ドゥリンダナ
それは大昔、ある高名な戦士が使ったとされる、伝説の武具の名前。またの名をデュランダルとも言われている。
その名を関する汚染獣、伝説に負けないほどの圧倒的な存在感と、力を持った怪物、ナノセルロイド・マザーIII・ドゥリンダナ
移動都市、グレンダンを丸ごと覆ってしまうほどの規格外の巨体。
ツェルニに住む学生が6万人、仮にグレンダンにも同数の人々が住んでいるとしても、数万人住む都市を覆ってしまえるほどの強大さ。
その巨大さで圧殺するだけで都市など滅ぼしてしまえそうだが、この汚染獣の本質はそこではない。
ドゥリンダナの本質、それは非常に優秀で、厄介な母体ということだ。
グレンダンを包み込むように、下を除いた全方位に展開した圧倒的な巨体。そこから絶え間なく都市に向けて打ち出される汚染獣の弾丸。
幸いにもその汚染獣の1体1体はそれほど強くはない。雄性体の初期ほどの戦闘力だろう。だが問題はその物量。
一呼吸の間に都市を覆いつくさんほどの汚染獣を弾として撃ち出してくる。
通常の都市ならば、この物量になす術もなく蹂躙されていただろう。
だが、幸か不幸か、この都市は普通ではなかった。武芸の本場、グレンダン。優秀な武芸者を多数抱え、名実共に世界最強の都市。
その都市が抱えるのは、その中でもえりすぐりの最強、天剣授受者。
本来なら12人(振り)あるそれは、1人が天剣を剥奪され、もう1人が私用で戯れているとはいえ、それでも10人。
彼らが都市を囲むように陣取り、撃ち出されてくる汚染獣を迎撃する。
リンテンスの鋼糸による圧倒的広範囲の面攻撃。天剣の中でも遠距離攻撃、射撃に特化したティグリスとバーメリンによる広域な援護射撃。
その他の天剣達も各々の持ち味を生かし、汚染獣を殲滅していく。その攻撃は都市に撃ち出されてくる、ほとんどの汚染獣を殲滅していた。
……そう、ほとんどだ。ほとんどの汚染獣の殲滅。
それは裏を返せば、撃ち漏らしがあるということでもある。
天剣授受者達は99.99%の汚染獣を殲滅しているとしよう。だが、そのあまりにも膨大な数故に、0.01%の汚染獣を討ち漏らしていた。
0・01%の積み重ね。塵も積もれば山となる。僅かな汚染獣達でも、時が経つに連れてグレンダンに蓄積、脅威となる。
とはいえ、仮にもここはグレンダン。じり貧の持久戦を強いられることにはなるだろうが、この程度ではまだ急を有する事態にはならない。
終わりの見えない戦いにブチギレて、後先考えずに発砲する者はいるかもしれないが、それでも『今』ではない。
グレンダンは天剣授受者だけではなく、一般の、熟練の武芸者達のレベルも高い。時間を稼ぎ、現状を維持するのは十分に可能だっただろう。
現に作戦もあった。ドゥリンダナを倒す算段。あまりにも巨大なこの怪物を倒す方法。
それはこうやって天剣授受者が時間を稼いでいる間に、グレンダン最高の念威繰者、デルボネがドゥリンダナの核、弱点を探し出し、そこを女王アルシェイラが一撃で仕留めるというもの。
ドゥリンダナはあまりにも巨大で、そして驚異的な再生力を持っている。直接攻撃して、肉体を削いだところですぐに再生されて元通り、切りがないのだ。
だからこそ今は耐え、一撃で倒せる隙を探っている。そう、今は耐え忍ぶしかないのだが……その思惑をめちゃくちゃにする2人(悪夢)が大暴れしていた。
「死ねええええ! サヴァリス!!」
「あははは、楽しいね、レイフォン!!」
グレンダンを飛び回り、跳ね回り、汚染獣の雨すら意に介さずに大暴れするレイフォンとサヴァリス。この緊急時だというのに、互いに互いの衝動のままに暴れ回るだけ。
「うらあああああ!!」
レイフォンがサヴァリスに斬りかかる。だが、サヴァリスはそれを回避。レイフォンは勢いそのままに、サヴァリスの背後にあった建造物、家を横薙ぎに両断。
まるでケーキやお菓子の家のように両断されたそれを見て、サヴァリスはニヤける。
「いいものを手に入れた!」
レイフォンが切り崩した家を担ぎ上げ、いたずら小僧のように笑うサヴァリス。
担いだ家をそのまま、レイフォンに向けて力の限りに投げつけた。大質量の投擲武器。直撃すれば大ダメージは必至、もっともそれは、当たればの話だが。
(当たるなんて思っちゃいないよ! けど、かわすなら、動作が制限される! そのかわした方向に追撃をかけるだけさ!)
