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No.15685の一覧
[0] フォンフォン一直線 (鋼殻のレギオス)【一応完結?】[武芸者](2021/02/18 21:57)
[1] プロローグ ツェルニ入学[武芸者](2010/02/20 17:00)
[2] 1話 小隊入隊[武芸者](2011/09/24 23:43)
[3] 2話 電子精霊[武芸者](2011/09/24 23:44)
[4] 3話 対抗試合[武芸者](2010/04/26 19:09)
[5] 4話 緊急事態[武芸者](2011/09/24 23:45)
[6] 5話 エピローグ 汚染された大地 (原作1巻分完結)[武芸者](2010/05/01 20:50)
[7] 6話 手紙 (原作2巻分プロローグ)[武芸者](2011/09/24 23:52)
[8] 7話 料理[武芸者](2010/05/10 18:36)
[9] 8話 日常[武芸者](2011/09/24 23:53)
[10] 9話 日常から非日常へと……[武芸者](2010/02/18 10:29)
[11] 10話 決戦前夜[武芸者](2010/02/22 13:01)
[12] 11話 決戦[武芸者](2011/09/24 23:54)
[13] 12話 レイフォン・アルセイフ[武芸者](2010/03/21 15:01)
[14] 13話 エピローグ 帰還 (原作2巻分完結)[武芸者](2010/03/09 13:02)
[15] 14話 外伝 短編・企画[武芸者](2011/09/24 23:59)
[16] 15話 外伝 アルバイト・イン・ザ・喫茶ミラ[武芸者](2010/04/08 19:00)
[17] 16話 異変の始まり (原作3巻分プロローグ)[武芸者](2010/04/15 16:14)
[18] 17話 初デート[武芸者](2010/05/20 16:33)
[19] 18話 廃都市にて[武芸者](2011/10/22 07:40)
[20] 19話 暴走[武芸者](2011/02/13 20:03)
[21] 20話 エピローグ 憎悪 (原作3巻分完結)[武芸者](2011/10/22 07:50)
[22] 21話 外伝 シスターコンプレックス[武芸者](2010/05/27 18:35)
[23] 22話 因縁 (原作4巻分プロローグ)[武芸者](2010/05/08 21:46)
[24] 23話 それぞれの夜[武芸者](2010/05/18 16:46)
[25] 24話 剣と刀[武芸者](2011/11/04 17:26)
[26] 25話 第十小隊[武芸者](2011/10/22 07:56)
[27] 26話 戸惑い[武芸者](2010/12/07 15:42)
[28] 番外編1[武芸者](2011/01/21 21:41)
[29] 27話 ひとつの結末[武芸者](2011/10/22 08:17)
[30] 28話 エピローグ 狂いし電子精霊 (4巻分完結)[武芸者](2010/06/24 16:43)
[32] 29話 バンアレン・デイ 前編[武芸者](2011/10/22 08:19)
[33] 30話 バンアレン・デイ 後編[武芸者](2011/10/22 08:20)
[34] 31話 グレンダンにて (原作5巻分プロローグ)[武芸者](2010/08/06 21:56)
[35] 32話 合宿[武芸者](2011/10/22 08:22)
[37] 33話 対峙[かい](2011/10/22 08:23)
[38] 34話 その後……[武芸者](2010/09/06 14:48)
[39] 35話 二つの戦場[武芸者](2011/08/24 23:58)
[40] 36話 開戦[武芸者](2010/10/18 20:25)
[41] 37話 エピローグ 廃貴族 (原作5巻分完結)[武芸者](2011/10/23 07:13)
[43] 38話 都市の暴走 (原作6巻分プロローグ)[武芸者](2010/09/22 10:08)
[44] 39話 学園都市マイアス[武芸者](2011/10/23 07:18)
[45] 40話 逃避[武芸者](2010/10/20 19:03)
[46] 41話 関われぬ戦い[武芸者](2011/08/29 00:26)
[47] 42話 天剣授受者VS元天剣授受者[武芸者](2011/10/23 07:21)
[48] 43話 電子精霊マイアス[武芸者](2011/08/30 07:19)
[49] 44話 イグナシスの夢想[武芸者](2010/11/16 19:09)
[50] 45話 狼面衆[武芸者](2010/11/23 10:31)
[51] 46話 帰る場所[武芸者](2011/04/14 23:25)
[52] 47話 クラウドセル・分離マザーⅣ・ハルペー[武芸者](2011/07/28 20:40)
[53] 48話 エピローグ 再会 (原作6巻分完結)[武芸者](2011/10/05 08:10)
[54] 番外編2[武芸者](2011/02/22 15:17)
[55] 49話 婚約 (原作7巻分プロローグ)[武芸者](2011/10/23 07:24)
[56] 番外編3[武芸者](2011/02/28 23:00)
[57] 50話 都市戦の前に[武芸者](2011/09/08 09:51)
[59] 51話 病的愛情(ヤンデレ)[武芸者](2011/03/23 01:21)
[60] 51話 病的愛情(ヤンデレ)【ネタ回】[武芸者](2011/03/09 22:34)
[61] 52話 激突[武芸者](2011/11/14 12:59)
[62] 52話 激突【ネタ回】[武芸者](2011/11/14 13:00)
[63] 53話 病的愛情(レイフォン)暴走[武芸者](2011/04/07 17:12)
[64] 54話 都市戦開幕[武芸者](2011/07/20 21:08)
[65] 55話 都市戦終幕[武芸者](2011/04/14 23:20)
[66] 56話 エピローグ 都市戦後の騒動 (原作7巻分完結)[武芸者](2011/04/28 22:34)
[67] 57話 戦いの後の夜[武芸者](2011/11/22 07:43)
[68] 58話 何気ない日常[武芸者](2011/06/14 19:34)
[70] 59話 ダンスパーティ[武芸者](2011/08/23 22:35)
[71] 60話 戦闘狂(サヴァリス)[武芸者](2011/08/05 23:52)
[72] 61話 目出度い日[武芸者](2011/07/27 23:36)
[73] 62話 門出 (第一部完結)[武芸者](2021/02/02 00:48)
[74] 『一時凍結』 迫る危機[武芸者](2012/01/11 14:45)
[75] 63話 ツェルニ[武芸者](2012/01/13 23:31)
[76] 64話 後始末[武芸者](2012/03/09 22:52)
[77] 65話 念威少女[武芸者](2012/03/10 07:21)
[78] 番外編 ハイア死亡ルート[武芸者](2012/07/06 11:48)
[79] 66話 第十四小隊[武芸者](2013/09/04 20:30)
[80] 67話 怪奇愛好会[武芸者](2012/10/05 22:30)
[81] 68話 隠されていたもの[武芸者](2013/01/04 23:24)
[82] 69話 終幕[武芸者](2013/02/18 22:15)
[83] 70話 変化[武芸者](2013/02/18 22:11)
[84] 71話 休日[武芸者](2013/02/26 20:42)
[85] 72話 両親[武芸者](2013/04/04 17:15)
[86] 73話 駆け落ち[武芸者](2013/03/15 10:03)
[87] 74話 二つの脅威[武芸者](2013/04/06 09:55)
[88] 75話 二つの脅威、終結[武芸者](2013/05/07 21:29)
[89] 76話 文化祭開始[武芸者](2013/09/04 20:36)
[90] 77話 ミス・ツェルニ[武芸者](2013/09/12 21:24)
[91] 78話 ユーリ[武芸者](2013/09/13 06:52)
[92] 79話 別れ[武芸者](2013/11/08 23:20)
[93] 80話 夏の始まり (第二部開始 原作9巻分プロローグ)[武芸者](2014/02/14 15:05)
[94] 81話 レイフォンとサイハーデン[武芸者](2014/02/14 15:07)
[95] 最終章その1[武芸者](2018/02/04 00:00)
[96] 最終章その2[武芸者](2018/02/06 05:50)
[97] 最終章その3[武芸者](2020/11/17 23:18)
[98] 最終章その4[武芸者](2021/02/02 00:43)
[99] 最終章その5 ひとまずの幕引き[武芸者](2021/02/18 21:57)
[100] あとがき的な戯言[武芸者](2021/02/18 21:55)
[101] 去る者 その1[武芸者](2021/08/15 16:07)
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[15685] 55話 都市戦終幕
Name: 武芸者◆8a2ce1c4 ID:bea3fd25 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/14 23:20
「嘘だろ、おい……」

