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No.15918の一覧
[0] フレイムウィンド&ケイオス  (TRPG風 異世界ファンタジー転生物)[ランダム作成者](2010/04/18 12:17)
[1] 1  チュートリアルなど無い[ランダム作成者](2010/04/11 14:23)
[2] 2  『スカベンジャーズ・マンション』 編[ランダム作成者](2010/04/04 11:49)
[3] [ランダム作成者](2010/03/05 19:59)
[4] [ランダム作成者](2010/04/04 10:57)
[5] [ランダム作成者](2011/02/18 06:32)
[6] [ランダム作成者](2010/04/04 10:59)
[7] [ランダム作成者](2010/03/05 20:47)
[8] [ランダム作成者](2010/03/27 12:51)
[9] [ランダム作成者](2011/02/18 06:30)
[10] 10[ランダム作成者](2010/04/11 14:29)
[11] 11  レベルアップ[ランダム作成者](2011/02/13 01:43)
[12] 12[ランダム作成者](2010/04/11 14:35)
[13] 13[ランダム作成者](2010/04/12 10:50)
[14] 14  『エトラーゼの旅立ち』 編[ランダム作成者](2010/04/26 15:42)
[15] 15[ランダム作成者](2011/02/18 06:34)
[16] 16[ランダム作成者](2010/05/09 13:10)
[17] 17  意思ぶつけ作戦[ランダム作成者](2010/05/25 02:19)
[18] 18[ランダム作成者](2011/02/13 02:36)
[19] 19  精神世界の戦い[ランダム作成者](2011/02/13 05:10)
[20] 20  いざ、人生の再スタート      (LV 3にアップ)[ランダム作成者](2011/02/18 22:55)
[21] 20.5  かくして混沌の申し子は放たれた     (主人公以外のステ表記)[ランダム作成者](2011/02/27 14:19)
[22] 21  『帝国からの逃避行』 編     [ランダム作成者](2011/12/07 21:52)
[23] 22[ランダム作成者](2012/03/18 15:13)
[24] 23  リンデン王国を目指して[ランダム作成者](2012/03/19 02:30)
[25] 24  グレーターデーモン     (ティーナのステータス表記)[ランダム作成者](2012/04/05 05:41)
[26] 暫定 キャラクターデータ まとめ[ランダム作成者](2011/02/13 02:00)
[27] 暫定 アイテムデータ まとめ[ランダム作成者](2010/05/20 16:57)
[28] LVや能力値などについての暫定的で適当な概要説明 & サンプルキャラクターズ[ランダム作成者](2011/02/27 14:10)
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[15918] 20.5  かくして混沌の申し子は放たれた     (主人公以外のステ表記)
Name: ランダム作成者◆f9a7ea31 ID:e58359f3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/27 14:19


 その人物は、ヨシノが作りだしたゲートから現れた。

 本来なら一方通行のはずの空間の流れに逆らい、ゆっくりと。ゼイロ達の心を冷たいモノで浸食していく。
 それはまるで、スクリーンから飛び出す悪霊を眺めているかのようだった。
 二次元から三次元へ。非現実から現実へ。戦慄から金縛りへ。
 圧倒的な存在が、溢れ出して形を取る。

 ああ、魔王の出現だ。


『ドールドーラ!!!』


 ヨシノが、ジェギルが、ソルレオーネが、声を一つに大気を揺るがす。
 もはや三人娘などと言われていた姦しい女達の影はない。双眸に怒りを宿す三体の魔戦鬼がそこに居た。

「知り合いか?」

 喘ぐようにゼイロが尋ねる。

「五百年に及ぶ幽閉生活の元凶ですよ」

 答えるヨシノは猛虎さながらの唸りを上げて、自らがドールドーラと呼んだ相手を見据えていた。
 彼女から聞いた幽閉までの経緯を鑑みるに、この魔人こそがそうなのだろう。
 大戦時においてレディ・ダークの騎士団を崩壊に導いたという、裏切り者の女。

『お久しぶりです。先輩方』

 発せられた響きは、生前に咲き誇っていたであろう美貌を想わせるに充分な耳心地だった。
 いや、生前というのは適切ではなかったかもしれない。
 彼女は明確な意思を持って現世に存在しているのだから。

『探しましたよ。五百年間、探しましたよ』

 ドールドーラの顔には一片の肉も付いていなかった。
 高位の聖職者が身に纏うようなローブの中身も、恐らくは同じ。
 あるのは艶やかに流れる黒髪だけだ。
 乳白色の美しき女髑髏。それがドールドーラという人物の姿だった。

「そうかい!! 俺達も探す手間が省けたぜッ!!」

 血の気の多いジェギルが真っ先に踏み出し、言葉と吐息と火球を放つ。
 ゼイロ達の目には必殺の一撃に映ったが、人外の域に達して久しい騎士団の女達からすれば、ただの牽制。戦闘開始を告げる花火に過ぎない。
 ドールドーラも避けようとすらしなかった。
 鉄をも溶かす熱量を正面から浴び、時間差で飛び込んできたジェギルの拳を受け止める。

 果たして、ゼイロは何に驚くべきであろうか?
 焦げ跡一つないローブ姿か、分厚い敷石を砕くラクシャサの踏み込みか、薄っぺらい骨の手でその威力を止めてみせた女髑髏の不気味さか。
 違う。
 どれも常識外れだが、驚愕にはたり得ない。
 ゼイロが驚いたのは、その速さ。一連の攻防を目で追いきれなかった事だった。
 人間が反応できる速度を超えているのだ。
 アヤトラもシャンディーも表情を失っている。ウェッジとリザードはそもそもの状況が理解できていない。
 しかし、無力という点では全員同じ立場である。
 巻き込まれれば、一瞬で死ぬ。
 余計な恐怖を感じない分、へたれ二人の方が幸せかもしれなかった。

『リンデニウムに新参のエトラーゼが訪れるのは珍しい事ではありません』
「あぁん!?」
『けれど、一度に百人以上もの数が【転移門】で送られてくるなどというのは、さすがに前代未聞です』
「何が言いてぇ!?」

 続けて繰り出されるジェギルの連打を飄々といなしながら、ドールドーラが独白めいた調子で囁く。

『私は運が良かった』

 走る衝撃、震える大気。
 弾け飛ぶような勢いで開かれた距離を置いて、女達が対峙する。

『まさか、このような場所にいらっしゃったとは……。何でも当たってみるものですね』

 髑髏の表情など読めるはずもない。──が、上機嫌なのは間違いないだろう。
 彼女は自らの根気が報われた事に達成感を覚えている。薄らぐ鬼気がそれを雄弁に物語っていた。

「なるほど、私が迂闊だったというわけですか」
『いえ、本当に偶然なのですよ。偶然にリンデンを訪れなければ、確かめようとは思わなかったでしょう』

 まったく、呪わしい偶然もあったものである。
 ゼイロは心の中であらん限りの悪態をついた。矛先は因果律だ。
 一難去ってまた一難。賽の目のように変転しまくる運勢は、今日もまた如何ともし難く彼を弄んでいた。

『ところで、団長殿はどちらに? ご存じありませんか?』

 前半を元同僚達に、後半を新参のエトラーゼ達に向けて、女髑髏が優しく尋ねる。
 もっともそれは上辺だけの事で、答えを促すプレッシャーは途轍もない脅威に満ちていた。

 重く苦しく、突き刺さる。

「ゲホェッオゴ!! んがーックソッタレ!!」
「ええい、酒が勿体無い!!!」

 前世において百戦錬磨も裸足で逃げ出す猛者であったゼイロとアヤトラが嘔吐してしまうほどなのだから、その圧力たるや推して知るべしと言えよう。
 ちなみにシャンディーは数秒で失神。残り二人においては一秒足らずで恥ずかしい物を垂れ流しながらという顛末である。

『…………骨がありますね』

 見た目子供の二人が堪えた事が心底意外だったのだろう。ドールドーラの呟きには感嘆の色があった。

「骨だけの輩に云われてもな……」
「胃に穴が空くかと思ったじゃねえかよォォ!! テメェ鼻の穴三つにしてやろうか、コラァァ!!?」

 苦笑するアヤトラに吠えるゼイロ。
 清々しいまでの虚勢だが、別に打算があっての事ではない。
 単なる開き直りだ。
 この二人、どうしようもないと感じた時にこそ努めて勇ましく振る舞うように、心と体が出来てしまっているのである。