視界を覆いつくさんばかりの巨大な投擲、弾だ。直撃せずとも、レイフォンの動きを制限することはできる。
避けるならば大きな動きを強いられ、その隙を突いてサヴァリスは大技を放つ。そういう計画だった。
サヴァリスはレイフォンがどう回避するのか、その動きを予測して……予測したのだが、盛大に裏切られる。
「え?」
「………」
家は一瞬で、まるで野菜のように賽の目切りで切り裂かれる。
たった一瞬、一呼吸にも満たない間。その間にサヴァリスの投擲した家は細かな瓦礫と化し、切られた勢いそのままに、散弾銃のようにサヴァリスを襲った。
「はは、ははははは! 面白い、面白いよレイフォン!」
瓦礫を腕や足で殴り、蹴り砕きながらサヴァリスは笑う。
そして気づく。この瓦礫の陰に紛れ、レイフォンの姿を見失ってしまったことに。
「あ、これは少しまず……」
まずいと言おうとした。だが、それを言い切る前に、瓦礫の陰に隠れたレイフォンがサヴァリスの隙を突いて、刀を振りかぶる。
技や型なんて関係ない。もはや怒りに任せ、力の限りにサヴァリスに向け、刀で斬りかかった。
「うごお!?」
サヴァリスは両の手を前方に構え、盾のようにしてレイフォンの斬撃を受け止める。
錬金鋼の手甲を付けているとはいえ、その威力は絶大。みしみしと、骨が悲鳴を上げるような感覚。折れはしてないが、ひびが入ったかもしれない。
もはやこの程度ではすまず、サヴァリスはレイフォンの斬撃によって勢いそのままに、外縁部方向に吹き飛ばされてしまう。
空を飛ぶような勢いで、サヴァリスの体は宙を舞い、外縁部に一直線。このままではエアフィルターを突き破り、ドゥリンダナにのめり込むことになるかもしれない。
「まだまだ! むしろ本番はこれからさ!」
それを避けるために、サヴァリスは衝剄を放って、吹き飛ぶ方向を僅かに変える。
その方向は、都市を囲むように配置されてるレギオスの脚。強大で、がっしりとした鋼鉄の塊に向かい着地し、都市の外へ飛び出すことを阻止し、姿勢を整える。
「ははは!」
が、暢気に一息ついている暇はない。吹き飛んだサヴァリスに向け、レイフォンは追撃をかけるように突っ込んでいた。
怒りと殺意に満ちた瞳でサヴァリスを睨みつけ、レギオスの脚に取りついたサヴァリスに向け、再び刀を振るう。
「今度こそ死ねえええ!」
「まだまだ死なないよ!」
レイフォンの斬撃を、再びかわすサヴァリス。飛び上がって上空へと逃れたのだが、レイフォンの斬撃はそのままレギオスの脚を切断した。
金属が擦れ、悲鳴を上げるような重厚な音が辺りに響き渡る。ギギギとあとを立てながら、崩れていく都市の脚。
都市を囲うように付いている多数の一本なので、この一本が切られたところですぐに都市の歩行には影響は出ないだろうが、それでも巨大な都市を支える脚の存在感は圧巻で、見る者を圧倒するほどに衝撃的な光景だった。
もっともその光景を作り出した2人は、それに気にすることなく戦い続けているのだが。
「今度はこっちの番だ!」
「ぐっ!?」
飛び上がったサヴァリスは、脚を斬ったレイフォンに向け、真下に叩きつけるように蹴り落とす。
レイフォンはサヴァリスの蹴りを刀で防ぎつつ、外縁部へと着地。
レイフォンを蹴った反動でサヴァリスは切り崩されて行く都市の脚へとしがみつき、そして……
「今度は家じゃなくて、こいつならどうだい? レイフォン!」
「………」
もはや物理法則を無視したかのように、巨大な都市の脚をレイフォンに向け、投げつけた。
当然、それをそのまま受けるレイフォンではない。かわした、普通に避けた。
