レイフォンはマイアスの都市旗を抱え、何事もなかったようにツェルニに戻っていく。
その途中で敗北により気落ちしたマイアスの武芸者達と鉢合わせすることになったが、レイフォンはそんなものに構わずにツェルニへと足を進めた。
旗を持ち、周囲をまったく気にせずに歩く姿に、マイアスの武芸者達から恨みがましい視線が集中する。
だけどレイフォンはそんな視線などものともせず、また、物理的にレイフォンをどうこうできる者がマイアスにはいないため、まさに無人の野を行くが如くツェルニを目指していた。
戦闘も終わったため、先ほどのようにレイフォンを邪魔する者は存在しない。そしてちょうど、都市の接触点を越えたところでレイフォンの帰還を待ち望んでいた者達が声をかける。
「やってくれたなレイフォン!やっぱ、お前スゲーわ」
腕を回し、頭を絞めるように歓迎をするシャーニッド。その歓迎によってレイフォンは都市旗を落としそうになってしまうが、何とか耐えて持ち直す。
「はーっはっは、やってくれたなこんちくしょう!たった1人でマイアスを落としたって?はーっはっは!!」
オリバーがばしばしとレイフォンの頭を叩き、妙なテンションで笑っていた。
流石に痛がるレイフォンだったが、彼らの手荒い歓迎は留まる所を知らずにさらに激しさを増していった。
1人、2人と数が増えていき、レイフォンはあっと言う間に人垣に囲まれてしまった。
「痛い痛い!ちょ、本気で痛いですって!!タンマ、ちょ、やめ……」
空しい叫びも無視され、レイフォンは自身の体のいたるところを叩かれ続ける。
とてもツェルニ最強の武芸者とは思えない姿を晒す自分の部下に、ニーナは微妙な視線でそれを眺めていた。
「どうした、嬉しくないのか?ツェルニが勝利したんだぞ」
「ダルシェナ……いや、嬉しいですが……」
そんなニーナに、ダルシェナが声をかける。
彼女は馬鹿騒ぎをするあの集団を呆れたように眺めてはいるが、純粋にツェルニの勝利を喜んでいるようだった。
だが、ニーナはそうすることができない。ツェルニが勝利し、新たなセルニウム鉱山を手に入れたことはとても喜ばしいことだ。だけど、素直にそのことを喜ぶことができないでいた。
「レイフォン1人に手柄を取られたようで悔しいのか?」
「いえ、そんなことは……」
何気なく、ダルシェナによって紡がれた言葉。それを否定するニーナだったが、案外的を射る発言だったようだ。
ニーナの言葉の歯切れが悪く、明らかに動揺しているようだった。
「まぁ、気にするな。私も悔しいと思わなくはないが、あいつのデタラメさは今に始まったことではない」
ニーナは自分の手でツェルニを護りたいから小隊を立ち上げた。
前に所属していた第十四小隊は良い隊だったが、そこでは自分の考えを押し通すのに時間が必要であり、そのための時間がツェルニにあるか疑問だったために第十四小隊を抜け、自らが隊長となって第十七小隊を作った。
それなのに、手柄をレイフォン1人に掻っ攫われたようで悔しいのだろう。
だが、それも仕方がなかった。レイフォンは強い、強すぎるのだ。学生と言う枠に収まる存在ではなく、あのグレンダンでも最強の一角だった元天剣授受者。
そんな彼と並んで戦場に立つなんてことができるはずがなく、ニーナ達は足を引っ張る存在でしかない。
圧倒的力を持つが故にチームワーク、連携を不得手とするレイフォン。そんな彼は必然的に単独での戦闘を強いられてしまう。
そのことごとくをレイフォンは1人で乗り越え、今ここにいる。そんな彼の側に、ニーナが付け入る隙はなかった。
「だが、勝ったんだ。今はその勝利を素直に喜ぶべきだろう?」
「そう……ですね」
それでもツェルニが勝利した。がけっぷちだった現状を乗り越え、セルニウム鉱山に余裕ができた。ダルシェナの言うとおり、素直にそのことを喜ぶべきだろう。