『……いいでしょう』

 ともすれば兄弟にも見えかねないエトラーゼの姿に何を思ったのか。女髑髏の眼窩には鬼火のような光が灯っていた。

『嗜虐心を満たす趣味はありません。先輩方も彼らを巻き添えにしたくはないのですよね?』

 無言の肯定で返す三者に対して頷き、しかし気当たりは緩めず、眼窩の光を強めるドールドーラ。
 次の瞬間、ゼイロ達は無数の手に捉えられたかのような感触を覚えた。

「うぉわ何だこれ気持ち悪りぃ?!! 放しやがれ、この!」
「妖術か!? 妖術なのか!? 毘沙門天の化身に使うとは良い度胸ではないか!」

 決して錯覚ではない。
 現に不可視の力によって空中に釣り上げられている真っ最中なのだから。
 妖術というよりは超能力か念動力。細かく言えばサイコキネシスというやつだろう。自分の身に起きている理不尽をゼイロはそう判断した。
 ジタバタと足掻いているだけに見えて、相も変わらず不敵に物事を考察しているのである。

「待て待て待て待て!! おぉい、ヨシノ!?」

 だが、それもここまで。
 ドールドーラの詠唱と共に現れた渦巻く深淵を前にして、ゼイロとアヤトラは全力で身を捩った。
 訳も分からぬ内に正体不明の真っ黒な穴に向かわされているのである。自分達を放り込もうという意図は明らか。ゴミじゃあるまいし、狼狽えない方がどうかしてる。

「それは【次元落(ディメンションフォール)】! 対象を地上の何処かに転移させる魔法です!」
「何処かって、どこだよ!?」
「無作為です!!」

 ヨシノの答えに聞いて、ゼイロは無駄な抵抗をやめた。
 要するにランダム送還。何処に飛ばされるかは不明だが、とりあえず死ぬような魔法ではないらしいので運を天に任せる事にしたのだ。

「そうか! 世話んなったな!」
「此の恩は忘れんぞ! 貴殿等に毘沙門天の御加護や有らん!!」

 気持ちを切り替え、騎士団の三人に別れを告げる。
 助けを求めるような情けない真似はしない。
 彼女達が妨害を働けば、ドールドーラは容赦なくサイコキネシスで自分達を捻り潰すだろう。ゼイロもアヤトラもそれくらいは分かっていた。

 人外同士の戦いが本格的に始まろうとしているのである。
 言うなればドラゴン対ドラゴン。足下で騒ぐネズミの命など、本来ならば失われるべきもののはず。
 なのに、わざわざ安全を確保してくれようというのだ。下手に騒いでその心意気に水を差すほど、二人のエトラーゼは愚かではない。

『──では、良い旅を』

 もちろん、殴れるものなら今すぐにでも……というのが、偽らざる本音ではあるが。


 いけしゃあしゃあと言う女髑髏に中指を立てたまま、狭間の空から消えるゼイロ。

 深淵に呑み込まれる前に何とかしてゼイロの唇を奪おうと、無理に身体を捻るアヤトラ。

 一向に目覚める気配のないウェッジ、リザード、シャンディー姉さん。












 かくして世界は、新たな混沌の申し子を迎えた。












 ◆ QUEST CLEAR!!

   おめでとうございます。貴方は、無謀という言葉すら生温いクエストを達成しました。
   以下の項目からクエストの報酬を選択してください。

    《LV成長ボーナス》  《能力値成長ボーナス》  《枠数拡大ボーナス》
    《技能成長ボーナス》  《特技成長ボーナス》  《魔法成長ボーナス》
    《特性成長ボーナス》  《DP取得ボーナス》
    《武器》  《防具》  《衣服》  《装飾品》  《マジックアイテム》  《医薬品》
    《食料品》  《書籍》  《財宝》  《日用雑貨》  《その他のアイテム》














 リカーシエ・ラーマーヌは、乾季の強い日差しと地上の街の雑踏との板挟みに立ち眩みを起こしかけていた。

 はしたないと思いつつも、少しだけ舌を垂らし浅速呼吸を繰り返す。
 普段は自慢のはずの明るい栗色の毛並みも、今ばかりは鬱陶しくて堪らなかった。

 ……もっと短くしておけばよかったかしら?

 自分が暑さに弱いのは俗にイヌ人と呼ばれる種族、レイガルであるから。――ではなく、地下での暮らしが長いせいで体が陽光に慣れていないのが原因だろう。断じて運動不足なわけではない。
 とにかく、お嬢様育ちのリカーシエに熱帯はサバナ気候のお天道様はきつすぎた。
 人混みの臭気に当てられないよう極力鼻を働かせずに小休止できる日陰はないか――あと、ついでに先行した傍仕えのメイドの姿は見えないかと首を巡らせる。

 リカーシエが居るのはガレ地方最大の都市国家《グワッサング》の地上街。その北側にある旧市街へと続く通りの上である。
 道幅は大人四、五人が横並びで手を広げられるくらい。実用品や軽食を扱う露天商が両脇にひしめき並ぶ間を、毛皮に覆われた者が、鱗の肌を持つ者が、大きい者が小さい者が、怪物じみた者達が、押しつ押されつ騒がしく行き交っていた。
 この情景だけならば、活気溢れる宿場町と言っても通じるだろう。
 富裕層の大半が快適な地下で暮らすグワッサングにおいて、地上とは雑多な種族が住まう貧民街であると同時に多くの旅人を迎えるための玄関口でもあるのだ。毎日の大賑わいは当たり前。東西南北どの通りにも新しい客が絶えたことはない。
 リカーシエが探しているメイドは、そんな中でも特に目立つ姿をしているのだが、生憎と見当たらなかった。

 溜息をつき、サンダル履きの足を踏まれないよう爪先歩きで通りの端に避難する。

「よっ! お姉ちゃんお姉ちゃん!」
「えっ? え? 私?」

 ――と、路地裏の方から弾み調子のダミ声が掛けられた。
 慌てて見回し、そして見下ろし、艶々とした毛並みの生き物と眼を合わせるリカーシエ。

「…………バルバッキー?」

 その真っ黒い単色の目に、小首を傾げて思わず呟く。

「違うよっ! あいつらネズミだ! オイラ、カワウソだ!」
「そ、そう? ごめんなさいね。貴方達のこと、余り見慣れていないものだから……」

 ……カワウソって、何かしら?

 バルバッキーはすばしっこさが信条のネズミ型人間の種族で、身長は人の腰丈ほど。他にも似たような種族が複数存在しているのだが、世間一般では小さくて毛深くて尻尾のある種族のことを総じてバルバッキーと呼んでいた。
 当人達には申し訳ないが、異種族に細かい見分けなど付けられるわけがないのである。
 だが、注意して見れば素人目にも違いの分かる者もいる。自分の腰の下で小気味良くヒゲを揺らして主張している自称カワウソは、犬のような黒い鼻と同一線上に並んだ目、耳からして明らかに鼠ではないようだった。

「んじゃ、アメ買ってくれよ! 謝るならアメ買ってくれよ!」
「飴を? 原料は何なの?」
「スッとするやつ! 美味しいよ!」
「ミントかしら?」

 どうやら自称カワウソは物売りらしい。差し出された袋の口からは覚えのない爽やかな香りが漂っていた。

「お姉ちゃん大当たり~っ! トロルミントの特製キャンディだよ~!」



 ◆ トロルミント キャンディ 〈使用回数 1〉〈中毒危険度 2〉〈副作用基準値 8〉

   詳細: 抽出したトロルミントのエキスを砂糖や水飴と一緒に煮詰めた後に、冷やし固めた物。
        味は品質や製法にも依るが、基本的には二の次で、
        口に入れた時の清涼感を楽しむためのお菓子である。
        トロルミントの薬効により一時的な疲労回復効果を得られるが、
        あくまでも嗜好品であるため、医薬品の代わりになるほどの効き目はない。
        なお、幻覚や意識混濁などの症状が起こる恐れがあるので、過度の摂取は禁物である。

         基本取引価格 5 グローツ 30 セント



「トロルミント……って、麻薬じゃないの!」

「大丈夫だって~。オイラ達にとっちゃオヤツみたいなもんだし、レイガルやオーガだって
 泡吹いてぶっ倒れるにゃ十個は頬張らないといけないんだから。一日二、三個だけなら大したことないないない!」

 大した保証だ。冗談じゃない。
 軽い物でも麻薬は麻薬である。有害で習慣性がある以上、例えタダでも手を出す気にはなれなかった。

「悪いけれど、これはちょっと……他の物があればいただくわ」
「何だよ~! 買ってくれよ! 買ってくれなきゃでっかい尻に噛みつくぞ~っ!」
「でっか――!? お、大きいとは失礼ね!」

 途端に威嚇の表情となった自称カワウソの迫力に、息を洩らしてたじろいでしまう。
 可愛い顔して、生魚とか頭からバリバリいけそうな歯並びなのだ。
 小さくとも立派な肉食獣の面構え。頭二つ分以上の体格差に安心していたリカーシエの心理的優位は一瞬にして吹き飛んだ。

「五個買ってくれよ! 六個でもいいぞ!」

 勝手に話を進めないでよ……っ!

