木の上で寝ているフェイトを発見したのだが、発見したのだが……。
どう声をかければいいんだ?
本当に今更になってなのだが、アルフに会ってやってくれなんていわれても、会ってどうすればいいんだ?
元気がないらしいのだが、俺に何かできることはあるのだろうか。
……ああ、いいや。細かいことは考えない方がいいか。
俺らしくないないというか、俺が落ち込んでいたら誰が励ますんだか。
はたしてそれでいいいのかは分からないが、とりあえずフェイトと話してみようとは思う。
フェイトと最後にしゃべったのは……、いつか覚えないや。
かなり前だったような気がするけど。でも、最後に言葉聞いた言葉は最近だったかな?
そんなフェイトとの正確な記憶も定かではないなか、意を決心──なんて言い方は、大げさだと思うが、それなりの覚悟と意識を持って声をかける。
木の上で寝ている少女に対して。
「フェイト!」
「…………」
よほどぐっすり眠っているのか、起きる気配がまだない。
本当に木の上で器用なことだ。
今の声で、フェイトがもっているデバイスのほうは少し反応したような気がするけど、気にしてもしょうがないだろう。
さっきと同じ声で起きるような気がしないので、今度はもうちょい大きめな声で呼びかける。
「フェイトー!」
「……竜也の声がする……」
俺の声は聞こえたみたいだが、目がまだ完全に開いてはいない。その上、寝ぼけたように俺の名前を呼んでいる辺り、
まだまだ起きる気配が感じられない。そして、また目を瞑り寝てしまった。
一体、どれだけ眠いんだよ。
それとも相当悩みこんで寝る暇がなかった、熟睡が出来なかったのかな。
仮にそうならば、俺の大切な親友であるなのはのことを考えてくれている、という前提なら嬉しいことだ。
いや、仮にそうだったとしても、あまり喜んじゃいけないことなのかな。
そのせいで、フェイトが蝕まれているみたいだし。
寝ているフェイトを黙って見る。
その木の上で寝ている姿は、とても熟睡していて気持ちよさそうに見えるんだが、時々異様にその姿が寂しそうに見える。
そして、その姿はとても儚く感じられた。
やっぱり、何か背負い込んでいるというのが垣間見えているような気がした。
こういう面に限っては、なのはに似ているな。
とは思うものの自分が何とかしてあげられるような問題でもないかと、自分自身に悪態をつく。
相談相手こそなれても、励ますことが出来たとしても、根本的なところの問題は自分次第。
そこまで、どうにかできるとは思えない。
だから、俺にできるのは……
ここまで考えて、ようやく結論付ける。
本当に今更だが、そしてこれが俺の根本的な部分なのだろう結論に至る。
その場のノリで何とかするか。
俺があれやこれやと深く考えてもしょうがない、いつも通りだね。
なるようになるさ、なんて思いながら、もう一度フェイトに声をかける。
今度は言葉だけじゃなく、念話も一緒に。
「<フェイト!!>」
「え!? た、竜也!?」
さすがに驚いたのか、フェイトが飛び起きる、が。
そこは不安定な木の上、慌てたフェイトがバランスを取り乱し、起きた結果は、
「あ、やばいね」
フェイトの落下である。
フェイトは寝ぼけているせいか、重力に逆らわずに落ちていく、しかも頭を下にして。
やばい! あのまま落下すれば下手したら重症だよ。
普段のフェイトなら魔法を使って跳べばいいんだろうが、寝ぼけているせいか真っ逆さまだよ!
俺は慌てて、フェイトの落下地点に手を出し、フェイトを受け止めようとする。
運よく、フェイトは俺の腕に落ちてきたが、俺がフェイトを支えきれずに……、
「のわっ!」
「……あ」
俺がフェイトの下敷きとなってしまった。
あれ、こんな感じのシチュエーションを見たことがあるな。
なんかのアニメか、漫画だっけ?
