと恭也さん、なのは、フェイトとアリシア……。
そうだ、な。
こういう時こそ、彼女を頼るしかないな。
たぶんこういう面ではすずかと同じくらい役に立ってくれるはずだ。
「なのは、会議をする。なのはの部屋にてだ、以上」
「にゃ!? え? 一体なんの……た、竜也君強引に引っ張らないでよぉ」
なのはがとろそうなので、強引にて手を引っ張ってなのはの部屋に向かう。
階段はさすがに危ないから、フェイトに手伝ってもらい二人で運んだ。
というのは建前で意外となのはが重かったからなのだが、そう言ったら、
「な、なのはは重くないもん!」
と、言いながらじたばたし始めたので待てと一言いい、大人しくなったところをフェイトと運んだ。
運び終わり、なのはの部屋に着いたらなのはも猫モードが解けたのだが、
「なのはは重くないもんっ!」
依然と拗ねたままで、それ以外に口を開こうとしなかった。
頬を膨らませ、ぷんぷんといった感じで今、なのはは怒ってますと猛アピールしているようだった。
その姿は怖いと言うか、拗ねてる子猫そのものなので可愛いぐらいだった。
しかし、フェイトはその姿を見て、
「ねぇ竜也、なのは怒ってるけど? 大丈夫かなぁ」
なのはを心配する。
なのはの怒った姿を見て本当におろおろし始めるのは、フェイトぐらいだ。
アリサはこの姿を見るとまたか、と言う感じで、すずかはむしろ愛でるかのように笑顔に。
5兄弟は……カメラはマネージャーを通してからにしてもらいたい。
あ、なのはの場合は飼い主か。
というか、学校にカメラを持ってくるなよ……しかも、ケータイじゃなくて一眼フレってどこにそんな予算があるんだろう……毎度不思議に思う。
そのお金、少しは家に分けてもらいたいものだ。
そうそう、家といえば母さんが最近は自営業の勉強をしているようだった。
翠屋二号店だなんとかと言う話を聞いた覚えがある。
もし、作ることが出来たらそれで貧困からもおさらばかもしれないと密かに願っていたりもしている。
話がかなり逸れてしまった。
問題は拗ねたなのはをどうするかだった。
少し時間が経てばすぐに治るのだが、あいにくとこちらに猶予はないのだ。
となれば、何かを餌にして……、
「ほれほれ~」
「…………」
「ふら~フリフリしてるぞ~」
「……ーーっ!」
「我慢は身体によくないぞ~」
「う……うぅ」
からだがぴくぴくし始めている。そして、どういう原理なのかツインテールがピコピコしてる……尻尾?
そんなことより、もうちょいのようだった。
今更ながらなのはって本当に猫だよなと思う。
ここは、押して駄目なら引いてみな戦法を用いる。
「じゃあ、止めた」
「え? そ、どうして!」
ふっ食いついたな、これが罠だと知らずに。
あとは、このまま釣るだけの作業だ。
にしても……なのはもずいぶんと安くなったものだ。
マタタビの一つで釣れてしまうとは、もう自家栽培せざるを得ない。
「どうした、なのは。そんなにこれが愛おしいか?」
「そ、そんなこと……ないもん」
「なら、これはいらな──」
「にゃ!?」
これだから、甘いと言うのだなのはは。
そう、まるでコーヒーにガムシロを二杯入れた上で砂糖を3杯入れるぐらいに甘い!
……ちょっと美味しそうだな。
そこにミルクを入れてみるといいかもしれない。
「しょうがないなぁ、じゃああげるよ」
「ほ、ほんとっ!?」
あげるよと言って、ほんとっ! と聞き返してくるからには相当欲しいのだろうけど。
いや、そうじゃなければ餌の意味がないのだろうけど……やめよう。
深く考えるとどつぼにはまる気がする。
「だが、条件がある」
「条件?」
「俺の相談に乗ること」
「……え? それだけ?」
「あ、ああそれだけど」
「なんだぁ、それなら言ってくれれば……」
なのはがちょっと拍子抜けしたような表情になる。
どんな条件を突き出されると思ったのだろうか?