 一旦怖いと感じてしまうと、急に言葉が出なくなる。
 はっきりと断りたいのに、体は萎縮するばかりで一向に思うようになってくれない。喉の奥で渦巻く悲鳴が、いよいよ抑えきれなくなってきた。

「おりょっ?」

 だが、先に素っ頓狂な声を上げたのは自称カワウソの方だった。
 背後から伸びた手に頭を鷲掴みにされて、ゆっくりと上へ上へ。
 短い手足と細長い胴体をくねらせての抵抗を意にも介さず己の目線の高さにまで持っていくのは、リカーシエが毎日見ている知った顔。

「お嬢様に飴を売りたいなら、私を殺してからにすることね」

 その良く通る硬質な声に甚だそぐわぬ、穏やかな口調。
 怜悧に整った面立ちの中で異彩を放つ、碧玉のような緑一色の瞳。
 エプロンドレス姿の救い主は、そのまま豪快に振りかぶって小さな売人をぶん投げた。

「あ――――――――――――――――ッッ」

 水平方向一直線。自称カワウソが呆気なく視界から消えていく。

「ちょ、ちょっとシャンディー!? いくら何でもやりすぎじゃないの!?」
「大丈夫ですよ。連中はこれくらいじゃ死にはしませんから」

 気にするだけ無駄と言わんばかりに二対の手をヒラヒラと手を振るシャンディー。
 彼女は三ヶ月ほど前にリカーシエの家に雇われた使用人で、ティルケニスという女性のみで構成された珍しい種族の出身だ。
 そして更に珍しい事に、エトラーゼでもあるのだとか。

 エトラーゼとは異世界での前世の記憶を持つ人々の総称である。
 中には前世どころか生きたままで転移してくる数奇な運命の持ち主も居るのだが、一般的には異世界人の生まれ変わりとされている。
 彼らは歓迎されざる者達であった。
 ただの生まれ変わり程度なら問題はないのだが、エトラーゼのほとんどは親を持たない一個人として生まれ落ちる。コミュニティとの繋がりのない孤独な存在として、広い世界に放り出されるのだ。
 ……転生先の常識も、必要最低限の知識も、まったく何も知らされずに。
 そんな絵に描いたようなハグレ者が、社会に上手く融け込めるはずもない。
 故に彼らの多くは犯罪を働き、治安を乱し、人々の生活を脅かす。
 何処からともなく湧き出るように現れる、常識知らずの厄介者。
 それが世間一般におけるエトラーゼに対しての印象であった。

「そんな事より、お嬢様。私の迎えも待たずに一体何処へ行くおつもりですか?
 あれほど口を酸っぱくしてお一人では危ないと言いましたのに、もうお忘れになったのですか?」

 リカーシエの印象も概ねそんなところだったのだが、最近では大幅に上方修正されている。
 もちろん、シャンディーと親しくなってからの事だ。

 二人の出会いは、かなり特異なものだった。
 寝室で一人、お気に入りの小説を読んでいたリカーシエの頭上に黒い渦のような穴が発生し、気絶したシャンディーが落ちてきたのである。
 そのいきなりの登場から、リカーシエは彼女の事を転生したばかりのエトラーゼなのではと推察した。
 書物や噂話の中の存在でしかなかった異分子が、災禍の如く己が前に現れたのではないかと。
 まったくもって迷惑な話だ。
 これが普通のグワッサング貴族なら、外で控えている使用人にでも始末を申しつけて、それっきりになっていただろう。
 リカーシエもご多分に洩れず。普通の貴族で、普通の御令嬢のつもりでいた。
 ──にも関わらず、家族にも使用人にも内緒で正体不明の異種族の女を介抱し、匿うなどという真似をしでかしてしまった。
 優しさか好奇心か。それとも変わったお友達が欲しいというだけの、箱入り娘の気紛れだったのか。理由は自分でもよく分からない。
 ただ、後悔するような選択をせずに済んで本当に良かったと思っている。

 まず最初に言葉が通じなかったので共通語を教えた。次に寝室に現れるまでの経緯を聞き出しては驚き、お返しにグワッサングの事を教え、異世界地球の話を聞き、またその代わりに自分の身の上を語り、語り明かし……。
 
「いえ、あの…その、こういう所は初めてだったから。つい足が勝手に進んじゃったのよ」

 そうして遂に思い切り、両親にシャンディーを推薦して傍仕えメイドの立場に据えたリカーシエ。
 知り合ってからの月日はまだまだ短いものの、すでに二人は主従を越えて姉妹に近い関係となっていた。
 レイガルのお嬢様は、普通で居ては決して得られぬ親友を得たのである。
 後悔などあろうはずもなかった。

「はいはい、お尻に歯形を付けられる前に見つけられて何よりでございますわ」
「…………悪かったわよ」

 使用人のくせに時折酷く失礼になるのも、ご愛敬というやつだ。
 むしろ、信頼と心配を感じられて微妙に嬉しかったり。

「反省してるならいいのだけれど。今度絡まれたら、リード付きでの散歩も視野に入れるから気を付けてね」
「うう、ありがと」

 訂正、信頼はやや薄いかもしれない。
 遠慮ない事を言いながら丁寧に日傘を差し出してくれるシャンディーに感謝の言葉を述べつつ、改めて右に左に通りを見やる。
 目に映るもの何もかもがいかがわしく、到底相容れぬと諦めていた地上の街の光景は、心強いメイドが一人傍にいるだけで随分と印象が違って見えた。
 主人の顔とは正反対の優しい風合いが眼を引く陶器の店や、可愛らしいとは言い難いダブ猫が軒の上で尻尾を振っている青果店。漂ってくる未体験の香ばしさは斜め向こうの屋台からだろうか? 食べ物といえば通行人が口にしている串焼きの味も気になるところ。
 だが、一番興味深いのは向かいに見える書店の品揃えである。自邸の書庫と大きく異なる趣に、胸の内の好奇心が居ても立ってもいてくれない。

「ちょ~~っと、お嬢様お嬢様」

 吸い込まれるように歩み始めたリカーシエに日傘を引っ掛け、シャンディーが止める。

「……そこの書店を覗くだけよ。五分くらいなら構わないでしょ?」
「貴方の場合、その五分が命取りになるのよ。
 あと五分、もう五分で、結局何時間掛かるのかしらね? 待たされるこっちの身にもなってほしいわ」
「あははは、いくら何でも……」

 本の虫じゃああるまいし。──と言いかけて口籠もってしまう。
 自制が働いたわけではない。お小言が始まりそうな雰囲気だったので、話題を変える事にしたのだ。

「ええ、分かったわ! また今度! また今度ね! それよりシャンディーの方はどうだったの? お仲間さん達の行方は掴めた?」

 この強引な切り返しに、シャンディーは溜息一つで応じてくれた。

「全然ダメね。まあ、でも初日だし。広い街だし。あの子達は殺しても死にそうにないし。
 急ぐ必要はないでしょう。腰を据えてゆっくり地道に探す事にしてみるわ」

 彼女の当面の目標は、寝ている間に離れ離れになってしまった四人の仲間の捜索だ。
 ラーマーヌ家のメイドとなったのもそのため。収入と寝床を確保する一番の近道だと思ったから。生活基盤を持たない文無しのエトラーゼにとって、リカーシエの厚意は天の配剤に等しいものだったのである。

「安心しなさい。見つかったってすぐに出て行きゃしないわよ。とりあえず無事を知らせたいってだけなんだから」

 窺うような視線から寂しげな気配を感じたのか、シャンディーはにこやかに栗色の毛並みの御主人を撫で回した。

「うん。でも、グワッサングに居るとは限らないわよね? もしかしたらガレ地方の何処にも居ないかも。そうしたら──」
「そうしたら、当初の目的地を目指すしかないでしょうね」

 それはつまり、遙かな異境への旅立ちの宣言。
 何気なく言ったように聞こえるが、撤回される事はないだろう。
 碧玉の眼差しには、親しい者にしか読み取れない決意の火が灯っていた。

 ……リンデニウム、か。確かルゼリア大陸にあるのよね。

 自分も行ってみたいと言うのは、さすがに我が儘が過ぎるだろうか?
 いや、その前に根回しだ。両親を説得しなければならないし、家庭教師や執事達にも話を通しておく必要がある。
 すべてを確実に、根気強く進めなければ。


「旦那ぁ! あいつです、あいつ! あの四本腕メイド! オイラ乱暴されて今にも死にそう!」

「おーおー、可哀相になぁ! おい、姉ちゃん! こいつの売り物台無しにしてくれたそうじゃねえか!
 しかも、大怪我までさせちまってよぉ! こりゃあ、メチャ高く付くぜぇ~~!?」

 先のカワウソが連れてきた柄の悪い連中をキックの嵐で沈めていくメイドを尻目に、リカーシエはいずれ訪れるであろう旅立ちの日に備える意思を固めていた。



 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■


 名前: シャンディー

 種族: ティルケニス  性別: 女性  年齢: 47

 LV 3  クラス: アルチザン  称号: メイド オブ ラウェイ

 DP 3 (現在までに36p使用)

