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No.15932の一覧
[0] 時をかけるドクター[梅干しコーヒー](2010/06/21 22:13)
[1] 第1話 アンリミテッド・デザイア[梅干しコーヒー](2010/07/03 18:29)
[2] 第2話 素晴らしき新世界[梅干しコーヒー](2010/01/31 01:37)
[3] 第3話 少女に契約を、夜に翼を[梅干しコーヒー](2010/02/01 22:52)
[4] 第4話 不屈の魔導師と狂気の科学者[梅干しコーヒー](2010/03/06 13:01)
[5] 第5話 生じるズレ――合成魔獣キマイラ[梅干しコーヒー](2010/03/06 13:02)
[6] 第6話 生じる歪み――亀裂、逡巡――純[梅干しコーヒー](2010/03/06 13:02)
[7] 第7話 生じる答え――矛盾邂逅[梅干しコーヒー](2010/03/03 17:59)
[8] 第8話 歪曲した未来――無知と誤解[梅干しコーヒー](2010/03/06 13:10)
[9] 第9話 歪曲した明日――迷い蜘蛛、暮れる夜天[梅干しコーヒー](2010/03/18 00:02)
[10] 第10話 歪曲した人為――善悪の天秤[梅干しコーヒー](2010/03/20 23:03)
[12] 第10・5話 幕間 開戦前夜――狂々くるくる空回り[梅干しコーヒー](2010/03/25 20:26)
[13] 第11話 始まる終結――擦違いの戦場へ[梅干しコーヒー](2010/03/29 05:50)
[14] 第12話 始まる集結――蠢く夜の巣へ[梅干しコーヒー](2010/04/02 22:42)
[15] 第13話 始まる終決――時の庭園へ[梅干しコーヒー](2010/04/08 21:47)
[16] 第14話 絡み合う糸――交錯の中心座[梅干しコーヒー](2010/06/16 22:28)
[17] 第15話 空見合うカンタービレ――過去と未来のプレリュード[梅干しコーヒー](2010/06/21 23:13)
[18] 第16話 空見合い雨音――歩くような早さで。始まりの終わりへ[梅干しコーヒー](2010/07/03 18:34)
[19] 第17話 変わる未来[梅干しコーヒー](2011/05/02 00:20)
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[15932] 第4話 不屈の魔導師と狂気の科学者
Name: 梅干しコーヒー◆8b2f2121 ID:40571b93 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/06 13:01









――チリンチリンッ、と。鈴の音を転がすような音色が、街を往く人々の耳に届く。
各々の役割――仕事や学業といった束縛から解放され、馥郁たる清々しい香りを漂わせる往来に、それはやけに馴染んでいた。

森林の木々のように、疎らに歩いていく大衆――その中を縫うように走る一つの影。
鈴の音だけではなく、僅かな機械音――電動機の駆動音を伴いながら、軽快に前へ、前へと進んでいく。

改良の余地は無限にある。
自分が跨っている二輪車を一瞥しながら、ジェイルは脳内で無数の設計図を描き始める。


(――……ジェットエッジ……、もしくはタイプゼロⅡの使用していたようなローラーが欲しい所だが……――)


――部品が手に入らないか。
どの時代でも技術に世界が追いついてこないというのは悲しいものだ、と。
胸中で被りを振りながら、肩を落とす。

現在所持している素材を余す事なく活用し修理――、改良、――改造を加えたが、未だ納得のいく出来には程遠い。
かつての故郷ならば、最高水準――いや、全次元世界最強の二輪車が創造出来るのだが。
そう不満感に浸る程、郷愁の念は禁じ得ない。

海鳴市中丘町――八神はやてと邂逅を果たした場所を一旦離れ、周辺の初等部に属する学び舎を捜索開始したジェイル。
小学校に限定したのは、高町なのはを探す為。
夜天の主とエース・オブ・エースは同年代――故に、小学生である可能性は極めて高いからだ。

中丘町における探索は丸一日程要して終了を迎えた。
次は別の地域――しかし、海鳴市は広い。
移動だけでも非常に多大な労力と時間を喰われてしまう。
新たな移動手段を模索する必要があった。

