第19話 幻術はどうでしょう
SIDE:高畑 里桜
夏休みも終わり、2学期が始まりました。
この2学期から明日菜も小学校へ無事転入。
いいんちょとのバトルも見る事が出来た。
これから学校に通う事で明日菜も明るく……バカレンジャーに育っていくのだろう。
ちなみに明日菜は原作通り、神楽坂明日菜というフルネームになった。
もうちょっとありふれた苗字のほうが良い気もするけど、まあ気にしないでおこう。
そして戸籍とか転入の手続きも……気にしない方が良いだろう。
なにせ私も半分通った道だし。
それから変わった事と言えば、新しい魔法先生が来た。
葛葉刀子先生だ。
言わずと知れた神鳴流の女剣士である。
そう言えば、西洋魔術師に嫁いでこっちに来たんだっけ。
そしてその後……いや、これは言わぬが花だろう。
それはさておき、初めて会った時の赤い袴が印象的だった。
それからはずっとスーツになって残念に思う。
出来れば武器戦闘についてなんか教えて欲しかったけれど、何か忙しいらしくて時間が取れないらしい。
そして時間があると、いっつも旦那さんに電話している。
ええい、新婚さんめっ!
「仕方ないので、今日も弐集院先生と頑張りましょう」
「おいおい、仕方ないは酷いな」
おっと口に出してましたか。
「あはは、すいません」
もうすっかり仲良しなので、これくらいの軽口は慣れたものです。
本当は今日はガンドルフィーニ先生と訓練するはずだったのですけど、奥さんの通院に付き添うのでお休みです。
ガンドルフィーニ先生は、妊娠中の奥さんに対してスーパーデレデレタイム展開中なので文句なんか言えません。
これでお子さんが生まれたらどうなってしまうのでしょうか?
果たして私に構ってくれるのでしょうか? 今のうちに学べる事は学んでおいた方が良さそうですね。
それはさておき今日は何をやるかですけど……
「う~ん何をしようか。今日はガンドルフィーニ先生の予定だったから、何も考えてないんだよね」
弐集院先生はあははー、なんて言いながら頬を掻いています。
いままで弐集院先生には基礎魔法を重点的に教わってきました。
「今日は弐集院先生の得意な事が見てみたいです」
他の先生方には、色々と見せてもらった事がある。
神多羅木先生の指パッチンから始まる風魔法のコンボは、動く暇がないほど苛烈なもので、気づいたら捕縛結界に捕らわれていたし。
ガンドルフィーニ先生の銃の腕は半端なものではなく、こっちが撃った弾(BB弾)をガンドルフィーニ先生の撃った弾(BB弾)が弾き飛ばす様を見せられた事もある。
なのでここはひとつ、弐集院先生の技を見せていただきたい所存です。
「そうだねぇ、僕の得意な事か……。それも面白そうだね」
意外と乗り気だ。
弐集院先生は本人も言っていたけど、戦闘系の魔法は苦手としていて補助魔法などをメインで扱っているらしい。
「この場所だと電子精霊を出しても大したことは出来なさそうだから……幻術なんてどうかな?」
幻術ですか。電子精霊も気になりますが幻術も習ってはいませんでした。
私の原作知識の中にも幻術を使っているシーンはほとんど無いですね。
「幻術に関しての詳しい説明はまた後日にするとして、今日はとりあえず体験してもらおうかな」
体験と聞いてジリっと後ずさって身構えてしまう。
このパターンはろくな事がありません。
神多羅木先生に無詠唱魔法を撃ちこまれ、ガンドルフィーニ先生に見たこと無いコンボからのサブミッションをくらった私の経験がそう告げています。
「いやいや、そんなに身構えなくてもいいよ。危険な魔法は掛けないから」
「本当ですか?」
警戒しながらもジリジリと弐集院先生に近付きます。
我ながら野生の獣みたいな行動してますね。
「もちろん。簡単な認識を誤らせる幻術をかけるだけさ」
「む~……ならよろしくお願いします」
結局のところ、なんだかんだ言っても拒否するつもりはないのだ。
習うより慣れろとは良く言ったもので、実際に受けてみたほうが覚えは良いのだし。
「よし、じゃあ僕の前立って」
言われた通りに弐集院先生の前に立つ。
「今から魔力を流し込むから、抵抗しないように受け入れてみて」
「はい……」
言うやいなや、私の中に弐集院先生の魔力らしきものが流し込まれるのを感じた。
反射的に魔力を練り上げて対応しようとするのを抑えて、されるがままにしてみる。
「もういいよ。目を開けてごらん」
体が他人の魔力に侵される感覚に、目をつむり必死に耐えていると声をかけられた。
目を開けてみると……何かが変だ。
目の前にいる弐集院先生。
何かが違っている訳ではないけれど、何かが違う。
周りの景色。これも何か変だ。
パーツパーツは合っているのに、あるべき場所に無いような……
「左右が……逆?」
「良く気がついたね」
目の前の弐集院先生っぽい人が手を叩いている。
ものすごい違和感だ。
「これは視覚を歪めて、左右を反転させているんだよ」
弐集院先生っぽい人にも慣れてきた。
そうか目の前の人が左右反転されてた弐集院先生か。
