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No.15918の一覧
[0] フレイムウィンド&ケイオス  (TRPG風 異世界ファンタジー転生物)[ランダム作成者](2010/04/18 12:17)
[1] 1  チュートリアルなど無い[ランダム作成者](2010/04/11 14:23)
[2] 2  『スカベンジャーズ・マンション』 編[ランダム作成者](2010/04/04 11:49)
[3] [ランダム作成者](2010/03/05 19:59)
[4] [ランダム作成者](2010/04/04 10:57)
[5] [ランダム作成者](2011/02/18 06:32)
[6] [ランダム作成者](2010/04/04 10:59)
[7] [ランダム作成者](2010/03/05 20:47)
[8] [ランダム作成者](2010/03/27 12:51)
[9] [ランダム作成者](2011/02/18 06:30)
[10] 10[ランダム作成者](2010/04/11 14:29)
[11] 11  レベルアップ[ランダム作成者](2011/02/13 01:43)
[12] 12[ランダム作成者](2010/04/11 14:35)
[13] 13[ランダム作成者](2010/04/12 10:50)
[14] 14  『エトラーゼの旅立ち』 編[ランダム作成者](2010/04/26 15:42)
[15] 15[ランダム作成者](2011/02/18 06:34)
[16] 16[ランダム作成者](2010/05/09 13:10)
[17] 17  意思ぶつけ作戦[ランダム作成者](2010/05/25 02:19)
[18] 18[ランダム作成者](2011/02/13 02:36)
[19] 19  精神世界の戦い[ランダム作成者](2011/02/13 05:10)
[20] 20  いざ、人生の再スタート      (LV 3にアップ)[ランダム作成者](2011/02/18 22:55)
[21] 20.5  かくして混沌の申し子は放たれた     (主人公以外のステ表記)[ランダム作成者](2011/02/27 14:19)
[22] 21  『帝国からの逃避行』 編     [ランダム作成者](2011/12/07 21:52)
[23] 22[ランダム作成者](2012/03/18 15:13)
[24] 23  リンデン王国を目指して[ランダム作成者](2012/03/19 02:30)
[25] 24  グレーターデーモン     (ティーナのステータス表記)[ランダム作成者](2012/04/05 05:41)
[26] 暫定 キャラクターデータ まとめ[ランダム作成者](2011/02/13 02:00)
[27] 暫定 アイテムデータ まとめ[ランダム作成者](2010/05/20 16:57)
[28] LVや能力値などについての暫定的で適当な概要説明 & サンプルキャラクターズ[ランダム作成者](2011/02/27 14:10)
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[15918]
Name: ランダム作成者◆f9a7ea31 ID:470fdece 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/27 12:51

 なるほど、確かに蜘蛛女だ。
 現れたご同輩の異形異相を見上げ、俺は小さく感嘆の息を洩らした。

「あら、可愛い子ね。とってもエキゾチックで将来が楽しみだわ」

 インド系黒褐色の滑らかな肌に包まれた豊満な体つき、艶めかしい肩のラインから伸びる四本の腕、蜘蛛の足先を想わせる厚く鋭い爪、白目のないエメラルドグリーン一色の瞳。
 暗い夜道に独りで対面なんて事になったら逃げ出す奴も居るかもしれんが、冷静に見るとそこまで怖いもんじゃない。
 むしろ、ある種の美を感じる人間の方が多いと思う。
 特に白い牙が覗く笑みなどは、年齢性別を問わぬ母性的な魅力に溢れていると言っても過言ではないだろう。……ああ、こりゃ外見じゃなくて内面的な要因の賜物か。
 とにかく、色っぽくて話しやすそう。
 人間じゃねーだとか目が怖えーだとかいった細かい点を無視した俺の第一印象は、概ねそんなところだった。

 あと、服。
 何しろ蜘蛛姉さんを筆頭にお客さんの全員が服を……配色こそ白黒の濃淡と大人しめだが、実用的で洗練されたデザインの衣服を着ていたのだから。そりゃまあ、綺麗にも見えるってもんですわ。
 鉄格子を隔てて見合ってると余計にね。檻の中の猿みたいな気分になってくる。
 今の構図を絵画にしたら、きっと未開地の子供と文明人達の邂逅といった風に仕上がる事だろう。
 あちらは着ている、こちらは丸出し。たったそれだけの違いで、俺の胸は羞恥心とも劣等感とも付かぬ不定形の弱火に焼き焦がされていた。

