<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.15918の一覧
[0] フレイムウィンド&ケイオス  (TRPG風 異世界ファンタジー転生物)[ランダム作成者](2010/04/18 12:17)
[1] 1  チュートリアルなど無い[ランダム作成者](2010/04/11 14:23)
[2] 2  『スカベンジャーズ・マンション』 編[ランダム作成者](2010/04/04 11:49)
[3] [ランダム作成者](2010/03/05 19:59)
[4] [ランダム作成者](2010/04/04 10:57)
[5] [ランダム作成者](2011/02/18 06:32)
[6] [ランダム作成者](2010/04/04 10:59)
[7] [ランダム作成者](2010/03/05 20:47)
[8] [ランダム作成者](2010/03/27 12:51)
[9] [ランダム作成者](2011/02/18 06:30)
[10] 10[ランダム作成者](2010/04/11 14:29)
[11] 11  レベルアップ[ランダム作成者](2011/02/13 01:43)
[12] 12[ランダム作成者](2010/04/11 14:35)
[13] 13[ランダム作成者](2010/04/12 10:50)
[14] 14  『エトラーゼの旅立ち』 編[ランダム作成者](2010/04/26 15:42)
[15] 15[ランダム作成者](2011/02/18 06:34)
[16] 16[ランダム作成者](2010/05/09 13:10)
[17] 17  意思ぶつけ作戦[ランダム作成者](2010/05/25 02:19)
[18] 18[ランダム作成者](2011/02/13 02:36)
[19] 19  精神世界の戦い[ランダム作成者](2011/02/13 05:10)
[20] 20  いざ、人生の再スタート      (LV 3にアップ)[ランダム作成者](2011/02/18 22:55)
[21] 20.5  かくして混沌の申し子は放たれた     (主人公以外のステ表記)[ランダム作成者](2011/02/27 14:19)
[22] 21  『帝国からの逃避行』 編     [ランダム作成者](2011/12/07 21:52)
[23] 22[ランダム作成者](2012/03/18 15:13)
[24] 23  リンデン王国を目指して[ランダム作成者](2012/03/19 02:30)
[25] 24  グレーターデーモン     (ティーナのステータス表記)[ランダム作成者](2012/04/05 05:41)
[26] 暫定 キャラクターデータ まとめ[ランダム作成者](2011/02/13 02:00)
[27] 暫定 アイテムデータ まとめ[ランダム作成者](2010/05/20 16:57)
[28] LVや能力値などについての暫定的で適当な概要説明 & サンプルキャラクターズ[ランダム作成者](2011/02/27 14:10)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[15918] 12
Name: ランダム作成者◆f9a7ea31 ID:470fdece 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/11 14:35

 衝撃走るマイネーム決定事件から、約二日後。
 俺を含めた百余名のご同輩達は、上層へと至る途の中に身を置いていた。

 アヤトラが四列になって進む集団の先頭に立ち、シャンディー姉さんが要所要所に網を張りながら最後尾の守りを務める。
 身が軽い上に目端が利いて、おまけに姿まで消せるリザードの奴は斥候だ。能力を活かすために再び全裸になってもらった事は言うまでもない。
 回復したウェッジは、その足のクソ速さを買われて集団の伝令役に収まった。アヤトラの傍に控えて、何かあったら即一っ走りしてもらうわけだ。
 正直、そこまでしなきゃ指示が行き渡らないってほどの人数でもねえんだがな。あくまでも不測の事態に備えてってやつだよ。
 どんなに原始的であろうとも、連絡手段はできる限り多く確保しておいた方がいい。
 無線機も携帯電話もない状態なら尚更である。
 その辺についちゃあ、アヤトラの奴はまったく心配なかったな。
 狼煙や笛や太鼓くらいしか手段のない時代に居たらしいせいか、意思疎通やら集団運用やらに関する用心深さがズバ抜けている。口を出す必要がないから楽なもんだよ。
 おかげで途端に暇になった。