人間の顔は左右対称ではないとは聞いたことがあるけど、実際に目にするとこんなに違和感を感じるとは……
「この幻術の面白い所は視覚だけが左右反転している所なんだよ。試しに右手を上げてごらん」
言われた通りに右手を上げてみる。
すると、目には左手が上がって映る。
「うわっ、なんか変っ!」
右手を上げれば左手が、左足を踏み出せば右足が。
そのたびに脳が混乱して動きが止まる。
「これは凄いですね。もし戦闘中にこんな状態になったら致命傷です」
ギクシャクしながら、感嘆の声を上げる。
こんな状態の私なら、その辺の同学年に負けかねない。
「いやいや、人間の適応能力っていうのも馬鹿に出来なくてね。とりあえずそのまま10分ぐらい適当に動き回ってみてもらえるかな」
そう言われたので、普段やっている組み手の型なんかをしてみる。
最初は歩く事も上手く出来ない状態だったのに、時間が経つにつれて動けるようになってきた。
要は左右反転しているだけなんだから、そこを理解してしまえば何とかなるもんだ。
「そろそろいいかな」
弐集院先生に呼ばれて、また前に立たされる。
「どうだい? 実際に動いてみた感じは」
「分かってきました。意外と慣れるものですね」
左手を開いたり閉じたりしながら答えます。
「そうだね。人間は慣れちゃうんだよ。否が応でもね」
そう言いながら弐集院先生が私に手をかざす。
「さあ、元に戻すからまた眼をつむって……。面白い事が起きるよ」
再度体が他人の魔力に侵される感覚に耐える。
魔力が体内から消えた事を確認し、目を開く。
見慣れた光景に戻った……はずなのに、やっぱり違和感がある。
「何か変ですね。また幻術掛けました?」
「いや、解いただけだよ」
右手を上げようとすると、左手がピクリと動く。
左を向こうとすると、右を向いてしまう。
「これは……」
まさか幻術ではなく……
「気付いたみたいだね。幻術はもう掛かっていないけど、里桜ちゃんの脳が幻術の状態に慣れてしまっているんだよ」
そうか、さっきまでの左右反転の状態に慣れてしまったせいで、普通の状態に戻ったら戻ったで混乱するのか。
右手を動かそうとしたら、左手を動かさないといけないと脳が考えて、それを打ち消してやっぱり右手を……訳が分からなくなってきた。
「ははは、ちょっと難しかったかな?」
頭からブスブスと煙を上げながら、大きなハテナを量産している私を見て弐集院先生が笑っている。
「何となくなら分かりましたが……」
「最初の左右反転で里桜ちゃんの脳はその状態に慣れようと必死に学習したんだ。でも慣れてきた状態で元に戻されると、学習していた分だけより一層混乱するんだよ」
う~ん、分かった様な分からなかったような。
「まあ、完璧に理解する必要はないよ。今回はちょっとしたお試しだからね」
頭をグリングリン撫でられる。
回される頭でちょっと考えてみる。
幻術……人の意識、脳に直接作用する術か、難しそうだけど憶える価値は十分にある。
まてよ、人の脳に作用するなら自分にも……
「弐集院先生っ。この幻術は自分にも使うんことが出来るんですか? 痛みを誤魔化したりとか……」
いきり立つ私の唇に指が当てられる。
「里桜ちゃん……君の言いたい事は分かる。つまりはこういう事だろう」
そう言って弐集院先生近くにあった岩を思いっきり殴り、砕いた。
その拳からは血が滴り落ちる。
「いま僕は痛みを認識していない。自分に幻術をかけて痛みを誤魔化してるからね。そして今は拳を痛める程度で済んでるけれど、骨が砕けるぐらいの力で殴りつけることも可能だ」
滴り落ちる血をものともしないで、拳を握ったり開いたりを繰り返す。
「でもそんな事はしてはいけない。痛みを感じない事なんて何の得にもならないよ。痛みを恐れて、傷つくこと傷つけることを避ける道を探す事の方が、よっぽど難しくて素晴らしい事だと思うよ」
「弐集院先生……はい、わかりました」
いい事言うなぁ、弐集院先生。不覚にもちょっと感動してしまいました。
傷つくこと傷つけることを避ける道か……肝に銘じおこう。
その後はいつも通り肉まんを貰って授業を終了した。
2つ貰ったので、一つは明日菜のお土産にしようと思います。
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後書き
読んで頂いてありがとうございます。青人です。
明日菜がさらっと転入。あと刀子先生も。
いいんちょとのド突き漫才にはノータッチの方向で行きたいと思います。
主人公が触れずとも、この二人の関係は良い感じだと思うので。
弐集院先生の幻術講座。
じっさいネギまの魔法内での幻術の位置づけが分からないですね。
とりあえずエヴァ特製の年齢詐称薬、なんて万能すぎるものもありますけど。
幻術は使い方によっては最強に成りうる魔法だと思います。
そのため目が合っただけで、相手を操れるなんてよほどの格下じゃないと不可能だと思われます。
あとは弐集院先生にちょっと良い事を言わせてみました。
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