第二回なのは会議が、ここ月村邸にて開かれる。
いや、正確にはこれから開かれる予定なのだ。
でも、その前に……
「一度でいいからやってみたかったんだよね」
潜入ミッション!
今回のミッションは月村邸に誰にもばれずに潜入し、すずかの元へたどり着くことである。
このミッションで大切なのは、身近なものをどう応用するかである。
そして、俺にとって身近なものと言えば……猫である。
「猫1」
「にゃ!」
「あの監視カメラの前をゆっくり通り抜けろ」
「にゃ!」
猫1が手をビシッ、とさせ俺の命令どおりに動く。
監視カメラはその猫の動きに合わせ、動き、それに合わせて俺は裏をかくように動く。
そして、見事に予想通り監視カメラに見つからずに潜入する。
監視カメラ対策にはこの方法を幾度となく使うことによってドンドン先に進める。
2個以上ある場合は二匹の猫をといった感じでだ。
もちろん、仕事をした猫には、
「ほれ、マタタビ」
「にゃ~ん」
これぞ、鎌倉から続くご恩と奉公の関係!
鎌倉はすぐに衰退しちゃったけどね……俺は大丈夫さ!
だって領土は有限だけど、餌は限りなく無限に近い! 買っておけば! あとお金があれば。
こんな感じで、猫を多用しつつ上手い具合に月村邸を潜入していくのだが……はて? ここはどこだ?
この家は異様に広いんだよなぁ。アリサの家ほどではないんだろうけど、普通の家とは比べ物にならないよ。
よくよく考えると、俺はこの家に来る度にそれを考えているような、なんか虚しくなるな。
ええい! ブルジョワめ! おまえらがいけないんだ!
うちにも少しはお金分けろよ! むしろ住まわせろ! 貧乏人を労わってくれよ!
……なんか余計に悲しくなってきちゃったな。
でも、アリサとすずかなら頼んだら住まわせてくれそうだな……今度聞いてみるか。
許可もらったらもらったで大変そうだけどなぁ。
と、そんなことを考えていると偵察第1部隊の猫3が話しかけてきた。
「にゃにゃ! にゃーにゃ、にゃにゃん」
「ふむ、そうか。ご苦労だった」
猫3によるとこの先に介護用ロボがあるらしい。
なんか、介護用のくせに無駄に戦闘面で多機能で、お腹にはでっかく8の文字でオレンジ色の丸っこいロボらしい。
しかも、防水性まであるということ。
この猫はどうやってその情報を手に入れたかは知らないが、なんというか頼りになる偵察だった。
にしても、防水性まであるくせに、戦闘できる介護用ロボって……日本の技術は世界一だね! 無駄に!
どこかの漫画でこんなのがあった気がしなくもないが、気のせいだろう。
聞くところによると、すずかのお姉さん、月村忍さんはマッドサイエンティストだとか何とか。
あくまで噂だから、真偽のほどは確かではない。 ただそういう噂もあるのであってもおかしくないということだ。
「監視カメラに警備ろ──介護用ロボって本当にすごいなこの家」
玄関に監視カメラがあったり、どこかの柔道家が守っている家はよく見るが、
家の中、それも広大な庭に監視カメラがあり、ロボットがあるって普通の家ではない。
本当に今更だけどね。自分の常識が覆ることばかりだよ。
まぁ魔法を使う人が言っても説得力はないけどね。
さて、問題はどうやってそこを突破するかだ。
単純に破壊してと言うのもいいが、戦闘面に強いらしいから、避けたほうがいいし、何より騒ぎになりかねない。
そうなると潜入どころではないだろう。
その次に思い浮かぶは隠れながらだ。
一応アイテムとして、ダンボールをもってきたが、はたして役に立つだろうか。
こんな庭にぽつんとダンボールがある。しかも、たまに動いてる感じがする。
「…………シュールだ」
あまりにも現実味がない。
これが山中なら、またはかの有名なあの爬虫類なら問題ないかもしれないが、俺では荷が重過ぎる。
何より、俺の技量でダンボールを使いこなすには、力不足だ。
こうなってくると、選択できる行動が減る。
ばれないように目標の破壊も駄目、目標から隠れるのも無理だとすると、他にも思いつくのは……
「完全に無視か」
無難な選択肢。
しかし、こちらがスルーしたからといって、向こうも見逃してくれるだろうか。
いや、むしろ向こうが気付かないなんてことあるのだろうか?