 HP 46/46  MP 36/36  CP 54/54(45+20%)

 STR 13  END 14  DEX 27(+5)  AGI 13  WIL 15(+3)  INT 13(+2)

 アイテム枠: 22/23 (拡大ボーナス+3/35%)

 装備: スパイダーシルクのエプロンドレス  〈Eグレード〉〈超軽量級〉
      スパイダージルクの肌着  〈Eグレード〉〈超軽量級〉
      スパイダーシルクのメイド風下着セット  〈Eグレード〉〈超軽量級〉
      鋼鉄で補強されたケタ革のブーツ  〈Dグレード〉〈軽量級〉 (蹴り3D6 + 7)

 防護点: 5 (基本+1 特性+1 装備+3)

 習得技能枠: 31/31

 戦闘技能: 糸操 52.7(+10) 回避 48.4(+10) 蹴打 45.9(+10) 体術 40.6(+5) 投擲 37.8
       長剣 29.0(+5)  盾 29.0(+10) 放出 23.2  超常抵抗 5.2

 一般技能: 製織 80.2(+40) 編み物 79.6(+40) 裁縫 62.9(+20) 歌唱 41.3(+20) 踊り 63.1(+25)
         服飾 60.5(+20) 誘惑 42.1(+30) 交渉 46.3(+10) 登攀 40.0(+20) 忍び 38.7(+20)
         生存術/森林 40.0(+20) 生存術/山地 35.0(+20) 気配感知 34.0(+20) 魔力感知 23.8(+20) 観察 26.1
         行進 35.2  罠設置 24.4  偽装 6.3  隠匿 8.9  語学 20.3
         解読 21.5  礼法 48.3(+5) 単純作業 47.7(+20)


 習得特技・魔法枠: 18/15(+3)

 特技: [神業作成/衣類]  [神業強化/製織]  [神業強化/編み物]  『修理Lv 2』  『修繕Lv 2』
      〈★蜘蛛の糸Lv 3〉  〈★蜘蛛の織布Lv 3〉  〈★蜘蛛の網Lv 2〉  〈★強靱なる糸Lv 3〉  〈★糸染めLv 1〉  
      〈★耐熱の糸Lv 1〉  〈★耐冷の糸Lv 1〉  〈防水の糸〉  〈★報せの糸Lv 2〉  〈★粘着の糸Lv 2〉  
      〈★鋭利なる糸Lv 2〉  言語の習得×2  文字の習得×1

 魔法: なし

 特性; 反射神経  理想的骨格  種の才覚  万毒無効  魅惑のオーラ  生産力


 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■

 DP3+15取得 HP+13 MP+10 CP+13 AGI+2
 アイテム枠+2+3 技能枠+6 技能を6つ習得 特技魔法枠+2 特技を2つ習得
 クエスト報酬は《枠数拡大ボーナス》を選択(アイテム枠+3に)

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 シャンディーの所持品  22/23

 パーソナル マップ  (94)
 フォーチュン ダイス  (807)
 鋼鉄製のダガー  〈Dグレード〉〈超軽量級〉
 グワッサング貴婦人の高級日傘 (5) 〈Dグレード〉〈超軽量級〉
 グワッサング貴婦人の高級雨傘 (5) 〈Dグレード〉〈超軽量級〉
 スパイダーシルク製の手袋  (10) 〈Eグレード〉〈超軽量級〉
 樫の木製の小型盾  (6) 〈Eグレード〉〈超軽量級〉

 手触りの良い スパイダーシルク製の衣装鞄

 入)スパイダーシルク製のエプロンドレス  (5) 〈Eグレード〉〈超軽量級〉
 入)スパイダーシルクの女性用肌着  (20) 〈Eグレード〉〈超軽量級〉
 入)スパイダーシルクのブラジャー  (15) 〈Eグレード〉〈超軽量級〉
 入)スパイダーシルクの女性用下着  (20) 〈Eグレード〉〈超軽量級〉
 入)スパイダーシルク製のガーターベルト  (10) 〈Eグレード〉〈超軽量級〉
 入)スパイダーシルク製のストッキング  (20) 〈Eグレード〉〈超軽量級〉
 入)他の袋10枚

 丈夫で滑らかな スパイダーシルク製の背負い袋

 入)チタン製の寸胴鍋 大理石製のフライパン 鉄製のお玉杓子 鉄製のフライ返し
   分厚いオーク材のまな板  チタン製の万能包丁(2)

 洗練されたデザインの スパイダーシルク製の小物入れ

 入)銀製のスプーン フォーク ナイフ等々のデーブルセット

 柔らかく丁寧に仕上げられた スパイダーシルク製の食器入れ

 入) 高級絵皿 深皿 ボウル ティーカップ等々

 通気性の良い スパイダーシルク製の背負い袋

 入) 食材多数

 スパイダーシルク製の投網  (30) スパイダーシルクの糸玉  (624)
 スパイダーシルク製のハンカチ (30) スパイダーシルクの敷布  (20)
 リフレッシュ ストーン (5) 冒険者の松明  (339)
 火の付いた冒険者の松明  蟻の力の秘薬  (17) 裁縫セット  (2)
 上流階級の水筒 〈オミカン水〉〈2000mL〉


 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■








 草を踏み締め、茂みを掻き分け、前へ前へとひたすらに歩む。
 空腹と疲労、孤独に絶望といった様々なものに打ちのめされた、力無い足取りで。

「あっ、うまそ──じゃねえや!」

 目の前の葉っぱに止まった甲虫を一瞬の葛藤の後に払い除ける。

「俺っちトカゲじゃない。トカゲじゃないから。カリオカだから。カナブン食うとか絶対ないから」

 イモリ人間の種族ドゥックマットのエトラーゼであるリザードは、自己暗示にも似た独り言を呟いた。
 肉体の方は問題なく消化吸収できるのだが、元人間の精神がそれを許さない。気を抜くとパクッと行きそうだから余計に許せないのだ。
 我慢して嫌々食べるのならともかく、本能に負けて食べるなんて真似をしてしまったら、自分はきっと後戻りできなくなってしまう。身も心も人間ではない怪物になってしまう。
 ほとんど妄想に近い忌避感なのだが、リザードの心には衝動を抑えきれず最悪のケースに陥った元相棒の姿が焼き付いている。
 それはそのまま、彼の深層心理における明確な一線となっていた。
 だから、越えるわけにはいかない。

「のぉぉ……ぶり返してきたぁぁぁ…………ッ!!」

 どんなに滑稽に見えても、いかないったらいかないのだ。

「食料を選んどきゃな~」

 空腹を紛らわすために、真新しい失敗の記憶を混ぜ返す。

「欲なんて張るもんじゃねえよな~」

 恐ろしい女髑髏に睨まれて気が遠くなったかと思えば、何処とも知れぬ森の中。
 そのすぐ後に提示されたクエスト報酬なる物の中から、リザードは迷わず《財宝》を選んだ。
 貧困に喘ぐファヴェーラの悪環境で生まれ育った者としては、当然の選択と言えるだろう。
 彼は生来の守銭奴なのだから。金銭への執着は人一倍強いのだ。
 生まれ変わってからは更に更に、深く激しく。

 抑え込んでいる衝動とはまた別の、人間らしい欲望。それを捌け口とする事で、リザードは自らのアイデンティティを保っているのである。
 無意識の内に、自分はトカゲでもイモリでもないという矜持を守っているのだ。
 浅はか愚かとおかしきゃ笑え。例え紙切れのように薄っぺらくとも、破り捨てては生きていけぬ。
 安い欲望に流される小人である事。それこそがリザードにとって最も適した自己保存の方法なのであった。
 要するに、金儲けこそが癒やし。
 己の衝動を忘れさせてくれる一服の清涼剤というわけである。



 ◆ 茶壺 『松島』 〈レジェンダリ〉〈永久不変〉

   詳細: ???