ありえない光景にシャーニッドは目を見開く。
彼は狙撃手であり、第十七小隊がマイアスに乗り込むのと同時に殺剄で隠れ、ニーナ達を追尾する形で行動していた。
現在は交戦するニーナ達を援護するため、狙撃によってマイアスの武芸者達を狙い撃ちしている。
シャーニッドの放った弾丸は確かに脳天や手足など、敵を撃ち抜いていた。普通ならそれで終わりだ。
実弾ではない以上、この狙撃で敵を殺傷することは出来ない。だが、弾丸は麻痺弾。直撃すれば敵は痺れて動けなくなり、行動不能に陥るはずだ。そのはずなのだが……

「いってぇ……」

「狙撃手がいるのか!どこだ!?」

マイアスの武芸者達は銃弾の直撃を受けても痛がる程度であり、通常通りに動いていた。
今は狙撃を警戒し、シャーニッドの居場所を探ろうとしている。

「くそっ……」

シャーニッドは悪態をつき、殺剄を継続しながら隠れた。
今のように警戒されている状況では狙撃は出来ない。撃てばこちらの居場所を教えてしまうことになるからだ。
深呼吸をして落ち着き、冷静に状況を把握しようとする。狙撃は当たったはずなのに、何故、マイアスの武芸者は倒れない?
致死性のない弾丸の一撃に耐えたとしても、麻痺に耐えられるとは思えない。なのに、どうして動いている?

「はああああああ!」

シャーニッドの視線の先ではニーナが戦っていた。
彼女は鉄鞭を振るい、マイアスの武芸者に果敢にも殴りかかる。

「どふっ!?」

ニーナの鉄鞭が頭部に叩き込まれる。防御なんて意味を成さない一撃。武芸大会用の安全性を配慮された武器の一撃とはいえ、金属の塊で思いっ切り殴られればそれで終わりのはずだ。

「くそっ……綺麗な顔してえげつない真似をしてくれるな」

「なんなんだお前達は!?」

マイアスの武芸者は痛がっている。痛がってはいるが、ただそれだけだ。
頭部に直撃すれば脳震盪を起こし、確実に意識を刈り取るような一撃。それを受けたと言うのに気を失わず、マイアスの武芸者はまるでゾンビのように起き上がってくる。
そのありえない光景を前にして、第十七小隊の面々は次第に押されていた。

「きりがない!」

ダルシェナの突撃槍が唸る。それに吹き飛ばされるマイアスの武芸者達。
だが、すぐにむくりと起き上がって構えを取る。ダルシェナは思わず舌打ちを打った。

「隊長!?」

ナルキは動揺を隠し切れず、ニーナに指示を仰ぐ。
どれだけ攻撃をしても倒れない、不死身のような集団。生まれてくる危機感と焦りは、冷静さを削ぐには十分だった。

「こいつら……かなり強いな。囲め、一斉にかかるぞ!」

マイアスの武芸者のリーダー格が指示を飛ばす。数にして十数人ほどの武芸者がニーナ達を取り囲んだ。
敵地に乗り込んだというのに、そこまで多くはない数だ。だが、全員があれほどの耐性を持っているとなると厄介だ。むしろ危機的状況である。
マイアスの武芸者は一斉にニーナ達に襲い掛かるつもりらしい。それを捌ききれるかどうか……
緊迫した状況の中、ニーナはごくりと息を呑む。

「かかれぇ!!」

指示が下され、マイアスの武芸者達は同時に襲い掛かった。





「引くほどに打たれ強くなりましたね……」

「それだけですけどね。サンドバックとしての活きが良くなったんですけど、やっぱりそう簡単には上達しませんね」

その戦闘の光景をとある建物の屋根の上から、活剄で視力を高めたクラリーベルとサヴァリスが眺めていた。
マイアスの武芸者達は好戦的なクラリーベルが引くほどに打たれ強くなっており、彼女の頬は僅かに引き攣っていた。
対するサヴァリスは先日まで行っていた教導で、一部の者を除いて目覚しい成果を上げられなかったことが不服らしい。
それでもあの打たれ強さは、相対する側からすればとても厄介だ。