ルーテシア・アルピーノでも随伴していれば、転送魔法で一気に時間も範囲も狭められた。
と考えたが、勿論そう都合良く事は運ばない。

ジェイルが行使出来るのは拘束魔法――所謂[ バインド ]と呼ばれる魔力で編んだ糸、縄、鎖等を現出させる魔法と身体能力強化のみ。
高町なのはを捕縛する際ならば重宝するが、未だ対象を発見出来ていない。
故に、今の段階では何の役にも立たない。

今用意出来る最も有効な移動手段は何か――そう考えながら中丘町をぶらついていた所、廃棄されていた二輪自転車を発見。
ホームセンターから頂いた工具、様々な素材を利用し、見た目新品と違わぬ婦人向け自転車――所謂ママチャリを完成させた。

電動ドライバーの駆動部分を取りつけ、電力は小型太陽光発電機関の付随したキーホルダーの部品数個で賄い、半自動二輪へ。
六段変速ギアは他のママチャリの追随を許さない加速性能と馬力を齎す――最早競技用とも呼べる性能へと昇華。
ソーラー発電の為、性能面を天気に左右されるのが難点だが、それを余りあるポテンシャルで補っている。

その内、イノーメスカノン――狙撃大砲でも装備させようか。
そう付け加えながら、当面の足が用意出来た事にとりあえずの及第点を与えていた。

人混みのアーケードを自転車で走りながら、思索に耽るジェイル。
考え事の半分は二輪車の改善点――もう半分は高町なのはの居場所についてだ。


(――……ふむ)


遥か上空を仰げば、純白の浮雲や蒼さを誇った空は、既に橙色に塗り潰され始めている。
手掛かりは初等部学校に通っているであろうという推測のみ。

しかし、この時間帯からはそれすら生かせない。
放課後になれば、各々の自宅への帰路につくからだ。件の少女も例に洩れないだろう。

出口、校門で待ち伏せすると言う手もあるが――、


(間に合わない、か……仕方がない、今日の所は諦めるとしようか)


――脳内にコピーした地図を見る限り、次の目標地点――【聖祥学園】への所要移動時間は30分弱。
既に下校するであろう時刻は回っている為、待ち伏せしようとも、待ち人が既に去っている確率は否めない。

それに加えて、そろそろ空腹感が支配力を増してきている。
頭脳を行使すれば、体を動かす際と同じようにカロリーを消費する――決定的にエネルギーが枯渇し始めてきていた。

今日の所はこれ以上捜索を続けても得る所はないだろう。
そう確定し、当面の宿と食事を用意出来る場所への探索へと思考スイッチを切り替える。

最初に視界を過ぎったのは、日用雑貨や多数の商品を取り扱う、年中無休の小売店――所謂コンビニエンスストア。
あそこならば食料も扱っている――そう思い至りブレーキを掛けたが、一瞬考え込むと再び二輪車を走らせ始める。


(――駄目だね。夜間も営業しているが故に、宿にはならない。何より、金が必要だ)


優れた思考を巡らすには、潤沢な睡眠が必要だ。
コンビニでは一日中店員が居る為、快適な眠りは得られない。
それに宿以前に食事が取れない。今の自分は無一文だからだ。

日が傾き始めた為、除々に動力である電力を欠乏させ始めた二輪車。
前へ進むには、力がさらに必要になっていく。
それに反比例するようにジェイルの疲労感は増していく。

次々と視界を過る建造物。
どれに対しても思惟を巡らせるが、ある一点が必ず立ち塞がっていた。


(世知辛いね……時空の波は越えられても、社会の波はそう簡単にはいかないらしい)


先立つ物――つまり金がなかった。
宿泊するにせよ、食事を取るにせよ代価として貨幣が要求される。

八神はやてと別れてからは、リサイクルショップ等に必要ないと断定した工具等を売り払って当面の金を用意した――が、最早それも底を着いている。
ブツがあるにはあるが、手元に残ったのは手放したくない物ばかり。

手放したくない――絶対に手放さない。
ジェイルにとってそれは同義の為、真っ当と言える手段は皆無になっていた。


(――……あるには、或る。だが――)


