第21話 近衛木乃香参上
SIDE:高畑 里桜
目の前ではちょっと面白い光景が流れている。
いつもは無表情に近い、無愛想な表情をした明日菜が困っている。
原因は明日菜にまとわりつく木乃香のせいだろう。
小学校でも微妙に周りと距離を置いている明日菜のパーソナルスペースに入り込める人間は少ない。
同年代では私といいんちょぐらいなものだ。
それを初見でここまで入り込むなんて
木乃香……恐ろしい子!
とまあ白目でそんな事を考えていたけど、そもそも初対面の段階から木乃香の雰囲気にのまれていた気がする。
つい30分前。
「……アンタは誰」
「うちは近衛木乃香ゆーんよ」
半眼で睨んでいるような顔をしながら不機嫌オーラを出している明日菜にも、ニッコニコ笑いながら木乃香は挨拶する。
「そう……私は神楽坂明日菜」
明日菜もちゃんと自己紹介できるようにはなっています。
なんせ以前までは初対面の人に対して「……誰」としか言わず、相手が答えても「……そう」で終わってましたからね。
この辺の教育は頑張りました。
しかしこの二人の雰囲気は良いな。
明日菜といいんちょのコンビも良かったけど、こっちはこっちで良い感じだ。
明日菜といいんちょはマイナスとマイナスが転じてプラスになるイメージだけど、この二人はプラスとマイナスで中和されてる感じがする。
けっして明日菜やいいんちょがマイナスイメージって訳じゃないけれどね。
というか木乃香の癒し効果ハンパねぇです。
じゃれ合う二人を見ながら、おじいちゃんとニヤニヤしていたら。
木乃香がこっちに来て、私もじゃれあいに参加させられた。
おじいちゃんがさっきの2倍はニヤニヤしながら見ている。くそう。
その後は京都の小学校で流行っていた遊びや、木乃香の京都時代の話などを聞きながら3人で親睦を深めたりした。
木乃香の話の端々に出てくる「せっちゃん」という人物は、おそらく刹那と考えて間違いないだろう。
いつかは分からないけど、その内に刹那も麻帆良に来るので木乃香もそんなに寂しそうな顔をしないで頂きたい。
それから、今年から麻帆良学園の教師になったおとーさんが帰ってくるのを待って、「木乃香ちゃん歓迎パーティ」を開催した。
このパーティは「木乃香ちゃん歓迎」の他に、「アスナちゃん入寮記念」でもあり、「おとーさんの就職記念」でもあり、さらには「高畑家引っ越し記念」でもある。
会場は私とおとーさんの新居だ。
新居は学園の近くにある一軒家で、既に退職した魔法先生が使っていたものだ。
嬉しい事に地下に小さな研究施設、工房と呼べるものがある。
一応この工房は自由にしていいと言われているので、色々やってみたいと思う。
パーティは、出前のお寿司や私の作った料理などを食べながらみんなでワイワイ過ごした。
ちなみにおじいちゃんが最初ケータリングを頼もうとしていたので慌てて止めた。
別に料理なら私がするし、こんな少人数でわざわざケータリングする事もない。
というかおじいちゃん、はしゃぎ過ぎである。
よっぽど木乃香と会えてうれしいのだろう。
その木乃香は私の作った料理にご満悦のようだ。
美味しそうに食べてくれるのはとてもうれしい。
「里桜ちゃんのお料理美味しいなー」
もっきゅもきゅと口いっぱいに頬張っている。
それでも下品に見えないのは木乃香だからだろうか。
「うちも最近お料理のお勉強してるんよ」
「そうなんだ。そのうち木乃香ちゃんの料理も食べさせてね」
まあ木乃香が料理上手になるのを知っているとは言えないので、ここは話を合わせておこう。
木乃香の料理を食べたいのは嘘ではないし。
和食が好きなので、京料理には興味津々である。
そのままパーティは終始穏やかな雰囲気で進んだ。
私と明日菜と木乃香の三人も、すっかり仲良しさんだ。
特に明日菜と木乃香は今日初めて会ったとは思えない仲良しっぷりだ。
やはり見た目が同年代でも、中身が二十歳オーバーの男だと仲良くなりづらい物なのだろうか。
そう考えるとなんだか少し落ち込んでしまう。
その後も良い盛り上がりをしたまま終了時間になり、パーティはお開きになった。
小学生はそろそろ寝なければならない時間だ。
明日菜と木乃香はおじいちゃんと一緒に、おじいちゃんの家に帰って行った。
いきなり寮に住まわせる訳にもいかないし、うちは引っ越したばかりで片付いていない。
寮に入る前におじいちゃんの家で、親睦を深めるのだ。
