以下の投稿は、拙作「ハーレムを作ろう」、「伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム」の続きにあたります。
初めての方は、一応簡単な説明は入れておりますが、お時間がありましたら、下記のURLにてご一読願えれば幸いです。
「ハーレムを作ろう」
http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=zero&all=11205&n=0&count=1
「伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム」
http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=etc&all=12397&n=0&count=1
ゼロ魔の世界観のみをお借りした、全くの別作品です。
----------------------------プロローグ--------------------------
「ご、ご主人様! ご主人さまあ!」
ここ最近の俺のお気に入り、超小型カーゴイルによるウォーゲームを蹴散らすように、アマンダが部屋に駆け込んできた。
彼女の足に踏みつけられた、超小型ドラゴンが苦しそうに喘いでいるのも目に入らないようだ。
「あー、アマンダ、落ち着け、一体どうした?」
ワタワタと両手を振り乱し、焦りまくっているアマンダに俺はため息を付きながら訪ねる。
あっ、超小型ドラゴンが息絶えた……
結構練成に時間が掛かった自慢の一品なのに……
アマンダは、ここヴィンドボナ郊外のアムゲーレンゼーの俺の屋敷の筆頭メイドの一人だ。
ここには彼女を含め五人の筆頭メイドがいるが、通常はその内二人が屋敷に詰めている。
確か、今日はアマンダとグロリアの担当だった筈だか……
「お、お、お、お……」
アマンダが何か言おうとするが、言葉にならない。
一体何があったのだ。
緊急を要する用件だと、多分グロリアもくる筈だ。
ひょんな事から俺のメイドに永久就職したアマンダ達と付き合い始めてからかれこれ九年。
それ位は判る程度に付き合いは長いつもりだ。
「お弁当?」
「違います! そんな事じゃないです。 お、お、お、お……」
あれ、ちゃんとボケに突っ込めてるのにどうして肝心の言葉だけ詰まってるんだアマンダは?
今でも十分幼く見えるアマンダだが、これでも有数の魔導師なんだかなあ。
「お、お、お客様です!!!」
ようやく振り切ったように、アマンダが叫ぶ。
「へー、ボーデの爺さんでも来たのか?」
「あーそうです、いや、違います!」
ボーデ爺さんと俺は呼んでいるが、ディートヘルム・ボーデ、彼はゲルマニアでも随一の豪商の当主である。
どう言う訳か、出会いの時に気に入られ、それ以来ちょくちょくこの屋敷に遊びに来るのだ。
ふむ、ボーデの爺さんが誰かを連れて来たのか。
それで、その連れて来た人を見てアマンダがパニくっていると言う所かな?
となると、かなりの要人か。
あれっ、でもアマンダがここまでパニくるような要人って……
俺は背中に悪寒が走るのを感じた。
こう言う予想と言うのは大概あたるものだ。
何せ、筆頭メイド達の一人であるゼルマは、昨年十二選帝侯を継いでいる。
何で選帝侯の一人が筆頭メイドをしているのか等とは聞かないで欲しい。
ゼルマが絶対止めようとしないのだから、仕方ない。
ちなみにゼルマが選帝侯になったのは、彼女の復讐を手伝った折りに、養父を務めたローゼンハイム伯爵のせいである。
元々復讐相手である、ブッフバルト公爵を倒し養父共々復讐を果たしたのは良いのだが、その折ローゼンハイム伯爵は、ローゼンベルガー侯爵家を継ぐ事となった。
そして改めて皇帝からローゼンベルガー家に、アルトシュタット候を与えられ、ローゼンベルガー家は侯爵から公爵に繰り上がったのだ。
養父のホルスト卿は、そのまま結婚でもして公爵家を継ぐものだと思われていたが、昨年突然隠居を宣言し家督をゼルマに譲ってしまった。
まあゼルマも結構抵抗したが、結局は引き受けざるを得ず、そんな経緯で家の筆頭メイド兼ローゼンベルガー女公爵等という信じられない役割を担っている。
話を戻そう。
そんなメイド仲間に公爵がいるアマンダがパニックになる人物の来訪って……
そう、公爵より偉い人しか考えられない。
ちなみに、ゲルマニアには選帝侯と呼ばれる公爵が十二人おり、それより偉い人はたった一人しかいない。
「アマンダ…… 来客って…… ひょっとしてフリードリヒ男爵とか名乗ってなかった?」
目の前で、既に涙目になっているアマンダがコクコク頷く。
あっ、フリードリヒ男爵ってかの方が若い頃からお使いになっている偽名です。
よし! 逃げよう!