――善処しよう。
唯一の手段――神社から賽銭を頂戴する方法が或るにはあるが、八神はやてに放った言葉がそれを押し留める。
口約束とはいえ、出来る事ならば無碍にはしたくない。

取り合えずこの場を離れてみよう。何か新しい方法も模索出来るかもしれない。
ジェイルはそう結論付けると脳裏でマップを広げ、ペダルに力を加え加速していった。










【第4話 不屈の魔導師と狂気の科学者】










背中に流れる冷たい汗を全く気にする事なく、濃紫の髪を激しくばたつかせながら、ジェイルは疾走していた。
サドルに預けていた体重は、今や全てペダルへと注ぎこまれ、加速力へと変換されている。
彼は今、海鳴市藤見町の商店街を一旦離れ、この世界に初めて降り立った時と同じ――場所は違うが、神社へと向かっていた。

浮かべてた表情は憂いから愉悦へ、体を覆っていた疲労感は躍動感へと変貌を遂げている。
普段の彼ならば――これ程激しく運動する事など無意味。
故に、そんな所に労力を費やすくらいなら新たな研究への模索の為に使う、と。
当然のように口にするだろう。

まるでブレーキを掛ける事など毛頭考えていないかのように、無我夢中で藤見町内を疾走する。
何が彼をそこまでさせているのか――それは、商店街を出た直後に感じた魔力反応が原因だった。


「――くはっ!! ――ははっ!!」


第97管理外世界には、魔法文明は存在しない――当然、魔導師が実在しない事に繋がる。
だが――居る。

二人――もしくは三人。
一人目――八神はやては確認した為、除外。彼女は今も中丘町に居るはずだ。
残るは、二人。最も可能性が高いのは――高町なのは。


「――……ふぅっ……!!」


荒くなった息を整える事もせず、道路脇へと二輪車を放り投げ、ジェイルは斜め上へと視線を固定する。
見上げた先には赤く染まった鳥居。
その途上には長い石段が待ち受けている。

――居る、間違いない。
そう確信を孕んだ一歩を踏み出し、未だ見えない目標に向かって走り始める。

商店街を出たばかりの段階で感じた魔力は二つ――そのいずれもがかなりの内包魔力量なのは感じ取れた。
今は三つに増殖している――だが、そんな事等もはや些細な問題。

激しい運動で齎された動悸が、万感の想いへとなって痛いほど胸を締め付ける。
ジェイルは元来科学者だ。
勿論と言っていいほど、肉体的労働は余り好まない。
しかし、今はそれすらも甘美、と。
そう言わんばかりに破顔していた。

揺れ動く視界に反して、目標は完全に定まっている。
一気に階段を駆け上がり、幾つ目かの踊り場に到着した際、目視したのは――魔力光。

しかも帯びている色彩は――、


(ああっ!! そうか、そうかっ――間違いない……っ!!)


――桜色。

胸中でそう叫びながら、喝采するのと同時に視線の先に捉えたのは、一頭の巨大な狼のような生物――、


(君なのだね!?――)


――その手前には、純白のバリアジャケットに身を包んだ少女が一人。

魔力光は個人個人で様々な色合いを見せる。
自分が知り得る魔導師の中で、桜色の光を放つのは唯一人しかいない。
面影も或る。もはや疑いようはなかった。


(――高町なのは君っ!!)























幣殿へと延びる石のカーペット――その延長線上には三編みにされた極太の縄が吊り下げられている。
現在、縄の端に括りつけられた鈴は鳴っていない――にも関わらず、神社は騒々しい物音――、


「――きゃぅっ!?」

「――なのはっ!!」


――少女の悲鳴と、黒く塗りつぶされた巨大な猛獣が齎す轟音に支配されていた。
白いドレスのような戦闘服に身を包んだ少女を中心に、衝突の余波で舞い上がった土煙が、周囲を覆い尽くしていく。

それを視界に収めると同時に、ユーノ・スクライアは駆け出していた。
何度も少女の名を呼ぶが、返ってくる声はない。
代わりに耳に入ってくるのは、巨大生物の雄たけびとも、裂帛とも取れる叫び声。