「お嬢さんこそ、とてもお美しくていらっしゃる。……そう、まるでヒンドゥーの女神ドゥルガーのようだ」

 もちろん表にゃ出さなかったんけどな。
 リザードから事前に話を聞かされていなけりゃあ多少は動揺していたかもしれんが、それでもお世辞を返すくらいの余裕はあっただろう。
 そうだよ、世辞だよ。俺だって言うよ、それくらい。
 インド神話最強の合成殺戮機械神に例えられて、喜んでくれるかどうかは知らんが。
 俺は好きなんだけどな。大ファンだと言ってもいい。タペストリだって何枚も持ってるぞ。多分、神話や伝説なんかに出てくる女の中じゃあ一番好きだ。清麗婉美かつ冷徹に敵をぶち殺していくところが堪らん。お近付きにはなりたくない。

「女神様ねえ……言い過ぎだと思うけれど、トラちゃんの准胝観音みたいって褒め言葉よりかは分かりやすくて良いかしら。ふふっ、ありがと」

 観音? 確か観世音菩薩っていう仏教の神様の一種とかだったっけ?
 厳密に言うと神じゃなかったような気もするが、立派な信仰の対象なわけだし。神様扱いされて罰当てるような心の狭い真似はしねえだろ。
 とすると、アヤトラは仏教徒なのかね? 名前からしたところじゃあ元日本人って線が濃厚か。
 俺は地球上で最も奇妙な信心深さを抱く民族の事を思い返し、人知れず腹の虫を騒がせた。
 ソバ、うどん、牛丼カツ丼親子丼、スシにカレーにテンプラにと、脳裏に浮かぶはかの島国が誇る料理の事ばかり。どれも俺の好物だ。空腹の身で想うには少々難儀な内容だったな。
 ここを出たらスシバーでも探してみるか。……徒労に終わりそうだけど。

「…………あのぉ……シャンディー姉さん」
「どうしたの、テンちゃん? ちょっと見ない間に随分とお肌の張りがなくなったみたいだけれど?」
「いえ、別にそんな……あ~多分、睡眠不足かもしれやせんかしらん?」

 やっぱり、この蜘蛛女が件のシャンディー姉さんか。
 リザードの奴は彼女に頭が上がらないようだな。僅かな会話で二人の力関係が手に取るように分かっちまったぞ。

「リザード! グラコフはどうした!?」
「へ? ああ、どうもどうも。……グラコフが? どうかしたんですかい?」
「とぼけるな! お前が逃がしたんだろうが!」
「アヤトラさんの恩を仇で返しやがって! やっぱお前もアイツと同じバケモンだな! この毒トカゲが!」
「処刑だ、処刑!」
「わー……まあまあ、皆さん落ち着いて」

 でもって、シャンディーの後ろで騒ぐ連中には余裕綽々と。
 ……こりゃあわざとだな。相手に警戒心を抱かせない形で、それとなく俺が情報を嗅ぎ取れるよう、敢えて分かりやすく振る舞っているんだろう。
 示し合わせたわけでもないのに、中々気の利いた真似をしてくれるじゃねえか。

「ね? こんな所で俺っち相手に怒りをぶつけてもしょうがないでしょ? お喋りは姉さんにお任せすると致しましょうや」

 おかげで蜘蛛姉さん御一行の為人を楽に掴める事ができた。
 適当なところで会話を切り上げ、俺の背中に逃げ込むようにして隠れたリザードを視線だけで労い、改めてシャンディーと向き合う。
 彼女の方もリザードの意図は読めていたようで、その口元には一層濃くなった慈愛の影、目元には一段と増した好奇の色が表れていた。
 余計な気を遣う必要はなさそうだな。血の巡りの良い女で助かった。

「どうやら貴方はトラちゃんと似たようなタイプの子供みたいね。外の愛らしさと中の凄味が愉快なくらいに噛み合っていないわ」
「そこまで酷いのか? もう少し、らしく見えるように努めた方がいいのかね?」
「ん~そうねえ……。割り切った方がいいかしら。貴方、お芝居はできても無垢な子供のふりは生理的に無理でしょう?」