さて、パーティ会場の片づけをある程度済ませ、続きは明日に回そうかと思っていた所
おとーさんから大事なお話があった。
その話の内容は、早い話が「木乃香の護衛」についてだ。
関西呪術協会の長の娘である木乃香が、関東魔法協会の総本山である麻帆良にいる。
この事実は関西呪術協会の人間なら面白い話ではないし、何かしらのちょっかいを掛けて来る輩が居る可能性はある。
その為、私に木乃香の護衛をして欲しいらしい。
護衛と言えば聞こえはいいけど、私一人じゃ対抗できる相手のレベルなんてたかが知れている。
要は私に求められているのは木乃香と仲良くする事だ。
そして何かあったら周囲に助けを求める事だろう。
それに私以外にも何名かが目を光らせているらしいし
私は単純に同年代という近くに居て何の不思議もない状況だから、任されるんだろう。
どのみち木乃香に何かあるようなら、私だってほうっておく訳ないしね。
言われなくたって護衛ぐらいするさ。
話を一通り聞いた後、私は工房に降りてみた。
地下特有のヒンヤリとした空気を感じる。
木乃香の護衛に、この工房を使っての研究。
訓練に回す時間は減ってしまいそうだけど、研究は楽しみだ。
色々な魔法具みたいなものにも興味はあるし、自分に向いた武具なんかも作ってみたい。
こういった物作りみたいな事にワクワクするのは、私の中の男の部分が感じられて嬉しくなる。
これからこの部屋で何が出来るのか。
そんな事を考えながらドアを閉め、上へと階段を上って行った。
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後書き
読んで頂いてありがとうございます。青人です。
今回の話は短いです。そして難産でした。
ちょっと木乃香が嫌いになりかけるぐらいに、難産でした。
こんな何でもない部分の話なのに……。いや、何でもない部分だから難しかったのかもしれませんね。
物語としては里桜達が2年生になり、タカミチが教師になりました。
時期的には、ネギの故郷が悪魔に襲われる1年ぐらい前でしょうか。
そして里桜が自分の研究施設を手に入れました。
前話からのお金を入手できる手段と合わせれば、様々な事が可能になります。
このあたりの話は作者的にも書くのが楽しみな場所です。
なお今回の話で、里桜が木乃香の護衛を行う事になりましたが、このネタは感想板で臣さんの感想より頂いたものです。
臣さん、ありがとうございました。
ご意見・感想・誤字脱字のご指摘は、随時お待ちしております。
-- おまけ --
今回の話が短すぎたので、それを埋めるためにちょっとした設定のお話をしたいと思います。
本来はあまり設定を長々と書くのは、物書きとして余り良くないのは分かっているので、
出来るだけ本文内で語るようにと心がけてはいますが、これから記します「キャラクターメイキング」なんかの話は
本文中で使いようもないため、ここに記させていただきます。
また本文中で出てこないなら書く必要もないのではという意見もあるとは思いますが、
作者自身がこういう裏話的な設定が大好きであるのと、読者の方の中にも喜んでいただける方が居るのではと思いましたので書かせて貰いました。
高畑 里桜について
高畑里桜はネギま!の主人公であるネギ・スプリングフィールドを意識して作られています。
(ただし、話を進めて行く上で変わっていく設定も多々あります)
ネギは英雄と呼ばれる親を持ち、その親をも凌ぐ膨大な魔力や高い学習力を持つ。文句なしの最強に近いキャラの一人です。
それに対し里桜は、
英雄であるが魔法の才能が無いために、「マギステル・マギ」には決してなれないタカミチを義理の親に持ち、
魔力や魔法の習得率も高くはなく、特に突き抜けた力の持てない器用貧乏なキャラです。
ネギの魔法が高い攻撃性と速度を持つ「雷」であるのに対し、
里桜は生命力の象徴でありながら破壊の象徴でもある「火」を得意な魔法としています。
これは里桜の汎用性の高さを表しています。
また「火」は再生も意味しますから、里桜の転生憑依者としての境遇も指しています。
こういった考えや、ネギとの比較から里桜というキャラクターは生まれました。
里桜のキャラクター設定については、ざっとこんな所でしょうか。
蛇足な話だったとは思いますが、楽しんでいただけたならば幸いです。