「じゃあ、やっぱり凄いお金持ちなんじゃないですか? それって立派なセレブだと思いますけど」
「セレブ? ああ、セレブリティか。『有名で金持ちで得体の知れない奴』って意味で言ってるのなら、確かにそうだな」
「えぇ!? アメリカじゃセレブってそういう意味なんですか!? 日本とは随分ニュアンスが違いますね」
「まあ、言い方と相手の評判次第かね。俺みたいなのに言うと、やっかみや侮蔑になっちまうんだよ」

 今やウェッジと世間話をするくらいしか、やるべき事が思い付かん。
 こいつも一向に出番がなくて暇そうにしてたからな。アヤトラの手並みを拝見するついでのつもりが、いつの間にやら互いの親交を深める退屈な道行きになってたのである。
 もちろん、だからといって警戒を疎かにしてたわけじゃねえぞ。行列の横っ腹を衝かれそうな場所に差し掛かった時は、ちゃんと毎回フォローできる位置に回っていたんだからな。
 ……結局、何も起きなかったけど。
 いいんだよいいんだよ。トラブルなんて起きないのが一番だ。
 
 しかしまさか、本当に何にも起こらんとは……。

「やっぱり、あの悪霊がほとんど片付けちゃったんじゃないですかねえ?」

 俺の表情から察したのか、誰にともなく呟くように自らの見解を述べるウェッジ。
 確かに見境なしの悪食だったし、証拠らしき無傷の死骸も至る所に転がってるし、あの育ちようを考えるとおかしくはないか。
 ウェッジの言う通り、この二日の間に一度も化け物との遭遇がなかった理由はアレだ。シニガミの仕業なんだろう。あの泣き言の塊がフロア粗方平らげちまったに違いない。
 となると、上に着くまで現状の楽々暇々マーチが続くかもしれねえのか。
 俺は別に構わんが、他の連中がだらけちまわないかが心配だな。
 特に大多数を占める非戦闘員達。こいつらが緊張を欠くとロクな事にならん。……ような気がする。
 さすがの俺も、こんなに大勢の足手まといを抱えて動くなんてのは初めてだからな。懸念はあっても具体的にどんな問題が噴き出すかまではちょっと分からんのだ。
 ガス抜きが必要だってのは分かるんだけどな。でも、一体どうすりゃいいんだか。
 神ボトルを使うのは度が過ぎるし、かといって他に退屈凌ぎになるような事も……?

「……是色よ、其方〝おでゅっせいあ〟を吟じる事は出来るか?」
「…………は?」

 軽く振り向き、明日の天気でも訊くかのような調子で尋ねてくるアヤトラに、俺は思わず呆けた声で返してしまった。
 いきなり口を利いたかと思えばオデュッセイアって……お前、昔々の日本人じゃなかったっけ?

「此処で最初に出会った者が、そのような異国の詩歌に殊の外明るくてな。気晴らしに教えてもらったのだ。
 ──が、十二歌目の辺りで永の別れとなってしまった。出来れば続きが知りたいのだが、しゃんでぃも他の皆も詳しくは知らぬと云う。
 故に、其方に尋ねてみたと云う訳よ。……某も少しばかり暇を持て余していたのでな」

「ふーん、なるほどねえ。まあ、粗筋を語る程度なら……」
「真か!」
「いやー、でも暗唱はできねえぞ」
「拙くとも構わぬ。是非、教え給へ」
「あ、オレも聞いてみたいですね! その……何でしたっけ?」
「オデュッセイア。古代ギリシャの叙事詩の事だ。欧米の知識層にとっては基本的な教養の一つだな」

 聞けば、その前作に当たる〝イリアス〟についても知らないようなので、俺は初めから順を追って語ってやる事にした。
 語るっつっても大仰に吟じるわけじゃなく、背景世界なんかの予備知識を交えながら訥々と──って感じだったんだけどな。慣れない内は何事も、格好付けずに自然体を第一に心懸けるくらいで丁度良いんだよ。
 そんな俺の心遣いが功を奏したのか、教養とは縁遠そうなウェッジの奴も比較的熱心に聞いているようだった。
 一時間が過ぎ、二時間が過ぎる頃には、俺も調子に乗って小芝居なんぞを加えるようになっていった。
 終いにゃあ柄にもなく、揚々と歌なんぞ歌って行進する羽目になってたな。……全員で。
 まあ要するに、どいつもこいつも単調な歩みの中の退屈凌ぎを欲しがっていたってわけだ。
 …………本当に柄じゃねえな。
 こういう発信役はウェッジかリザードかシャンディー姉さんが適任のはずなんだが、物の見事に乗せられちまった。いや、恐れ入ったよ。アヤトラめ、天然なくせしてとんでもねえ聞き上手でやがる。