いや、そんなことを考えてる場合じゃないよな。
「竜也、大丈夫?」
「伊達に鍛えてないから大丈夫。」
事実、かなり鍛えてあると思うよ。
そりゃあ、毎日恭也さんの鬼のような乱舞に、母さんとなのはの魔砲を毎日食らっていれば、嫌でも頑丈になるというものさ。
本当に……毎日が生きるか死ぬかの死線みたいなものだからね。
まぁそれでも、ちゃんと力加減はしてくれてるみたいだけどさ。
って、そんなことより、肝心なのはフェイトじゃないか。
俺のことはどうでもいいんだよ。
「フェイトは大丈夫だったか?」
「うん、竜也のおかげ、だよ」
「いやいや、実際は微妙なところだけどね」
しっかり、受け止められていれば多少は格好よかった気がするけど、
重力に負けて倒れちゃったからなぁ。
むしろ、恥ずかしいレベルかもしれない。
「ううん、ありがとう」
そう言うと、今日初めての笑顔を見せてくれたフェイト。
なんだかとっても久しぶりな見た気がする。
なのはとはまた別の純粋さ溢れる笑顔だよな。
太陽の光と、金色の髪の毛がフェイトを余計にかわいく綺麗にしている気がするな。
俺がフェイトの笑顔に見惚れていると、ふと急に悲しそうな顔をした。
あ……もうちょい笑顔見たかったな。
綺麗な笑顔を見れなくなったのとの、せっかく元気になってくれたと思っていたのに悲しそうな顔をしてしまったので、
二重の意味で、残念に思った。
「あの、ね。……この間は、ごめんね」
「え?」
フェイトのいきなりの謝罪だった。
俺はフェイトに謝るられるようなことされたっけかな。
記憶を探るものの、理由は全然見つからなかった。
俺の中にいるフェイトはいつだって、笑顔で、そしてお手をしたという記憶しかなかった。
まぁお手してくれたのは一回だけどね。
「ええっとね、覚えてない?」
「ああ、全然」
「白い魔導師の子と戦ったとき」
白い魔導師……ああ、なのはのことか。
確かにバリアジャケットは白かったよな、学校の制服と一緒で。
あの白いバリアジャケットは……思い出したくなかったな。
だって、あいつ魔法使うとき性格変わるんだもん。
なんなんだよ、何であんな笑顔で魔法をばかすかと撃つんだよ。
怖いよ! しかも、一つ一つの攻撃がなんで一撃必殺クラスなんだよ!
もし、俺が防御魔法が得意じゃなかったとしたら……。
そう思うと、背筋凍るものを感じた。
笑顔で「竜也君いくよ~~」と、魔法を撃ってくる少女が脳裏に浮かぶ。
「大丈夫、竜也? 顔が青いよ」
「え、ああ。大丈夫、たぶんまだしばらくは大丈夫」
「え?」
あんなのが経験を積んで数年後は……ああ、やばい。
一応魔法の先輩として負けてらんないから、もっと強くならないとな。防御をもっと硬くして……。
って話が逸れてしまった。
フェイトとなのはの戦ったというと、ああ巨大猫のときだっけか?
あれは失敗だったな、冷静にお手をさせたつもりになって、むしろその判断は冷静じゃなかったよね。
「うん、あのときはごめん、ね」
確かあの時もフェイトは去り際に、俺にごめんと言ってたな。
あの時は何のことか分からなかったけど、今なら分かる。
それは、たぶんその前に俺が発言したことに関係があるのだろう。
その前に発言したこと、それは……
「まて、という命令を無視したからか?」
「え?」
「まぁ気にするな、次は言うことを聞いてくれればいいんだから」
「え……あ、うん。分かった」
「なら、いいんだよ」
「あの……」
「どうした?」
まだスッキリしたという顔じゃなかった。
言いたいことがある、もしくはまだ不安なことがある、それを確認しようとしているのか、
それとも、もっと怖いことに怯えているのか……。
そんな感じの雰囲気と戸惑いを感じさせる間合いだった。
それでも、勇気を振り絞って声を出そうとする。そして、実際にその声は非常に小さいものだった。
「私のこと……嫌いになった?」
その言葉は俺に重くのしかかった。
あまりにも、あまりにも悲しすぎる発言。俺はそう思った。
何でそんなことを言うんだよフェイト。
何で俺がお前を嫌いにならなくちゃいけないんだ?
どうして…………何でこんなことを考えるんだ。
俺には到底解りっこない、その言葉の意味と経緯。
でも……この言葉は言わせちゃいけないと思った。
「フェイト!」
「うっ……ご──」
「お手だよ」
「え?」
「ほれほれ」
「う……うん」
そう言うと、とっても久しぶりにフェイトにお手をした。
もちろん、お手ということは相手の手の温もりが直接伝わってくる。
当たり前だがフェイトの手は暖かかった。
そして、俺の手もたぶん……。
「竜也の手……冷たい」
あたたかいは──しまった!