第十七小隊を立ち上げ、自分の考えを通し、そして活躍できたからと言っても、結局は武芸大会に勝たなければ意味がない。
誰が活躍し、誰がツェルニを護ったかなんてものは関係ない。勝利と言う事実がもっとも重要なのだ。
「次も勝つぞ」
「はい」
決意を固め、ダルシェナの言葉にニーナは力強く頷いた。
「もう決着が付いたのか。まぁ、レイフォンがいるのだから仕方がないけどね」
もみくちゃにされるレイフォンの姿を、ある建物の上から監視する者がいた。リーリンを無事にシェルターへ送り届けた後、ツェルニを探索していたサヴァリスだ。
武芸大会を見学していた彼はあっさりと敗北してしまったマイアスに失望するが、レイフォンがいるなら仕方ないと納得もしていた。
彼を止められる存在などマイアスには存在しない。あのシェルにしても、レイフォンの前ならば一撃で敗北してしまうだろう。
グレンダンを放逐されたとはいえ、仮にもレイフォンは元天剣授受者だ。学生達が束になっても敵う存在ではない。
そして廃貴族の憑いた彼は、現天剣授受者のサヴァリスすらをも凌駕する怪物。
「くく……面白いじゃないか。そうでなくちゃいけない。僕よりも弱い者と戦って得るものはなにもないんだ。強者との戦いこそが実を結び、更に僕を高みへと導いてくれる」
故にサヴァリスは求める、強敵との戦いを。己を高める切欠、刺激こそがサヴァリスを高揚させる。
サヴァリスは強さを求める。更に上の領域を目指す。そのためだったらどんなことでもしてみせる。
「さぁ、レイフォン。僕を存分に楽しませてくれよ」
獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべ、サヴァリスは笑っていた。
視線を感じる。ねちっこく、品定めでもされているような不愉快な視線。
もみくちゃにされながらもしっかりと視線を感じ取り、レイフォンは視線の主が誰なのかを想像する。だが、そんな無駄な行為はすぐにやめた。
この視線の主が誰なのか?決まっている、そんなもの考えるまでもない。
このような視線を向けてくる者など、サヴァリス以外ありえなかった。
(まさか、今から仕掛けてこないよね?)
戦闘に快楽を覚えるサヴァリスだからこそ、今、ここで仕掛けてくると言う可能性があった。
廃貴族が取り憑き、全力を出せる錬金鋼を持ったレイフォンならサヴァリスが相手でも負けることはないと思うが、もし戦闘になってしまえば周囲の被害は計り知れないものになる。
人が密集したこの状況で戦闘が始まれば、レイフォンとサヴァリスの戦闘に巻き込まれるのは確実だ。最悪、死人すら出てしまうだろう。
だからと言ってレイフォンにはできることは、サヴァリスが襲ってこないように祈ることだけだった。
「フォンフォン、どうかしましたか?」
「いえ、なんでもないです」
人垣を掻き分け、レイフォンを労いに来たフェリにレイフォンは平然と答える。
もし、サヴァリスが仕掛けてきたとしてもフェリだけは護ってみせる。ぶっちゃけると、フェリが無事なら後はどれだけの犠牲が出ようと構わない。
そう決意を固めるのと同時に、背後から嫌な気配が近づいているのに気づいた。だが、周囲の者達は気づく様子を見せない。当然だ、気配を殺しているのだから。
殺剄。それもレイフォン以外には気づかせないほどに熟練したもの。それはもはや学生武芸者の域ではなく、グレンダンでも上位に位置するのではないかと思うほどだ。
一瞬、サヴァリスかと思った。まさかあそこから、レイフォンに気づかれないようにここまで接近したのか?
だが違う。サヴァリスではないと確信する。何故ならば未だにサヴァリスの視線を感じていたからだ。
サヴァリスは動かず、未だに建物の上からこちらの様子を窺っている。
では一体、殺剄を用いてレイフォンに接近するこの人物は誰だ?