「其方のお陰ぞ。未来の事に疎き某独りの力では、こうまで上手く皆の憂いを取り除けはしなかった」
「何だ、もしかして狙って話を振ってきたのか?」
「いいや、其方の話を聞く内に段々と楽しくなってきたのでな。此はその、悪乗り悪巫山戯から生じた偶然の結果ぞ」

 謙遜がよく似合うねえ。ちっとも嫌みにならん。
 偶然だろうが事故だろうが、活かしちまえば立派な手柄なんだよ。このサムライボーイが。

「然し、おでゅっせうすの物語と我等の数奇な境遇は、不思議と相通ずる物が有るな……。
 あの者も、そう感じたからこそ某に語って聞かせたのであろうか……?」
「だとしたら、あんたもそいつも大したロマンティストだよ。物語の登場人物と自分を重ねて見られるんだからな」
「ほう、是色は違うのか?」
「さあねえ。けど、少なくともオデュッセウスと被るなんて思う事はねえだろうな。
 何故なら奴には帰るべき故郷があった。待っていてくれる家族が居た。そして……」
「……そして?」

 澄み切ったアヤトラの瞳を真っ向から受け、俺は皮肉たっぷりに口の端を上げた。

「手を貸してくれるオリュンポスの神々が居た。俺達は違う。……だろ?」
「ふむ」
「もっとも、俺の場合はトーテムと精霊の加護以外はお断りなんだがな」
「ふはははっ、確かに! 某も馴染み深い神仏の加護以外は御免被りたい所だな!」

 少年が笑う。
 呵々としながら華やかに、作り物めいた美貌を溢んばかりの人情味と凛々しさに歪めて笑う。
 その横顔はまるで、至極の彩りを得て盛る風と炎のようだった。

 ……狡猾なオデュッセウスとは似ても似つかねえけど、お前だってよっぽどだぜ。
 今なら多分、神話の英雄を名乗ったとしても信じる奴にゃ事欠かねえだろうよ。








 そうして二日目が賑やかに過ぎ、三日、四日と歩みを進め、時はいよいよ五日目へ。

「ひぅえやわゃああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 ようやく辿り着いたマップの空白地帯に足を踏み入れた俺達は、先行するリザードが上げた悲鳴に顔を見合わせた。
 何か見つけたか? それとも見つかったのか?
 透明になれるといってもアヤトラを含めた一部の連中──エルフとかハーフエルフとかいう種族には、あいつの姿が見えるらしいからな。見破れる化け物が居たとしてもおかしくはないだろう。

「皆の者、静まれ! 緩やかに後退し、手前の部屋にて指示を待て! 行くぞ是色! うぇっじは距離を置いて付いて参れ!」
「あいあいさー!」
「わ、分かりました!」

 素早く指示を飛ばしてリザードの救援に向かうアヤトラに付いて駆け出す、俺とウェッジ。
 ……二人とも馬鹿みたいに足が速いから、5秒もしない内に俺が一番後ろを走る事になったんだけどな。

「坊ちゃん助けてェーッ!! 特殊部隊の襲撃だああァァ────ぐぇっ!?」

 これまた段違いの健脚で逃げ込んできた馬鹿を掴んで、引き戻す。
 角を曲がり、足を止めて構えるアヤトラに並んだ時にはもう、未知の敵は目前にまで迫っていた。
 うおおおっ!? 何だこいつら!?


 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■


 サイバー グール  LV 5

 HP ??/??  MP ??/??

 詳細: ???