俺はしまってあった杖を取り出し、転移の術式を展開しようとした。
「だめえぇぇぇ!」
残念ながら、逃走劇は俺に飛び掛ったアマンダによって、儚くも阻止されてしまったのだった。
「ご、ご主人様あ~ お願いしますー」
杖を抱え込むようにしながら涙目で睨み付けてくるアマンダに逆らえようもない。
「判った、判った、それで来客はフリードリヒ男爵、ああ、皇帝で間違いないんだな」
俺の問い掛けに、アマンダはコクコクと頷く。
そう言えばいつの間にか屋敷の上空に竜騎士が舞っている。
お忍びでも最低限の護衛がついて来ない筈は無いわな。
あっ、でも馬車は一台しか玄関前に止まっていない。
普通は、最低三台は馬車を用意し、皇帝に対する襲撃を警戒するものだ。
この辺りは、あちらの世界の某国大統領の警備と同じようなものである。
杖はアマンダがしっかり握って離さないので、精霊にお願いし屋敷周辺へと知覚を広げてみる。
あらまあ……
俺は屋敷に向かう側道の出口、ちょうどヴィンドボナから走るメクレンブルグ街道との交差点辺りに屯する部隊を見つけた。
護衛の兵士が数十名、屋敷に止まっている馬車と同じような馬車が二台屯していた。
ふむ、あそこから一台だけこちらに向かったのか……
帝政ゲルマニアの最高権力者であるアルブレヒト3世が、わざわざ一男爵の屋敷を訪れるのにここまで気を使う筈が無い。
通常なら、護衛のものも麗々しく屋敷まで横付けの筈だ。
これはだめかもしれない……
かなり俺の事が皇帝にバレテイル……
「アマンダ、とりあえず、大ホールをそれらしく整えて皇帝をお通ししろ、俺も用意が出来れば直ぐ行く」
何時までも、皇帝を待たせる訳にも行かない。
「は、ハイ、あっ、で、でも、杖は預からせて下さい!」
アマンダがまだ俺の杖から手を離さないで、涙目のまましっかり睨み付けて来る。
「ああ、判った判った、杖は持っていて良いから」
俺が苦笑交じりに応えると、アマンダはまだ疑いながらも、杖を抱えて部屋を飛び出していった。
確かに、俺が杖を持たずに逃走するなどと言う事は考えられない。
何せ、これはアルから受け継いだ彼の外部記憶媒体なのだ。
杖が無くともある程度の魔法は使えるが、なんと言っても転移等の座標計算にはあれが無ければ不便極まりない。
それに、もはやあの杖はおれ自身の外部記憶としても使われており、あれを置いて逃げる等出来る筈も無かった。
元ガリア王国魔道騎士長を勤め上げた希代の大魔道師アルバート・デュランの寄り代としてこの世界に召還され十年近い歳月が流れている。
その間に俺は帝政ゲルマニアにて男爵位を購入し、北方辺境領のバルクフォン家を継ぎ、アルバート・コウ・バルクフォンとして生きてきた。
ここヴィンドボナ郊外に屋敷を構え、麗しのメイドを雇い、楽しく暮らしている。
まあ今や筆頭メイドと名づけた、最初に屋敷に雇い入れた五人に加え三十人近い美女、美少女に囲まれムフフな生活を堪能しているのだ。
俺は今の暮らしに満足していた。
毎日自分の興味を持った事を楽しみ、夜は夜でウフンな生活、まあこれが厭になるにはまだ当分時間が必要だろう。
その間に俺の領地が、北方辺境領でも有数の豊かな領地になった。
おかげで単なる巡回商人だったエルンストが、今やボーデ商会とも取引を行う有数の商人である。
アウフガング傭兵団は、今ではアウフガング組と呼ばれ、ハルケギニア一の建設集団として勇名を馳せている。
その傭兵団の団長であるファイトのおっさんが、今では書類仕事に埋もれているのは良い思いでだ。
最初のメイドの一人だった、元伯爵令嬢のゼルマが今ではアルトシュタット候 ゼルマ・ローゼンベルガー女公爵である。
同じく五人の一人であるヴィオラは、ゲルマニアに隣接する世界に移住した獣人のゲルマニア代表に納まっている。
ゼルマの復讐劇の一幕で、鉱山周辺に住んでいた獣人達との交渉を行った結果なのだ。
ちなみに、ヴィオラは1/8程獣人の血が混じっているが、そのせいなのか風竜やグリフォン等に対して受けが良い。
彼女はゼルマのお屋敷にいる、所謂魔獣の世話も筆頭メイドの仕事の合間に行っている程だ。
ちなみに、あちらでは竜使いのヴィオラと言う二つ名で呼ばれているらしい。
アンジェリカは、結局ボーデ爺さんの養女になった。
最もあちらの世界に興味を示し、様々な書籍を読破した彼女の知識は相当なものだった。
特にゼルマの復讐劇の時に、ランマース商会をボーデ爺さんが叩き潰す為に手伝った事が鍵となった。