「くっ……」
その正体に感づいたところで、レイフォンは体を捻った。
「フォンフォン!?」
先ほどまでレイフォンの頭部があった場所を手刀が通過し、フェリを始めとした周囲の者達も異変に気づいた。
「流石レイフォン様!不意打ちなんて無意味ですね」
愉快な少女の声が響く。だが、少女のやった行為は愉快とは程遠かった。
ただの手刀なのに鋭く、まるで本物の刃物のような一撃。空気を切り裂くような風切り音が鳴り、直撃すれば首ぐらい薙ぎ落としたのではないかと思わせる。
そんな不意打ちを仕掛けられたレイフォンは、深いため息を付いて襲撃者が予想通りの人物だと言うことを確認した。
「やっぱりあなたですか……クラリーベル様」
「はい!」
襲撃者、クラリーベルは元気良く返事をする。その無邪気で楽しそうな態度とは裏腹に、次はえげつない動作を取ってきた。
腕を突き出し、ブイサインの指でレイフォンの目を突こうとしてくる。目潰しだ。
その目潰しを避けたレイフォンは、クラリーベルの腕をつかんでそのまま投げ飛ばす。が、クラリーベルは地面に叩きつけられるまでの僅かな間に体勢を立て直し、見事に着地した。
「今ので決まってたらよかったんですけどね……」
「二度も同じ手は通用しませんよ」
呆れ交じりの表情を浮かべるレイフォン。対するクラリーベルは爽やかな笑みを浮かべていた。
高揚する。戦闘に対し喜びを感じ、頬が朱色に染まる。体が疼き、そして熱い。
「なんだ貴様は!?」
だからだろう。空気を読まず、警戒心を向けて取り囲んできたツェルニの武芸者にクラリーベルは苛立ちを感じてしまう。
いきなり襲い掛かったのは悪いと思うが、邪魔をしないで欲しい。だが、相手がそんなクラリーベルの心境をくんでくれるわけがないのも事実。
クラリーベルは襲撃者であり、そして侵入者。レイフォンに不意打ちをかけたこともあり、警戒されて当然なのだ。
「大丈夫です、隊長。何も問題はありません」
なのに、不意打ちをかけられた本人であるレイフォンがそれを制する。
「だが……」
「本当に大丈夫ですから。クラリーベル様に、彼女に敵意はありません」
ニーナを下がらせ、レイフォンはクラリーベルに向けて歩み寄る。
フェリは心配そうな表情を浮かべていたが、その必要はないと微笑む。
「……思うんですけど、サヴァリスさんとクラリーベル様って似てますよね?」
「そうですか?私はそうは思いませんけど」
クラリーベルと向き合うと、レイフォンの表情が引き締まる。確かにクラリーベルに敵意はなかった。レイフォンのことを敵とは認識していない。
だが、彼女から発せられる闘志は決して無視できるものではなかった。
その証拠に、クラリーベルの手は剣帯の錬金鋼にかかっていた。まだ抜いてはいない。だが、何時でも抜けるような状況だった。
「そういえば、マイアスで会った時から思ってたんですけど、様はやめてもらえませんか?僕はもう、天剣授受者じゃない」
「そうでしたね。ならば、レイフォンさんということで。ああ、こうやって対峙していると思い出します。あなたと始めて同じ戦場に立った日のことを。あなたはもう天剣授受者で、私の初陣の後見人としていてくれた」
「なにかありましたっけ?僕はよく覚えていません」
何気ない会話が交わされる。そして、レイフォンの挑発とも取れる受け答え。
それを受けても、クラリーベルは涼しい顔で続けた。
「そうでしょうね。あなたにとっては、たくさんあった戦場のひとつでしかないでしょう。しかし私にとっては、とても思い出深い戦でした……あの日から、私はあなたを超えたくて仕方ない」
「つまり……今ここで、やるんですね?」
「ええ、そういうことで……」
言葉の途中だった。だが、そこでクラリーベルが動く。
残像が残るほどに素早く動き、体勢を低くしてレイフォンに迫る。錬金鋼は未だに剣帯の中だ。だが、指は何時までも抜ける形になっている。
抜き打ち、レイフォンはそう確信する。対するレイフォンも抜き打ちだった。剣帯に収められていた錬金鋼をつかむ。
クラリーベルは真っ直ぐレイフォンに突っ込み、錬金鋼を抜いた。それと殆ど同時にレイフォンも抜刀する。
復元の光、青と赤の剄の輝きが交錯する。斬線が絡み合う。両者の全身から噴出された剄が天を突く。
それは一瞬の出来事。抜き打ちとは一撃必殺。故に決着は一瞬。
未だに接触しているツェルニとマイアス、二つの都市の端から端まで剄の波動が疾走した。