 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■



 厚みの少ない、ボディアーマーらしきデザインの装甲を身に纏ったゾンビが6体。面付きヘルメットのせいで顔は分からんが、名前からして動く死体の改造版と見て間違いないだろう。
 そんな連中が四つん這いに近い体勢でザカザカザカと寄ってくる眺めは、かなりシュールで脅威的だった。
 ……何というか、えらく近代的な装いの連中だな。
 ゴーグルの赤く光ってる部分は赤外線センサーか? アレでリザードを発見したのかね?

「うわぁ……。何ですかアレは? 忍者ゾンビ?」
「俺に聞くな。危ねえから下がってろよ」
「どうやら、件の〝しゃいたーん〟とやらに邪悪な術を施された屍人のようだな。守りに優れている故、気を付けよとの事だ」

 面食らう俺達の前に立ち、アヤトラが注釈でも読み上げるような調子で告げる。
 観察技能が50.0とか言ってたから、確実に詳細を見ての発言なんだろうな。初見の敵を相手にするには余りにも雀の涙な情報量に、有り難くて涙が出るぜ。

「坊ちゃん、気ぃ付けて!」

 おうよ、言われるまでもねえ。
 リザードの声に被さるようなタイミングで飛び掛かってきたサイバネティックゾンビ野郎の爪を躱し、続けて繰り出されたもう1体の爪を神ボトルで打ち払う。
 ……攻撃手段は、ナイフさながらの鋭い爪だけか。
 素早くてトリッキーだが反撃できないほどじゃねえな。パワーは俺のが上みたいだし、囲まれさえしなきゃあ何とかなるだろ。

「【流水の剣(エレメンタルソード・アクア)】! 哀れな亡者共よ、刀八毘沙門の刃にて黄泉路へと帰るが良い!」

 俺と同じくアヤトラの方も見極めが済んだのか、日本刀の形をした水の刃を一閃させ、1体目の首を跳ね飛ばす。
 凄ぇな……。
 刀は魔法で作ったモンなんだろうが、それを振るう本人の業が尋常じゃない。動く敵の装甲の隙間を狙って斬るだなんてのぁ達人の域だぞ。それに加えて山ほどの実戦経験がなけりゃあできない事だ。
 五輪の書のムサシと言い、剣聖と謳われたノブツナと言い、あんな腕前のサムライがゴロゴロしてたのが日本の中世ってやつなのかね? やー恐ろしい。味方で良かった、本当に。
 是非その調子で、こっちの奴らも斬り捨ててくれ。

「ぬわああッチクショー硬ぇー! 何処ぞのアニメ映画から出てきたみたいなナリしやがって! こんクソッタレめぃ!!」
「ああっ! 言われてみると確かに! ……カリマンタンの城でしたっけ?」
「あんな城がボルネオ島にあって堪るかァァーッ!!」

 さっきから何度となく神ボトルで殴りつけているんだが、一向に参る気配がないんだよ。
 速くて丈夫でハイテク装備、まったくゾンビの風上にも置けん連中だ。
 チタン合金っぽい装甲ごと敵を粉砕する力も武器も持たない俺は、大人しくアヤトラの援護が来るまでの時間稼ぎに徹する事にした。
 少々悔しいが仕方ない。楽に仕留られる味方が居る状況で無茶する必要はねえだろ。
 ほら、もう2体目だ。
 残り4体の始末も鮮やか豪快、あっと言う間。
 ショッキングな相手だったが、いざ終わってみると拍子抜けする内容だったな。

「いやぁ~どうもどうも、助かりやしたよ! こっちを見たと思った途端に凄い勢いで寄ってくるもんですから、っもうビックリしちゃって……何なんですかね、こいつら?」

 アヤトラの手に掛かって床に散らばった改造ゾンビ共の死体を見下ろし、天井に避難していたリザードが首を捻る。
 何なんですかと言われてもなあ……。見たまんまだろ。
 最近のファンタジーはSFに片足突っ込んでるのが多いからな。サイバーでメカなゾンビが出てきても不思議じゃない。むしろ自然な流れと言えるだろう。
 って、んなワケあるか!