ちょっと気になったので、聞いてみることにするとなのははちょっと恥ずかしそうにしながら、
「い、いつもの感じの……」
「いつもの感じって?」
「ね……猫とか」
「ああ、そゆこと」
理解できた。
つまりなのはは自分が弄ばれる事を望んでいたようだった。
それは悪い事をした。せっかく俺との遊べる機会がなくなってしまったのだから。
そうだったんだよな、ごめんねなのは。
俺はいつでも遊んで欲しいなら遊んであげる……ぞ?
……あ、やっぱりいつもは無理かな。
俺にだって用事がある、剣の鍛錬とか魔法の練習とか5兄弟の相手とか。
なのはの相手は2の次3の次だ。
「いま、なんか後回しにされたような」
「気のせいじゃないよ、なのは」
「そうだよね、気のせい……気のせいじゃないの!?」
なのはがかなりビックリしたみたいだった。
そのせいで、隣で俺のひざを枕にしてたフェイトとアリシアがビクッと動いたけど、起きる様子はなかった。
って、あれ? なぜ二人は俺のひざで寝てるし。
でも……あまりに気持ちよさそうに寝ているのでどかす気にもなれなかった。
「こらっなのは。二人が起きるところだったぞ」
「え? あ、ごめんなさい。ってなんで二人は寝てるの!? しかも、竜也君の膝枕で……羨ましいかも……」
「何か言った?」
「ううん、なんでもない」
この状態は以外にも辛い。
立ち上がるときには相当の覚悟が必要だな。足の痺れ的な意味で。
「ええと、竜也君は相談しにここにきたんだよね?」
「おお、そうだった」
またすっかり忘れてた。
なんで、こんなに忘れやすいのだろうか?
これってある意味の防衛本能なのか? 彼女が怖いから現実逃避しているというような。
うん、説得力がありすぎる。
それで、忘れたままになって、気付いたら取り返しのつかないことになってるんだ。
そして、きっと彼女は言うんだろうな?
「おかえりなさいや、っで今度はどこに逝くん?」
って……真面目に考えよう。
目に光の映らないあの瞳は洒落にならない。
どこに焦点を当ててるのかも分からないんだもん。
「女の子へのプレゼントなんだけど」
「学校で聞いたことなのかな?」
「そうそう、それそれ」
誰も真面目に聞いてなかったと思ったけど、なのはは聞いてたのか。
いや、案時にちゃんと返してくれたのはなのはだけだったからね。
「う~ん、なのはだったらなんでもいいかも」
「なんでも?」
「うん! 友達からプレゼントがもらえるだけでも嬉しいから」
なのは溢れんばかりの輝く笑顔でそう断言した。
自身の身になって考える。
俺もそう出来たらよかったのだが、女の子の欲しいものはいまいち分からない。
だから、なのはに聞いたのだけど……そうか、なんでもか。
「だから、竜也君の好きなものを送っても良いと思うよ?」
「俺の好きなもの……」
俺の好きなもの……頭の中で繰り返すと同時に口でも何度も繰り返し言う。
俺の好きなもの。
例えば……いや、一番はやっぱり猫とかかな。
俺の目の前には一匹の白い子猫。
白いと言っても毛並みは栗色で尻尾は二本……ってなんか妖怪みたいだけど。
「た、竜也君。そ、そんなになのはを見ないでよ……」
「いや、好きなものって思ってね。なのは」
「え? なのはがす──」
「猫がいいかなって」
「なのはは猫じゃないーっ!」
この発言でなのはに引っ掻き回されて、俺はなのはの部屋をを急遽退室。
そのまま真っ直ぐ家に帰った。
フェイトとアリシアはよほど深く眠っていたのか、全く起きる気配がしなかったので背負って帰った。
さすがに二人は重かったが……まぁたまには兄らしいこともって思って頑張った。
家に帰れば母さんが、すこし驚いた顔をしたけど、すぐに微笑んで俺と一緒に二人を部屋へと連れて行った。
二人をベッドの上に寝かしつけるも俺の服を強く握ったままだったので、離すまでそっと待った。
それにしても、プレゼントはなんでも良くて、好きなものか……。
ふっ……やっぱりあれしかないよな。
そう心に決め、いざ決戦の日に備えて俺は作戦練る。
しかし、いつのまにか睡魔に襲われそのまま寝てしまった。
運命の日まであと3日。
────────────────
あとがき
ふっ、4月馬鹿だから許される! ……はず。
続きなんてない。
しかも、sage投稿するというこの隠密力。
気づけた人がいたら作者が驚く。喜ぶ。
以上。
続かない。