向こうは仮にも、けい──介護用ロボ。
介護してる相手、つまりはおじいちゃん、おばあちゃんが変な行動を起こさないか。
また、振込み詐欺などにあわないかを察知できるように造られたロボだ。
監督性、感知能力は高いと言えるだろう。
しかし、これらはすべて予想でしかない。
ようするに、行動を起こさなければ何も分からないし、始まらない。
このまま考えていて、策がでるとも考えられないし、状況が悪化する可能性だってある。
だが逆に、策が見つかるかもしれないし、状況が好転するかもしれないのだ。
だけど……だからと言って……
そんな、決まりようのない問答を繰り返していると、偵察第2部隊隊長の猫2が報告にやってきた。
「にゃ!」
猫2は、俺に会ってまず、ビシッと敬礼してから、報告を言う。
「にゃい、にゃにゃー」
「そうか……お疲れ隊長」
「にゃい!」
俺がご褒美のマタタビをあげると、再び敬礼をして仕事に戻った。
本当にここの猫たちはよく働いてくれる。
今まで餌付けをしてきた甲斐があったというものだ。
こういう時は本当は魔法を使いたいが、普通は禁止されているので、猫を使う。
「目に見えないものを恐れている場合じゃない、か」
猫2によれば、アリサが月村邸に到着したとのことだった。
その結果、ここにとどまってる場合ではなくなってしまった。事態は急変したのだ。
早く明確な判断をしなくてはならない……。
顔を上げ、周りを見渡すと、指示待ちの猫達がいる。
その数は十を軽く超える。
おそらく、この家の猫だけじゃなくて、野生の猫まで集まっているのだろう。
こんなにも……こんなにも、協力してくれる同士。
否! 戦友がいるとは。俺は嬉しかった。
一人じゃない。俺に仲間たちがいる。この仲間達と一緒なら、なんだってできる。
根拠のないことだ。だけど、そう思わせるには十分だった。
そうだね。
恐れちゃいけないんだ。俺はこいつらと……こいつらと戦うんだ!
そうと決まれば!
隠れるとか無視とかそんな軟弱な心持じゃな駄目だ!
もっと大きく、さらに大きく、相手を木っ端微塵にするつもりの気持ちで挑まなければ、猫たちに申し訳が立たない。
「みなのもの!」
『にゃ!』
「目に見えないものを恐れては駄目だ。相手がどんなものであろうとも。
それがたとえ、吸血鬼であろうとも魔法使いであっても幽霊であってもロボットであっても、恐れては駄目だ!」
『にゃ!』
「行くぞぉぉぉぉぉぉぉおおおお」
『にゃぁぁぁぁぁああああああ』
俺と猫たちは一気に駆けた。
介護用ロボという敵がいるところに。
目前にロボが見えた。
オレンジのボディに8の文字。敵に違いない。
敵はまだこちらに気づいていないようだ。これは奇襲のチャンスである。
うまくいけば、こちらに被害はでない……いや、そんな甘いことはいえない。
被害を最小限に抑えた上で、騒ぎを大きくせずに片付けられるかもしれない。
そう思ったが瞬間。俺は猫たちに指示を出す。
「二番隊と三番隊が突っ込め! 残った一番隊と四番隊は第二波で突っ込め!」
「え?」
俺の指示通りに動く猫たち。
さすがに、向こうも気付いたようだが、時はすでに遅かった。
第一波が到達して、相手の動きを止める。
相手が急いで振り払おうとするも、第二波でさらに動きが止まる。
猫たちが一斉にオレンジボディに引っかきいやな音が出るが、俺は我慢する。
ボディは引っかかれたことにより少しずつ薄くなる。
俺はそこがチャンスだと思い、拳を握り、一気に迫る。
猫たちに退避命令を出し。
介護用ロボに、
「そげぶ!!」
「ぐっ!うわあああああ…………」
俺の攻撃は見事ボディを貫通し、ロボットは機能停止になった。
よくよく考えれば、戦隊もの様に破壊されたロボットが爆発とかしたら、俺の命はなかったかもしれない。
まさに、九死に一生を得たようなものだった。
しかし、
「や、やり遂げたぞ!」
『にゃにゃ!』
「しかし、まだまだミッションは続く! 気を引き締めてかかれよ!」
『にゃ!』
そう、まだミッションは終わっていないのだ。
クリアは敵の撃破ではなくターゲットへと辿り着くことなのだ。
この肝心な部分を忘れ、今起きた最大の危機のクリアで油断をしてしまえば、この先はない。
油断はまだ禁物。
そんなことを考えていたとき、ハト斥候がやってきた。
「ポルッポ。ポッポ」
「何!? 本当か!?」
「ポポ!」
ハトによるとなのはの到着とのことだった。
つまり……時間はもうないに等しい。
いや、もはや失敗と同じである。
なんということだ。
せっかく、せっかくここまで来たというのに……。
現実にはリセットなどと言うものはない。もう取り返しがつかない……。
ミッションの失敗。
悔しい。悔しすぎる! 後もう一歩、もう一歩だったのに。
なんて思わないけどね。
まぁ失敗したのは悔しいけど、十分に楽しめたから満足かな。
諦めてすずかたちのいるところに行くか。
そう思ったときだった。
魔力反応を感じたと同時に、広域結界が張られ、そして、目の前で猫が巨大化した。
「え?」
「にゃああごおおお」
ええっと、どういうことなのかな?