だが、そのことに気づく者はいないだろう。学生武芸者では気づけない。それほどまでに短く、洗練された剄のぶつかり合い。
その光景を見ていたサヴァリスは、全身を震わせて笑っていた。
「くっ、くく、あーはっはっは!楽しそうですね、僕も入れて欲しいくらいだ。いっそのこと、今から参戦しようかな?」
武者震いなんて生易しい。狂ったように笑い、体を震わせている。
高ぶる気持ちを何とか抑え、サヴァリスは勝負の行方を見据えていた。
レイフォンの使用した錬金鋼は学園都市指定のものだ。当然刃引きがしてあり、相手を切り裂く心配はない。
それでも骨を折り、砕くことはできる。
「っう……」
クラリーベルの腕はありえない方向に折れ曲がっていた。握っていた錬金鋼を取り落とし、腕を抱えて蹲っている。
折れているのだ。レイフォンの刀がクラリーベルの腕の骨を砕き、戦闘を続行できない状況へと陥らせた。
「くっ、あはははは!いいですね、やっぱりあなたは最高です」
痛みにより表情が引き攣り、冷たい汗が全身から溢れてくる。だが、それでもクラリーベルは笑っていた。
楽しそうに、満足そうに、笑っている。
「やっぱり、あなたはサヴァリスさんとそっくりですよ」
その狂気染みた彼女の笑いを見て、レイフォンはボソリとつぶやく。
「えげつねぇな、オィ……容赦なしかよ」
いきなり襲われれば仕方のない話だが、躊躇なくクラリーベルの腕を折ったレイフォンにシャーニッドは戦慄する。
周囲にいた者達もざわざわと騒ぎ始め、襲撃してきたクラリーベルに視線が集中した。
「で、誰なんだその子は。お前さんの知り合いなわけ?」
周囲の疑問を代表して、またもシャーニッドが口を開いた。
問われたレイフォンはため息を付き、苦々しい表情を浮かべる。
「彼女は、クラリーベル・ロンスマイア様。グレンダンの王家、ロンスマイア家の人で、不動の天剣と呼ばれているティグリスさんの孫です」
「おぃおぃ、良いとこのお嬢様ってことかよ。で、何でそんな子がここにいるんだ?」
「さあ?」
簡単にクラリーベルの紹介をするレイフォンだったが、次の問いに答えることができなかった。彼女が何でツェルニに来たのか。それはリーリンの件とまとめて聞きたい。
サヴァリスの場合は廃貴族で説明がつくが、それにクラリーベルとリーリンが同伴する意味が分からない。
そもそもこの3人に、どんな関連性があるのかも不明だった。
「どうしてここにいるんですか?」
「あ、それはですね……」
こういうことは本人に尋ねるのが一番だ。レイフォンがクラリーベルに、どうしてここにいるのか尋ねようとしたところで……
「もう無理だ、我慢できない。さあ、レイフォン。僕と戦おうか」
戦闘狂が現れた。
「………サヴァリスさん」
「おぃおぃ、今度は誰なんだよ?またグレンダンの知り合いか?なんでこんなとこにいるんだよ?」
「何でこんなところにいるのかは分かりませんが、あの人はサヴァリスさん。ゴルネオ・ルッケンスの兄で、現役の天剣授受者です」
「え、マジ……?」
レイフォンの更なる説明に、シャーニッドの表情が固まった。天剣授受者、つまりはレイフォンと同格の存在だと言うことだ。
学生武芸者が束になろうと、決して勝てない化け物。そんな存在を前にし、シャーニッドは思わず息を呑む。
「フォンフォン……」
フェリが心配そうにレイフォンを見詰める。弱々しく、不安そうな表情だった。
「心配は要りませんよ、フェリ。すぐに終わらせますから」
それを払拭するために、レイフォンは笑顔を作る。優しく、暖かな笑顔だった。
「言ってくれますね。今度はマイアスの時のようにはいきませんよ」
「どうですかね?それはそうとサヴァリスさん、ここでやると周りに被害が出そうなので場所を変えませんか?」
「別にいいですけどね。どこでしますか?」
「あっちの外縁部ならば人もいないでしょうし、存分に戦うことが出来ると思いますよ」
「ふむ、いいでしょ……」
場所を変えるというレイフォンの提案に乗り、サヴァリスはレイフォンの指差す方に視線を向けた。
つまりは、レイフォンに無防備な背中を向けたということであり、その隙を逃さずにレイフォンは仕掛けた。
「隙あり!」
「がふっ!?」
不意打ち。背後から強烈な蹴りを放ち、サヴァリスを蹴り飛ばす。
レイフォンの性格からして不意打ちをするとは思わず、また、あまりにも強大な剄で強化されたレイフォンの身体能力に咄嗟には反応できず、サヴァリスはまともにレイフォンの蹴りを喰らってしまった。