「流石に、サヴァリス様の拳を受け続けてきただけのことはありますね。ちょっとやそっとの攻撃ではびくともしません」

「まぁ、こちらからすればストレス発散が出来てよかったんですけどね。やはり殴るなら生身の人間が一番ですよ」

その打たれ強さを手に入れた理由は、要するに慣れ。
サヴァリスのサンドバックと化すことにより強烈な一撃を受け続け、ちょっとやそっとの攻撃ではびくともしないようになった。
それに学園都市の武器は刃引きが行われているため、試合は基本的に打撃オンリーとなる。それがあの脅威の打たれ強さに拍車をかけ、まさに手のつけられない状況になっていた。

「どれだけ痛みを感じようと、体が動く限り戦えますからね。僕だったら手足が千切れようと戦闘を続行しますよ」

「脳や剄脈が壊れない限り、後から再生できますからね」

「……………」

サヴァリスとクラリーベルの会話を、リーリンは引き攣った表情で聞き流していた。
人は普通ならば痛みを恐れるものだ。一般人であるリーリンには手足が千切れるなんて感覚は想像も出来ないし、したくもない。
それなのにサヴァリスとクラリーベルは当然のように語り、談笑をしていた。武芸者と一般人と言う違い以前に、この2人は根本的な部分がずれているのかもしれない。

「麻痺弾にしてもそうですよ。例え体が痺れても動けなくなるわけじゃない。多少動きは鈍っても、気合と根性で動ける……はずです」

「本当なんですかそれ!?」

サヴァリスの言葉にリーリンは思わず突っ込みをいれ、深いため息を吐いた。
遠いが、戦闘の様子は何とかリーリンの視力でも見ることが出来た。
数に押され、決定打を与えることの出来ないツェルニの武芸者達は次第に追い詰められているようだ。

「さて、そろそろツェルニへ移動しますか」

「あ、はい」

サヴァリスにそう言われ、リーリンは戦闘から目を放す。
そこで、ふと疑問を感じた。

「どうやって向こうに行くんですか?」

サヴァリスはマイアスとツェルニの接触点を通ってツェルニに渡るつもりのようだ。
だが、そこは言うまでもなく激戦区である。数百を越える武芸者が激しくぶつかり合っていた。
リーリンが、あんな場所を通り抜けるのを不可能に思うのは当然だろう。

「最初の方で説明したと思いますけど?」

「いえ、確かに私を担いでいくんでしょうけど……」

「じゃ、ちょっと失礼しますよ」

「きゃっ」

サヴァリスはリーリンを抱き上げ、ツェルニの方角と建物の高さを確認した。

「ふむ……ま、これぐらいの高さがあれば十分かな?」

「あの……?」

不安そうな顔をするリーリンに向け、サヴァリスは笑顔で尋ねた。

「ところでリーリンさん。運動は苦手そうですが、1分ぐらい息を止めておくぐらいはできますよね?」

「そ、それぐらいは」

一般人のリーリンでも、その程度なら楽勝だ。
リーリンは馬鹿にされたのかと思い、少しだけむきになったように頷いた。

「それなら結構」

サヴァリスも頷き、屈伸運動の要領で膝を曲げた。

「それではサヴァリス様、私は荷物を持って別経路からツェルニへ向かいますので」

「はい、よろしくお願いします」

クラリーベルは3人分の荷物を持ち、建物の上から飛び降りて行ってしまった。
その背中を見送るリーリンに向け、サヴァリスは声をかける。

「息を止めて、しっかりつかまっていてくださいね」

息を止めれば、自然と体が緊張で強張る。リーリンの体がそうなったのを確認し、サヴァリスは膝に溜めた力を解放し、跳んだ。
だがそれは、現在地からツェルニへという直線を描く跳躍ではない。
サヴァリスは高く、高く上空へと舞い上がった。
リーリンを抱えての高速移動はできない。武芸者の速度に、一般人であるリーリンの体がついていけないからだ。
だからサヴァリスの跳躍は高度を重視し、接触したマイアスとツェルニのエアフィルターの境界面にまで達した。真下には、激戦が繰り広げられている接触点がある。

(この高さなら誰にも気づかれないだろうね)

サヴァリスはそう考える。普通に移動すれば、念威繰者がリーリンの気配を発見する可能性が高かった。だからこそのこの跳躍だ。
誰がエアフィルターの境界線ぎりぎりの高度を通って、潜入する者がいると考えるだろうか?
誰も考えないだろうし、普通ならそんなことが出来る武芸者がいるはずがない。だが、サヴァリスは普通ではなかった。だからこそ出来る。跳躍し、エアフィルターの境界線ぎりぎりを通ってツェルニに潜入することが可能なのだ。
クラリーベルはサヴァリスほどの膨大な剄を持っておらず、活剄の密度による身体能力の差からこれを成すことが出来なかった。故に今回は別行動を取っている。

(もしかしたら、レイフォンは気づいているかもね)

ふと、そんなことを考える。
一応サヴァリスは殺剄を維持しているが、跳び上がる時に僅かに漏れた剄で気づいたかもしれない。
剄が荒れ狂う戦場だが、感覚が鋭く、剄の流れを読むことに特化したレイフォンならば気づいても不思議はなかった。
だが、レイフォンはサヴァリス達がマイアスにいることを知っている。加えてこちらにはリーリンもいるのだ。
都市戦の邪魔でもしない限り、手を出してくることはまず考えられない。

(それはそれでおもしろそうなんだけど)

マイアスでは敗北したと言うのに、サヴァリスはそんなことを考えていた。
強者との戦い。それこそがサヴァリスの求めるものであり、彼の全てである。
レイフォンは強い。元から天剣授受者として十分な実力を持っていたが、今の彼は廃貴族という存在を身につけ、更なる力を得ていた。
故にサヴァリスは惹かれてしまう、強者であるレイフォンとの闘いに。
例えこの身が滅ぶことになろうと、サヴァリスは戦い続けるだろう。戦いだけがサヴァリスを高揚させ、性交にも似た快楽を与えるのだから。

「ん……?」

レイフォンとの戦いに想いを寄せ、エアフィールドの境界線ぎりぎりを跳んでいたサヴァリスはあることに気づいた。
彼の視界の側できらきらと輝く存在、花弁のような念威端子。

(気づかれた!?)