『なのはっ!! 大丈夫!?』

『う、うん、何とか……レイジングハートが守ってくれたみたいだから』


肉声は雑音に掻き消され、届いていないのかもしれない。
そう思い至り、魔力を利用した念話へとコンタクト手段を切り替え、アクセス――返ってきた少女の声に胸を撫で下ろす。

しかし、それも一時の事。
声色からは困惑や戸惑いといった怯えが見え隠れしていた。

自分に力があれば。せめて失った力が少しでも戻れば、と。
ユーノは焦燥を募らせる。

砂塵が風に流され、少女――高町なのはの姿を肉眼で確認しても、その苛立ちは消えてくれなかった。
寧ろ、より濃くなっていくばかりだ。


「はぁっ……!! はぁっ……!!」

「――ガァッ!!」

「――きゃぅっ!?」


肩を竦ませながら目を閉じ、なのはは利き腕である左手を突き出す。
その先に展開されたのは桜色の防御障壁――それが現出したと同時にシールドへ巨大な黒い影が衝突した。
荒くなった息に苦しみ喘ぎながら、続けざまに襲ってきた衝撃に、なのはは膝を折りながら耐え続ける。


『マスター、ご安心を。この程度では突破されませんので』

「う、うん。ありがとうレイジングハート」


赤色のコアから齎された励ましの声を聞き、俄かに顔を上げる。
視界に映ったのは、後もう一歩手を伸ばせば届く程の距離で唸りをあげる特大の猛犬。
おぞましく変貌したその姿に一瞬顔を背け、怯えながらも、瞳の色は未だ萎えはしなかった。

しかし、こうして防御こそ適ったものの、どうすればいいのかは未だ毛頭見出せない。

左手を突き出したまま、その答えを知っているであろう人物――、


「ユーノ君!! こ、これどうすればいいのっ!?」

「ちょ、ちょっと待って!! 今考えるから!!」


――今は小動物の姿へとなっているユーノへと、疑問という声を投げかける

遠巻きになのはと猛犬の鬩ぎ合いを見やりながら、ユーノは状況、打開策を模索し始める。
力が戻ってさえいれば――そう考えたが、今は無い物ねだりをしている暇は無い。すぐに思考を切り替えた。

自分の見立てでは、なのはとレイジングハートならば覚醒体の封印は可能だろう。
しかし、原住生物を取り込んだ為、前回の敵よりも格段に強化されている――故に、封印段階までどう持っていくかが鍵になる。
ただ[ シーリングモード ]を起動しても、封印は不可能――まずは対象を無力化――気絶させる必要がある。


(何とかしなくちゃ――早く……っ!!)


なのはのポテンシャルならば、恐らく容易に無力化が出来る。
しかし、魔法と出会って未だ一日しか経っていない――行使出来るのは封印魔法と防御魔法のみ――攻撃魔法等修得していない。
レイジングハートには[ ディバインバスター ]等がインストールされているが、それを使えるかどうかは別問題。
ぶっつけ本番で使うには少々危険が伴いすぎる――しかし、それ以外に手がないのも事実。


(でも――)


――それすら使えない。
いや、発動させてもらえない、と。ユーノは胸中で悪態をつく。

ディバインバスターは砲撃魔法――中・遠距離用魔法だ。
他に組み込まれている魔法も似たようなミドル・アウトレンジ魔法ばかり。
しかも、ある程度のチャージ時間も必要になる。
接近戦で応用の効くような物もあるが、つい最近まで普通の小学生だった少女に肉弾戦をしろというのは酷すぎる。

なのはと敵の距離はショートレンジ――もはや零距離だ。
間違いなく暴発する距離、それに加えてチャージ時間など与えてはくれないだろう。


「あっ――……うぅっ!!」

「なのは……!! くそっ!!」


なのはの苦悶の呻きを聞けば聞く程、ユーノの焦燥は増していくばかり。
それに反比例するかのように、巡らせていた逡巡が行き止まりに衝突していく。

同時に、有り得ない、と。幾ら原住生物を取り込み実体化しているとしても、この強さは余りにも予定外だった。
昨日の覚醒体とは比べ物にならない。同じく、これにも答えは得られなかった。