上空に飛び上がって、回避したのだが……レイフォンに向けて投げつけられたレギオスの脚は、絶大な被害を与えながら都市の中心部へと飛んで行く。
外縁部に叩きつけられ、爆ぜるように跳ねた脚は外縁部付近の建造物をまとめて叩き潰し、それでも勢い止まらずに二回目、三回目と建物を押しつぶす。
それでも止まらずにゴロゴロと転がっていき、まるでローラーのように建物を押しつぶしながら、グレンダンの中心部に向かって行った。
「あははは、これ、あとで陛下に怒られるかもね! レイフォンも一緒に謝ってくれるかい?」
「知るか! お前が勝手にやったんだろう!」
「けど、脚を斬ったのはレイフォンじゃないか!」
煽るように言うサヴァリスと、怒りに任せ飛び掛かるレイフォン。
2人の戦いはさらに周囲を巻き込み、混沌としたものへと成り果てて行くのだった……
†††
「それで、その後どうなったんですか?」
「もちろん僕が勝ったよ。じゃなきゃ、ここにいないわけだしね」
昔のことを思い出した。それを目の前の女性に語るレイフォン。
女性は給仕服に身を包んでおり、お茶の用意をしながら、茶菓子と共にそれをレイフォンに差し出してくれた。
「そう、僕が勝った。サヴァリスを殺したんだ。なのにあの時のサヴァリスは、最期にとても満足そうな顔をしていたよ」
「やっぱり、人間というのはよくわかりませんね。死ぬ時になって、そんな顔が出来るだなんて」
「あいつのことは、大多数の人が到底理解できるものじゃないと思うんだけどなぁ」
戦闘狂の化身のようだったサヴァリス。戦うことが全てであり、自身から戦うことをやめたら死ぬと評した変わり者。
レイフォンもあまり人のことは言えないのだが、あれほど極端で稀有な人物はそうそういないだろう。
「あの後は本当に大変だったんだよ。何せ、サヴァリスとの戦闘で大暴れしちゃったからさ。陛下や、他の天剣の人達とも一悶着起こりそうになっちゃってさ……」
都市への被害度外視で暴れたために、戦闘が終わった後のグレンダンはボロボロだった。
特にサヴァリスは自分の都市だというのに、遠慮容赦なく暴れていたために、それはもう酷いことになっていた。
あれは復興するのは大変だろうと、当時のレイフォンはまるで他人事のように考えていた。実際、復興はかなり大変だったようだ。
「とはいえ、グレンダンは既にボロボロだったからね。これ以上暴れたら物理的に都市が持たないし、僕もサヴァリスを始末出来たから冷静になることができたし、それ以上グレンダンと敵対する理由もなかったから」
故に、女王や天剣との衝突は回避された。
再びグレンダンで女王と天剣が戦えば、レイフォンを倒すことは出来たかもしれない。だが、戦闘となればレイフォンは当然抵抗をする。
廃貴族を二体身に宿し、全力を出せる錬金鋼を持ったレイフォンだ。勝てなくとも、生き残るために時間を稼ぐことは可能。そして戦闘が長引けば、今度こそグレンダンという都市は限界を迎え、滅びてしまうことだろう。
ドゥリンダナとの汚染獣戦、そしてサヴァリスとレイフォンの暴走によって、都市は既に限界ギリギリだったのだから。
「ドゥリンダナはどうしたんですか?」
「さあ?僕とサヴァリスはただ暴れてただけだから。気づいたらいつの間にか死んでた」
ドゥリンダナ自身も、割と本気で災難だっただろう。
都市を囲うように強大な汚染獣、ドゥリンダナ。だが、その体内にはレイフォンとサヴァリスがいた。
例えるなら、体の中に2匹のスズメバチが入り込んだようなもの。加減も容赦もなく暴れ回った2人。
ぶん投げた瓦礫が体を突き破ったり、衝剄や大技の剄技の流れ弾が飛んだのも一度や二度ではない。周囲の被害度外視で暴れる2人は、さぞかし恐ろしかったことだろう。