「えーと……サイボーグとかいうやつですよね、これ? どう見ても」
「まあ、どう見てもコスプレや虚仮威しの類じゃあねえやな」

 この分だと、シャイターンの正体も怪しいもんだ。嫌な予感がしてきたぞ。

「……うぇっじよ、しゃんでぃ達に伝えてもらえるか? 我等は此より敵の殲滅に掛かる。
 上への道が見つかった場合は、その先の安全も確保せんと挑む故、しばしゆるりと待つように──とな」
「あ、はい! ……はい、分かりました。あの……」
「ほら、早く行け。ああ、その前にあの魔法掛けてってくれ」
「はい! みなさん、気を付けてくださいね!」

 もたつくウェッジの背中を押しやり、姉さん達が居る部屋へと急がせる。
 ここからはアヤトラの言う通りの殲滅戦、見敵必殺の心構えで進まにゃあならんだろうからな。戦えない奴は連れて行けねえんだよ。
 100人以上の非戦闘員を伴っての脱出行。ルートの安全を確保するためにも、シャイターンを始めとした敵戦力の掃討は絶対に成し遂げなくてはならない事なのだ。
 俺としても先の情報が皆無に等しい以上、その戦いに付き合うしかないってわけだ。
 抜け駆けするには余りにも時期尚早だし、アヤトラ一人に任せて死なれても困るし、そもそも待ってるだけなんてのは性に合わねえしで、後々の事を考えるとな。最前線で片っ端からぶっちめつつ、全体の状況を把握していくのが一番得る物が大きいんだよ。
 それ以上に危険も大きいだろうが! ──なんて意見は知らん。無視する。

「っしゃ、行くか!」
「うむ」

「……あの、お二人さん? 何やら燃えてるとこで申し訳ないんですが、俺っちはどうしたらいいんですかねえ?」
「敵さんが赤外線センサー搭載モデルばかりとは限らねえからな。役に立ってもらうぞ」
「へい、じゃあできるだけ慎重に……」

 とりあえず、やるだけやってみて敵わないようだったらプランBに移行だな。何が何でも辻褄を合わせてやろうじゃねえか。








 腕間接を極めながらの背負い投げで脳天直撃。
 そこからすかさず、足首を取ってのジャイアントスイング。

「おうりゃさああああああああッッ!!!」

 回して回して、ぶん回して、群がってきた改造ゾンビA、B、Cを吹っ飛ばす。
 神ボトルよりこっちの方が具合が良いな。火炎ファイヤーも効き目が薄いし、しばらくは格闘スタイルで行こうかね。
 回転しながら何度も何度も叩き付け、遠心力でさようなら。起き上がろうとした改造ゾンビBに向かって全身全霊のフェイスクラッシャーをくらわせ、1秒足らずで追撃のDDT。
 突っ込んでくるAを蟹挟みで転がし、物騒な爪を立てられる前にパッと離れて即密着。首から上を時計回しで360度に決める。
 痛みも恐怖も感じない連中だから、狙うのは徹底的に頭部のみ。ゾンビ映画のセオリーとも言える、合理的な戦法だな。

「ホアチャ────ッ!!」

 残ったCの奴はドロップキックからのストンピング攻撃で撃沈。
 これでひとまず、俺のノルマは終了だ。



 ◆ 習得条件達成 組み付き状態からの格闘攻撃で対象を倒した事により 《組み打ち》技能を習得しました。



 ……また技能枠が埋まったか……こりゃいくつあっても足りそうにねえな。

「ゼイロ坊ちゃん、お疲れ様です! ……しかしまた、随分大胆な戦いぶりでしたね。見てるこっちが死んじまうかと思いやしたよ」
「もう20体は潰してるからな。それだけやりゃあ、さすがに慣れる。慣れちまったら実験開始だ。
 まだまだ分からねえ事が多いからな。実地で色々模索してんだよ」
「はあ、何て言うか……ドライに見えて実は遊び盛りなんですねえ」
「……………………」