障壁はまだ十分強度が残っている――だが、それと襲ってくる圧力は別問題。
半ば圧し掛かるような形で突進を続ける猛犬。なのはの魔力よりも体力が先に枯渇してしまいそうだった。

もどかしさに押し潰されそうになるユーノ。
責め苦に耐え続けるなのは。


――しかし、その場で激しい感情を憤らせているのは――、


「――え?――きゃ、きゃぅっ!!」

「えっ――えぇっ!?」


――もう一人存在した。


いつの間にか自身の腰部分に巻きついていた赤い縄――それを視認した次の瞬間には、奇妙な浮遊感が襲い掛かってきた。
なのはは突然襲ってきた浮遊感に驚愕しながら、為すがまま引っ張られていく事しか出来ない。

赤い縄の端――恐らく術者が居るであろう場所を振り返るユーノ。
そこにいたのは、濃紫の髪に金の瞳をした少年――ジェイルだった。

右の掌から伸ばしていた赤い魔力縄を、同じく手に展開した官印のような魔法陣へと収納していくジェイル。
まるで魚を釣り上げた釣り人のように縄を繰り、一旦上方へとなのはを持ち上げると、地表に到達する間際に速度を緩ませ、着地させた。


「え、えっと……?」

「僕ら以外の……魔導師?」


展開していた魔法陣――と、言うよりも印のような赤い絵画を消し去った少年――ジェイルで視線を固定させる二人。
なのはとユーノがそれぞれ浮かべ、口にした疑問に答える事はない。ただ静かに俯き、小刻みに肩を震わせているだけだ。

――助かった、と。
振って湧いた希望に、ユーノは俄かに安堵する。

今使用したのは恐らく拘束魔法――バインド。
誰かは分からないが、なのはを助けた所から察するに敵ではない。
不躾な願いだが、状況が状況だ――この人が手伝ってくれるなら何とかなるかもしれない。

そう考え――、


「あ、あの……助けてくれて――」


声を掛けようとしたユーノだったが、先に口を開いたなのはによってそれは遮られる。


「――ありがとうござい――」

「――……何故だ」


――ます、と。
そう続けようとしたなのはだったが、ジェイルの小声にしてはやけに語気の荒い口調がそれを遮断してしまう。

小刻みに震える体は頭髪の毛先まで伝道し、痙攣でも起こしたかのように病的。
拳は強く、固く――まるではち切れる寸前の風船のように握りしめられている。

只ならぬジェイルの様子に、どう声を掛けていいのか分からなくなり、なのはは瞳を右往左往させる。

何か悪い物でも食べたのか。それとも自分が何かしてしまったのか、と。
思惟を巡らせるが、心当たりは全くない。

自分の記憶が正しければ、この男の子とは初めて会ったはずだ。
そう思い、そろり、と。右へ左へと忙しなく動かしていた瞳を、もう一度確認する為恐る恐るジェイルへと再び向けた。

なのはが視点を向けたのと同時――ピタリ、と。
ジェイルは突然震えをフリーズさせ、まるで夢遊病患者のように右手を虚空へと伸ばし、人差し指を突き出した。


「――どういう事だっ!!」

「にゃっ!?」


剣を振り下ろす動作を彷彿とさせる動きで、ジェイルは掲げていた腕をなのはへと――いや、その後ろの猛犬へと向けた。
ある程度の知能はあるのか、黒い影はその場で制止し、新たに現れた闖入者を注意深く睨みつけていた。
恫喝とも取れる荒々しいジェイルの声色に、ビクッ、と。なのはは肩を萎縮させる。


「あんな雑魚にっ!! あんな矮小な存在にっ!! ――君が苦戦を強いられていいはずがないだろう!?
君ならば赤子の手を捻るようなものだろう!? それが――何だねコレはぁっ!!」

「え、えっと……何だか分からないけど、兎に角落ち着いて――」

「これが……!! これが落ち着いてられるかぁっ!!
認めない……認めない……!! 私はこんなものが……こんなものがあの――!!」


――エース・オブ・エース――高町なのはだとは認めない。
異様に熱を孕んだ瞳をなのはに向け、息を荒々しくしながら胸中で付け足す。

出会えたとはいえ不意の出来事。出来る事ならば、此方の望む形で邂逅を果たしたい。
故に、この戦闘に介入する気はなかった。好奇心と欲望の赴くまま、思う存分観察させてもらおう。

そう思っていた――が、


(何の冗談だコレは……!!)