サヴァリスのにやけた表情が驚愕に染まる。
学生武芸者などに気づかれるわけがないと高を括っていたサヴァリスだが、自身を取り囲むように現れた念威端子に驚きを隠すことが出来ない。
戦いのみに快楽を見出すため、直接の戦闘力を持たない念威繰者にあまり興味のないサヴァリスだったが、自分を発見したこの念威の使い手に少なからずの興味を持った。

(これから、本当に楽しくなりそうだ)

サヴァリスの表情が歪む。爽やかで、不気味そうな矛盾する笑顔。
これから暫く滞在することになるツェルニでの日々に想いを寄せ、サヴァリスは笑みを隠すことが出来なかった。
そんなサヴァリスは、尚も放物線を描きながらツェルニに接近していく。
境界線ぎりぎりの高度から落下していると言うのに、サヴァリスは微塵も慌てる様子はなく、冷静に、何事もなかったかのように自然体でツェルニの大地に着地した。トン、と軽く、静かな着地だった。まるで猫のような身軽さ。その様子を、サヴァリスの腕の中で目を閉じながら強張っているリーリンは見ることが出来なかった。
サヴァリスはふと、周囲の念威端子に視線を向ける。跳んでいる間もサヴァリスの周りを囲んでいた念威端子だったが、それが唐突に興味を失ったように去って行った。
そのことを不審に思いながらも、今はリーリンの肩を叩いてツェルニに到着したことを報せる。

「もういいですよ」

「え?……え?」

ぎゅっと目を閉じていたリーリンはゆっくりと瞼を持ち上げ、キョロキョロと辺りを見渡した。
先ほどいた場所、マイアスとは明らかに違う景色。その光景に現実味を感じることが出来ないまま、リーリンはサヴァリスに問いかけた。

「ここ……が?」

「ええ、ツェルニです」

「……………」

サヴァリスに優しく降ろされ、リーリンは呆けながらも視線をさ迷わせ続ける。

「ここが、今のレイフォンの……」

到着したことへの感慨か、それとも見知らぬ土地へ来てしまったことへの戸惑いか、リーリンは未だに呆け続け、暫く動くことが出来なかった。
しかし、やがては我に返り、リーリンはここまで連れて来てくれたサヴァリスに深々と頭を下げる。

「ありがとうございました」

「いえいえ、約束を果たせて満足です」

「……約束?」

「あ、しまった」

その時、サヴァリスはうっかりと余計な言葉を零してしまう。
『しまった』などといっているが、その顔には後悔も悪気もなく、ほんの少しだけ困ったような表情を浮かべていた。

「できれば今の話、忘れてくれるとありがたいんですけどねぇ」

「どんな約束で、相手が誰なのか教えてくれたら忘れます。

サヴァリスの新鮮なその表情を見て、リーリンは思わず意地の悪い言葉を吐いてしまった。
グレンダンにいた時なら天剣授受者の威厳によって、分かりましたと素直に頷いていただろう。だが、これまでの道中に毎日顔を合わせていた為、リーリンはサヴァリスと言う人物に慣れてしまった。
天剣授受者と言う威厳だけでは引き下がらないほどに、今までの不平不満を晴らすように、リーリンは食い下がる目でサヴァリスを見詰めていた。

「困りましたね」

サヴァリスは宙を仰ぎ、本当に困ったような反応をしていた。
だが、すぐに開き直り、視線をリーリンに戻してから口を開いた。

「実は、ある人にあなたの身の安全を護るように言われましてね。その人物なんですが……あなたと僕の共通の知人なんですよ」

その言葉を聞き、リーリンは考える。天剣授受者に恐れ多くも、そんな個人的なことを頼める人物。そして、リーリンとサヴァリスの共通の知人。
一瞬、養父であるデルクかと思ったがそんなわけがない。レイフォンの師と言うことで、もしかしたら何らかの面識があるかもしれないが、その可能性は限りなく低いだろう。
デルクがサヴァリスにそんなことを頼むとは思えないし、サヴァリスもそれに頷くとは思えなかった。

「……もしかして、シノーラ先輩とか言いませんよね?」

となると、そんなことができそうなのは1人しか思い浮かばなかった。
リーリンの学校の先輩であり、親友と言ってもいい存在。そして変人。
天剣授受者相手にそんなことを頼めそうな人物は、リーリンの交友範囲では彼女1人を除いて考えられない。

「まぁ、そうなんですけどね」

サヴァリスはあっさりと頷いた。そしてリーリンは、内心でやっぱりとつぶやく。
どうやって天剣授受者にそんなことをお願いしたのかと思ったが、彼女ならありえる。そう思ってしまった。

「なんでまた……」

「……色々とあるんですよ」

またも新鮮なサヴァリスの表情が見れた。こめかみには大粒の汗を浮かべ、言葉を濁す。
その様子を不憫に思いつつ、リーリンはシノーラ相手に失礼なことを考えていた。

(あの人のことだから、この人の弱みとか握ってそう)

だが、ありえないことではない。シノーラならむしろ当然だと思いながら、リーリンはサヴァリスを気遣うように声をかけた。

「苦労してるんですね」

「いえいえ、楽しませてもらってますよ」

サヴァリスはまた、いつもどおりの笑顔を浮かべていた。その反応を見る限り、リーリンにはサヴァリスが本心で言っているのかどうか理解できなかった。

「さて、そろそろ行きましょうか。シェルターがあるのなら、リーリンさんはそちらに向かった方がいいですね」

「あ、はい」

何はともあれ今は戦争中だ。武芸者のサヴァリスならともかく、一般人であるリーリンがうろうろするのはあまりよろしくない。
2人は避難のできるシェルターを探しに行く。








「やっぱりサヴァリスさんが来ましたか……まぁ、予想通りですしそれは別にいいんですけどね。それよりも何故リーリンがここに?」

レイフォンは生徒会棟を襲撃しつつ、フェリの念威から入ってきた状況に頭を抱えていた。

「確か、フォンフォンの幼馴染でしたね。それがどうしてマイアスにいたんです?そういえば、フォンフォンはマイアスにいたと言ってましたね。ひょっとして……」

確認を取るフェリの声が、段々と冷たくなっていった。
マイアスにいたレイフォン。そして同じく、マイアスにいた幼馴染。
しかも何度かレイフォンに彼女の話を聞いており、グレンダンではそれなりに仲が良かったらしい。故にフェリがマイアスで何かあったのではないかと勘ぐってしまうのも、仕方のないことだった。

「いや、それはないです」

問われたレイフォンは即答。
マイアスの武芸者をまた1人沈めながら、フェリの問いかけに自然体で答える。

「正直な話、僕はツェルニに来るまで恋愛ごとをしたことがないんですよ。リーリンとは確かに仲が良かったですけど、それは兄弟のような感覚でしたし。ですから異性としては見てないんですよ」