「流石にドゥリンダナに同情してしまいますね……もっとも彼がそうやって注意をそらしてくれたからこそ、私は無事に地上へと降りられたのですが」
「ああ、そういえばそうだったね。ヴァティはあの騒動の時に、月から降りて来たんだっけ?」
まったく気にしていなかった、というかそれどころじゃなかったなと、レイフォンは昔を思い出しながら僅かに笑った。
「世界を破壊するために降りて来た汚染獣の祖、それが今じゃ、我が家のお手伝いさんだ」
「ええ、元は主人であるイグナシスを月の封印から解放し、彼の望み通り、世界を破壊することが私の目的でした。何故なら、私はそのために造られたのですから」
ヴァティと呼ばれた給仕服の少女は、遠くを見つめるようにレイフォンから視線をそらし、けどあどけたように、軽い物言いで言ってのけた。
「けどしょうがないじゃないですか。当のイグナシス本人は、長い間月に封印されてて、とっくに消滅してしまったんですから」
「あーうん、僕達からすればラスボスみたいな重要ポジションの人だったのに、既にお亡くなりになってました、ってことだからねぇ。アレはひどい」
「彼を解放するために、私はいろいろと暗躍してたんですよ。なのに当の本人が既にいない、そして彼の目的だった世界の破壊ですが、それを望んだ本人がもういないのに、世界を壊してなんになると言うんですか?」
「うーん、でもそれがもし遺言だとしたら、僕は迷わず実行するけどなー。大切な人だったんでしょう?」
「……………」
愁いを帯び、どこか寂しそうに言うレイフォン。ヴァティは右手の人差し指を曲げ、口元に充てて考え込むような所作をする。
「それでも、それでも今の私は、世界を破壊しようとは思えません」
そして導き出された答えは、迷いのない真っすぐな言葉。
「私はソーホ……貴方達の言うイグナシスの手によって造られました。ナノセルロイド・マザーI・レヴァンティンとして。元は異民への対処を目的として造られた、言うなれば兵器です。
ですがソーホは、ジャニスと言う女性に好意を抱いており、それがかなわなかったために、せめてもよ私を造る時に、ジャニスの姿へと似せて造りました。
姿は全く一緒で、ソーホも当初は私のことを気にかけてくださいました。大切にしていただきました。けれど、しょせんは模造品……ソーホはジャニスを忘れることができずに、
彼の心は、模造品である私から次第に離れて行きました……。そう、模造品です。人らしい心、感情を持たない、ただ命令を実行するための人形、それが過去の私です」
確かにと、そうだったと、レイフォンは過去の彼女を思い出す。
初めてヴァティと出会った時のことを。彼女は周囲でも有名な変わり者だった。まるで人形のようだと、誰かが言っていた気がする。
「だから私は人の心が知りたかった。ソーホの望む存在になりたいと思った。姿はソーホが望むものなのです。だから私が、私の内面が変われば、ソーホは私を見てくれる、私の元に戻ってくれる。そう思ってたんです」
「要するに、ソーホのことが好きだったんだよね、ヴァティは」
「ええ、そうです、その通りです。大好きでした。当初はその気持ちもいまいち理解できず、ソーホに気に入ってもらうにはどうすればいいのか、無我夢中でいろいろと模索しました。
ソーホの、人の気持ちを理解するために、様々な場所から、大勢の人が集まる学園都市を選び、その内面を研究、実験、観察などなど……いろいろと模索していたわけで」
「そして僕達は出会った」
「はい、レイフォンさんとフェリさんとの出会いは、私の中でも最も刺激的で、そして思い出深いものでした」
