待ちに待った、温泉旅行……と言うほど大げさなものではないが、
せっかくの連休に、滅多にないみんなでお出かけと言うイベントを、楽しみではないと言う方が嘘になるだろう。
みんなと言っても、高町家一同プラス数名と言う感じではあるのだが。
その数名の中にはもちろん俺を含めた、アリサや月村家一同がいる。
しかし、母さんは来ていない。
こういうイベントはすごく好きなはずだが、今回は翠屋で一人お留守番とのことだった。
士郎さんや桃子さんも、母さんも一緒に来るように説得してくれたのだが、母曰く、
「ありがたい話だけど、遠慮させてもらうわね。こういう日も働かせてもらわないと、ね?」
と言い、今日も仕事をするとのことだった。
色々と不可解で謎の部分の多い母だが、金銭面においては、結構シビアだったりする。
その証拠に金銭面的なやり取りは親しい仲である高町家ともしていなかったりもする。
変なところで大人なんだよなぁ。親しき仲にも礼儀ありというか……。
でも、こういった遠慮と言うか、けじめをしっかりしてきたからこその人脈なのかもしれないけど。
もしかしたら、今までお世話になってるお礼、恩返しと言った理由もあるかもしれないが……。
どちらにしろ、この母にはいつも計り知れない何かがあるような気がする。
そんなわけで、母不在、その上、はやてにも振られて、俺の関係者が次々に辞退したので、俺は若干寂しかったりする。
なので、はやての家からあるもの、と言ってはおかしいが連れてきたものがある。
「士郎さん」
「なんだい?」
「動物を車に乗せてもいいですか?」
「まぁ、別に問題はないよ」
「そうですか……おいで」
「「にゃぁ」」
連れてきたのは猫姉妹ことロッテとアリアである。
昨日遊んで以来、すごく懐かれた上にかわいかったのでついつい連れてきてしまったと言うのが事実だ。
俺も寂しかったのでちょうどいいしね。
「ほう、‘本物’の猫か」
「はい、‘本物’の猫ですよ」
なのは猫やアリサ猫ではなく、今度は本物である。
なんか、この言い方だとなのはやアリサが偽者のように感じるが、俺は決してそうは思っていないよ。
二人──二匹は俺にとってかわいい猫そのものだが、そして俺の動物王国への道へのキーでもあるが、やはりは元は人間であることは否めない。
まぁなのはに限ってはすでにペットであり、使い魔であるからして、本当に今更と言う感じではあるけど。
「しかも、二匹もか」
「はい、二匹もです。しかも双子です」
「そうか、双子なのか……」
士郎さんはそういうと、「一体どうやったらこんなに動物に懐かれるんだ」とか、
「しかも、双子ってどうやって分かったんだ」と、さぞ不思議そうに呟いた。
俺からすれば、本人? 達から聞いたことだと言えば簡単なんだけど、それを言ってしまえば、また不思議がられるだろう。
一応、俺自身も自覚していることだから言うが、普通は動物と会話はできない。
いや、なんか俺がごく普通にしゃべるから忘れがちだが、動物は日本語を話せない。
もちろん、俺が動物の言葉をしゃべるのも無理だが、なぜかお互いに分かってしまうとでもいうのだろうか……。
まぁ、説明しにくいものだから、そういうものなんだな、と俺も納得をするしかないんだけどね。
そんなこともあり、温泉旅行が幕をあげた。
「なんで、猫を連れてきているのよ……しかも二匹も!」
「竜也君が、他の猫を連れて来てる……」
そう、文句を行ったのは言わずと知れたアリサである。
そして、なのははなんか急に暗くなってしまった。その上、同じ言葉を繰り返す、猫姉妹を睨みつけながら。
何ゆえなのはが暗くなるのか分からない。そして、何で、猫姉妹に敵意なのかな?
それを抱くのか、よく分からないな。まさかの同属嫌悪!? ……そんなわけないか。
温泉旅行に行くにあたって、車は二台用意された。
一つは、俺、アリサ、すずか、恭也さん除く高町家一同が乗る車。さらに、言うなれば動物が三匹も乗っている。
二匹は先ほど士郎さんに許可をもらって乗車している猫二匹なのだが、もう一匹は……あのフェレットだった。
名前は確か……ユーノ・スパイダーだっけ?