 よく分かったな。その通りです。
 子供じゃないんだからと呆れられる事は多々あれど、本物になりきるのはさすがに不可能。童心に返れない大人は寂しいもんだが、返りっぱなしは鬱陶しいだけ。可愛い子ちゃんのふりとか気持ち悪くて適わん。

「とりあえず、何か着た方がいいわね。お近付きの印に一式進呈させていただいてもよろしいかしら?
 もちろん、そちらで暇そうにしているお嬢ちゃんにもね」

 にこやかに言い放ち、二十枚の爪の間から伸びる糸を繰り始める蜘蛛女。
 編み物については素人だが、物凄い手際の良さだという事は何となく分かる。まるで全自動の織機を見ているかのようなスピードと正確さだった。

「おう、なんだ? なんかくれるのか?」
「そいつは願ってもない申し出だが……本当にタダでいいのか?」
「ええ、安心して。代価を求めるような真似はしないと誓うわ。……けど、そうね。まったくのタダというわけではないかも?」

 四本の腕を巧みに動かしながらの流し目を受け、俺は得心の息をついた。

「ここに来る途中で、あんたが張った網を見た。……同じ保険を掛けようってのか?」
「察しの良い子ね。その通りよ。それ以上の事はできないし、するつもりもないわ。信じてくれるかしら?」

 つまり、俺達の居場所が分かるような仕掛けの入った衣服をプレゼントしてくれるというわけだ。
 自分の糸を探知できる能力なのか、それとも探知できる特別な糸を作る能力なのか。どちらにせよアヤトラ一行は全員が彼女の服の世話になっているようだし、こんな場所での団体行動にゃあ打って付けの次善策だな。はぐれる心配がなくていいやね。
 連中の一員でない俺達にしてみれば、緩い首輪を付けられるようなもんだが……大したデメリットでもねえやな。
 俺を騙そうとしているようには見えないし。この仕込みは純粋な厚意からのものと受け取っていいだろう。

「……信じるよ。あと、本当にタダじゃあ収まりが付かねえから、貸しって事にしてくれるか? 必ず返すぞ」
「ふふっ、律儀な子ね。いいわよ。貴方の気が済むようにしなさいな」

 そう、シャンディー姉さんは気配り上手で世話好きで、おまけに生来のお節介焼き。要するに俺達みたいな子供を放っておけない、心のお優しい人だったのだ。
 相当なタマだとは思うがな。でも、本質的にはただのメチャクチャ良い女だ。

「何かご注文はあるかしら? 下着に肌着、上下に靴に靴下と作るつもりなのだけれど」
「靴まで出来るのか? 凄げぇな」

 姉さん始め、どいつもこいつも長靴に似た履物をしているのは確認していたが、まさかこれもお手製だとは思わんかった。
 いや、お手製じゃなきゃ何だって話なんだがな。21世紀の地球で文明人やってた身としちゃあ、繊維を編んで靴を作るって発想はちょっとした盲点だったわけだ。
 世界史的、民俗学的に見ても、名が知れてるのはせいぜい日本の草鞋ってやつくらいじゃねえのかな? あとはどの文明でも木や皮との合成品を使っていたはず。100%繊維で出来た靴なんて、そうそう有る物じゃないのだ。

「トラちゃんがね。ワラジとかフカグツとかいう日本の履物の作り方を教えてくれたから、それをヒントにしたの。
 あの子が知恵を貸してくれなかったら、もっと粗末な物になっていたでしょうね」

「へえ、アヤトラってのは元日本人なのかい?」
「そうみたいよ。私達とは世代が違うみたいだから随分と変わっているけれど」
「世代が違う? ああ、すまんが手袋も頼む。基本色は黒で、デザインはできるだけシックにな」

「はいはい。ん~……どう言えばいいのかしらねえ? 一言で言うと、昔の人?
 他にも日本人の子が居るのだけれど、最初の内は世間話を通すのも一苦労だったわね。
 トラちゃん、携帯電話も簡単な英単語も知らなかったし。自分の事を断片的にしか覚えてないみたいだし」

 断片的にねえ……。名前や死因、こっちの世界に至るまでの経緯以外にも色々と忘れちまってるって事か。
 そんなボケ老人みたいな状態で、よく最下層から上がって来られたな。よっぽどの強運の持ち主か、多少抜けてても問題ないくらいに凄い奴なのか。……恐らくはその両方なんだろうな。