 でも、これはないわー。

 選択してすぐアイテム欄に収められたクエスト報酬を改めて手に取り、深く深く脱力する。
 精一杯の色眼鏡を掛けてみても無理。歪な形をした小汚い壷にしか見えない。一体こいつのどこら辺が財宝だというのだろうか?
 かろうじて分かるのは、恐らく多分勘が告げるに日本の古美術品であろうといった事くらい。
 詫び寂びの精神も芸術を解する心も持たない元ブラジル人には、余りにも荷が重い代物であった。

「もっとこう宝石とか、金ピカのやつが欲しかったな~」

 この場にアヤトラが居たら『松島』の価値を見抜いて大喜びしていた事だろうが、生憎と今のリザードは孤独な迷い人。頼ったり分かち合ったりする相手など居ようはずもなく、気分は滅入る一方だった。
 残り少ない干し肉を咀嚼しながら人里との出会いを求めて、独り茂みの中を行く。


「おおおっ!?」

 転機は突然に訪れた。
 とにかくマップの端へ端へと歩を進めること九日目の夜。命に関わる散々な紆余曲折を経て、ついにリザードは森からの脱出に成功したのである。
 しかも人里が目前。これほど嬉しい事はない。
 視界一杯に広がる畑の案山子達が、まるで歓迎してくれているかのように風を受けて揺れ動く。
 ザッと見渡すに田舎の農村といったところだろうか? 作物の実り具合からして収穫は間近。彼方に点在する人家の灯りがとてもとても眩しく映る。豊かで素朴で実に良い。
 心穏やかな眺めだ。

「オ~~ゥ! エクセレンテッッ!!」

 リザードは感動に打ち震えた。

「やっほ~い! 食べ放題だぜ~!!」

 そして早速、盗みを働く。
 小悪党の本領発揮である。元々そういったケチな仕事を生業にしていただけあって、実に素早い行動だった。

「んんっま~い!」

 人参っぽい野菜を怒濤の勢いで引っこ抜いては姉さんからもらった袋の中へ次々と。大根、ニンニク、テンサイ、タマネギ。味見を欠かさず手を休めず、新しい彩りへと食指を伸ばす。
 土の付いた生の根菜類をバリバリと囓る、怪人イモリ男の誕生であった。
 彼にしてみれば昆虫食のみがタブーなのであって、それ以外なら全然何も問題はないのだ。
 野菜なら人間の食い物だし、生で食べても平気だし。現に食ってる自分が平気だし。

「俺っち、ベジタリアンになっちゃうかも~!」

 そういう現実逃避気味な心理が食欲増進へと繋がって、もう堪らない止まらない。
 遂に人間性をかなぐり捨てたかとも言える奇っ怪な姿だったが、当の怪人は至って上機嫌かつ普通のつもりだからタチが悪い。余りにも迷惑な畑荒らしである。
 まともな神経の持ち主が遭遇したならば、確実に腰を抜かすであろう。
 もし、これがアメリカなどの農村であれば散弾銃を担いだ逞しい農夫がすっ飛んできてUMA発見、即ファイヤーとなるところなのだが、こちらの世界は色々と事情が違っていた。

「…………あれ? うそ?」

 少なくとも、この村には泥棒を警戒して夜回りをするような農夫は居ない。
 その代わりに畑の守りを請け負う番人が存在するのだ。



 ◆ スケアクロウ  LV 2 〈魔法生物〉〈サイズ S〉

   HP 30/30 MP なし CP なし  
   STR 12 END 12 DEX 6 AGI 10 WIL 5 INT 7
   最大移動力 70 戦闘速度 80
   通常攻撃 叩き 2D6+2  突進 叩き 3D6+4
   防護点: 3 (斬り 刺しボーナス無効) 毒無効 精神無効 衝撃無効 炎に弱い
   特殊能力: 田畑は友達 (田んぼや畑などの開墾された地面と接している限り、毎ターン 2D6 点のHP回復効果)

  詳細: 田畑の番人として作成された案山子型ゴーレム。
       材料が藁や竹や泥といった非常に安価で容易に入手できる物ばかりなので、
       魔法学院などの教育機関におけるゴーレム作成の初歩の課題としてよく扱われる。



 ◆ スケアクロウ バーサーカー  LV 4 〈魔法生物〉〈サイズ S〉

   HP 50/50 MP なし CP なし  
   STR 14 END 14 DEX 8 AGI 13 WIL 5 INT 7
   最大移動力 80 戦闘速度 110
   通常攻撃 叩き 3D6+2  突進 叩き 4D6+3  牙 刺し 2D6+3  鎌 斬り 3D6+3
   防護点: 5 (斬り 刺しボーナス無効) 毒無効 精神無効 衝撃無効 炎に弱い
   特殊能力: 田畑は友達 (田んぼや畑などの開墾された地面と接している限り、毎ターン 2D6 点のHP回復効果)
           吸血 (噛み付きで与えたダメージの半分をHP回復に用いることができる)

  詳細: 生き物の血が染み込んだ土壌から養分を吸収したせいで凶暴化したスケアクロウ。
       血の味が忘れられないためか、田畑に侵入した者を切り刻んで養分にしてしまう。



「あははははは……。いやぁどうも、ご苦労さんです~」

 自分が十体近くもの動く案山子に囲まれている事に気付いて、乾いた笑い声を上げるリザード。
 その内の数体に備わった鋭い牙と小さな鎌らしき刃物には、思わず十字を切ってしまった。
 どう見ても、畑から追い出す程度で済ませてくれる相手ではない。

「坊ちゃん、助けてぇぇ~!!」

 逃げ出すイモリ、追う案山子。
 どうやら足は人並みのようだが、如何せん数が多くて振り切るのは難しい。

 結果として怪人イモリ男は、お化け案山子の集団に一晩中追い回される羽目になった。
 完全な自業自得と言えよう。
 泥棒の命などファンタジー世界の田舎では考慮する必要すらない、抹殺されて然るべきものなのである。



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 名前: テンダリウス・ローバーノ・フルシュシシニグラウクル・ボンガボンガ・バンガーバンガー四世

 種族: ドゥックマット  性別: 男性  年齢: 23

 LV 2  クラス: シーフ  称号: 畑の怪人

 DP 2 (現在までに19p使用)

 HP 25/25  MP 39/39  CP 28/28(23+20%)

 STR 4  END 7  DEX 22(+4)  AGI 24(+4)  WIL 10  INT 9(+2)

 アイテム枠: 10/11

 装備: スパイダーシルク製のチュニック  〈Eグレード〉〈超軽量級〉
      スパイダーシルク製の尻尾穴付きズボン  〈Eグレード〉〈超軽量級〉
      スパイダーシルク製の肌着  〈Eグレード〉〈超軽量級〉
      スパイダーシルク製の尻尾穴付き下着  〈Eグレード〉〈超軽量級〉

 防護点: 2 (装備+2)

 習得技能枠: 25/25

 戦闘技能: 回避 61.2(+25) 投擲 36.8(+10) 細剣 36.0(+10) 超常抵抗 22.2

 一般技能: 忍び 50.5(+10) 隠れ身 51.7(+10) 探知 39.9(+20) 気配感知 55.5(+20) 魔力感知 40.7(+20) 
         聞き耳 44.0(+20) 視認 48.1(+20) 交渉 49.7(+10) 観察 32.4(+20) 演技 8.5 
         行進 21.9(+10) 登攀 35.1(+20) 軽業 20.3(+10) 追跡 14.8(+15) 尾行 32.5(+15)
         罠設置10.5(+10) 語学 2.4  解読 1.3  偽装 15.2(+10) 隠匿 14.0(+10)
         生存術/森林 5.8

 習得特技・魔法枠: 8/5(+3)

 特技: [盗賊の眼]  [盗賊の指]  [虚実の心得]  『軽業回避Lv 4』  『ピックポケットLv 2』
      『錬磨集中Lv 2』  〈見えざる狩人Lv 2〉  〈毒液精製Lv 1〉

 魔法: なし

 特性; 反射神経  鋭敏感覚  鉄の胃袋


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 DP2+12取得 HP+9 MP+10 CP+5  技能枠+5 技能を5つ習得
 特技【見えざる狩人】をLv 2に(高難易度なのでDP8消費)
 特性【鉄の胃袋を】を取得  クエスト報酬は《財宝》を選択(茶壺 『松島』を入手)

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 リザードの所持品  10/11

 パーソナル マップ  (11)
 フォーチュン ダイス  (103)
 茶壺 『松島』
 特殊樹脂製のタワーシールド 〈Dグレード〉〈軽量級〉

 軽くて丈夫な スパイダーシルク製の背負い袋

 入)替えの衣服と下着  他の袋3枚

 やや作りが粗い スパイダーシルク製の背負い袋

 入)お子様用の水筒 〈空〉 ワインボトル 〈空〉 大型の水筒 〈ブランデー〉〈2470mL〉
 入)竹製の水筒 〈精製水〉〈420mL〉 

 ちょっと綺麗な スパイダーシルク製の背負い袋

 入) 蟻の力の秘薬  (3) 蜂の一刺しの秘薬  (3) 蝗の躍動の秘薬  (3)
 入) ケタの干し肉  (7)

 拳大の石  (264) 冒険者の松明  (182) 麻製のロープ  (170)



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 目を覚ましたウェッジは、差し込む光と染み渡る冷たさに天地が引っ繰り返る想いだった。

 つまり、訳が分からない。
 大混乱だ。何がどうしてどうなった? 自分は誰だ? ただのウェッジだ。名字はない。日本人の父と母の間に生まれた三人兄弟の真ん中だ。確か、もうすぐで17歳。こっちの身体は18歳。
 生まれ変わって、ウェッジになった。
 よかった。記憶喪失じゃない。ちょっと抜け落ちているだけだ。
 右手で溜まった涙を拭い、