その他にも、若くして天剣授受者となったレイフォンはグレンダンでは注目の的で、妬みや嫉妬の視線もあったが、異性からは憧れの的として様々なアプローチを受けていた。
だけど、持ち前の鈍感さでそのアプローチを悉くスルーし、今日まで過ごしてきたレイフォン。故に彼は、今までにフェリ以外の女性と付き合ったことはなかった。

「ハッキリ言います。僕はフェリ以外の女性に興味はありません。フェリのことが大好きで、フェリ以外の女性なんて考えられません。言いましたよね?僕はあなたを世界中の誰よりも幸せにするって」

そして誠実さ。レイフォンはフェリに対して一途であり、本当に彼女のことを大事に想っている。
だから、レイフォンにはフェリ以外の異性など眼中になかった。

「僕は絶対にフェリを裏切りません。だから、フェリも僕を信頼してくれると嬉しいです」

「………別に、フォンフォンを疑っているわけではありません。ただ少し、気になっただけです……」

フェリのか細い声に、レイフォンは思わず苦笑をもらした。
可愛らしく、とても大切で、最愛の少女。自分の妻となり、子を宿した女性。彼女を護ると決めた。だからこそレイフォンは力を振るう。
強くなると決意した。最強になると決意した。故に今は、この戦争に勝利しようと障害を薙ぎ払う。

「なんなんだよ!?本当になんなんだお前は!!」

「ひっ、なんでツェルニにこんな奴が……」

「うああああああああああっ!」

比喩ではなく、本当に薙ぎ払う。
マイアスの武芸者達を刀の一振りで、衝剄の一撃でまとめて吹き飛ばした。
ここが生徒会棟と言うこともあり、最終防衛として数十人を超える武芸者が存在していた。だが、その程度でレイフォンを止めることができるわけがなく、既に数は半数以下に減少している。
まさに無双、一騎当千。打たれ強いからどうした?
そんなもの限界を、許容範囲を大きく超える一撃で叩けば意味がない。
レイフォンの攻撃を受けた者はぴくりとも動かず、地に伏せて沈黙していた。

「そう言えば、もう1人接触点を通ってツェルニに進入した武芸者がいました」

「ああ、クラリーベル様ですね」

そんな周囲の光景などどうでも良さそうに、レイフォンとフェリの会話は続いていた。
学生武芸者程度ではレイフォンの脅威になりえない。まさに眼中にすらないのだ。
そのことに腹を立てるマイアスの武芸者達だったが、一矢報いることすらできずに数を減らされていく。

「まぁ、放っておいて大丈夫でしょう。幾らなんでも戦争中にちょっかいなんてかけてきませんよ……たぶん」

マイアスの武芸者達の攻撃を難なく捌きつつ、レイフォンはこれからの方針を定めた。
サヴァリスはマイアスでレイフォンに敗北した以上、そう簡単に攻めて来るということはないはずだ。多分、おそらく、そうであって欲しい。
故にレイフォンの逆鱗を煽るようなこと、フェリへの手出しや戦争の邪魔はしないと思うが、あの戦闘狂(サヴァリス)に常識が通用するのかも疑問だ。
もっともその場合は、サヴァリスを始末してしまえば良い。廃貴族による強化、レイフォンの全力に耐えられる錬金鋼、そしてサイハーデンの刀技。負ける理由は皆無だった。

「さて、それじゃあこの戦いを終わらせますか」

レイフォンは視線を上へと向ける。生徒会棟の天辺、マイアスの都市旗へと。




































「びっくりしたぁ……一瞬、やられちゃったかと思ったよ」

シェルは胸を撫で下ろし、正面に立つ少年に視線を向けた。
ツェルニの総大将であるヴァンゼを追い詰め、止めを刺そうとしたところを邪魔してきた少年。
彼から放たれた不意打ち気味の攻撃を何とかかわしはしたものの、その一撃に秘められた威力に、シェルはたらりと冷や汗を流した。

「武芸長、大丈夫ですか?」

「ああ……助かった。お前はどこの隊の者だ?」

「フェリ・ロス親衛隊隊員、セイ・オズマです」

救われたヴァンゼは少年の、セイの名乗りを聞いて彼の所属している隊を思い出す。
生徒会長であるカリアンの妹、フェリを熱狂的に崇拝している集団がフェリ・ロス親衛隊だ。その精鋭、50人の武芸者が今回はヴァンゼ率いる第一小隊に指揮され、都市の防衛に借り出されている。
組織の存在意義にいろいろといいたいことがあったりするのは事実だが、ヴァンゼがセイに助けられたことは事実であり、フェリ・ロス親衛隊はツェルニでも屈指の実力と団結力を持っているためにあえて黙殺した。

「さっきの攻撃はなかなか良かったけど、今度はこっちから行かせてもらうよ!」

また、そんな場合でもない。立ち直ったシェルが構えを取り、こちらへと仕掛けてきた。
速い。残像すら残るほどに高速で、鋭い動き。錬金鋼製の脚力によって生まれる反則紛いの速度。
それは通常なら学生武芸者程度に反応できる速度ではなく、何が起こったのかも理解できないままに倒れていただろう。そう、通常ならばの話だが。

「ぐっぬぬぅ!!」

「私の蹴りを正面から受け止めた!?うそ……」

シェルの圧倒的な速度から繰り出される蹴りを、セイは真正面から受け止める。
腕を胸の前で交錯させ、衝剄を放つことによって蹴りを反射させ、シェルがバランスを崩したところを狙って突っ込む。
それはもはやタックルだった。技や技量なんて上等なものではなく、ただ力任せにシェルに突っ込んで足を取ろうとする、体当たり染みた突撃。
シェルは何とかそれを回避しようとするが、崩れてしまった体勢では得意のスピードを活かすことができない。
セイに足をつかまれてしまい、そのまま強引に振り回される。

「え、ええっ!?ええええええええええ!」

片足をセイにつかまれた状態で、シェルはまるで投げ縄のように宙で回転する。
ぐるぐると視界が巡り、遠心力による苦痛、吐き気を感じ、平衡感覚が麻痺していた。
絶叫染みた悲鳴を上げることしかできず、高速で回転する景色にだんだんと気分が悪くなってくる。