「でも、家族の記憶は結構しっかりしててね。アヤトラって名前も、お姉さんとお母さんの名前から拝借して付けたのだそうよ。良いお話だと思わない?」
「まあ、思わんでもない」

 ウェッジが来たら会いに行ってみるかね。姉さんもそのつもりで語ってくれてるんだろうし。
 ……ん? どうしたリザード? なに、自分も服が欲しいって? けどお前、透明になれるのは自分の身体だけなんだろ? 服着たら意味ねえじゃねえか。
 大丈夫大丈夫、お前が全裸のままでもTPO的に何の問題もないから。
 バカ、情けねえ面してんじゃねえよ。本気だってば。

 そうして小一時間ほどお話をした結果、意外な事にシャンディーは俺達に付き合ってウェッジを待つと申し出てきた。
 報告のためとかで他の五月蠅い有象無象には帰ってもらってな。一人で付き合ってくれるんだそうな。
 理由はまあ、居場所が分かる自分が居ればアヤトラ達と合流するのに手間取る事はないだろうから。──と、そういうわけだ。
 ……うん。間違いなく本音だとは思う。
 姉さんは俺をアヤトラに会わせたいらしい。会わせてどうするとか、どうなるんだって考えは置いといて、とにかく会ってほしいんだとか。
 一体、どういう魂胆なんだろうな? 敵意はなし、悪意もなし。でも漠然とした底意はある。怪しくないけど非常におかしい。さっぱり読めんぞ。

「うおーすげー! いーとーマキマキだー!」
「カーリャちゃんには結び目の少ない服がいいかしらね。活発な子のようだから、うんと丈夫に作りましょう」
「ついでにウェッジのも頼んでいいか? さすがに丸出しのままじゃ不味いだろうから、下着だけでも」
「…………へへへっ……。御三方、何だか無性に寒いとは思いやせんか?」

 世話焼き女の考える事はよく分からん。よく分からんが追い返す理由もないので、俺は姉さんの芸術的な手捌きに見惚れて待つ事にした。



 ◆ スパイダーシルクの子供用下着 〈Eグレード〉〈超軽量級〉

   詳細: ティルケニスの糸で織られた、絹のような質感の下着。
        紐で留めるトランクス型なので、サイズ的に融通の利く造りになっている。
        丈夫で長持ち、吸収性抜群のお肌に優しい品である。

        耐久度 30/30
        特殊効果 〈耐熱10%〉〈耐冷10%〉
        制作者 シャンディー


 ◆ スパイダーシルクの子供用肌着 〈Eグレード〉〈超軽量級〉

   詳細: ティルケニスの糸で織られた、絹のような質感の肌着。
        丈夫で長持ち、吸収性抜群のお肌に優しい品である。

        耐久度 30/30
        特殊効果 〈耐熱10%〉〈耐冷10%〉
        制作者 シャンディー


 ◆ スパイダーシルクの子供用胴衣 〈Eグレード〉〈超軽量級〉

   詳細: ティルケニスの糸で織られた、絹のような質感の胴衣。
        通常の品と比べて非常に丈夫な造りになっているので、防具の下に着込むのにも適している。

        防護点 1
        耐久度 50/50
        特殊効果 〈耐熱10%〉〈耐冷10%〉
        制作者 シャンディー


 ◆ スパイダーシルクの子供用下穿き 〈Eグレード〉〈超軽量級〉

   詳細: ティルケニスの糸で織られた、絹のような質感の下穿き。
        通常の品と比べて非常に丈夫な造りになっているので、防具の下に着込むのにも適している。
         
        防護点 1
        耐久度 50/50
        特殊効果 〈耐熱10%〉〈耐冷10%〉
        制作者 シャンディー


 ◆ スパイダーシルクの子供用手袋 〈Eグレード〉〈超軽量級〉

   詳細: ティルケニスの糸で織られた、絹のような質感の手袋。
        指先の動きを一切阻害しない薄さでありながら、保温性にも優れている。

        耐久度 40/40
        特殊効果 〈耐熱10%〉〈耐冷10%〉
        制作者 シャンディー


 ◆ スパイダーシルクの子供用靴下 〈Eグレード〉〈超軽量級〉

   詳細: ティルケニスの糸で織られた、絹のような質感の靴下。
        丈夫で長持ち、靴擦れ防止機能付き、吸収性抜群のお肌に優しい品である。

        耐久度 40/40
        特殊効果 〈耐熱10%〉〈耐冷10%〉
        制作者 シャンディー


 ◆ スパイダーシルクの子供用ブーツ 〈Eグレード〉〈超軽量級〉

   詳細: ティルケニスの糸のみを用いて織られた、柔らかなブーツ。
        その軽さに見合わず、並みの革製品よりも遙かに強靱。
        衝撃を吸収するための底部は幾重にも渡って織り込まれており、
        図らずも忍び足に適した造りになっている。