グレンダンの騒動が落ち着いて、武芸大会も無事終わって、カリアンの卒業が近づいて……そして待ちに待った、レイフォンとフェリの子供が生まれた。
双子だった。男の子と女の子。レイリーとリフォンと名付けたレイフォンとフェリの、息子と娘。まさに幸せの絶頂期であり、とてもとても充実した瞬間。
その後名残惜しそうに、叔父となったカリアンは卒業の時期を迎えたためにツェルニを去って行き、そしてツェルニは新たな新入生を迎え入れる。その新入生の中にいたのがヴァティだ。
「初めての子育てだったからね。僕は孤児院の出身だったから、兄弟達の面倒は見慣れてたと思ってたんだけど……子育てって思った以上に大変でさ。小隊としての活動もあったし、だからお手伝いさんの募集をして……」
「そして私が応募して、採用されました」
人というものを知りたかったヴァティ。いろいろとバイトなども掛け持ちして、様々な経験を積み重ねて行った。その中の一つ、いや、もはやメインと言っても過言ではなかった。
「レイフォンさんとフェリさんの関係……知れば知るほどに羨ましかったです。私もソーホとこうなりたい、2人のようにソーホとの間に子を儲けたいと、次第にそう思うようになっていました」
ヴァティは笑った。笑ったのだが……すぐに落ち込んでしまった。
「なのにソーホ、消滅してしまいましたからねぇ……時の流れというのは、本当に残酷です」
「ホント、僕がヴァティの立場だったら世界なんて滅ぼしてるかもしれないよ。だってさ、僕にとって、フェリのいない世界なんて考えられないもの」
どっちが世界の敵だったのか、わからないような発言をするレイフォン。
ヴァティはあははと、苦笑を浮かべながらポツリとつぶやく。
「それは効率的ではありませんよ。だって、どうしようが、どう思おうが、消えてしまったものは消えたまま。いなくなったものはいなくなったままです。世界を破壊したところで、戻ってきたりはしないんですよ?」
「確かにそうかもしれないけど……」
「もし仮に、もし仮にですよ、レイフォンさんとフェリさんが死に別れたとして、レイフォンさんはフェリさんの死を望みますか? 逆にフェリさんは、レイフォンさんの死を望むと思いますか?」
「……それはないね。考えたくもない、最悪な出来事だけど、もしそうなった場合は、せめて生き残った方は幸せに過ごして欲しいと、心から願うと思うよ。僕もフェリも」
「はい、まったくもってその通りです」
ヴァティは今までの会話で、冷めてしまったレイフォンのお茶を新しく入れ直しながら言葉を続ける。
「私も同じです。ソーホがいなくなってしまった。ですから彼の願いは、もはや意味のないものへと成り果ててしまった。世界を壊したところで、誰も喜ばない。むしろマイナスです。
世界を滅ぼしてしまえば、レイフォンさんやフェリさん……そしてあなた方の子供達だって困ってしまうじゃないですか。私は、それは嫌です」
「そうだね、僕も嫌かな。そうなれば、ヴァティと戦わなきゃいけなくなるしね」
ヴァティの入れてくれた熱いお茶を飲みながら、レイフォンは笑った。
「なんですか? ずいぶん楽しそうですね、2人とも?」
「え、そう見えますか? フェリ」
そんな2人の会話に入るように、フェリが部屋に入ってくる。
リフォンを抱き上げ、フェリの足元にはレイリーがまとわりつくように歩いてきて、レイフォンの向かいの席に座った。
「もう、引っ越しの準備は終わったんですか? 何せ、明日にはもう、ここを出ることになるんですから」
「はい、荷物の整理は終わってますよ。残った家具も、明日の早朝には業者さんが引き取りに来てくれますし」
