第13話 帰ってきましたコブ付きで
SIDE:高畑 里桜
おとーさんが出張に出かけて一年半以上が経ちました。
私が小学校入学の準備をしだし、魔法の扱い方にも慣れてきた頃。
おとーさんが帰ってきました。
おじいちゃんに教えてもらって駅まで迎えに行くとおとーさんと、その横に見た事のない女の子がいた。
いや、見た事はあった。
あれは明日菜だ。ちっちゃい頃の明日菜だ。
この頃の名前はまだ明日菜じゃなくて、アスナなんとかテオなんとかって名前だったはずだ。
そうか、もう明日菜が麻帆良に来る時期なのか。
「お帰りなさい、おとーさん」
「……誰?」
「この子は私の娘でs……だよ。おひ……アスナちゃん」
今絶対お姫様って言いかけたな。
「そう……」
ふいっと横を向かれてしまった。
もう私に興味は無いみたいですね。
「ええと里桜、この子は、その……」
「はい、なんですか?」
明日菜の事を私に隠しておきたいらしくてしどろもどろになっている。
それが腹立たしくて、ニッコニコと笑いながら聞いてやる。
「あ~、とりあえずうちに戻ってから話すよ。それでいいかい?」
「まあ、それはいいんですけど、そのアスナ……さん? も一緒ですか?」
「ああ、ちょっと訳ありでね」
「そうですか。じゃあ、帰りましょう」
そう言って明日菜と反対側のおとーさんの手を取って帰路に着く。
晩御飯は多めに作ってあるから大丈夫だけど、はたして明日菜が肉じゃがを食べれるだろうか?
というか魔法世界に肉じゃがは無いのだろうな、やっぱり。
私が魔法世界の食事事情に思いをはせている間も、おとーさんは明日菜に構いっきりである。
そしてそれにちょっと苛立っている自分が居る。
この『父親を取られて怒っている娘』みたいな気分になっている自分に、ちょっと落ち込む。
精神年齢はおとーさんよりも上の筈なんだけどなぁ。
確実に肉体に精神が引きずられてる気がする。
あとはおとーさんとおじいちゃんの女の子教育の賜物ですね。
おとーさん、里桜はそろそろズボンが履きたいです。スカートはもういいです。
思っていた以上にスカートが暖かいことはもう分かりましたから。
目から水が溢れ出そうになったので上を向いていた頃、家に到着した。
SIDE:タカミチ・T・高畑
カチャカチャ
「…………」
無言の食事風景が続いてる。
お姫さま……いやアスナちゃんは、里桜の作った料理がお気に召したのか黙々と食べてるし。
里桜はそんなアスナちゃんにどう対応すればよいのか困惑してるみたいだ。
それにしても早くアスナちゃんと呼ぶ事に慣れなければいけないな。
ここでは彼女は『黄昏の姫御子』ではなく、ただの一人の女の子なのだから。
とりあえず食後にアスナちゃんをお風呂に案内して、里桜に状況説明をしよう。
まず魔法世界と言うものの存在。
この説明が一番難しいと思ったけど、里桜は驚くほどすんなりと受け入れてくれた。
その魔法世界でアスナちゃんと会った事
アスナちゃんがウェスペルタティア王国という国の『黄昏の姫御子』を呼ばれる存在である事。
彼女の持つ能力の事
そして彼女の幸せのために、記憶を消してこの麻帆良で暮らしてもらう事。
「……という訳なんだ」
「そう、ですか……」
里桜には魔法の秘匿やそれに伴う記憶消去などの事は教えてある。
もちろん魔法学校に通っている子には適わないだろうけど。
だからと言って、まだ子供の里桜に割り切れるとは思ってはいない。
人の記憶を人が弄るなんて、そうそう受け入れられるものじゃない。
それでも僕たち魔法使いは、魔法の秘匿のために行わなければならない。
……ただガトウさんの死については伏せておいた。
里桜はガトウさんと面識がないし、わざわざ知らせる事もないだろう。
そして何より僕が、僕自身がまだ受け入れる事が出来ない。
ガトウさんが、師匠がもう居ないなんて……
SIDE:高畑 里桜
おとーさんから色々と聞きました。
近日中に明日菜の記憶消去を行う事や、しばらくうちで預かる事も。
そういえば明日菜の本名も教えてもらった。
アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアらしい
なんてゆーか、長い名前だ。
私としては特にする事もないらしい。
むしろあまり明日菜に話しかけない方が良さそうだ。
現在、明日菜は記憶を消去する事には了承している。
魔法無効化能力は明日菜に害をなすものにのみ発動するらしいので
明日菜にとって有益だと理解出来れば、発動はしないという事だ。
仮にいま私が色々と話しかけたりして、記憶を消されたく無いなんて思われてしまうと
記憶消去の魔法が効かなくなってしまう、なんて事にもなりかねないのです。
何もせずに記憶が消されるのを待つ、というのも嫌な感じですが。
将来ネギが来て、記憶と向き合えるようになるまで子の記憶は封印されていた方が良いでしょう。
今の私に出来る事なんて無いのだから。
夕食後の軽い運動からの帰り道、家に向かって歩いていると
「おや、あなたは……?」
目の前にフードをかぶった人が居た。
フードの下から除く顔に見覚えが有る。
紅い翼のあいつだ。え~と、アル……イマなんとか……クウネル・サンダースでいいや。
こいつこの時期から麻帆良にいたのか。
「はじめまして」
警戒しながらもとりあえず挨拶してみる。
「あなたはタカミチくんの娘さんですね。たしか里桜ちゃんでしたか。私の事はご存知なのですか?」
「はい、おとーさんのお仲間の人ですよね」
「ええ、その通りです。しかし困りましたね、あまり私がここにいる事は知られたくないので」
あれ、目の前にクウネルの手が……
ガクッ
はれ? 膝から力が抜けて、意識も遠く……
「残念ですが、今回は記憶を消させてもらいます。またいつか会いましょう……」
そのまま、私の意識は闇へと消えて行った。
次の日、目を覚ますと自室のベッドの上でした。
はて? 昨日何かあった気がするんですが……
おとーさんにも聞いてみましたが、昨日は家に帰ってから特に変わった様子もなくベッドに入ったみたいです。
はて……?
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後書き
読んで頂いてありがとうございます。青人です。
ロリ明日菜登場。
しかしこのロリ明日菜、ビックリするほど動かしづらい。
せっかくなのでクウネルさんも登場。
次に出てくるのは多分原作開始後。
本文には関係ないですが困っている事があります。
炎の魔法と回復の魔法が、原作でほとんど出てきてくれません。
炎の魔法は超と愛衣が学園祭で使った紅き焔と燃える天空ぐらい。
回復は初級魔法と完全治癒呪文のみ。
う~ん、今後が書きづらい。
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