        耐久度 80/80
        特殊効果 〈移動力上昇10%〉〈落下ダメージ減少20%〉〈忍び足効果上昇20%〉
               〈耐熱20%〉〈耐冷20%〉
        制作者 シャンディー








 ……………………不思議なもんだな。ようやく生まれ変わったって実感が湧いてきたぞ。

 衣食足りて礼節を知るとはよく言ったもんだ。人前で着てない奴は人間たり得ないんだよ。俺は改めて衣服の偉大さと大切さを実感したね。
 締めにブーツの紐を結んで運動性を確認。……よしよし、動きやすいぞ。見た目の方も注文以上の落ち着き具合だ。

「どうかしら? 手直しが必要な所はある?」
「いや、全く問題ない。サイズもピッタリだ。どんなプロでもこの仕上がりの早さ見事さは真似できねえだろうよ」

 面倒見良くモドキに着せてやりながら訊いてくるシャンディーに、最大限の賛辞を送る。
 本当にいくら褒めても足りねえくらいだよ。靴まで含めた2セットを一から作成するなんて神業、人間にはどうやったって不可能だからな。しかも、半日足らずでだぞ? これが感動せずにいらいでか。

「おうおう、カーリャもきたぞ! いいなこれ! サラサラだ! サラサラサラサラサラサラだ!」
「なあリザード、馬子にも衣装って諺知ってるか?」
「いいんじゃないですかー。馬子でも衣装が着られるってことでしょー?」
「嬉しい反応ね。気に入ってくれたようで何よりだわ」

 満足そうな笑みを浮かべて肩を解すシャンディー姉さん。……うん、確かにこの人は姉さんだ。俺が心から尊敬する人物リストに加えておこう。
 自分でも戸惑うほどの滅多にない好印象。最高のプレゼントってのは、こんなにも人を浮かれさせちまうもんなんだなあ……。恥ずかしながら、しみじみと思ったぞ。

「そうそう、これも差し上げるわ。数の少ない小物なんかを入れておくとアイテム欄に余裕ができるわよ」

 お、荷物袋か。有り難い。



 ◆ 丈夫で軽くて滑らかで愛が込められた高品質の スパイダーシルク製の背負い袋

   詳細: ティルケニスの糸で織られた、絹のような質感の背負い袋。
        冷熱に強く燃えにくい上に防水加工まで施された逸品である。

        制作者 シャンディー



 それを受け取った途端、俺は軽い目眩を覚えた。
 何だ何だ、この悪ふざけが過ぎる名前は? 誰が付けた? どう考えても姉さんじゃねえよな。

「おかしいでしょう? 服以外の日用品を作るとそうなっちゃうのよ。グレードも明記されないし。
 もしかしたら、装備品以外の名称はランダムで決まるのかもしれないわね」

 いやいやいや、笑って済ませられる事じゃねえだろ。
 いくら俺達の生まれが非常識だからって、不思議と思える現象を流すのはよくないと思うぞ。まあ、一々疑問を抱いて解消している暇なんぞないって気持ちも痛いほど分かるが…………やっぱり、これは腑に落ちんな。不思議すぎる。
 もう一枚の方の背負い袋と言い、こいつらはつくづく俺の脳味噌を責め立ててくれやがるぜ。そんな柔らかくしたいのか。これ以上刺激を受けたら溶けて耳から流れちまうぞ。