「もちろん、褒めたんですよ」
「そうか。ならいいんだ」

 探求に求められるのは、何よりも好奇心と遊び心。
 他人からは心の底から遊んでいるように見えても、客観視による考察と事態の把握を忘れないのが、俺という人間の戦いにおけるセオリーなのである。
 いや、本当に。
 …………徹頭徹尾、真面目にやってるつもりなんだがな……。

「うむ、武門の子はそれくらい元気な方が良い。こちらも片付いたぞ。先を急ぐとしよう」

 離れた場所で戦っていたアヤトラが、相変わらずの涼しい顔でやって来る。
 俺の三倍は軽くこなしてるくせに息一つ乱しちゃいねえ。頼もしい限りだぜ、まったく。
 息をついてマップを広げ、三人仲良く横並びで次の通路へ。
 ああ、リザードを先行させるのは労力というかCPの無駄だからやめにしたんだよ。こっちに来てから敵は改造ゾンビばっかりだったからな。戦闘になったらすぐに天井に逃げるし、ぶっちゃけこいつ役に立たん。
 なら、何で連れていくのかって? そんなもん、先の事ぁ分かんねえからに決まってるだろ。
 今のところ、役には立ってないが邪魔にもなってないからな。いざという時のために人手は多い方がいいんだよ。
 不慮の事態が予測される道行きで、人員に余裕を持たせておくのは当然の事だ。
 明らかな足手まといでない限り、何かしらの出番はあるもんなのさ。

 ……………………もしかしたら、今がその時なのかもしれねえやな。

「……おい、気付いたか?」
「ええ、何だかゴツいのが居やすね」

 先の部屋から重機特有のそれに近い震動が伝わってくる。
 垣間見えたのは……脚か? キャタピラの代わりに6本の脚が生えた戦車みたいなのが踏ん張ってやがる。



 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■


 V2─GT004 マッシュ ホッパー  LV ??

 HP ??/??  MP ??/??  CP ??/??

 詳細: ???


 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■



 その全体像を一言で表すとすれば、〝機械バッタ〟の呼び名こそが相応しいだろう。
 腹は巨大な冷却ファン、顎は凶悪粉砕器、複眼に当たる部分は高感度カメラ。釣り竿を連想させるほどに長くしなやかに伸びた一対の触角の間では、心臓どころか全身至る所に悪そうな紫電が迸っていた。
 ……おいおいおいおい、冗談が過ぎるぞ。
 お前がシャイターンか? 一体全体、何処ら辺がイスラム圏の普通名詞で悪魔なんだ?
 あー、そういや、モドキの奴は『人でも獣でもない生きる物すべての敵』としか言ってなかったっけな。……うん、確かにそんな感じだわ。
 クソッタレ! とんだ未来兵器じゃねえか!?
 しかも、武装が半端じゃないと来てやがる。
 特にあの、胸に付いてるガトリング・ガン。

「逃げろォォォォ────ッ!!!!」

 レーザーポインターの赤い光線は、俺の顔のド真ん中に向けて照射されていた。

「ぉぐぅおおぉぉ……!!!」

 火花、衝撃、そして轟音。
 反応できたのは奇跡だな。辛うじて即死だけは免れた。

「ク……ソ…………ッ……が……!!」

 腹から下が見事なまでの肉片に様変わりしたが、痛みはない。
 無痛ガンとはよく言ったもんだぜ。……ああ、ありゃ痛みを感じる前に死んじまうからだったか。まあ、とにかく痛みはなかった。



 ◆ 特技 【覚悟Lv 1】 〈低 難易度〉 〈精神系〉

    戦士に求められる一番の要素とは何でしょうか?
    力の強さ? 体力の有無? それとも優れた洞察力?
    どれもが正解であると言えますが、ここでは敢えて心構えとしておきましょう。
    戦士の条件、それは痛みに耐える覚悟です。
    傷付き、血を流し、肉が削げて骨が折れようとも戦闘行為を続けられる精神力なのです。
    負う者の覚悟こそが、貴方を戦士たらしめる事でしょう。
     