<スクライアです!>
そうそう、スクライアだった。
でも、このスクライアって言う名前はどこかで聞いたことがあるな。確か、魔法の歴史を勉強してるときに……。
まぁ気のせいだろう。
このフェレットこと、ユーノは、なのはが魔法に出会ったきっかけになった動物だとか何とか言っていた。
なのはの初代魔法の先生だとも言ってた気がするけど、まぁさして気にするものでもないだろう。
<あの後大変だったんですから……>
あの後とはいつのなんのことだろうか、全く覚えていない。
身に覚えのないことを恨まれるなんて……ひどいな。
そもそも、俺は動物には寛容だし、動物には優しいから、動物に恨まれるようなことはしないぞ?
もちろん、それがフェレットであっても同義だ。
<月村さんの家で、猫に襲わせたのを覚えていないのですか?>
月村邸で、猫にフェレットを襲わせた? 俺がか?
ありえない……なんてことはありえないらしいが、ありえないね。
そもそも、月村邸でフェレットとは会っていない気がするし……。
俺が月村邸で出会った動物と言えば、猫……猫……なのは……巨大猫……フェイトぐらいなものだ。
あ……アリサとすずかもそうか……。
でも、どっちにしろ猫と犬にしかあっていないわけだ。
それ以外に会ったといえば、あのロボットと言うことになる。
まさか!? あのロボットの中にユーノがいたと言うことなのか!?
……………………。
いや、さすがにそれはないか。
そういえば、あのロボットのことについて、後々すずかに聞いたら、自分じゃ分からないからお姉ちゃんに直接聞いてとのことだった。
人様の所有物を、ミッションの為とはいえ、やらざるを得なかった、どうしようもなく、仕方なかったこととはいえ、
壊してしまったのだ。
最悪弁償、最低でも説教は覚悟して謝りに行ったのだが、これが意外な結末になった。
「ロボットが庭にいて、それを壊した?」
「はい、すみません……」
「どんなロボット?」
「ええと、オレンジ色の──」
「ああ、あれね」
俺がオレンジ色と言う、たった一つの言葉だけで、すぐに何か分かったみたいだ。
まぁ確かにあのロボットはキャラが濃いというか、印象に残りやすいからすぐに分かるとは思ったけど、
製作者なら分かって当然かなとも思う。
「あれね……勝手に住み着いてたのよ」
「え?」
「まぁ私にもよく分からないんだけどね。壊してくれたのなら、むしろお礼をいうべきかな?」
勝手に住み着いていた……そんな猫じゃあるまいし……。
そもそも、あのロボットって見てくれや性能はあれだけど、よくよく考えれば中々の高性能だよね?
名のある科学者が造ったというのが、妥当な可能性だけど、それにしたって野生のロボットはありえないだろう……。
「いえ、お礼なんて」
「ふふふ、そうよね。まぁそのことについては気にしなくてもいいよ」
明るく、気さくに許してくれた。
忍さんって笑ってるときの姿とかすごく綺麗なんだよね。
この人が恭也さんの彼女さんなんだよね……というか、忍さん言うには、もはや許婚の関係だとかも言ってた気がするな。
でも、あの二人ってすごいお似合いなんだよね。
恭也さんと忍さんのツーショットなんて絵になりすぎるし……。羨ましい関係だよね。
とまぁ思い出してみたものの、やはり記憶にない。
ユーノの勘違いだろうね、これは間違いよ。
<もういいです>
ユーノも自分の勘違いだと悟ったのか、諦めたみたいだ。
無駄に言い争ってもしょうがないしね。こういう記憶の誤差と言うのは水掛け論だし。
そんなわけで、この車に人が7人と3匹、計10もの人と動物が乗っているので、結構車の中は狭かったりする。
「いいじゃないか、猫かわいいだろ?」
「そ、そうだけど……」
「でも、すごく竜也君に懐いてるよね。私も家で猫飼ってるからわかるけど、猫って意外と懐かれるまで時間がかかるんだよ?」
「え? そうなの?」
俺にはあまり実感のない話だ。
公園にいても、次々に猫は集まるは、鳩が止まるはで動物にいつの間にか囲まれてるからね。
だから、動物が懐かないとか、猫が言うことを聞かないと言うのはむしろ俺にとっては珍しいことだったりする。
最近だと、餌付けしなくても言うことを聞くからね……この猫姉妹もそうだったし。
あ、でもこの猫姉妹の場合はよく遊んであげてるな。
遊んであげないと微妙に拗ねるしね。その拗ねた様子もかわいいから、あえて遊ばないで放置したりもするけどね。
「あんたが人外なのはよく知ってるけど、そこまで行くとさすがに引くわね」
「ひどいな。アリサだって懐いてる猫の一匹の癖に」
「う、うるさいわね!! 私のことはどうでもいいのよ!」
「アリサちゃん、いい加減に諦めたほうが気が楽になるよ?」
「な、なのはまでどうしたの!?」
そうだぞ、アリサ。いい加減諦めてどこかの猫みたいにデレデレになっちまえよ?