「……え? ええええっ!?」

 身を起こそうとして、沈み込む。
 沈む沈む。冷たい苦しい踏ん張れない。辺り一面真っ青だ。コップ数杯分の水を胃に流し込んだところで、ようやくウェッジは自分が今まで水面に浮いていたのだと思い至った。

「……ッ!」

 頭上で揺らめく陽光に手を伸ばし、必死になって水を掻く。だが、沈む。無為に出来上がる気泡の奔流が青年の恐慌に更なる拍車を掛けた。
 無意識に開けた口から、貴重な酸素が昇っていく。
 泳いだ事はある。しかし、溺れた経験は持ち合わせていなかった。
 どうしていいのか分からない。足掻く事しかできない。
 足掻いて足掻いて……。

「お――――ぼほっ!?」

 吹っ飛んだ。

「ちょっと待ってぇぇ!!?」

 全身に走る衝撃、鈍痛、浮遊感。
 何故だか一転、水面を見上げる羽目になっている。空中へと跳ね飛ばされたのだ。
 巨大な何か……恐らくは、生き物の手によって。

「――のぅおおおおおおおおお!!」

 突き抜ける猛烈な危機感から逃れようと、空中を泳ぐウェッジ。
 水面を割ってその何かが現れたのは、ほぼ同時の事だった。
 目一杯に開かれた、どでかい顎だ。口腔まではっきりと見える。10センチ近くある牙が内に外にと傾いて歪に生えているのは、獲物に食いついて引き裂くためだろうか? 想像するだに痛そうな歯並びの持ち主だ。
 その先を掠めて、背中から落ちる。
 みっともなく足掻いていなければ確実に牙の餌食なっていただろう。もう、ここ最近は何もかもがギリギリの連続である。
 当然ながら再び没した水中では、巨大顎の主の全体像が見て取れた。

 ……えー?

 犬猫くらいにゃ馴染み深い。
 なのに、誰もその実態を知らない。身近なようで果てしなく遠い奴。
 ほとんどの現代人にとって、そいつは絶滅動物の代名詞とも言える存在だった。

 恐竜である。

 正確には首長竜。ジュラ紀、白亜紀に栄えた水棲爬虫類の総称だ。
 目の前のこいつは大きく口が裂けた鰐のような頭部、左右にくねる細長い尾、胴体には四本の足の代わりに櫂を思わせる四枚のヒレ足と、首こそ長くはないもののそれに相応しい外観を備えていた。
 しかも、大いに見覚えあり。



 ◆ リオプレウロドン  LV 10 〈水棲爬虫類〉〈サイズ LL〉

   HP 260/260 MP 40/40 CP 150/150
   STR 80 END 45 DEX 7 AGI 15 WIL 8 INT 4
   最大移動力 90 戦闘速度 120
   通常攻撃 叩き 10D6-2  突進 叩き 13D6+6  牙 刺し 10D6+2
   防護点: 15
   特殊能力: 水中適応 (水中での行動に制限を受けなくなる)
           地上不適応 (地上での行動に制限を受ける)

  詳細: ナイフのような鋭い牙を持つ魚竜の一種。
       本来は海棲爬虫類なのだが、アリュークスに住む種は淡水と海水の両方に適応している。



「ビおぶげぶごぼンバっ(リオプレウロドンだっ)!!」

 ウェッジは意外なところで博識な奴だった。
 恐竜マニアなら状況も顧みず感動に打ち震えていた事だろう。細かい違いこそあれど、海外のドキュメンタリー番組で動いていたCGまんまの姿なのだから。
 自分もエサという立場でさえなければ、もう少し見入っていたかった。

「どぼおおおおお!」

 背けた顔の間近を半開きの口が通過する。
 感動には程遠い眺めだ。作り物やモニター越しからでは決して味わえない生の迫力やら躍動感といったものは、この場合、恐怖心を煽る悪意に満ちた演出でしかなかった。
 今の状況が夢や幻ではないのだと、嫌でも思い知らせてくれる。
 そうだ。現実だ。じゃあ何ですか? ここは一億五千万年くらい前のヨーロッパの海ってわけですか? それにしちゃあしょっぱくないぞ? 海の水が塩水だってのは嘘だったのかー。くそー。この分じゃ人体が水に浮くって話も嘘っぽいなー。
 とにかく冷静になろうとしても、浮かんでくるのは益体もない事ばかり。
 逃れる術はない。正面から迫るリオプレドンの顎は今度こそ自分を捉えるだろう。

 ……あ、虫歯がある。

 この期に及んでの無意味な発見には、我ながらアホかと思った。
 まあ、アホならアホでしょうがない。尊敬する8歳児のように最後まで諦めずにいよう。
 覚悟を決めるウェッジ。

「――っごばば!?」

 そんな彼を弄ぶかのように、衝撃は思いも寄らぬ方向から来た。
 左斜め下から何かがぶつかってきたのだ。
 そのまま気泡を撒き散らしながら水面へ。空気の美味しさと太陽の眩しさに朦朧としている間に見事な手際で持って行かれる。
 どうやら泳ぎの達者な誰かに助けられたらしい。
 程なくして、横たえられた固い地面の感触に安堵する。

「……っ……た、助かりました。どうもありがとうございます」

 お礼を言えたのは、一頻り咳き込んだ後。仰向けになって喘ぐ自分を覗き込む気配に気付いてからだった。

 ……どこの人だ?

「あ、あの、オレはウェッジって言います。ウェッジ。分かりますか?」

 段々と焦点が合ってきた救い主の顔に困惑し、とりあえず名前だけを告げてみる。
 どう見ても外国人だったから。日本語が通じるか不安になったのだ。

「うぇっじ……?」

 歳は自分よりもいくつか下。多分、中学生くらいだろう。艶やかな褐色の肌と綺麗なアーモンド型の目は、インドやパキスタンといった南アジアに住む人々を連想させる。野性味に富んだ凛々しい顔立ちの少女だった。
 ちなみに、濡れそぼっているせいか随分と色っぽく見える。
 彼女の顎から自分の頬へと滴り落ちる水滴の温さが、無性に我慢ならなかった。
 決して興奮しているわけではない。

「ウェッジ……は、スゥイッド?」
「え? いえ、違います。日本人です。……こう見えても。アイアム・ジャパニーズ」

 むしろ、その逆だ。

「ニホン? それ、ウェッジのクニの名前?」
「はい。ええと、ご存じありませんか? ……ありませんよね」

 どえらい寒気がする。

「スゥイッド、種族の名前。牙、爪、角ない。尻尾ない。あと毛皮に鱗に殻とか甲羅とか……とにかく、何にもないヒトのこと」

 片言の日本語を喋り、無邪気に笑う少女の様子に、本能的な恐怖を覚えたのだ。

「…………なくて普通だと思うんですけど。人間には」
「ううん。フツーは必ず、どれかある。ないの、スゥイッドだけ」
「そ、そぉぉなんですかぁぁぁ……ああっ、爪ならありますよ! ほら!」
「あはははっ! ウェッジおかしい! それ、爪言わない!」

 言葉は通じても人間と会話している気がしない。
 慌てて誇示した指先は、少女の印象を凛とした美人の年下から天真爛漫な危ない娘さんへと変えただけだった。

「――爪。こういうの言う」

 更にそれを、眼前に差し出された手が覆す。

 グローブ!?

 人の頭くらい軽く握り潰せそうな、鱗に覆われた大きな手。指の間にあるのは水掻きだろうか? 肉厚で鋭い爪はまるで刃物のようだった。
 ついさっき見たリオプレウロドンの牙と同じ。狩り殺すための武器に他ならない。
 これじゃあ、爪というより鉤爪だ。
 持ってる奴は人間じゃないだろう。……どう考えたって。

「ないならウェッジは、スゥイッド」
「たっ、た、たたたた、確かにっ! その基準だとそうなるかもしれませんね!
 けど、仮にオレがスゥイッドだとして何か不味いことでもあるんですか!?」

 広がる少女の笑み。

「マズくない。スゥイッドは美味しい」

 そこから覗く乳白色の健康美。特に犬歯の発達具合は物凄かった。
 対するウェッジは引きつりきった哀れな笑み。
 恐る恐る下げた目線の先には、最低限の布地が隠す豊満な胸と浅く割れた腹筋と、揺れる水色ピンク色。
 ぬめりと生々しい光沢を放つ、大蛇の下半身があった。



 ◆ アクア ラミア  LV 8 〈幻獣界 亜人目〉〈サイズ M〉

   HP 180/180 MP 125/125 CP 140/140
   STR 38 END 32 DEX 10 AGI 16 WIL 12 INT 12
   最大移動力 98 戦闘速度 150
   通常攻撃 叩き 5D6  鉤爪 斬り 6D6+2  牙 刺し 5D6+2  尻尾 叩き 7D6+4
   防護点: 10 冷気+20 水霊術+20
   特殊能力: 水中適応 (水中での行動に制限を受けなくなる)
           水霊術 (水霊術系の魔法を行使する)
           吸血 (噛み付きで与えたダメージの半分をHP回復に用いることができる)