「そうですか。少し、名残惜しいですね。長かったようで、短くて。明日で、ツェルニともお別れです」
フェリは6年生。レイリー&リフォンは4歳。ツェルニ卒業の年を迎えていた。
ちなみにレイフォンはフェリの一つ下なので5年生なのだが、フェリの卒業とともにツェルニを中退する予定だ。フェリがいないのにもう1年ツェルニに残るなど、考えられない。
そしてヴァティも、学年的にはレイフォンの一つ下で4年生なのだが、彼女も共に中退して、ツェルニを出る予定である。
「明日、バスに乗って、フェリの故郷であるサントブルグに向かうんですよね? 楽しみだなぁ、フェリの育った都市かぁ」
「そんなに期待するようなところではないと思うんですが……特に何もないですよ?」
「いやいや、グレンダンよりつまらない都市なんてそうそうないと思いますよ。武芸の大会は結構頻繁に行われてましたけど、戦いばかりで、基本貧乏で何もない都市でしたから」
今日が、ツェルニで過ごす最後の夜。
レイフォンとフェリが出合い、これまで過ごして来た都市を思い出しつつ、これから向かう新たな場所に思いを寄せてもいた。
「フェリ、僕はグレンダンを追放されて、逃げるようにツェルニに来ましたけど、ツェルニに来れてとてもよかったと思います、だって、フェリに会えたんですから」
「……私もです、フォンフォン。私もツェルニに来て、そしてフォンフォンに会えて、とてもよかったです」
「これからもよろしくお願いします、フェリ」
「ええ、こちらこそ、フォンフォン」
いろいろあった、本当にいろいろあったツェルニでの学園生活。
楽しくもあり、苦しくもあり、だけど後悔は一切ない日々を噛み締め、この日常はひとまずの幕引きを迎えることとなった。
あとがき
いろいろとすっ飛ばしたり、ダイジェストでしたが、まあ、まぁまぁ、おおざっぱにするとこんな感じ。
ヴァティのとこはもっとじっくり、しっかり書きたかったけど、それが出来なかったのが心残り。
原作ではソーホ(イグナシス)に想いを寄せて、人の心、恋愛感情みたいなのを勉強したくてメイシェンに目を付けて、ツェルニに潜入してた感じ。
けどここでは、ツェルニのヤンデレバカップルに影響を受けて、憧れと言うか、いろいろ悟ったと言うか、感情的にいろいろと成長した感じ?
今後はロス家のお手伝いさんとして生きて行きます!
大事なとこをしっかりと描写できなかったけど、割と本気で原作も投げっぱなしで完結しちゃったのが悲しいところ。
やっぱりあの終わり方でテンションが下がってしまったのが、ちょっとエタっちゃった原因だと思います。それでも大好きで、リアルで私の青春だったラノベ、鋼殻のレギオス。素晴らしい作品だったと思い、それに出会えたこと、そしてここまで読んでくださった皆様に、本当に感謝です。
物語の大筋はひとまずこれで幕なんですが、書けなかった細部の部分や、ツェルニからサントブルグに向かう道中、コーヴァスでユーリと再会するお話とかは是が非でも書きたいです。近いうちに短編として書くかも!
年内に終わらせたかったですけど、新年あけてもう2月になってしまいましたが……
まあ、是非もないよね? いろいろと語りたいことはたくさんありますが、今は頭の中がぐちゃぐちゃで何を言っていいのかわかりません。
また後日、あとがきとか、推察的なものを投下するかもしれませんが、ひとまず今宵はここまで。皆さん、本当にありがとうございました!!
PS・鋼殻のレギオスが参戦すると聞いて、ファンタジア・リビルドと言うアプリゲー始めました!
ニーナとシャーニッドはゲットしました! けれど、レイフォンとフェリがまだ実装されてないという悲しみ……