第22話 ロボット工学研究会と真祖の吸血鬼
SIDE:高畑 里桜
チュンチュン……
開けたドアから雀の鳴き声が聞こえる。
いわゆる朝チュンである。
いや違った。
単純に工房で徹夜してしまっただけだった。
どうも徹夜明けでテンションが変になってる。
朝ご飯を食べてシャキっとしよう。
今日みたいにおとーさんが仕事でいない時は、どうしても夜更かしが過ぎてしまう。
しかし夜更かしの甲斐あって、何点かの魔法薬が完成した。
材料が山で摘んできた薬草だけなので、たいした物は出来なかったけれど。
とにかくボンヤリしていたら寝てしまいそうなので、簡単な朝食を食べて学校へ向かおう。
そして今日は大人しく過ごして早く寝よう。
キーンコーンカーンコーン……
「うぅ……眠い」
今にも瞼が落ちそうだ。
大学行っていた頃には徹夜明けの講義なんて何ともなかったけど、この身体がまだ徹夜とかに慣れていないせいか、堪えるな。
「里桜さん。今日はいつにも増して集中力が欠けていましたわね」
授業も終わったのでさっさと帰ろうとしていたのに、いいんちょが絡んでくる。
「ちょっと寝不足で……」
「だらしないですわね。そんな調子じゃ、次のテストも私が頂きますわよ」
前回のテストは私のイージーミスでいいんちょに負けました。
これでいいんちょも大人しくなるかと思っていたんですが、ちっとも変りませんでした。
「……本当に眠そうですわね。顔色も良くありませんわ」
反論しない私を心配したのか、顔を覗き込んでくる。
「うん。そんな訳なんで、今日はもう帰るよ……」
もちろん私に反論する余裕なんてない。
「分かかりましたわ。お気をつけて」
結局体調を気にかけてくれて、自分から話を切る辺り良い子なんだよな。基本は。
どうも私と明日菜にだけ、風当たりが厳しい気がする。
「ふぁ……」
欠伸が止まらない。
今度こそさっさと帰って寝ようと思ったら、また別の人に捕まった。
「里桜ちゃんちょっと良いですか?」
葉加瀬だ。
葉加瀬は大学部にあるロボット工学研究会に所属している。
所属しているというよりは、最早半分住んでいる状態だ。
「今日ちょっと研究室に来て欲しいんですけど……」
「今日ですか? 今日は……あふぅ、ちょっと用事が」
「ちょっと見て貰いたいものがあるんです」
欠伸を噛み殺しながら、やんわりと断ろうと思っていたら勝手について行くことが確定してしまった。
ああ……絶対にロボット関連だ。
葉加瀬は普段は同級生にも敬語で話すが、こと科学関連の事になるとかなり強引になる。
さすがはマッドサイエンティスト、科学に恋するメガネっ娘だ。
「しょうがないですね。私は昨日寝てないんですから、手短に頼みますよ」
「大丈夫ですよ。私もほとんど寝てませんから」
何が大丈夫なのかはさっぱり分からないけど、葉加瀬のテンションがいつもより高い理由は分かった。
こんなハイテンションの葉加瀬に巻き込まれたら、確実に今日一日はつぶれるので覚悟しておこう。
かといってさすがにそのままはつらいので、鞄から魔法薬を取り出す。
これは昨日徹夜で作った魔法薬の一つ、眠気を感じにくくする薬だ。
はっきり言って魔法薬と呼ぶのも憚られるしょぼさだけれども、ほとんど材料が無い状態から作れるのはこんなもんだ。
膨大な魔力でもあれば別だけど。
入れておいたペットボトルのふたを開けて、一気に飲み干す。
味は清涼飲料水に似ていて、不味くはない。
後味が非常に薬臭い事を除けば、だけど。
魔法薬のキツイ後味に顔をしかめてると、葉加瀬は飲み終えたペットボトルに興味を示してた。
「このペットボトルって、カフェガラナのペットボトルですよね? でも匂いは全然違いますよ」
まあ中身は魔法薬なので当然だ。
むしろ中は結構臭いはず。
「中身はカフェガラナじゃなくて、別の飲み物が入ってるんですよ。眠気を抑える成分の飲み物ですよ」
「眠気を抑える成分……?」
あれ? 私なにかいけない事を言ったかも……。
「その眠気を抑える成分には非常に興味がありますね。カフェガラナには確かにカフェインが含まれえていますが、あなたがわざわざそういう言い回しをしたという事はカフェガラナとは違う飲料であるという事になります。それは私が匂いを嗅いだ結果からも出ています」
ああ、葉加瀬の変な所にスイッチが入ってしまった。
こうなると、この飲み物が何なのか分かるまで解放してくれない可能性がある。