     1回の攻撃で負うダメージの量が最大HPの10%以内であった場合に限り、
     苦痛と衝撃に対する抵抗判定が免除されるようになる。
     累積ダメージの量が最大HPの30%以内であった場合に限り、
     負傷によるマイナス修正の発生が免除されるようになる。
     苦痛と衝撃に対する抵抗判定にプラス修正。
     場合によってはその他の判定にもプラス、またはマイナス修正。

     基本消費量  なし(常に発動)
     有効対象  本人のみ
     効果時間  永続



 ひょっとしたら、こいつが効果を発揮したのかもしれねえな。
 あ……でも、意識が遠退く。やばいやばいやばいやばい。
 って、リザードよ、お前はまた棒立ちか。逃げろって言ったのが聞こえなかったのかね?

「せめ…て、伏せる、くらい……しろ……!」
「へっ? おうわぅちゃ!?」

 軽く腑を零しながら転がり、リザードを引き倒す。
 俺達の頭上を銃弾の嵐が通過したのは、丁度その直後の事だった。

「坊ちゃん!? い、生きてるんですかい!? 何てまぁしぶとい……」
「肺から、上が、無事なら……死にゃあしねえよ」

 まあ、普通はショック死するだろうけどな。命拾いしたとしても出血多量でお陀仏だ。
 だが、俺は死なんぞ。
 例えHPがマイナスに突入にしようが生き延びてやる。
 …………あれ? HP? ……HP 49/59──って?
 何で10しか減ってねえんだ? 医師免許がなくても致命傷だって事くらい分かるだろ。放っておいたら死んじまうんだぞ。

「ぐあぁああっ治れ治れ治れなおれぇ!!!」
「ひゃあぁぁああ!! おっかねえヨォォ──ッッ!!!」

 リザードと一緒に三度目の銃撃から逃れるために転がりながら、取り出したリフレッシュストーンに必死の思いで念を込める。無くなった下半身よりも飛び散る石畳の破片の方が痛いってのが、どうしようもなく奇妙だった。
 奇妙といえば、この欠損部分が再生していく感覚もそうだな。
 治るかどうかは賭けだったんだが、問題ないようで安心したぜ。偉大な魔法様々だ。
 けど、さすがに1秒で完治とはいかねえか。
 不味いぞ。次の銃撃が来る前に持ち直さんと後がない。いや、治ったところで詰みに近い状態なんだがな。それでも生存確率ゼロよりかはマシだろう。
 …………うはは、何だか段々楽しくなってきたな。
 込み上げる笑いに身を任せ、無理矢理な体勢で機械バッタを睨み付ける。

 そしてトドメの銃火が起こった。

「【時間凍結(タイム・フリーズ)】!!」

 秒間100発に届こうかという猛威が吹き荒れ、俺とリザードを嬉しくない合い挽き肉へと…………。
 おや?
 変だな。銃弾が止まって見える。

「坊ちゃん……俺っち、生きてやすよね? 夢の中にとか居やせんよね? 何だか弾が止まってるように見えるですけど……」
「奇遇だな。実は俺もそうなんだ」

 臨死体験の一種か? 凍ったみたいに景色が水色になってるのはどういうワケだ?

「遅れて済まぬ。想像もしなかった異形に少々気圧されてしまったようだ。……よくぞ持ち堪えてくれた」
「何だ? あんたの仕業か? こりゃ一体どうなってんだ?」
「うむ。毘沙門天の御名の下に風と水の精の助力を得たのだ」

 頷き、柔らかな合掌と共に告げるアヤトラ。
 その仕草はやたらと厳粛な雰囲気を醸し出していたが、肝心の説明の方はさっぱりである。

「つまり、時を止めて其方等を助けたと云う訳ぞ」

 だったら最初からそう言えよ。分かりづらいだろうが。
 しかし、時間停止とはねえ……。アイテム欄に収めて永久保存するのとは規模が違いすぎる。魔法が起こす非常識もここに極まれりって感じだな。