「はぁぁあああ!!」

「きゃう!?」

高速回転により勢いがついたところでセイは腕を放し、遠心力によってシェルの体はまるで弾丸のように飛んでいく。
空中では思うように動くことができず、目の回った現状では衝剄で威力を弱めることすらできない。
まさに打つ手がなく、シェルの体は建物の壁に激突しようとしていた。だが、ロイがそれを阻止する。
シェルの落下地点に移動し、飛んできたシェルの体をしっかりと受け止める。

「お前は何をしているんだ?」

「はう~、めがまわりゅ……」

ロイはシェルを抱えたまま移動し、ツェルニの武芸者から距離を取ろうとした。
総大将を討ち取るのを失敗し、ツェルニの武芸者達は少しずつ接触点での攻防を巻き返してきている。

「どうでもいいが、重い」

「にゃ!?酷いなぁ、ロイ君は。普通、女の子に向かってそういうこと言う?私の場合、足が錬金鋼なんだから他の女の子より少し重いだけだよ」

だと言うのにロイとシェルは落ち着いており、追ってくるツェルニの武芸者達から逃げながら作戦を確認した。

「お前のやることは乱戦じゃない。確かに総大将を討ち取るに越したことはないが、それはあくまでおまけだ」

「うん、わかってるよ。私はフラッグを落とせばいいんだよね」

「わかっているならいい、お前はフラッグを狙え。足止めは奴等がやる。僕は……」

疾走していたロイは、聞こえてきた銃声と共に体を捻る。
そうすることによって飛んできた銃弾をかわし、飛んできた方角を確認してポツリとつぶやいた。

「狙撃手を潰す」

「うん」

シェルはこくりと頷き、ロイの腕から降りた。
既に気分と平衡感覚は回復しており、戦闘には何の支障もない。

「さっきみたいに油断するなよ。本気を出せ」

「あはは、わかってるよ……」

最後にそんな会話を交わし、2人は分かれた。





「おぃおぃ、今のをかわすのかよ……」

狙撃が専門ではないが、それを回避されたことにオリバーは驚愕する。なんだかんだで命中率にはかなりの自信を持っていた。だが、かわされた。
スコープ越しにターゲットを除いていたら、二手に分かれて1人はこちらへと向かってきている。狙撃を回避した男の方だ。
男、ロイは武芸者の身体能力をフルに使い、かなり離れていた距離を一瞬で詰めてくる。

「くそっ、居場所がばれたか。やっぱり俺って殺剄が甘いな」

己の殺剄の未熟さを嘆きつつ、オリバーは狙撃用の銃とは別の錬金鋼を復元する。
軽金錬金鋼製のリボルバータイプの拳銃、銃身の先に刃物の付いた鋼鉄錬金鋼製の拳銃、この二丁がオリバー本来の武器であり、それを駆使して接近してくるロイと対峙する。

「くたばれっ!」

物騒な言葉を吐きながら、オリバーは軽金錬金鋼製の銃を連射する。
正確無比なオリバーの射撃に、放たれた6発の銃弾全ては直撃コースでロイに迫った。

「甘い!」

だが、ロイはその銃弾を弾く。
全身から衝剄を発し、その余波で銃弾全てを吹き飛ばした。

「嘘だろ、おぃ……」

表情を引き攣らせながら、オリバーは今度は鋼鉄錬金鋼製の銃を連射した。
だがこちらは狙撃よりも斬撃に特化しているため、命中精度はあまり良くない。
1発はロイの眉間を襲ったが、残り2発の銃弾は大きく外れて背後へと飛んでいく。
眉間に放たれた銃弾に置いても、ロイの剣によって打ち落とされてしまった。

「ちぃ!?」

接近を許してしまう。鋼鉄錬金鋼製の銃には刃が付いているが、所詮それは気休めのようなもの。オリバーは剄量の不足から活剄の密度が甘く、身体能力があまり高くないために接近戦を苦手にしていた。
そのためにこの状況はかなり不味い。

「ぐぎ、ぎっ……」

剣が振るわれる。オリバーの首を薙ぐ形で振るわれた軌道。それをオリバーは鋼鉄錬金鋼製の銃で受け止めるが、ナイフほどの大きさしかない拳銃の刃渡りでは、どうやっても剣の重量と威力に力負けしてしまう。
その上に活剄の密度は圧倒的にロイのほうが上であり、一瞬だけ鬩ぎ合ったが、オリバーの持つ鋼鉄錬金鋼製の銃はあっさりと弾き飛ばされてしまった。

「あ……」

乾いた音を立てて地面を転がる鋼鉄錬金鋼製の銃。それを拾いに行く暇なんてあるはずがない。
再びオリバーに向け、ロイの剣が振り下ろされた。

「くそっ!」

オリバーは自棄になりつつ、今度は軽金錬金鋼製の銃で剣を受け止める。
だが、なんとかロイの一撃を受けきりはしたものの、軽金錬金鋼と言う白兵戦には到底向かない武器のため、銃は一瞬で使い物にならなくなってしまった。
銃身が歪み、これでは撃つ事ができない。

「くそっ、くそっ!」

悪態をつく。オリバーは半ば条件反射のように背後に跳ぶが、間に合わない。
三度襲ってきたロイの斬撃をもろに受け、無様に地面を転げ回る。

「かはっ……」

当たったのは脇腹だ。肺から強制的に空気を吐き出され、酸欠に陥りながら鈍い痛みに耐える。
幸いにも骨は折れていないようで、戦闘を続行することは十分に可能だった。しかも飛ばされた方向が良く、ちょうど鋼鉄錬金鋼製の銃の転がっていった方向。
オリバーはすぐさま鋼鉄錬金鋼製の銃を拾い、ロイから距離を取った。

「狙撃手の割にはなかなか良い反応をする。だが、これで終わりだ」

だけどロイの方が身体能力は上なのだ。開けた距離など簡単に詰められ、すぐに追い詰められてしまう。
その僅かな詰められるまでの時間に、オリバーは自身の懐から何かを取り出し、それをロイに向けて放り投げた。

「しまった」

ロイの表情が引き攣る。それは閃光弾だった。
条件反射でかわしたのはいいが、閃光弾が地面に落ちると共に爆発し、激しい光が視界を覆う。
実害はない。閃光弾は音と光で相手の感覚を狂わせる武器であり、対抗試合や武芸大会にも罠などとして使用を認められている武器だ。
ロイはダメージを受けなかったが、閃光弾の影響で感覚を狂わされてしまった。爆発音の所為で耳鳴りが起き、視界は光の所為で眩む。
故に大きな隙を見せてしまい、オリバーに銃を構える隙を与えてしまった。

