「それで、結局なのは何の本を持ってきたんだ?」
竜也君が、期待の念を抱いた眼差しでなのはを見てくるの。
なんでなんだろう。
なのはのなにに期待してるのかなぁ。
昨日は、今日の読書のために、家にある本を探してきた。
パッと思いついたから、忘れないうちにと思って急いで帰った。
頑張って探したら、出て来たのは、昔お母さんが読ませてくれた本。
それは、
「じゃーん! これなら文句は無いと思うの!」
「え? 『3匹の子豚』?」
「そうだよ? この子豚さんがとってもかわいいの!」
3匹のかわいい子豚さんが、意地悪な狼さんから頑張って家を守るお話。
涙あり感動ありの、素晴らしい本だと思うの。
「すごい……全く期待を裏切らないと言うか……うん。なのは、さすがだ」
「んにゃ? うん! ありがとう!」
なんかよく分からないけど、すっごい褒めてくれたの。
なんでかなぁ?
竜也君のことだから、絶対に変なこと言うと思ったのに。
「でもさぁ、なのは」
さっきの様子とは打って変わって、少し真面目な雰囲気を、漂わせる竜也君。
なのはの目じっと見てる。
「もっと大人になろうぜ!」
「にゃ? ど、どういうことなのかな?」
「まぁ……いいけどさ。そういうのは、なのはらしくてかわいいと思うから」
た、た、た、竜也君が、なのはのことかわいいって言った……
え? これって夢じゃないのかな?
竜也君ってなのはに会うたびに猫みたいな扱いをするから、こんな竜也君久しぶりなの!
「なに、顔を赤くしてるんだよ?」
「にゃにゃ!? べ、別ににゃんにもにゃいよ?」
「噛みすぎだよ」
うぅ、竜也君の不意打ちのせいなのに……
それに顔だって赤くしてないもん!
別に竜也君に褒められたってうれしくな……嬉しいかも。
最近の竜也君って、なのはの猫化のときにしか褒めてくれないの!
普通のときは全然ないんだもん。
もっと褒めてくれてもいいと思うの。
これだけ竜也君と一緒にいるんだから……
「どうしたんだ? なんかいつもより慌しいと言うか……」
「ううん、普通だよ。今日は一緒に帰るの」
「え? ああ、昨日の気にしてるのか。まぁいいよ。と言うかいつものことだろ。
今日は鍛錬もあるし、ちょうどいいからなのはの家に直接行くから」
「うん!」
今日は竜也君も一緒に家に来てくれるの。
いつも帰ると一人だから、とっても嬉しいの。
そういえば、竜也君ってなのはの家で二人きりのときだけは異様に優しかったような……
なんでなんだろう?
やっぱり、気にしてくれてるのかな?
去年の梅雨に竜也君に泣き付いちゃったのを、未だに……
ああ、そうなんだよね。
もう、竜也君と初めて会ってから1年半なんだ。
早かったような、遅かったような、とても不思議な感覚。
なのはにとって竜也君は、初めての男の子の友達。
あの時はまだ、アリサちゃんとすずかちゃんと仲良くなったばっかしで、まだ不安定だった。
ううん、もしかしたら今でも、竜也君から見れば不安定かもしれないけど。
でも、そんなときにやってきた、竜也君はとても優しかったの。
なのはが家に居場所がないことをしって、竜也君の家を居場所にしてくれたり。
本当に優しい。
「…………」
「ん? 読書中になんだよ?」
「にゃ!? なんでもないの」
ついつい、竜也君を見ちゃったの。
本人は優しいとか言うと否定したり、買いかぶりすぎだって言うけど、なのはは優しいと思うよ。
竜也君はよく、なのは達の、「高町家はお人よし過ぎる」って言うけど、それは自分もなんじゃないかなって思うの。
なのはにとって竜也君は──
「おい、なのは!」
「にゃにゃ!?」
「読書の時間が終わったぞ、というかその絵本ってそんなに読むのに時間かかるのか?」
あ、いつのまにか朝読書の時間が終わってるの……
た、竜也君のせいだよぅ。
竜也君がなのはの昔を振り替えさせるから。
「そもそも、絵本と言うところに突っ込むべきじゃないのかしら?」
「ほら、アリサちゃん。そこは……なのはちゃんだから、ね?」
どういう意味……かな?