「荷物袋に入れたアイテムは取り出すのに時間が掛かるから、気を付けてね」
「……ん、ああ、分かってる。有り難うよ」

 やや上の空で返して頷く。この忠告に関しては検証済みだった。
 荷物袋──というか容器類全般は、その中身に関係なく枠一つ分としてアイテム欄に収納する事ができる便利な品だ。
 だが、中のアイテムを使う際は一々入れ物から取り出さなくてはならないという欠点がある。
 いざという時、即行で使う必要があるような物は入れておけないってわけだ。
 あと、莫大な数に膨れ上がっちまったアイテムなんかも入りきらないから当然駄目。だから、枠を節約するために小物や日用品なんかを入れておくのが無難な使い道だろうな。

「ステータスについて分からない事はあるかしら? 私もトラちゃんもまだまだ手探りの状態だけれど、答えを惜しむつもりはないわよ」
「ステータスか……そっちは観察技能が上がるまで放っておこうかと思ってたんだが……」
「クラスは決めた? 特技は覚えた? 技能はちゃんと選んで上げてる? 命に関わる大事なことなんだから、無精しちゃ駄目よ」

 つくづくごもっともなお言葉、どうも有り難うございます。
 耳に痛いが正論なので何も言い返せん。姉さんからしてみたら、俺はかなり怠けてた事になるのかね?
 ウェッジに相談するまでは放置に等しい状態だったからなあ。ゆっくり確かめたい事は山ほどあるんだが、フィードバックの実感が薄いから、ついつい後回しにしちまうんだわ。
 特に迷宮探索で気を張ってるとステータスの確認もままならない。……昨日の内にでもチェックしときゃあよかったな。

「ああ……そういや、クラスってのも決めてなかったな」
「ええぇっ!? そんな冗談でしょ!? クラス《なし》でグラコフをやったってんですかい!?」

 ぼやいたら何か驚かれたし。
 クラスってそんな凄いのか? いや、重要事項なんだろうとは思うけどさ。
 そんな風に無知を晒す調子で尋ねたら、姉さんに諭された。誰か笑ってくれ。クソッタレ。

「クラスを設定すると対応する能力や技能にボーナスが加算されるの。
 他にも色々と恩恵があるのだけれど、私の場合はクラスの固有特技に助けられているわね」

 姉さんのクラスは《アルチザン》。何でも生産系の技能にボーナスが付いたり、生産作業での疲労が軽減されたりといった恩恵が得られるんだとか。フランス語で職人って意味だから、そのイメージに即した感じの役得なんだろうな。
 あの超高速な作成作業もクラス固有特技と種族固有特技とやらの合わせ技なのらしい。特技の凄さは【激怒】で体感していたから納得できたんだが、そういう方面のワザまであるって事には少々驚かされた。
 ステータスに載っているのは戦うための情報ばかりではなさそうだ。
 ああ、ちなみにリザードのクラスは《シーフ》で……まあ、そのまんまだ。透明化は種族固有特技らしいから俺には使えんし。あんまり羨ましくはない。

 一通りの説明を受けたところで、俺は設定可能なクラスの中から使えそうなのを選んでみる事にした。
 物は試し。こればっかりは踏み出して経験してみねえと分からねえからな。



 ◆ 基本クラス 《ファイター》

    ファイターは己の強靭な肉体を駆使し、最前線で戦う戦士である。
    攻撃面においても平均以上の適正を持つが、その真価は高い守りの力にこそある。
    強固な鎧に身を包み、敵の狙いを惹き付けてダメージを一身に負う。
    そのようにして仲間達を守り、愛用の武器を振るって勝利へと導くのがファイターの務めなのだ。

     基本ボーナス STR +5 END +5 HP +10% CP +10%
    
     《盾》 《甲冑》 《体術》技能と、任意の近接系武器技能3つの熟練度に+10

     固有特技 [鎧甲の心得] [戦士の意地] [鉄壁の構え]

     強化特技  『庇う』 『覚悟』 『力任せ』

    《甲冑》技能の熟練度に関係なく、重量級までの防具を使いこなす事ができる。
     ノックバックに対する抵抗判定に+50%のボーナス。
     消費CP に-10%のボーナス。


 ◆ 基本クラス 《バーサーカー》

    バーサーカーはあらゆる武器を使いこなして敵を倒す、野獣の如き戦士である。
    特に爆発させた激情を乗せて繰り出させる凄まじい攻撃の力は、最強の部類に入ると言えるだろう。
    命を惜しまず、鍛えられた力と技と速度をもって戦いに挑む。
    その雄々しき姿こそがバーサーカー、狂戦士と呼ばれる所以なのだ。