元々ボーデ商会の今後を任せられる跡継ぎがいないのを嘆いていた爺さんにすれば、渡りに船だったらしい。
ボーデ爺さん、屋敷に来る度にアンジェリカを口説き回り、三年掛けて承諾させたのだ。
実質的な跡取りとして既にボーデ商会を切り回しているらしいが、それでも彼女も今でも筆頭メイドの地位は捨てていない。
アマンダは、外見上は殆ど変わりがない。
まあ、これは他の筆頭メイド達にも言えることなのだが、彼女らは全員が水の精霊の加護があるのだ。
結果としてエルフと同じように、肉体の老化が遅い。
厳密には計測しているわけではないが、多分通常の人の五倍程度は引き伸ばされていると思われる。
面白いのは、当時ちびっ子と言っていたリリーとクリスティーナの二人との対比である。
この二人はアマンダを姉としてこの屋敷で大きくなっている。
だから、今でもアマンダを姉さんと呼んでいるが、三人並ぶと悲しいかなアマンダが一番幼く見えてしまう。
まあ、ちびっ子二人も今では水の精霊の加護を得ているのだが、その時期の違いのせいなのだが。
ちなみにこの三人、神龍の八王子さん(今でも元気)から直接火の精霊の加護を与えられている。
おかげで三人とも、俺以外では唯一人間で精霊魔法が操れる魔道師となっている。
三人にはガリアにあるアルの城、ピレーネの館を開放してある。
神龍の八王子さんや、あいも変わらず専属コックとして腕を振るっているエルフのアリサから教えを受け魔道師としての実力もずば抜けている。
アマンダは筆頭メイドである事は変わらないが、リリーとクリスは何でも筆頭メイド補佐と言う役職だそうだ。
俺はそんな役職を設けた覚えもないのだが、二人が言う以上きっとそうなのだろう。
屋敷では二人は、筆頭メイド五人が纏う赤み掛かった濃紺のメイド服に対抗して、更に赤いメイド服を身に付けている。
ちなみに俺がついに二人に手を出してしまい、その翌日赤み掛かったメイド服を身に着けて朝食の席に現れた二人……
うん、今でも思い出すと体が震える。
筆頭メイド五人の怒りはそれはそれは凄まじいものでございました……
そしてグロリア。
彼女は何も変わっていない。
他の筆頭メイド達は、何とかやりくりしながらこの屋敷に詰める時間を作り出そうとしてくれている。
転移ゲートを設けているので、朝食は今でもほぼ全員でとる事が出来るのは幸いだ。
そんな中、彼女だけはこの屋敷を中心に動いている。
いや、彼女にすればその方が良いのではと思っている俺がいる。
何せ、彼女の髪は今でも鮮やかな『ガリアの蒼』なのだから……
自分の部屋から一階の大ホールまでは、精々一分も掛からない。
その道のりを、俺はこれまでの事を考えながら、なるべくゆっくりと歩いてきた。
この扉の先には、帝政ゲルマニア皇帝アルブレヒト3世が待ち受けている。
皇帝がお忍びで、しかも護衛も殆ど廃してこの屋敷を訪れた。
この事がどう言う意味を持つのか判らない筈がない。
俺の素性は殆どバレていると考えて間違いないだろう。
ボーデの爺さんが話したか、いや、皇帝自身がたどり着いたのだろう。
自惚れする訳ではないが、俺とそれを取り巻く彼女達筆頭メイドの価値は非常に高い。
そして、皇帝が直接俺を呼び出したり捕縛しようとすれば、彼女達は全力で抵抗するだろう。
ゼルマの一言で内乱すら起こせる。
アンジェリカの動きで経済は崩壊する。
ヴィオラが声を掛ければ、隣の世界から魔獣が来訪する。
アマンダ達三人姉妹が本気を出せば、大概の軍勢は敗退する。
まあ、長期戦となれば別だが、短期戦ならば間違いなく国家が敗退する。
そして何よりも、皇帝が行動に出れば俺自身がこの世界から逃げ出すだろう。
世界はここだけではない。
他にも様々な世界がある事は良く知っている。
だが、ここは彼女達の世界なのだ。
俺を守ろうとして、彼女達がこの世界に牙を向く事だけはさせたくない。
それ故俺はここから逃げ出すだろう。
それを知っているボーデ爺さんや、十二選帝侯の一人ホルシュタイン公爵の意見を聞いたのだろう。
結果として、皇帝はフリードリヒ男爵として俺の屋敷を訪れたのだ。
しかも、逃げ出さないように態々護衛を廃してまで。
まあ、アマンダが止めなければそれでも俺はしばらく雲隠れしていただろう。
何が始まるのかは知らない。
だけど、皇帝との出会いが楽しい明日の邪魔にならない事を祈りながら、俺はホールの扉に手を掛けるのだった。