なのはだから絵本でいい?
もしかして、今馬鹿にされてる?
「アリサもすずかもなのはに失礼だぞ!」
「そ、そうなの! 竜也君の言う通りなの!」
「この絵本のなのはがいいんじゃないか、みてて楽しいだろ?」
「確かに言われてみれば……」
珍しくなのはの弁護に入る竜也君。
なんかその後もアリサちゃんとしゃべってたみたいだけど、よく聞こえなかった。
でも、いつもの竜也君なら、
「はっはっは、なのは絵本かよ! はっはっは!」
とか言ってるに違いないの!
「なのはの中の俺のイメージって……」
「た、竜也君あんまり落ち込まないで」
「心中察するわ」
あれ? なんで竜也君落ち込んでるの……
しかも、アリサちゃんとすずかちゃんまで竜也君を励ましてるし!
なんだかんだで、二人を味方につけてるの!
竜也君はやっぱり油断ならないの。
「まぁいい。それで、なのは」
「なに?」
「なんで読書の時間中俺を見てたんだ?」
「にゃ!? そ、そんなことはないの」
「なのは、悪いけど私の場所からでもなのはが竜也を見つめてたのは分かったわよ」
や、やばいの!
そ、そんなに竜也君のことみてたかなぁ。
ちょっと前のことを思い出して、ついつい竜也君を少し、見てたつもりだったんだけど。
でも、これを素直に言ったら、竜也君に馬鹿にされるかも……だったら!
「ええっとね、それには理由があるの!」
「え? どんな?」
「た、竜也君のことが……」
「お、俺のことが……」
「竜也君ことが気になったから!」
「な!?」
「「え!?」」
う、上手く誤魔化せたの。
みんな驚いて開いた口がふさがって何も言ってこないの。
あ、チャイムだ。
「ほら、みんな先に戻ろう?」
「え……あ、うん」
「そ、そうね」
あれ、それにしてもみんな驚きすぎなの。
竜也君は妙に顔が赤いし、アリサちゃんはなんか慌ててるし、すずかちゃんなんて未だにフリーズしてるの。
どうしたのかな?
結局今日学校の間ずっとみんなそんな感じだった。
お昼ごはんで一緒に食べてるときも、みんな生返事しか帰ってこないし。
なのはの発言に問題があったのかな?
「じ、じゃあ。また明日な」
「え、ええ。そうね、また明日」
「また……ね、なのはちゃん、竜也君」
「うん、また明日!」
アリサちゃんとすずかちゃんは、アリサちゃん車で一緒に帰宅。
なのはは昨日ぶりに、竜也君と二人で帰宅なの。
「「…………」」
お、おかしいの!
いつもなら二人でしゃべりながら楽しく帰れるのに、すごく緊張すると言うか、
しゃべりにくいの……
「「あ、あの」」
「「先いいよ」」
だ、駄目なの。
なんか、ドキドキしてきちゃったし。
どうしたのかな、竜也君もへんだけど、なのはも変なの……
はっ!もしかしてこれが噂の……反抗期!?
竜也君は反抗期なの!?
「はぁ」
思い切り深いため息をした、竜也君。
そうすると、なのはの目を真剣に見てきた……
なんかその顔で思わず、なのはも緊張する。
「あのさ、なのは」
「なに、かな?」
「今日の朝のさ、俺が気になるってどういうこと?」
「にゃ?」
「ん? 本人でも分かってないのか?」
「何のことだかさっぱりなの」
朝の気になるっていうなのはの発言?
あれって誤魔化す為にいっただけだから、別にどういうも、何もないんだけど……
「はは、そうだよな。当たり前だよな!」
「ど、どうしたの、竜也君?」
「いや、なんでもない。というより、お前が悪い!勘違いしちまったじゃないか」
「にゃ? 勘違い?」
「まぁいいか」
「え? 意味が分からないの、竜也君!」
「ふん、自分で考えろ!」
そういうとどこか怒ってる感じにも見える、竜也君。
ううん、拗ねてる感じなのかな?