  詳細: 水辺の環境に適応したラミアの亜種。
       主に幻惑系の魔法を得意する原種とは異なり、水霊術への高い適性を持つ。



「スゥイッド、とても美味しくて、とても身体に良い。
 村のみんなも街のみんなも、仲間じゃないみんなもそう言ってた」

「そんなの迷信です!」
「食べればわかる」

 とんでもねー。この答えは、ある意味予想通りと言うべきか。

「おお、お断りします!!」

 素早く上体を起こして後退るウェッジ。余裕たっぷりに迫る少女。
 鼻に掛かる吐息は生臭いかと思いきや、バニラのように甘い香り。獲物をリラックスさせる効果でもあるのだろうか? フェロモンだとしたら香水いらずの優れものだ。

「ワタシ、ナングからウェッジ助けた。だから、足一本くらい構わない」
「構います! かまいますって!」
「……腕一本?」
「嫌です!」

 そんなわけで下がっては迫り、下がっては迫り……。

「じゃあ、一口だけ」
「嫌です!」
「ひとくち」
「嫌です!」
「ひーとーくーちー」
「いーやーだー!!」

 一向に埒の明かない押し問答を繰り返す両者。
 少女の方には遊んでいる節さえあるが、ウェッジの方は怖気の立つ身体を動かすのに必死だった。
 小さな自分のどこを囓らせても骨ごと持って行かれると思ったのだ。その一口が致命傷。腹なら洩れなく大事な臓器がさようなら。出血多量でお陀仏だ。
 いや、その前にショック死か。

 一体何でいきなりこんな……っ!?

 こんな悪い夢みたいな目に遭っているのか?
 考える暇もない。
 逃げる余地すら与えてくれない。
 そしてやがて蛇の尾が絡み、牙が迫り肉を裂く。


 人生最大の痛みと喪失に、年若いエトラーゼは声を上げて泣き叫んだ。



 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■


 名前: ウェッジ 

 種族: 人間  性別: 男性  年齢: 18

 LV 2  クラス: ウィンド メイジ  称号: なし

 DP 4 (現在までに17p使用)

 HP 21/21  MP 30/30(25+10%)  CP 32/32

 STR 10  END 7  DEX 10  AGI 16(+5)  WIL 13(+3)  INT 12(+2)
  (能力成長ボーナス+5/48%)
 アイテム枠: 10/10

 装備: スパイダーシルクの胴衣  〈Eグレード〉〈超軽量級〉
      スパイダーシルクの下穿き  〈Eグレード〉〈超軽量級〉
      スパイダージルクの肌着  〈Eグレード〉〈超軽量級〉
      スパイダーシルクの男性用下着  〈Eグレード〉〈超軽量級〉
      スパイダーシルクの靴下  〈Eグレード〉〈超軽量級〉
      スパイダーシルクのブーツ  〈Eグレード〉〈超軽量級〉

 防護点: 2 (装備+2)

 習得技能枠: 19/20

 戦闘技能: 回避 52.9(+15) 風霊術 47.1(+30) 放出 22.8(+10) 超常抵抗 0.7  短剣 0.1

 一般技能: 語学 11.8  観察 34.6  楽器演奏/フルート 16.0  気配感知 31.5(+15) 魔力感知 24.8(+15)
         探知 13.7  忍び 28.6(+10) 行進 63.0(+35) 解体 0,4  調理 0.8
         アストラル制御 1.1  偽装 0.3  隠匿 0.4  解読 0.5

 習得特技・魔法枠: 5/8

 特技: ★精密射撃Lv 1

 魔法: ★風象制御Lv 1  ★突風Lv 1  ★風の魔弾Lv 1  ★増速の気流Lv 1

 特性; 愛嬌  風の一族  天性の射手  韋駄天の足  動体視力


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 DP2+12取得 HP+7 MP+6 CP+10  STR+5 END+2 DEX+1 WIL+3 INT+4
 アイテム枠+1  技能枠+6  技能を4つ習得
 特性【動体視力】を取得  クエスト報酬は《能力成長ボーナス》を選択(能力値の合計に+5)

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 ウェッジの所持品 10/10

 パーソナル マップ (14) フォーチュン ダイス (131)
 特殊樹脂製のタワーシールド 〈Dグレード〉〈軽量級〉

 暖かみのある スパイダーシルク製の背負い袋

 入)替えの衣服と下着 他の袋3枚

 何処となく大味な スパイダーシルク製の背負い袋

 入)鉄製のフライパン  鍛鉄製の鋭い包丁  小説 レディ・ダークの騎士団 第二巻
 入)紀行 世界の魔境から 上巻  紀行 イータ・ビーの夢奇聞 第四巻  図鑑 魔界遺産 上巻
 入)蜘蛛の歩みの秘薬  (2) 蟻の力の秘薬  (3)  蜂の一刺しの秘薬  (3) 蝗の躍動の秘薬  (3)

 冒険者の松明 (35) 豚肉の塊  (21) ナングの卵  (26)
 スマイリーキャベツ  (47) オミカン  (19)

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 ヨーゼフは繰り広げられる美しき惨劇に眼を奪われていた。

 右手に携えられた水の剣が閃く度に血が渋き、虚空に儚いアートを描く。
 左手に握られた流水の鞭が風を切って煌めく毎に、悪党共が死を賜る。


 一切の虚飾なく語れば、それは単なる殺し合いに過ぎないだろう。
 キャラバンを襲う山賊団と護衛に付いていた傭兵達との戦い。危険と噂される街道を旅していれば、月に数回の頻度でお目に掛かれる光景である。
 今回も少しばかり敵の数が多すぎるというだけで、ほぼいつも通りの流れだった。
 さして面白い展開ではない。
 キャラバンの連れ達は真っ青になって右往左往していたが、ヨーゼフだけは冷静に推移を眺めていた。
 このままいけば山賊側の勝利に終わるだろう、と。
 半ば他人事のように思うだけ。

 元々、誇りも何も抱いていなかった交易商人の仕事である。
 愛も理想も情熱もない第二の人生である。
 エトラーゼとして受けた生を、ヨーゼフは色褪せた夢のようなものと見限っていた。
 無為に過ごしていた。
 だから何処で死のうと構わない。
 例え、どんなくだらない死に方であろうとも。
 前世のように家族を巻き添えにしないだけ、こちらの方が楽に済むというものだろう。

 ……楽に済む。そうか。自分は楽になりたかったのか。
 ニヒルに笑うヨーゼフ。しかし、事態は彼の思うようにはならなかった。
 颯爽と駆け付けた一人のエトラーゼの活躍によって、キャラバンの命運は守られたのである。


 エトラーゼの名はアヤトラ。
 黒髪黒目のハーフエルフの少年で、まだほんの3レベルだというのに恐るべき強さだった。
 現に、倍以上のレベルを誇っていたはずの山賊の頭目を1分足らずで屠ってみせたのだ。疑いようのない規格外ぶりと言えるだろう。
 一傷も負う事なく敵対者を仕留めていくその様は、狂おしいまでに華やかで、決して侵してはならぬと思える輝かしさを放っていた。
 これはもはや芸術だ。生きた神秘の塊だ。
 舞い踊るように死を撒き散らしていく彼の姿は、まるで天へ還らんとする御子のよう。
 賛美の言葉が尽きぬほどに浮かんでは声にならずに消えていく。
 これが、これが、【伝説の化身】というものなのか。
 話には聞いていたが、目にするのは初めて。一体どのような前世の持ち主であったのか? 非常に興味をそそられる。

 ヨーゼフは魅入られていた。
 その美貌、その怖ろしさ、その一挙手一投足。



 ◆ 夢見る乙女のステージ衣装 『アイドルハート』 〈Cグレード〉〈超軽量級〉

   詳細: 乙女の花形職業であるアイドルのために作られたステージ衣装。
        意地の悪いライバルにハサミを入れられても何のその。
        破られても燃やされても元に戻る自動修復を始めとした様々な魔法が掛けられている。

         防護点: 4
         耐久度: 120/120
         特殊効果: 〈自動修復〉〈サイズ調整〉〈良い香り〉〈反応判定+3〉〈炎熱防護+5〉
                 〈氷冷防護+5〉〈精神防護+5〉〈魔法防護+5〉〈歌唱+10〉〈踊り+10〉〈演技+10〉
         制作者: 〝衣の伝道師〟 アブドゥル・ドゥバ・ドバド



 そしてその身を飾る、桜色のステージ衣装に。

 彼のステータスには〝男性〟と明記されていたが、超似合ってて超カワで超華麗だから超どうでもいい。
 オカマ小僧などと失礼な感想を抱く奴は国家不穏分子だ。敗北主義者だ。銃殺刑による粛正こそが相応しい。
 ヨーゼフは熱狂していた。
 目頭が熱くなり、張り裂けんばかりに鼓動が高まる。転生してからは久しく覚えのなかった感覚である。
 いや、もしかすると初めてかもしれない。前世の記憶を掘り返してみても、これほどの感動はなかったように思える。

 彼が剣と鞭を振るい、流麗なステップを刻む。
 ヒラヒラと揺れるフリル付きのスカートから覗く大腿部の、何と扇情的で神々しき事か。
 その直後に走った一瞬の眩しさなどは、もはや感受の極みである。
 舞い上がったスカートの中身を見て、ヨーゼフは心臓が二つに割れたかのような衝撃を受けた。


 ふんどし……!!!