「今度こそくたばれ!」

この距離だ、絶対に外しはしない。目の眩んだロイでは、先ほどのように銃弾を弾くことは不可能だろう。
オリバーは勝利を確信し、引き金に手をかけた。







「あ~あ……せめて、さっきの借りは返したかったなぁ」

シェルは愚痴りながらも走る。奔り、疾走する。
目指すはツェルニの都市旗。それを落とせばマイアスの勝利だ。
ツェルニの防衛部隊がシェルを止めようと集まってくる。だが、誰もシェルを止められない。誰もシェルを捕らえることができない。それはまさに独走。
常識では考えられない速度と走りに誰もが付いていけず、都市旗への接近を許してしまう。ただ1人、いや、1組を除いて。

「炎剄将弾閃~ん!」

「わっと!?」

炎のように赤い髪をした、小柄な少女がシェルの前に立ちはだかる。第五小隊のシャンテだ。
シャンテは槍から炎を発し、シェルに襲い掛かった。化錬剄だ。
それを持ち前の身軽さでかわす。だが、身軽と言う面ではシャンテも負けていない。

「うおらぁ!!」

雄雄しい叫び。次々と繰り出される槍の連続突き。

「わ、わわ!っと」

獣のような怒涛の攻撃に、シェルは戸惑いながらも紙一重でかわしていく。

「シャンテ!あまり突っ込みすぎるな」

「うん、ゴル!」

本能の赴くままに攻撃を仕掛けていくシャンテだったが、総大将のヴァンゼに匹敵する大柄の男の言葉に素直に従った。
彼は第五小隊隊長、ゴルネオだ。シャンテはゴルネオの指示に従い、シェルから距離を取る。

「ゴル……ゴル?」

シェルはゴルと言う呼び名に何かを感じつつ、ゴルネオを観察する。
見覚えのある錬金鋼。手甲と明らかに体術を使うだろうと思わせる錬金鋼に、嫌でもあの男のことを思い出させる。
錬金鋼と髪の色ぐらいしか共通する部分がないが、それでも目の前の大柄な男は誰かを連想させるくらいに似通っていた。

「なるほど、あなたがゴルネオ・ルッケンスですね?」

「貴様……何故俺を知っている?まさか、グレンダンの出身か?」

シェルの言葉に、ゴルネオが警戒したように問い質す。
その問いかけにシェルは首を振り、ゴルネオにも匹敵、または凌駕する警戒心を抱いていた。

「違います。ですが、あなたのお兄さんのサヴァリスさんにはお世話になりました」

「兄を知っているのか!?」

「はい。それと同時にルッケンスと言う武門を嫌と言うほど教えられました。ですから……」

だからシェルは油断しない。先ほど、セイと言う少年の前では油断があったが、相手がゴルネオなら、あのサヴァリスの弟なら微塵も油断するつもりはない。
自分には及ばないが、才能があるとサヴァリスが言っていた。彼は弟だからと言って贔屓などをする人物ではないので、おそらく本当のことなのだろう。
ならば、最初から全力で行く必要がある。

「その一端を見せてあげます」

その宣言と共に、シェルの姿が増えた。その数は8人。10人にも満たないが、ゴルネオはその技を、剄技をよく知っている。
アレは、あの技は、ルッケンスの秘奥……

「何故……貴様が千人衝を……」

驚きを隠せない。何故、マイアスの武芸者が不完全ながらも千人衝を使える?
アレはルッケンスの武門の者でも習得が難しく、近年ではサヴァリスしか習得した者がいない。なのに何故、彼女が使える?
シェルはサヴァリスを知っているようだった。まさかサヴァリス本人に千人衝を教えられた。
ありえない、なにもかも。そんなことありえるはずがない。
サヴァリスは天剣授受者であり、グレンダンから出ることなんてまずないはずだ。その時点でシェルと接点があるとは思えない。
そもそもサヴァリスが教官や師のような真似ができるはずがなかった。戦いにしか興味のない、自分とは違う『イキモノ』のような存在。
ツェルニに来て5年目。暫くサヴァリスには会ってはいないが、ゴルネオは彼のことを誰よりも知っているつもりだ。良い意味でも、悪い意味でも……

「行きますよ」

シェルはゴルネオの問いかけに答えてくれない。
8人のシェルがゴルネオとシャンテを取り囲み、一斉に襲い掛かった。







接触点では未だにツェルニとマイアスの攻防戦が行われていた。
セイは錬金鋼を使わない。正確には扱えず、素手でマイアス達の武芸者を圧倒していく。
体当たりやタックル、または街灯などを引き抜き、それを振り回しながらマイアスの武芸者を薙ぎ払っていた。

「まさに圧倒的ではないか、我が軍は」

エドワードが高笑いを浮かべる。セイの活躍に酔いしれ、それをまるで自分のことのように喜んでいた。
都市戦でのフェリ・ロス親衛隊の活躍。それはこの上ないフェリへのアピールになるはずだ。少なくとも彼はそう思っている。

「行け行けェ!この調子でマイアスを攻め落とせ!!」

「おぃ、確か総大将は俺のはずだが……」

ヴァンゼの言葉すら耳に入らない。エドワードは有頂天の真っ只中であり、嬉々して戦場全体に激を飛ばす。
が、次の瞬間にその空気が完全に冷え込む。

「がはっ……!?」

「は……?」

エドワードの表情が固まった。マイアスの武芸者を圧倒していたセイが撥ね飛ばされたように吹き飛ぶ。
彼の持っていた街灯は針金のように折れ曲がり、原形を止めないほどにひしゃげていた。
それを成した者、セイを吹き飛ばしたのは……

「鉄の……巨人?」

鉄の巨人、そう表現するに相応しい体躯をしていた。
ツェルニ屈指の巨体であるヴァンゼやゴルネオを大きく上回る巨体。本当に学生なのかと思うほどに彼はでかく、全身を錬金鋼の鎧で覆っていた。
武芸者だと言うのに超重量で、明らかに動きを阻害するであろう装備。だと言うのに鉄の巨人は、予想だにしない動きを発揮する。