当然魔法薬だなんて言えない。
今後茶々丸の開発などで魔法について知る事になる葉加瀬だけど、その情報源が私になるのはマズイ。非常にマズイ。
「あ~この飲み物はですね……」
「飲み物は……?」
「実はおじいちゃん……学園長から貰った物なんですが、まだ発売前の飲み物らしいんですよ」
「学園長……? あの後頭部の長い?」
「ええまあ、その後頭部の長い学園長です」
酷い憶え方ですけど、まあ特徴を捉えてはいますね。
「という訳で、まだ発売前なので公には出来ないのですよ。もちろん成分なども同じです」
「そうですか……残念です」
とりあえずは誤魔化せましたね。
我ながら微妙なごまかしでしたけど、おじいちゃんの名前を出すことで信憑性を持たせることに成功しました。
麻帆良内では、その不可思議に後頭部も相まって、あの学園長なら何をしてもおかしくないと思われてますからね。
その内に本当の事を教えれるようになったら、この魔法薬も何本かプレゼントしましょう。
魔法薬の効果が効いてきて、目がシャッキリしてきた頃に大学部にあるロボット工学研究会に到着した。
さすがに大学部だけあって設備も豊富だ。
さらにこのロボット工学研究会は、他のジェット推進研究会など複数のサークルと共同でテレビで紹介されるような研究も何度かしているので、他のサークルよりもさらに優遇されている。
大学部のサークルにいる小学生女児2人はさすがに目立つが
葉加瀬は最早ここに住んでいるようなものだし、私も葉加瀬に連れられて何度か来ているので、割と慣れたものだ。
早速葉加瀬が見て欲しいと言っていた物に目を通す、が。
「っ!」
危うくせっかくいれて貰ったコーヒーを噴き出す所だった。
見せられたそれは、ロボットの設計図。
T-ANK-01と銘打たれているそのロボットの設計図は、どことなく田中さんを彷彿とさせる物だった。
更に1枚捲ると、今度は女性型ロボットの設計図も出てきた。
かなり綿密に描かれていた田中さんっぽい設計図と違い、こちらはまだ草案といった感じだ。
葉加瀬の用事はロボットの設計で煮詰まっている箇所があるので、何か意見して欲しいとのことだった。
確かに2年前ぐらいにはロボットについて語り合った事もあったけど、最近は葉加瀬が普通に天才過ぎてついて行けていない。
なので意見をなんて言われても、困ってしまう。
とりあえず武装の欄に目をやってみる。
「有線式ロケットパンチに飛行ユニット、水中活動ユニット、それにビーム……ビームって」
備考欄には理論上では可能? って書いてある。
確かに将来的には使われていましたね。……脱げビームとしてですが。
不必要なほどに武装が充実しているなって……
「携帯式のガトリング?」
そんな武装が必要なのか? ビームなら笑い話で済みそうだけど。
いやそもそも……
「……手に入るの? ガトリング」
「ロボット工学研究会を舐めないでください」
そんな自信満々で言われても。
世の中には銃刀法違反ってのもあるんだけど……
でもそれを言い出したら麻帆良全体がキナ臭い感じになってしまうので、自重しておこう。
しかしひょっとして、ここなら私が欲しい物も手に入るかも。
「ねえ葉加瀬、その工学部のネットワークでついでに買って欲しい物があるんだけど……」
「ついでですか?あまり私用に使うのは良くないんですけど……」
別にガトリングみたいな武器を欲しがってる訳じゃない。
「とりあえず危険性のない物ですから」
「一応聞いておきますけど何ですか?」
「それはですね……」
葉加瀬の形の良い耳に口を添えて、ゴニョゴニョと伝える。
「う~ん、それくらいだったらいいですけど……。そもそもそんな物どうするんです?」
「あはは……用途については黙秘という事で」
とてもじゃないが言えたもんじゃない。
とりあえずは入手してくれそうなので一安心だ。
結局ロボットの設計図に関しては、何の力にもなれなかった。
もはや素人レベルの私が、どうこう口出しできるレベルを完全に超えてしまっている。
ただ女性型ロボットの武装におっぱいミサイルがあったのだけは、止めるように言っておいた。
そもそもおっぱいミサイルは弾数が2発しかなかったり、弾頭がむき出しだったりと、武器としての突っ込みどころが多すぎる。
将来茶々丸に話したら、きっと感謝されるだろう。