竜也君のこういう姿を初めて見るかもしれないの。
でも、どうして拗ねたんだろう。
分からないなぁ。
なんか勘違いしてたみたいだけど……
でも、こういう竜也君との何気ない会話は楽しい。
たぶん、竜也君と出会わなければ男の子とこうやって話す機会もなかったかもしれない。
実際、竜也君とその護衛って感じのあの5人組以外の人とは全然しゃべったことがない。
そういう意味では、なのはの世界を広げてくれた人。
そして、こんななのはに優しくしてくれる……
「どうやって苛めてやろうかな……」
優しくしてくれる……
あれ? 優しくない?
「やっぱり猫じゃらしかな?」
「にゃん!」
ハッ!ついつい反応しちゃったの。
わ、悪い癖なの……
な、なんでかなぁ。
どうして猫状態のときに竜也君の言うこと聞いちゃうんだろう。
あ、でも気持ちいいからいいかな。
……やっぱり駄目なの。
た、確かにお手とか言われるとよろこんでやっちゃうけど。
猫じゃらしあるとついつい遊んじゃうけど。
「そんなに嬉しいのか? じゃあ猫じゃらしは無しだな」
「にゃ~ん……」
え? 今日は猫じゃらし無しなの?
すごい残念なの……あ! ま、まずいよ、影響受けてるの!
でも、やっぱり残念……
「そ、そんなの落ち込むなよ……分かった! じゃあ今日は家でゲームの相手をしてやるよ」
「え、本当に?」
「ああ、たまには徹夜でやるか」
「うん! すごい楽しみなの!」
今日は竜也君の家でお泊りかなぁ。
うん、ゲームもすごく楽しみだけど、それ以上に竜也君と一緒に遊べるのが嬉しいな。
最近、放置されてた気がするし……気のせいだよね? 竜也君?
まさか、なのはたちの知らない女の子と遊んだりなんかしてないよね?
「なんか、今背中にぞくっと来るものが」
「どうしたの?」
「いや、何にも……じゃあ、そうと決まれば、今日の鍛錬も頑張るか」
「頑張ってね、竜也君。なのはも道場で応援するの」
「そうか、ありがとう」
竜也君の練習してる姿は実はアリサちゃんもすずかちゃんも見たことがない。
だから、なのはだけが竜也君のあの真面目な姿を見れる。
なんだかちょっとだけ優越感。
みんなの知らない、竜也君を見ることができると言う。
「竜也君」
「なんだ、なのは?」
「ううん、なんでもないの」
「意味分からん」
竜也君……本当に‘私’にとって特別で、大切な友達。
私に居場所を作ってくれて与えてくれた。
そして、名前を呼んでくれる。
とっても大切な友達。
だから私は密かに思う。
これからもずっと一緒だよ。
あとがき
なのは目線だけなので、言い回しとかそういうのに結構気を遣いました。
作者のタピです。
かなりキーになる予定の話です。
伏線と言うほどではないと思いますが、補足は下記にてさせてもらいます。
なのはっぽい文章をかけていたらこれ幸い
こんななのはがかわいいと思ってもらえれば最高の栄誉
第27.5話でした。
以下補足です↓
この回の意味は、なのはの心境変化と竜也への想いです。
好き嫌いとかではなく、大切な何かというのを目標に書きました。
上手く表現できていれば幸いです。恋愛はまだ早いですからね。
心境の変化の基準としては、しゃべり方と、一人称です。
最後の心の中での‘なのは’という一人称から‘私’への変化。
しゃべる時の一人称は次回以降もそのままですが、この変化の表すものは!?
と言う風に考えてもらえたら嬉しいです。
初めての主人公以外でのフル目線なので、おかしな点が多々あるかもしれませんが、
そういうところは指摘をくれると嬉しいです。
以上補足。
まぁこれはこれで書いてて楽しかったです。
なのはだと、ギャグをとりやすいというか、書きやすいんですよねw
書きやすさで言ったら、アリサと肩を並べます。
最後に
次回からはまた元に戻ります。
そして、やっと、やっと本編への道筋が見てきた!