背骨がきしむ音がした。折れてはいないだろうが、皹は入ったかもしれない。
吹き飛ばされ、前方の建物に突っ込む。壁に人型の穴が空き、頭上からは瓦礫が落ちてくる。
「……………悪魔かお前は!?」
「わざわざ相手にしてられないじゃないですか」
レイフォンはシャーニッドの鋭い突込みを受け流し、サヴァリスが吹き飛ばされた方向を見る。
「……死んだんじゃねぇか?」
「まさか、サヴァリスさんは仮にも天剣授受者ですよ。あの程度で死ぬわけないじゃないですか」
シャーニッドの問いに、レイフォンは冷静に返答する。だが、気は失っているのだろう。
サヴァリスの体は瓦礫の中に埋まっており、ぴくりとも動く様子をみせない。完璧に不意を突かれたため、かわすことも、防御することもできなかったのだ。
「今のうちに手足の2,3本でも折っておこうかな?そうすれば少しは大人しくなるだろうし」
「お前……変わったな本当に。もちろん悪い意味で」
冗談なのか、本気で言っているのか非常にわかりづらい言葉だった。少し前までのレイフォンなら、こんなことは言わなかっただろう。
フェリと付き合うようになっていろいろと変化を見せるレイフォンだが、それが全て良い方向に変わっているというわけではないらしい。
「レイフォン」
ふと、レイフォンに声がかけられる。その声に反応し、レイフォンが振り向いた。
シャーニッドも釣られてレイフォンの視線を追うと、そこには1人の少女がいた。
背中まで伸びた金色の髪。澄み切った青の瞳。レイフォンと同年代くらいの少女であり、またレイフォン目的の訪問者かとシャーニッドは呆れてしまう。
「またかよ。そして美人じゃねぇか。なに、お前さんグレンダンじゃ女遊びが激しかったのか?」
「怒りますよ、シャーニッド先輩。別にそんなのじゃありません」
レイフォンは冷静だった。既に一度マイアスで遭遇していたし、フェリの念威によってツェルニに来ているのはわかっていた。
動揺はなく、驚きはなく、落ち着いて視線の先にいる少女に声をかける。
「久しぶりだね、リーリン。まさかツェルニに来るなんて驚いたよ」
「レイフォン……」
リーリンの瞳が潤む。久しぶりに幼馴染の顔を見て、涙腺が緩んでいた。
クラリーベルやサヴァリスが騒動を起こしていたが、今、シェルターから出てきたばかりのリーリンはそれを見てはいない。
レイフォンを発見し、すぐさま声をかけたのだ。今の彼女には、レイフォン以外見えてはいなかった。
「フォンフォン、この人が……」
「ええ、何度か話しましたよね?幼馴染のリーリンです」
だから、フェリの登場にリーリンの表情が怪訝なものになる。
初めて会った少女だ。だが、彼女の顔をリーリンは知っている。
「あ、あなたは……レイフォンのか、彼女のフェリさん、でしたよね?」
レイフォンの手紙と共に送られてきた写真。それに写っていた少女を前にして、リーリンの声は上擦っていた。
フォンフォンなんて珍妙な呼び名に突っ込みを入れる余裕なんてない。
「いいえ、違います。確かに私はフェリですが……」
リーリンの言葉をフェリが否定する。無表情だが勝ち誇ったような顔で、胸を張り、堂々と宣言した。
「フォンフォンの彼女ではなく、妻になります。よろしくお願いしますね、リーリンさん」
「………え?」
驚愕するリーリン。また、現在は都市戦が終わったばかりであり、周囲には大勢の人達がいた。
小隊関連の者達、都市戦に参加した一般の武芸者達、何より初耳だったニーナやシャーニッド達も驚愕の表情を浮かべている。
「あ~、うん、つまりね……」
レイフォンは照れ臭そうに頭を掻く。彼はリーリンの想いになど気づいていない。
何故ならあまりにも鈍感で、朴念仁だったから。だから、簡単にも爆弾を投下する。
「フェリと結婚することにしたんだ、僕。一応手紙には書いたんだけど、リーリンはこっちに来てたから行き違いになったみたいだね」
その言葉は、リーリンの想いをズタズタに引き裂くには十分すぎる一撃だった。
あとがき
都市戦終了、ついでに7巻編終了。ですが一部の人達が自重しない。故になんかごちゃごちゃしちゃったなと思う今回。
クラリーベルがレイフォンに襲い掛かり、サヴァリスもレイフォンに戦闘を挑むけど、不意打ちと言うか騙まし討ちであっさり撃沈。
レイフォン、何でこうなった?