「なるほど、そいつは恐れ入った。ありがとよ。──で、どれくらい持つんだ?」
「およそ五分と云った所ぞ。断っておくが、凍り付いた時の中に置かれた存在は何物の影響も受けぬ。
 故に、今の内にあの〝う゛ぃれっじ級〟のしゃいたーんとやらを破壊するのは不可能ぞ」

 ふむ、時間が止まった物体は変化しないってか。
 試しに空中で静止したままの弾丸に触れてみれば、想像の上を行く安定感。物の見事に固定されていやがった。
 まったく、妙なとこで律儀と言おうか、理に適っていると言おうか…………そういや、弾の口径はいくつだ? 7.62ミリと大して変わらんようにも見えるが、細かい規格は違うみたいだな。
 これが自分の身体を消し飛ばしたのかと思うと、また何とも言えねえ気分だわ。

 …………上に乗っても大丈夫そうだな。
 おお、面白れー! こいつぁクールでエクセレントだ!

「……何遊んでんですか。んなことやってる場合じゃねえでしょ」
「ん? おお、すまんすまん! ──っと。んじゃまあ気を取り直して! あのスカイネットの回し者に目に物見せてやるとしようか!」
「え? うそ!? 無理ですって! 逃げましょうや! 今なら脇を抜けてスルーできやすよ!」
「馬鹿野郎! 今やらねえで、いつやるってんだ! 何が何でもぶっ壊しとかんと、後の連中が揃って肉骨粉にされちまうだろうが!」

 それに何より、俺の一張羅を台無しにしやがったのが許せん。
 ヘソから下が素っ裸なんだぞ! こんな屈辱があるか!!

「是色の言う通りぞ。我等に退却の二文字は無い。……だが、敗北はそれ以上に許されぬ。勝算は有るのか?」
「おうよ、任せとけ! 何なら指ぃ咥えて見物してても構わねえぞォォォォ!! っこらああ!!!」

 アヤトラへの返事もそこそこに全速力で機械バッタに接近、勢い緩めず渾身の浴びせ蹴りを叩き込む。
 よし! とりあえず落ち着いたぞ。
 手は出せなくても、完全に手がないわけじゃない。むしろ、沢山有りすぎて笑えるくらいだ。


 待ってろよ、クソバッタめ。残り3分でテメェを逆王手に追い込んでやる。
 俺は全長6メートル、体高3メートル以上はある巨大な異形のマシンを見上げ、歯を剥き出しにして微笑んだ。

















 あとがき

 オリジナル板に参りました。
 改めてよろしくお願い致します。

 ようやくシャイターン登場、主人公改めゼイロも初のダメージというか生死判定。
 そしてよりタチの悪い裸ん坊に。
 次回はあっさり片が付いて、先に進むと思います。



  ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■


 現在の所持品  17/20

 パーソナル マップ  (72)
 フォーチュン ダイス  (483)
 豊穣神の永遠のボトル

 丈夫で軽くて滑らかで愛が込められた高品質の スパイダーシルク製の背負い袋

 入)ケタの干し肉  (38)
 入)他の袋4枚

 丁寧な作りの軽くて丈夫な スパイダーシルク製の背負い袋

 入)スマイリーキャベツ  (5)
 入)オミカン  (10)

 丈夫な革製の背負い袋

 入)陽光のカンテラ
 入)水筒 〈空〉
 入)丸い水筒 〈湧き水〉
 入)大きめの水筒 〈井戸水〉

 ヒール ストーン
 ヒール ストーン
 リフレッシュ ストーン (4) 自分に対して1消費 あんな怪我でも治ります。
 拳大の石  (347)
 冒険者の松明  (239)
 火の付いた冒険者の松明
 麻製のロープ  (186)
 蜘蛛の歩みの秘薬  (6)
 蟻の力の秘薬  (6)
 ケタ肉の塊  (25) 
 月光鱒の切り身  (58)


 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■



 データまとめの方も更新しましたので、よろしければどうぞ。

 ああ、そうそう。
 感想欄で質問されました、前回の冒頭のセリフ『ファンもそれを望んでいる』のファンについてですが、別にメタな意味じゃありません。
 リアル読者ではなく、あくまでも作中での存在を指して言っています。



前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.036923170089722