 ふんどしでござるかッッ!!!


 前世において同盟国の間柄であった日本の文化と風俗に、まさかまさかこんな所でお目に掛かれようとは……。
 即ち、アヤトラ殿はジャパニーズで武士。もののふ。オサシミ。サモラーイサモラーイ!!

 大興奮、大喝采。
 誰も与り知らぬ間に、更なる深みへと嵌っていくヨーゼフ。
 これこそが、後にアイドルプロデュースの先駆者として不動の名声を得る男の、覚醒の一幕であった。




 アヤトラの名誉のために付け加えておくと、彼は別に女装趣味からアイドル的な格好をしていたわけではない。

 クエスト報酬として手に入れた、動きやすくて丈夫な衣服を着ているだけのつもりだったのだ。
 そもそもアヤトラは戦国時代の武士階級。スカートの知識もなければ、それが女性用のデザインだという認識もない。ピンク──もとい桜色を基調とした布地が涼やかに見え、フリルも何やら傾いた飾り程度にしか思えなかったのである。
 つまり、とてもお洒落な着物だと勘違いした。
 まあ、仮にアイドルのステージ衣装がどういう物か知っていたとしても、自信過剰の彼なら袖を通すくらいはしただろうが、知らなかったのだから仕方ない。
 粋に着こなしていると得意満面でいた本人がすっかり気に入ってしまったのも、また仕方のない事である。
 今更、それは女物な上に普段着にするような代物ではないと指摘を受けたところで、改まる事はないだろう。

 戦国時代の武士には、ことファッションに関して我が道を征く輩が非常に多かったのである。
 アヤトラもそんな時代の最先端を自負するお洒落さんの一人。奇特なまでに傾いたセンスの持ち主だった。
 だから、選択したカテゴリーの中からランダムで渡されるはずのクエスト報酬がフリフリピンクだったのも、ある意味では必然。運命の悪戯と言えるだろう。


 幸か不幸か、どんなに乱暴に扱っても勝手に修復される魔法の衣装は、サムライボーイの愛用の一着として末永く輝き続けるのであった。

 そしてやがて、世界の何処かで〝毘沙門系男の娘〟という珍妙不可思議な異名が轟く事になる。




 ……………………わけねーだろ。



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 名前: アヤトラ

 種族: ハーフ エルフ  性別: 男性  年齢: 12

 LV 3  クラス: スカウト  称号: 拙者はアイドル

 DP 8 (現在までに52p使用)

 HP 46/46  MP 61/61  CP 61/61(51+20%)

 STR 16(+2)  END 12(+2) DEX 18(+3) AGI 22(+3) WIL 27  INT 16(+2)

 アイテム枠: 10/10

 装備: 夢見る乙女のステージ衣装 『アイドルハート』 〈Cグレード〉〈超軽量級〉
      スパイダージルクの子供用肌着  〈Eグレード〉〈超軽量級〉
      スパイダーシルクの下帯  〈Eグレード〉〈超軽量級〉
      スパイダーシルクの子供用靴下  〈Eグレード〉〈超軽量級〉
      飾り付けられたスパイダーシルクの子供用ブーツ  〈Eグレード〉〈超軽量級〉

 防護点: 5 (基本+1 装備+4) 炎熱+5 冷気+5 精神+5 魔法+5

 習得技能枠: 34/35

 戦闘技能: 回避 71.2(+30) 鞭・鎖 50.8(+10) 水霊術 56.4(+15) 体術 42.0  気功術 40.3
         超常抵抗 31.3  刀 22.5  放出 19.4(+5) 投擲 8.3(+5)

 一般技能: 探知 34.8(+10) 観察 50.6(+10) 忍び 38.4(+10) 隠れ身 34.2(+10) 罠設置 23.3(+5) 
         罠作成 29.0(+5) 罠解除 19,0(+5) 気配感知 50.1(+15) 魔力感知 44.4(+5) 登攀 16.0(+5)
         追跡 30.0(+10) 尾行 36.0  視認 43.7(+25) 聞き耳 40.6(+5) 戦術 34.6(+10)
         指揮 69.8(+40) 魔物知識 40.2  行進 34.3(+5) 歌唱 46.9(+30) 踊り 37.0(+20)
         演説 33.6(+30) 語学 10.5  解読 12.7  偽装 15.7(+10) 隠匿 16.0(+10)

 習得特技・魔法枠: 30/27(+3)

 特技: [虚実の心得]  [斥候の心得]  『早撃ちLv 1』  『早駆けLv 2』  『★看破Lv 4』
      ★鼓舞Lv 2  ★激励Lv 2  ★鎮静Lv 2  ★一喝Lv 2  心頭滅却Lv 1
      不壊不屈Lv 1  剛力招来Lv 2  連撃Lv 1  薙ぎ払いLv 1  精妙撃Lv 1
      絡め取りLv 1  重ね当てLv 2  練気外装Lv 5  言語の習得×1  文字の習得×1

 魔法: 水象制御Lv 1  水の魔弾Lv 1  恵みの水Lv 2  流水の鞭Lv 2  流水の剣Lv 2
      癒やしの滴Lv 2  清めの滴Lv 2  聖なる水Lv 2  水霊の守護Lv 1  時間凍結Lv 5

 特性; 美形  美声  戦将  成長力  主導力  伝説の化身  魔操力


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 DP4+21取得 HP+11 MP+12 CP+8
 アイテム枠+4 技能枠+5 技能を4つ習得  特技魔法枠+1 特技を2つ習得
 クエスト報酬は《衣服》を選択(夢見る乙女のステージ衣装 『アイドルハート』を入手)

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 アヤトラの所持品 10/10

 パーソナル マップ (2001) フォーチュン ダイス (6038)
 特殊樹脂製のタワーシールド 〈Dグレード〉〈軽量級〉

 丁寧に織られた スパイダーシルク製の背負い袋

 入)替えの衣服と下着 他の袋6枚

 真心が込められた スパイダーシルク製の背負い袋

 入)蜘蛛の歩みの秘薬  (37) 蟻の力の秘薬  (19)  蜂の一刺しの秘薬  (41) 蝗の躍動の秘薬  (35)

 丈夫で長持ちな スパイダーシルク製の背負い袋

 入)大きめの水筒 〈ブランデー〉〈390mL〉 徳利型の水筒 〈ブランデー〉〈1500mL〉
 入)持ちやすい水筒 〈ブランデー〉〈2000mL〉 水筒 〈ブランデー〉〈1200mL〉
 入)円筒形の水筒 〈ブランデー〉〈2500mL〉 透き通った水筒 〈ブランデー〉〈2000mL〉
 入)絵柄付きの水筒 〈空〉  ストロー付きの水筒 〈空〉

 小さなワイン樽 〈ブランデー〉〈150000mL〉
 リフレッシュ ストーン  (21)


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 申し子達を迎え入れしは〝アリュークス〟。

 残酷なる世界の名前。

 剣と魔法とテクノロジーが猛威を振るう、尽きせぬ冒険の舞台である。













あとがき


 今回は間話的な感じということで、文体を変えてお送りしてみました。
 若干悪乗りが過ぎたような気もしますが……ダークな脅威が襲ってきても摩耗しないキャラクターが多かったりしますから、こんなモンでしょう。

 今回出てきたクエスト報酬は、DPとは別の扱いでステータスを成長させる手段として設定したものです。
 アイテムなんかも選べて、かなり遊びの幅があります。

 アヤトラのクエスト報酬は、武器か防具か衣服かな~と思って1D6を振ったら衣服。
 そして、適当に作ったリストから3D6で選んだら……アレになっちゃいました。
 別に狙ったわけではありません。女物は3点だけで当たる確率は低めでしたから。

 ちなみに他2点は、巫女装束とスクール水着でした。


 次回からは普通に主人公視点のお話になると思います。
 もしかしたら、所々一人称ではなくなるかもしれませんが、展開はあくまでもゼイロ中心の冒険物ですので、予めご了承ください。

 さあ、どんな酷いシチュエーションに落としてやろうか。
 ランダム転移表の出番です。



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