     基本ボーナス STR +5 DEX +2 AGI +3 HP +20%

     全ての近接武器技能の熟練度に+10

     固有特技 [激怒] [咆哮]

     強化特技 『覚悟』 『突進』 『早駆け』 『力任せ』

     攻撃によって起こるノックバックの効果に+50%のボーナス。
     基本移動力に+25%のボーナス。
     消費CP に-10%のボーナス。


 ◆ 基本クラス 《ストライカー》

    ストライカーは打撃格闘の腕前を駆使して敵と相対する、技巧型の戦士である。
    重装備の戦士と比べれば頼りなく映るだろうが、それで彼らが劣っているというわけではない。
    どのような状況であろうとも損なわれる事のない戦闘スタイル。
    武装を解かれて尚残る戦いの牙、磨き上げた徒手の技こそがストライカーの強みなのだから。

     基本ボーナス STR +2 DEX +4 AGI +4 CP +20%

     《拳闘》 《蹴打》技能の熟練度に+20

     《格闘》 《体術》 《回避》 《跳躍》 《行進》技能の熟練度に+10

     固有特技 [足捌き] [要撃の心得] [虚実の心得]

     強化特技 『覚悟』 『連撃』 『精妙撃』 『見切り』

     パンチ、キックなどの肉体による打撃ダメージに+25%のボーナス。
     消費CP に-20%のボーナス。



 三択か……。
 どのクラスもデメリットこそなさそうだが、特色がはっきりと分かれているな。
 まあ、俺の場合は迷うまでもないんだが。



 ◆ クラス設定 《バーサーカー》 

      貴方は《バーサーカー》にクラスチェンジしました。
      これによりクラス特有の恩恵が発生。
      能力値と技能熟練度にボーナスが加算。
      また、いくつかの特技と魔法が使用可能となります。



 移動力にボーナスが付くらしいからな。【激怒】が被っちまうのは痛いが、背に腹は代えられん。
 うん、足の速さってのは本当に大事なんだよ。こっちに来てから痛感の連続だったし。これからのステータスは速度の強化を重視していく事に決めたったら決めたのだ。
 目標は……そうだな。目指せ音速の貴公子、目指せライトニング・ボルトだ。
 最低でも、モドキの奴から逃げ切れる程度には速くなりてえよなあ。

「何にしたんです、坊ちゃん?」
「《バーサーカー》にした。何だか知らんが野獣の如き戦士らしいぞ」
「はあ、野獣ですか…………そりゃまたよくお似合いで」

 こらこら、モドキを見ながら言うんじゃない。俺とそいつは一切無関係なんだから。

「前衛で戦うクラスを選んだのね。うちではトラちゃんしか強い子が居ないから助かるわ」
「助かるわって……」

 会うとは決めたが加わるとは言ってねえぞ。
 いや、それより姉さんとこにはアヤトラ以外に戦える奴は居ねえのか? 技能や特技を駆使すりゃあ素人でもそこそこはいけると思うんだが。

「もちろんステータスに恵まれている子は他にも居るわよ。
 けれど、それが本当の意味での強さなのかというと……そうじゃないわよね?
 力がある事と強い事は別問題。世の中はね、殺し合いに適応にできない人の方がずっと多いの。
 例え追い詰められて牙を剥いたとしても、心の中の一線を越えられなければ長続きはしないものなのよ」

 ああ、なるほどねえ。
 いくら格闘技や武道武術に長けているからといっても、明確な殺意を持って刃物を振るう素人を制圧できるとは限らない。
 姉さんが言ってるのは、それと同じような事なんだろうな。
 ここの化け物共は殺す気、喰う気に漲って襲い掛かってくる。我が身も顧みず肉を食い千切ってくるような敵と勇気を奮って戦えるか? まず無理だ。訓練された兵士だろうが、格闘技のプロだろうが、そんな非常識で物騒な連中の前じゃ萎縮しちまうだろうよ。本来なら倒せるはずが、半分の力も出せやしねえ。
 素っ裸で放り出された状態となりゃあ尚更だ。冷静に対処できる奴なんてのは、ほんの一握りだろうな。
 何ヶ月もの本格的な訓練を積めば、まあステータスの恩恵もある事だし、ズブの素人でも戦えるようにはなるんだろうが……こんな場所じゃあ不可能に近い。
 そう考えると、アヤトラの統率力ってのは異常だな。俺なら戦えない奴は捨てて逃げるぞ。非戦闘員を率いての大脱出なんて、とてもじゃないがやってられん。やろうとする精神も異常だ。

「だから、かしらね? 貴方ならきっとトラちゃんとお友達になれると思うの」

 なんでじゃ。

「…………ただ…い……ま、戻り、ました……ぁ……」

 うおおぉ!?