「ぬあああああああああああああああああああ!!」

咆哮と共に突っ込む。ただそれだけだ。
あの巨体には不釣合いの速度での体当たり。大質量の物体の突撃を止めるのは至難の業だ。
ガチガチに堅められた鉄の巨人にちょっとやそっとの攻撃は通じず、ツェルニの防衛は成す術もなく破られていく。

「たわいもない!」

鉄の巨人の心底馬鹿にしたような声が聞こえる。だが、彼の突進を止めることができる者など誰もいなかった。
速度と威力は比例する。速くなればなるほど、直撃時の衝撃は大きくなるのだ。それにあの巨体。直接ぶつかり合うことになれば、大抵の者は誰もが力負けするだろう。
だが、その突進を止める者がいた。

「ほぉ……」

鉄の巨人が感心したような声を上げる。
彼の突進を止めたのは、最初に吹き飛ばしたはずのセイだった。

「もう回復したのか?俺に撥ねられたら、大抵の者は一撃で戦闘不能になるというのにな」

「……………」

鉄の巨人は歓喜する。自らの一撃でも倒れず、その上彼の突進を止めたセイに。

「くはははっ、いいぞ!凄くいいぞ!お前との戦いは楽しめそうだ!!」

鉄の巨人はセイを薙ぎ払うように腕を振るう。それをセイは腕で払うが、そもそも力の差がありすぎる。
力負けし、体勢を大きく崩す。だが、セイは耐えた。踏ん張り、地に根が生えたように決して倒れない。
耐え抜き、今度は反撃に移る。

「ぬああああああああ!」

拳を放つ。だが、相手は全身を覆う錬金鋼の鎧をしている。拳一発では対したダメージすら与えられない。
ならば、一発でなければどうだ?数十発、何百発も放てば?

「あああああああああああああああああああああ!!」

連打連打連打。セイの拳は鉄の巨人の腹部を何度も打ち抜き、少しずつダメージを蓄積していった。
幾ら一発のダメージが軽いとはいえ、それが同じ場所に何発も蓄積しては話が違ってくる。少しずつ、本当に少しずつ鉄の巨人にダメージは通っていた。

「温い、温すぎる!!」

だが、それはあまりにも軽すぎる。確かに少しずつダメージは通っていたが、鉄の巨人の一撃は遥かにそれを凌駕する。
拳一発、それがセイの顔面を打ち抜き、セイの眉間からはたらりと血が流れた。
だが、それでもセイは倒れない。更なる連打。その連打が実を結び、鉄の巨人の錬金鋼の鎧に異変が起こった。

「なっ……」

みしりと嫌な音が響き、錬金鋼の鎧に皹が走った。
如何に強固な鎧とはいえ、それは錬金鋼だ。武器破壊の要領で剄を流せば壊せない道理はない。
セイは拳一発一発に武器破壊の剄を込めて殴っていたのだ。

「ごふっ……く、くか、くははは……いいぞ、本当にいいぞお前はァ!」

錬金鋼の鎧の腹部の部分が完全に砕け、鉄の巨人にセイの拳が深々と突き刺さる。
痛みにくぐもった声を漏らした鉄の巨人だが、それと同時に笑いが、好敵手に合間見えた歓喜が湧いてくる。

「もっとだ、もっともっと俺を楽しませろ!!」

武芸も技もない。それはまるで喧嘩のような殴り合い。
誰も寄せ付けず、セイと鉄の巨人は戦場のど真ん中で熾烈な殴り合いをしていた。

加速する戦場。熾烈なる戦い。
戦場は更に激しさを増し、都市戦は最高潮に達する



































『はっ……?』

はずだった。だが、誰もが次に聞こえてきた音に拍子抜けしてしまう。
長く長く余韻を引く、激しい戦闘音の中を駆け抜けていく単調な電子音。
戦闘の終わりを告げるそれは、マイアスの生徒会棟から響いていた。

「えっと、これで勝ちですよね?」

「はい、お疲れ様です、フォンフォン」

マイアスの生徒会棟の天辺では、レイフォンがマイアスの都市旗を手に佇んでいた。そんな彼の周囲には、当然のようにフェリの念威端子が舞っている。
最終防衛として配置されていたマイアスの武芸者達は全滅。この場に立っているのはレイフォンただ1人だった。
戦局を無視する圧倒的な力。学生武芸者では抗えない、天災のような存在。レイフォン・アルセイフとはまさにそんな存在だった。

「それじゃあ、ツェルニに戻りますか」

「そうですね」

レイフォンは都市旗を抱え、歩いてツェルニへと帰還する。
不完全燃焼な者達が数名いたが、こうしてツェルニとマイアスの都市戦はツェルニの勝利で終わった。






































あとがき
今回は本当に時間がかかりました……もっと早く更新するはずが、なかなか話が進まない。
今まで何度かスランプスランプと言ってきましたが、今回のスランプは本気で洒落にならないです。
こんなんでSS作家やっていけるのか、少しだけ不安になりました。
前回いってたはいあの話できなかった……まぁ、そこはエピローグで(汗

さて、今回はオリキャラ達が活躍したイメージが……
結局は最後、レイフォンが全部もって行きましたけどまともな戦闘描写なし。まぁ、レイフォンが強すぎて学生武芸者じゃ誰も相手になりませんからね。
それにしても第十七小隊は……なんかこの隊、最近影が薄いです。レイフォンは基本的に暴走して、独断行動するのでこんな感じに……う~ん、なんでこうなった?
色々フラグ立てましたが、それらをぶち折っちゃう感じで都市戦は締めてみました。なんにせよ次回はエピローグで、ついについにレイフォンとリーリンが再開しちゃいます。
さてさて、一体どうなることでしょうw
それにしてもセイや名前も出なかった鉄の巨人戦、正直誰得だよと思いました……

次回はクララ一直線を更新したいです。これは決定、絶対です。
最近クララ一直線書いてなかったんで、プロットまったくありませんけど……
なんにせよ、そちらではVS第五小隊戦。楽しみにしていてください。

それにしてもレギオスの原作パネェです……
ニーナに関してはもうアレだし、どうでもいいかって感じで何にも言いませんけど、女王様半端なさすぎです。
あの強さが廃貴族ではなく素だと言われて、しかも天剣でも耐えられない剄を持つと聞いて呆気に取られました。
まぁ、だからと言ってリーリンまで覚醒したのがどうなんだと。いきなり天剣授受者並の力を手に入れ、レギオスがこれから一体どうなるのでしょう?


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