そうだよな、そうですよね! フェイトのを暖かいと感じるということは、俺の手が冷たいからであって、
俺の手が暖かかったらフェイトの手を暖かく感じられないよね!
まぁ「フェイトの手が暖かいね」と言うつもりだったから、そっちの方が都合がいいんだけどさ。
よし、では台本通り? にセリフを──
「でも……暖かい」
「え?」
あれおかしいな、俺の目から汗が……。
ああ、やばい。フェイトの気遣いに心の汗が噴出してるよ。
優しすぎるよ、フェイト……今の俺にはフェイトが金色に輝いて見えるよ。
というか、本当に輝いてるよ。主に夕日の関係とかで。
そして、金色に輝いているフェイトの目下も少し光っているような気がする。
「ど、どうして竜也も、泣いてるの?」
「き、気にするでない。それよりもだ、さっきの質問の答え」
「え? ……うん」
「だから、これが答え」
「お手、が?」
「そう! 俺は嫌いな動物にお手とか要求しないよ? それに、フェイトは大好きだよ」
「え……あ、ありがとぅ」
俺がそう言うと、さっきよりも目下が光っている。
泣いているのかな?
そんなに俺の言葉が嬉しかったのか。
でも、言ったことは虚言でも、ましてや大げさでもなかった。
俺は好きな動物たちに愛をささげる。
俺はどこかの世界最大宗教の教主でもないので、全ての動物──まぁあの人が愛すのは人だが──を愛せると言うわけではない。
だが、大抵の動物に愛は注げる自信がある。
しかし、その中にでさえ程度と言うものがある。俺にとってお手とは、最もかわいらしいもの注ぐ行為そのものだ。
だからこそ、なのはやアリサ、すずかにだって強要することはあるし、野生の猫にだってしてもらうことがある。
ようするに、フェイトだって……俺にとっては愛すべき動物の一人、一見矛盾している動物に一人と言う単語だが、
この場合はむしろ正しいと思う。
それは、一匹の動物のように愛すのと同時に一人の人間として大切だと思ってるからだ。
…………。
あれ? なんか今俺かっこいいこと言った!
あくまで俺の思考の中でだけどさ……。
まぁようするにそういうことだ。
こんなこと恥ずかしくて誰にも言えないけどな。
フェイトはようやく泣き止んで、正常な判断が出来るようになったのか、
今更になって、不思議そうな顔をしていった。
「あれ? そういえば、何で竜也はここにいるの?」
本当に今更な疑問と質問だった。
まぁ確かに今まで聞くタイミングがなかったのは分かるけどさ。
俺も言うタイミングがなかったし……。
「温泉旅行だよ」
「ただの?」
「そう、ただの」
「……よかった」
心の底から安心したと言う表情だった。
アルフも同じようなことを言ってたから理由はよく分かる。
つまりは、俺と争わなくて済んだからだ。
もとより、俺は争う気はないし、ジュエルシードなんてぶっちゃければどうでもいい。
ただ問題なのは、なのはとフェイトがそれに関与してること。
そして、その結果二人が対立せざるを得ない状況。
はぁ本当に俺はどうするべきか……。
やっぱりこのことについてはなのはにも相談するべきかな。
むしろ、なのはこそ決断すべきだよな。
このジュエルシードについては俺は結局のところは当事者ではないんだし。
こんな言い方をすると、他人事みたいだよな。
大切な親友が二人も関わっているのに。
俺はこの後も少しフェイトと森の中を散歩した。
でも、大分日が暮れてきたことから、そして暗い森は危険なので、あまり長くはいなかった。
それでも、久々のフェイトとの時間は楽しかった。
フェイトは前に会ったとき同様に終始、俺の裾を掴んで俺の斜め後ろを歩いていた。
そして……別れ際にフェイトが、小さく呟いた。
「全部が……全部が終わったら、また、遊んでね」
その言葉を放ったときのフェイトの顔には決意と覚悟の両方が混じっていたような気がする。
そして、言外に……やらなくちゃいけないことがある。
そう言われた様な気がした。
あとがき
本当はこの回で、なのはvsフェイトのに入るはずだったんだ。
作者のタピです。
話がのんびりですが、更新ペースが早いのでそこでフォローしてもらえるありがたいです。
第42話です。フェイト回でした。
若干シリアスにしながら、ありのままにっぽくを目標に頑張っております。
フェイトって予想以上にかわいいと思った今日この頃。元々なのはとはやてと猫姉妹派なので。
最後に
次回はもしかしたら番外かもしれません。
最近作者が暴走していないのでw