何時までも攻勢に転じない少女――最初は状況を見極めているのかと思えば、そうではなかった。
悲鳴に似た呻きを洩らしながら、使い魔らしき小動物に助けを請うその姿――明らかに苦戦していた。

美しくない――自分が求めた強さはそこには無かった。
寧ろ、醜いとさえ思えてしまった。

だからこそ、目の前の状況を認められない。
彼女達の強さを知る為にはるばる時空を越えたというのに、その一人――高町なのはがこうまで弱者なのである事はどうしても許せなかったからだ。

しかし、ここでもしも潰れてしまえば、自分の目的は果たせない。
故に介入したが、自分の知っている高町なのはとの差異による憤りの波は止まる事なく、濁流の渦となって行き場を失くしてしまっていた。

金の瞳を充血させながら、見る――いや、睨むような視線をなのはに送り続けるジェイル。


(あ、あぅ……。ユーノ君……この人何言ってるのかな?
何か私に怒ってるみたいなんだけど……)

(……僕にも分からないよ。
この世界に他の魔導師が居た事……それ事態がびっくりだし……)


いきなり現れ、いきなり憤慨しだした少年。
助けてくれたのはありがたかったが、正直、二人は反応に困ってしまっていた。

だが、バインドと思われる魔法を使っていたのだから、魔導師なのは間違いない。
本音を言えば、これ以上誰かを巻き込むのは心が痛む――が、状況が状況だ。
このままでは大変な災害を巻き起こす可能性が大きい。
そう考え、未だ動きを見せない猛犬を一瞥すると、ユーノは重々しく口を開いた。


「あの……勝手なお願いなのは分かってるんですけど――」

「断る。私は今、虫の居所が悪いんだよ。君を助ける程寛大ではない。勝手に野垂れ死にたまえ小動物」

「あ、あぅ……」


何の逡巡も見せず、全く付け入る隙を与えないジェイルの物言いに、ユーノは肩を落として押し黙る。

そのやり取りを、黙って眺めていたなのはだったが、胸に手を当て一旦頭を落とすと、一歩踏み出して――、


「――……あ、あの!!」

「……何だね?」


――意を決したようにジェイルに向かって口を開いた。
何で僕の時と対応が違うんだ、と。ユーノは不満を洩らすが、口に出す事はしなかった。


「あの子を何とかしないと、町が大変な事になっちゃうの。
それで、私が何とかしようと思ってたんだけど……どうにもならなくて……」

「簡潔に言いたまえ。私は今機嫌が悪い、と言っただろう?」

「あ、うん。えっと……手伝ってくれない、かな?
本当なら私がやらなくちゃいけないんだけど、このままじゃ……」


僕の時は一蹴したくせに、と。再び不満を洩らすユーノ。
そんな様子を全く気にする事なく、ジェイルは素早く逡巡し始める。
ここで助力するメリットとデメリットについて、だ。

いきなりこんな事になるとは思っていなかったが、手助けしない事に利は全くない。
小動物の事など知った事ではないが、高町なのはをここで見捨てれば、悪印象なのは間違いないだろう。
何より、ここで潰れてしまえば、自分が望むものを見られなくなってしまう。


(ふむ……加えて――)


――ここで恩を売っておけば、今後における布石となる、と。なのはを見やりながら、胸中でそう付け足す。
頼りになる存在――そう思わせておけば後々、やりやすい。

やり方次第では依存に似た感情を抱かせる事も可能かもしれない――つまり、成長した彼女を手駒に加えられるかもしれない。
そうなれば、捕縛し、後に実験を施すのも楽に進められる。


「――代価は頂くよ」

「えっと……?」

「助力する、そう言っているのだよ。さっさと君も準備したまえ」

「あ、ありがとう!!」


新たな乱入者を完全に敵性存在だと認識したのか、雄たけびをあげながら突進し始める猛獣。

白の魔道師は表情を引き締めながら――狂気の科学者は口元を歪めながら、それと相対し始めた。












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