そしてリーリンに告げられる、とんでもない台詞。この時、同時に初めてレイフォンとフェリが結婚すると告げられました、第十七小隊の面々。祝うのは武芸大会後と言う事で、内密にカリアンが話を進めていきましたからね。
なんにせよ、大勢の前で暴露された秘密。フェリ・ロス親衛隊がどうなるのかにも注目です!
次回からは8巻編……とはいきません。まぁ、理由としては8巻は短編集でしたし、これはフェリルート一直線の話ですし、既にフェリがバイトする話は書いてるわけで。
9巻編にいたっても7巻、8巻の時間軸からいきなり3ヶ月ほど飛んでるんですよ。
そんなわけでその空白の期間、イベントの話を次回から本編の番外編(自分で言ってて良くわからない)をやりたいと思います。
結婚のことを明かされた第十七小隊の面々やリーリン達がどういう騒動を起こすのか、フェリ・ロス親衛隊崩壊の危機だったり。肝心のレイフォンとフェリの結婚式(イベント)だったり。
レイフォンとサヴァリスがマイアス以来のガチバトルしたりとか、無茶な教導をしたり。
初期の番外編で出てきた1年生、レオがまさかの弟子入り!?史上最強の弟子育成計画なんてネタもあったり。
師はレイフォン、サヴァリス、クラリーベル、ハイアなんて贅沢すぎるメンバーをそろえ、一歩間違えれば拷問の域の修行を!?
まぁ、修行や弟子入り云々はネタなんで、まだ未定ですけどw
どうでもいいですが、ハイアとミュンファのイベントエピローグに入れる予定でしたが、都市戦中って普通は一般人シェルターに避難しますよね。ハイアは武芸者ですが、怪我してますし、この時はシェルターに避難してたはず。
予定では病室でミュンファと会話し、手を使えないので果物を『あ~ん』で食べさせてもらう予定でしたが、そんな理由があり、またハイアだしどうでもいいかという理由でカットしました。
それにハイア×ミュンファってあまり需要なさそうですしw
なんにせよ、次回も更新がんばりますので応援よろしくお願いします。
ちなみに、これは他人からすればすごくどうでもいいことなんで聞き流してもらっても結構です。
いきなりですが俺、武芸者はオリジナル作品を書いてみようと思います。投稿用のSSではなく、応募するための作品ですね。プロを目指してみようかな、なんて……
真面目に言ってて恥ずかしいですが、真剣(マジ)でラノベ作家目指してみようかなた思ったり。そのために作品を書こうと思ってます。
構成を簡潔に説明すると、ヤンデレ?な神様(主人公)が魔王(ヒロイン)に恋して、勇者(ヒロインの敵)を倒すって内容です。
キノの旅形式で1話完結型?でいきたいかなって思ってます。
1話完結のプロローグ部分ができたらこちらの掲示板のオリジナル板に様子見で投稿するかもしれませんので、その時はよろしくお願いします。
もっとも兄に言われたのですが、俺の作品には描写に癖があり、また誤字なども多いからそこに気をつけろといわれたり、まったくなんですよね。
なんにせよそんなわけですので、しばらく更新のスピードが落ちるかも知れません。
ですが、オリジナル作品執筆中も更新はしていきたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。
っつか、ゲームの時間削ればよくね、なんて思う武芸者でした(汗