意味が分からないんですけど?
結界が張られたこともそうだし、猫の巨大化もそうだし。
でも、どっちも魔法が関わってそうだし……あれ? 魔法ってそんなにメジャーなスポーツか何かでしたっけ?
まぁとりあえず猫には変わらないからコミュニケーションでもとってみるか。
「ええっと、お手」
「にゃあごおお」
俺の指示通りにお手をしようとするのだが、その大きさがあまりにも大きいため、
踏み潰されそう……てか、本当に危ない! 頭上暗くなってきた!
その時だった。
黄色い射撃魔法が猫に当たり、猫が俺の反対側に横に倒れる。
「うわぁ危なかったって……魔法? しかも、あの魔力はフェイト、かな?」
以前にフェイトに会ったときに感じた魔力の質と非常に似ていた。
でも、さっきの広域結界はフェイトのものではなかったし。それに、なんでフェイトがここに?
たしかにこっちの方に引っ越してきたとは聞いたけど……。
ふーむ、どうも謎が多すぎるな。
これは実際に聞いたほうがよさそうだな。
そう思い、フェイトに近づこうと思ったら、今度は白い服を着た少女が……って?
「な……のは?」
白いのは、おそらくバリアジャケットだろう。
俺はデバイスをもってないので、バリアジャケットは持ってないが、基本的に魔導師は着る。
それに、よく見ると小学校の制服にも似ている。
そんななのはだが、フェイトが続けざまに猫に攻撃しようとした。
なのはがそれをバリアで護る。
なのはが魔力もちだったのは、知ってるけど、まさか魔導師になってただなんてね。
予想外もいいところだよ。
たく、どこの誰だよ。
魔導師はこの世界にはいないって言ったのは。
と、そんな悪態をついてる場合じゃないな。
二人に戦闘をとりあえず止めないと。あと、猫も助けてやらんとな。
そう思い、二人を静止しようと思ったのだが……手を出せる状況じゃない。
二人で絶賛空戦中だった。
しかし、なのはは明らかに劣勢だった。見るからに経験不足、そう言った感じだ。
でもこのままじゃ……止めなくちゃな……。
「フェイト! なのは!」
「え? 竜也?」
「竜也君!?」
「まて!!」
「にゃん」
「え?」
「なのは!?」
フェイトとなのはが俺の声に反応して止まる。
が、フェイトはすぐに切り替えて、なのはが止まってるの好機と見たのか、猫をこうげきする。
フェイトには餌付けが完全じゃなかったと悔しくて、俺は反応できなかった。
くっ!フェイトへの餌付けを怠ったか……って、今フェイトとなのは以外の声が聞こえたような……気のせいか。
そうすると、猫から青い石が……あれ? どこかでみたことあるような……これも気のせいかな。
フェイトはその石を「封印」と言い、石をデバイスの中に封印した。
「ごめんね、竜也」
フェイトはその言葉を残して、その場を去ってしまった。
俺となのは呆然と立っているしかなかった。
ごめんってなんだよ? 俺の「まて」の言うことを聞かなかったからか!?
だったら今からでも遅くないぞ、フェイト。
そして、そこの白いの!
なのはは俺の視線に気付いて、苦笑しながら、
「にゃはは、ばれちゃった」
と言って、気絶した。
どいつもこいつも好き放題やりやがって。
とりあえず、なのはに回復魔法をやってあげて……
「あのう?」
うん? なんか今フェレットがしゃべった気がするぞ?
動物がしゃべるわけないじゃないか、全く。俺も疲れてるのかな。
にしても、なのはの疲労相当だな。こりゃあもうちょいケアしてあげるべきか……。
「あなたも魔導師ですか?」
さっきからうるさいなぁ。フェレットがしゃべるわけないじゃないか。
やかましいので、とりあえず、
「猫2!」
「にゃ!」
「そこのフェレットを食べてよし!」
「にゃい!」
そういうと、キランと目を光らせてフェレットを襲い始める猫2。
人が魔法を使って、なのはを回復させているときに邪魔させる奴が悪いのだ!
せいぜい、食べられないように頑張るといい、ははは。
「た、助けてくださいーい!」
「にゃー!」
あとがき
ここからが本番みたいなもの。
作者のタピです。
第36話です。非日常パートです。
今回は頑張ってシリアスながらも、シリアスじゃなくしました。
みんな、リリカル好きでしょ?
というより、本当のシリアスは今後の為に残しておきたいんですけどね。
この回の前半はギャグパート。後半は魔法パートです。
というより、ギャグパートこれでいいのかな?
次回は、日常パート。
つまりは、この日の後半ですね。物語は少しずつだが、動き出してます。
最後に
いつの間にやら20万PV。たくさんの方々に見てもらって光栄です。
まさか、こんなに続くとは。最近のとらハ版の中では見劣りしますが、今後ともよろしくお願いします。