今日もおとーさんは居ないので、適当に済ませて寝てしまおう。
さっきの魔法薬は、睡魔を感じなくするだけで体は睡眠を必要としている事は変わりないのだから。
布団に入る前におとーさんの部屋をチラリと覗く。
別段異状はない。
しかし最近おとーさんの様子がおかしいのだ。
私が寝静まるのを見計らってから外出して、朝方に帰ってくる。
初めはおとーさんも若いんだし、大人の付き合いもあるんだろう。
どんな人を連れてきてもお義母さんと呼んであげなければ、なんて決意を固めていたんだけれども、どうも違うようだった。
明け方に帰ってくるたびに山にでも籠っていたのかと思うような、ボロボロの姿。
異様に伸びている無精ヒゲ。
う~ん心配ですね。
せめてどこに行っているのかだけは知っておきたいですが、夜中に出かけている以上私には知られたくないってことですよね。
……後をつけてみますか。
もし本当に私に知られたくないような場所だったら、とりあえず大人の対応で知らないふりを続けましょう。
そうと決まればおとーさんが帰ってくるまでに色々準備が必要ですね。
私がおとーさんの尾行を決意してから3日後、ついにその時がやって来ました。
私の部屋の電気が消えたのを見計らって、おとーさんが出かけて行きました。
おとーさんのスーツのポケットには、ロボット工学研究会から無断で借りてきた発信機を入れて置いたので居場所は分かります。
本当は尾行をしようと思ったけど、後なんかつけたら即バレの危険性が高すぎるのでこんな方法にしました。
普段魔法に慣れてる人にとっては、こういう機械を使ったやり方のほうが気付きづらいだろうし。
しかし勝手に持ってきて文句は言えないけれど、本当に何でもあるロボット工学研究会が少し怖いです。
受信機の画面には、移動する点滅が映っている。
これで何処に行ってもバッチリだ。
しかし何処で何してるんだろう。
おとーさんの事だし、変な事はしていないとは思うけど……あれ?
「点滅が消えた?」
さっきまで順調におとーさんの居場所を伝えてくれていた点滅が消えてしまった。
故障? だとしたらどうしようか……
諦めて寝るという選択肢もあるけど、せっかくなので反応が消えた場所まで行ってみよう。
意外とそこにいるかも知れない。
杖を持って外に出る。
あと少しで日が変わろうかという時間に出歩く小学2年生。
見つかったら即補導モンですな。
辺りを警戒しながら、ようやく反応が消えた当たりまでやってきた。
「しかし木ばっかりですね。このあたりの筈なんです……が?」
木々の向こうに一件の家が見えた。
家というよりはログハウス。
その見覚えのあるログハウスの持ち主を思い立った時には、もう遅かった。
「こんな時間に気配がするから誰かと思えば……」
背後から声がし、振り返ると見た目こそ私と大して変わらない年の女の子。
しかし、その実態は世界最強種の一つ。
「真夜中に出歩くなんぞ、吸血鬼に襲われても文句はいえんぞ?」
闇の福音、人形使い、不死の魔法使い等の数々の異名を持つ。
「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル……!」
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後書き
読んで頂いてありがとうございます。青人です。
出てきました。みんな大好きエヴァンジェリン。
数多の二次創作やネギま!?でも、ギャグキャラ化される事の多いエヴァンジェリンですが(原作内でも結構)
本作では出来るだけ年長者としてなどの、導き手としての面も頑張って書いていきたいと思います。
そして着々と進む、里桜の武装計画。
さりげなく葉加瀬との親交を築いていたので、物資の入手がかなり楽になっています。
それにしても葉加瀬が明日菜や木乃香に比べて書きやすいです。
マッドサイエンティストというキャラ立ちがしっかりしているのと、敬語キャラの為口調も楽です。
これは今後も出張ってくるかもしれません。
今回里桜が発信機を付けたりとナチュラルに外道な事をしていますが、どの辺までなら読者の方は流せて読めるのでしょうか。
もっともファンタジーの世界で罪云々を言うのは無粋かもしれませんが。
ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。