あ、でも、恥ずかしそうにする姿もかわいいから、それはそれでいいんだけど……う~ん、難しいな。
「目的地に着いたぞ」
そんなとりとめのない話を猫姉妹を常に撫でながら、しゃべっている間にも車は進んでいたおかげで、
退屈な時間を過ごすことなく、目的地に辿り着けたようだ。
ただ、この話をしている最中に運転席あたりから、
「なのはは、どこへいこうとしているのか……」という、呆れ交じりの悲しみを感じられる言葉が聞こえたような気がする。
何はともわれ、目的地に到着である。
場所はここも一応は海鳴市らしいのだけど、海に面している住宅街と比べ、ずいぶんと山奥。いや、事実、山奥だった。
ここに来る途中、車の窓から見る景色は、まさに山のそれだったことが証拠でもある。
海鳴市は実際に‘自然溢れるいい町’と言う、フレーズがまさにピッタシの町なのだが、それが見てとれる一面だと思う。
海あり、山ありの人柄よし、雰囲気よしの人が住むにはこれ以上ないほどの町だ。
俺と母さんもこの町に来たのはつい2年前のことだが、まるでそのことが大分昔のような、
昔からこの町に住んでいたかのように感じさせるほど、この町にはすでに思い出が一杯だ。
ようするにここ、泊まりに来た温泉旅館の場所もすごく自然に溢れ、とてもいい場所ということだ。
「自然がいっぱいでいいわよね、こういう雰囲気は好きよ」
「私も、海も好きだけど、山も好きだなぁ」
「動物も多そうだな」
「あんたはそればっかしね……らしいっちゃらしいけど」
山だしね。
もしかしたら、ここで新しい動物との出会いもあるかもしれないじゃないか。
例えば、山と言えば……猿とか?
でも、海鳴市に猿がいるという話を聞いたことはないな。
なら、昆虫とか? ああ、でも俺の目的は動物王国を作りたいわけだから昆虫は範囲外かな?
動物王国の中に昆虫園とかもいいかもしれないけど……。
「よし、チェックインも済んだから、とりあえず旅館に入ろうか」
チェックインしに行っていた、士郎さんが戻ってきた。
みんなも士郎さんの言葉に従って、旅館に入り、まずは用意された部屋に入ることになった。
部屋の割り方は子供達は全員一緒なのだが、男一人に女3人か……もっと正確に言えば、あと動物3匹も一緒なのだが……
まぁ今更だよね!
前にも4人でお泊まり会とかしてるわけだし、俺もいい加減慣れた。
あと、諦めもついたので反論もせず、言われたとおりの部屋割りで納得した。
余談だが、よくこの旅館動物平気だよね。やっぱりペットブームに対応してということなのだろうか?
そんなわけで、二泊三日の一日目。
長旅、と言うほどではないにしろ、車での移動でみんな疲れているだろうとのことでさっそく温泉に入ることになった。
猫姉妹も一緒にお風呂にいれようと思ったが、拒否されたので、しょうがない、それはもう非常に残念であるが、
代わりにフェレットと一緒に入ろう。
あぁ猫と一緒にお風呂入りたかったなぁ。
でも、いいこと思いついたからいいかな。寝るときは二匹の猫を抱いて寝よう!
あとがき
いつの間にやら40話、未だに無印も終わらない。
作者のタピです。
第40話です。温泉旅行の導入部なのでそんなには暴走してません。
してないですよね?
温泉旅行の話は、結構長くなるかもしれないです。まだ分かりませんがw
やっぱり本編の話になると何回にも渡っちゃいますね。
最後に
なんだかんだでユーノがでるw
しかし、扱いはかなり酷いですね。ユーノファンの人すみません。