 ワケの分からん事をほざく姉さんにツッコミを入れようとした矢先に、音もなく出現した呻く死人が鉄格子にもたれ掛かってくる。
 思わず仰け反る俺達四人。まったく、いつの間に来やがったんだ? 心臓に悪いだろうが。
 なあ、ウェッジ。……いや、ゾンビか?

「……み、みず、みずを…………」

 おお、やっぱりウェッジだ。
 見違えたぞ。気の毒な意味で。

「水だな。ほれ、零さずに飲めよ。オレンジ食うか? でかいぞ」
「はぃ……ぃただきます。あぁー…………甘酸っぱくて美味しいですね。生き返りますよ」

 力尽きたウェッジを牢屋に引きずり込んで仰向けに転がし、慣れない介抱を施す。
 極度の空腹に脱水症状、んでもって疲労困憊ってところか。こんな状態でよく辿り着けたな。本当に大した強運と逃げ足だよ。感心するぞ。

「よくやった。飯の支度をするから包丁とフライパンを出せ。そして少し休め」
「はい……あ………………じゃ……また、あとで…………」

 ……眠ったか。こりゃしばらくは動けねえかな。
 しかし、何でまたこんな…………?

「姉さん、こいつにしっかりした靴を作ってやってくれ。走り詰めで足がボロボロだ」
「ええ、喜んで。帽子もオマケしておくわね」
「すまん。恩に着る」

 何でまたこんな……ツルッパゲになっちまったんだ? ウェッジの奴は。
 まさか、逃げながら剃ったわけじゃあるめぇし。恐怖で髪が抜けたのかね? そんなに怖かったのか。フィクションなんかじゃ偶にある事だが、実際に見たのは初めてだぞ。

「うぉー! ツルツルか? ツルツルだ! カーリャのサラサラのほうがいいな!」

 触るな触るな、ボーリングの球じゃねえんだぞ。うなされてるだろうが。


 だけども…………何ていうか、綺麗に抜け落ちたもんだ。
 果たしてウェッジ本人に自覚はあるのか。なかったらリザードにでも指摘させようかね。
 俺? 俺はそんな残酷な真似できねえよ。


















 あとがき

 ようやくウェッジ生還の巻。
 しかし、犠牲は大きかった……。
 裸を脱してクラスを決めて、主人公も心機一転です。
 次回にはアヤトラが出せるといいなあ……。



 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■


 現在の所持品  17/17

 パーソナル マップ  (72)
 フォーチュン ダイス  (507)
 豊穣神の永遠のボトル

 丈夫で軽くて滑らかで愛が込められた高品質の スパイダーシルク製の背負い袋  ちょっとくどい名前です

 入)ケタの干し肉  (38) 今のところ、これくらいしか入れておける物がありません

 丈夫な革製の背負い袋
 入)ヒール ストーン
 入)ヒール ストーン
 入)リフレッシュ ストーン (5)
 入)陽光のカンテラ
 入)水筒 〈空〉
 入)丸い水筒 〈湧き水〉
 入)大きめの水筒 〈井戸水〉  もう誤字とか有り得ませんね! ご指摘、有り難うございます

 拳大の石  (347)
 冒険者の松明  (243)
 火の付いた冒険者の松明
 麻製のロープ  (186)
 蜘蛛の歩みの秘薬  (6)
 蟻の力の秘薬  (6)
 ケタ肉の塊  (25) 
 豚肉の塊  (24)
 月光鱒の切り身  (58)
 ナングの卵 (26)
 スマイリー キャベツ  (65)
 オミカン  (38) ウェッジに与えて1消費


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 今回手に入れた装備品は着用している状態ですから、アイテム欄の外ですね。
 変動も少ないでしょうから一々載せたりはしません。

 思っていたより多くの感想がいただけて嬉しい限りです。
 レス返しもできない筆者ですが、作品を続ける事で応えていきたいと思います。


 


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